地域でのソーシャルワークにおける
支援の高い質に関する考察
コミュニティソーシャルワーカーへのインタビュー調査から小
野
達
也
1.は じ め に 近年,地域では福祉関係の様々なワーカーの配置が進められ,その活動範囲も広がりを見 せている。地域で生じている生活問題への対応の期待も大きいが,その一方で,支援の質, つまり支援により達成できるレベルに関する議論は深まっているとは言えない。本論文はこ の点に注目して検討を行う。 まず,地域福祉の概況を俯瞰する。2000年代に入り,地域福祉は主流化し,さらに政策化 してきたとされている。中央省庁の諸報告や法・制度からこの動向を確認することができる。 2000年に出された「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討 会」報告書にはホームレス問題,低所得,孤独死,自殺,虐待といった従来の対象別,縦割 りの方法では対応が難しい複雑で制度の狭間にあるような問題が示されている。こうした諸 問題に対応するための,社会的なつながりや問題解決の機能が検討されている(厚生省 2000)。 2008年には「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」報告書が出され,「地域にお ける『新たな支え合い』を求めて」というタイトルのもとに住民と行政の協働が打ち出され ている。公的なサービスでは対応できない多様なニーズが指摘され,その一方で住民が地域 の生活課題に取り組むことは自己実現にもつながることが言及されている(厚生労働省 2008)。 2010年の地域包括ケア研究会の報告書では,2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築 という方向が掲げられた。地域住民が「おおむね30分以内(日常生活圏域)に生活上の安全・ 安心・健康を確保するための多様なサービスを24時間365日を通じて利用しながら,病院等 に依存せずに住み慣れた地域での生活を継続することが可能」となることを目指している (地域包括ケア研究会 2010)。 2015年に生活困窮者自立支援法にもとづく生活困窮者自立支援制度が施行された。生活保 護,社会保険制度に続く3番目のセーフティネットである。この制度には生活困窮者個人と キーワード:地域福祉,地域でのソーシャルワーク,コミュニティソーシャルワーカー,支援の高い質地域という2つの支援対象がある。つまり支援の一つは,生活困窮者の自立と尊厳の確保で あり,もう一つは生活困窮者支援を通じて相互に支えあう地域をつくり出していくことであ る。 この時期から「地域福祉の政策化」の志向も本格化する。2015年に厚生労働省から出され た「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」には,①包括的な相談から見立て,支援調 整の組み立てと資源開発,②高齢,障害,児童等への総合的な支援の提供,③効果的・効率 的なサービス提供のための生産性向上,④総合的な人材の育成・確保という4つの改革が挙 げられた。これにより目指すものが,「地域住民の参画と協働により,誰もが支えあう共生 社会の実現」である。この後,2016年の閣議決定「ニッポン一億総活躍プラン」の中に地域 共生社会の実現が盛り込まれ,2017年,2020年にあいついで社会福祉法が改正されるなど, 政策による「地域共生社会」の推進,すなわち地域福祉の政策化が進められていく。地域共 生社会の理念とは「制度・分野の枠や,『支える側』『支えられる側』という従来の関係を超 えて,人と人,人と社会とがつながり,一人ひとりが生きがいや役割を持ち,助け合いなが ら暮らしていくことのできる,包摂的なコミュニティ,地域や社会を創るという考え方」で ある1)。 2019年12月に地域共生社会推進検討会から発表された最終とりまとめは,地域共生社会に 向けて市町村が「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」という新たな 包括的な支援を一体的に実施する事業を創設するように求めている。具体的な問題解決を目 指すアプローチとつながり続けることを目指すアプローチが支援の両輪となる(厚生労働省 2019)。 こうした中で,地域でのソーシャルワーカーの配置が進められている。コミュニティソー シャルワーカー(以下,CSW とする)に限ってみれば富山県氷見市,長野県茅野市,沖縄 県浦添市などで先駆的に取り組まれてきた。より広域で CSW の設置をいち早く進めてきた のが大阪府である。2002年に大阪府社会福祉審議会は答申「これからの地域福祉のあり方と その推進方策について」で,CSW の重要性を明示した。これを受けるかたちで,2003年の 大阪府地域福祉支援計画で,CSW が地域のセーフティネット機能の中に位置づけられた。 2004年度から大阪府下で「コミュニティソーシャルワーク機能」配置促進事業が実施されて いる。この事業は2008年度をもって終了となったが,その後もこれを引き継ぐ事業が継続し ていく(小野 2014:142)。全国的には,先述の「これからの地域福祉のあり方に関する研 究会」報告書(2008)で,地域福祉のコーディネーターの必要性が示され,各地に CSW の 配置が進められてきている。地域で生じる様々な問題への CSW による実践が進むとともに, 研究に関してもコミュニティソーシャルワークの基本的な考え方や進め方の理論的検討だけ 1)厚生労働省「地域共生社会」の実現に向けて,より。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184346.html 2020年10月31日取得
でなく,実践内容やネットワークの実態(川島 2011),個別支援と地域支援の統合(加藤 2 019),総合相談の支援機能(菱沼 2020)などをテーマに量的,質的な調査も進められてき ている。 しかし,その一方で支援の質,支援により達成できる福祉のレベルに関しての議論は十分 とは言えない。 2020年 5 月にソーシャルワーカーの倫理綱領の改定案が示され,その後関係各団体がこれ を承認しているが,この改定は,以下の2014年の「ソーシャルワーク専門職のグローバル定 義」を受けたものである2)。 ソーシャルワークは,社会変革と社会開発,社会的結束,および人々のエンパワメン トと解放を促進する,実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義,人権,集団 的責任,および多様性尊重の諸原理は,ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャル ワークの理論,社会科学,人文学および地域・民族固有の知を基盤として,ソーシャル ワークは,生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう,人々やさまざまな構造 に働きかける。 この定義は,各国および世界の各地域で展開してもよい3)。 この定義は,多様性の尊重,西洋中心主義や近代主義への批判,マクロな社会変革の強調 が特徴とされており,地域・民族固有の知や社会的結束という点にも注目が集まっている (三島 2017)。ただし,そうした議論ではほとんど言及されていないが,ソーシャルワーク の目的といえる位置に「ウエルビーイングを高める」(enhance wellbeing)がある。こうし たウエルビーイングへの志向は,2000年に示されたソーシャルワークの国際定義(旧定義) から引き継がれているものである4)。 このことからすれば,改めて言うまでもなくソーシャルワークは,幸福(ウエルビーイン グ)を高めていくための営為なのである。特に地域はそこに住む人たちの生活の場であり, 本来的にそれぞれの人のホームグラウンドである。そこで取り組まれるソーシャルワークは, 幸福を目指すことがとりわけ肝要になると考えられる。 そこで,本論文では,地域でのソーシャルワークに取り組む CSW の実践の現状や支援の 2)倫理綱領の前文に「『ソーシャルワーク専門職のグローバル定義』(2014年7月)を,ソーシャルワー ク実践の基盤となるものとして認識し,その実践の拠り所とする」と記されている。 http://jfsw.org/code-of-ethics/ 2020年10月31日取得 3)この部分は,社会福祉専門職団体協議会と日本社会福祉教育学校連盟による日本語訳によっている。 https://jaCSW.or.jp/06_kokusai/IFSW/files/SW_teigi_japanese.pdf 2020年10月31日取得 4)ただし,詳細に比較してみれば2000年の旧定義のほうが「人間の福祉(ウエルビーイング)の増進 を目指して」を前面に出しており,それと比較すると新定義ではこの面が多少弱くなっているとみる ことができる。2000年の定義は以下を参照。 http://www.socialwork-jp.com/IFSWteigi.pdf 2020年10月31日取得
高い質に対する意識を調査し,支援の高い質を実現するための条件を明らかにすることを目 指す5)。なお,「支援の高い質」とは,いくつかの解釈が可能な表現であるが,ここでは, 「ソーシャルワークの支援によって達成できる福祉のレベルが高いこと」を示す。つまり, 幸福(ウエルビーイング)や理想,自己実現という状態の達成を志向する支援を意味する。 2.調査について (1)調査方法と調査協力者 調査は CSW への半構造化グループインタビューである。実践の現状や支援の高い質をめ ぐる状況,およびそれに対する考え方を比較的自由に語ってもらうために半構造化インタ ビューとした。また,一人ひとりに聞き取るよりも,話題に発展性が生じる利点を考えてグ ループインタビューとした。 調査協力者は X 市の CSW6名であり,それぞれ別の法人に所属している。X 市は,かね てから CSW を配置しており一定の蓄積もあるので,同市の CSW の調査を行うことにした。 調査協力者は全て女性であり,CSW の経験年数は 1 年から10年と幅広いが,全員前職でも 福祉関係の仕事を経験している。受け持ちの相談件数は多い場合で100件を超えている。ケー スの傾向として,高齢者からの相談が多いが,ほかの世代からの相談も増えてきている。サ ロン活動を始めとして,様々な地域の活動,事業にもかかわっている。なお筆者は調査協力 者たちと事例検討会を行った経験があり,調査協力者はそこで支援の高い質についての話を 聞いている。 (2)質問項目と調査日 質問項目としては,基本的属性のほかに,業務の概況,現在の支援に対する自己評価,支 援の高い質に対する意向,高い質のソーシャルワークを促進する要因と阻害する要因を聞い た。事前にインタビューガイドを知らせたうえで,当日もそれを示しながらインタビューを 進めた。なお,コミュニティソーシャルワークは,個人(個別)支援と地域支援で構成され 5)なお筆者は,こうした高い質にむけた地域福祉の取り組みを,「増進型地域福祉」として探究して きている(小野 2016)。 表1 基本情報 CSW 年数 相談件数 A 2 年 70~80件 B 7 年 100~120件 C 1 年 初年度でケースは少ない D 10年 100~120件 E 10年 ― F 5 年 100~120件
るが,今回の調査は個人支援の内容が主になっている。 インタビュー実施日は2020年 3 月 4 日であり,インタビューに要した時間は100分である。 (3)研究倫理 調査協力者に対して,調査での研究倫理に関する事項を書面で示して説明をした。その内 容は,調査協力を全て,あるいは一部拒否したり,途中で中止したりしても協力者には一切 の不利益が生じない。調査結果は本研究以外には使用しない。協力者のプライバシーには充 分配慮し,表記は全て匿名化する。記録の保管は慎重に行う。これらの記録は研究終了後, 一定期間保管した後,全てを廃棄する,である。そのうえで,同意書に署名を得た。 なお,本研究は桃山学院大学の研究倫理委員会の承認(承認番号 6 )を得ている。 (4)分析方法 定性的な分析を行った。録音したデータを文字化して,この文書を対象資料とした。一文 脈ごとに意味内容を確認して,コード化を行った。コードおよびその元データも含めて比較 しながら類似性に基づいてカテゴリーを生成していった。カテゴリー同士の関係を検討しな がら説明枠組みを作成した。なお,カテゴリーとコードを作成した段階で調査協力者に確認 してもらい,意見を求めている。 3.調 査 結 果 (1)7つのカテゴリーと21のコード 表 2 にある通りインタビューから, 7 つのカテゴリーを生成した。≪支援の高い質に対す るワーカーの態度≫≪ワーカーの経験知≫≪ワーカーが抱えている制約≫≪当事者本人6)が 抱える課題≫≪地域という個性≫≪行政への要望と期待≫≪支援のための条件≫である。ま た,コード数は以下に示すように21ある。カテゴリーを≪≫,コードを【】で表す。また, 語り自体のデータはイタリックで表記した。語りの文末の A~F は発言者である。 ①≪支援の高い質に対するワーカーの態度≫ ≪支援の高い質に対するワーカーの態度≫は,支援の高い質ということを CSW がどのよ うに受け止め,どのような態度を取っていったのかを示している。このカテゴリーは,【は じめのとまどい】【支援の高い質に対する疑問】【これまでを省みる】【ワーカーの意識の肯 定的変化】【支援方法の難しさ】というコードからなっている。 【はじめのとまどい】には,CSW が支援の高い質の考え方に接した時のとまどいが示さ れている。支援の高い質とは何を言っているのだろうかという当惑やイメージがわかない, 6)以下では,問題を抱えている人のことを「当事者」,「本人」と表現する。
あるいは実際の地域とうまく合うかがわからないという意識である。 自分がやってきた福祉の仕事とどう結びつけていくのかという思いがあり,最初に聞い たときは「何を言っているのか」と思いました C 個別から地域へという部分で地域の支援を求めていくことだと思っていますが,地域と うまくあうのかがまだわからない E イメージがまったく湧かないということが第一印象 F また,このことは【支援の高い質に対する疑問】にもつながっている。CSW だけででき るのか,また,やりたいことと実際にできることの隔たりに関しての疑問である。 「できればこうしてあげたい」という理想と,その人の現実から見える理想やできる支 援には開きがあります B 正直なところ,それを CSWだけが考えるのかと思っています D 表2 支援の高い質に影響を与える諸要因 カテゴリー コード ≪支援の高い質に対するワーカーの態度≫ 【はじめのとまどい】 【支援の高い質に対する疑問】 【これまでを省みる】 【ワーカーの意識の肯定的変化】 【支援方法の難しさ】 ≪ワーカーの経験知≫ 【実践から学ぶワーカー】 【違いに応じた支援】 【ワーカーの主張と柔軟性】 ≪ワーカーが抱えている制約≫ 【ワーカーの限度】 【ワーカーの不自由さ】 【組織の課題】 ≪当事者本人が抱える課題≫ 【本人が理想や意向を出せない】 【弱い部分】 【本人と家族の不一致】 ≪地域という個性≫ 【地域の性格とかかわり方】 【地域の理解】 ≪行政への要望と期待≫ 【行政との関係】 【行政への要望】 ≪支援のための条件≫ 【環境資源の乏しさ】 【仕組みの必要性】 【連携の重要さ】
しかし,その一方で,支援の高い質に照らし合わせて,自分たちのこれまでの取り組みを 対象化してそれを検討することにもつながっている。これを示すコードが【これまでを省み る】であり,問題解決型の考え方やつなぐという方法を相対化している。 自分の支援を振り返ってみると問題解決型の支援をしていたなと思います A CSWになってからのケースを振り返ると,就職されたのでしばらく連絡を取っていな かったら,しんどくなるなど,つないで終わりにすることで良くない状況になっていた ケースがあります A 自分のなかにそういう考え方がないのだろう,基本的に課題解決型でずっときています ので慣れていない F 事例検討などをすると課題ばかりが上がってきて,どうつないで解決するかが求められ るので,相談を受けたときにも,すぐ,どこにつなぐかという思考になってしまいます F 支援の高い質の考え方に触れる中で,CSW も変化してくる。【ワーカーの意識の肯定的変 化】である。支援の意味を考え,気持ちにも変化が起き,支援の高い質を肯定的に評価する ように変わってきていることを示している。 理想を求めていかなければ支援をやる意味もないと思っていますので,やりたいし,や るべきだと思います B 何回も聞いていくうちに「これはメチャいいやん,これができたら地域も個人もお互い に良い関係になるので,できたらすごく良いのではないか」と思いました C その人の困難やマイナス,課題にばかり目を向けなくてもよいということだとすると, 少し気が楽になります F ただし,これに実際に取り組む上では【支援方法の難しさ】がある。具体的な進め方のイ メージがわかないことや支援の取り掛かりの最初の部分の難しさが指摘されている。 いいなと思っても実際の支援の過程が落ちきっていない,イメージが付ききっていない という感じがあり,もう少し知りたいと思います A それに対してどのようなやり方やしくみづくりをするかは,課題が多いと思います B 現状をみると,隙間の埋め方やステップを上げていくときの刻み方の取っかかりが,結 構難しいと思います B ②≪ワーカーの経験知≫ ≪ワーカーの経験知≫には,CSW のこれまでの支援の方法やそこから学んだことが示さ れている。コードは【実践から学ぶワーカー】【違いに応じた支援】【ワーカーの主張と柔軟 性】である。
【実践から学ぶワーカー】には,CSW が実践に臨む意識とそこから学んできたことが示 されている。寄り添うことの重要性や硬直的な価値観の持ち方の問題が述べられている。 なりたい人生を考えてあげるには,言葉にならない部分をだれかが拾っていかなければ いけないと思っており,だからこそ時間もかかるし,寄り添わなければいけないと思い ます E 必ずしも外に出たい,働きたいとは思わないこともかかわるなかで見えてきた E ホームレスの方の支援をするなかで,自分の価値観が共通の幸せにはつながらないとい うことを痛感しました。今も何人かの方を支援しているなかで,まず自分の価値観を捨 てて支援する姿勢が必要だと思っています。理想のレベルはその人のなかにあるべき F また,CSW は多様な当事者に対することから【違いに応じた支援】が求められることに なる。それぞれケースの違いを前提とした支援である。 ケースの掘り起こしから,その人なりの自立や社会参加,人生を生きる意味を見つけて もらうための情報提供や傾聴はずっと必要 B 自分である程度の能力があったり,環境的に恵まれて理解者がまわりにいて関わりが短 期間で済む人もおられますが,ずっと関わり続けないといけない人は,環境的なことや その人の能力的なことで,発達障害が疑われる人が40~50代でも結構おられます E さらに CSW としてのあり方や態度について述べられているのが【ワーカーの主張と柔軟 性】である。ワーカーとして一方でプライドを持ちながらも,他方で柔軟性が必要である。 そのバランスが示されている。 本人がいくら満足していても,ワーカーとしてやはり放っておけないと思うところがあ り,本人とずれがあっても改善できることはめざしたいと思っています D 専門職はプライドが必要で,プライドがあるからこそ違う視点で話もできると思います が,自分の意見に固執するのではなく人の意見を聞き入れる余裕をもち,例えば,ケー ス会議をしたときにも柔軟性があれば,促進要因になるのではないかと思います D ③≪ワーカーが抱えている制約≫ 支援の高い質を目指すうえで CSW が抱えている課題があり,それを表しているのが ≪ワーカーが抱えている制約≫である。ここには, 3 つのコードがある。【ワーカーの限度】 【ワーカーの不自由さ】【組織の課題】である。 【ワーカーの限度】は,CSW 個人がケースに対して対応できる範囲を反映している。CSW の力量に限界があることの自覚を意味している。 支援者としての自分自身が目の前のことで精一杯になってしまうと,理想まで考える余
裕がなくなる A 自分の力の限界があり,できる範囲も限られている B CSW個人としてすることへの限界は感じており,本当に求めたい支援はそれ以上で あってもまだまだ難しく E また CSW は自由に活動をできるわけではない。【ワーカーの不自由さ】は,CSW の自由 さが制限されている状況が示されている。 なんでもありの支援はしにくいのではないかと思います・・・今も自由にできるのが CSWだと思っていますが,そういう自由度はないと思います F CSW がどれだけ自由に活動できるかは制度設計的な面もあるが,もう一つこの状況をつ くりだすことに関係するのは CSW が所属している【組織の課題】である。 業務に追われていると見守りしたいケースを埋もらせてしまっているという実感 B ホームレス支援の NPO などは,自分たちが主体となって臨機応変になんでも支援がで きますが,私たちは組織に縛られている F ④≪当事者本人が抱える課題≫ 支援される側の当事者本人の状況や直面している課題についてのカテゴリーが≪当事者本 人が抱える課題≫である。ここには,【本人が理想や意向を出せない】【弱い部分】【本人と 家族の不一致】というコードが含まれる。 支援の高い質を進めるためには本人の意思や理想の表出が重要となるが,【本人が理想や 意向を出せない】という現状がある。 ご本人から「どうなりたいか」が出てこず,本当に理想なのかなと思うような希望を言 われる方が多く,自己決定として尊重してよいのか,どこからセルフネグレクトなのか と思うことも多いことが難しいと思います A 本人が理想を描くことが難しく B 自分はどうなりたいかが持てない,自分の未来が描けない人が多いと思うので,何がい ちばんその人らしさなのかがよくわからない C 地域生活を送るうえで本人の持つ弱みと見えるものがある。【弱い部分】は,CSW が捉え たこうした部分を意味している。 自己肯定感の低さや社会への恐怖心がある B 生活するうえのお金がないのに働かない人,先の10年のことが考えられない C 本人と家族との間で,両者の意見が相違することがある。それが互いを思いながらも生ま
れてくることがあることを【本人と家族の不一致】は示している。 家族の方は早くこの子をどうにかしないといけないという気持ちがあり,それもわかり ますが,本人の気持ちのタイミングがあります。本人も,今の状況は家族にものすごく 申し訳ないので言われたとおりに動いていますが,それがしんどい,本当はやりたくな いというギャップがあり C ⑤≪地域という個性≫ CSW の活動は,地域を基盤としており,その地域とのかかわりや地域の性格が支援に影 響することを示すのが≪地域という個性≫というカテゴリーである。ここに含まれるコード は,【地域の性格とかかわり方】と【地域の理解】である。 【地域の性格とかかわり方】は,CSW がかかわる地域をどうとらえ,どのように関係す るかという考えである。CSW の活動する地域にはそれぞれ違いがあると同時に,担当する 地域の中でも差があることがうかがえる。 特に子どもに関する相談などは全然上がってきておらず,ケースはあってもつながって いないと思いますので,周知のしかたや地域とのかかわり方も課題と感じています A 民間の活動が活発な地域であれば民間の発信力が大きいかもしれませんが,私が担当し ている地域では難しく,モヤモヤすることが多いです B 地域によって相談へのつながりやすさにばらつきがあることが課題だとわかっています が,なかなか改善には至らないという背景もあります。また,いただいた相談に対して, 私自身のつながりが広い地域は支援の充実度が上がりやすいですが,単発でしかつなが りにくいところでは,そこまでいかないという感じがあります D CSW が支援する当事者本人を地域がどう見ているのか,どのように受け入れてくれるの かに関するコードが【地域の理解】である。地域は必ずしも当事者本人を積極的に受け入れ てくれるのではない。むしろ難しい点がある。 個別のケースでなんとか家で生活できるようにとかかわっていても,地域から施設に入 れるように言われたりすることもあります A 近所に親戚なども多い地域などでは,地域の「家族や親戚がいるのに」という目があっ て入りにくさがあり,本人も「もういい」と言われて中途半端に終わってしまい,やり きった感がありません D カフェをしていても参加されている障害のある人に差別発言をする人がいるなど,地域 の偏見が生きづらさを抱えるひとつの大きな要因だと思います F ⑥≪行政への要望と期待≫ CSW と重要な関係を持つのが行政(担当部局)であり,そことの関係性が示されるのが
≪行政への要望と期待≫である。【行政との関係】と【行政への要望】という 2 つのコード がある。 【行政との関係】には,CSW と行政の間の課題が示されている。共通の話し合いの場を つくることの重要性が指摘されている。 行政との連携や課題の共有がすごく難しく,温度差をいかに近づけて同じテーブルのう えで話ができるようにするかです B 【行政への要望】は行政との望ましい関係に向けての思いが表されている。行政と CSW の間にあるそもそもの違いをいかに乗り越えられるのかという意識がある。 個別のケースの難しさを共有できればと思います。しかし,庁内の他の課で門前払いさ れたときにつないでくれたり・・・行政の動きはわからないことも多いので教えてほし いのですが,そうした連携をどのように訴えればよいかがわからない B ⑦≪支援のための条件≫ 支援を進めるために何が大切だと考えているのか,どのようにすることで支援が進んでい くのかに関するカテゴリーが≪支援のための条件≫である。ここには,【環境資源の乏しさ】 【仕組みの必要性】【連携の重要さ】というコードが含まれている。 【環境資源の乏しさ】には,支援を進めようとする際に必要な社会的資源が少ないこと, また,つなぐ先の困難さが語られている。 しんどい人たちに対する理解や受け皿が,制度に引っかからないと支援できない現状の なかではすごく少ないと思います。・・・社会全体で受け皿がないわけではないので しょうが,うまくつないでいくことができないもどかしさがあります E コミュニケーションが取りにくくても手先が器用な人などの能力を活かすには,どこと 手をつなげばできるかを教えてほしいといつも思っています E CSW 個人の取り組みの限界というところから【仕組みの必要性】が意識されることにな る。よりよい支援を行うための条件といえる。 福祉の知識ですべては担えず,100のうち10いけばよい方だと思いますので,お金の面, 生き方や働き方,家族関係などは,私の担える範囲では到底行き着けません。家族力が 低下しているご時世のなかでは,どうしてもしくみが必要だと思います B 個別のケースの課題を地域課題として普遍的に取り組むシステムの掘り起こしがないと, 個人で訴えてもマックスにはいきません B 個人の限界を超える仕組みという点で【連携の重要さ】が示されている。そこには,連携 上の課題も語られている。この点については,多くの CSW が意識している。
地域や関係機関とも,個人のつながりでもよいので,もっと連携を築いていければ A 機関どうしというより担当者レベルの連携で止まっており,「この人ならば相談できる」 などと想定してしまっています。担ってほしい役割で動いてもらえない場面や,動きが 見えなかったり認識の差があってうまくマッチングができないことがあり B 市の担当課や社協さん,地域のコーディネーターさんなどが同じ土台で考えないと, CSW が考えても実際に取り組むには連携が必要であり,それで苦労してきたので, ベースづくりがないとしんどいです D 支えていくのは私1人でできることではなく,家族,近隣や地域,関係機関や支援など いろいろな方の支えが必要 E (2)CSW の現況と支援の高い質の関係 CSW の現況と支援の高い質との関係を次のように示すことができる。 CSW は,≪当事者本人が抱える課題≫,≪地域という個性≫,≪行政への要望と期待≫さ らには≪ワーカーが抱えている制約≫という諸要素から影響を受けつつ活動している。活動 の中で≪ワーカーの経験知≫が形成されていき,≪支援のための条件≫も意識される。≪支 援の高い質に対するワーカーの態度≫はこれらをもとに生まれつつ,また変化もしている。 4.考 察 (1)支援の高い質を実現できる条件の状況 インタビュー結果からもわかる通り,CSW は多くの制約の下で活動をしている。そこで かかわるアクターは,当事者本人,その家族,地域社会,他の専門職,行政など多様である。 CSW は特定の法律に規定されているわけではない。つまり活動が法律によって縛られるわ けではないという自由さがある一方で,法的な保護もないという弱さも持つ存在である。こ ≪当事者本人が 抱える課題≫ ≪ ワーカーの 経験知 ≫ ≪ 支援の高い質に対する ワーカーの態度 ≫ ≪地域という個性≫ ≪行政への要望と 期待≫ ≪ 支援のための 条件 ≫ ≪ワーカーが抱えて いる制約≫ 図 1 支援の高い質を実現するための要因の関連図
の状況下で,活動を通して経験知を積んでいる。 現在の状態から,支援の高い質をどのように追求し,生み出していけるのか。その条件は どの程度醸成されているのだろうか。CSW をとりまく当事者本人,家族,地域,職場,行 政や他専門職との関係という環境的条件と CSW の意欲や知識,力量という主体的条件を整 理する。 環境的条件として,当事者本人については【本人が理想や意向を出せない】ことがあり 【弱い部分】を抱えて,【本人と家族の不一致】がある。地域は,【地域の性格とかかわり方】 にあるように活動の活発さや支援のつながりやすさには地域ごとの差があり,本人や家族に 対するネガティブな見方も存在している(【地域の理解】)。職場には一定の制約があり(【組 織の課題】),行政や他職種との連携はいまだ十分とは言えず(【行政への要望】【連携の重要 さ】),【環境資源の乏しさ】にあるように支援をつないでいく先も乏しい。以上のことは, CSW が置かれている難しい支援環境を表している。現状の単純な延長上に支援の高い質が 生まれてくることはかなり困難であることが予想される。 一方,主体的条件はどうであろうか。CSW が積み重ねてきた経験知は,難しい状況でも 柔軟に対応していく可能性が示唆されている(【違いに応じた支援】【ワーカーの主張と柔軟 性】)。支援の高い質の考え方についても,当初の段階では,【はじめのとまどい】や【支援 の高い質に対する疑問】が呈されていたが,その後【ワーカーの意識の肯定的変化】が生じ ている。同時に【ワーカーの限度】により行いたい支援と実際にできることのギャップも語 られており,個人の限界を超えていくことが課題として意識されている(【仕組みの必要性】)。 このように主体的条件については,支援の高い質を生み出す準備が整っているとまでは言 えないが,それを追求していくことに関しての可能性をみることができる。支援の高い質を 生み出す考え方や方法を明確化し,そのための仕組みを検討し,そこに CSW の経験知,実 践力をつなげていくことが最初の段階と考えられる。さらに CSW の活動により環境的条件 にも影響を与えることができる。これは言わば,図 1 に見た展開を逆にたどることで支援の 高い質を生み出そうとすることである。 考察すべき点は多いが,CSW を起点として支援の高い質を生み出すためのはじめの取り かかりとして, 3 点取り上げる。 1 つ目が CSW の福祉観への働きかけ,第 2 に「目的実現 型」という方法,第 3 に支援の高い質を実現するための資源である。 (2)支援の高い質を生み出すために ①CSW の福祉観への働きかけ 観念は,ある対象に対して抱く考え方,見解である。つまり福祉観は,福祉に対して抱く 考えや意識である。特にここでは,福祉の支援によって達成できる生活のレベルに対する考 えや意識に焦点が当たる。観念は日々の生活や行いに影響を与える。普段は明確に意識され ていなくても,何らかの出来事や状況の変化に伴う選択という際に問われることになる。支
援の高い質を追求していくことは,単に技術的なことではない。CSW が支援の高い質を支 持する福祉観を持つことが条件となる。そうした福祉観を持てるように働きかけることが必 要である。福祉観を意識することでどのような福祉,あるいはどのようなソーシャルワーク にしたらよいのかを考え,判断し,選択することにつながる。 支援の高い質に対して,CSW からはとまどいや疑問が呈された。CSW の援助の基底にあ る考え方は,コミュニティソーシャルワークや地域を基盤としたソーシャルワークである (大橋,千葉,手島,辻 2000)(中島,菱沼 2015)(岩間 2011)。そこには大橋謙策らによ る「自己実現サービス」など,高い質の考えも示されているものもあるが,そうした考え方 が実践現場で定着しているとは言い難い。それであれば,CSW のとまどいや疑問は,あり 得る反応ということができる。ただしそこから【ワーカーの意識の肯定的変化】が見られた。 初めにとまどいや疑問として受け止めたものを改めて確認してみることで評価が変化したと いうことである。既存の考え方のほかに高い質というもう一つの考えを認めた状態ともいえ る。だが,まだ価値の判断や選択までには至っていない。 2 つの考えの並立状態である。そ のうえで,どのように判断し,選択するのかは改めて問い直されることになるだろう。まず は,この状態まで問いかけることが,第 1 段階である。 社会福祉には,目的概念と実態(実体)概念があるとされる(岡本 2002:4)。日々の実 践は実態概念によるところが大きいが,実践を改めて問い直すときに目的概念も意識される ことになる。支援の高い質を求めることは,社会福祉の目的概念を確認することになる。社 会福祉の目的として,幸福やその人らしい生き方の実現,自己実現ということが言われてき た。ただし,これは多分に名目的なものになりがちであった。それを実際に実現しようとす る試みが支援の高い質を求めることである。 ちなみに,より広い文脈で見れば,世界的に幸福への関心が広まっている。2010年代にな り国連7)や OECD(OECD 2019)からは幸福に関する報告等が出され続けている。これには 経済的な指標にかわる新たな暮らしの測り方,生活の質の把握が求められてきた経緯がある (スティグリッツ,セン,フィトゥシ 2012)。そこで示されたものは幸福度(measuring well-being)である。社会福祉やソーシャルワークが時代や社会を反映するものであるならば, 幸福にもとづく福祉観を持つことや高いレベルの支援を実現しようとすることは,今の世界 的潮流にも沿うものでもある。 CSW の支援が格差社会への単なる包摂に終わらないためには,幸福の実現を目指して支 援の高い質を追求するという福祉観に立つことが前提となる。それは,社会福祉の目的概念 を形式に終わらせるのでなく,その実現に向かうことである。
7)国連の World Happiness Report は2012年より実施されている。
②目的実現型という方法の構築 2点目はソーシャルワークの実践方法に関する点である。現在,地域では複雑で多様化し た事象が生じている。問題点の明確化や原因の把握も難しく,その対応方法もどこまで行え ばよいのか分かり難いものがある。問題点や原因の過度の探求は,悪者探しにつながるとも 指摘されている。こうした事象に対して従来の方法では,支援の高い質を実現するのは難し い。支援の高い質を実現する方法論が求められている。 1 つの考え方として「目的実現型」という進め方を構築することを提案したい。目的実現 型とは,力点を問題点や原因の把握にのみ置くのでなく,「いま,ここ」の状態から高い目 標を掲げて,それを実現するという方法である。これには参照できるいくつかの取り組みが ある8)。 目的実現型の取りかかりは,「理想の姿」(岩永 2003:80),「満足のいく将来」(ディヤン グ,キム・バーグ 2016:84),「熱望(ゆめ)」(ラップ,ゴスチャ 2014:51),「うまくいっ た未来」(セイックラ,アーンキル 2019:127)として出されるものを目標化するものであ る。これが高い質への起点となる。問題を解決するという焦点ではなく,問題が解決した時 にどうなっているのかを意識するのである。「理想」や「夢」が「うまくいって」「満足」し た状態とはどのようなものかを示すことである。したがってその目指す内容は高いレベルの ものである。また,それとともにどのようにそれを設定するのかも重要となる。調査結果に あったように,本人が意見を出せない場合もある。その際には,意見が出せるように意思形 成やコミュニケーションのサポートが求められる。支援者や代弁者のかかわりも欠かせない。 目標設定は本人とワーカー,および関与者による対話にもとづく合意形成となる。 次の段階では,設定された目標を実現するための具体的な計画,取り組みを考えることに なる。眼前の問題に対してそれ自体を何とかすることを検討するのではなく,目標を達成す るために何をするかを検討する。未来語りダイアローグの言葉を借りれば「望ましい結果か らはじめて,そこから行動を『引き出し』」ていくのである(セイックラ,アーンキル 2019: 163)。この計画や取り組みについても,合意してその内容を実施していく。また,この取り 組みは目標の実現を目指すものではあるがそれだけを重視するものではない。コミュニティ ワークとしていえば,タスクゴールのみを重んじるのではない。目標と言う未来を「ツール」 として,それに取り組む今を充実させていくことである。これはプロセスに意義を見ること であり,今を未来をつくるための単なる手段としないことである。 このように問題点やその原因を究明し,直していくというアプローチとは異なり,目的実 現型は問題を抱えながらも高い目標を設定してその実現を目指すものである9)。そこでの目 8)参照できる取り組みとは以下のものである。地域づくり型保健活動(岩永 2003),ソリューション フォーカストアプローチ(ディヤング,キム・バーグ 2016),ストレングスモデル(ラップ,ゴスチャ 2014),未来語りダイアローグ(セイックラ,アーンキル 2019)。 9)ビジネスや一般的啓発書などにもこうした方法は出てくるが,根本的な違いは福祉の価値に則って いることであり,また,話し合いによる合意形成により進めることである。
標や取り組みは,合意形成という手続きを経ることで,その関与者も共有することになる。 ③高い質を可能にする資源の考え方 支援の高い質を実現するにはそれを可能にする相応な資源が必要となる。公的な福祉サー ビスが支援の基盤であることは論をまたない。しかし,近年の新自由主義的な状況下で,公 的な資源は制約されている。公的な資源の充実を目指す働きかけをしつつも10),支援の高い 質を実現しうる現実的で実際的な資源の整備と開発が求められる。 現実的,実際的な資源に関して留意すべき2点を挙げる。1つは,当事者をとりまく社会 的人間関係の重要さである。当事者にとって家族や地域,職場,活動先等での関係は直接的 で避けがたいものである。支援の高い質にかかわる存在承認,個人の尊厳,自尊の念,また, 自己実現ということを考えるとき,「周囲の人たち」との関係の性質が受容的,支援的なも のか抑圧的,排除的なものかは,決定的な比重を持つ。生活の基盤となる物質的なニーズを 満たすことが必要であることは当然であるが,幸福にかかわる支援の高い質を考える場合に は,それで十分ではない。より「ソフト」な資源である周囲の人たちとの関係が支援の高い 質を実現する媒体となる。もちろん,これは周囲の人たちを資源として手段化することでは ない。ここでの資源とはあくまでその関係を指している。周囲の人たちも,ともに支援の高 い質を目指す主体であるという認識が必要である。 2点目は,資源の考え方をより広くすることである。既存の資源にとらわれない例を挙げ ておく。認知症になっても輝けるまちを目指す「ゆめ伴プロジェクト in 門真」11)では,①地 域の人気のある喫茶店を借りて認知症を持つ人たちによる喫茶活動をする(ゆめ伴カフェ), ②地域の大型スーパーなどを巻き込み,大掛かりなステージをつくりコンサートを楽しむ (ゆめ伴コンサート),③地域の伝統である綿花づくりを復活させ,借りた畑で当事者ととも に綿の木を育て(ゆめ伴ファーム),その綿花から自分たちで糸を紡ぐ工房(ゆめ伴工房)を つくったりしている。ここにあるものは従来の福祉の資源の発想を飛躍させるものである。 近年注目されている福祉施設の地域での取り組みに共通する発想である12)。こうした幅広い 資源を公的福祉の不備を埋めるために使うのではなく,支援の高い質を生み出すために活用 することができる。社会貢献活動,社会福祉法人の地域公益事業等についても高い支援を豊 富化することに意義がある。幅広く多様な資源の開発・活用によって【環境資源の乏しさ】 を超えて支援の高い質を可能にすることができる。 10)ソーシャルアクションの必要性も指摘されている(鶴幸一郎,藤田孝典ら 2019)。 11)「ゆめ伴プロジェクト in 門真」のホームページ参照。 https://www.yumetomokadoma.com/ 2020年10月31日取得 12)北海道の「ゆうゆう」や千葉の「福祉楽団」,石川の「佛子園」,大阪では「ライフサポート協会」 などをあげることができる。
5.終 わ り に 地域福祉が主流化,政策化してきた時代に,地域でのソーシャルワークにおける支援の高 い質について,現状を把握し,高い質を追求するための条件を検討してきた。現時点では CSW をとりまく実践環境には様々な制約があったが,同時に,CSW を起点として高い質に 取り組める可能性を見出すことができた。そのうえで,支援の高い質の追求のために CSW の福祉観への働きかけ,目的実現型という方法の構築,高い質を実現する資源開発という方 向性を考察した。 ただし,今回の論考は一つの市の CSW へのグループインタビューのデータから得られた 限定的なものであり,試論の段階ともいえる。調査結果に示された問題についても考察でき ていない部分もある。これをさらに精緻化していくことが,今後の課題となる。 【謝辞】 調査に協力していただいた CSW のみなさまに感謝いたします。 本研究は,桃山学院大学特定個人研究費(2019年度交付分),および JSPS 科研費(JP19K 02214)の助成を受けています。 【文献リスト】 チャールズ・ラップ,リチャード・ゴスチャ『ストレングスモデル』第 3 版,金剛出版,2014年 岩間伸之「地域を基盤としたソーシャルワークの特質と機能」『ソーシャルワーク研究』37!1,4!19頁, 2011年 岩永俊博『地域づくり型保健活動の考え方と進め方』医学書院,2003年 ジョセフ・スティグリッツ,アマティア・セン,ジャンポール・フィトゥシ『暮らしの質を測る 経済 成長率を超える幸福度指標の提案』金融財政事情研究会,2012年 加藤昭宏「コミュニティソーシャルワークにおける個別支援と地域支援の統合の可能性―二次障害によ る社会的孤立に対する社会モデルの援用―」『日本の地域福祉』32,51!62頁,2019年 川島ゆり子『地域を基盤としたソーシャルワークの展開』ミネルヴァ書房,2011年 三島亜紀子『社会福祉学は「社会」をどうとらえてきたのか』勁草書房,2017年 中島修・菱沼幹男編『コミュニティソーシャルワークの理論と実践』中央法規,2015年 OECD『OECD 幸福度白書4』明石書店,2019年 岡本榮一「社会福祉の基礎」岡本榮一他編『社会福祉原論』建帛社,1!22頁,2002年 小野達也『対話的行為を基礎とした地域福祉の実践』ミネルヴァ書房,2014年 「増進型地域福祉への考察」『社会問題研究』65,1!16頁,2016年 大橋謙策,千葉和夫,手島陸久,辻浩『コミュニティソーシャルワークと自己実現サービス』万葉舎, 2000年 ピーター・ディヤング,インスー・キム・バーグ『解決のための面接技法 ソリューション・フォーカ ストアプローチの手引き』第 4 版,金剛出版,2016年 菱沼幹男「総合相談支援窓口におけるコミュニティソーシャルワーカーの個別支援機能分析」『日本社 会事業大学研究紀要』66,17!30頁,2020年 鶴幸一郎,藤田孝典,石川久展,高橋正幸『福祉は誰のために』へるす出版新書,2019年
トム・アーンキル「未来語りダイアローグ」ヤーコ・セイラック,トム・アーンキル著『開かれた対話 と未来』医学書院,124!164頁,2019年 厚生省「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書,2000年 http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/833.pdf 厚生労働省「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」報告書,2008年 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/s0331-7a.html 地域包括ケア研究会「地域包括ケア研究会」報告書,2010年 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0621-5d.pdf 厚生労働省「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会(地域共生社 会推進検討会)」最終とりまとめ,2019年 https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000581294.pdf (2020年11月17日受理)
High Quality of Support in Social Work in Communities
An interview survey with community social workers
ONO Tatsuya
In recent years, community-based welfare has been advanced as a policy, and social work has been conducted in communities. However, discussions on the quality of support achieved through social work are not active. This study was focused on the attainment of high quality of social work in communities. I interviewed community social workers(CSWs)to grasp the current situation of the practice in communities and the elements to attain a high quality of sup-port. The results revealed that(1)CSWs work within several constraints ;(2)although CSWs are unclear about the high quality of support, they have a certain interest in it ; and(3)CSWs can be the starting point for attaining high quality of support. In the Discussion section, I high-light three points that need to be considered to achieve high quality of support, namely, consid-ering the idea of welfare adopted by CSWs, developing goal attainment-type support methods, and developing resources for support.