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隣接分野から見た高等教育研究への問題提起

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【要旨】 本論では,高等教育研究を参照してきた隣接分野の立場から,教育社会学研究 としての高等教育研究について,今後の研究への問題提起と期待を提示する。本 研究が提示する高等教育研究の隣接分野とは,主に,中等教育研究と社会階層・ 社会階級・社会移動研究(以下,略して,階層移動研究)である。 それらの隣接分野の視点から見た場合,高等教育研究にはいくつかの課題が指 摘できるように思われる。第 1 は,「日本の」高等教育の選抜を理解するために, その本質的な部分に関する定義を見直す必要があるのではないかということであ る。第 2 は,日本の高等教育制度は,社会階層構造に対して,どのような制度 的文脈を持っており,どのような機能を保持しているかを明らかにすることが求 められているという点である。第 3 は,高等教育研究ならではの視点である 「高等教育機関が行う研究」を社会学的対象として配置していくことが必要とな るという点である。 以上の 3 点を踏まえて,日本の高等教育が制度的,歴史的に,世界のどのよ うな類型に近く,どのような事例と比較されうるかを吟味することによって,よ り抽象度の高い階層移動研究に組み込んでいくことができると考えられる。また, 日本の高等教育の特質を,隣接分野の文脈と共通性を持ちながら,より広い文脈 を持った言葉で社会学的に明らかにしていくことにより,高等教育研究がより緊 密に国際的な研究と結びついていくであろう キーワード:高等教育研究,社会階層・社会移動研究,中等教育研究 教育社会学研究第104集(2019)

隣接分野から見た高等教育研究への問題提起

相澤…真一

 濱本…真一

** *上智大学 **立教大学

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1. はじめに 本論では,高等教育研究を参照してきた隣接分野の立場から,教育社会学研究と しての高等教育研究について,今後の研究への問題提起と期待を提示する。本研究 が提示する高等教育研究の隣接分野とは,主に,中等教育研究と社会階層・社会階 級・社会移動研究(以下,略して,階層移動研究)である。中等教育研究および階 層移動研究は,高等教育研究の蓄積に依拠しながら,それぞれ独自の調査研究を進 めてきている。このような隣接研究の観点から見た場合,高等教育研究はどのよう に参照されてきており,また,それゆえに高等教育研究にどのような期待を持って いるのか。本論では,このような点を提示する。 日本の教育社会学の総合的な研究史としてこの 3 つの研究領域の関係を振り返っ てみた場合,階層移動研究と中等教育,高等教育の研究者が総合的に調査・研究を 行う場として,1955年以来,10年に 1 回,多くの社会学者たちによって行われてい る「社会階層と社会移動全国調査」(以下,SSM 調査)が重要な場を提供してきた ことは見逃せないであろう。SSM 調査は,1955年当初は日本社会学会が行った調 査であり,1975年調査以降,継続的に科学研究費補助金の助成を受けて大規模化し, 教育との結びつきが大きなテーマとして位置付けられるようになった。1985年の SSM 調査では,菊池城司編『教育と社会移動』,95年調査では,近藤博之編『戦後 日本の教育社会』と,単独テーマの書籍として刊行されている。2005年調査では, 3 巻本にまとめられた『現代の階層社会』の第 1 巻第Ⅲ部「格差社会における教 育」,第 2 巻第Ⅱ部「教育と階層」という形で収められている。2015年の調査でも, 研究終了時点において,80名のメンバー(院生・ポスドク除く)のうち 3 分の 1 以 上が日本教育社会学会の会員である。 SSM 調査データの調査・分析を進めてきた立場から見れば,階層移動研究を仲 立ちにして,むしろ高等教育研究と中等教育研究は,共に,教育社会学の学問上の 重要トピックである教育と社会的不平等を正面からアプローチしてきたと言えよう。 そして,アプローチを共有してきたことにより,階層移動研究に従事する高等教育 研究者と中等教育研究者は,対象の教育段階の違いをあまり大きく意識することは なかったと見ることもできる。この点を鑑みれば,高等教育の教育社会学的研究の 隣接分野との連携は,社会的不平等と教育という研究関心を中心として,これまで も捉えられてきたといえるかもしれない。しかしながら,本特集でも示されている ように,高等教育を社会学あるいは教育社会学の対象として見た場合,高等教育シ

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ステム・教育政策・高等教育の組織と経営・学生・教員といった,教育社会学でも しばしば注目されるような別の社会学的研究関心による研究も数多く蓄積されつつ ある。そこで,本論では,階層移動研究あるいは中等教育研究に立脚しつつ,高等 教育をどのような関心で見て,そこでどのような研究展開に関心があるのか,とい う隣接分野のオーディエンスの立場から,高等教育研究への問題提起と期待を提示 する。 2. 高等教育研究と隣接分野の架橋としてのトロウ 2.1. 高等教育研究と隣接分野の共通点としてのトロウとその批判 高等教育研究と中等教育研究,あるいは高等教育研究と階層移動研究の研究関心 をつなぐ重要な関心は,教育拡大という現象である。この教育拡大を,実態に即し た形で極めてわかりやすく提示しているのがマーチン・トロウである。 繰り返して説明するほどもないことであるが,トロウは,教育拡大の段階をエ リート段階,マス段階,ユニバーサル段階の三段階によって提示した。高等教育に ついては,15%までのエリート型,15% から50%までのマス型,50%以上のユニ バ ー サ ル ・ ア ク セ ス 型 と し て 整 理 さ れ て い る ( T r o w 訳 書   1976, 喜 多 村… 1980→2010)。トロウの枠組は広く共有されてきたものの,トロウに依拠し過ぎた 高等教育拡大の分析・解釈については,早くから自省がなされてきた。『リーディ ングス 日本の高等教育』において,中村高康が要約するように,トロウを紹介し てきた天野郁夫や喜多村和之はトロウの限界についても自覚的であった(中村… 2010)。中村が,天野や喜多村を通じてまとめているトロウの問題点は,厳密な検 証を経ていない仮説にすぎないものであり,各社会の固有の高等教育の制度・構造 の分析が必要であることに言及している(天野 1979,喜多村 1980,中村 2010, p.10)。米英の教育拡大の理論を整理し,さらに,東アジアの教育拡大(主に後期 中等教育段階)の性質を理論的に整理した Rappleye(2019)でも,トロウは,構 造機能主義と地位競争モデルのハイブリッドであると示しているものの,教育拡大 を理論として説明する上で重要な論者にはなりえないという見解が示されている⑴ (Rappleye…2019,pp.30-31)。 ただし,トロウの三段階論は,そのわかりやすさとイメージのしやすさから,教 育社会学において,教育拡大のイメージを共有することに成功したことは間違いな い。その点を踏まえつつ,2.2. では,階層移動研究における教育拡大現象の研究の 理論的精緻化を,2.3. では,中等教育研究における研究の多様化がどのように進ん

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だのかについての簡略なレビューを行う。 2.2. 階層移動研究における教育拡大現象の研究の精緻化 前述のように,トロウの図式には仮説としての単純化を含んだものであるものの, 教育拡大を通じて教育が質的にどのように変化するのか,特に,ユニバーサル・ア クセス化が進むなかでどのような問題が起こりうるかをわかりやすく示した点で, 教育拡大という現象の見方に貢献したことは確かである。 第二次世界大戦後の経済発展と教育拡大という現象が同時に起きたことは,階層 移動研究に与えたインパクトも大きかった。階層移動研究では,出身階層あるいは 社会的不平等との関連において,教育拡大という現象を捉えてきた。第二次世界大 戦後の復興と経済発展のなかで,教育社会学においては機能主義的な人的資本論が 隆盛を迎えたころ(例えば Halsey 訳書,1963),階層移動研究では,産業化に よって社会は平等化するのか,という産業化命題の論証が行われていた(Lipset…&… Bendix…1959)。この産業化命題の実証のなかで,教育拡大と社会移動を結びつけ た研究も盛んにおこなわれてきた。ブラウ,ダンカンの地位達成モデル(Blau…&… Duncan…1967)やその後にアスピレーションや「重要な他者」の概念を組み込んだ ウィスコンシンモデル(例えば,Sewell…&…Hauser…1975)はこのような論証の一形 態として見ることができる。1975年の SSM では,教育アスピレーションや職業ア スピレーションの設問が組み込まれ,75年調査の成果を伝える『日本の階層構造』 でもこれらの分析が行われている。 だが,社会移動と教育拡大の関係を整理する上で,極めて重要な論点が1970年代 後半以降の階層移動研究において提示される。それが FJH 命題である(Feather-man…et…al.…1975)。フェザーマンらは職業移動における世代間の相対的移動の観点 から検討した結果,産業化は平等化をもたらさないという命題を提示した。この見 方は,教育拡大や教育の役割にも展開した結果,結局,教育拡大したとしても,機 会の不平等が結局「最大限」維持されるという「最大格差維持仮説」(Raftery…&… Hout…1993)あるいは,「実質的な効果」をもって維持されるという「実質格差維 持仮説」(Lucas…2001)のように,不平等が維持されることが明らかにされてきた。 この見方が,90年代までにおいて,国際比較研究においても維持されることが明ら かにされてきており(Blossfeld…&…Shavit…1993),日本社会については,石田浩が, 相対的移動の観点から見た場合,アメリカ,イギリスと比較しても教育拡大によっ て平等化している訳ではないことを明らかにしてきた(Ishida…1993)。例外も見ら

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れるものの(例えば Erikson…&…Jonsson…1996),2000年代までの社会移動研究では, 教育拡大による平等化については,全体的には否定的な解釈がなされてきた(例え ば Shavit…ed.…2007)。 以上のような社会移動や教育拡大を解明していくなかで,社会学理論と密接に結 び付いた社会階級・階層概念の精緻化も階層移動研究では行われてきた。エリッ ク・オーリン・ライトが編集した階級論の整理によれば,ブルジョア─プロレタリ アートの対立構造を基本とするマルクス主義的階級論とその変形版,職能集団を中 心とした階層集団を前提とするウェーバー主義的階級論,また,さらに,分業をミ クロな分類によって把握しようとするデュルケムや関係論的組織化を鍵としたブル デューの見方も出され,近年,その応用も試みられている(Wright…ed.…2005)。職 業分類の国際化が進展するのと並行して,教育分類の国際化も進展しつつあり, ISCED(国際教育標準分類)による標準化が行われてきている。高等教育研究者 によって,日本のカテゴリーとの整合性の問題点は指摘されている一方(例えば舘  2010,舘 2011),国際比較の文脈に載せて議論する教育と社会階層の研究では, この分類を踏まえた研究もおこなわれてきた(例えば,多喜 2011,鳶島 2012)。 2.3. 教育拡大現象後の中等教育研究における多様化 トロウが示したユニバーサル化は,喜多村の図式化に基づけば,教育機関に「極 度の多様性」をもたらし,「共通の一定水準の喪失」し,「スタンダードそのものの 考え方が疑問視される」ようになると考えられている(喜多村 1980→2010, p.21)。中等教育において早くからこのような多様性と教育の難しさ,そして教育 問題が噴出する社会構造を指摘してきたのが藤田英典であった(藤田 1997)。藤 田は,戦後,ユニバーサル化して以降の中等教育の役割を従来の「高等教育への準 備教育」,「職業生活に直結する実学的教育」,「完成市民教育」という三重の役割を 担っていると整理する(藤田 1997,p.94)。 高等教育研究に先んじてユニバーサル化に至った中等教育では,日本では,70年 代後半以降,生徒の多様化を一つのキーワードにして,研究関心そのものが多様化 してきた。例えば,「準義務化段階」の総合的な研究として,潮木守一らによる調 査があるほか(潮木・高校問題研究会 1979),進路の多様化に早くから注目した 研究は,天野郁夫らの研究などが早くから行われている(天野ほか 1988)。どの ように生徒文化が分かれてきたについても盛んに調査が行われた(武内 1979,耳 塚…1980,武内 1981)。また,ユニバーサル化のなかで,高校という学校組織自体

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がどのように変化してきたかについての多様な研究が行われてきた(例えば門脇・ 陣内編 1992)。このなかで,夜間高校として機能していた定時制高校の変容への 着目(片岡 1983,片岡 1993)から,90年代以降は教育困難校の逸脱状況や高校 中退(例えば,古賀 2001),就職状況の悪化による高卒無業者の研究(粒来… 1997)などを経て,2000年代後半以降は,多様な後期中等教育機関の役割に注目し た研究が行われてきている(内田 2013,伊藤 2014)。「高卒当然社会」(香川ほ か 2014)の成立以降,「当たり前」になりつつ多様化する進学や進路保障を支援 する臨床的な立場から対応しようとする動きも2000年代以降目立ってきている(例 えば,酒井編 2007,酒井 2014)。 2.4. 小括 本節では,トロウの議論を端緒として,階層移動研究では教育拡大現象がどのよ うに精緻化されてきたのか,また,中等教育研究では,教育拡大を経て,どのよう に研究が多様化してきたのかを見てきた。主要な階層移動研究の知見を見る限り, 産業化と共に起きた教育拡大現象という一見,開放的な現象が必ずしも社会階層構 造の点で平等な影響をもたらしていない。また,平等な影響をもたらしていないが ゆえに,どのような格差や不平等があるかは,中等教育段階を注目する重要な問題 関心となってきたものの,階層移動研究では,基本的には階層構造を維持する装置 としての教育の役割を明らかにしてきた。 階層構造へ議論を収斂させる一般化傾向の強い階層移動研究に対して,教育機関 に「極度の多様性」をもたらされることにより,中等教育がどのように多様化して きたのかについて,どのように研究されてきたのかを,2.3で見てきた。安定的な 階層構造の影響とは異なる次元において,就学形態の多様化や卒業後の進路の多様 化が中等教育研究では行われてきた。 次節では,教育社会学あるいはこれらの隣接領域を対象とする研究全体に資する ような高等教育研究への期待を提示するべく,さらに,階層移動研究の観点を発展 させた教育選択モデルの発展(3.1.)と教育拡大の歴史と制度・組織の変容(3.2.) の 2 つの視点から,研究対象としての高等教育と高等教育研究が隣接分野の研究に どのように言及・応用されているのかを検討する。 3. 隣接分野の実証研究から見る高等教育研究への問題提起と期待 第 2 節で見てきたように,教育拡大によって,後期中等教育がユニバーサル化し,

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階層移動研究では階層構造の説明の精緻化が行われてきた一方,中等教育研究では, 研究領域の多様化が進行してきた。さらに,90年代における大学進学者の増大と, その後の進学率拡大によって,階層移動研究も中等教育研究も高等教育への進学あ るいは高等教育を経た社会移動など,高等教育機関を含めて現象を捉える必要性が 高まっている。すなわち,高等教育という教育機関がどのような社会的な役割を 担っているかを明らかにする研究が高等教育研究の隣接分野からも捉えていく必要 に迫られている。このような隣接分野の視点から,高等教育はどのように捉えられ ており,そこでどのような研究が高等教育研究に求められているのか,という視点 から既存研究を検討してみよう。 2010年代以降の社会階層と教育の研究においては,ユニバーサル化した中等教育 よりも高等教育への進学選択自体が最重要関心の一つとなっている。そこでは, ブードンの機会の不平等の研究(Boudon…1973=1983)に戻って,教育選択の平等 性を再検討する教育選択モデルの数理的・統計的発展が進んでいる。3.1. では,こ のような発展の研究動向を検討する。その上で,抽象的なモデル化の一方で,各国 の歴史的な文脈を把握することが隣接分野から高等教育を見る上で重要であると考 えられる。中等教育研究など隣接分野の視点から日本の高等教育を見た際に,日本 の高等教育を捉える重要な視点がどのような研究にあるかを3.2. で検討する。 3.1 教育選択モデルの発展 格差が生じるメカニズムに関しては,様々なレベルから説明がなされてきた。社 会的再生産の理論からは,教育が支配階級による文化伝達装置であり,支配階級が 再生産に都合のいいように教育システムが形成されていると説明される。Turner… (1960=1963)の庇護移動モデルも同様のメカニズムを想定したものである。出身 階層,教育,地位達成の 3 要素を用いて社会モデルを作成し,仮定と公理によって 社会的再生産モデルを作成した Boudon(1973=1983)の IEO(Inequality…of…Edu-cational…Opportunity)モデルは,教育機会の拡大によって社会移動の閉鎖性が消 滅するという楽観的な予測に対して異を唱えたことで知られている。IEO が持つ 主要な要素は学力の階層差( 1 次効果),そして進路選択の階層差( 2 次効果)で ある。この 2 つの効果をもとに,教育の機会による機会格差の変動をシミュレー ションによって示した。 日本において学力の格差は比較的近年になって注目された(耳塚 2007,荒牧  2008,苅谷 2012,川口 2009,須藤 2007)。出身階層による学力差が経験的に

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確認され,日本における 1 次効果の存在はおおむね認められている(モデルとして の展開は 潮木 1976,岡田 1977,岩本 1990,浜田 2008…a,…b などでいずれ も機会の拡大が必ずしも不平等を減じないことを示している)。 Boudon モデルの 2 次効果に関しては,経験的な検証だけでなく,個人の教育選 択から理論的なモデルを提示する試みがなされている。その端緒が合理的選択理論 の枠組みから教育選択を提示した Breen…and…Goldthorpe(1997)のモデル(以下 BGM)である。BGM は⑴学力の階級・階層差,⑵資源の階級・階層差,⑶相対リ スク回避の 3 つを仮定して教育機会不平等の生成を説明した。特に注目されたのが, ⑶相対リスク回避(RRA)のメカニズムである。これは「個人は自分の親と同じ かそれ以上の階級に到達しようとし,その可能性を最大にするような教育選択をす る」という心理メカニズムであり,これによって階級ごとに合理的と判断される選 択が異なる。BGM の代名詞となったこのメカニズムは,以後内外で多く検証され た。 RRA の検討は,大きく分けて 3 つの方向で行われた。第 1 に,相対リスク回避 のメカニズムを検証したものがある。国内外で多くの研究がある(Mare… and… Chang… 2006,Stocké… 2007,太郎丸 2007,藤原 2011,2012,近藤・古田  2009)が,相対リスク回避という心理的なメカニズムを社会調査データ等で検証す ることは非常に困難であり,いずれの検証も相対リスク回避の存在の必要条件を示 したにすぎず,統一的な見解は得られていない。第 2 に,RRA に対して異なるメ カニズムを提示したものもある(Turić…2017など)。日本では吉川(2006)の「学 歴下降回避説」がその例である。Lucas(2001,…2009)の Effectively…Maintained… Inequality(EMI)もその一つといえる。ただしこれらの諸モデルは,内的妥当性 を保ちながらも,RRA を退けるのに十分な論証とはなっていない。第 3 に,BGM の数学的なフォーマライゼーションとしては,Breen… and… Yaish(2006),浜田 (2009),瀧川(2011)等が,RRA の存在条件や RRA の下で生じる教育機会不平 等の描写を行っている。以上の要素を盛り込んだ論稿として毛塚(2013)では, BGM のうち RRA を仮定しない「単純進学モデル」,RRA に学歴下降回避を加え た「二重回避」のそれぞれのモデルを定式化し,実証によって RRA を退け単純進 学モデルを採用している。 BGM をはじめ格差生成メカニズムを志向したモデル化の試みでは,教育システ ムのとらえ方はさまざまである。オリジナルの Breen…and…Goldthorpe(1997)で は主に中等教育終了後の進路選択を前提としており,これに続く研究成果も高等教

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育への移行段階を想定した議論を展開している。太郎丸(2007)や吉川(2006)が 最終学歴(大学を卒業するか否かの分断線)に注目している一方,藤原(2012)の ように中等教育段階(高校)への進学選択における相対リスク回避の妥当性を検討 したものもある。

また,BGM では多段階の教育システムの可能性を示唆し,Breen… and… Yaish… (2006)では明示的に複数段階の教育を想定していた。浜田(2009),毛塚(2013) のモデル化においても 2 段階への展開がなされている。多段階の選抜システムを想 定するとき(そのうち特定の教育段階での選抜に注目するにしても),各学校段階 に特有の選抜のシステムや選択原理をモデルの中に組み込む必要がある。教育選択 のモデルは,基本的には合理的選択によって進学するか否かを個人が決定し,確率 的な選抜によって進学の有無が決定するというプロセスを踏む。個人の意思決定は 特定の選抜制度の中で行われるものである。どのような制度の下で,どのような選 択を行うのか,さらに進学の有無を決める確率はどのように設定されるのか,その 仕組みの数理的表現がモデルの妥当性に大きくかかわってくる。高等教育システム のどの部分が選択原理に影響する本質的なものであるのか(裏を返せばどの要素は 数学的な表現を必要としないのか)を定義することで,より説明力の高いモデルを 作成することができるはずである。特に,「日本の」高等教育の選抜を理解するた めには,中等教育における選抜や海外の高等教育システムとの比較・参照によって, その本質的な部分に関する定義を見直す必要があるだろう。 教育の大衆化に伴い,進路選択はある学校段階に進学するか否かだけではなくど のような学校に進学するかという「質的差異」が重要な軸になってきた。教育達成 過程は「成功/失敗」の分断線ではとらえられないような「順位付け」を繰り返す 側面もある。しかし「質的差異」を含んだモデルは蓄積がなく,教育機会の飽和と 質的分化の関係は,いまだブラックボックスの中にあるといってよい。教育の拡大, または制度変化によって不平等がどのように変化するかという問いは,主に調査 データを用いた国際比較研究で行われている(Boudon の 2 つの効果に関して検討 したものとして Jackson…and…Jonsson…2013など)ものの,これらの研究と教育選択 のモデルの結びつきは未だに確立していない。RRA やそのほかのモデルが教育機 会の不平等を説明するロジックとしての妥当であるかを検討するには,より日本の 教育システムを再現したモデル化が必要となる。

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3.2. 学歴・試験の制度化の歴史的研究と高等教育の制度・組織の変容 3.1. では,中等教育と高等教育の両者を階層移動研究が選択のモデルとして洗練 させることにより,研究が説明できる一般性を拡張していこうとする試みを紹介し てきた。一方で,教育機会の不平等を研究として再現して説明する際に,むしろ日 本の高等教育の事例はどのような含意を持っており,どのような説明の射程を持っ ているのだろうか。日本の高等教育についての研究を隣接する研究と合わせて検討 した際,どのような研究に注目できるのか,見てみよう。 日本の教育社会学では,中等教育と高等教育を分け隔てることなく,学校教育, 試験,学歴が社会に根付く近代化過程が歴史的研究によって分析されてきている。 その主要業績の一つとして,天野郁夫の一連の研究が挙げることができるであろう (天野 1982→2006,1983,1992)。また,天野の一連の研究の理論的な背景にロナ ルド・ドーアの研究(例えば Dore 訳書,1978)があることが明確に示されている (例えば天野 1982→2006,pp.17-23)。 ここではドーアや天野の研究を詳細に説明し直すことはせず,社会移動の限定さ れた論点のみに言及する。ドーアは,日本を「後発効果」のモデルとして学歴が社 会移動において重要な役割を果たしたことを1900年代から1920年代の高等教育卒業 者の社会移動から比較を行っている(Dore 訳書,1978→1998,p.63)。1925年に英 国で生まれたドーアにとって,日本の高等教育機関が学歴を通じた社会移動を果た す機関として機能していることに率直な驚きが示されているように見える。すなわ ち,日本の高等教育機関が社会移動の観点において相対的に平等な機関である可能 性が論じられてきた。 これに対して,天野は,日本の近代化過程において,広い意味での教育の制度と しての学歴や試験がどのように定着していったのかを明らかにしてきた(天野… 1982→2006,1983,1992)。また,近年では,日本の高等教育がどのように根付い てきたのかについて多く論じている(天野 2009,2016,2017)。中等教育と高等 教育を広い意味での制度として一括して論じた前者の研究群によると,明治期の学 校は,「『四民平等』の理念が,最初に実現されたところ」(天野 1983,p.92)と しての役割を見出した一方で,士族のための「教育授産」あるいは士族救済として 上級学校への進学があったことを示している(天野 1992,pp.27-50)。また,福 澤諭吉が『学問のすゝめ』を出版した 5 年後に資力によって受ける教育の違いがあ ることを認め,学費の必要性を訴え,「教育も銭なり」という立場を福澤が取って いることを示している(天野 1992,pp.74-85)。

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ドーアと天野の議論は,隣接分野としての中等教育研究あるいは階層移動研究と 高等教育研究との違いを際立たせてくれる。すなわち,高等教育の制度設計の起源 として,自明のことかもしれないものの,「高等教育制度は,社会移動において開 放性を期待されているか」という点について基本的な問いかけを示してくれる。第 2 節から示してきたトロウにおいても,進学率15%までは「エリート段階」と示さ れており,高等教育の主要機能は「エリート・支配階級の精神や性格の形成」とし て捉えられている(喜多村 1980→2010,p.21)。 階層移動研究を前提としない高等教育研究は,このようなエリート型の高等教育 機関がユニバーサル・アクセス型へと変容したと捉えてきた一方で,階層移動研究 では,平等/不平等を測定する研究設計の前提として,制度の開放性が組み込まれ ている。このため,高等教育論と階層移動研究を一つの緊張関係として捉えるなら ば,各社会の高等教育研究は,制度的な理念として,社会のなかで高等教育機関が, その社会の階層構造に対して,影響力を持とうとしているのか,していないのかが, 階層移動研究とも通ずる重要な問いとなる。そして,今後さらに国際的にも重要と なる高等教育段階での教育機会の不平等を選抜制度との関連で論じる時,それが高 等教育制度の順機能なのか逆機能(=意図せざる結果なのか)を判断していく必要 がある。ひいては,選抜制度の理念を社会階層論・社会移動論との関連で解き明か す必要があると考えられよう⑵。 3.3. 中等教育研究の視点から捉える高等教育研究の可能性 2.3. で示したように,中等教育では,ユニバーサル化が進んだことによって,ど のような質的変容が進んできているのかが盛んに研究されてきた。これに対して, 高等教育段階において,同様に教育拡大が進むにつれて,どのような質的な変容が 起きていくかについては,隣接分野にとっても関心を持って接するところである。 本項では,そのような中等教育研究と高等教育研究の接続地点を提示しながら,中 等教育研究の視点が捉える可能性と限界を指摘したい。 高校の教育拡大を検討した小川洋は,その視点を高等教育に生かして,2000年代 以降の私立大学の定員割れの構造を明らかにしている(小川 2000,2016)。ここ で示される構造によって生じている現象は,既に高等教育研究として,私立大学の 設立年度と経営状況を仔細に検討した両角亜希子の研究(両角 2010)や入学難易 度が高くない大学生や大学教員の実態を示した葛城浩一の研究(葛城… 2010)など があり,これらは,教育拡大過程を経て展開させた中等教育研究の問題意識の延長

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として読むこともできる。 粒来(1997)に代表されるように,2000年前後に高卒を対象にしていたトラン ジッション研究は,その後,高等教育段階へと関心の展開を遂げている。以前なら ば,就職が主たる進路であった商業高校において,進学支援が研究対象へと変化し ており(酒井 2007),高卒就職を博士論文での検討対象としていた苅谷剛彦(苅 谷 1991)や本田由紀(本田 2005)は,その後,大卒就職の総合的な調査研究へ と展開している(苅谷・本田編 2010)。中等後教育機関としての専門学校は,高 等教育研究の観点(濱中 2008)からだけでなく,中等教育研究からの展開として も検討対象となっている(多喜 2018)。 トランジッション研究とも,階層移動研究とも見ることのできる Shavit と Mül-ler からなる国際比較研究では,主に中等教育段階レベルでの職業教育がどのよう な地位達成効果をもたらすかが分析されてきた(Shavit…and…Müller…1998)。日本の 教育社会学の中等教育研究では,稲田(1997)が階層移動研究の枠組を応用して学 歴の位置づけを見出しており,また,片山悠樹が工業高校と仕事のつながりを見出 している(片山 2016)。このように,ある教育内容を学んだ人がそれをどう生か しているかについては,日本の場合,高等教育研究の方が関心が強く,矢野眞和が 長く研究を続けてきたほか(例えば矢野 2001,矢野ほか編 2018など),工学系 大学院については濱中(2009),学歴間比較から学歴の価値を探る研究として濱中 (2013)などを見ることができ,文系教育についても本田編(2018)などの調査研 究が行われている。 このように,近年の高等教育の拡大に伴い,ユニバーサル段階に到達した中等教 育で論じられてきた問題群が,中等教育研究者たちが高等教育に応用する形で盛ん に研究が試みられている。また,そこで中等教育と関心が共有できるような高等教 育研究も多数存在する。しかしながら,このような中等教育の問題群を高等教育に 応用させるような視点では,どうしても抜け落ちてしまう研究群がある。それは, 高等教育機関の重要な役割である研究をめぐる成果評価や研究環境,研究戦略をめ ぐる研究である(例えばアルトバック・バラン編訳書,2013)。隣接分野から見る と,高等教育機関をあくまで教育機関として見てしまう。もちろん,この形で高等 教育研究に期待する傾向はユニバーサル・アクセス段階に到達した日本の高等教育 では一層強まるであろう。しかしながら,教育活動ではなく,研究活動を社会学的 対象として配置することは,高等教育研究ならではの視点である。このような高等 教育研究ならではの視点から研究が行われつつ,かつ,教育社会学のなかで共有さ

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れていくことが望まれる。 4. まとめ 本論は,高等教育の隣接分野としての階層移動研究あるいは中等教育研究に立脚 しつつ,高等教育をどのような関心で見て,そこでどのような研究関心から隣接分 野の研究者が読もうとしているのか,また,そこから高等教育研究への問題提起を 行うためにこれまでの研究の検討を行ってきた。 その結果,特に第 3 節の考察を通じて,次のような高等教育研究の問題提起と期 待を示すことができる。まず,階層移動研究を中心に,国際的に高等教育への進学 選択モデルを精緻化しようとする研究は日進月歩で進んでいる。そこで,「日本の」 高等教育の選抜を理解するために,その本質的な部分を改めて定義しなおす必要が あるだろう(3.1.)。その際に,日本の高等教育制度は,社会階層構造に対して,ど のような制度的文脈を持っており,どのような機能を保持しているかを提示してい く必要も出てこよう(3.2.)。また,近年,中等教育の研究に携わっていた教育社会 学者の多くが高等教育研究に取り組むようになってきている。これは,高等教育と いう対象そのものが検討対象として重要性が高まっていることの現われである。一 方で,そのような研究では,高等教育ならではの視点である「高等教育機関が行う 研究」を社会学的対象として配置されていくことが必要となろう(3.3.)。 以上の検討を踏まえて,高等教育研究と隣接分野で共有すべき問題を掲げて稿を 閉じよう。主に,2.3,3.1. に示したように,階層移動研究では,国の固有の文脈よ り,階層現象としての一般性を論じる傾向が強い。そのため,日本の事例を扱った 場合でも,抽象度を高めることにより,国際的に通用する議論を組み立てることが 求められる。すなわち,日本の高等教育が制度的,歴史的に,世界のどのような類 型に近く,どのような事例との比較によって,より効果的に実証できるかを高等教 育研究が示してくれれば,その範に依りながら,より抽象度の高い階層移動研究に 組み込んでいくことができる。 一方で,これを実現させるためには,むしろ日本の高等教育に対する深い歴史的 理解が求められる。日本の高等教育の特質を,教育社会学研究,とりわけ中等教育 研究の文脈と共通性を持ちながら,より広い文脈を持った言葉で日本の高等教育が 社会学的に明らかにしていくことにより,高等教育研究で行われている研究がより 効果的に国際的な研究と結びついていくのではなかろうか。歴史的文脈から日本の 高等教育の特質を社会学的に捉えつつ,それを国際的な高等教育の文脈に乗るよう

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な形で言語化していくことが行われていけば,日本の高等教育研究が隣接分野とと もに発展していくと考える。 〈付記〉 本論は,特集企画担当委員より,相澤が依頼を受け,濱本の協力を得ながら,執 筆を進めたものである。当初,社会階層・社会移動研究を中心にしたコメント論文 を構成する予定であったものの,依頼内容の変更を受けて,隣接分野としての中等 教育についての記述を追加することとなった。本論の執筆は,全体を 2 名で打ち合 わせた上で,3.1節を濱本が,それ以外の節を相澤が草稿を作成し, 2 名で全体の 調整を行いながら,最終的な記述の確定を行った。 〈注〉

⑴ むしろ,Rappleye は,教育拡大の理論として,Margaret… Archer や Andy… Green の適用可能性を試論として示している(Rappleye…2019)。 ⑵ もちろん,既に日本の高等教育研究は,この緊張関係のなかで検討がなされて いる。例えば,高等教育の大衆化過程における教育選抜の変化については,中村 (2011)が挙げられる。 〈文献〉 Altbach,…Philip…G.,…and…Jorge…Balán,…eds.…2007,…World…class…worldwide:…Transform-ing…research…universities…in…Asia…and…Latin…America.…John…Hopkins…University… Press(=2013,フィリップ・G. アルトバック,ホルヘ・バラン編,米澤彰純監 訳『新興国家の世界水準大学戦略:世界水準をめざすアジア・中南米と日本』東 信堂). 天野郁夫,1979,「高等教育の発展段階説と制度類型論」『大学史研究』第 1 号, pp. 1 -11. 天野郁夫,1982,『教育と選抜』第一法規→2006,『教育と選抜の社会史』筑摩書房. 天野郁夫,1983,『試験の社会史―近代日本の試験・教育・社会』東京大学出版 会. 天野郁夫,1992,『学歴の社会史―教育と日本の近代』新潮社. 天野郁夫,2016,『新制大学の誕生―大衆高等教育への道(上・下)』名古屋大学 出版会.

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Keywords: The research on higher education, the research on social stratifica-tion and social mobility, the research on secondary educastratifica-tion

ABSTRACT

Comments and Expectations on the Research of

Higher Education from the Point of View of

Social Mobility Research and Research on Secondary Education

AIZAWA, Shinichi

(Sophia…University) 7-1…Kioi-cho,…Chiyoda-ku,…Tokyo,…Japan…102-8554

HAMAMOTO, Shinichi

(Rikkyo…University) 3-34- 1 …Nishi-Ikebukuro,…Toshima-ku,…Tokyo,…Japan…171-8501

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