生物資源の食品および香粧品への利活用と
それに関わる評価法に関する研究
Study on use and application of biological resources for
food and cosmetics and related evaluation method
宮 下 忠 芳
目 次 第1章 生 物 資 源 の食 品 および香 粧 品 としての利 活 用 とその変 遷 ・・・・・・・・・1 1. 序 論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 2. 生 物 資 源 と人 間 社 会 の進 化 と変 遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 3. 美 と健 康 産 業 における生 物 資 源 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 第2章 植 物 資 源 カムカムの血 管 内 皮 機 能 に及 ぼす影 響 の検 討 ・・・・・・・・・12 1. 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 2. 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 3. 結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 4. 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 第3章 動 物 資 源 エミューオイルの血 管 内 皮 機 能 に及 ぼす影 響 の検 討 ・・・・28 1. 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 2. 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 3. 結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 4. 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 第4章 植 物 資 源 カムカムの化 粧 品 素 材 としての安 全 性 評 価 ・・・・・・・・・・・・43 1. 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 2. 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 3. 結 果 と考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 第5章 動 物 資 源 エミューオイルの化 粧 品 素 材 としての機 能 性 および安 全 性 評 価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60 1. 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 2. 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
3. 結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 4. 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 第6章 官 能 評 価 におけるイメージ展 開 技 法 の開 発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86 1. 緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87 2. 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88 3. 結 果 と考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91 参 考 文 献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109 要 旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126 英 文 要 旨 (Abstract) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135
第 1 章
1. 序論 人 間 は,誕 生 してから今 日 まで,地 球 上 に存 在 しているあらゆる生 物 資 源 の 享 受 により生 命 活 動 を維 持 し,進 化 してきた。生 物 資 源 とは,広 義 においては 植 物 ,動 物 ,空 気 ,水 ,そして人 間 も含 めたあらゆる地 球 の産 物 とされている。 人 間 は誕 生 直 後 から生 物 資 源 を狩 猟 や捕 獲 などの方 法 で入 手 し,食 用 とし て,「生 きる」という基 本 的 な生 命 維 持 活 動 のために用 いる期 間 が長 く続 いた。 しかし約 1 万数千年前のドメスティケーションによる社会変化以降,「自然を支 配 して生 きる」という,人 間 の思 考 行 動 の著 しい変 化 が見 られた。このことは, 人 間 が自 然 環 境 の中 で他 の生 物 資 源 とは著 しく異 なる性 質 を有 することを示 している。これらの人 間 を取 り巻 く環 境 の変 化 は,脳 の「五 感 」に新 たな多 くの 情 報 を与 え,その結 果 として思 考 の多 様 化 につながり,現 代 においては「美 しく」 「健 やかに」「不 老 長 寿 」を目 指 すという思 考 を持 つように変 遷 し現 在 に至 って いる。一 方 で,五 感 や欲 望 の満 足 と反 して,人 間 が健 康 を損 ねて様 々な現 代 病 に蝕 まれているのも事 実 である(Vital statistics of Japan. 2016,Estimates of national medical care expenditure. 2014)。その結果,「美と健康」を維持した い現 代 の人 々は高 価 な薬 ,健 康 食 品 ,サプリメント,化 粧 品 などの利 用 に多 額
な出 費 をしている。この様 な傾 向 は,サプリメントの 2015 年度の売上高,1 兆
6000 千億円(president one line 調べ),化粧品,1 兆 8000 億円(輸入品を含 む)(化 粧 品 工 業 会 調 べ)という数 字 に表 れている。また,サプリメントの売 上 高 で「美 肌 ・肌 ケア」のサプリメントが約 1400 億円を占め,増加の一途を辿ってい る。 化 粧 品 以 外 においても,サプリメントに対 して「美 と健 康 」のケアに体 の内 部 からのケアを期 待 する傾 向 が強 くなり,化 粧 品 とのコラボレーションの効 果 を訴 求 する製 品 が増 加 してきた。健 康 食 品 やサプリメトがもたらす,体 内 および体
外 からの効 果 を体 感 しやすい皮 膚 の「美 と健 康 」に対 するサプリメントへの需 要 が高 まっていることは,「美 と健 康 」において内 外 美 容 への関 心 が高 まっている ことを表 していると考 えられる。 皮 膚 の美 しさは皮 膚 のケアによる直 接 的 外 観 美 であるが,体 の内 部 から生 じる「美 」と密 接 な関 係 がある。人 間 は皮 膚 に自 律 神 経 終 末 (痛 感 ,温 感 ,冷 感 )やマイスネル小 体 (触 覚 )などの感 覚 機 能 を有 しており,視 覚 ,触 覚 でこの 外 観 の美 を最 も早 く認 識 することが出 来 る。この外 見 の美 を代 表 する製 品 とし て,化 粧 品 が存 在 している。化 粧 品 (Cosmetics)の語源は宇宙(Cosmos)を意 味 し,このコスモスに対 比 する言 葉 はカオス(混 沌 ,無 秩 序 )である。科 学 は宇 宙 のカオスからコスモという「自 然 界 の秩 序 」の法 則 を構 築 し,ギリシャ人 は宇 宙 に存 在 する「美 的 な調 和 や秩 序 」を探 求 する事 が科 学 の出 発 点 であったと 考 えていた。Cosmetics はギリシャ語の「美の秩序」そのものを意味し,ギリシャ においては,コスモスがマクロコスモス(大 宇 宙 )とミクロコスモス(小 宇 宙 )に二 分 化 されていた。このことは,太 陽 や惑 星 が大 きな宇 宙 を支 配 する法 則 と小 さ な宇 宙 としての人 間 の身 体 の秩 序 があることを意 味 し,大 宇 宙 のコレスポンデ ンス(万 物 照 応 )がミクロコスモスの人 間 の体 にある作 用 を及 ぼし影 響 を与 える という思 想 であったことが記 されている。 現 代 においても,人 間 の知 的 な発 達 は「肉 体 (身 体 )と精 神 (心 )」のバランス (調 和 や秩 序 )が重 要 であり,世 界 保 健 機 関 の健 康 の定 義 においても定 められ ている。精 神 的 満 足 度 は行 動 に影 響 を及 ぼし,満 足 度 が高 ければより活 動 的 な行 動 変 容 となり,結 果 として身 体 的 健 康 へと繋 がる。化 粧 による外 観 への自 信 が健 康 を左 右 する要 因 の一 つだと考 えられ,「美 と健 康 の心 身 相 関 」と考 え ることができる。 これらのことからも,「美 と健 康 」を科 学 するには,「心 と身 体 」,身 体 の「内 面 と外 面 」を総 合 的 に考 察 する必 要 があると考 えられる。また,美 と健 康 に関 与 し
ている生 物 資 源 の薬 理 的 ,生 薬 的 成 分 が体 内 および皮 膚 の美 の効 果 の両 面 に作 用 するものを選 択 してそれを証 明 できれば,それは真 のコスモ(美 の秩 序 ) の集 大 成 としての「内 外 美 容 」(インナービューティー,アウタービューティー)と いう科 学 的 方 法 論 を確 立 できると考 えられる。 2. 生 物 資 源 と人 間 社 会 の進 化 と変 遷 2.1.生物資源の進化の歴史 今 から138 億年前のビックバーンの後,約 46 億年前に地球は誕生し,最初 の生 物 体 は地 球 の高 熱 熱 中 水 噴 出 からエネルギーを取 り出 すことが出 来 るバ クテリア「好 熱 菌 」であったとされている。学 問 的 には「LUCA=Last Universal Common Ancestor : 最終共通先祖」若しくは「MRCA=Most recent common ancestor」と呼ばれる(Fitch et al. 1987)。 これは 1977 年にカール・ウーズらに よって原 核 生 物 が古 細 菌 と真 正 細 菌 からなることが提 唱 され,これら原 始 的 バ クテリアは「細 胞 膜 」「代 謝 ・恒 常 性 」「複 製 」の 3 つの機能を持っていることから 生 物 の LUCA であると定義づけられた。 その後 ,光 合 成 をおこなう細 菌 (シアノバクテリア藻 類 など)類 が誕 生 し,酸 素 の供 給 が始 まった。そして,真 核 生 物 の出 現 ,多 細 胞 生 物 の出 現 が今 日 の生 物 資 源 の多 様 化 の原 点 (約 6 億年前)となった。光合成が盛んに行われ,それ により大 気 中 の酸 素 濃 度 は 20%にまで達し,オゾン層が形成され紫外線の光 毒 性 量 が減 少 して生 物 資 源 は多 く地 上 で生 存 できるようになった。その後 大 き な生 物 の進 化 ,変 革 はカンブリア爆 発 に起 因 する。この5.41 億年前に始まるカ ンブリア大 爆 発 は生 物 の歴 史 を大 きく変 え,生 物 資 源 には魚 類 ,植 物 などの 区 分 などの進 化 が起 こった。そして植 物 のように光 合 成 により自 らエネルギー を作 り出 す独 立 栄 養 生 物 が明 確 に存 在 し,他 の生 物 を食 べ生 存 エネルギーを
得 る動 物 の様 な従 属 栄 養 生 物 がはっきりと区 分 されるようになった。これら生 物 資 源 の進 化 ,種 類 の増 加 にと共 にその恩 恵 を最 大 限 利 用 して来 たのが,今 日 の人 間 である。 2.2.人類の進化の歴史 人 類 の祖 先 は約700 万年からアフリカのチンパンジーと別れてまったく別の進 化 を経 てきた(人 とチンパンジーの遺 伝 子 は 99%同じである)。人属がチンパン ジー亜 族 と人 亜 族 に分 かれ人 亜 族 が人 属 に分 類 され,約 25 万年,今日我々 現 代 人 類 であるホモサピエンス(Homo sapiens)誕生に至るまで複雑で多岐に わたる進 化 を遂 げた。人 類 の進 化 は生 物 資 源 との共 存 にあり,生 物 資 源 と人 との関 わり合 いは,明 らかに人 間 が動 物 ,植 物 を食 用 として「生 きる」という従 属 栄 養 摂 取 型 動 物 であるため,常 に適 宜 に移 動 して,あらゆる動 植 物 を食 用 として来 た。そこから,従 属 栄 養 型 人 間 の「生 きる」「より合 理 的 に生 きる」という 必 然 的 行 動 および思 考 が人 間 の進 化 に繋 がっている。結 果 として二 足 歩 行 , 火 の発 見 および道 具 の利 用 は脳 の発 達 を促 した。人 間 の脳 の発 達 はいろいろ な説 がある。このなかで,レイモンド・ダートは,知 能 の発 達 説 の一 要 因 は,狩 猟 仮 説 ,すなわち効 率 よく捕 獲 する行 動 および肉 食 による摂 取 エネルギーの 増 加 が脳 の発 達 に関 与 していることを提 唱 した。また 2004 年にユタ大学デニ ス・ブランブル博 士 は「長 距 離 歩 行 能 力 」広 い範 囲 での行 動 ,適 応 能 力 などの 認 知 的 錯 誤 が関 与 しているという報 告 している。心 理 学 者 ニコラス・ハンフリー は複 雑 化 してきた社 会 活 動 すなわち協 力 行 動 ,相 手 を見 る行 動 ,複 雑 な社 会 , 人 間 を理 解 する「心 の理 論 」が発 達 の原 点 と主 張 している。さらに,大 脳 皮 質 の発 達 と生 活 上 の変 数 (植 生 ,配 偶 システム)と群 の規 模 の大 きさなどの相 関 が脳 発 達 の役 目 を果 たしているという報 告 もある(Dunbar et al. 2001)。人類の 脳 は,生 物 資 源 の捕 獲 と狩 猟 を続 けながら自 然 界 に適 応 した人 間 の集 団 生
活 の中 で徐 々に発 達 してきたことは事 実 である。人 間 の欲 望 は,「生 きる」「より 合 理 的 に生 きる」という本 能 的 欲 望 の段 階 から今 日 の「より美 しく生 きる」「より 健 やかに生 きる」ことへと変 化 が生 じた。特 に先 進 国 においては食 物 供 給 が安 定 し,飽 食 で美 食 を楽 しむことへの「五 感 の働 きの変 化 」が生 まれ,狩 猟 時 代 には見 られなかった,偏 った生 物 資 源 を摂 取 する栄 養 のアンバランスが健 康 を 損 なう現 象 が多 く報 告 されている。 2.3.生物資源と人間の関わり 人 間 が農 耕 ,牧 畜 を始 める1 万年以前までは狩猟・採取時代が続いた。狩 猟 ・採 取 時 代 には生 物 圏 の中 で育 まれた人 間 圏 の存 在 が確 立 した,この時 代 は人 間 ・動 物 ・植 物 の理 想 的 循 環 社 会 (生 態 学 循 環 )であり,生 物 資 源 を主 役 としての理 想 的 な生 態 圏 が存 在 していた。狩 猟 採 取 で 手 に 入 れ る 食 物 か ら は 理 想 的 な 栄 養 が 得 ら れ た こ と が , 化 石 化 し た 骨 格 の 成 分 分 析 か ら 明 ら か に な っ て い る 。 何 十 万 年 も わ た っ て 人 間 は 環 境 に 十 分 適 応 し て い た と 考 え ら れ る 。 そ し て 古 代 の 狩 猟 ・ 採 取 民 族 は , 農 耕 民 族 よ り も 飢 え や 栄 養 不 良 は 少 な か っ た と 考 え ら れ る 。 一 般 に 背 が 高 く 健 康 で あ っ た が , 子 供 の 死 亡 率 が 高 く 平 均 寿 命 と し て は 30~ 40 歳 と 短 か っ た 。最 初 の 数 年 を 生 き 延 び る 子 供 は ,60 歳 ま で 生 存 で き る 可 能 性 が 高 く ,80 歳 代 も い た と 推 測 さ れ て い る 。 ま た , こ れ ら の 原 因 と し て 食 物 の 多 様 性 が 考 え ら れ て お り , 一 定 の 場 所 に 定 住 す る 農 耕 民 族 は , コ メ , ジ ャ ガ イ モ , 麦 な ど 身 近 で と れ る も の を 常 食 と し て い た た め 摂 取 食 物 が 偏 っ て い た が , 狩 猟 民 族 は , 移 動 先 地 域 の 多 種 多 様 な も の を 食 べ る こ と で 栄 養 の バ ラ ン ス が 良 か っ た と さ れ て い る 。 健 康 に 良 い 多 様 な 食 物 , 短 い 労 働 時 間 , 広 範 囲 な 歩 行 移 動 , 感 染 症 ( は し か , 天 然 痘 , 結 核 な ど ) の 少 な さ を 考 え 合 わ せ た 多 く の 先 行 研 究 に お い て は , 1 万 年 前 の 農 耕 社 会 以 前 の 狩 猟 社 会 つ ま
り 生 物 圏 と 人 間 圏 の 共 存 社 会 を 「 原 始 の 豊 か な 社 会 」 と 定 義 し て い る 。 農 耕 と牧 畜 の始 まりは,英 語 でドメスティケーション(Domestication)と呼ばれて いる(Halan et al. 1992)。人間が地球上に出現してしばらくは,その生活活動 のほとんどすべての時 間 を,食 料 源 として野 生 の植 物 を採 集 し,野 生 の動 物 を 狩 猟 することに費 やする採 集 ・狩 猟 生 活 が続 いた。そして今 からおよそ 1 万年 前 の新 石 器 時 代 に,農耕・牧畜生活という植物や動物に人間が密接に関わり 合 って食 料 生 産 をおこない,それに依 存 する生 活 様 式 をとるようになった。この ような生 活 様 式 の転 換 の過 程 で,人 間 は多 くの植 物 や動 物 をドメスティケートし てきた。 約1万年前から,人間は定住して農耕,牧畜の生産効率を上げるために 便 利 な 道 具 や 機 械 の 生 産 と 利 用 を 始 め た 。 生 物 資 源 の 中 で 植 物 支 配 を す る 農 耕 は 約1万1000年前,動物を支配する牧畜は約1万5000年前,鉱物を 支 配 す る 冶 金 技 術 は 約9000~9500年前から存在している。これは生物資 源 と は 異 な る 物 質 圏 の 台 頭 で あ り , 「 生 物 圏 ・ 人 間 圏 共 存 」 か ら 農 耕 , 牧 畜 を 始 め る こ と で 徐 々 に 「 物 質 ・ 人 間 圏 」 へ の ウ エ イ ト の シ フ ト が 始 ま っ た と い え る 。 ド メ ス テ ィ ケ ー シ ョ ン 以 後 , 利 便 性 の 追 求 に 伴 い 「 生 物 圏 と 人 間 圏 」 の バ ラ ン ス が 崩 れ , 「 自 然 を 支 配 し た い 」 と い う 欲 望 が 強 ま る 傾 向 を 示 し て き た 。 2.4 生物資源と人間の脳の(五感)発達 視 覚 ,聴 覚 ,触 覚 ,味 覚 ,嗅 覚 の 5 つの感覚器官は発達した脳と強い係わり 合 いを持 ち,五 感 の感 性 (感 受 性 )が本 能 に働 きかけて自 己 欲 望 を高 めてきた。 つまり,美 しいものを求 める「視 覚 」,美 味 しいものを求 める「味 覚 ,嗅 覚 」,快 感 を求 める「触 覚 」,などの欲 望 というモチベーションが高 くなった。五 感 の欲 望 と しての感 性 の中 に,人 間 は古 くから「美 しく健 やかで出 来 れば不 老 長 寿 」を願 う
欲 求 を抱 いてきた。生 物 資 源 は,その人 間 の「美 と健 康 」の欲 求 に恩 恵 を与 え てきた。動 物 や花 ,葉 ,実 ,根 などに存 在 するある種 の物 質 は人 間 の美 容 や健 康 に有 益 な成 分 であり,ある種 の原 料 は薬 として珍 重 がられて来 た。その歴 史 はインド大 陸 の伝 統 的 医 学 であるアーユルヴェーダ(Subhose et al. 2005),ギ リシャ・アラビアの医 学 であるユナニ医 学 ,そして中 国 医 学 の世 界 三 大 伝 統 医 学 として伝 承 され,相 互 に影 響 し合 って発 展 した。この事 は,生 物 資 源 と人 間 の「健 康 」との関 わり合 いを代 表 する事 例 の一 つである。また,化 粧 品 も伝 承 医 学 と同 様 古 くから「美 」を求 める女 性 の欲 望 を満 たす重 要 なものであった。皮 膚 は内 臓 の鏡 ,心 の鏡 と言 われ,体 の一 番 外 側 に位 置 する内 臓 である。した がって個 々の人 間 の「美 と健 康 」の疾 患 は視 覚 的 に観 察 できるバロメーターで, 理 想 的 な「美 と健 康 」を維 持 するためには体 内 外 の共 通 効 果 のある生 物 資 源 によるケアが必 要 であると考 えられる。 3.美と健康産業における生物資源 3.1.食用による生物資源の体内への影響 現 在 地 球 上 の土 壌 ,空 気 ,水 質 ,温 度 環 境 に適 応 した生 物 資 源 の種 類 は判 っているもので約 175 万種,未知の種が約 5000~3 万種とも言われている。既 知 の生 物 資 源 を植 物 資 源 と動 物 資 源 に大 別 できる。人 間 が食 用 として享 受 で きる繊 管 束 植 物 は約 27 万種であり,その中で人間に毒となる成分を有する植 物 は 100 種以上(中には濃度や利用の仕方で薬になるものもある)あり,更に 植 物 性 生 薬 (薬 用 植 物 )がある。動 物 資 源 は哺 乳 動 物 が約 6000 種,鳥類が 9000 種,昆虫が 95 万種以上と,植物に比べ圧倒的に多い。動物資源は狩猟 時 代 には殆 どすべてが常 食 に利 用 されたが,今 日 では常 食 にされるのは家 畜 として飼 育 された動 物 が殆 どである。
健 康 を維 持 するためには必 須 5 大栄養素(蛋白質,脂質,炭水化物,無機 物 ,ビタミン)はもとより,体 内 でほぼ作 り出 すことの出 来 ない栄 養 素 ,体 内 に 欠 乏 してはならない栄 養 素 を考 慮 する必 要 がある。現 代 社 会 では人 間 の食 物 摂 取 の種 類 や量 はかなり規 制 されているが,実 際 われわれは日 常 生 活 におい て,栄 養 よりも,美 味 しく好 きなものを優 先 させる傾 向 が強 い。 人 間 には約90 種類の必須栄養素が必要であるが,現実に体内で作ることが 出 来 ない或 は不 足 しがちな栄 養 素 はミネラルである。必 須 ミネラルは Ca, Fe,
Mg, Zn, K, P, Na, I, Se, Cr, Mn, Cu, S, CL などで,一日 100 mg の摂取が推奨 されている。これらミネラルの摂 取 が不 足 している要 因 の一 つとして,植 物 栽 培 の生 育 に用 いる化 学 肥 料 の影 響 による土 壌 環 境 の変 化 が考 えられている。一 方 ,20 世紀半ばまで食物中の脂肪は必須栄養素とみなされなかったがその後 多 くの報 告 により,脂 肪 酸 は体 内 での不 可 欠 栄 養 素 であることが判 明 した。特 に必 須 脂 肪 酸 として人 の体 内 で ω-6 脂肪酸のリノール酸と ω-3 脂肪酸リノレン 酸 は合 成 する事 が出 来 ず必 須 脂 肪 酸 とされている。人 における一 日 の摂 取 量 はリノール酸 4-5 g,リノレン酸 2g が推奨されている。ω-6 脂肪酸には血液凝 固 作 用 ,抗 炎 症 作 用 がありω-3 脂肪酸には抗炎症作用,動脈硬化を抑える働 きがあることが報 告 されている。 現 代 社 会 でのストレスやゆったりとした食 事 環 境 の欠 如 などから,上 記 の影 響 バランスの管 理 ,知 識 ,摂 取 方 法 は理 想 的 とは言 えなくなっている。そこで 栄 養 の補 給 としてサプリメント機 能 性 食 品 を補 助 品 として常 用 している。しかし 栄 養 の長 期 アンバランスは不 眠 やストレス,便 秘 ,冷 え性 ,免 疫 機 能 の低 下 を 引 き起 こし,これらが様 々な疾 病 にも繋 がっている。その影 響 は内 臓 の鏡 でも ある皮 膚 においても,肌 荒 れ,しわ,しみ,アクネ,敏 感 肌 ,肌 色 の悪 さなどとし て顕 著 に現 れてきている。これらの容 姿 への悪 影 響 が,更 なる「心 と身 体 」のア ンバランスを引 き起 こすことは近 年 多 く報 告 されている。
3.2.化粧品による生物資源の肌への影響 化 粧 品 に用 いられている汎 用 生 物 資 源 は,延 べにして数 百 種 を超 えると報 告 されている。植 物 資 源 からの化 粧 品 使 用 成 分 は植 物 の根 ,葉 ,茎 ,実 など から抽 出 した水 溶 性 のエキス類 が大 半 を占 める。市 場 においてはそれぞれの 成 分 の皮 膚 効 果 をデータ化 して安 全 性 確 認 後 ,化 粧 品 に使 用 可 能 な原 料 とな る。主 な皮 膚 への訴 求 効 果 は原 料 メーカーにより多 少 分 類 が異 なるが,メディ エーター制 御 ,抗 炎 症 ,基 底 膜 保 護 ,コラーゲン保 護 ,ヒアルロン酸 保 護 ,エラ スチン保 護 ,むくみ改 善 などが挙 げられる。抗 酸 化 ,紫 外 線 防 御 および免 疫 賦 活 などの訴 求 カテゴリーもある。 動 物 資 源 は,化 粧 品 としては動 物 油 の油 脂 効 果 が注 目 されていたが,牛 由 来 の油 脂 (牛 脂 ),硬 化 牛 脂 などは狂 牛 病 問 題 以 来 使 用 が減 少 した。このた め,植 物 由 来 のパーム油 ,硬 化 パーム油 など植 物 由 来 油 に代 替 されてきた。 一 方 貴 重 な動 物 油 である豚 ,馬 ,鳥 (ダチョウ,エミューなど),魚 などから取 れ る油 ,硬 化 油 については,現 在 も使 用 されている。これらの油 脂 類 は化 粧 品 の 基 剤 ,特 にクリーム,乳 化 製 品 のエモリエント剤 として重 要 で,またシャンプー・ トリートメントの過 脂 肪 剤 感 触 改 良 剤 ,メーキャップの粉 体 結 合 剤 などの化 粧 品 の主 要 原 料 でもある。今 日 では酸 化 安 定 性 の高 い植 物 油 脂 と同 等 の動 物 由 来 油 剤 が求 められている。特 に不 飽 和 脂 肪 酸 を有 する動 物 油 脂 の皮 膚 効 果 には,イコサノイド(=エイコサノイド=eicosanoid)の合成,細胞膜の強化, 皮 膚 再 生 促 進 ,老 化 防 止 などにおいて不 可 欠 である重 要 な資 源 となる。必 須 脂 肪 酸 の欠 乏 は皮 膚 の病 変 ,老 化 の一 要 因 となっており,エミューなどのリノ ール酸 ,リノレン酸 を含 む原 料 の皮 膚 への効 果 は重 要 であると考 えられる。こ のことから,動 物 油 脂 は化 粧 品 主 要 基 材 として本 来 の化 粧 品 の基 本 機 能 を高 め,かつ生 理 機 能 を改 善 する一 層 の効 果 が期 待 できる。
これまでに述 べたように,ヒトは有 史 以 来 ,天 然 の動 植 物 や農 水 畜 産 物 およ び微 生 物 などの生 物 資 源 を利 活 用 しながら生 活 をしている。原 始 時 代 は,生 命 活 動 を営 むために必 要 不 可 欠 なエネルギー源 や生 体 構 成 成 分 の補 給 のた めの栄 養 分 としての利 用 が主 であったと考 えられる。しかし,文 明 の発 展 ととも に,生 物 資 源 の利 活 用 の目 的 は変 遷 し,現 在 ではヒトの嗜 好 性 や健 康 の維 持 促 進 を目 的 とした利 用 法 など多 岐 にわたっている。生 物 やこれらが作 り出 す有 機 物 などの生 物 資 源 には,ヒトの生 活 向 上 に関 わる機 能 性 を有 するものが数 多 く存 在 する。これらを利 活 用 した製 品 ,すなわち,高 血 圧 や糖 尿 病 等 の生 活 習 慣 病 の予 防 など,ヒトの内 臓 機 能 を維 持 ・改 善 する機 能 を利 用 した「機 能 性 食 品 」,肌 や毛 髪 の美 しさを保 持 ・改 善 する機 能 を利 用 した「化 粧 品 」,香 り等 の作 用 によりリラックス効 果 やストレス解 消 機 能 などを有 した「トイレタリー製 品 」 が日 々開 発 されている。 そこで,本 研 究 では,生 物 資 源 の食 品 および香 粧 品 への利 活 用 のために, 第 2 および 3 章において,食品としての動植物資源がヒトの血管機能に与える 影 響 を評 価 する手 法 を新 規 に構 築 した。また,第 4 および 5 章においては,化 粧 品 としての動 植 物 資 源 の安 全 性 試 験 および抗 炎 症 性 の評 価 を実 施 した。さ らに,第 6 章においては,視覚や言葉のイメージから「香り」を創るための新規 技 法 を開 発 し,化 粧 品 やトイレタリー製 品 への応 用 を可 能 とした。
第 2 章
1. 緒言 植 物 性 資 源 の食 品 原 料 としての可 能 性 を検 討 するために,現 在 は食 品 原 料 残 渣 として扱 われているカムカムの果 皮 に着 目 した。カムカム(Myrciaria dubia)は,南米ペルーのアマゾン川流域の熱帯雨林に自生するフトモモ科の 常 緑 低 木 である。従 来 ,ペルーにおいてカムカムは,魚 の餌 や薪 として使 われ る程 度 であった。しかし近 年 ,その果 実 にビタミンCやポリフェノールなどの機能 性 成 分 が豊 富 に含 まれていることが明 らかになったことから,カムカム果 実 の 加 工 品 が製 造 ・輸 出 されるようになり,ペルーの農 村 地 域 を支 援 する新 規 産 業 として注 目 されている。 現 在 ,カムカムの果 実 は,飲 料 や食 品 ,化 粧 品 など多 岐 にわたる製 品 の材 料 としての需 要 が高 まっている。一 方 ,全 重 量 の約40 %にあたる残渣が産業 廃 棄 物 として処 理 されている。しかし,近 年 の研 究 により,廃 棄 物 であるカムカ ム果 皮 の抽 出 物 が,高 い抗 酸 化 性 や抗 菌 性 を示 すことが明 らかにされ,産 業 廃 棄 物 である果 皮 の有 効 活 用 が注 目 されている(Myoda et al. 2010,
Kaneshima et al. 2013,Kaneshima et al. 2015,Kaneshima et al. 2016, Kaneshima et al. 2017)。さらに,2007年,樫村らは,高血圧自然発症ラットを 用 いた研 究 により,カムカム果 皮 抽 出 物 が高 血 圧 を抑 える働 きを持 つことを示 唆 し,果 皮 が,血 管 機 能 の改 善 に有 効 である可 能 性 が示 された(樫 村 ら. 2007)。
心 血 管 疾 患 は,日 本 人 の死 因 において,悪 性 新 生 物 (ガン)に次 いで2番目
に多 い疾 患 である(Vital statistics of Japan, 2016,Estimates of national medical care expenditure, 2014)。近年の生活習慣の変化による,脂質異常症 や動 脈 硬 化 などがその主 な要 因 であると考 えられており,これらの疾 患 に対 し 予 防 効 果 のある機 能 性 食 品 の市 場 が拡 大 している。一 方 ,食 品 成 分 がヒトの
血 管 機 能 へ及 ぼす効 果 については,摂 取 した食 品 以 外 の要 因 が影 響 するた め,特 定 の食 品 の機 能 性 を明 確 に検 討 することは困 難 であった。この問 題 に 着 目 し,血 管 の血 流 依 存 性 血 管 拡 張 反 応 (Flow-mediated vasodilation : FMD)を用いた評価法に,独自の食事制限プロトコルを併用することで,食品 のFMDに対する機能性を評価する方法が報告されている。これまでに,この方 法 により食 用 サチャインチオイルの経 口 投 与 が人 におけるFMDを向上させるこ とが明 らかになっている(Minami et al. 2017)。そこで,本研究ではこの手法を 用 いてカムカム果 皮 抽 出 物 がヒトのFMDに与える影響を検討した。 2. 方 法 2.1. 対象 被 験 者 は本 研 究 に同 意 し,循 環 器 系 の疾 患 および病 歴 を有 せず,その他 い かなる疾 患 の治 療 および服 薬 を行 っていない大 学 生20名(21.4 ± 1.0歳:男性 10名 ,21.2 ± 0.6歳,女性10名,21.6 ± 1.3歳)を対象とした。対象者の身体的 特 徴 は表1に示した。対象者に対し,研究の趣旨と内容について書面および口 頭 で十 分 な説 明 を行 い,対 象 者 の自 由 意 思 の下 で文 書 により同 意 を得 た。な お,本 研 究 は東 京 農 業 大 学 ヒトを対 象 とした研 究 倫 理 規 定 (承 認 番 号1713)に 従 い実 施 した。 2.2.摂取試料(カムカム果皮抽出物) 1.5 kgの乾燥したカムカム果実の果皮に,2倍量の50%エタノールを添加して 2時間撹拌した。これを濾紙でろ過してろ液を集めた。残渣に対して同量の50% エタノールを添 加 して上 述 と同 様 の操 作 を2回繰り返した。ろ液をまとめてエバ ポレーターに供 し,溶 媒 を留 去 した後 ,凍 結 乾 燥 して乾 固 した(Fig. 1)。
1回の投与量は,食用ソフトカプセル(松屋)に直接抽出物を封入した状態で 3粒(25 mg/粒)75 mgとし実験開始の3時間前に摂取させた。対照実験時のカ プセルは同 量 の水 を封 入 し用 いた。 2.3.食事制限プロトコル併用FMD測定法 本 研 究 におけるFMD測定は,摂取するカムカム果皮抽出物以外の食品によ る影 響 を除 外 するために,実 験 前 日 の3食と実験当日の朝食をすべての被験 者 において統 一 する食 事 制 限 プロトコル併 用FMD測定法(Minami et al. 2017) を用 いた(Fig. 2)。 各 被 験 者 における食 事 制 限 は,身 体 活 動 量 質 問 票 (坂 手 ら.2008)を用いて 1日あたりの消費カロリー量を算出し,同量の栄養補助食品(シスコーン,日清 食 品 )を摂 取 させた。平 均 的 な1食(40 g)の主な栄養素は,たんぱく質1.8 g, 脂 質0.28 g,炭水化物36.0 g,ナトリウム218.0 mg,カルシウム123.0 mg,鉄4.0 mg,ナイアシン4.0 mg,パントテン酸0.72 mg,ビタミンA 110.0 µg,ビタミンB1 0.3mg,ビタミンB2 0.07 mg,ビタミンB6 0.48 mg,ビタミンB12 0.20 µg,ビタミンC 32.0 mgおよび葉酸60.0 µgであった。また,栄養補助食品摂取において日本 人 の食 事 摂 取 基 準 に定 められている推 奨 量 の牛 乳 を使 用 した。 FMD測定は日本循環器学会ガイドラインに則り実施した。FMD測定前に各 被 験 者 の安 静 時 血 圧 を血 圧 計 (ES-P2000, テルモ)にて測定し,10分以上の 安 静 後 に,安 静 時 血 圧 からさらに40 mmHg加圧したカフにより前腕を5分間駆 血 した。 安静時から駆血解放後110秒までの上腕動脈を超音波画像診断装
置 (LOGIQ P6, GE Healthcare, Little Chalfont, UK)で心電図波形と共に撮影
し録 画 を実 施 し,心 筋 収 縮 期 の上 腕 動 脈 径 を FMDscope software(メディアク
ロス)により算 出 した。その後 ,血 管 拡 張 率 (%FMD)を下記の式を用いて算出
%FMD =最 大 拡 張 血 管 径 𝑚𝑚 − 安静時血管径 𝑚𝑚 安 静 時 血 管 径 𝑚𝑚 ×100 2.4.統計処理 実験結果は,平均値±標準偏差で表記し,群間有意差の有無は,対応のあ るt検定を用いて統計学的分析を行った。 p 値が0.05 以下を有意とした。 3. 結果 3.1.安静時血圧および上腕動脈径 カムカム果 皮 抽 出 物 非 投 与 時 および投 与 時 の安 静 時 血 圧 および安 静 時 上 腕 動 脈 径 をTable 1に示した。安静時血圧は男女ともに,収縮期および拡張期 のいずれにも,カムカム果 皮 抽 出 物 投 与 による変 化 は認 められなかった。同 様 に,安 静 時 上 腕 動 脈 径 においても男 女 ともにカムカム果 皮 抽 出 物 摂 取 による 変 化 は認 められなかった。 3.2.FMD カムカム果 皮 抽 出 物 の投 与 が血 流 増 大 時 の血 管 径 に与 える影 響 を明 らかに するため,安 静 時 と血 流 増 大 時 の血 管 径 を比 較 し,その拡 張 率 を%FMDとし て求 めた。その結 果 ,男 性 においてカムカム果 皮 抽 出 物 非 投 与 時 の%FMDが 9.1 ± 1.8%であったのに対して,カムカム果皮抽出物投与時では,11.5 ± 1.8% であり,カムカム果 皮 抽 出 物 の投 与 により有 意 に%FMDが増大した(Fig. 3,p < 0.01)。女性においてもカムカム果皮抽出物非投与時が9.8 ± 2.3%に対して, カムカム果 皮 抽 出 物 投 与 時 が12.2 ± 3.6%であり,カムカム果皮抽出物の投与
により有 意 に%FMDが増大した(Fig. 3,p < 0.05)。また,男女の総計において もカムカム果 皮 抽 出 物 非 投 与 時 が9.4 ± 2.0%,カムカム果皮抽出物投与時が 11.8 ± 2.7%であり,カムカム果皮抽出物の投与により有意に血管拡張率が増 大 した(Fig. 3,p < 0.01)。一方,カムカム果皮抽出物による%FMD上昇作用 の男 女 間 差 異 を明 らかにするため,カムカム果 皮 抽 出 物 投 与 時 の%FMDから 水 投 与 時 の%FMDを差し引いたΔ%FMDを比較した。その結果,男性のカムカ ム果 皮 抽 出 物 による拡 張 率 は2.4 ± 2.2%,女性で2.4 ± 4.0%であり,男女間で 有 意 差 は認 められなかった(Fig. 4)。 4. 考 察 カムカムは,ペルーのアマゾン川 流 域 に自 生 する植 物 である。近 年 ,その果 実 にビタミンCやポリフェノールなどの有効性成分が豊富に含まれていることが 明 らかになったことから,その需 要 が増 大 し,カムカムの栽 培 や加 工 品 の製 造 など,ペルーに新 規 の産 業 が創 出 されている。一 方 でカムカム果 実 の加 工 工 程 において,果 皮 は廃 棄 物 として処 理 されていた。近 年 ,カムカム果 皮 からの 抽 出 液 が,高 血 圧 自 然 発 症 ラットへの血 管 収 縮 などに関 与 するアンジオテンシ ンⅡタイプ1受容体の発現を減少させ,血圧上昇を抑制することが報告されて いる(樫 村 ら.2007,樫村ら.2008,田中ら.2014)。また,本研究により,ヒト介 在 試 験 においても,カムカム果 皮 抽 出 物 がFMDを向上させることが明らかにな った。これらのことから,カムカム果 実 は,これまで廃 棄 されていた果 皮 を用 い た機 能 性 食 品 への応 用 など,さらなる産 業 の創 出 が期 待 される。 血 管 内 皮 機 能 の障 害 は,冠 動 脈 疾 患 などを含 む様 々な血 管 疾 患 と関 連 が 高 いことが報 告 されている(Pajendran et al. 2013,Deanfield et al. 2007, StLeger et al. 1979)。血管張力は,血管収縮因子であるアンジオテンシンⅡ,
トロンボキサン,エンドセリン-1およびセロトニンなどと,血管拡張因子であるNO, ブラジキニンおよびプロスタサイクリンなどにより調 整 されている。この中 でも, L-アルギニンを基質とした血管内皮細胞由来のNOは,血管緊張調節におい て重 要 な役 割 を果 たしている(Pajendran et al. 2013)。これらの血管緊張調節 と食 品 の関 係 において,ポリフェノール化 合 物 との関 連 性 がいくつか見 出 され てきた。例 えば,赤 ワインに含 まれるポリフェノール化 合 物 (Red Wine Polyphenolic Compounds; RWPC)によるLDLコレステロールの酸化抑制作用 (Frankel et al. 1993),血清酸化抑制(Whitehead et al. 1995),血小板凝集を
原 因 とする血 栓 症 の阻 害 作 用 (Demrow et al. 1995)などが報告されてきた。ま た,ラットの血 管 においてRWPC濃度依存的に血管内皮依存性の血管弛緩作 用 が増 大 することが報 告 されている(利 ら.2005)。健常成人を対象とした急性 の影 響 に関 しては,黒 大 豆 種 皮 由 来 ポリフェノールが,培 養 した血 管 内 皮 細 胞 において用 量 依 存 的 にNO産生量の増加および内皮細胞型NO合成酵素発現 量 を増 加 させることが報 告 されている(難 波 ら.2013)。さらに,ココアの単回摂 取 においてフラボノール濃 度 依 存 性 に,血 管 内 皮 依 存 性 の一 酸 化 窒 素 レベル および血 管 張 力 調 整 低 下 に関 与 するアルギナーゼの活 性 を低 下 することが報 告 されている(Oliver et al. 2008)。これらの先行研究の結果は,ポリフェノール 化 合 物 が血 管 内 皮 細 胞 へ何 らかの作 用 を示 し,これが引 き金 となって血 管 拡 張 反 応 が引 き起 こされることを示 唆 している。カムカム果 実 において,果 汁 には 豊 富 なポリフェノールが含 まれていることが示 されているが,果 皮 中 には,さら に多 くのポリフェノールが含 まれていることが報 告 されており(Zanatta et al. 2005),本研究で使用した果皮抽出液中にも,129 mg/gのポリフェノール化合
物 が含 まれていた(data not shown)。したがって,今回我々が示したカムカム果
皮 抽 出 物 によるFMD向上においても含有されるポリフェノール化合物が影響を 及 ぼした可 能 性 が考 えられる。FMDは,日本循環器学会において測定の指針
が示 され血 管 内 皮 機 能 の指 標 とされている。本 研 究 もその指 針 に基 づいて実 施 した。また,用 量 依 存 性 の判 定 を用 いていない先 行 研 究 (Oliver et al. 2008, Davide et al. 2008)をモデルとして,対象服用物以外の経口摂取物を全て統 一 し実 施 した。しかし,人 を対 象 とした本 手 法 においては,カムカム果 皮 抽 出 物 が血 流 依 存 性 血 管 拡 張 反 応 の機 序 を明 らかにすることは困 難 であると考 えら れる。今 後 さらに,血 管 内 皮 機 能 を直 接 的 に向 上 させるのか,または,血 管 平 滑 筋 の収 縮 を抑 制 することで拡 張 反 応 が向 上 するのかなどの機 序 および作 用 する成 分 同 定 など詳 細 な検 討 が必 要 であると考 えられる。また,本 研 究 では, 循 環 器 系 に病 歴 のない18〜28歳の被験者を対象とした実験を実施した。Fig. 3に示すように,本研究の被験者の平常時のFMDは,およそ6〜8%付近であっ た。一 般 的 にFMDが6%を下回る場合,血管内皮の機能が低下していると考え られることから,今 回 の被 験 者 は,血 管 内 皮 の機 能 に異 常 はないと言 える。し たがって,今 回 の研 究 では,カムカム果 皮 が「正 常 なFMD」を“さらに拡 張 促 進 ” させる働 きがあることが示 された。一 方 ,何 らかの循 環 器 系 疾 病 を発 症 してい ないが,血 管 内 皮 の機 能 が低 下 した被 験 者 ,すなわち,“未 病 ”と呼 ばれる対 象 者 を対 象 とした研 究 を進 めることで,低 下 した循 環 器 機 能 の“改 善 ”への影 響 を明 らかにすることができるものと期 待 される。
Table 1. Characteristics of the subjects, serum measurement and blood pressure.
Male Female Total
Hight (cm) 168.5 ± 4.2 155.7 ± 4.8 162.1 ± 7.9 Weight (kg) 57.3 ± 4.8 49.7 ± 4.8 53.5 ± 6.1 Blood pressure at rest (mmHg) Systolic Cont 115.8 ± 10.0 93.6 ± 14.2 104.7 ± 16.5 Camu Camu 109.8 ± 9.6 94.0 ± 9.1 101.9 ± 12.2 Diastolic Cont 65.8 ± 10.8 59.3 ± 5.7 62.6 ± 9.1 Camu Camu 64.1 ± 6.8 57.6 ± 7.8 60.9 ± 7.9 Arterial diameter (mm) Cont 3.57 ± 0.32 3.05 ± 0.47 3.31 ± 0.47 CamuCamu 3.45 ± 0.31 2.88 ± 0.34 3.23 ± 0.45
Fig.1. Preparation of extract from CamuCamu peel. Dry powder
CamuCamu peel
50 EtOH
Dry powder weight ×2 Churning 2hr Room temperature Filtration 50 EtOH residue ×2 Concentration Exsiccation measure polyphenolic content
Folin-Ciocalteu
Fig.3. Change in the arterial diameter after releasing pressure applied to the antebrachial region via a pressure cuff in CamuCamu or placebo dosed Male. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) J I H G F E D C B A Male Figure1
Fig.4. Change in the arterial diameter after releasing pressure applied to the antebrachial region via a pressure cuff in CamuCamu or placebo dosed Female. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 AD ( m m ) Time ( sec ) J I H G F E D C B A Female Figure2
Fig. 5. Expansion rate of the FMD at baseline and after a
single-dose administration of CamuCamu peel extract or placebo (water). Data represents the mean of all subjects, and the error bars indicate the standard deviation. **, p < 0.01.
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0
Control CamuCamu Control CamuCamu Control CamuCamu
Male Female Total
FM
D
(
%
Fig. 6. Change of the FMD after a single-dose administration of CamuCamu. ΔFMD=(FMD at after single-dose CamuCamu) –(FMD at single-dose water). Data represents the mean of all subjects, and the error bars indicate the standard deviation.
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 Male Female Δ F MD (% )
第 3 章
1. 緒言 動 物 性 資 源 の食 品 原 料 としての可 能 性 を検 討 するために,現 在 は主 に化 粧 品 原 料 として使 用 されているエミューオイルに含 まれる不 飽 和 脂 肪 酸 に着 目 し 検 討 を実 施 した。心 血 管 疾 患 による死 者 は,日 本 人 の死 因 において,悪 性 新 生 物 (ガン)に次 いで,2番目に多く,医療費ベースでは,日本において最もコス トのかかる疾 患 の一 つとなっている(厚 生 労 働 省. 2014,厚生労働省. 2016)。 現 在 ,喫 煙 ,高 血 圧 ,高 コレステロールなど,循 環 器 系 への負 担 となる短 期 リ スクは,公 衆 衛 生 や啓 蒙 活 動 により,徐 々に低 下 しつつある(Berry et al. 2012)。しかし,これらの要因とは関係なく,食生活などの生活習慣管理が,心 血 管 疾 患 への生 涯 リスクに影 響 することが報 告 されている(Berry et al. 2009, Marma et al. 2010)。一方,α-リノレン酸などの不飽和脂肪酸であるω-3脂肪酸
は,脂 質 代 謝 を促 進 する機 能 をもち(Alexander et al. 1998,Kummerow et al.
1983, Zammit et al. 1999,Lin et al. 1999),冠動脈疾患のリスクを軽減する ことが示 されている(Hong et al. 2012,Puca et al. 2008,梅村ら. 1993)。また, ω-3脂肪酸を多く含む食品が,心血管疾患の予防に有用であるとの報告から, 生 活 習 慣 病 としての循 環 器 疾 患 を予 防 する効 果 をもつ食 品 として広 く注 目 され ている(Adkins et al. 2010,Kromhout et al. 2012,Wang et al. 2012)。
エミューオイルは,オーストラリア原 産 の走 鳥 類 の一 種 であるエミュー
(Dromaius novaehallandiae)(Yokohama et al. 2014)の皮下脂肪組織および
腹 膜 脂 肪 組 織 から抽 出 されるオイルである(Beckerbauer et al. 2001)。エミュー
オイルは,食 用 としても利 用 が可 能 で,オレイン酸 やリノール酸 ,α-リノレン酸な
どの必 須 脂 肪 酸 を多 く含 む。このうち,α-リノレン酸 はω-3脂 肪 酸 の一 種 であり,
エミューオイルの経 口 摂 取 による機 能 性 については,ほとんど検 討 されていな い。 これまでに血 管 機 能 への影 響 を検 討 した研 究 のほとんどは,実 験 動 物 あるい は培 養 細 胞 を用 いたものである。また,ヒトを対 象 とした研 究 も実 施 されている ものの,現 在 ,実 施 されている血 圧 測 定 法 や脈 波 伝 播 速 度 測 定 法 では,摂 取 した食 品 以 外 の要 因 が影 響 を及 ぼすため,食 品 の機 能 性 を明 確 に検 討 するこ とは困 難 であった。Minamiらは,血管の血流依存性血管拡張反応(Flow mediated vasodilation, FMD)を利用した新規の血流依存性血管拡張反応の 測 定 法 を確 立 した(Minami et al. 2017)。
一 酸 化 窒 素 (Nitric oxide, NO)は,血管緊張を調節する因子であり,血管内
皮 細 胞 によって産 生 され,血 管 径 を拡 張 する働 きをもつ。NOは血液の流れに
よって生 じる“ずり応力”によっても産生されるため,血流の増大に対して血管を
拡 張 させることで血 管 緊 張 を調 節 している。この血 流 の増 大 に応 じた血 管 径 の
拡 張 を測 定 することで血 管 機 能 を評 価 する方 法 がFMDの測定である。FMDの
測 定 は,統 一 された手 法 が提 唱 されており,医 薬 の血 管 機 能 改 善 に対 する有
効 性 を評 価 する手 法 として広 く利 用 されている(NHLBI. 2013,Vital statistics
of Japan. 2016)。このFMDを用いた評価法に,さらに独自の食事制限プロトコ ルを併 用 することで,食 品 の血 管 機 能 に対 する有 効 性 を評 価 する方 法 が確 立 された(Minami et al. 2017)。本研究では,食事制限プロトコル併用FMD測定 を用 いた評 価 法 により,食 用 エミューオイルの単 回 投 与 が若 年 成 人 の血 管 機 能 に与 える影 響 を検 討 した。 2. 方法 2.1.対象
被 験 者 は本 研 究 に同 意 し,循 環 器 系 の疾 患 および病 歴 を有 せず,その他 い かなる疾 患 の治 療 および服 薬 を行 っていない大 学 生20名 (21.4 ± 1.0歳:男性 10名,21.2 ± 0.6歳,女性10名,21.6 ± 1.3歳)を対象とした。対象者の身体的 特 徴 はTable 1に示した。対象者に対し,研究の趣旨と内容について書面およ び口 頭 で十 分 な説 明 を行 い,対 象 者 の自 由 意 思 の下 で文 書 により同 意 を得 た。 なお,本 研 究 は東 京 農 業 大 学 ヒトを対 象 とした研 究 倫 理 規 定 に従 い実 施 した。 2.2.摂取試料(エミューオイル) エミューオイルは,東京農業大学バイオインダストリー製のエミューオイル(ミリ スチン酸0.21%,パルミチン酸19.82%,パルミトレイン酸3.46%,ステアリン酸 17.68%,オレイン酸46.34%,リノール酸11.79%,α-リノレン酸0.70%)を使用し た(Fig. 1)。投与量は,50.00 mgとし,食用カプセル(松屋)に封入した。また, プラセボとして同 量 の水 をカプセルに封 入 して投 与 した。 各 試 験 試 料 の投 与 は,実 験 開 始 の3時間前とし,同一被験者の実験は2週 間 以 上 の間 隔 を開 けた。なお,食 用 エミューオイルとプラセボ試 料 の投 与 順 序 は無 作 為 に決 定 した。 2.3.食事制限プロトコル併用FMD測定法 本 研 究 におけるFMD測定は,摂取するエミューオイル以外の食品による影響 を除 外 するために,実 験 前 日 の3食と実験当日の朝食をすべての被験者にお いて統 一 する食 事 制 限 プロトコル併 用FMD測定法(Minami et al. 2017)を用 いた。 各 被 験 者 における食 事 制 限 は,身 体 活 動 量 質 問 票 (坂 手 ら.2008)を用い1 日 あたりの消 費 カロリー量 を算 出 し,同 量 の栄 養 補 助 食 品 (シスコーン,日 清 食 品 )を摂 取 させた。平 均 的 な1食(40.00 g)の主な栄養素は,たんぱく質1.80
g,脂質0.28 g,炭水化物36.00 g,ナトリウム218.00 mg,カルシウム123.00 mg, 鉄4.00 mg,ナイアシン4.00 mg,パントテン酸0.72 mg,ビタミンA 110.00 µg,ビ タミンB1 0.30mg,ビタミンB2 0.07 mg,ビタミンB6 0.48 mg,ビタミンB12 0.20 µg, ビタミンC 32.00 mgおよび葉酸60.00 µgであった。また,栄養補助食品摂取 において日 本 人 の食 事 摂 取 基 準 に定 められている推 奨 量 の牛 乳 を使 用 した。 FMD測定は日本循環器学会ガイドラインに則り実施した。FMD測定前に各 被 験 者 の安 静 時 血 圧 を血 圧 計 (ES-P2000, テルモ)にて測定し,安静時血圧 からさらに40 mmHg加圧したカフにより前腕を5分間駆血した。 安静時から駆 血 解 放 後110秒までの上腕動脈を超音波画像診断装置(LOGIQ P6, GE
Healthcare, Little Chalfont, UK)で心電図波形と共に撮影し録画を実施した。 その後 ,心 筋 収 縮 期 の上 腕 動 脈 径 を FMDscope software(メディアクロス)に より算 出 した。その後 ,血 管 拡 張 率 (%FMD)を次項の式を用いて算出した。 %FMD =最 大 拡 張 血 管 径 𝑚𝑚 − 安静時血管径 𝑚𝑚 安 静 時 血 管 径 𝑚𝑚 ×100 2.4.血清脂質 各 試 料 摂 取3時間後の血中高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)および 低 比 重 リポ蛋 白 コレステロール(LDL-C)をアリーアアナライザーAS100(Alere Inc., Waltham, MA, USA)により測定した。
2.5.統計処理
実験結果は,平均値±標準偏差で表記し,群間有意差の有無は,対応のあ るt検定および二元配置分散分析およびTukeyの多重比較を用いて統計学的 分 析 を行 った。 p 値が0.05 以下を有意とした。
3. 結果 3.1.エミューオイル投与の安静時血圧および血中脂質に対する影響 エミューオイル非 投 与 時 および投 与 時 の安 静 時 血 圧 および血 中 脂 質 の結 果 をTable 1に示した。安静時血圧は男女ともに,収縮期および拡張期のいずれ にも,エミューオイル投 与 による変 化 は認 められなかった。同 様 に,HDL-Cおよ びLDL-Cにおいても男女ともにエミューオイル摂取による変化は認められなか った。 3.2.エミューオイル投与の安静時上腕動脈径に対する影響 エミューオイル投 与 が通 常 の血 流 条 件 下 での上 腕 動 脈 径 に与 える影 響 を明 らかにするために,安 静 時 上 腕 動 脈 径 を超 音 波 画 像 診 断 装 置 によって測 定 し た。その結 果 ,男 性 においてエミューオイル非 投 与 時 の上 腕 動 脈 径 が3.74 ± 0.44 mmであったのに対して,エミューオイル投与時のそれは,3.51 ± 0.36 mm であり2条件間に有意差は認められなかった。女性においてもエミューオイル非 投 与 時 が2.99 ± 0.48 mm,エミューオイル摂投与が2.93 ± 0.39 mmであり2条 件 間 に有 意 差 は認 められなかった。また,男 女 の総 計 においてもエミューオイ ル非 摂 取 時 が3.36 ± 0.60 mmに対して,エミューオイル摂取時が3.22 ± 0.39 mmであり2条件間に有意差は認められなかった(Fig. 3)。一方,エミューオイル 非 投 与 および投 与 のいずれの条 件 においても,男 性 の安 静 時 上 腕 動 脈 径 は, 女 性 のそれよりも大 きかった(Fig. 3, p < 0.01)。 3.3.エミューオイル投与のFMDに対する影響 エミューオイルの投与が血流増大時の血管径に与える影響を明らかにするた め,安 静 時 と血 流 増 大 時 の血 管 径 を比 較 し,その拡 張 率 を%FMDとして求め
た。その結 果 ,男 性 においてエミューオイル非 投 与 時 の%FMDが9.1 ± 1.6%で あったのに対 して,エミューオイル投 与 時 では,11.6 ± 1.1%であり,エミューオイ ルの摂 取 により有 意 に%FMDが増大した(Fig. 4,p < 0.01)。 女 性 においてもエミューオイル非 投 与 時 が10.0 ± 1.1%に対して,エミューオイ ル投 与 時 が12.0 ±1.2%であり,エミューオイルの投与により有意に%FMDが増 大 した(Fig. 4,p < 0.01)。また,男女の総計においてもエミューオイル非投与 時 が9.6 ± 1.6%,エミューオイル投与時が11.8 ± 1.1%であり,エミューオイルの 摂 取 により有 意 に血 管 拡 張 率 が増 大 した(Fig. 4,p < 0.01)。一方,エミューオ イルによる%FMD上昇作用の男女間差異を明らかにするため,エミューオイル 投 与 時 の%FMDからプラセボ投与時の%FMDを差し引いたΔ%FMDを比較し た。その結 果 ,Fig. 5に示したように男女間で有意差は認められなかった。 4 考 察 本 研 究 では,先 に確 立 された食 事 制 限 プロトコル併 用FMD測定法(Minami et al, 2017)を利用し,食用エミューオイルの単回投与が若年成人の血管機能 に与 える影 響 を検 討 した。その結 果 ,エミューオイルの単 回 投 与 は,通 常 時 の 血 管 径 には影 響 しないが,血 流 の増 大 時 にのみ血 管 拡 張 反 応 の増 大 を引 き 起 こした。このことから,エミューオイルの単 回 投 与 は,血 流 増 大 にともなって血 管 拡 張 を増 大 させることで血 圧 の上 昇 を抑 制 する効 果 があることを示 唆 してい る。すなわち,本 研 究 の成 果 から,エミューオイルを経 口 的 に摂 取 することによ りヒトのFMDを高める機能があることが初めて示された。 血 流 の増 加 に伴 う血 管 拡 張 反 応 であるFMDは,血流にともなう“ずり応力”に 対 して血 管 内 皮 細 胞 によって産 生 されたNOが血管の拡張を引き起こす反応 の指 標 の一 つとされている。これまでに,血 管 内 皮 細 胞 と脂 肪 酸 の関 係 につい
て,ラットから摘 出 された血 管 を用 いた試 験 においては,ω-3脂肪酸に対し濃度 依 存 的 に血 管 拡 張 作 用 が増 大 することが報 告 されている(Yin et al. 2016)。こ の報 告 では,血 管 内 皮 細 胞 を除 去 した場 合 には,血 管 拡 張 反 応 が低 下 するこ とから,ω-3脂肪酸による血管拡張作用には,血管内皮細胞が関与している可 能 性 が示 唆 された。また,Englerらも,ラット摘出大動脈血管の内皮細胞除去 によりω-3脂肪酸による血管拡張反応が減少することを報告している(Engler et al. 1994)。また,我々はこれまでに,高いω-3脂肪酸含量を示すサチャインチ オイルの単 回 経 口 投 与 による血 管 拡 張 反 応 の促 進 を報 告 している(Minami et al. 2017)。これらの先行研究の結果は,ω-3脂肪酸が血管内皮細胞へ何らか の作 用 を示 し,これが引 き金 となって血 管 拡 張 反 応 が引 き起 こされることを示 唆 しており,今 回 の我 々の結 果 と一 致 する知 見 である。しかし,サチャインチオ イルに含 まれるω-3脂肪酸が全脂肪酸中45.5%と非常に高い割合であるのに 対 し,本 研 究 のエミューオイルに含 まれるω-3脂肪酸(α-リノレン酸)は,0.70% と非 常 に低 い値 であった。FMD測定は,血管内皮機能評価の一つとされてい るが,血 管 内 皮 機 能 を起 因 とした血 管 張 力 調 節 において,血 管 内 皮 機 能 にか かわらず,血 管 平 滑 筋 の弛 緩 作 用 が増 大 した場 合 においてもFMDが向上する 可 能 性 が考 えられる。 これまでに,脂肪酸が血管に与える影響として,ω-3およびω-6系脂肪酸が血 管 弛 緩 作 用 を持 つことが報 告 されている(Engler et al. 1992)。本研究で用いた エミューオイルに含 まれるω-6系脂肪酸であるリノール酸は,サチャインチオイ ル全 脂 肪 酸 中 の35.50%より低値の11.79%であった。Silviaらは,豚の冠動脈 においてナトリウム・カリウムポンプを介 して,リノール酸 濃 度 依 存 性 に弛 緩 ,過 分 極 が誘 発 されることを報 告 している(Silvia et al. 1998)。これらのことからも, 本 研 究 における流 量 依 存 性 血 管 拡 張 反 応 の促 進 は,リノール酸 による血 管 弛 緩 作 用 も関 与 していることが推 察 される。また,直 接 的 な比 較 は出 来 ないが,
血 管 拡 張 反 応 に影 響 を及 ぼすω-3およびω-6系脂肪酸の合計含有割合がエミ ューオイルでは,12.49%であるのに対して,サチャインチオイルでは81.00%と非 常 に高 いことが%FMDの違いに影響を及ぼしていることも推察される。本研究 結 果 から,エミューオイルがFMD反応を促進する機序は明らかにできないが, サチャインチオイルと比 較 してω-3およびω-6系脂肪酸含有割合の低いエミュー オイルの経 口 摂 取 においてもFMD反応が促進される事が明らかになった。 この他 にも,血 管 緊 張 の調 節 には,血 管 収 縮 性 作 動 物 質 に対 する受 容 体 の 上 方 制 御 (Chen et al. 1996,Cocks et al. 1983)や脱感作(Johnson et al. 2000, Shimaoka et al. 1998)など多岐にわたっている。しかし,本研究においてエミュ ーオイルがどの様 な機 序 でFMDを向上させたかを特定することは困難である。 このことから,今 後 は,エミューオイルに含 まれるω-3脂肪酸以外の成分が血管 拡 張 反 応 に与 える影 響 についても検 討 を進 める必 要 があると考 えられる。さら に,動 物 実 験 や培 養 細 胞 を用 いた実 験 などを併 用 することで,エミューオイル が循 環 器 系 に与 える影 響 を網 羅 的 に解 析 する必 要 がある。 一 方 ,Fig. 6に示すように,血管内皮機能の低下が,心血管疾患に繋がるこ
とが報 告 されており(Rajendran et al. 2013,Deanfield et al. 2007),エミューオ
イルの摂 取 は,血 管 拡 張 作 用 とともに血 管 疾 患 の予 防 ・改 善 に繋 がることが 予 想 される。したがって,単 回 投 与 による影 響 だけでなく,日 常 的 なエミューオ イルの摂 取 が血 管 機 能 に与 える影 響 を調 べる必 要 があるだろう。また,本 研 究 では,循 環 器 系 に病 歴 のない被 験 者 を対 象 とした実 験 を実 施 したが,循 環 器 系 の機 能 が低 下 した被 験 者 を対 象 とした研 究 を進 めることで,循 環 器 機 能 の 改 善 への影 響 を明 らかにすることができるものと期 待 される。
Table 1. Characteristics of the subjects, serum measurement and blood pressure.
men women total
Age (yr) 21.2 ± 0.6 21.6 ± 1.3 21.4 ± 1.0 Hight (cm) 170.9 ± 5.1 156.6 ± 7.1 163.8 ± 9.5 Body weight (kg) 62.4 ± 7.5 52.4 ± 5.8 57.4 ± 8.3 Serum HDL-C (mg/dl) Cont 64.6 ± 13.1 6 2 . 3 ± 18.0 6 3 . 5 ± 15.4 Emu 67.0 ± 15.5 6 4 . 8 ± 17.2 6 5 . 9 ± 16.0 LDL-C (mg/dl) Cont 73.4 ± 30.4 7 0 . 6 ± 15.3 7 2 . 0 ± 23.4 Emu 69.9 ± 24.1 5 7 . 4 ± 25.3 6 3 . 2 ± 24.4 Blood pressure Systolic (mmHg) Cont 116.7 ± 5.6 106.0 ± 9.2 111.6 ± 9.1 Emu 116.9 ± 10.8 105.0 ± 9.3 111.3 ± 11.6 Diastolic (mmHg) Cont 63.4 ± 5.1 65.5 ± 7.6 64.4 ± 6.3 Emu 60.7 ± 5.8 63.9 ± 8.3 62.2 ± 7.0
Fig. 2. Change in the arterial diameter after releasing pressure applied to the antebrachial region via a pressure cuff in emu oil or placebo dosed Male.
Fig. 3. Change in the arterial diameter after releasing pressure applied to the antebrachial region via a pressure cuff in emu oil or placebo dosed Female.
Fig. 4. Arterial diameter at baseline after a single-dose
administration of Emu oil or placebo (water). Data represents the mean of all subjects, and the error bars indicate the standard deviation. **, p < 0.01.
Fig. 5. Expansion rate of the FMD at baseline and after a single-dose administration of Emu oil or placebo (water). Data represents the mean of all subjects, and the error bars indicate the standard deviation. **, p < 0.01.
Fig. 6. Change of the FMD after a single-dose administration of Emu oil. ΔFMD=(FMD at after single-dose Emu oil) –(FMD at single-dose water). Data represents the mean of all
第 4 章
1. 緒言
カムカム(Myrciaria dubia)は,南米ペルーのアマゾン川流域の熱帯雨林に 自 生 するフトモモ科 の常 緑 低 木 である。従 来 ,ペルーにおいてカムカムは,魚
の餌 や薪 として使 われる程 度 であった。しかし近 年 ,その果 実 にビタミン C やポ
リフェノールなどの機 能 性 成 分 が豊 富 に含 まれていることが明 らかになったこと
から(Zanatta et al. 2007, Myoda T et al. 2010),カムカム果実の加工品が製
造 ・輸 出 されるようになり,ペルーの農 村 地 域 を支 援 する新 規 産 業 として着 目 されている。 現 在 ,カムカムの果 実 は,飲 料 ,食 品 および化 粧 品 など多 岐 にわたる製 品 の 材 料 としての需 要 が高 まっている。一 方 ,全 重 量 の約 40%にあたる残渣が産 業 廃 棄 物 として処 理 されている。しかし,近 年 の研 究 により,廃 棄 物 に含 まれる カムカム果 皮 の抽 出 物 が,高 い抗 酸 化 性 や抗 菌 性 を示 すことが明 らかにされ, 産 業 廃 棄 物 である果 皮 の有 効 活 用 が注 目 されている。樫 村 ら(2007)は,高血 圧 自 然 発 症 ラットを用 いた研 究 により,カムカム果 皮 抽 出 物 が高 血 圧 を抑 える 働 きを持 つことを示 唆 し,果 皮 が,血 管 機 能 の改 善 に有 効 である可 能 性 が示 さ れた。さらに,カムカム果 皮 抽 出 物 に含 まれるポリフェノール類 類 には収 斂 作 用 が認 められており,エミューオイルと同 様 に,体 内 (インナー)だけでなく,皮 膚 などの体 外 (アウター)における製 品 としても有 効 性 を活 かした製 品 開 発 が 可 能 であると考 えられる。 カムカム果 皮 は,エミューオイルと同 様 に食 品 として認 可 されており,食 品 とし ての安 全 性 は担 保 されている。本 研 究 では,化 粧 品 原 料 としてカムカム果 皮 を 用 いるための安 全 性 を調 べるため,男 性 3 人,女性 17 人を含む 20 人の参加 者 (22〜59 歳)に対する単回投与による閉塞ヒトパッチテストを実施した。