近未来におけるJSPENの役割-栄養療法における課題と責務-
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(2) の端々にまで及んだ益・不利益に関する情報の伝搬と浸透に. 模”の大地震あるいは自然災害によって、臨床栄養管理はお. より多くの人が自国の置かれた課題に気づくに至ったことが挙. ろか、日常食生活自体も困窮状態に陥りかねない。近年にお. げられる。グローバリゼーションから生じた国家リスクに由来す. いて経験した危機を参考に表1に示したような行政省・府間の. る政治戦略的な国際的圧力戦略の横行が増幅している。二. 役割分担はあるが、備蓄については地方公共団体に一任し. 国間同士での解決は困難ゆえに、安易に各国が個別に利益. ているのが実情で、それも自治体と企業の間で交わす“締結”. を守るあるいは得るべく、 「自国ファースト」 と言い出し“民”の意. の中の文書に収められているにすぎない。究極時における臨. 識がわがままになりかねない。権益を守ろうと質の良くない凌ぎ. 床病態栄養に対応可能な環境を担保するためには、学会とし. 合いが繰り返され、その結果、国際政治状況の不安定、政. て疾病別・病態別栄養を支える美味な機能性食品の開発や. 治・経済分野への不適切な国家介入、個人・国家の益のた. その備蓄必要依頼をせねばならない。それを行政が後押しせ. めの圧政・虐待、そして冷戦とも評される経済戦争、ナショナ. ずして、実施などあり得ない。その第一歩は学会の姿勢であ. リズムの台頭、倫理的相互理解の無視姿勢などが将来予知. る。このことを念頭においた栄養学的、社会的研究が要求さ. の困難な状況を生んでいる。日本もまさに今、国家間の大きな. れよう。しかし、 そのような研究をまだ見ていない。学会は危機. 軋轢の只中にある。本邦の昨今は、大地震、大型台風等によ. に対し、学術的に貢献していなかったとの誹りを受けかねない. る自然災害が多発し、今後は想定外として見過ごすことはで. と感ずるべきである。. きない。このような国際情勢の中で、生命活動の基本である. さて、過密な業務スケジュール (週80時間以上勤務)条件. 食糧の供給の将来に不安定要素は大きい。学会、研究者に. 下にある医療者に医療でのマンネリ化回避を要求することは. は不安定時代を見据えて、臨床栄養学の課題に絞った解決. 酷なのかもしれない。しかし、資源のない日本がたゆまぬ新規. 策の対応と革新的な研究にて企業とともに行政に政策提言を. 展開、確かな前向き姿勢を継続させずに生き残れる国家とは. 望みたい。危機時に向けた栄養学視点からの提言は学会で. 思えない。Respectされる国家足らんとするには、医療におい. なくして他にできる組織はない。 自然食材に限った国内供給の. ては、その内容の一つ一つに患者のプラス因子とマイナス因. ための田・畑地等の確保と関連産業就業人口の確保を担保. 子を探索・分析する必要がある。常に全量摂取が可能な栄. する体制と世論作りは必須である。現況の国際間協定の下. 養剤の容量・形状・美味度の研究は重要で、飲みやすい、味. での国内一次産業には早急な政策転換も必要と考える。もし. わいやすい、時に爽やか等のことが重要である。高齢者も若. 一旦、国際間紛争に日本が直接巻き込まれたならば食料とエ. 者もそしてできれば幼小児にも適用できる内容が望ましい。栄. ネルギーについては、早々に兵糧攻めに遭うことになろう。国. 養系学会は、救急医学関連学会との共同研究が必要であろ. 家存亡の危機に陥りかねない。また、紛争とは別に“想定外規. う。すでに研究報告された危機管理研究結果を国民に示し、 危機時における考え方への理解を促す政策も必要である。国. 表 1 大規模災害時における食品、医薬品調達に関する考え方. *内閣府 医薬品に関する記載有り。一方、食品に関する直 接的記載無し。 *農林水産省 ①地方公共団体による備蓄:発災後3日迄を確保 ②国は、被災地に緊急輸送 (プッシュ型支援) :同4 ~7日 ③被 災府県は物資の必要把握量に応じて国に要請 (プル型支援) :同7日以降 *厚生労働省 医薬品に関する詳細記載、及び食品衛生に関す る記載有り。 *地方公共団体 「都道府県」 「 、政令指定都市」による { 災害時支援 協定の締結による備蓄体制 }. (298). 民の理解と協力を日頃から得ておく必要があろう。臨床栄養 管理学領域に、そのような牽引の出来る人材の輩出を望むと ころである。 リーダーは小異を捨て大同に立ち命をかけてその 世論作りと予防策に力を注いで頂かなくてはならない。そのよ うな人材の登場によって、国民は例え危機発生時に向き合う ことになっても安定社会への早期復興に意欲を沸かせ、国民 は協調性・規律性を担保しつつ努力行動をとる中で希望を抱 くことになろう。. 社会的弱者のための臨床栄養 廉価、美味で、安全なスーパー的存在となる素材の開発は、 危機時対応でなくとも、安定、安心、信頼を確保することに繋 がる。専門領域の異なる賢明な研究者たちが相互に協調し 合うならば必ずや完成の日の目を見ることになるだろう。これま では残念ながら、本邦の基礎研究、臨床栄養研究の知見が 新たな産業にまで広く医療分野につながった歴史的事実はな い。複雑な病態にある入所施設(精神疾患、中程度以上の 重症度にある慢性病態としての神経内科的疾患、重症併存 症を有する入居施設) では臨床栄養に特化した人材の十分. 近未来における JSPENの役割-栄養療法における課題と責務-.
(3) な雇用は難しいであろう。また、たとえ確固たる理念と知識を. の栄養管理実態内容のデータベース、栄養管理実績の自己. 有する医療施設管理者が牽引したとしても、その努力の中断. 評価・外部評価体制の確立等を未来に向けて構築させたい。. を余儀なくされることは予測される。その課題解決には、学会 等からの関連データベースの提供と提言が必須である。一方、 高度急性期医療を担う施設にあっては、医療収入の確保と 医療成績の向上が図られ、施設間格差の拡大は一層進むこ. 医療を支援する科学と それらを利活用する人の心の未来. とが予測される。慢性期・回復期(地域包括ケア)病床、高齢. 1)医療を支援する科学への期待. 者施設、在宅(在宅訪問医療または看護ステーション下) など. 医療を支援する科学に関して述べる前に、それを利活用・. ではマンパワーが相対的に不足気味である。サルコペニア1)、. 応用する人の知性とhumanityの重要性を断っておきたい。. フレイル病態にある患者と常に対峙する施設である。早期回. 栄養への科学を導入した試みは、情報通信技術(infor-. 復診療体制を一定程度担保している急性期病床医療機関. mation and communication technology;ICT) による管理. を離れた後に短期間内に摂食、嚥下の低下・不良を来し、リ. が多い3)。また、AIを基盤に置いた提案が続く。例えば、運. ハビリテーション栄養の不十分さから、日常の負荷、運動に対. 動療法に関する理学療法支援装置、作業療法支援装置、運. 応できぬフレイル、サルコペニアを数多く発生し、真の意味で. 動療法後の評価装置、生体機能支援装置(人工臓器等)等. の診療の完遂をできていない事実はあろう。転倒防止策として. の開発提案は目覚しく、最近10年間で同一機種について新. 「常時ベッド上での安静」による安全性確保も医原性サルコ. たなstep-upの提案がなされている機器もみられる。栄養療法. ペニアの主要因である。同様に、 誤嚥性肺炎発症時の対応を. 分野においては、その業務に関する市場要求としてAI利用. 挙げられる。 「まずは絶食」 という対応は予後の悪化に繋がり、. の高まりが必ずしも感じられない。AIをどう利用できるかの論. 誤った認識による医療判断である。まずは、“詳細な全身状態. 議の機会の少ない分野ということだろうか。栄養サポートチー. の把握”と“今の活動状況の評価”を正確に行い、 「サルコペニ. ム (nutrition support team;以下、NSTと略)活動業務に. アの診療ガイドライン」の内容を実践できるスタッフによる診療. おいてはAIに依存しうる内容が十分にある。面倒な病態の栄. を願う。推奨医療行為への努力を傾けない医療の実行は「姥. 養管理ほど、AIの有用性があると考えたい。病態を詳細に分. 捨山」 を地で行くような施設環境と言わざるを得ない。しかし、. 析し、その結果を各種の医療職にデータと分析結果を提示し、. 多要因による難しさも理解できる。新たに疾病発症などが加わ. 患者の病態、治療内容の提示、例えば補液製剤の適切性・. るとその多くはサルコペニア、フレイルへの誘導機会となり、回. 投与量・投与時期の推奨、各食事時の経口量に適合させた. 復させられずに徐々に悪化していく状況も少なくない2)。危機. 適切補助栄養剤の選択と投与量の確定等は適切に容易に. 時にはそれ自体の環境に関連した病態を発生させかねない。. 示されるはずである。更に、栄養療法内容の適切性、評価に. これらに関連したメガデータは存在しないことから、提言可能. 関しprospectiveな観察ができ、その上での安全で個別の治. な組織は学会に限られる。学会の役割としてデータベースを. 療選択の決定と治療者判断の外部評価が可能となる。その. 構築する責任があろう。. 意味では、robotic process automation(以下、RPAと略) と. 先にも触れたように本邦では、2025年から2040年の問題と. いう今盛んにはやり始めているコンピューターシステムの導入. して高齢者数の占める人口割合がこれまでの世界史上に見. を他領域に見ることができる。医療の現場にいかなるものかを. られぬ状況を迎える。ぜひ、賢明で人間性にあふれる日本の. 検討してみる価値はありそうだが。表2に考えうる長所・短所を. 姿勢を背景に成果を世界に示していきたいものである。今後. 羅列した。臨床栄養とは別の話にもなるが、 RPAはあらゆる職. は、幼少時教育から栄養療法と運動療法の重要性を体得さ. 種の医療業務につながる業務上の各種書類の記載、評価・. せ、さらに健康時の運動を推奨・担保する社会環境の実現が. 検証記録記載、他診療科の診療内容の把握、患者個人の病. 重要となろう。運動することに親和性のない人に運動を強制し. 態に対し疑問・問い合わせに即時回答など、ソフトウエア機能. ても円滑な実施は難しい。栄養療法と運動療法が身につく教. をはるかに超えた条件設定により簡便性をもって正確な文書. 育、社会状況が大切である。また、多くの企業努力には期待. 化が可能となりうる。これらについてはすでに数多くの提案が. は大きいが、まれに自粛あるいは活動停止を願いたい誤った. あり、本邦でも日本医療研究開発機構(Japan Agency for. 医療まがいの宣伝もある。企業活動評価に関する法制化ある. Medical Research and Development;AMED) などの支. いは科学的根拠に基づいた学術団体による評価が必要な時. 援を受けて大学・研究機関と企業の共同研究が進行中のも. 期を迎えているのかもしれない。危機時にこそ怪しげな商業. のも多い。もちろん、国内大企業にあっては大きな開発力、財. 行為が横行せぬように整えておきたいものである。国家的に. 務力をもとに非公開にしつつ斬新な展開内容のソフトが少なく. 栄養管理理念の国民的合意と栄養資材備蓄体制・地域連. とも存在していることの想像には難くない。. 携体制の確立が重要である。新たな医療用食品開発、医療 者・医療施設運営者による人間性教育への貢献、医療施設. 日本静脈経腸栄養学会雑誌 Vol.34 No.5 2019 (299).
(4) 表 2 臨床現場における Robotic Process Automation(RPA)のメリットとデメリット ―臨床栄養学の管理・栄養評価・治療に有用かー. メリット. デメリット. ヒューマンエラーの防止. 業務の停止のリスク. 人件費の削減が可能. 情報の漏洩危険率. 24 時間稼働業務が進行. 業務のブラックボックス化. 単純作業負担の削減. (RPA 任せで間違いに気付かない常態化). 高い付加価値業務に集中可能. (考える医療職者の減少から医療の質低下). 課題 *臨床現場での患者―医療者関係にどのような善し悪しの影響が生じうるのか *働き方改革等の対応が可能なのか、管理者・上司負担増が生じないのか * IT に詳しい医療職が RPA のコントロールを職務にある続けることができるか. 2)科学を活用する人の心の重要性. か、 国家として考えなければならない。さらに、 感動と知識の伝. すでに前出の1) において前提として触れさせて頂いた内. 達における日本の漫画力を肯定し、その国際的地位の確立を. 容である。くどくならぬよう簡単に触れたい。医療現場で重要. 推し進めようと考える政府は、生活上の価値観にどう活用しよ. な姿勢といえば何といっても、優しさ、賢明で機微に富む判断、. うとしているのだろうか。小学生教育カリキュラムに「道徳」が. 丁寧な対応、先見性ある賢明な発言・行為、そしてリスクマネ. 導入されて以来、一定の時が経過した。. ジメント能力として表現される用語が代表的で文部科学省に. 文部科学省は医療人に臨む人間像を新たに提言し、カリ. よる“期待される医療人像”に列挙されている (表3)。電子カル. キュラムに反映させるべく、考慮していると考えられる (表3)。. テ導入前に危惧された医療者による個人情報の漏洩は、幸. 将来の社会性、価値観がどのように変化していくのか、その結. いにも低頻度のアクシデント発生として認めるが大きな問題は. 果、次世代の医療者に何を期待できるのか、注意すべきは何. 繰り返されていない。迂闊・不注意、盗難などのインシデント、. かを把握しておきたいところである。医療職の各教育課程にお. アクシデントに対しても厳しい社会的制裁が下されてきた歴史. けるカルキュラムに人間性とコミュニケーション能力を導入する. があり、自制的で慎重な取り扱い、管理がなされている。膨大. 中で、精神性の根幹に「心と生命への畏敬」に関し、徹底して. で多職種にわたる医療職数、情報管理職者数であることを鑑. 考えることが重要と思われる。そのような人物による医療が心. みると、本邦の医療情報の秘守・管理はさすがの現況といえ. の安寧とともに、“食に優しさを”について学問的な深みを感じと. る。医療者の道徳感と倫理感の徹底さには、日本らしさ、日本. ることができるならば、治療目標を最終的に「食をする」 ことへ. 人らしさを感じることができる。. のプロセスが成功的に進むならば、患者さんが期待を抱きつ. さて、インターネットが日常的に生活環境に溶け込んだ今日、. つ医療者の美しい心情と優しさを捉える中で、日々を送れるな. 子供間の考え方の変化の分析がなされている。良き方向への. らば患者さんに明るい未来を切り開くことに繋がる可能性があ. 才能の活用をその子供世代の成長過程にどう生かしうるの. り、重要な教育方針の基本において頂きたいと強調したい。. 表 3 期待される医療人像について. 〇医師像 学習力、課題解決力、広い視野、高い識見、人間性、生命に畏敬の念、社会的責任、社会貢献、 心を理解、教養、地域医療、医療全般に責任、自己能力を自覚、困難時の適切対応、良き指導者 〇看護師 学習力、課題解決力、広い視野、高い見識、人間性、生命に異形の念、社会的責任、社会貢献、 社会状況の認識、情報収集力、創造性、基礎習得、科学的・倫理的判断、アセスメントとケア力 太文字は両職種の共通項目 <文部科学省高等教育局 医学教育課 21 世紀医学・医療懇談会 教育部会報告から> (300). 近未来における JSPENの役割-栄養療法における課題と責務-.
(5) 将来の臨床栄養学教育の課題と在り方 1)現状の教育状況と将来の在り方. との医療者からの評価は高い。今日では財務的課題から国 民皆保険制度をどのようにして維持するのか、新しい医療社 会システムの構築の中で、例えば臨床栄養学をどの様に位置. 本邦の医学、看護学、薬理学の医療分野で臨床栄養学教. づけるかは未解決の状況にある。限られた時間の中での業. 育は必ずしも十分ではなかった4)。小児科学において多少の. 務として、限られた職員数の下で、臨床栄養に特化する責任. 基本的な臨床栄養学の用語が羅列されていたにすぎなかっ. 医療者を各医療施設に設置することは難しい。それをカバー. た。昨今、主として欧米から医療、福祉領域の薬剤、医療材. する一策としては、先に述べた「心」の教育とそのメンバーに. 料・機材に関し、国際基準の導入によって初めて市場への. よる職場での優しい気配りのある人材、環境作りが挙げられ. 参加を可能とするという形で、本邦の臨床現場に働きかけてき. る。よほどしっかりした信念をお持ちの病院管理者によって運. た。行政においてはもちろん、研究・教育の場にも整理が進ん. 営されぬ限りは、医療者の「心」の面では悪化の一途を辿るこ. だ。医療のグローバリゼーションにより詳細な国際間規制・規則. ともあり得る。一部の悪質な運営施設が社会にはびこると“地. 等の下の新たな国内医療の体制整備と制度導入が成された。. 獄の沙汰も金次第”というような環境の到来があり得る。 それを. その変革をみた社会的システム上の基盤知識を身に着けた若. 回避するためにも、きちんとした教育理念の下で国政は生涯. き医療者は、法的、倫理的な側面では十分に教育されたとは. 教育に関わっていただきたい。臨床栄養学分野で必要となる. 言えない。米国では科学アカデミー(National Academy of. 具体的改革については、 3年単位くらいのエンドポイントの設定. Science) による臨床栄養学に関する具体的な医学教育への. の下、随時ステップアップを図り、一定の最終的な目標達成を. 勧告がなされた。本邦では、通産省、産業総合研究の視点か. 15年後として目指すというようなプランを推奨したい。. らの提言、指針が出されることによって、ようやく日本の医学教. 世界的に、フレイル患者数の激増が指摘されている。本. 育界の内部からもその重要性が叫ばれるに至っている。しか. 邦でも同様である。昨今では、臨床指針(clinical practice. し、カリキュラム総時間数の制限から一律に各学部教育の現. guideline;以下、CPGと略) の作成法において、推奨医療の. 場にその教育理念の具体的な浸透が顕著という事実はない5)。. 決定については「益と不利益を考慮」、 「costを意識した効果. このようなグローバリゼーションの流れと相まって、日本静脈. の評価」 を条件に謳い始めている。これら条件の導入が医療. 経腸栄養学会が主導するNST活動の提案が医療職者の栄. 者の理念、価値観に強制的変化の誘導をさせたいとの意図. 養教育に大きな変革をもたらした。米国で見られたNST活動. が含まれていないことを望みたい。CPGの推奨医療をいった. の歴史に踏まえて学会主導型の展開と本邦独特の診療報酬. ん文字化すると、今日の標準医療あるいは先端医療として捉. 加算制度によるNST活動の誘導は、爆発的な普及を見るに. えられる実情がある。CPGの内容の決定過程を鑑み、ヒトとし. 至った。 このチーム医療活動は市中病院で先行し、 昨今ようや. ての基本的在り方教育の重要性の中で注意すべき点として. く大学病院にも導入されるに至っている。したがって、医学部. 指摘させて頂いた。. の臨床栄養学に関するカリキュラムの導入程度に関しては大 学間で差は大きい。教育制度として一定の水準指針が行政. 2)教育上の社会的課題・社会的背景と臨床栄養教育. から示されるべきであろう。一方で臨床の場における普及と教. 国民の国家観、個人の人生観、社会的価値観は、第二. 育の担当責任等は、 どのような実践体制とするのかである。日. 次世界大戦後の約50年間に大きな変遷を生じたとされている. 本の医療制度の考え方(表4) に根差す医療から目指すもの. (表5)6)。敗戦直後の厳しい生活環境にも関わらず、国家と. を見つけ出すことも大切である。国際的には最も望ましい体制. しては教育水準の向上を最高目標の一つに設定し、相まって. 表4 日本の国民皆保険制度と検討課題. A. 特徴 (厚生労働省ホームページより). B.今日の施策 (小林簾毅氏の平成 26 年度国際医療研究 開発費研究 (課題番号 26 指1)報告を基に列挙). ①国民全員を公的医療保険で保障. ①予防・健康増進…疾病発症の防止. ②医療機関を自由に選べる (フリーアクセス). ②費用対効果の高い医療技術の評価. ③安い医療費で高度な医療提供. ③病床再編 (地域医療構想、病院再編推進など). ④社 会保険方式を基本としつつ皆保険を維持するため、 ④医療・介護の連携・充実 (地域包括ケアなど) 公費を投入. ⑤未来を見こした社会全体の取り組み 少子化対策、コミュ二ティ再編など ⑥保険の統合化?. 日本静脈経腸栄養学会雑誌 Vol.34 No.5 2019 (301).
(6) 6). 臨床栄養学の分野においては、まず、医師につ. 表 5 戦後 50 年間における日本人の国民性の変化 -関連論文の要約内容に一部、筆頭著者の主観的表現を交えて-. いてはもちろん医療職者の研究ベースの底上げ. 1.“ いちばんたいせつなのは家族 ” が年々増加の一途. のための研究者人材評価制度の開発が必要で. 「家庭より仕事、仕事への責任」は減少. ある。医療供与する対象がヒトであることを認識し. 2.女性志向の増加。楽しみを優位選択条件の上流に置く. 「人間性あふれる表現・態度の獲得」 を根幹に置. 3.自然観の変化。個人レベルでも環境問題への関心がある. き、レベルの高い人材を評価する制度が必要であ ろう8)。表3に示した精神性、基本姿勢の樹立、臨. 4.政治観の変化。政党支持率の低下、選挙への期待の低下. 床栄養学の先端研究の担える才能を評価するこ. 5.自身の生活水準。低下を認識するも不満無し 6.人間関係観の揺らぎ…社会貢献意識弱、勤務先への帰属薄弱 気を使わない、清く正しくは非重視、呑気優先、趣味優先. とが必要になってくるであろう。そのためにも、今 後は臨床の場での医療行為評価を可能とする環 境が必要と考える。同一年度の出生数が戦後の 220~240万人という時代から100万人以下という. 経済大国へと展開させた当初の25年間において、小中学生. 少子化時代を迎え、評価に耐えうる社会性が育つであろうか、. 徒から成人に至るだれもが日本人としての自負と自信を抱く精. 頭の痛いところである。2025年から2040年頃に高齢者が粗雑. 神を共有していた。研究活動、経済活動のいずれにおいても. に扱われかねない社会風潮が台頭せぬためにも新たな評価. 国内外に向けた活躍は、国内での評価が高く、積極的に研. 制度を若い年齢層に導入する必要性がある。人間性を最も. 究、学習活動が繰り返されてきた。欧米等の発展した社会構. 重視すべきはずの臨床・福祉の場で“非人間性”思考が横行. 造を目標に「追いつき型努力」行為の有用性が国内外で社. せぬよう、角度を変えた日本の精神性を担保した評価方式を. 会的に認められていた6)。その後、次第に国際的諸条件が加. 医療研究のひとつとして登場させたいものである。. わり、国際標準の名のもとに比較的短期間内で日本国内でも 制約状況が生じ、新たに「斬新な努力」であるとか「専門的 専門職」 という形での評価が増幅しつつある。価値観の変化 がグローバリゼーションとは一見、逆向きの動向を生じている7)。. 栄養・代謝病態予知に関する 分子生物学的研究の現状. 一方で国家を取り巻く各種の国際間危機現象発生時に各国. 加齢、サルコペニア、フレイルのいずれにおいてもタンパク. から見る日本の姿勢、国際的視点からの判断結果などととも. 質、遺伝子、micro-RNA等の発現性変化に特徴的所見を. に先の価値観の変化が加わり、一般的には国民に積極性の. 見出そうという研究報告が増加している9)-11)。分子生物学的. 喪失、 閉塞感が広がっている。併せて、 経済大国とされていた ことによる驕りと国際的な倫理観からの逃避・非先行性、二番 煎じ的な企業活動、一部の学術領域における競争的手法の 違法などが相次ぎ、国民間には潜在的に広く自信喪失状態 が蔓延している。科学技術立国としての自負心は、日本の研 究力の低下・教育成果の低下などが公表されるに至って、今 や過去の幻影として捉える向きがある。一つの打開策としては 研究費の配分等に政策的な見直しが必要かもしれない。経 時的な持続性ある研究の評価 (こだわり精神) 、 開発力の評価 (自発的斬新な発想力) 、自己主導内容の論文業績等の正 当な評価(非仲間支援型の実力) について重視するという在 り方を考慮しなくてはならない。医学研究(臨床栄養学) にお いては早期実現の成果を要求する向きも多い。この近視眼的 になりがちな教育・研究制度、大学設置制度、そして研究機 関の法人化運営制度等を見直す時期を迎えているのではな いだろうか。質の良い若手研究者の研究の場からの退去、研 究志望者数の低減を招き、日本の研究競争力・共同研究環 境作りに著しい低下を生じている。教育、研究の場でのいじ め、 ハラスメント、 休職者増加などの課題が多いと聞く。創造力 あふれた活気ある研究環境作りのために何をなすべきか、為 政者からの積極的な発信の無い現状に不安を覚える。 (302). 表 6 高齢化に関わる成因別障害因子. A. 分子学的変化 ● Primary hallmarks ①遺伝子不安定性 ②テロメア短縮化 ③エピジェネティック変化 ④タンパク恒常性喪失 ⑤老化遺伝子の存在 ⑥不老遺伝子の存在 ⑦サイトカイン産生制御遺伝子の分布・機能変化 B. 細胞器官・組織レベルの変化 ● Antagonistic hallmarks ⑧食事の不摂生 ⑨ミトコンドリア機能不全 ⑩細胞老化 ● Integrative hallmarks ⑪幹細胞の消耗 ⑫細胞間連関の非円滑化 ⑬生活環境因子 (睡眠条件、消耗と過剰ストレス等). 近未来における JSPENの役割-栄養療法における課題と責務-.
(7) hallmarkあるいはsignatureとしての標的分子としての特定を. 検”での分析を中心とするもので、生検前後の一定期間間. 目指している。現状では、実臨床の場で日常的に活用されそう. 隔での筋力変化、生検材料の免疫染色、RNA分離・分. な分子はないものの、多くの候補分子に期待が寄せられている。. 析、Hybridization手法による対象分子・標的領域の定量. ここでは、上記に関する知見を詳細に述べることを避け、. 化等が代表的手法である。分析対象の候補分子数につい. 「加齢」 と 「サルコペニア」のそれに限り、若い研究意識のあ. ては膨大で、かつそれらの定量データは多彩となっており、. る人材を対象に、 現状での研究展開を紹介したい。 「加齢」の. 具体的に引用紹介することは避ける。詳細については、関. 身体的個人間格差は大きい。それが家系的な要因、併存病. 連文献検索を望むが、さわりだけを触れてみたい。検索の. 態の要因、環境・生活習慣要因、それらの複合化要因など、. key wordsに活用いただきたい。過去10年以内の論文を. 誰もが想定しうる要因の存在の可能性を経験的に知っている. 参考に、表7に遺伝子発現の状況の概要を紹介した。あくま. (表6)。生物の死に至る間に生じる臓器・組織機能低下が. でも代表的なデータを並べたものであることをお断わりしてお. 老化、加齢である。人類の歴史を振り返ると死亡年齢、平均. く。加齢世代でupregulationを生じているgeneとしてC1Q-α. 寿命などの延長は目覚しく、その分子生物学的視点からの研. がある。apoptosisを生じた核のクリアランス機能を有する。こ. 究が長く行われている。それらの結果では、三種のcategory. の他、LGALS1、CCAAT/enhancer binding-β (C/EBP-. に分けられている (表6)9)。Primary hallmarks群としては遺. β)transcription factor、Forkhead box 03(FOXO3A) 、. 伝子の不安定化、 テロメラーゼの短縮化、 エピジェネティック変. STAU、RBM9、RXRB等が知られている。生体反応とし. 化、タンパク不安定性でその後の過程としてのantagonistic. て老化に結び付く細胞制御等の反応を司っている。一方、. hallmarks群として栄養制御機能低下、ミトコンドリア機能低. downregulationを生じていたとされているのは、SLC38A1. 下、細胞内制御系機能低下、そしてintegrated hallmarksと. が最も知られる分子である。若年と老人を分けるには最も. して細胞消費・消耗、細胞間連絡細胞器官の制御に関わる. 典型的な予知因子とされている (表7)13)。その機能の解釈. 因子の変化、という形で整理・報告されている。これらの個々. については明白に説明できていないのが現状である。この. の項目において指摘されている因子を報告等から抽出し、そ. 他、TRAF-6-inhibitory TIZ、MLF1RUNX1、SOX17、. の概要を表6に紹介した。. DAAM2、 F2RL1などが知られている。 これらの知見に関する. サルコペニアあるいは加齢に関しての研究分析手法とし. 本邦からの報告はなく、いずれも欧米からの情報で、本邦のヒ. ては、1.Differential display、2.Serial analysis of gene. ト材料(筋肉)から同様な知見が得られるか否かの検証を待. expression、3.cDNA arrays、4.Oligonucleotide-based. ちたい。臨床栄養学分野の専門家にあっては、 個人の特性の. microarraysなどを用いた分析法が質の高い結果を出すと. 把握の確認、一種の民俗として共通する特性の把握ができる. されている12)。その典型的な具体例としては、“筋肉の針生. のか否か等に関する基礎的研究を担う責務はあると考えられ. 表 7 加齢に伴う遺伝子変化に係わる関連分子の概要紹介. Upregulated Genes <Inflammation/apoptosis> 1.Signaling C1q- α etc Nicotinamide N-methyltransferase etc 2.Transcription factor/coagulator CCAA/enhancer binding protein etc. Downregulated Genes <Inflammation/apoptosis> 1.Signaling Coagulation factor Ⅱ receptor-like 1 etc 2.Transcription factor/Coagulators TRAF6-inhibitory zinc finger protein etc. <Glutamine metabolism> <RNA binding/splicing> 1.transporter Soluble carrier family 38 etc 1.t-RNA processing Pseudouridylate synthase 1 2.Nuclear mRNA splicing <Wnt/Fz signaling> Cisplatin resistance-associated overexpression protein 1.Signaling Dishevelled associated activator of morphogenesis etc <Steroid hormone receptor activity> 1.Transcription factor/coagulator <Steroid hormone receptor activity> RNA binding motif protein etc 1.Signaling Membrane-bound transcription factor protease <Other> 1.Signaling <Other> Membrane-spanning4-domains etc 1.Oncoprotein/tumor supressor 2.Unknown 2.Transcription factor/coagulator Natural killer-triggering receptor etc < >: functional categories. 日本静脈経腸栄養学会雑誌 Vol.34 No.5 2019 (303).
(8) る。近い将来においては、 このような遺伝学的な所見が、治療. を訪問することに配慮し、全身状態のチェックによる変化の有. 方針の判断に日常的に活用されるようになるはずである。以下. 無を把握せねばならない。これが本来の専門職の在り方であ. に、外科医の視点から上記の分子変化等を臨床の現場にど. ろう。必ずや、 「大なり小なりの異常が生じている場合」であっ. う活用していくべきかを触れたい。低栄養状態、免疫能低下. ても適切な対応は優しい医療へとつながるものである。臨床. 状態、サルコペニア、フレイルなどは、各種の創傷遅延、合併. データと生体反応(発汗、発熱、排泄状況など) を把握しようと. 症発生につながり在院期間の延長につながる14)。分子生物. する人材を多くする環境作りを臨床栄養学を教育する人、さ. 学的研究展開のめざましくない精神医学的な条件を除き、主. れる人の区別なく、基本姿勢の在り方を常に意識した日々の. として上記に紹介された分子変化の総体を臨床的侵襲後の. 臨床であたりたい。. 表現型として捉える時期が間もなく到来する。今日の研究成 果を応用することは困難だが、周術期管理における薬剤使用. 本論文に関する著者の利益相反なし. 選択と栄養療法・運動療法等の診療計画治療選択において、 加齢因子、組織・臓器修復再生因子、治癒過程の組織構成 細胞内情報交換・連携因子等の分子の把握が術後生体反 応を修飾・補助の情報として必須な時期が必ずや到来する。 また、術前予備能の把握にも貢献し、現状の治療成績の限界 打破と重症病態発生防止に繋がることも推察される。 以上、高齢者、サルコペニア、フレイル、あるいは若い年齢 層患者でそれの成果が示唆された情報に限って報告した。. 臨床栄養学を教育する人、教育される人 全てに優秀で根性のある人物はいるだろうか。確かにかな り優秀な人材を探すことは容易なのかもしれない。筆者の周り にも幾人かはおられる。しかし、 「無知の知」に代表されるその 「知」 を持つ人材は必ずしも多くない。“無自覚の愚かさ”を自 己評価できる人間はどれほどいようか。学問的に優秀で人格 に優れた人材が職場内のリーダーであるならば、良き受容体 を持つ仲間が知恵を共有しうるならば人々が日々の業務を遂 行する中で自ずからレベルの向上が必然的にみられよう。とこ ろで日本の大多数の臨床栄養の場では、難しい局面を目の当 たりにすることが多い。施設経営の難しさを抱えつつ個々のス タッフによる個人的努力により成り立っている職場が少なくな い。言い過ぎかもしれぬが、医師、施設管理者、臨床栄養指 導者に臨床栄養学の知識と実行力に十分さを有しない場合 でも、十分な栄養治療、栄養管理がなされるシステムと人の存 在が望ましい。密度の薄い労働提供であろうとも、 自己評価に よる論議の繰り返しによってシステムが改善されるならば、その 職場文化は良い意味での展開誘導が可能となろう。患者さん. (304). 引用文献 1) Cruz-Jentoft AJ, Baeyens JP, Bauer JM, et al. European Working Group on Sarcopenia in Older People: Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing 39: 412-423, 2010. 2) Peterson SJ, and Braunschweig CA. Prevalence of sarcopenia and associated outcomes in the clinical setting. Nutr Clin Pract 31: 40-48, 2016. 3) 鈴木志保子 . アスリートへの栄養サポート現場での ICTの活用 . 臨床栄養 128: 605-608, 2016. 4) 佐々木雅也 , 岩川裕美 , 柏木厚典ほか . 大学における臨床栄養教 育の現状と課題~医師のための栄養教育はどうあるべきか?~ . 静脈経腸栄養 23: 9-15, 2008. 5) 日本医学教育学会 . 医学教育を考える -プロフェッショナルの教 育をめざして - 行動科学・人間関係教育委員会編 . 三鈴印刷 , 東 京 , 2006, p8-85. 6) 坂元慶行 . 日本の国民性 50 年の軌跡 「日本人の国民性調査」 か ら -. 統計数理 53: 1-33, 2005. 7) 芦屋 暁 . 人生達観型が多い日本国民の価値観 . 時局レポート / 最新記事 / 東京商工リサーチ . 2005, p1-2. 8) 佐々木 淳 . 臨床心理学の研究動向と課題 - 知を伝えることと受 け止めることの観点から -. 教育心理学年報 55: 101-115, 2016. 9) Aunan JR, Watson MM, Hagland HR, et al. Molecular and biological Hallmarks of ageing. BJS 103: e29–e46. https://doi. org/10.1002/bjs.10053 10) Kalinkovich A, Livshits G. Sarcopenia – the search for emerging biomarkers. Ageing Res Rev 22: 58-71, 2015. 11) Howlett SE, Rockwood K. Ageing: develop models of frailty. Nature 512: 253, 2014. 12) Jung HJ, Lee KP, Kwon KS, et al. MicroRNAs in skeletal muscle aging: current issues and perspectives. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 18: 1008-1014. 2019. 13) Giresi PG, Stevenson EJ, Theilhaber J, et al. Identification of a molecular signature of sarcopenia. Physiol Genomics 21: 253-263, 2005. 14) Danese E, Montagnana M, Lippi G. Proteomics and frailty: a clinical overview. Expert Rev Proteomics 15: 657-664, 2018.. 近未来における JSPENの役割-栄養療法における課題と責務-.
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