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電磁超音波共鳴法(EMAR法)による高温機器部材のクリープ損傷評価

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1.緒   言 高 温 高 圧 下 で 使 わ れ る 発 電 プ ラ ン ト 機 器 多 く は , 19601970 年代に建設され,経年劣化(主として腐食, 疲労やクリープ)が進んでいるもかかわらず運転されて いる1)–3)。クリープはプラントの高温機器の健全性を左 右する最も重大な因子の一つである。クリープとは,高 温,一定荷重(応力)下において,熱活性の助けで材料 がゆっくりと連続的に変形し,しまいには壊れるという 挙動である2)。この変形は材料微視組織の変化と歪みの 累積の相互作用に関連付けられ,歪みの累積は転位運動 や微視組織 (Sub-structure) に支配される3)。近年の地球 温暖化防止対策による二酸化炭素量排出規制のため,よ り高効率化が計られ,高温高圧の過酷な運転が強いられ る傾向にあり,これらの構成材料の損傷・劣化の懸念は ますます増えてきている。 このような状況下において,火力発電プラント設備の 安全性と信頼性を保つためには,非破壊的に構成材料の 健全性・余寿命を評価する技術が必要不可欠である1)–3) 最近レプリカ法が広く使われている4),5) 。この手法は,現 場の熟練者の経験的な判断で行なわれる場合が多く,膨 大な時間と労力を要し,限られた範囲の検査にしか適用 できないという問題点がある。また,クリープ損傷では 運転時間の経過とともに損傷が累積されるが,その損傷 は構成材料全体に広がり,必ずしも表面から損傷して行 くとは限らないという特徴をもっている6) 。そこで,ク リープ損傷評価には,材料内部の組織変化が検出可能 で,非破壊的に現場で広範囲の計測が容易な検査手法が 熱望されている。ここでは,上述の条件を満足すると思 われる電磁超音波共鳴法(Electromagnetic Acoustic Reso-nance: EMAR法)7),8) を用いて高温機器部材として良く使 われる高温用のボルト材 Cr–Mo–V 鋼 (JIS-SNB16) のク リープ損傷と超音波特性の変化。特に減衰係数との関係 について述べる9)–11) 2.減衰と内部組織の関係 金属の内部組織に「音」は敏感である。鈴や鐘を鳴ら すとやがて鳴りやむが,これは空気中に音のエネルギー が漏れるためというよりは,むしろ金属内部での音のエ ネルギーが消費されるためである。金属内部には転位や

電磁超音波共鳴法(EMAR 法)による高温機器部材の

クリープ損傷評価

大 谷 俊 博 *

Electromagnetic Acoustic Resonance to Assess Creep Damage in High-temperature Components

Toshihiro OHTANI*

The microstructural evolution of the Cr–Mo–V ferritic steel, JIS-SNB16, subjected to a tensile creep test at 923 K was studied by monitoring the shear wave attenuation and velocity with electromagnetic acoustic resonance (EMAR). This study revealed an attenuation peak independent of the applied stress and the type of EMAT (electromagnetic acoustic transducer) used at around 30% of the creep life and a minimum value at 50%. This novel phenomenon is interpreted as resulting from microstructural changes, including strain hardening and dislocation recovery. This interpretation is sup-ported by TEM observations of dislocation structure. The relationship between attenuation change and microstructure evolution can be explained with the string model for dislocation vibration. EMAR is shown to possess the potential to assess the progress of creep damage and predict the remaining creep life of various metals.

Keywords: Creep damage, Cr–Mo–V steel, EMAT, Ultrasonic attenuation, Non-contact evaluation, Dislocation.

Vol. 42, No. 1, 2008

*機械システム工学科 教授 平成 19 年 10 月 5 日受付

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湘南工科大学紀要 第 42 巻 第 1 号 双晶などの格子欠陥が多く存在する。それらが擬弾性的 に振動し,結果的に音のエネルギーを温度上昇として消 費してしまうのである。実際にこの原理を利用した制振 材料も多い。周波数の高い音である超音波にも同様に金 属の内部組織に敏感である。ただし超音波が伝播する領 域にわたる平均の内部組織に対してであり,局所的に存 在する一本の転位や一個の空孔などには感度が無い。し かし,一般に転位や空孔などの格子欠陥は金属中に多数 に存在するため,超音波によってこれらの形態の変化を 検出することが可能となる。 金属のクリープの進行において非常に顕著な内部組織 の変化が起きる。その変化は材質や応力などに依存する が,必ず転位組織の変化とき裂の発生・進展を伴う。超 音波によってこれらの組織変化を捕らえるためには,非 接触測定を行うことが必要である。金属中を伝ぱする超 音波のエネルギーはほとんど空気中に漏れないため,超 音波振動の様子を調べるために従来は接触式の計測法が 用いられてきた。つまり,鳴り響いている金属に「触る」 ことにより,振動を検出するのである。これは重大な問 題を引き起こす。例えば,鳴り響いている鈴の振動を測 定しようとして指で軽く鈴に触れるとどうなるであろ う? 直ちに振動は鳴りやむ。これは振動エネルギーが 指を通して鈴から漏れたのである。このように,振動体 に接触して振動特性を計測するということが材料内部の 振動特性を著しくかき乱し,正確な計測を妨げる。 多くのクリープ研究においても,超音波特性を利用し た研究は数多くあるが12)–20) ,非接触で計測した研究はな い。筆者は EMAR 法をクリープ損傷評価に適用し,これ を実現した。超音波特性の中で,特に減衰は,クリープ や疲労の損傷評価に有効と考えられる。これは超音波が 伝播する際に,そのエネルギーが転位振動に費やされた り,き裂によって散乱されたりして現象していく割合で ある。 転位まわりには高い応力場が存在する。超音波によっ て転位が安定位置から移動すると,応力場の急激な移動 が起こり,これを妨げようとして熱弾性効果により発熱 が生じる。これは不可逆過程なので,超音波エネルギー の一部が発熱に費やされる。Granato と Lücke は,この ような転位の振動を,粘弾性体中の弦の振動としてモデ ル化し,減衰係数 a と転位密度 L,転位長さ L,振動周 波数 f の関係を以下のように導いた21) aA1LL4f2 (1) ここで,A1は正の定数であり,剛性率,転位運動の比 粘弾性係数,転位の有効線張力,バーガースベクトルに 依存する。このモデルによると減衰係数 a は転位密度 L に比例し,転位の平均長さ L の 4 乗に,周波数 f の 2 乗 に比例する。ただし,注意すべきことは,式 (1) がすべ ての転位を対象としているわけではなく,超音波のよう な低応力波に対しても振動できる可動転位だけを対象に していることである。したがって,結晶粒界や析出物な どに強く拘束されている転位や,お互いに強い相互作用 で絡み合った転位などは振動することができず,a に貢 献できない。 3.EMAR 法による減衰測定 EMAR法は,非接触で超音波を送受信できる電磁超音 波探触子 (Electromagnetic Acoustic Transducer: EMAT) を 用いて金属内に超音波共鳴を発生させ,その共鳴スペク トルから材料を評価する非破壊検査法である。この方法 は EMAT の非接触性と超音波共鳴のコヒーレント性がお 互いの短所を補い合うことができる。当初,薄板の集合 組織検出に適用されていた22)。スーパーヘテロダインに よる信号処理法や EMAT の高感度化が進み圧電探触子 に匹敵するほどの感度が得られるようになった23)。しか も非接触性は保たれており,被測定物表面の汚れや錆な どの影響は受けにくく簡便かつ迅速に測定を行うことが できる。また感度の悪い EMAT での測定は,超音波エネ ルギーがほとんど奪わないため,圧電探触子では測定が 極めて困難であった超音波減衰などの貴重な情報を容易 に得ることができる。 ここでは典型的な 2 つの EMAR 法,板厚共鳴と軸対称 SH波共鳴について述べる7),8)。Fig. 1 には横波を送受信す る電磁超音波探触子 (EMAT) の構造である。トラック状 に巻いた平面コイルと一対の永久磁石から成り,試料が 強磁性体では,磁わい効果を[Fig. 1(a) 参照],常磁性体 ではローレンツ力[Fig. 1(b) 参照]を利用して試料表面 に垂直に伝播する横波を送受信する。 Fig. 2は丸棒試料に表面波横波を励起する EMAT であ る。試料表面付近には蛇行コイルを設置し,ソレノイド コイルによって試料軸方向に静磁場 H0を印可する。こ の 状 態 で 蛇 行 コ イ ル に 長 い バ ー ス ト 波 電 流 (400 VP–P,40 ms) を流して軸方向の直交する変動磁場 Hwを 試料表面に作る。試料表面の合成磁場 Htは,ソレノイ ドコイルの静磁場と蛇行コイルの変動磁場のベクトル和 となり,軸方向からわずかに傾いた方向を向く。試料表 Shonan Institute of Technology

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面の磁わいはこの方向に発生する。隣り合う蛇行コイル の直下では逆向きに傾いた合成磁場,すなわち逆向きの 磁わいが発生する。この結果,せん断変形が生じ軸方向 に偏向し円周方向に伝播する表面波横波が発生する。こ の波を軸対称 SH 波と呼ぶ。 Fig. 1と Fig. 2 のいずれの方法においても連続波に近い 励起電流を用いると,試料の境界条件を満足するような 周波数において超音波共鳴が発生し,非常に高い受信振 幅を観測することができる。板厚共鳴の場合,n 次の共 鳴周波数 fnは fnnC/(2d) で表され,等間隔に現れる。こ こで,C は測定物中での音速,d は板厚である。軸対称 SH波共鳴の場合,共鳴周波数は,等間隔ではなく, NJN(kR)kRJN1(kR)0 で決定される24)。ここで,JNは N 次の第 1 種ベッセル関数,R は丸棒の半径,k は波数で ある。波数 k は,m 次の共鳴周波数 fm(N) と音速 C の関係 から k2 pfm(N )/C で表される。本研究で用いた蛇行コイ ルのターン数 N は 49 であった。Fig. 3 に Cr–Mo–V 鋼丸 棒で測定した共鳴スペクトルの例を示す。1 次のモード では,試料最表面を SH 波が伝播し,高次のモードにな る程,伝播領域は,内部へ移る24) 。減衰係数を求めるに は,Fig. 3 の各ピーク近傍の周波数を掃引し,そのデー タをローレンツ関数で近似しその中心軸から共鳴周波数 を求め,その周波数で,共鳴状態をつくり,Fig. 4 に示 す減衰曲線を得る25) 。この曲線を指数関数で近似する事 により,減衰係数 a(単位時間あたりの減衰)を決定す る。

Fig. 1. Structure of bulk-shear-wave EMAT.

Fig. 2. Axial shear-wave EMAT consisting of a sole-noid coil surrounding the cylindrical surface. The magnetostriction mechanism causes the axial sur-face SH wave.

Fig. 3. Measured resonant spectrum of Cr–Mo–V steel of 14-mm diameter with N49. Static field in-tensity was 12.7 kA/m.

Fig. 4. Measured ringdown curve of the first mode

f1

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湘南工科大学紀要 第 42 巻 第 1 号 4.クリープのともなう減衰および音速の変化 素材は高温用のボルト材としてよく使われる Cr–Mo–V 鋼 (JIS-SNB16) を用い,下記の熱処理をおこなった: 1283 Kで 2 時間保持後空冷,1223 K で 2 時間保持後油冷後, 963 Kで 6 時間保持後空冷。試験片の形状,化学成分お よび機械的性質の詳細は文献 11) に示す。SNB16 のク リープ試験にともなう減衰係数 a と相対音速比 DV/V0 (V0:初期の音速),クリープひずみおよびクリープひず み速度を推定寿命消費率 t/trについて整理した結果を Fig. 5に示す10) 。この結果は,多数のクリープ試験片(23 本) を用意し,それぞれを所定のクリープひずみに至るまで クリープ試験をおこない,その後超音波特性を測定した ものである。クリープ試験は大気中 923 K の温度下,25 MPaの単軸応力下で実施した。破断寿命 trは,丸山らが 提案した修正 q 法26) と破断パラメータ Pa 27) を用いて推定 した。使用した EMAT は Fig. 1(a) に示す体積波 EMAT を 用いた。共鳴周波数は第 11 次(3.5 MHz 近傍)の共鳴 モードである。a は,クリープ開始から増加し,t/tr0.3 でピークを示す。その後 t/tr0.5 まで減少し,破断まで 急増する。一方,DV/V0は t/tr0 から t/tr0.3(a が極大 を示す)まで僅かに減少する。t/tr0.5 まではほぼ一定, その後破断まで減少する。最大変化量は 4% 程度である。 クリープひずみ速度は,クリープ開始から t/tr0.2 まで 減少した後 t/tr0.6 まで一定になり,その後は破断まで 増加している。この変化は遷移,定常と加速クリープに 対応している。a が極大値を示す点 (t/tr0.3) と音速の変 化が一定になる点が同時期であった。これら以上の変化 は他の応力や他の共鳴周波数でも同様であった。

Fig. 6は 軸 対 称 SH 波 EMAT( Fig. 2 参 照 ) に よ る

Cr–Mo–V鋼のクリープ進行中の a の変化を示す11) 。Fig. 5と同様に t/tr0.3 で a がピークを示す。減衰係数の変 化は EMAT の形式に依存しないことを示している。この ような a や音速の変化は単調ではないため,クリープ損 傷評価には音速と減衰係数を併用することが有効な手段 となる。

Fig. 7にはクリープ進行中の TEM による Cr–Mo–V 鋼

の内部組織変化を示す10)。Fig. 7(a) はクリープ前の状態 で,Fig. 7(b) から (d) は,それぞれ t/tr0.21,0.54 と 0.84 付近の組織を示す。図中の上下方向が荷重方向である. クリープ前の組織では,伸長的なセル構造が数多く見ら れた。一部分,等軸的なセル構造も見られた。いずれの セル境界も明瞭ではない。セル内の転位同士は絡み合い, 転位密度は高い。Fig. 7(b) は Fig. 5 において a がピーク を示す少し手前の組織である。等軸的なセル構造が多く 見られる。一部伸長的なセル構造が見られた。セル内の 転位密度は高い。Fig. 7(c) は a が極小値を示した組織で ある。Fig. 7(b) と同様に大部分が等軸的なセル構造で, 一部伸長的なセル構造やサブグレインが見られる。サブ グレインのサイズは Fig. 7(b) と同等程度であるが,セル 構造のサイズは大きくなっている。セルおよびサブグレ インの境界は。Fig. 7(b) より明瞭になり。セルやサブグ Fig. 5. Relationship between a, DV/V0, creep strain,

strain rate, and t/trat the 11th resonant mode under

25 MPa. The shear wave polarization is parallel to the stress direction.

Fig. 6. Relationship between the attenuation coeffi-cient of the first resonant modes and life fraction with an axial shear-wave EMAT (Cr–Mo–V steel, 35, 45 and 55 MPa, 923 K).

(5)

レイン内の転位密度は低くなっている。Fig. 7(d) は a が 急増している組織である。大部分がサブグレインで,一 部等軸的なセル構造や伸長的なセル構造が見られる。セ ルおよびサブグレインの境界はより一層明瞭になってい る。セルやサブグレイン内の転位密度は Fig. 7(c) よりか なり低くなっている。

Fig. 8と Fig. 9 に TEM 観察で得た多数の組織写真をデ

ジタル化してコンピュータで取り込み解析した結果を示 す。Fig. 8 はクリープ進行中のセルおよびサブグレイン の平均径と形状係数(サブグレインの最小径/最大径) の変化を示す。平均径はクリープ開始から t/tr0.2 まで わずかに増加し,t/tr0.5 までほぼ一定になる。その後急 激に増加していく。破断近くの t/tr0.84 ではその大きさ は初期値の 5 倍以上になっていた。クリープ速度はセル やサブグレインの大きさの 3 乗に比例して増加すること が報告されている28) 。t/tr0.5 以降におけるセルやサブグ レインの大きさとクリープ速度も同様な結果を示してい る。またセルやサブグレインの大きさの粗大化と同時に, 形状係数の増加もみられる。これは伸張したサブグレイ ンから等軸のサブグレインの変化 (Fig. 7) と一致する。 次にセルおよびサブグレイン内の転位密度 L1と転位 平均長さ L1の測定結果を Fig. 9 に示す。転位密度の計測 には Keh らの手法29)を用いた。ここで対象とした転位 は,粒界やサブバウンダリーに堆積した転位ではなく, 結晶粒内の炭化物や他の転位に釘付けされた転位および 可動転位だけである。なぜならば,これらの転位こそが 減衰変化の主要因であるからからである。Fig. 9 におい て L1は t/tr0.2 まで増加した後,t/tr0.5 まで減少する。 その後急激に低下していく。また L1は t/tr0.2 まで増加

Fig. 7. TEM micrographs of crept specimens at

t/tr0, 0.21, 0.54 and 0.84 (Cr–Mo–V steel, 25 MPa,

923 K).

Fig. 8. Change of the size and shape factor of cells and subgrains as creep progresses (25 MPa, 923 K).

Fig. 9. Change of the dislocation density and length as creep progresses (25 MPa, 923 K).

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湘南工科大学紀要 第 42 巻 第 1 号 した後,t/tr0.5 まで僅かに低下または一定になる。その 後 増 加 し て い く 。 参 照 試 験 片 は , ク リ ー プ 試 験 片 (t/tr0.84) と同程度の転位密度であるが,転位長さは短 い。次に Fig. 9 の L1と L1(平均値)を用いて,式(1)か ら減衰係数を算出した。結果を実測値( 印)とともに Fig. 10に示す。ただし,定数 L1はクリープ前の試料に 対して,実測値と計算値が一致するように決定した。Fig. 10の計算値を実測値と比較には,L1çL, L1ç Lという仮 定が必要である。L と L は,超音波の微小振幅(0.1 nm オーダー程度)においても可動な転位に対するものであ り,TEM 観察によって得られた L1と L1には必ずしも一 致しない。すなわち,TEM 観察された可動転位が実際 の超音波により振動するかどうか観察することはできな い。一般に転位線上に点欠陥が吸着・釘付けされており, それら点欠陥の間隔が L に相当する。つまり L1L とな る。また,転位を釘付けする点欠陥同士の相互作用を考 えると,長い転位線ほど隣り合う点欠陥の距離が広がる と考えられる。Fig. 10 を見ると計算値 a の変化は実測値 a の変化と対応しており,これは上の仮定の妥当性を示 すとともに,減衰係数変化の主要因が転位振動によるエ ネルギー吸収であることを強く裏付ける結果である。以 上の考察から,本研究で観測された減衰係数の変化は転 位構造の変化に起因すると結論できる。 Granatoと Lu¨cke は減衰係数と同様に音速に対しても 以下の式を導いた21) DV/V0A2LL2 (2) ここで A2は正の定数である。音速は転位密度 L と転 位の平均長さ L の 2 乗に比例し,転位密度と長さの増加 は音速の減少をまねくはずである。Fig. 5 において減衰 係数が極大値を示す点では,音速の変化が見られる。ま た t/tr0.5 以上の減衰係数が急増する領域でも音速は急 激に低下している。これは音速の変化も転位振動による ことを裏付けている。 クリープ損傷による Cr–Mo–V 鋼の主たる組織劣化は, (1) 転位組織の回復(転位の再配列,転位の消滅) (2) 炭化物の析出および粗大化 が挙げられる30)。その結晶粒径や炭化物の変化を調べ た。Fig. 11 に t/tr0(未使用材),0.67 の試料の SEM に よる組織写真を示す。荷重方向は図中の左右方向であ る。未使用材はベイナイト組織を呈し旧オーステナイト 粒界は明確には観察できなかった。微細なブロック粒を Fig. 10. Comparison between calculated and

meas-ured attenuation coefficients in the 11th resonant mode (25 MPa, 923 K).

Fig. 11. SEM micrograph of the crept specimens at

t/tr0 and 0.67

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持ち,微細な析出物が見られた (Fig. 11(a))。Fig. 11 に示す 析出物(図中の矢印)をエネルギー分散型 X 線分析装置 (EDX) で分析したところ,Cr 系の炭化物(M23C6と推察) 31) の析出物であることがわかった。これらの組織写真をコ ンピュータに取り込み,個々のブロック粒の面積を計算 し,粒形が球状であると仮定して,平均ブロック粒径を 求めた。また測定した析出物の数密度と粒径を求めた。 Fig. 12にはクリープ進行にともなうブロック粒の大きさ, 析出物の数密度と平均径,および硬さの変化をしめす10) ブロック粒径はクリープ開始から指数関数的に増加して いる(粗大化)。また析出物の数密度はクリープ進行に より急激に減少し,析出物の大きさは急激に増加してい る。クリープ開始とともに析出物の凝集・粗大化が進行 していることが分かる。クリープ末期 (t/tr0.84) では析 出物数密度はクリープ前の 1/3 以下に,平均径は 2 倍以上 になっていた。セルおよびサブグレインの平均径は増加 し,a が急増する (t/tr0.6) から急激に粗大化していく。 破断近くの t/tr0.84 ではそのサイズは初期値の 5 倍以上 になっていた。さらに硬さの変化は,クリープ開始と指 数関数的に減少している(軟化)。その変化はセルおよ びサブグレインの幅の変化と反比例の関係にある。 Fig. 7で示した転位構造の変化は,過去の報告31)–37) も見られた。また Fig. 712 の結果をもとに,Fig. 5 に示 すようにクリープ進行にともなう組織変化と減衰係数の 関係を 4 段階に別け説明すると以下のようになる。 (1) 第 1 段階 (0t/tr0.3):クリープ初期から転位密度 が増加するとともに(Fig. 7 より),転位組織が整理され, 伸長的なセル構造から等軸的なセル構造に変化する (Fig. 8)。セルの粗大化 (Fig. 8) と析出物の凝集・粗大化 (Fig. 12(b)) が進み硬さの低下 (Fig. 12(c)) が起こる。また析出物 の凝集・粗大化は固溶炭素および転位線上の固着点の減 少と固着点長さの増加を引き起こし,転位が動きやすく なる9) 。その結果 L と L の増大 (Fig. 9) から減衰が増加 する。 (2) 第 2 段階 (0.30t/tr0.5):この段階は,ひずみ速度 がほぼ一定下でクリープが進行し(定常クリープに対 応),セル境界が活発に形成され等軸的セル構造が全体 を占め,一部サブグレインに移行する。析出物の析出の 速度は増加し,析出物の凝集・粗大化がいっそう進む (Fig. 12(b))。クリープ進行にともない新たに生成された転 位はセル境界の形成に費やされる。セル壁を形成する転 位密度は増加するが,セル内部転位密度は低下する。そ の内部転位密度の低いセル組織が全体を占めることによ り可動転位密度 L が急激に減少し,a の極大値が現れ る。その時点のクリープひずみは 4% 程度であり,寿命 の 30% に相当する (Fig. 5). (3) 第 3 段階 (0.5t/tr):この段階は,ひずみ速度が急増 し(加速クリープに対応),析出物の凝集・粗大化が いっそう進む (Fig. 12(b))。クリープ進行ともなうさらな る全転位密度は内部エネルギーを上昇させ,セル構造の 転位網に回復が起こりサブグレインの形成が加速される。 そのサブグレインの成長により粒界に大きな傾きを持ち 内部の転位密度の低いサブグレインができる。そのサブ グレインを核にして再結晶が生じる38)。また粗大化した 析出物は,サブグレインの形成や再結晶の生成を起こり やすくしている39)。その結果 L の急激な減少と,L の増 加により a が増加する。その結果 a の極小値が現れる。 その時点のクリープひずみは 10% 程度であり,寿命の 5 割に相当する (Fig. 5). t/tr0.30 付近で現れた減衰係数のピークは定常クリー プの開始であり,回復の開始である。t/tr0.50 付近の減 衰係数の最小値は加速クリープの開始に対応すると考え られる。クリープ寿命前半で減衰係数がピークを示すこ Fig. 12. Microstructure evolution (25 MPa, 923 K) as

creep progressed; a) change of the average block-boundary diameter, b) Change of the average diame-ter and number density of precipitates and c) change of the Vickers hardness. Solid marks are data of the crept samples.

(8)

湘南工科大学紀要 第 42 巻 第 1 号 とは,これまでステンレス鋼,2.25Cr–1Mo 鋼,Ni 基耐熱 超合金鋼のような全く異なる材料においても観察され 9)–11),40)–43) 。それぞれの材料のピークを示す寿命比 t/tr を Table 1 に示す。このことは本測定法の普遍性を示す ものである。また,電磁超音波共鳴法はクリープ進行に 伴う材料全体の内部組織変化(転位組織,材質軟化や析 出物の粗大化)をとらえることができ,損傷評価および 余寿命予測に有効であると考えられる。今後は負荷履歴 影響やより長寿命なクリープ損傷評価や溶接部材の熱影 響部から切り出した微少試料のクリープ損傷評価および 余寿命予測の研究を行っていきたいと考えている。また 併せて実機形状に最適なセンサー開発も必要と考えてい る。 5.結   論 高温用のボルト材 Cr–Mo–V 鋼 (JIS-SNB16) のクリープ 損傷に伴う微視的組織の変化を電磁超音波共鳴法で測定 する減衰係数と音速の変化から評価した。以下のことが 明らかになった。 (1) 超音波減衰はクリープ寿命の約 30% で極大値を, 寿命の約 60% で極小値を示した。それらの極大値は初 期の転位組織の完成と回復の開始と一致,また極小値は 加速クリープの開始点と一致し,転位組織の再構築と析 出物の凝集・粗大化と関係していた。これは負荷応力や EMATの形式に依存していなかった。 (2) 超音波減衰は,クリープ損傷に対して敏感に反応 し,転位による吸収減衰に支配される。弦モデルにより, 超音波減衰・音速と転位組織の変化を対応つけられる。 (5) クリープ進行中の硬さの変化は,セル壁やサブグレ インの幅の変化と反比例にある。 (6) EMAR法はフェライト系 Cr–Mo–V 鋼材料のクリー プ損傷評価と寿命予測を行える可能性を持っている。 (7) 減衰係数と音速の両方をモニタリングすることで, より精度の高い寿命評価が可能になる。 参 考 文 献

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Material Cr–Mo–V steel 2.25Cr–1Mo steel Type 304 Type 316L Waspaloy

Life fraction, t/tr, at attenuation peak 25–30% 50–60% 30–40% 60–70% 35–40%

t/trat attenuation minimum 50% 75% 70% 85% —

Stress (MPa) 25, 35, 45 and 55 45 and 65 100, 110 and 120 100, 110 and 120 140, 150 and 160

Temperature (K) 923 923 973 973 1073

Type of EMATs Axial SH wave, Axial SH wave,

Bulk-wave Bulk-wave Bulk-wave Bulk-wave Bulk-wave

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Fig. 4. Measured ringdown curve of the first mode f 1 (49) in Fig. 3.
Fig. 7 にはクリープ進行中の TEM による Cr–Mo–V 鋼
Fig. 8. Change of the size and shape factor of cells and subgrains as creep progresses (25 MPa, 923 K).
Fig. 11. SEM micrograph of the crept specimens at t/t r  0 and 0.67
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