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巻頭言:南アフリカの多民族・多言語社会の複雑さ -- 南アフリカの演劇から考える

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Academic year: 2021

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巻頭言:南アフリカの多民族・多言語社会の複雑さ

-- 南アフリカの演劇から考える

著者

楠瀬 佳子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アフリカレポート

発行年

2009-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

(2)

2007年2月ケープタウン滞在中に,マイケル・レザック監督の演劇「通訳の真実」をバ クスター・シアターで観た。南アフリカで,アパルトヘイト時代に人権侵害を受けた被害 者や,その加害者が真実和解委員会(TRC)で証言したことを,通訳者は,何の感情も交え ず淡々と人間機械として他の言語に置き換えていく物語。通訳者たちは,証言の内容に 「関わってはいけない」という不文律があるために,仕事として,一人称の「私」になりき って,一字一句間違いなく11の公用語に通訳していかなければならない。彼らは毎日,被 害者にも,加害者にもなりきり,アパルトヘイトの過去から逃れることができない。明ら かに嘘とわかる証言ですら,感情を抑えて通訳しなければならない。証言は,有形無形に 彼らの精神に影響を与え,通訳者は大きなストレスに押し潰されそうになる。彼らの唯一 の発散は酒場で憂さを晴らすしかない。この劇はミュージカル仕立てであった。 最近の傾向として,文学作品や映画や演劇などはTRCの証言内容を題材に取り上げてい るが,この「通訳の真実」は,いわば証言の周辺を取り上げ,通訳者のストレスと苦悩を 扱い,同時にマルティリンガル社会の複雑さを描いた。英語で物語が進行するが,他の言 語に同時通訳される声は少し低めで,美しいハーモニーを醸し出していた。観衆は聞きた い言語に耳をすませばいい。ヒュー・マセケラの音楽がバックに流れたり,対話の合間に ダンスやコーサ語の歌などが入り観客を引きつけた。TRCの映画「許し」に出演していた クゥアニータ・アダムズは,ケープトニアン独特の口調で好演した。上演後の出演者と観 客との対話では,クゥアニータは「リハーサルを通じて,アフリカーンス語を第一の言語 とするカラードのアイデンティティについて考えた。アパルトヘイト時代に政府の仕事に ついていた祖父を『裏切り者』と思っていたが,祖父は与えられた仕事のなかで,社会の 変革のために闘っていたことを知った」と述べた。11の言語を公用語にした南アフリカの 民主化への決意と複雑さが語られていて,面白いとも思った。言語は歴史と文化と生活が 体現されており,人間感情を無視することはできないのは当然のことだが,今実際に11の 言語を対等に教育の現場でどう進めていくのかが大きな課題である。多言語・多民族社会 での民族の真の和解に,言語の果たす役割が大きいことを再確認させる演劇だった。

南アフリカの多民族・多言語社会の複雑さ

−南アフリカの演劇から考える− 楠瀬佳子(京都精華大学教授,アフリカ文学)

参照

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