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第2回論文賞を受賞して 受賞論文:型に合わせてレポートを書かせる指導の方法とその効果の検証(『リメディアル教育研究』第11巻第1号,2016年)

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Academic year: 2021

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 多くの読者は,受賞論文のタイトル「型に合わせて 書かせる」という表現に違和感を持つかもしれない。 教育現場では,「自分の意見を,自分の言葉で書きな さい」と指導するのが一般的だからだ。  小論文とは,自分の考えを1,000 ∼ 2,000字程度で 理路整然と述べた文章で,自分の思いや体験を述べた 文章とは一線を画する。これを書くための手法として, 1990年代に受験生を中心に支持され,広まったのが 樋口裕一氏による型書き(樋口式4部構成)である。  思考は何らかの慣習(型)で縛らなければ,正しく 理性が働かない。ゆえに,創造性も発揮しようがない。 私は,そのように考えているので,樋口式の主張に違 和感を持たなかった。授業に取り入れてみると,効果 はてきめんで,学生の書くレポートから感想文が減り, その内容に構造が生まれた。特に,「Xとも言えるが, Yとも言える。この問題は本当に奥が深い。」と書く学 生がいなくなったのは本当に有難かった。  以前,私は,本会誌において,高校3年生に対する 入学準備学習で課される小論文に樋口式が有効である と書いたことがある。受賞論文では,それが大学授業 でも有効であると主張した。  残念ながら,大学教育において教員が樋口式を推奨 している事例を私は知らない。また,樋口式が学術的 に扱われることもない。J-STAGEで「樋口式」を検索 しても,ヒットするのは私の論文だけである。私の研 究は,完全に時流の平仄を外しているので,拙稿が第 2回論文賞の選考対象であることは知っていたが,選 ばれることはないと考えていた。だから,受賞の知ら せは意外であったし,大変嬉しかった。拙稿の価値を 認め,公刊の機会を与えてくれた日本リメディアル教 育学会に感謝したい。拙稿は,他の媒体ならば掲載自 体が難しかったろう。  一般に「自分の意見を,自分の言葉で」という言説 が批判されることはないが,型に合わせて書かせるこ と,特に樋口式は批判が多い。良い機会なので,樋口 式に関する筆者の考えを披瀝しておく。  樋口式4部構成(問題提起・意見提示・展開・結論)は, 起承転結と言われることもあるが,誤解である。この 4部構成は,論文の基本である3部構成「序論・本論・ 結論」と対応している。すると,樋口式のオリジナリ ティは何かと言えば,彼が「序論」を2つに分けた「問 題提起」「意見提示」の部分である。  樋口式は,問題提起に「∼だろうか?」という「Yes」 か「No」で答えられる疑問文を求める。「日本語とは何 だろうか?」のような壮大な(ほとんど何も考えてい ない)問題提起をしがちな学生が多い中,学生の実情 に合った適切な指示である。  ただし,Yes/No疑問文を問題提起(論題)とするこ とは,やはり90年代に日本で発達した教室ディベー トにおいても同様の指導が見られる。すると,樋口式 のオリジナリティは,意見提示の「たしかに」と言っ て反対意見に言及し,「しかし」と言って自分の意見を 開示するという文型に絞られる。最近出た原田広幸氏 による批判記事もここに注目し,この「譲歩+逆説」 文型のため,樋口式で書かれた小論文が両論併記にと どまることを指摘している。  原田氏があげる小論文の見本(樋口氏本人によるも の!)は,たしかに両論併記である。しかし,樋口氏は, 意見提示において自分と異なる意見を持つ人の存在に 言及することを求めるが,それを論破することまでを

第2回論文賞を受賞して

中園 篤典

広島修道大学

受賞論文:型に合わせてレポートを書かせる指導の方法とその効果の検証

(『リメディアル教育研究』第11巻第1号,2016年)  資料  リメディアル教育研究 第15巻 2021 15

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求めていない。おそらく,樋口式小論文は,ディベー トで言えば,①肯定側立論と否定側立論の交換にとど まる段階と②相手の主張に対する反 にまで考察が進 んだ段階があるのだろう。  原田氏は,前述の記事の中で,樋口氏によるモデル 小論文(両論併記)を論証型に変えて見せている。こ れは,図らずも樋口式による論証が可能であることを 示す。つまり,指導者が適切に指導すれば,①から② への深化は,樋口式であっても可能である。  樋口式の小論文で生徒が「たしかにサッカーは面白 い。しかし,私は野球が面白いと思う」という矛盾す る文章を書いたとして,それは樋口式のせいではない。 まず,樋口式では,「サッカーと野球のどちらが面白 いか?」のようなYesかNoで答えられない問題提起 を許さない。樋口式で問題提起をするなら,サッカー については捨て,「野球は面白いか?」である。そし て,意見提示は「たしかに野球を面白いと言う人はい る。しかし,私は,野球はつまらないと思う。」と書き, 展開で「なぜなら」として,根拠(競技としての野球 の欠点)を3つあげる(例えば,投手に試合が左右さ れる,動きが少ない,試合時間が長い)。  それは,論証ではなく,両論併記かもしれない。し かし,世の中の事象は,YesかNoか判然としないこ とが多い。例えば,私は試合時間の長さを苦痛に感じ るが,長ければ長いほど楽しいと言う人もいるだろ う。だから,学生は,「野球は面白いと言う人もいるし, つまらないと言う人もいる。この問題は本当に奥が深 い。」と書きがちであるし,それは日本人としては自 然な発想かも知れないとさえ思う。日本のロジックな らば,それでいいのである。しかし,それをあえてど ちらかの立場に立って,立論させるのがディベートで あり,それと同じ事を小論文の形で生徒にさせている のが樋口式である。  日本において,多くの場合,人々は旗幟を鮮明にせ ず,発言の解釈はその場の空気に委ねる。このような メンタリティの大人を見て育った生徒達に対して,樋 口式は態度を鮮明にし,発言し,その発言が挙証責任 を伴う事を教えている。これは,西洋の最良の部分に 連なる思想であるように思える。樋口式がディベート という大がかりな装置なしで生徒にそれを経験させて いる点は,評価されてよい。  「たしかに∼。しかし∼。」で生徒が矛盾したことを 書くとか,両論併記にしかならないなどの批判は,指 導レベルの話であって,樋口式の責任ではない。これ は,下手なディベーターがいたとして,トゥールミン・ モデルの責任でないのと同じ事である。  こうした型に合わせて書かせるアプローチには,拙 稿が取り上げた樋口式の他にも,個人名を冠した様々 な○○式が多く存在する。これらはどこが同じでどこ が異なるのか,西欧のトゥールミン・モデルや,パラ グラフ・ライティングとの差異は何か等,あらためて 考えると,まだまだ十分に整理がされていないと感じ る。この受賞を励みとし,さらに研究を進展させたい。 引用資料 原田広幸.(2019).大学入試の指導者が感じる「小論文 攻略法」への懸念:「書く力」は本当に養われるのか https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59825 受付日 2021年2月12日,受理日 2021年3月17日  Data 

On Winning JADE’s Second Research Paper Award

Atsunori NAKASONO

Hiroshima Shudo University リメディアル教育研究 第15巻 2021

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付記:第2回論文賞の選考結果について  第2回日本リメディアル教育学会論文賞(実践優秀 賞)選考は,理事会と編集委員会による一次選考(投票) の後に,5名の会員から成る論文賞選考委員会による 審議を経て決定しました。選考対象は,学会誌『リメ ディアル教育研究』第11巻・第12巻・第13巻に掲載 された「実践研究論文」「実践報告」の11編です。  一次選考で多くの支持を集めた論文・報告が,中園 会員の「型に合わせてレポートを書かせる指導の方法 とその効果の検証」と小湊会員の「「教訓帰納」を活用 したリメディアル英語教育― 間違いの見直しを促す 実践の効果―」でした。そして,論文賞選考委員会で の審議でも,一次選考の結果が支持され,今回は対象 となる論文・報告の数が多いことから,論文賞を複数 に授与することにしました。選考結果を理事会に付議 し,2020年8月26日の理事会(メール審議)において, 第2回論文賞受賞論文が決定し,9月5日の総会(オン ラインによる開催)で報告しました。本来なら,全国 大会で表彰を行いますが,今回は,新型コロナ感染症 の影響で,2020年8月に開催予定だった全国大会が中 止になったため,表彰式が行えませんでした。次回の 全国大会で行う予定です。  中園会員の論文は,具体的な実践を通して得られた 学生のレポートの問題点について考察し,具体的な文 章指導について提案している点が高く評価されました。 また,小湊会員の報告については,教員は担当する専 門科目の指導に重きを置く傾向にありますが,本報告 では,リメディアル教育の対象となる学生の学習観を 理解し,基礎となる考え方や考えるプロセスから指導 する重要性について指摘している点が高く評価されま した。  多様な専門領域を持つ会員で構成された本学会の強 みを活かした論文・報告は,今後の本学会の研究活動 に多くの示唆をもたらすものでした。  また,受賞には至りませんでしたが,他の多くの論 文・報告にも票が入りました。学会に多くの貢献をす る論文・報告であることは間違いありません。  第3回論文賞(論文優秀賞)は,学会誌『リメディア ル教育研究』第13巻・第14巻の「論文」「研究ノート」 が選考対象となります。第2回論文賞の一次選考での 投票は,投票者が本学会の研究というものを見つめ直 すよいきっかけにもなりました。理事会・編集委員会 の皆様にはご負担をおかけすることになりますが,第 3回論文賞の選考にも引き続きご協力をお願いします。 (文責:佐藤 尚子 論文賞選考委員会委員長) リメディアル教育研究 第15巻 2021 19

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