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夫婦の抑うつ状態と児への愛着の関連性

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<研究報告>

夫婦の抑うつ状態と児への愛着の関連性

京都大学大学院医学研究科 1),岐阜協立大学 2)

塩谷友理子

1)

  我部山キヨ子

2)

Association between the depression status of couples and

their affection toward their child

Yuriko ENYA1), Kiyoko KABEYAMA2)

1) 2) 概要 目的:出産後 1 カ月までの母親と父親の抑うつ状態と児への愛着の関連について検証する. 方法:出産後の母親と父親 376 組を対象とし,産後早期(産後 1 週間以内)と産後 1 カ月時点の計 2 回 アンケートを実施した.アンケート内容は基本属性,エジンバラ産後うつ病自己評価票(以下 EPDS と する),赤ちゃんへの気持ち質問票(以下,児への愛着とする),育児に対する自己効力感(PSE)尺度, 夫婦関係満足度尺度から構成し,抑うつ状態(EPDS)との関連性を検証した. 結果:アンケート配布数は 376 組で,産後早期の回収数は母親 307 名,父親 218 名,産後 1 カ月時の回 収数は母親 149 名,父親 132 名であった.産後早期と産後 1 カ月で EPDS 9 点未満と EPDS 9 点以上の 群の比較では,児への愛着得点は,EPDS 9 点以上の群において母親の産後早期と産後 1 カ月,父親の 産後早期と産後 1 カ月で児への否定的感情が高かった(産後早期:母親 p<.000,父親 p<.02,産後 1 カ 月:母親 p<.003,父親 p<.05).母親の育児に対する自己効力感尺度は,産後早期と産後 1 カ月におい て EPDS 9 点未満の正常群が有意に高かった(産後早期:p<.000,産後 1 カ月:p<.011).EPDS 得点 と産後 1 カ月時点の夫婦関係満足度については,母親・父親ともに有意な差はみられなかった. 結論:産後うつ病は児への愛着形成障害のリスクファクターと考えられ,精神状態が安定していること が児との絆を深め児への愛着形成に重要で,父親も含めた精神的サポートの充実や向上が必要であると 示唆された.

Summary Aims:To investigate the association between the depression status of couples and their affection toward their child from birth until 1 month postpartum.

Methods:A questionnaire survey was conducted involving 376 couples in the early postpartum peri-od and at 1 month postpartum. The questionnaire items included:basic attributes and Edinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS), parental attachment scale(PAS), parenting self-efficacy scale (PSE), and marital satisfaction scale scores. The relationship between the EPDS score and each item

was analyzed.

Results:Responses were obtained from 307 mothers and 218 fathers in the early postpartum period, and 149 mothers and 132 fathers at 1 month postpartum. The tendency to develop negative emotions

受付日 2020 年 10 月 29 日 受理日 2021 年 1 月 28 日

別刷請求先:塩谷友理子 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町 53

Receive for publication October 29, 2020;accepted January 28, 2021

Reprint requests:Yuriko Enya, Graduate School of Medicine, Kyoto University, 53 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto-shi, 606-8507, Japan

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toward the child was more marked among mothers and fathers with an EPDS score of 9 or higher in the early postpartum period and at 1 month postpartum. Among mothers, the non-depression group with EPDS scores lower than 9 achieved significantly higher PSE scores at both points.

Conclusion:The results revealed that postpartum depression negatively affects attachment develop-ment, and mental stability is essential for parents to build favorable attachment relationships with their children, suggesting the necessity of promoting and improving emotional support for both moth-ers and fathmoth-ers.

(J Jp Soc Psychosom Obstet Gynecol 2021 ; 25:183∼190)

Key words:Depression status, Child, Attachment, Parents, Postpartum period

緒  言  母親のうつ病は,母親と乳幼児やその家族との 関係に,また子どもの情緒や認知の発達にもネガ ティブな影響を及ぼし,乳幼児の認知障害,行動 の障害そして母子相互作用の障害(愛着の遅れ, 拒絶など)が指摘されている 1).産後の母親の精 神状態は,乳児との愛着形成に大きく影響すると され 2),周産期メンタルヘルス上の問題として重 要な課題となっている.  ボンディング(愛着)とは,母子間の関係性や 愛着が発達していく過程であるとされている 3) ボンディング障害とは自分の子どもに愛情がわか ず,子どもを世話し守りたいという感情が弱く, イライラしたり敵意を感じたり攻撃したくなるよ うな心理状態をいい 4),妊娠期・産後のうつが母 親側の要因の一つとして考えられている 5).愛着 障害は養育者との愛着関係(絆)がうまく形成さ れず 6),虐待の世代間連鎖も考えられるなど子ど もの健やかな成長発達の面においても母親やその 家族を含めた精神的サポート,子育て支援は必要 不可欠である.  児童虐待が大きな社会問題となっている中で, 母子保健に関わる立場として虐待の発生予防・早 期発見のためのサポートや対策は重要な課題であ る.虐待は様々な要因が複雑に絡み合っていると 考えられるが,リスク要因の一つとして考えられ ているのが子どもへの愛着形成が十分に行われて いない,産後うつ病等精神的に不安定な状況,夫 婦関係をはじめ人間関係に問題を抱える家庭など がある 7)  近年は,父親も産褥早期にうつ病になることが 注目されており 8),産後うつ病の母親に対する配 偶者のサポートは重要であるため,パートナーに 対するメンタルヘルスへの支援も重要になってく る.しかし,産後の母親を対象としたメンタルヘ ルスが注目されているが,父親のメンタルヘルス についての研究は多くなく,母親父親双方に視点 をあてた研究は極めて少ない.また,産後 1 カ月 以内の母親は,育児や授乳,乳房・生殖器の障害 など様々な悩みや不安が生じやすく,精神障害の 好発時期でもあるとされているが 9),産後早期と 産後 1 カ月時の抑うつ状態,さらに抑うつ状態と 児への愛着について調査しているものは少ない. そこで本調査では,産後 1 カ月までの夫婦を対象 に母親と父親の抑うつ状態と児への愛着の関連に ついて検証することとした.なお,産後 1 カ月ま での夫婦の抑うつ状態(EPDS の推移)について は,当学会誌ですでに発表した 10).本研究は,産 後 1 カ月までの夫婦の抑うつ研究の未発表部分の データを分析し,まとめたものである. 方  法 1.用語の定義  本研究において,児への愛着とは親から子ども への情愛的なつながりをいい,妊娠期に芽生え出 産後から育児期の子どもとの相互作用を通して形 成される.本研究では赤ちゃんへの気持ち質問票 の項目と得点で示すものとする. 2.対象  近畿圏内にある総合病院,産婦人科医院,助産 院 9 施設にて出産した産褥入院中の褥婦とその

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パートナー 376 組を対象とした. 3.調査方法  産後 0∼7 日目の入院中の母親に説明文書を用 いて本研究への参加について同意を得た.  父親には来所時に同様に説明し,父親が研究実 施者と面会できなかった場合は,母親に説明文 書,同意書,アンケート用紙を父親に渡してもら うように依頼した.回収は,各施設にアンケート 回収ボックスを設置した.産後 1 カ月健診時に持 参することを忘れた場合は返信用封筒を渡し,郵 送法とした. 4.調査内容  基本属性のほか,抑うつ状態と児への愛着,育 児に対する自己効力感尺度,夫婦関係満足度を調 べた.以下用いた尺度を示す. (1) エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS) 11)  抑うつ状態は Cox らが産後うつ病をスクリー ニングするために開発し,岡野らにより日本人女 性を対象に作成されたエジンバラ産後うつ病自己 評価票(EPDS)を用いた.質問は 10 項目で各 項目 0∼3 点,総合得点は 0∼30 点である.抑う つと非抑うつを分ける区分点は,わが国では 8/9 で使用し,9 点以上が産後うつ疑いと判断され る.自己記入式で,過去 1 週間の精神状態に最も あてはまるものに印をつける.わが国における父 親の EPDS の cut-off 値が明らかになっていない ため,母親と同様に合計得点が 9 点以上を cut-off 値とした. (2)赤ちゃんへの気持ち質問票(児への愛着)  児の父親と母親が,児に対してどのような感情 (イメージ)を抱いているか調査するため,吉 田 12)らによる赤ちゃんへの気持ち質問票を用い た.質問票は 10 項目,4 件法(0∼3 点)で得点 範囲は 0 点から 30 点である.児に対して否定的 な対児愛着であるほど高得点となるが,区分点は ない. (3)育児に対する自己効力感(PSE)尺度 13)  乳幼児をもつ母親の育児に対する自己効力感を 測定する一次元的尺度として,金岡によって信頼 性・妥当性が証明されている.13 項目からなり, 「そう思う」から「そう思わない」までを 5∼1 点 として,5 段階評定で行っている.得点が高いほ ど育児に対する自己効力感の程度が大きくなる. ただし,逆転項目は 5 点を 1 点,4 点を 2 点に換 算している.潜在的に育児ストレスを抱えてはい るが母親自身で表現できない,あるいは,親役割 の過剰適応によって認知されない対象に対して有 効な手法とされている.産後うつ病は,幼児虐待 や育児不安の要因の一つとされており 14),精神的 健康の状態を介して育児に対する自己効力感に影 響することが示され,精神的健康は育児に対する 自己効力感に影響するといわれている 15).今回産 後 1 カ月間の母親の EPDS 得点と育児に対する 自己効力感について検討するため,育児に対する 自己効力感尺度を用いた.産後 1 カ月間は里帰り をしている母親も多く,実際に育児に参加してい る父親も少ないと考え,母親を対象にこの尺度を 用いた. (4)夫婦関係満足度尺度 16)  夫婦関係について把握するために諸井の夫婦関 係満足度尺度 6 項目を使用した.「かなりあては まる(4 点)」∼「あてはまらない(1 点)」までの 4 段階で回答を求め得点化した.6∼24 点で得点 が高いほど夫婦関係に満足していることを示して いる 17).産後うつ病のリスク要因として,夫婦関 係不良,ソーシャルサポート不足 18)やパートナー との関係が不良な場合,児への愛着が不良 19)であ ることが指摘されている.産後 1 カ月時の夫婦の 抑うつ状態と夫婦関係満足度に違いはあるのか検 討するため,夫婦関係満足度尺度を使用した. 5.分析方法  SPSS ver22 を使用し,記述統計量を算出した. 得られた情報の分析は独立した 2 群の検定はχ2 検定,t 検定,マンホイットニーの U 検定を行 い,2 変数の関連の検定は spearman の順位相関 分析を行った.有意水準は 0.05 未満とした.  産後早期と産後 1 カ月それぞれの EPDS 9 点以 上と 9 点未満の 2 群において,赤ちゃんへの気持 ち質問票および育児に対する自己効力感尺度の平 均得点の比較を行った.また,産後 1 カ月時の EPDS 9 点以上と 9 点未満の 2 群において夫婦関 係満足度の平均得点の比較を行った.

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6.倫理的配慮  説明・同意の機会と方法は研究実施者が対象施 設に訪問し,該当者に許可が得られた場合,説明 文書を用いて説明した.研究への参加は自由意思 とし,途中で中断することも可能であること,途 中離脱しても不利益を被らないこと,研究にはボ ランティアでご協力いただくこと等を口頭と文書 にて説明し,同意の得られた方にアンケートを配 布した.なお,本研究は A 大学医学部の倫理委 員会の承認(承認番号:E2240)を得た. 結  果  配布したアンケートは 376 組で,産後早期の回 収数は母親 307 名(回収率 81.6%),父親 218 名 (同 58.0%)であった.産後 1 カ月時の回収数は 母 親 149 名(回 収 率 39.6%), 父 親 132 名(同 35.1%)となった. 1.対象の背景(表 1)  平均年齢は母親 31.7±4.7 歳,父親 33.4±5.4 歳 であった.平均調査日は産後早期の母親が 3.0± 1.6 日 で, 父 親 は 4.2±4.2 日 で あ っ た. ま た, EPDS 9 点以上の結果は産後早期母親 12.4%,父 親 3.7%,産後 1 カ月の母親の平均調査日は 28.6 ±4.7 日,父親は 29.1±5.4 日で,EPDS 9 点以上 の結果は 16.8%,父親 6.9% であった. 2.児への愛着得点 1)EPDS 得点と児への愛着得点の関係(表 2)  産後早期の EPDS 9 点未満群(以下,正常群と する)の児への愛着得点は 2.3±2.1 で,EPDS 9 点以上の群(以下,産後うつ病が疑われる群とす る)では 4.0±2.9 で,2 群間で有意な差が認めら れた(p<.000).産後早期の父親の「正常」群の 児への愛着得点は 2.6±2.4 で「産後うつ病が疑わ れる」群では 4.8±2.7 で,母親同様に 2 群間で有 意な差が認められた(p<.02).  母親の産後 1 カ月時の「正常」群の児への愛着 得点は 2.2±1.9 で「産後うつ病が疑われる」群で は 3.6±2.3 で,2 群間で有意な差が認められた (p<.003).父親の産後 1 カ月時の「正常」群の 児への愛着得点は 2.2±2.0 で,「産後うつ病が疑 われる」群では 3.8±3.4 で,母親同様に 1 カ月に 有意に上昇した(p<.05). 2) 母親と父親の児への愛着得点,産後早期と産 後 1 カ月時の時期による比較(表 3) 表 1 対象者の背景 母 親 父 親 平均年齢 307,31.7±4.7 208,33.4±5.4 不明 10 名 既往歴 あり なし 36(11.8) 270(88.2) 不明 1 名 29(13.4) 188(86.6) 不明 1 名 現病歴 あり なし 15(4.9) 292(95.1) 13(6) 205(94) 産後日数 産後早期 306,3.0±1.6 不明 1 名 217,4.2±4.2 不明 1 名 産後 1 カ月 149,28.6±4.7 132,29.1±5.4 EPDS 得点 産後早期  EPDS 9 点未満  EPDS 9 点以上 268(87.6%) 38(12.4%) 不明 1 名 207(96.3%) 8(3.7%) 不明 3 名 産後 1 カ月  EPDS 9 点未満  EPDS 9 点以上 124(83.2%) 25(16.8%) 122(93.1%) 9(6.9%) 不明 1 名 (%) or 平均値±SD 

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 母親と父親の児への愛着得点の関連では,産後 早期および産後 1 カ月ともに有意な差がみられな かった.また,母親と父親の産後早期と産後 1 カ 月時の児の愛着得点を比較した結果,母親と父親 ともに時期による差はみられなかった. 3. EPDS 得点と育児に対する自己効力感尺度の 関係(表 4)  母親の育児に対する自己効力感尺度の平均得点 は,EPDS「正常」群では 52.0±6.0,「産後うつ 病が疑われる」群では 48.1±6.0 で,正常群が有 意に高値を示した(p<.000).産後 1 カ月の育児 に対する自己効力感尺度の平均得点は,EPDS 「正常」群は 51.0±5.4,「産後うつ病が疑われる」 群では 47.3±5.8 で,産後 1 カ月でも正常群で有 意に自己効力感が高かった(p<.011). 4.EPDS 得点と夫婦関係満足度について(表 5)  産後 1 カ月時点の夫婦関係満足度は,母親の EPDS「正常」群は 19.7±3.6 で「産後うつ病が疑 われる」群では 18.6±3.3 で,「正常」群が僅かに 表 2 児への愛着得点 産後早期 p 値 産後 1 カ月 p 値 母 親  全体 304,2.5±2.3 148,2.4±2.0  EPDS 9 点未満 266,2.3±2.1 0.000 *** 123,2.2±1.9 0.003 **  EPDS 9 点以上 38,4.0±2.9 25,3.6±2.3 父 親  全体 217,2.8±2.4 132,2.3±2.2  EPDS 9 点未満 207,2.6±2.4 0.02 * 122,2.2±2.0 0.05 n.s  EPDS 9 点以上 8,4.8±2.7 9,3.8±3.4

マンホイットニーの U 検定 *:p<0.05,**:p<0.01,n.s.:not significant ,Mean±SD 

表 3 母親と父親の児への愛着得点の相関係数

母親の児への愛着

ρ p 値

産後早期 父親の児への愛着 0.129(211) 0.062 n.s

産後 1 カ月 父親の児への愛着 0.090(126) 0.318 n.s

spearman の順位相関分析 n.s.:not significant ( ): 数 

表 4 母親の育児に対する自己効力感尺度 産後早期 p 値 産後 1 カ月 p 値  全体 306,51.5±6.2 149,50.4±5.6  EPDS 9 点未満 268,52.0±6.0 0.000 *** 124,51.0±5.4 0.011 *  EPDS 9 点以上 38,48.1±6.0 25,47.3±5.8 マンホイットニーの U 検定 *:p<0.05,***:p<0.001 ,Mean±SD  表 5 夫婦関係満足度 産後 1 カ月 p 値 母 親  全体 149,19.5±3.5  EPDS 9 点未満 124,19.7±3.6 0.073 n.s  EPDS 9 点以上 25,18.6±3.3 父 親  全体 132,21.7±2.66  EPDS 9 点未満 122,21.7±2.7 0.501 n.s  EPDS 9 点以上 9,21.2±2.9 マンホイットニーの U 検定 n.s.:not significant ,Mean±SD 

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高値を示したが,2 群間で有意な差はみられな かった.父親でも「正常」群と「産後うつ病が疑 われる」群で有意な差はみられなかった. 5. EPDS 得点と影響する要因の相関関係につい て(表 6)  EPDS 得点と児への愛着,育児に対する自己効力 感,夫婦関係満足度などの各得点との関連では,産 後早期と産後 1 カ月の母親と父親ともに,EPDS と 児への愛着の間に有意な関連が示された(産後早 期: 母 親ρ=.283 p<0.000, 父 親ρ=.341 p< 0.000,産後 1 カ月:母親ρ=.358 p<0.000,父親 ρ=.409 p<0.000).また,産後早期と産後 1 カ月 の母親において,EPDS と育児に対する自己効力 感尺度の間に有意な関連がみられた(産後早期: ρ=−0.296 p<.000,産 後 1 カ 月:ρ=−0.284  p<.000).EPDS と夫婦関係満足度の間には,父 親に有意な関連がみられた(産後 1 カ月:ρ= −0.181 p<.038). 考  察 1.抑うつ状態と児への愛着の関係  今回,EPDS「正常」群と「産後うつ病が疑わ れる」群の児への愛着得点の比較では,産後早期 と産後 1 カ月の母親と父親ともに 2 群の間で有意 な差が認められた.  産後うつ状態は,児への愛着形成にネガティブ に影響を与えていると考えられ 20),先行研究同様 に本調査でも同様の結果が得られた.このこと は,母親の対児愛着と精神状態とは関連が見ら れ,産後の母親の精神状態が安定的であること が,児に対する愛着の形成に肯定的に影響してい ることが考えられる.笠松らは産後 1 カ月および 産後 6 カ月の産後うつはいずれも産後 1 年のボン ディングが悪い状態と関連を示しており,産後う つに対して適切なケアを施すことで,その後のボ ンディングの改善に結び付けられる可能性を示唆 している 21)  父親のボンディング障害についてもリスク因子 が,①母親のボンディング障害と,②妊婦への DV,③産後うつであることも示されており 22) 今回父親の産後うつ病が疑われる群でも児に対す る愛着が有意に低かった.産後 4 カ月の父親のう つの有病率は,13.6% でパートナーが産後うつで あることと婚姻関係の満足度の低さが関連してい るとの報告もあり 23),母親のみならず父親のメン タルヘルスへのサポートも重要であると考えられ た.児への愛着とは親から子どもへの情愛的つな がりをいい,妊娠期に芽生え出産後から育児期の 子どもとの相互作用を通して形成され 24),また妊 娠期における父親の抑うつ傾向の存在により,母 親は胎児への愛着を形成しにくくなるとされてい る 25).我々の産後 1 カ月までの調査 10)でも,母親 と父親のうつ状態は関連していることが示されて おり,妊娠期から産後を通して,父母ともに抑う つ状態は児の愛着形成のリスク要因となっている と推察されることから,両親を含めたメンタルヘ ルスの重要性が改めて示唆された.したがって, 父親を含めたより早期からの精神的サポートによ り,不安を軽減しながら信頼関係を深め,産後の 継続したサポートにつなげていく必要があると考 表 6 産後早期と 1 カ月時の父母の EPDS と児への愛着等の相関係数 産後早期 母親の EPDS 産後 1 カ月時 母親の EPDS 産後早期 父親の EPDS 産後 1 カ月時 父親の EPDS ρ p 値 ρ p 値 ρ p 値 ρ p 値 児への愛着 0.283 (304) 0.000 *** 0.358 (148) 0.000 *** 0.341 (215) 0.000 *** 0.409 (131) 0.000 *** 育児に対する 自己効力感尺度 −0.296 (306) 0.000 *** −0.284 (149) 0.000 *** 夫婦関係満足度 (149)−0.072 0.38 n.s. (131)−0.181 0.038 *

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えられる. 2.EPDS 得点に関連する要因  今回,EPDS と関連する要因として EPDS が 高くなると育児に対する自己効力感が低くなり, 我々の前回調査でも 10)「産後うつ病が疑われる」 群では有意に「育児不安がある」方の割合が高く なっていた.乳幼児をもつ母親では,「情緒的支 援」を感じるほど,「育児に対する自己効力感」 が高く,「精神的健康」は良好となり,「育児に対 する自己効力感」は高くなると示されたことが報 告されている 15)  母親の産後早期と産後 1 カ月の産後うつ病が疑 われる群では育児に対する自己効力感が低く,児 を新しい家族として迎え,実際に育児をスタート させ生活様式の変化が伴うこの時期に不安を少し でも軽減し,いつでも相談できる環境や支援者の 存在が必要であると考えられる.抑うつ的になる と児への愛着が低下し,一方で児への愛着が低下 すると抑うつ的になるという悪循環が起こるとさ れ 26),不安や抑うつ,愛着形成障害などは独立し ておらずお互いに影響しあっており,負の連鎖が 起こらないようそれぞれに焦点を当てながら多角 的な視点で理解し,関わっていくことが求められ る.  産後うつ病の関連要因は,初産婦,未婚,経済 的困難,精神疾患の既往など妊産褥婦の特性に加 え,夫との関係性や家族のサポート状況による影 響が明らかとなっている 27).今回 EPDS 得点と 産後 1 カ月時の夫婦関係満足度では有意な差はみ られなかったが,産後の夫婦関係と母親の児への 愛着の高まりに関連があり,良好な夫婦関係は母 親役割行動の高まりにつながることが示唆されて いる 28).今回の調査は産後 1 カ月時点であり,里 帰りの状況が多いことも考えられ,引き続き産後 の母親と父親の関係性について継続して調査して いく必要がある.  産後 1 カ月間での情緒的サポートを含むより深 いサポートにより母親の自己効力感を高めること が精神的健康につながると考えられた.また父親 の抑うつは周産期から配偶者の精神的健康や夫婦 関係への影響などを通して,子どもの初期発達に 影響を与えることが確認されている 29).情緒的な より深いサポートにより母親の自己効力感を高 め,産後早期からの父親も含めたメンタルヘルス ケアの充実や向上が必要であると考えられた. 結  論  今回,父母の EPDS「正常」群と「産後うつ病 が疑われる」群の児への愛着得点の比較では,母 親と父親の産後早期と産後 1 カ月で 2 群の間で有 意な差が認められた.抑うつ傾向は胎児への愛着 形成のリスク要因であり,特に妊娠期における父 親の抑うつ傾向の存在により,母親は胎児への愛 着を形成しにくくなると考えられており,妊娠期 からの父親を含めた長期的なメンタルヘルスの把 握と支援の重要性が示唆された.  今回は対象施設の地域が限られており,結果の 一般化には限界がある.父親に直接接する機会が 少なく,父親の回収率が母親と比べて低くなっ た.今回は産後早期の父母を対象としたが,今後 は妊娠期間から,産後は医療機関や行政の手が離 れる 3・4 カ月乳児健診までの母親と父親の精神 状態の推移や影響要因について母親・父親それぞ れのさらなる継続調査が重要である. 文  献 1) 稲垣由子,湯浅佳奈,佐藤眞子:低出生体重児の母 親の産後のうつ気分と赤ちゃんへの気持ちについ て―育児支援状況との関連から―.甲南女大研紀. 49:11-19, 2013 2) 中板育美,佐野信也:産後の母親のうつ傾向を予測 する妊娠期要因に関する研究―子ども虐待防止の視 点から―.小児保健研.71:737-747, 2012 3) 大岡治恵,小出隆義,後藤節子ら:妊娠中,産後早 期の母子愛着における母親のうつ状態の影響.精神 誌.117:887-892, 2015 4) 若松美貴代,中村雅之,春日井基文ら:妊娠期から の周産期メンタルヘルス支援と今後の課題.鹿児島 大保健紀.28:21-30, 2018 5) 板倉敦夫,海老根真由美,大鷹美子ら:ボンディン グ障害(母親から子どもへの情緒的絆を築くことの 障害)への対応は?.日本周産期メンタルヘルス学 会 周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド 2017 初版.1-5, 2017 6) 友田明美:被虐待者の脳科学研究.児童青年精神医 学とその近接領域.57:719-729, 2016 7) 厚生労働省:子ども虐待対応の手引き,https://

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www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv12/02.html, (2007. 1) 8) 岡野禎治:子育ては親育て!⑫ 母親のうつ病とメ ンタルヘルス.チャイルドヘルス.10:40-41, 2012 9) 小笠原敏浩,利部正裕,石川 健:地域における産 後支援システム確立への取り組み,岩手県病医会 誌,40:167-174, 2000 10) 塩谷友理子,我部山キヨ子:産後 1 カ月までの夫婦 の抑うつ状態.女性心身医.22:299-306, 2018 11) 岡野禎治,村田真理子,増地聡子ら:日本語版エジ ンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)の信頼性と 妥当性.精神科診断.7:525-533, 1996 12) 吉田敬子,山下 洋,鈴宮寛子:産後の母親と家族 のメンタルヘルス 自己記入式質問票を活用した育 児支援マニュアル.東京:母子保健事業団;38-45, 2005 13) 金岡 緑:乳幼児をもつ母親の育児に対する自己効 力 感 尺 度(Parenting Self-efficacy Scale:PSE 尺 度)の開発とその信頼性・妥当性の検討.神戸大学 大学院総合人間健康科学研究科 博士論文.1-76, 2007 14) 日高義彦,塚原照臣,和田敬仁ら:6.産後うつ予 測因子の検討―こんにちは赤ちゃん事業での活用を めざして―.信州公衆誌.7:30-31, 2012 15) 金岡 緑:育児に対する自己効力感尺度(Parent-ing Self-effcacy Scale:PSE 尺度)の開発とその信 頼性・妥当性の検討.小児保健研.70:27-38, 2011 16) 吉田富二雄:心理測定尺度集 II―人間と社会のつな がりをとらえる「対人関係・価値観」.東京:サイ エンス社;149-152, 2002 17) 柘植由紀美,五十嵐稔子:1 歳 6 ヶ月児をもつ夫婦 の性役割分業観と母親のメンタルヘルスとの関連. 奈良医看紀.15:33-42, 2019 18) , - , ,

- , Some early indicators for depressive symp-toms and bonding 2 months postpartum ― a study of new mothers and fathers, Arch Womens Ment Health. 8:221-231, 2005 19) 羽田彩子,北村俊則:周産期ボンディング障害の発 生要因.助産誌.71:914-919, 2017 20) 佐藤奈緒子,森岡由起子,佐藤 文ら:産後うつ状 態に影響を及ぼす背景因子についての縦断的研究 (第二報)―産後うつ状態と対児感情・児への愛着と の関連―.母性衛生.47:330-343, 2006 21) , , , et al.: Understanding the relationship between postpar-tum depression one month and six months after delivery and mother-infant bonding failure one-year after birth:results from the Japan Environ-ment and Children s study(JECS).Psychological Medicine.50:161-169, 2019

22) , , , et al.:Mother- to-infant bonding failure and intimate partner vio-lence during pregnancy as risk factors for fa-ther-to-infant bonding failure at one month post-partum:birth cohort study of the Japan Environment and Children s Study. The Journal of Maternal-Fetal & Neonatal Medicine(電 子 版) doi:10.1080/14767058.2018.1560414

23) , , , et al.:Paternal postnatal depression in Japan:An investigation of correlated factors including relationship with a partner. BMC Pregnancy and Childbirth. 15:1-8, 2015 24) 中島登美子:母親の愛着尺度日本版の信頼性・妥当 性の検討.日看科誌.21:1-8, 2001 25) 萩野聡子:妊娠期における父親・母親の抑うつ傾向 と胎児への愛着との関連.児童青年精医と近接領 域.47:29-37, 2006 26) 中村由嘉子,尾崎紀夫:抑うつ的な妊産婦の心の理 解と求められる対応.心身医.59:307-313, 2019 27) 間中麻衣子:産後うつ病の研究動向および産後うつ 病予防における看護の課題.ヒューマンケア研会 誌.7:63-66, 2016 28) 盛山幸子,島田三恵子,足立智美:産後の夫婦関係 及び出産満足度と「対児感情及び母親役割行動」と の関連.家族看研.17:13-19, 2011 29) 岐部智恵子:父親の抑うつと子どもの初期発達に関 する文献研究.小児保健研.75:384-389, 2016  

参照

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