博 士 ( 農 学 ) 中 辻 浩 喜
学 位 論 文 題 名
泌乳牛の粗飼料多給飼養下における 飼料エネルギーの利用効率に関する研究
学位論文内容の要旨
近年の我が国における酪農は、飼養頭数や個体乳量の増加により牛乳生産量を増加させ てきたが、一方、飼料基盤は濃厚飼料への依存割合が高まっている。反芻家畜である乳牛 の消化特性やわが国の国土の有効利用を考えると、今後の牛乳生産は、輸入穀類に頼らず 牧草など自給粗飼料を中心とし、その飼料エネルギーを効率的に利用して展開されるべき である。しかし、このような視点に立ち、粗飼料多給飼養下での飼料工ネルギーの利用効 率について検討した研究は少ない。
泌乳牛における飼料のエネルギ一消化率、代謝率(q)および牛乳生産のエネルギー利用効 率に影響を及ぼす要因を検討した従来の多くの報告では、濃厚飼料割合が高い飼料給与条 件下で、かつ限定された乳期の牛を用いてエネルギー出納試験が行われている。しかし、
実際の生産現場では、乳期の進行に伴って乳量、体重など泌乳牛の生理状態が大きく変化 し、それに応じて給与飼料構成は多様に変化するのが通常であるため、飼料エネルギーの 利用効率を検討する場合には、1乳期の様々な条件下でのエネルギ―出納試験成績や1乳期 全体の飼養試験成績を用いる必要がある。
以上のような背景のもとで、1984年から1993年までの9年間にわたり、北海道大学農学部 附属農場のホルスタイン種泌乳牛群を用い、粗飼料割合が高い飼料給与条件下で、粗飼料 構成の異なる処理群を設け、1乳期飼養試験を行なうとともに、それらの供試牛の一部につ い て 、 乳 期 、 産 次 お よ び 季 節 な ど を 考 慮 し 、 エ ネ ル ギ ー 出 納 試 験 を 行 な っ た 。 本研究は、これら一連の試験から得られた1乳期産乳成績およびエネルギー出納試験成績 を解析し、泌乳牛の自給粗飼料多給飼養下における飼料エネルギーの利用効率について検 討したものである。本論文の内容の要旨は以下の通りである。
第I章では、本研究の背景と目的を述べ、粗飼料主体飼養時における牛乳生産、飼料エ ネルギーの消化率、qおよび牛乳生産のエネルギー利用効率に関する既往の研究を紹介し、
本研究の位置づけを行なっている。さらに、本研究で用いる牛乳生産のエネルギー利用効 率を表わす指標について、Brady and Proctor (1935)が提唱した牛乳生産のエネルギー粗 効率(Gross Energetic Efficiency: GEE)に加え、この指標を改良した牛乳生産のエネルギ ー正味効率(Net Energetic Efficiency: NEE)を提案した。
第n章は試験方法であり、試験処理、飼料給与基準、飼養管理方法、測定項目および測 定方法などにっいて述べている。
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第皿章では、粗飼料多給飼養下における飼料のエネルギ一消化率、qおよび牛乳生産のエ ネルギ一利用効率にっいて、延べ218頭のエネルギー出納試験成績から検討した。エネルギ 一消化率およびqの平均値はそれぞれ、65.2%および54. 5%であり、飼料中の粗飼料割合が高 くなってもエネルギー消化率およびqは必ずしも低下しないことが明らかになった。また、
エネルギ一消化率およびqともに平均値を中心に上下1096単位程度の範囲で変動が認められ、
飼料中の粗飼料割合以外に飼養レベルの影響が示唆された。通常の泌乳牛飼養では、乳期 の進行に伴い飼料中の粗飼料割合は高くなり、その一方で飼養レベルは低下することが一 般的であり、エネルギ一消化率およびqに対する飼料中の粗飼料割合と飼養レペル両者の影 響が相殺され、上記のような変動が生じることが明らかになった。GEEの平均値は30. 6?6で あり、その変動には乳量レベルが大きく関与していることが明らかになった。一方、 NEEの 平均値は59.2%であり、その変動は必ずしも乳量レベルだけに起因するものではなく、その 他 、 個 体 の 泌 乳 能 カ な ど の 要 因 が 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 第1V章では、粗飼料多給飼養下における1乳期生産時での牛乳生産のエネルギー利用効率 にっいて、延べ108頭の1乳期飼養試験成績からGEEおよびNEEを算出し検討した。1乳期生産 時でのGEEおよびNEEの平均値はそれぞれ34. 5?6および56. 896とエネルギー出納試験での値と ほぼ同様であり、飼料中の粗飼料割合が高くなってもGEEおよびNEEは必ずしも低下しなか った。GEEは乳量レベルおよび産次の影響を受け、乳量レベルが高いほど、また初産牛にく らべて経産牛のほうがGEEが高いことが示された。一方、NEEはそれらの影響を受けず、乳 量レベルおよび産次に関わらずほぼ一定であった。また、 GEEおよびNEEは給与粗飼料構成 および分娩季節によって異なることが認められた。1乳期生産時でのエネルギ一利用効率か らみて有効な給与粗飼料構成は、夏季の放牧地草多給、冬季はコーンサイレージとアルフ ァルファサイレージの組み合わせであることが示された。
第V章で は、 総合 考察 とし て、第m章 およ び第1章の データを用い、粗飼料多給飼養下 における1乳期生産時での産乳に要する代謝工ネルギー(ME)量の算出を試み、日本飼養標 準(19 94)の値と比較検討した。1乳期生産時での産乳に要するME量は5.51MJ/kgであり、日 本飼養標準(1994)での値(4. 95MJ/kg)にくらべやや高くなることが明らかになった。また、
この値は乳量レベルおよび産次に関わらずほぼ一定であることが示された。粗飼料多給飼 養下における1乳期生産時での産乳に要するME量は給与粗飼料構成および分娩季節によって 変動するが、おおむね日本飼養標準(1994)の値から十15%程度までの範囲内にあることが明 らかになった。従って、飼料中の粗飼料割合が7096以上の粗飼料多給飼養の場合、産乳に要 するME量と して は、 日本 飼養 標準(1994)の 値に 上乗 せが 必要で ある と結 論し てい る。
以上のように本研究は、泌乳牛における飼料のエネルギー消化率、qおよび牛乳生産のエ ネルギー利用効率について、これまで研究蓄積の少ない粗飼料多給.1乳期飼養下で検討 し、乳牛の飼料エネルギ一利用に関して新しい知見を提示した。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
大久保 田中 近藤
学 位 論 文 題 名
正彦 桂一 誠司
泌乳牛の粗飼料多給飼養下における 飼料ヱネルギーの利用効率に関する研究
本 論 文 は 、総 頁 数
141
、 図21
、 表47、 引用 文 献84
を 含 む5
章 か ら なる 和 文 論文 で あ り、 別 に19
編の 参 考 論文 が 添 えら れ て いる 。わ が国 の 酪 農は 、 輸 入穀 物 な ど濃 厚 飼 料へ の依 存割合を 高めっ つ発展し てきた。 しかし 、 反 芻 家 畜 で あ る乳 牛 の 消化 特 性 や国 土 の 有効 利 用 から 、 牧 草な ど 自 給 粗飼 料 を 中心 に し た 生 産 体 系 が 求 めら れ て いる 。 泌 乳牛 に お ける 飼 料 工ネ ル ギ ーの 利 用 効 率に 関 す るこ れ ま で の 研 究 の多 く は 、濃 厚 飼 料割 合 の 高い 飼 料 給与 下で、か っ比較的 短い期 間で行わ れてお り、
粗 飼 料 多 給 飼 養 下 で 、
1
乳 期 に わ た っ て 飼料 エ ネ ルギ ー の 利用 効 率 を 検討 し た 研究 は 少 な い 。こ のよ う な 背景 の も とで 、
1984
年 から1993
年 ま で の9年 間 にわ た り 、北 海道大 学農学部 附 属 農 場 の ホ ル スタ イ ン 種泌 乳 牛 群を 用 い 、粗 飼 料 割合 が 高 い飼 料 給 与 条件 下 で 、粗 飼 料 構 成 の 異 なる 処 理 群を 設 け 、1乳 期 飼養 試 験 を行 な う と とも に 、 それ ら の 供試牛の 一部に っい て は 、 乳 期 、 産 次 、 お よ び 季 節 な ど を 考 慮 し 、 工 ネ ル ギ ー 出 納 試 験 を 行 な っ た 。本 研究 は 、 これ ら 一 連の 試 験 から 得 ら れた
1
乳 期 産乳 成 績 およ び エ ネル ギ一出納 試験成 績 を 解 析 し 、 泌 乳牛 の 粗 飼料 多 給 飼養 下 に おけ る 飼 料工 ネ ル ギー の 利 用 効率 を 検 討し た も の で あ る 。本 研 究 の結 果 は 以下 の よ うに 要 約 され る 。1
) 粗 飼 料 多 給 飼 養 下 に お け る 飼 料 のエ ネ ル ギー 消 化 率、 代 謝 率 およ び 牛 乳生 産 の エネ ル ギ 一 利用 効 率 につ い て 、延 べ218
頭 の エネ ル ギ ー 出納 試 験 成績 か ら 検討 した結果 、エネ ル ギ 一 消 化 率 お よび 代 謝 率は 飼 料 中の 粗 飼 料割 合 が 高く な っ ても 必 ず し も低 下 し ない こ と が 明 ら か にな っ た 。ま た 、 エネ ル ギ ー消 化 率 およ び代謝率 ともに平 均値を 中心に上 下1096単位 程 度 の 範 囲 内 で変 動 し てい た が 、こ れ ら には 飼 料 中の 粗 飼 料割 合 と 飼 養レ ベ ル が大 き く 影 響 し て い た 。 通常 の 泌 乳牛 飼 養 では 、 乳 期の 進 行 に伴 い 飼 料中 の 粗 飼 料割 合 は 高く な り 、 そ の ー 方 で 飼 養レ ベ ル は低 下 す るの が 一 般的 で あ り、 エ ネ ルギ ー 消 化 率お よ び 代謝 率 に 対 す る 両 者の 影 響 が相 殺 さ れ、 上 記 のよ う な 変動 が生じて いること が明ら かになっ た。ま た、牛 乳 生 産 の エ ネル ギ 一 利用 効 率 は飼 料 中 の粗 飼 料 割合 が 高 くな っ て も 低下 せ ず 、エ ネ ル ギ ー 粗 効 率 に は 乳量 レ ベ ルが 大 き く影 響 し てい る 一 方、 エ ネ ルギ 一 正 味 効率 の 変 動は 必 ず し も 乳 量 レ ベ ル だ け に 起 因 す る も の で は な く 、 そ の 他 の 要 因 の 影 響 が 示 唆 さ れ た 。
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―2)1乳期生産時での牛乳生産のエネルギー利用効率にっいて、延べ108頭の1乳期飼養試 験成績から検討した結果、1乳期生産時でのエネルギー粗効率および正味効率は、工ネルギ ー出納試験時と同様に、飼料中の粗飼料割合が高くなっても必ずしも低下しないことが明 らかになった。また、エネルギー粗効率Iま乳量が多いほど、また初産牛にくらべて経産牛 のほうが高いことが示された。一方、正味効率は乳量レベルおよび産次に関わらずほぼ一 定であることが明らかになった。1乳期生産時でのエネルギー利用効率からみて有効ナょ給与 粗飼料構成は、夏季は放牧地草多給、冬季はコーンサイレージとアルファルファサイレー ジの組み合わせであることが示された。
3)粗飼料多給下の1乳期飼養試験成績から産乳に要する代謝エネルギー量を算出したと ころ、4%脂肪補正乳の生産に要する代謝エネルギー量は5.51MJ/kgであり、日本飼養標準
(1994)の値(4. 95lf j/kg)にくらべやや高くなった。この値は給与粗飼料構成および分娩季節 によって変動するが、おおむね日本飼養標準(1994)の値から十15%程度までの範囲内にある ことが明らかになった。
以上のように本研究は、粗飼料多給飼養下における泌乳牛の飼料工ネルギーの利用効率 にっいて新しい知見を提示し、粗飼料多給飼養下における産乳に要する代謝工ネルギー量 を 明 ら か に し た も の で あ り 、 学 術 的 に も 実 用 面 で も 高 く 評 価 さ れ る 。 よって審査員一同は、中辻浩喜が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するも のと認めた。
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