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習近平新時代 における中国外交と日中関係 はじめに 三船恵美 本稿は 習近平新時代 の中国外交ならびに日中関係について 2018 年 6 月半ば現在での考察を試みるものである 1 日本と中国は 2018 年に日中平和友好条約締結 40 周年の節目の年を迎えた 日本の安倍晋三総理は 同年 2 月 9

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四八

「習近平新時代」における

中国外交と日中関係

三 船 恵 美

はじめに

 本稿は、「習近平新時代」の中国外交ならびに日中関係について、2018 年6 月半ば現在での考察を試みるものである。  日本と中国は、2018 年に日中平和友好条約1 締結40 周年の節目の年を 迎えた。日本の安倍晋三総理は、同年2 月 9 日、平昌冬季五輪の歓迎レセ プションで、同じテーブルに着いた中国共産党序列第7 位の韓正・政治局 常務委員と通訳を交えて言葉を交わし、日中関係の改善を一層進めたいと 伝えた。また、河野太郎外務大臣は5 月 15 日の閣議で 2018 年版外交青書 を報告し、日中関係について、日中国交正常化45 周年に当たる 2017 年が 首脳・外相を含むハイレベルの対話が活発に行われ、関係改善の気運が大 きく高まった年となったと総括した2。中国共産党第19 期全国代表大会 (2017 年 10 月 18 ~ 24 日開催、以下「19 回党大会」と略す)で習近平が 権力基盤を強化したことにより、日中関係の改善が可能になった、という 報道がみられている。しかし、その一方で、中国の不透明性な軍事力増強 や、南シナ海の軍事要塞化、日本の尖閣諸島周辺海域における中国公船に よる国際法を遵守しない行動など、中国は「力による一方的な現状変更」 1 1978 年 8 月 12 日に締結、同年 10 月 23 日に発効。 2 外務省 website[http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pp/page23_002506.html]掲載の 「平成30 年版外交青書(外交青書 2018)目次(PDF)」2018 年 5 月 15 日、p.7、最 終閲覧2018 年 5 月 15 日。

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四七 を続けている。また、中国は、日本周辺海域において、日本からの同意を 得ない調査活動や日中間の同意内容3 と異なる活動を行っている。果たし て、日中関係は改善の方向性にあるとみてもいいものであろうか。それと も、トランプ政権の対東アジア政策を背景に、中国が「一時的」に「微笑 外交」を戦術として展開しているということなのであろうか。  以上の問題関心から、本稿は、2 期目に入った習近平体制の中国外交の方 向性と日中関係について検討する。まず第1 節で、19 回党大会以降の新体 制と組織改革を検討し、習近平への権力集中が強化されながらも習の権威は 盤石とは言い切れず、脆弱性を抱えるがゆえの集権の制度化であることを考 察する。経済的な利益を求めて中国が日本に接近していても、政権基盤の脆 弱性は、権力集中を強化している習近平を「外敵」との軋轢によって政権の 求心力を高めようとする誘惑に駆られやすくさせるものである。したがって、 硬軟両様の対日政策が短期的にとられていても、中期的には協調路線が難し くなる。第2 節では、強軍路線を鮮明化させている中国の「軍民両用」と「海 警」の体制改革について検討する。第3 節では、中国の対日外交の現状を検 討し、習近平外交が中期的にみれば日中関係改善の方向に動いているわけで はないことを検討する。  それらの考察から、習近平体制2 期目における中国外交の方向性とそこに おける日本の位置づけが日本にとって依然厳しいものであるとの結論を導き出 す。 3 日本と中国は、2008 年 6 月 18 日の「東シナ海における日中間の協力につい て(日中共同プレス発表)」において、日中双方が「日中間で境界がいまだ画定 されていない東シナ海」を平和・協力・友好の海とするため、2007 年 4 月に達 成された「日中両国首脳の共通認識」及び2007 年 12 月に達成された「日中両国 首脳の新たな共通認識」を踏まえた真剣な協議を経て、境界画定が実現するまで の過渡的期間において双方の法的立場を損なうことなく協力することにつき一致 し、引き続き協議を継続していくことが合意されていた。また、同日の「日中間 の東シナ海における共同開発についての了解」において、双方が一致して同意す る地点を選択し、共同開発を行うことが合意されている。

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四六

1 節 「習一強」の制度化と日本

 本節では、19 回党大会以降の〈1〉「習近平思想」と〈2〉人事の 2 点か ら考察し、中国の政治構造は習近平への権力集中を強化させてはいるもの の、それが中国に穏健な対日政策を採りやすくしているわけではないこと を考察する。 (1)習近平思想(「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」)

 中華人民共和国(the People's Republic of China: PRC)と中国共産党(the Communist Party of China = CPC)との関係は、国家の上位に中国共産党 すなわち「党」が国家を「領導」している。19 回党大会以降、党の統 一的領導がさらに強化されている4 中国において、中華人民共和国の政 府機構よりも中国共産党が上位にある。そこで、中国における憲法(the Constitution of the PRC)と党規約(the Constitution of the CPC)という2 つの constitution の改正についてまず検討することにしよう。  19 回党大会は、従来の党の指導方針である「マルクス・レーニン主義、 毛沢東思想、鄧小平理論、“3 つの代表 ” の重要思想5、科学的発展観6」に 4 19 回党大会では、「新たな 4 つの中央領導機関」として、「全面的な法に基 づく中央による国家統治指導小組」、「国有自然資源資産管理・自然生態監督管理 機関」、「退役軍人管理保障機関」、「国家・省・市・県監察委員会」が新設された。 5 2002 年 11 月の 16 回党大会において、江沢民は「3 つの代表」を「マルクス・レー ニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論」とともに中共の重要思想と位置付け、党規 約に明記された。また、前規約の「中共は労働者階級の前衛部隊である」の一文 に「中国人民と中華民族の前衛部隊である」との文言が加えられ、党が特定の階 級の代表に留まらないことを明記した。さらに、2004 年 3 月の第 10 期全国人民 代表大会第2 回会議における憲法改正で、「3 つの代表」は憲法序文に盛り込まれた。 6 2003 年 7 月 28 日 に 胡 錦 濤 が 党 総 書 記 と し て 初 め て 発 表 し た 理 念 で、経済と社会、環境などの調和をはかりつつ、持続可能な均衡発展を目 指 す 路 線 を 意 味 し て い る。 胡 錦 濤 は「 科 学 的 発 展 観 」 を マ ル ク ス・ レ ー ニ ン 主 義、 毛 沢 東 思 想、 鄧 小 平 理 論、「3 つ の 代 表 」 に 続 く「 重 大 な 戦 略 思 想 」 と し て2007 年 10 月 の 17 回 党 大 会 で 党 規 約 に 明 記 し た が、 そ の 内 容 は 指 導 理 念 と 呼 べ る も の で は な か っ た。 胡 錦 濤 引 退 時 の2012 年 11 月

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四五 続けて、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想(习近平新时代中 国特色社会主义思想)」を新たに「行動指針」として加える改正案を採択 した7。これは、半年後の2018 年 3 月に開催された第 13 期全国人民代表 大会における憲法改正で明記された。また、1982 年の憲法改正では、文 化大革命の教訓をくみ取り、過度な権力集中や個人独裁を防ぐために、共 産党による指導原則を条文から序言へ移したのであるが、2018 年の憲法 改正では、「共産党の指導こそが中国的社会主義の本質的な特徴」と憲法 2 条に規定された。一党独裁が「手段」ではなく「目的」になったのであ る8。  中国共産党は、従来、中国が社会と党のあり方の矛盾に向かい合う理論 武装としてのテーゼなどを党規約に書き込んできた。  「毛沢東思想」は、中国が進めた農民革命・農民闘争とマルクス・レー ニン主義の矛盾を埋め合わせるために登場した。マルクスもエンゲルスも、 農民をプロレタリアートの同盟として獲得しなければならなかったもの の、当時の西欧の農民の状況は革命当時の中国の農民とは異なり、革命の 必要はなかった。十月革命では土地を農民にというスローガンが掲げられ たものの、それは政権を奪い取ったプロレタリアートが宣言したものであ り、農民自らが革命闘争によって獲得したものではなかった。そこで、農 村から都市を包囲するという戦略によって暴力革命を進めた中国に必要と されたのが毛沢東思想であった。  鄧小平理論は、文化大革命によってどん底の経済から這い上がろうとし ていた社会主義国家の中国において、「貧困は社会主義ではない」「先に豊 の18 回党大会で「科学的発展観」は「党の行動指針」へ格上げされた。 7 「受权发布:中国共产党章程」新華網、2017 年 10 月 28 日、 [http://www.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/28/c_1121870794.htm] 最終閲覧 2018 年 5 月 22 日。 8 鈴木賢教授は、2018 年憲法改正を 1978 年憲法改正への回帰であると論じて いる(鈴木賢「鄧小平憲法から習近平憲法への転換」『法律時報』2018 年 5 月号、 pp.1~3)。

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四四 かになれるものから豊かになろう(いわゆる「先富論」)」と謳い、経済発 展を優先した社会主義建設を呼びかけた矛盾を正当化するためのテーゼと して登場した。鄧小平は、12 回党大会で、「自らの道を歩み、中国の特色 ある社会主義を建設する」と打ち出した。「改革開放は中国共産党による 一党独裁の社会主義国家にそぐわない」として湧き上がった論争に対して、 中国を「特色ある社会主義国家」と位置付けることで理論武装し、「特色」 の二文字を掲げることによって、社会主義国でありながら資本主義国と同 じことをしているわけではなく、中国共産党による一党支配体制は維持し て、中央政府のマクロ・コントロールの下で市場経済を導入した。  「3 つの代表」は、プロレタリアートの解放闘争の党であった中共と、「市 場経済の恩恵を世界で最も受けて発展した中国」との間に生じる矛盾を正 当化させる考え方であった。「3 つの代表」は、2000 年 2 月に広東省を視 察した江沢民が党創立を総括した重要講話として発表したもので、中共が 〈1〉中国の先進的な社会生産力の発展の要求、〈2〉中国の先進的文化の前 進の方向、〈3〉中国の最も広範な人民の根本的利益、の 3 つを常に代表し、 正しい政策方針を示して、国家と人民の根本利益を実現するために努力し てきた、という内容である。2001 年 7 月 1 日の中共創立 80 周年記念の演 説で、江沢民は「3 つの代表」が中共の「立党・執政・力量」の基礎であ り、新世紀の党建設の推進、理論、制度、科学技術の革新、中国の特色あ る社会主義の建設における根本的要求であると位置づけた。胡錦濤による 「科学的発展観」は、「発展第一」「人間本位」「全面的な調和による持続可 能な発展」「全体の利益」という大局観を以て、「和諧社会」(調和の取れ た社会)の構築を目指すというアイディアである。社会主義市場経済体制 のひずみ、すなわち都市と農村、地域間、貧富間の格差問題や、社会と経 済の発展の調和問題などの矛盾と向き合うためのアイデアであった。  それでは、これらに加わった「習近平新時代の中国の特色ある社会主義 思想」は、何らかの矛盾を正当化しているのであろうか。その内容は、「思 想」にはほど遠く、単なるスローガンにすぎない。

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四三  江沢民は15 回党大会で「鄧小平理論の偉大なる旗幟を掲げ、中国の特色 のある社会主義事業の建設を21 世紀に向けて推し進めていく」と語った。 胡錦濤は17 回党大会のときに、「中国の特色のある社会主義という偉大な る旗幟を掲げ、小康社会の全面的な建設という新たな勝利を得るために奮 闘していく」と述べた。これに対して、習近平は、「中国的特色のある社会 主義という偉大な旗幟を掲げ、全面的に小康社会を確立するために最終的 な勝利を収めて、新時代の中国的特色のある社会主義の偉大なる勝利をえ て、中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現するために、奮闘を惜 しまない」9 と語った。「新時代の中国の特色のある社会主義」と述べたこ とで、江沢民政権期と胡錦濤政権期を鄧小平時代に含めて、「新時代」の社 会主義を「鄧小平時代の中国の特色のある社会主義」とは一線を画した。  習近平は現代中国を3 つの時期に大別している。習近平は党大会で「站 起来、富起来、強起来!(立ち上がれ、豊かになれ、強くなれ)」と強調 した10。「站起来」は中華民族が「屈辱の歴史」から立ち上がった「毛沢 東時代」である。「富起来」は、中国が改革開放で豊かになってきた鄧小 平、江沢民、胡錦濤の三代に亘る「鄧小平時代」である。そして、「強起来」 すなわち「ポスト鄧小平時代」として中国が強国化する時代であり、これ を「習近平の新しい時代」と位置付けたのである。 (2)人事:「チャイナ・セブン+ 1」と「習一強」  表1 に、中共中央の政治局常務委員(いわゆる「チャイナ・セブン」)、 中央軍事委員会委員、中央紀律検査委員会委員の新旧指導者を示した。19 9 「决胜全面建成小康社会 夺取新时代中国特色社会主义伟大胜利 ——在中 国共产党第十九次全国代表大会上的报告(2017 年 10 月 18 日)、习近平」新华 网、2017 年 10 月 27 日[http://www.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/27/ c_1121867529.htm]。 10 「决胜全面建成小康社会 夺取新时代中国特色社会主义伟大胜利:在中国共 产党第十九次全国代表大会上的报告(2017 年 10 月 18 日)」新華網、2017 年 10 月 27 日[http://www.xinhuanet.com/politics/19cpcnc/2017-10/27/c_1121867529.htm]。

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四二 表 1 第 18 期ならびに第 19 期の中共中央の政治リーダーたち (無印は留任 [新]は新任、×は引退) 第18 期中央委員会 第19 期中央委員会 誕生年月 誕生年月 前職 総書記 習近平 53 年 6 月 習近平 53 年 6 月 中共総書記、国家主席、中央軍事委員会主席 政治局常務委員(7 人) 習近平 53 年 6 月 習近平 53 年 6 月 再選 李克強 55 年 7 月 李克強 55 年 7 月 国務院総理、再選 × 張徳江 46 年 11 月 [新]栗戦書 50 年 8 月 中央弁公庁主任 × 兪正声 45 年 4 月 [新]汪洋  55 年 3 月 国務院副総理 × 劉雲山 47 年 7 月 [新]王滬寧 55 年 10 月 中央政策研究室主任 × 王岐山 48 年 7 月 [新]趙楽際 57 年 3 月 中央規律検査委員会書記 × 張高麗 46 年 11 月 [新]韓正  54 年 4 月 上海市党委書記 中央軍事委員会 主席 習近平 53 年 6 月 習近平 53 年 6 月 再任 副主席(2 名) × 范長竜 47 年 5 月 許其亮 50 年 3 月 再任(上将) 許其亮 50 年 3 月 [新]張又侠 50 年 7 月 中央軍事委員会装備発展部長(上将) 委員(8 名) 委員(4 名) × 常万全 47 年 5 月 魏鳳和 54 年 2 月 前ロケット軍司令員 × 房峰輝 51 年 4 月 [新]李作成 53 年 10 月 中央軍事委聯合(統合)参謀部参謀長(上将) × 張陽  51 年 8 月 [新]苗華  55 年 11 月 中央軍事委政治工作部主任(上将) × 趙克石 47 年 11 月 [新]張昇民 58 年 2 月 中央軍事委軍事紀律検査委員会書記(上将)   張又侠 50 年 7 月 × 呉勝利 45 年 8 月 × 馬暁天 49 年 8 月 魏鳳和 54 年 2 月 中央紀律検査委員会 書記 × 王岐山 48 年 7 月 [新]趙楽際 57 年 3 月 副書記 × 趙洪祝 47 年 7 月 楊暁渡 監査部部長 楊暁渡 53 年 10 月 [新]張昇民 58 年 2 月 中央軍事委員会紀律検査委員会書記(上将) × 杜金才 52 年 10 月 劉金国 55 年 4 月 × 呉玉良 52 年 4 月 [新]楊暁超 58 年 11 月 中央紀律検査委員会秘書長   劉金国 55 年 4 月 李書磊 64 年 1 月 李書磊 64 年 1 月 [新]徐礼義 58 年 11 月 中央巡視組巡視専員 [新]肖培  61 年 1 月 [新]陳小江 62 年 2 月 監査部副部長

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四一 回党大会と13 期全人代における新人事から、「習一強」をどのように考え られるのであろうか。柔軟な対日政策を採りやすくなったと言えるのであ ろうか。筆者はこのような楽観的な見方に与しない。  約8,900 万人の中国共産党員の最高指導部である政治局常務委員の去就 が注目された19 回党大会で中共内規の年齢制限「七上八下」(=党大会の 時点で68 歳以上なら引退)に従い退いた王岐山(1948 年 7 月 1 日生)は、 2018 年 3 月 17 日の全人代で、有効投票 2970 票(欠席 10 人)のうち賛成 2969 票、反対 1 票で、国家副主席に選出された。全人代で習近平の「右 腕」とされてきた王岐山を国家副主席に据えることに成功したものの、19 回党大会においては、王岐山を政治局常務委員に留任させることはできな かった11。中共中央の政治局常務委員の顔ぶれを見ても、中共序列第3 位 の栗戦書は地方時代からの習近平側近であるものの、中共序列第4 位の汪 洋は胡錦濤系であり、中共序列第5 位の王滬寧は習近平のブレーンである ものの、江沢民、胡錦濤、習近平の三代に仕えてきた人物であり、中共序 列第6 位の趙楽際は習近平勢力であるものの胡錦濤とも近い人物であり、 中共序列第7 位の韓正は江沢民系であり胡錦濤とも近い人物である。つま り、絶対服従を誓った人物ばかりでチャイナ・セブンを形成できなかった のである。言い方を変えると、江沢民系勢力を中共中央政治局常務委員か ら排除することは叶わなかったのである。  胡錦濤系勢力の去就をみてみると、張春賢(前ウイグル自治区書記)や 劉奇葆(宣伝部長は黄坤明へ)らが習近平になびかず切り捨てられた。また、 11 王岐山が最高指導部ならびに中共中央紀律検査委員会書記から退いたこと で、また、同書記の後任に着いたのが趙楽際であったことから、王岐山のように 趙楽際が習近平の政敵排除に手腕を発揮できるのかが懸念された。しかし、国務 院と同格となる汚職摘発機関「国家監察委員会」が2018 年の党・国家機構改革 で新設され、2018 年 3 月 18 日にその初代主任に、王岐山の右腕として党の粛正 を断交してきた楊暁渡・共産党中央規律検査委員会副書記が選出されたことで、 その懸念は稀有となった。中央規律検査委は党員の汚職を摘発するが、国家監察 委は全公職者に対象を拡大している。監察部と国家腐敗予防局が廃止され、監察 部が国家監察委員会に統合された。

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四〇 2017 年夏に拘束された 2 人の「胡錦濤の愛将」のうち、建国 60 周年記念 (2009 年)の胡錦濤による解放軍大閲兵式の指揮をとり、国際派として思 考が開明的で軍内改革派と言われていた房峰輝(元中央軍事委員会連合参 謀部主任参謀長)は、2017 年に「贈収賄の容疑」で拘束され、失脚させら れた。また、張陽(前中央軍事委員会政治工作部主任の上将)は、2017 年 11 月 23 日に「自宅で自殺した」とされている。  その一方で、胡錦濤の長男である胡海峰(1971 年生まれ)が、政治の 世界に入って僅か2 年で浙江省台州市12 の党委員会書記に「異例」の昇 格をしている。胡海峰は、「ナミビア事件」で企業幹部を辞任した後に、 2009 年に清華大学副秘書長に着任し、2010 年 4 月に嘉興市にある浙江清 華長江デルタ研究院の党委書記に就任し、2013 年 5 月に嘉興市(揚子江デ ルタの中心地)の党委副書記に就任した。その後、2016 年 3 月代理市長、 2017 年 4 月市長、2017 年 12 月には台州市党委書記を経て、異例のスピー ド出世で現職に着いた。この胡海峰人事から推察すれば、単純な「習近平 vs. 胡錦濤の権力闘争」という政治勢力の構図が考えにくい。  19 期中央委員会の構成をみると、中央委員 204 人は前期の 205 人とわ ずか一名しか違わず、新人が126 名で 62%が入れ替えになったものの13 習近平に忠実な勢力だけになったわけではなかった。劉鶴(65 歳:就任時 の年齢。以下同様)、陳敏爾(57 歳)、蔡奇(62 歳)、黄坤明(60 歳)、李強(58 歳)、陳希(64 歳)といった「習近平に忠実な人物」の中央政治局委員への 引き上げには成功しているものの、「腹心の陳敏爾」を政治局常務委員に 引き上げられなかったのである。  2017 年 10 月の党規約の改正については、第 10 条(8)の「いかなる形 においても個人崇拝を禁止する」14 との文言は変更されなかったものの、 12 台州市は浙江省沿海の中部、上海経済区の南部に位置する。 13 18 期では新人が 52%であった。19 期の軍人の比率は例年並みの 2 割であった。 14 「中国共产党章程」共产党员网[http://www.12371.cn/special/zggcdzc/zggcdzcqw/] 最終閲覧2018 年 5 月 23 日。

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三九 2018 年 3 月の憲法改正において国家主席の 3 選禁止が撤廃され、2022 年 に習近平が党総書記を引退しても、習近平が2023 年の全人代以降も国家 主席として君臨できるように合法的に制度化された点を筆者は注視する。 党規約で「集団指導」を削れなかったことから、「習一強」の実態とは、 習近平への権力集中が党と国家機構の制度化によって強化されているもの の、決して盤石な勢力基盤が築かれたとは言えないのではなかろうか。

2 節 中国の対日姿勢は「硬軟両様」か?「一時的戦術」か?

 一部の中国研究者らやメディアは、習近平に権力が集中したことによっ て、日中関係が改善できる基盤ができた、と解説している。果たして、そ うであろうか。  2017 年 7 月 8 日、G20 サミット出席のためにドイツを訪問した安倍晋 三総理は,ハンブルク市内のホテルにおいて習近平国家主席と首脳会談を 行い、両国は「日中関係の改善を進め、安定的な関係構築を進めていくこ と」に合意した15。この前後、世界的にメジャーな機関で、日中間の「緩 やかな関係改善」が指摘された16。  本節では、〈1〉「軍民融合」と「中国製造 2025」、〈2〉「海警」と「武警」 の機構改革の2 点を考察し、中国の対日姿勢が「硬軟両様」ではなく「一 次的な戦術」であることを検討していく。 15 「日中首脳会談」外務省、2017 年 7 月 8 日[https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ c_m1/cn/page4_003121.html]。

16 例えば、以下など。J. Berkshire Miller, “Japan Warms to China: Why Abe and Xi Are Slowly Mending Ties,” The Foreign Affairs, Council on Foreign Relations, July 17, 2017 [https://www.foreignaffairs.com/articles/asia/2017-07-17/japan-warms-china]. Daniel Bob,Tomohiko Taniguchi, “The Coming China-Japan Thaw? ,” The National Interest, July 5, 2017, [http://nationalinterest.org/feature/the-coming-china-japan-thaw-21427].

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三八 1.「強軍大国」を目指す中国の「軍民融合」と「中国製造 2025」  中国の企業やファンドの対日投資が注目されている。その背景として、 中国の勢力圏構築構想である「一帯一路」と「中国製造 2025(メイド・イ ン・チャイナ2025)」戦略がある。  2015 年 5 月 8 日、中国国務院は、中国の製造強国戦略を実施するため の10 か年計画「中国製造 2025」を発表した17。この計画は、国務院の指 導のもと、工業情報化部が国家発展改革委員会、科技部、財政部等22 の 部門と共同で策定したものである。  「中国製造2025」を、ドイツが提唱する産業革新策「インダストリー 4.0」 やアメリカが提唱する「インダストリアル・インターネット」と並び紹介 する無責任な報道が少なくない。しかし、「中国製造2025」は、「中国版 インダストリー4.0」と呼べるものではない。  「中国製造2025」とは、中国が 3 ステップで「製造大国」から「製造強国」 への転換を目指す産業発展に関する指標である。3 ステップとは、2025 年 までの第1 段階で「製造強国」入りをし、2035 年までの第 2 段階で「製 造強国」の中等レベルに達し、2049 年の第 3 段階で「製造強国」のトップ・ クラスに躍り出る、という戦略目標である。中国の「中国製造2025」は、「イ ノベーション力」「デジタル化」「国産化」をキーワードにし、以下10 分 野の重点産業での発展を提起している。〈1〉次世代 IT、〈2〉産業用ロボット・ 次世代半導体、〈3〉航空・宇宙、〈4〉海洋エンジニアリング、〈5〉先進鉄 道装置、〈6〉省エネ・新エネルギー自動車、〈7〉電力装置・設備、〈8〉農 業機械・設備、〈9〉新材料、〈10〉バイオ医療・高性能医療機器である18。 17 国務院「国务院关于印发《中国制造 2025》的通知」2015 年 5 月 19 日 [http://www.miit.gov.cn/n973401/n1234620/n1234622/c4409653/content.html]。 「中国製造2025」についての詳細は、工業信息化部の website に特設サイト「中 国制造2025」[http://www.miit.gov.cn/n973401/n1234620/index.html]を参照されたい。 18 国務院「国務院関于印発《中国製造 2025》的通知」中華人民共和国中央人民 政府網、2015 年 5 月 8 日[http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-05/19/content_9784. htm]。

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三七  「中国製造2025」の戦略の中核は、国産化率の引き上げにおかれている。 「中国製造2025」が内包する課題は、社会主義国家における製造業のイノ ベーション意識の欠如とシステム開発の不足である。それを手っ取り早く 克服する方法として、近年、中国企業は先進諸国の先端技術企業のM&A (合併・買収)を積極的に行っている。中国は「10 大重点分野」において、 中国資本の割合を拡大させ、製品の国産化を進めようとしている。先進国 へのキャッチアップ・モデルからイノベーション・モデルへの転換におい て、日本をはじめとする先進的な技術やノウハウやリソースが不可欠と なっている。  ここで注視すべき点は、「中国製造2025」における軍民融合戦略と軍事 現代化への貢献である。  「軍民融合発展計画」は、2015 年 3 月 12 日、全人代会期中の「中国人 民解放軍代表団全体会議」における習近平の宣言によって、国家戦略に格 上げされた。同年12 月 31 日に、習近平は中央軍事委員会主席として大規 模な軍事改革を表明した。2017 年 1 月 22 日に開催された中共中央委員会 政治局会議は、習近平議長のもとで、習近平がトップを務める「中央軍民 融合発展委員会」19 の設立を決定した。同年8 月 1 日、中国人民解放軍建 軍90 周年記念活動における演説で、習近平は「軍民融合により、国防を 強化することができるとともに、軍事産業を通して経済発展を押し上げる」 と強調した20。同月23 日には、中国科学技術部(科技部)と軍事委員会所 属科学技術委員会(軍科技委)が共同で、「第13 次 5 カ年計画(十三五計画) 科技軍民融合発展特別プロジェクト計画」を発表した。科技軍民融合事業 は、国家イノベーション主導発展戦略、軍民融合発展戦略、改革による軍 強化戦略の合流点として、党中央の科技イノベーションに対する戦略的配 19 「中央軍民融合発展委員会」は中央レベルの「軍民融合発展の重大問題」に ついての政策決定、議事調整を行う機関として、「軍民融合」の発展を統一的に 指導し、中央政治局と中央政治局常務委員会に対して責任を負う。 20 「习近平:在庆祝中国人民解放军建军 90 周年大会上的讲话」中国共産党新聞、 2017 年 8 月 1 日[http://cpc.people.com.cn/n1/2017/0801/c64094-29442905.html]

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三六 置、国防・軍隊の現代化建設の水準を向上させる重大な措置、科技イノベー ションと社会経済発展を推進する強大なエンジンになると紹介された。同 計画は、第13 次 5 カ年計画期間に科技軍民融合事業の発展を進めるトッ プダウン設計と戦略配置であり、国家と軍隊の関連部門が科技軍民融合事 業を発展させる取り組みを指導し、関連政策を策定するための基本的な根 拠と方向性の指針である。また、2020 年までに軍民の科技協同イノベー ション体系をつくり、全要素・多分野に及ぶ高効率な軍民科技の深い融合 発展の枠組みを形成し、科技軍民融合システム・メカニズムのブレークス ルーや、科技軍民融合のけん引作用の大幅な向上、軍民科技基礎資源の双 方向の開放・共有、軍民科技成果の双方向の転化・運用による大きな成果 と効果、科技イノベーション人材メカニズムの整備、科技軍民融合試験モ デルの効果拡大、科技軍民融合政策・制度体系の整備などの発展目標の実 現を求めていることが表明された。  第13 次 5 カ年計画期間の科技軍民融合発展に関する 7 項目 16 件の重点 任務として、以下の点が取り決められている21。 (1) 科技軍民融合の統括:重点は、科技軍民融合システム・メカニズムを 整備し、ビジョンと計画を統括して連動させること。 (2) 軍民科技協同イノベーション能力の強化:主な重点は、基礎研究と最 先端技術研究を統括して配置し、科技軍民融合重点特別プロジェクト や、国家重大科技プロジェクトを実施すること。 (3) 科技イノベーション資源の統括と共有:主に、科学研究プラットフォー ムの共同建設・共同利用を強化し、科技基礎資源の軍民交換・共有を 進める。 (4) 軍民科技成果の双方向の転化の促進:重点は、軍民科技成果の相互転 化体系を構築し、知的財産権戦略の実施を進めること。 21 中華人民共和国国務院新聞弁公室「科技部《“ 十三五 ” 科技军民融合发展专 项规划》发布会」国務院新聞弁公室網、2017 年 8 月 24 日 [http://www.scio.gov.cn/xwfbh/gbwxwfbh/xwfbh/kjb/Document/1561810/1561810.htm]。

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三五 (5) 先行試験モデルを実施:重点は、軍民科技協同イノベーションプラッ トフォームの建設、軍民融合の新型科学研究機関の設立奨励、科技軍 民融合金融サービスモデルを探索する。 (6) イノベーショングループの建設の強化:主な重点は、軍民イノベー ション人材育成・雇用メカニズムを整備し、科技軍民融合新型シンク タンクをつくること。 (7) 政策・制度体系の整備:重点は、科技軍民融合制度の構築を強化し、 科技軍民融合政策の環境を整備すること。  先に挙げた国務院通知を読み込めば、「中国製造2025」が単なる「製造 強国」を目指すだけでなく、「宇宙強国」や「海洋強国」の軍備増強につ なげられていることが明白である。「中国製造2025」の国務院通知によれ ば、中国は、産業能力が低く中国製造業の革新発展と品質の向上を制約し て根本的問題となっている「4 つの基礎」=「核心となる基礎部品」「先 進的な基礎工程」「カギとなる基礎材料」「産業技術の基礎」のボトルネッ クを打破しようとしている。そこで、「4 つの基礎」の発展を統一的に推 進し、軍事・民間技術の資源を統一配置し、軍民両用技術の共同攻略を展 開し、軍事・民生技術の相互の有効利用を支援し、基礎分野における転用 を促進しようとしているのである。  航空関連設備については、大型航空機の研究開発を加速し、大型旅客機 の研究開発を適時に始動し、大型ヘリコプターの国際協力開発が奨励され ている。大型航空機、コミューター機、ヘリコプター、無人機、一般航空 機(General Aircraft)の産業化が推進されている。高推力重量比や先進ター ボプロペラエ ンジン、高バイパス比ターボファンエンジンなどの技術で のブレークスルーを実現し、エンジンの自主発展の可能な産業体系を構築 しようとしている。また、先進搭載設備・システムを開発し、自主的で整っ た航空産業チェー ンを形成しようとしている。  宇宙設備については、次世代キャリアロケット、超大型ロケットを発展 させ、宇宙への突入能力を高めようとしている。民間向けの宇宙開発用施

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三四 設の建設を加速し、新型衛星などの宇宙プラットフォーム、ペイロード(最 大積載量)及び宇宙・空中・地上ブロードバンドインターネット・システ ムを発展させ、安定した衛星リモートセンシング・通信・ナビゲーション など宇宙情報サービス能力を形成しようとしている。有人宇宙飛行や月面 探査プロジェクトを推進し、深宇宙の探査を適度に発展させようとしてい る。また、宇宙技術の転化と応用を推進しようとしている。  海洋建設機械・ハイテク船舶については、深海探査や資源の開発利用、 海上作業保障設備、そのカギとなるシステムや専用設備を大きく発展させ ようとしている。深海ステーションや大型浮遊式構造物の開発と工学的応 用を推進しようとしている。海洋建設機械の総合試験・検査測定・評価 能力を形成し、海洋の開発利用レベルを高め、豪華客船のデザイン・建造 技術のブレークスルーを実現し、液化天然ガスタンカーなどのハイテク船 舶の国際競争力を全面的に高め、重点設 備の統合・インテリジェント化・ モジュール化を可能とするデザインや製造のコア技術を掌握しようとして いる。 2.「海警」の「武警」への編入  19 回党大会で、習近平は、「総合的な国家安全保障観」の堅持を次の ように呼びかけた。「発展と安全を統一的に考慮し、憂患意識を強め、平 穏な時でも油断しないことは、党の治国理政の重要な原則である。あく までも国家の利益を第一に考え、人民の安全を趣旨とし、政治の安全を 根本とし、外部の安全保障と内部の安全保障、国土の安全と国民の安全、 伝統的安全保障と非伝統的安全保障、自国の安全保障と共通の安全保障 を統一的に考慮し、国家安全保障の制度体系を充実させ、国家安全保障 能力の整備を強化し、国家の主権・安全・発展の利益を断固守らなけれ ばならない」22。 22 前掲(注 9 と同じ)

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三三  そこで、2018 年 1 月 1 日、中国共産党は、中国海警局(海警)を武装警 察部隊(武警)に編入することを公表した。2018 年 7 月 1 日の新編成まで 尖閣周辺で活動する海警の船に日本は海上保安庁で対応してきた。しかし、 中央軍事委員会の指揮下にある武警への編入によって、海警が海軍と連携 し尖閣周辺での活動を強化することになった。  武警部隊は、内衛(省・自治区・直轄市総体と機動師団)と警種(交通部 隊と公安辺防=国境警備)、消防、警衛部隊から構成される。武警は、解 放軍の序列に入らず、根本的な職能と属性には変化はない。武警部隊の主 要任務は以下の3 点である23〈1〉国家の政治的安全保障と社会の安定の 擁護、〈2〉海上権益の擁護と法の執行、〈3〉防衛作戦。防衛作戦には 2 つ の主要任務がある。1 つは、「社会管理」である。もう 1 つは、「戦時下に おける、国の主権・安全および発展の利益を断固守るために、解放軍と民 兵とともに肩を並べての戦闘行為」である。  ここで注視するのが「国防動員法」の「第8 章国防動員及び戦争状態」 の44 ~ 49 条である。  第44 条 中華人民共和国の主権、統一、領土の完全性及び安全が脅威 を受けた場合には、国は、憲法及び法律の規定により、全国総動員又は部 分動員を行う。  第47 条 国務院及び中央軍事委員会は、動員準備及び動員実施業務を 共同して指導する。すべての国家機関、武装力、各政党、各社会団体、各 企業・事業体及び公民は、平時において、法律の規定により動員準備業務 を完遂しなければならない。国が動員令を公布した後は、所定の動員任務 を完遂しなければならない。 23 中華人民共和国国防部「国防部新闻发言人吴谦就武警部队旗寓意答问」国防 部網、2018 年 1 月 10 日[http://www.mod.gov.cn/info/2018-01/10/content_4802153. htm]。「国防部解答武警部队旗帜寓意 担负三类主要任务」鳳凰網、2018 年 1 月 11 日

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三二  第49 条 国は、憲法の規定により戦争状態を宣言し、各種の措置をとり、 人力、物資及び財力を集中させて、公民全体が祖国を防衛し、侵略に抵抗 するよう指導する。  2017 年に在留カード(中長期在留者交付カード)及び特別永住者証明書 に表記された195 の国籍・地域のうち、構成比 28.55 でダントツの 1 位は 中国人の730,890 人であった24。これは第2 位の韓国人が構成比 17.6%で 450,663 人、第 3 位のベトナム人が構成比 10.2%の 262,405 人、第 4 位のフィ リピン人の構成比10.2%の 260,553 万人に比べて顕著である。中国人の増 加は、2012 年の尖閣国有化以降、増加が著しい。2017 年の自衛隊員の現 員数が224,422 人(陸自 135,713 人、海自 42,136 人、空自 42,939 人、統合 幕僚監部等3,634 人)25 で、海上保安庁の定員は13,626 人26 であった。自 衛隊と海保を併せても24 万人以下なのである。

3 節 日中関係の方向性

1.中国へ「忖度」する日本のメディア  現在の日中関係の方向性を考察する際に重視すべき点の一つは、中国が 中国の内外政策のなかで日本を如何に位置づけているのかを慎重に分析す ることであろう。その慎重な検討によって、日中関係が改善へ向かってい るのか、向かっていないのかを客観的に判断できよう。そのような考察に [http://gd.ifeng.com/a/20180111/6295667_0.shtml]。 24 法務省「平成 29 年末現在における在留外国人数について(確定値)」2018 年 3 月 27 日[http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00073. html]。 25 防衛省・自衛隊「防衛省・自衛隊の人員構成」[http://www.mod.go.jp/j/profi le/ mod_sdf/kousei/]最終閲覧2018 年 6 月 6 日。 26 「海上保安庁の任務・体制」『海上保安庁レポート 2017』[http://www.kaiho. mlit.go.jp/info/books/report2017/html/ninmu/ninm17_01.html]最終閲覧 2018 年 6 月 6 日。

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三一 よって、中国側の対日姿勢が、「外交政策」なのか、それとも「外交戦術」 として展開されているものなのかを判断できよう。  2014 年 11 月 28 ~ 29 日、8 年ぶりに北京で開催された「中央外事工 作会議」27 において、習近平は習近平体制下の中国外交の方向性を示し た28。その会議で重要講話を行った習近平は、中国の外交活動の目標が、 「二つの百年」29 という奮闘目標と「中華民族の偉大なる復興」という「中 国の夢」を実現するために強力な保障を提供しなければならないことであ る、と強調した。2018 年 6 月現在に至るまでの一連の「習近平の重要講話」 を整理すると、2017 年の第 19 回党大会までに確立されたとされる中国外 交の成果として、「中国の気概」が挙げられる。「中国の気概」とは、中国 人民がかつての屈辱の歴史を忘れず、国の主権と民族の尊厳に対して強烈 な感情を抱き、中国の正当な権益を放棄することなく、国の核心的利益を 守ること30 である。この文脈から、中国外交における対日歴史認識が「戦 術」であることが読み取れる。  2014 年 2 月 27 日、第 12 期全国人民代表大会常務委員会第 7 回会議は、 1945 年に日本が降伏文書に調印した翌日となる 9 月 3 日を「抗日戦争勝 利記念日」として、また、日本軍が南京城市を陥落した12 月 13 日を南京 大虐殺犠牲者のための慰霊日として、それぞれを「国家哀悼日」と定めた。 南京事件の慰霊式典を地方の行事から国家の行事に「格上げ」した2014 年、 中共中央政治局常務委員・全人代常務委委員長の張徳江(当時の党内序列 3 位)が慰霊式典を主宰し、中共中央委員会、全人代常務委員会、国務院、 27 中央外事工作会議とは、中国共産党中央による重要会議の一つで、国際情勢 と中国を取り巻く外部環境の変化を総合的に分析し、新体制の指導部が新たな内 外情勢の下で対外活動を展開する指導思想、基本原則、戦略目標、主要任務を明 確にし、対外活動の新しい局面を切り拓くことを主な目的にしている。 28 「习近平出席中央外事工作会议并发表重要讲话」2014 年 11 月 29 日、新華網、 〈http://www.xinhuanet.com/politics/2014-11/29/c_1113457723.htm〉。 29 中共建党百周年の 2021 年と中華人民共和国建国百周年の 2049 年。 30 この点については、三船恵美『中国外交戦略』講談社メチエ、2016 年、第 一章で論じている。

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三〇 中国人民政治協商会議全国委員会、中央軍事委員会が南京事件の国家追悼 式を執り行った。習近平は、中国共産党中央総書記・国家主席・中央軍事 委員会主席の立場で式典に出席して演説した。  日本のメディアによる過剰すぎる対中配慮が目立つなか、2017 年の南 京事件の慰霊式典に参加した習近平が演説をしなかったことをめぐり、日 本のマスメディアは日本におけるジャーナリズムの有無を問いたくなるよ うな報道を展開した。主要紙とその見出しを以下の表に列挙した。主要紙 は、各紙一斉に、習近平が日本へ配慮をにじませて追悼式典で演説しなかっ たと喧伝した。 掲載紙・日付 見出し 『日本経済新聞』 2017 年 12 月 14 日 中国、日本へ配慮にじむ、「南京」追悼式典、 習氏は演説せず。 『朝日新聞』 2017 年 12 月 14 日 日中改善に習氏配慮か 南京事件演説なし 80 年式典、 『毎日新聞』 2017 年 12 月 14 日 中国:対日改善配慮 南京大虐殺習氏演説なし 80 年、 『東京新聞』 2017 年 12 月 14 日 習氏 対日改善配慮か 南京事件80 年式典で沈黙 『読売新聞』 2017 年 12 月 13 日夕刊 南京事件80 年 習氏演説せず 式典出席のみ  日中改善模索 影響か  これらの報道に違和感を覚えた読者は少なくなかったのではなかろうか。  地方の行事から国家の行事に「格上げ」された2014 年と異なり、2015 年の式典は江蘇省人民政府が主宰し、中国共産党中央政治局委員兼全人代 副委員長であった李建国が談話を発表したのにとどまった。2016 年の式 典では、前年と同レベルの共産党中央政治局員で党中央組織部長の趙楽際 が出席して演説した。2015 年も 2016 年も、いずれも中央政治局常務委員 の出席はなかった。しかし、2017 年には、習近平が演説しなかったもの の南京まで出向いて参加したのである。演説は、前年の中国共産党の「政 治局委員」から職位で「格上げ」した「元常務委員」で、翌年3 月まで現 役の人民政治協商会議全国委員会主席を務めた兪正声(19 回党大会までの

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二九 元党内序列4 位)であった。さらに、2017 年 12 月 13 日は、韓国の文在寅 大統領が「国賓」として訪中していたのにもかかわらず、「国賓の文在寅」 を北京に置き去りにして、習近平は南京へ向かったのである。しかも、韓 国側は当初12 月 13 ~ 17 日の訪中を希望していた。しかし、12 月 18 日 から中共中央と政府の経済関連の最高レベルの会議である「中共中央経済 工作会議」が開催されるため、韓国側は12 月 17 日の滞在を断念し、16 日までの訪中であった。国賓の文在寅を置き去りしてまで、習近平は南京 の式典へ出席したのであった。  それにもかかわらず、「日本へ配慮した」と言えるのであろうか。否で あろう。  日中関係の現状を分析するにあたっては、日本のメディアの報道におけ る中国に対する過剰なほどの忖度を差し引いて、慎重に検討する必要があ る。 2.「実質的な機能」が懸念される日中間の連絡メカニズム  日中関係は、経済領域については「雪解け」にあると報道されている31。 しかし、日中関係を悪化させてきた要因は、尖閣問題や歴史認識や台湾問 題をめぐる両国間の対立である。「軍事的に膨張している中国」32 の外交 において、東シナ海と日本海を中国が如何に戦略的に位置づけているのか を考えれば、日中関係が改善されているとは考えにくい。 31 「李克强访日、推动两国关系 “ 解冻 ”」環球網、2018 年 5 月 11 日 [http://world.huanqiu.com/exclusive/2018-05/12010246.html]。

32 AMTI(Asia Maritime Transparency Initiative)によれば、南シナ海のパラセル諸 島(中国名:西沙諸島)にあるウッディー(永興)島と思われる島にパラセル諸島 で最大の中国基地があり、爆撃機が着陸できる長さの滑走路が整備されている。 H6K 爆撃機からの攻撃は半径 3500km の範囲に到達できる。ウッディー島から双 発エンジン爆撃機を発進させたことは、南シナ海全域を戦闘飛行圏内に収めたこ とを意味している。ウッディー島のみならず、スプラトリー諸島(中国名・南沙 諸島)にあるミスチーフ礁、スビ礁、ファイアリークロス礁にも、ほぼ同様な滑 走路建設、衛星画像で示されている(AMTI の一連の分析は以下の website に示さ れている[https://amti.csis.org/])。

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二八  日本政府が2017 年 6 月に「一帯一路」に協力姿勢を示して以来、日本 における報道では、日中関係の「改善の兆し」「改善の勢い」といった言 葉が踊ってきた。5 月 9 日には、安倍晋三総理が来日中の李克強・中国国 務院総理と首脳会談を行い、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムが妥 結したことを歓迎した33。第1 回共同作業グループ協議が 2008 年 4 月に 北京開催されてきてから、10 年にも及ぶ協議を経ての合意であった。同 協議は、2007 年 4 月の当時の温家宝総理来日の折、安倍総理との会談 において「戦略的互恵関係」の構築のための具体的な協力を行うことが 決定され、防衛交流として、防衛当局間の連絡メカニズムを整備し、海 上における不測の事態の発生を防止することが盛り込まれたことに始 まる。2010 年 7 月に第 2 回協議(東京)、2012 年 6 月に第 3 回協議(北 京)、2015 年 1 月に第 4 回協議(東京)、2015 年 6 月に第 5 回協議(北京)、 2016 年 11 月に第 6 回協議(東京)、2018 年 4 月に第 7 回協議(北京)が開 催されてきた。しかし、この間、2010 年 9 月の尖閣周辺の領海に侵入し た中国船による日本の海上保安庁巡視船に対する衝突事件や、2012 年秋 の尖閣国有化に対する中国各地での大規模な反日デモ、2013 年 1 月の中 国艦艇による海自護衛艦に対する火器管制レーダー照射事件、同年11 月 の中国による「東シナ海防空識別区」の設定など、日中間の緊張は高ま る一方であった。  漸く2018 年に合意された日中海空連絡メカニズムの内容は、〈1〉自衛 隊と中国軍が接近した場合の直接通信のルール確立、〈2〉日中防衛当局 間のホットライン設置(設置時期は未定)、〈3〉局長級・課長級の年 1 回 の会合を交互に主催、の3 つが柱となっている。同メカニズムは、艦船 や航空機の直接通信において「海上衝突回避規範」(Cocde for Unplanned Encounters at Sea:CUES)や国際民間航空条約などに基づき、特定の周波 33 「李克強・中国国務院総理の訪日 日中首脳会談及び晩餐会」日本国外務省 [https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page1_000526.html] 最 終 閲 覧 2018 年 5

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二七 数や信号・略語を使う。CUES は、2014 年 4 月に中国を含めた 21 カ国の 海軍高官が参加して中国山東省青島で開催された西太平洋海軍シンポジウ ムにおいて、海上で他国の艦船と予期せず遭遇した場合の行動規範を定め た合意である。海上での偶発的な衝突を防ぐことを目的に、無線で行動目 的を伝え、火器管制レーダーを他国艦船に一方的に照射しないことなどを 決めたルールである。ただし、CUES は法的拘束力がない合意である。ま た、これまでCUES を遵守してこなかった中国が果たして CUES を一転 して遵守するようになると楽観的すぎるほどの見方をする日本人は果たし ているのであろうか。  漸く両国が日中海空連絡メカニズムについて覚え書きを交わしたとは言 え、当局間のホットラインの詳細が「中国側の技術的な理由」によって運 営開始までに決まってさえいなかった。ホットラインが必要な危急の事態 が起こる時、日本側は陸海空自衛隊を一元的に担う統合幕僚監部にホット ラインを設置することになるが、設置機関さえ決めていない中国側は、ホッ トラインを元々機能させるつもりではないという前提ではなかろうか。中 国には、政治的な脅しや報復のためにホットラインを無視してきた「前歴」 がある。2015 年 12 月 31 日に、韓国の韓民求(ハン・ミング)国防長官は 中国の常万全国防部長と、「韓中国防長官間のホットライン」を開通させた。 しかし、それから一週間も経たない1 月 6 日に北朝鮮が水爆実験を行った ものの、韓国側が受話器を上げても中国側から回答がないので不通が続き、 韓中国防相間のホットラインが途絶えたままであったことが、韓国側で報 道されている34。「中韓国防当局間の相互信頼と協力で実現した意味ある 成果」と韓民求は自賛していたものの、1 月 11 日に常万全が「ホットラ インは記念碑的なもの」と語っていた。  日本と中国がメカニズムの構築に妥結/合意したとはいえ、連絡メカニ 34 「冷たく途切れている韓中ホットライン」『中央日報(日本語版)』2016 年 1 月12 日掲載 [http://japanese.joins.com/article/670/210670.html?servcode=100&sectcode =120] 最終閲覧 2018 年 5 月 30 日。

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二六 ズムが機能する保障はないのである。中国側の国防部は、部隊運用を担っ ておらず、緊急時に衝突を回避する政府間メカニズムが果たして機能する のかが疑問視されている。  防衛当局間のメカニズムのみならず、日中間には、日中両国の海洋問題 全般に関する定期的な協議メカニズムとして、「日中高級事務レベル海洋 協議」がある。日中高級事務レベル海洋協議は、2011 年の野田佳彦総理 の訪中時に、温家宝総理との会談で設置に日中両政府が合意したメカニズ ムである。初会合は2012 年 5 月 16 日に中国浙江省杭州市で開かれ、日 本側からは外務省、内閣官房(総合海洋政策本部)、文部科学省、水産庁、 資源エネルギー庁、国土交通省、海上保安庁、環境省、防衛省の各担当者 が参加した。中国側からは外交部、国防部、公安部、交通運輸部、農業 部35、国家能源局、国家海洋局36、総参謀部が出席した。2018 年 4 月 19 ~20 日に第 9 回同会議が開催され、日本側からは外務省のほか、内閣府 (総合海洋政策推進事務局)、水産庁、資源エネルギー庁、国土交通省、海 上保安庁、環境省、文部科学省及び防衛省が参加した。また、中国側から は外交部のほか中央外事工作委員会弁公室、国防部、公安部、自然資源 部37、生態環境部38、交通運輸部39、農業農村部40、中国海警局、中国地 質調査局等が参加した。日中両国は、全体会議のほか、〈1〉海洋政策及び 海洋法、〈2〉海上防衛、〈3〉海上法執行及び海上安全、及び〈4〉海洋経 済の4 つのワーキンググループに分かれて会議を行い、東シナ海に関する 35 2018 年の国務院機構改革で、農業部は廃止され、農業農村部が新設された。 党と国家の機構改革については、「中共中央印发《深化党和国家机构改革方案》」 中国共产党新闻网、2018 年 03 月 22 日[http://dangjian.people.com.cn/n1/2018/0322/ c117092-29882009.html]による。 36 2018 年の国務院機構改革で、国土資源部の廃止に伴い「国家海洋局」は廃 止され、「自然資源部」が新設された。対外的には「国家海洋局」の看板は保留。 37 2018 年の国務院機構改革で新設。自然資源部が、測量・地図作成を担当する。 38 2018 年の国務院機構改革で、国家海洋局の海洋環境保護の職責を統合した。 39 2018 年の国務院機構改革で、農業部の漁船捜査、監督・管理の職責を統合 した。 40 2018 年の国務院機構改革で、国土資源部の職責を統合した。

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二五 様々な問題について意見交換を行い、海洋分野における協力の在り方につ いて議論した。  同会議の直前の4 月 17 日、中国外交部の華春瑩報道官が定例記者会見 で、「高級事務レベル海洋協議は海洋関連の総合的な意思疎通・調整制度 である。中国側は今回の協議で日本側と関心を共有する海洋関連の問題に ついて十分に意見交換し、相互理解と相互信頼を増進することを期待する」 と述べていた41。  しかし、その前後における中国海空軍の日本周辺における動向を表2 で 確認すると、相互理解と相互信頼を築けない環境にしているのは中国側で あることが明白である。  中共機関紙『人民日報』は、2018 年 2 月、元軍事科学院副院長であっ た劉継賢の論文を掲載し、強大な海上戦力を築くことが「強国の夢」を実 現する重要な保障となり、グローバルな海洋ガヴァナンスに参加する基礎 となるため、国際的地位や総合国力に見合った海上戦力を作り、国際社会 に海洋安全保障における公共財を提供する必要があると説き、「軍民融合」 の発展を推進し「海洋富国」と「海洋強軍」の統一の実現を主張した42。 このような海洋戦力を作るうえで、中国が尖閣を如何に位置づけているの かを考えねばなるまい。  尖閣諸島は石垣島の北約170km、沖縄本島の西約 410km に位置してい る43。中国は、尖閣諸島から約380km、台北まで 250km に位置する福建 省霞浦県の水門空軍基地の機能を大幅に拡充させている。水門空軍基地は、 2009 年に建設が始まり、2013 年に運用が開始された。2018 年 5 月に米軍 41 「2018 年 4 月 17 日外交部发言人华春莹主持例行记者会」中華人民共和国外 交 部、2018 年 4 月 17 日[http://www.fmprc.gov.cn/web/fyrbt_673021/jzhsl_673025/ t1551717.shtml]。 42 刘继贤「为实现强海梦、强国梦提供重要保障:大力推进新时代海上力量建设(势 所 必 然 )」『 人 民 日 报 』2018 年 2 月 11 日第 5 版[http://paper.people.com.cn/rmrb/ html/2018-02/11/nw.D110000renmrb_20180211_4-05.htm]。 43 「日本の領土をめぐる情勢」外務省、2015 年 3 月 6 日、[https://www.mofa. go.jp/mofaj/a_o/c_m1/senkaku/page1w_000015.html]

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二四 表 2 統幕が公表した最近(2017 年 12 月∼ 2018 年 6 月前半)の 中国軍の日本周辺における主な動向 日付 中国軍の機種など 行動概要 12 月 5 日(火) 午前2 時頃、海自第 15 護衛隊(大湊)所属「おおよど」及び第 1 航空群(鹿屋) 所属「P-3C」が口永良部島の西約 100km の海域を東進する中国海軍ジャンカイ Ⅱ級フリゲート2 隻及びフチ級補給艦 1 隻を確認。同艦艇は隅海峡を東航し、 太平洋に進出。 12 月 7 日(木)Y-8 早期警戒機 1 機 H-6 爆撃機 4 機 13 時頃、海自第 5 航空群所属「P-3C」(那覇)が宮 古島の東約110km の海域を北西進する中国海軍ジャ ンカイⅡ級フリゲート1 隻を確認。同艇が、沖縄本 島と宮古島の間の海域を通過し、東シナ海に向けて 北西進。 12 月 9 日(土)H-6 爆撃機 4 機 Y-8 電子戦機 1 機 東シナ海から太平洋へ飛行し、折り返して宮古海峡 を通過して中国本土へ帰還。 12 月 11 日(月) H-6 爆撃機 2 機 Y-8 電子戦機 1 機 TU-154 情報収集機 1 機 戦闘機(推定) 2 機 戦闘機が宮古海峡を通過後に反転して上海方面へ帰 還。H-6、Y-8、TU-154 は東シナ海から太平洋に抜け、 バシー海峡方面へ飛行。 12 月 17 日(日)Y-8 情報収集機 1 機 Y-8 電子戦機 2 機 南シナ海からバシー海峡を経由して宮古海峡を通 過、東シナ海へ飛行。 12 月 18 日(月) H-6 爆撃機 2 機 SU-30 戦闘機 2 機 TU-154 情報収集機 1 機 Y-8 電子戦機 1 機 ※戦闘機による日本海進出は初確認 巡航ミサイルを装備した最新型のH-6K 爆撃機 2 機 が、護衛戦闘機Su-30 2 機と共に日本の防空識別圏 (ADIZ)を侵犯、対馬海峡上空を通過、日本海に入 り演習。航自のF-15J が緊急発進して領空侵犯を防 いだ。中国軍機は同時に韓国の防空識別圏も侵犯。 韓国軍も緊急発信。 12 月 20 日(水)Y-8 電子戦機 2 機 TU-154 情報収集機 1 機 Tu-154 が宮古海峡を往復飛行、Y-8 の 1 機がバシー 海峡方面から飛来、宮古海峡を北上し、西方の尖閣 諸島沖へ飛行、もう1 機の Y-8 が九州西方沖を往復 飛行。 2018 年 1 月 10 ~ 11 日 午前から午後にかけて、尖閣諸島周辺の日本の接続水域内に中国海軍艦艇が入域 自衛隊の護衛艦「おおなみ」と哨戒機P3C が 10 日午後、宮古島の東北東側の 接続水域内を北西方向へ潜行する中国籍とみられる潜水艦を確認。中国海軍の ジャンカイII 級フリゲート艦が潜水艦の移動ルートと並び航行するのが確認さ れ、潜水艦と中国海軍フリゲート艦は11 日午前に接続水域を一旦出たものの、 尖閣諸島の大正島北東で接続水域に再入。尖閣接続水域で潜行した外国潜水艦 が確認、公表されるのは初めて。領海への侵入や海上警備行動の発令はなかっ た。2 隻は同日午後、ほぼ同時に接続水域を出た。 1 月 29 日(月) Y9 情報収集機 1 機 Y9 情報収集機 1 機が 29 日午前から午後にかけ、東 シナ海から対馬海峡を通過し日本海まで往復飛行。 中国軍機が同コースで日本海に進出したのは、前年 12 月 18 日以来。←自衛隊は、戦闘機を緊急発進さ せる等の対応。 (1/3)

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二三 事誌のDefense News が衛星写真を解析し、中国の戦闘機J-11 や J-16 を収 容可能な迷彩が施された耐爆格納庫24 棟や誘導路が完成間近であると公 表した。Defense Newsは、中国空軍が水門基地を「日本や台湾をにらん だ最前線」と位置づけていると指摘し、格納庫の増設などから検討すると 中国軍が水門基地を単なる前線拠点としてではなく、「航空連隊もしくは 旅団規模の部隊を常駐させた本格的な作戦基地」として運用しようとして いると指摘した。水門基地に配備されたJ-11 戦闘機などは、既に宮古海 峡の上空を通過して西太平洋に向かう中国空軍の爆撃機や情報収集機に随 伴するなどの活動を行っている44。  2018 年 1 月 10 日、北京中心部にある、中央軍事委員会と国防部が入っ ている通称「八一大楼」で、武装警察部隊が中央軍事委員会の下に置かれ ることを宣言する儀式「部隊旗授与式」が行われ、習近平が中国共産党 総書記・国家主席・中央軍事委員会主席として出席した45。それを前後し て、表2 で示しているように、尖閣接続水域において中国軍潜水艦による 日本の接続水域侵入事件が起きたのである。1 月 11 日には、攻撃型原潜 が尖閣諸島の接続水域に入り、その後に公海上で浮上した上で中国の国旗 を掲げた。これに対して、「そうりゅう」と中国側が認識した海上自衛隊 の潜水艦が、中国原潜による日本領海侵犯を阻止したのである。中国外交 部の陸慷報道局長(外交部公共外交弁公室主任)は、同11 日の定例記者会 見で、中国海軍の艦艇が尖閣諸島の接続水域へ侵入したことについて、「中 国自らの領土近くの海域で行う行動を非難されるいわれはない」と主張し た46。また、中国国防部も、同日、接続水域に海上自衛隊の艦艇2 隻が進 44 Mike Yeo, "Why is China expanding its air base 160 miles from Taiwan ?" Defense News, May 14, 2018 [https://www.defensenews.com/global/asia-pacific/2018/05/14/why-is-china-expanding-its-airbase-160-miles-from-taiwan/] 45 「中央军委向武警部队授旗仪式在北京举行:习近平向武警部队授旗并致训 词 」 新 華 網、2018 年 1 月 11 日[http://www.xinhuanet.com/mrdx/2018-01/11/ c_136886660.htm]最終閲覧 2018 年 1 月 11 日。 46 「2018 年 1 月 11 日外交部发言人陆慷主持例行记者会」中国外交部官網、

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二二 日付 中国軍の機種など 行動概要 1 月 28 日(日) ~29 日(月) 海自第1 航空群所属「P3C」(鹿屋)及び第13 護衛隊所属「じんつう」(佐世保)が、 下対馬の西南西約 65km の海域を北東進する中国海軍ジャンカイⅡ級フリゲー ト1 隻を 28 日 20 時半頃に確認。翌 29 日に当該艦艇は対馬海峡を北上、一時 的に日本海に進出。同日中に対馬海峡を南下し、東シナ海に向けて航行したこ とを海自が確認。 2 月 26 日(月) 10 時頃、海自第 4 航空群所属「P1」(厚木)及び第43 掃海隊所属「うくしま」(下関) が、下対馬の西南西約70km の海域を北東進するジャンカイⅡ級フリゲート 1 隻を確認。同艇は対馬海峡を北上し日本海に進出し、28 日に対馬海峡を南下。 2 月 27 日(火) Y9 情報収集機 1 機 東シナ海から対馬と韓国の間を抜けて日本海に入っ た後、反転して同じルートを引き返す往復飛行。 3 月 23 日(金) H6 爆撃機 4 機 TU154 情報収集機 1 機 Y8 電子戦機 1 機 戦闘機(推定) 2 機 午前から午後にかけ、東シナ海方面から宮古海峡上 空を中国軍機が通過(同ルートで中国軍機の飛行が 確認されたのは前年12 月 20 日以来)。太平洋に出 た後に反転し中国へ向かった。同時刻、中国戦闘機 と推定される2 機も東シナ海方面から沖縄本島と宮 古島付近まで飛行。 4 月 5 日(木) 5 日午前 8 時頃、海自第 13 護衛隊所属「じんつう」が、宮古島の北北東約 130km の海域を南東進する中国海軍ジャンカイⅡ級フリゲート 2 隻及びフチ級 補給艦1 隻を確認。その後、当該艦艇が宮古海峡を通過し、太平洋に向けての 南東進。 4 月 18 日(水) H6 爆撃機 2 機 東シナ海から宮古海峡を通過して太平洋に抜けた。 4 月 19 日(木) H6 爆撃機 2 機 Y8 電子戦機 1 機 TU154 情報収集機 1 機 戦闘機(推定) 2 機 6 機は同日昼ごろ、前日と同じルートで飛行。 4 月 20 日(金) H6 爆撃機 2 機 前日と同じルートで飛行。 4 月 20 日(金) 午前10 時半頃、海自第 13 護衛隊所属「さわぎり」、第 5 護衛隊所属「あきづき」 及び第5 航空群所属 P3C が、与那国島の南約 350km の海域を東進する中国海 軍クズネツォフ級空母「遼寧」1 隻、ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦 1 隻、ルー ヤンⅡ級ミサイル駆逐艦3 隻、ジャンカイⅡ級フリゲート 2 隻を確認。また、 同日午前11 時頃、同海域でクズネツォフ級空母「遼寧」から複数の 艦載戦闘 機(推定)が飛行するのを確認。  日本の防衛省が、太平洋上においてクズネツォフ級空母「遼寧」から艦載戦 闘機(推定)の飛行を防衛省として確認した初のケース。 4 月 21 日(土) 午前7 時頃、海自第 13 護衛隊所属「さわぎり」、第 15 護衛隊所属「はまぎり」 (大湊)及び第5 航空群所属「P3C」が、宮古島の東約 120km の海域を太平洋か ら東シナ海 に向けて北西進する中国海軍クズネツォフ級空母「遼寧」1 隻、ルー ヤンⅢ級 ミサイル駆逐艦1 隻、ルーヤンⅡ級ミサイル駆逐艦 3 隻及びジャンカ イⅡ級フ リゲート2 隻を確認。当該艦艇は沖縄本島と宮古島の間の海域を通過 し、東シナ海に向けて北西進(当該艦艇は、前日に与那国島南方で確認された ものと同一)。 表 2 (2/3)

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二一 入し、中国海軍のミサイル護衛艦「益陽」が追尾・監視したと談話を発表 した47。これらの中国側の一連の動きは、中共中央の統一的管理がいっそ う強化されている最中であることを考えれば、中共中央の指示に基づいて いないはずがない。  中国側は尖閣強奪への「突破口」を開こうと、攻勢を強めていると言え よう。

おわりに

 以上、本稿は、2 期目に入った習近平体制の中国外交の方向性とそこに おける対日路線について検討してきた。19 回党大会以降の動向から検討 すると、習近平への権力集中が強化されながらも習近平の権威は盤石とは 言い切れず、脆弱性を抱えるがゆえの集権を制度化させていると言える。 すなわち、習近平政権の基盤の脆弱性は、権力集中を強化している習近平 が「外敵」との軋轢によって政権の求心力を高めようとする誘惑に駆られ やすいものとなる。したがって、硬軟両様の可能性が短期的にとられて いても、中期的には良好な日中関係は難しくなる。日中関係改善というパ フォーマンスは、中国にとって「外交の目的」ではなく「外交の戦術」と なっている。富国強軍を目指す中国の「軍民両用」と公安・軍機構改革、 そして中国の対日歴史認識外交と日中連絡メカニズムについて検討するこ とで、現在の関係改善が外交政策ではなく外交戦術であることが明らかで あった。以上の考察から、習近平体制2 期目における中国外交の方向性と そこにおける日本の位置づけが、日本にとって依然厳しいものであるとの 2018 年 1 月 11 日[http://www.diaoyudao.org.cn/2018-01/31/content_50364258.htm] 最終閲覧2018 年 1 月 11 日。 47 「国防部新闻局就日方炒作中国海军舰艇进入钓鱼岛毗连区问题答记者问」新 華網、2018 年 1 月 11 日、[http://www.xinhuanet.com/world/2018-01/11/c_1122246477. htmm]最終閲覧2018 年 1 月 11 日。ただし、中国の潜水艦が含まれていたこと は含まれてなかった。

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