木材内部の染色に関する「吸引染色法」の確立
Establishment of “Absorption Dyeing Method” for Dyeing the Inside of Wood
……….安森 弘昌 芸術工学部プロダクト・インテリアデザイン学科 准教授 ばんば まさえ 芸術工学部ファッションデザイン学科 教授
野口 僚 芸術工学部プロダクト・インテリアデザイン学科 実習助手
Hiromasa YASUMORI Department of Puroduct and Interior Design, School of Arts and Design, Associate Professor
Masae BANBA Department of Fashion and Textile Design, School of Arts and Design, Professor
Ryo NOGUCHI Department of Puroduct and Interior Design, School of Arts and Design, Assistant
………. 要旨 本研究の目的は、木材内部の染色に関する「吸引染色法」 の確立である。「吸引染色法」とは、減圧負荷によって木材 内部に染料を吸引し、着色を施す独自の染色法である。木 材内部の染色に関する研究事例には、減圧加圧注入法や立 木染色法があるが、染色に長時間を要することや大型設備 が必要であること、色むら発生などの要因から、広範囲な 実用化には至っていない。本研究では、「吸引染色法」によ って、木材内部を短時間でむらなく一様に染色し、そのサ イズが家具や建築部材に利用できる範囲に達することを目 標とする。表面部分のみを着色した木材に比べ、内部まで 染色した木材は、木材本来の質感を失わず、品があり、唐 木のような美しい色合いの希少木材と同等の価値があると 考える。銘木や化粧用優良大径木が世界的に枯渇している 今日、建築やインテリア、プロダクト分野において、生活 空間に彩りを添える素材として、染色木材の利用価値は高 いと思われる。 Summary
The purpose of this study is to establish an “absorption dyeing method” to dye the inside of wood. The “absorption dyeing method” is unique in that it dyes wood by absorbing dye into it under reduced pressure. While there are examples of studies about dyeing the inside of wood, e.g. methods of decompression/pressurization injection and standing tree dyeing, such methods have not been widely adopted because they require lots of time and large facilities and produce color irregularities. This study aims to enable the inside of wood to be dyed evenly in a short period of time using an “absorption dyeing method” suitable for the sizes of furniture and building components. We believe that wood dyed on the inside retains its original texture and has the same value as beautifully colored rare wood like imported hardwood. We also believe that the current worldwide shortage of precious wood and decorative large-diameter wood will make dyed wood a valuable material to be used.
木材内部の染色に関する「吸引染色法」の確立 神 戸 芸 術 工 科 大 学 紀 要「 芸 術 工 学 2 0 2 0 」( 共 同 研 究 ) 1. 研究の背景 木材 の染 色に つい ては、 過去に 様々 な研 究が 行われ ており 、表 面 部 分の 染色に ついて は多 くの 成果 を確認 できる 。一 方、 木材 内部の 染色に つい ては 、限 られた 範囲で の成 果は 上が ってい るが、 幅広 い実 用化 には至 ってい ない のが 現状 である 。染料 の粒 子の 大き さの単 位が mμで ある のに 対して 、木材 内部 の浸 透経 路の径 の大き さは μ単 位で ある。 したが って 、木 材の 孔は、 染料の 通過 に対 して 十分な 大きさ を持 って いる にもか かわら ず、 染料 の浸 透性に 良否が 発生 する 。な ぜ粒子 は木材 内部 に浸 透し ないの か 。過 去の 研究 事例 では、 染色粒 子の 親和 性に より、 粒子が 組織 に選 択的 に吸着 さ れ 、 内 部 に 浸 透 し な い 旨 の 報 告 が あ る注 1)。 そ れ ら の研究 結果 を踏 まえ、次に 試行さ れた のが 木材 に減圧 、 加圧と いっ た物 理的 負荷を かける こと で浸 透を 促す方 法であ った 。し かし ながら 、結果 とし て、 染色 できる 木材サ イズ に限 界が あるこ と 、負 荷を かけ る時 間の長 さ、大 型設 備が 必要 なこと などが 要因 にな り広 範囲な 実用化 には 至っ てい ない。 そこで 、本 研究 では 、 同じ く木材 に減 圧負 荷を かける 方針で はあ るが 、こ れまで の染料 の浸 透を 促す 減圧と は異な り、 減圧 によ って染 液を吸 引し 、木 材内 部に到 達させ る「 吸引 染色 法」を 提案す る。 この 染色 法に よ る、ご く簡 易な 装置 での 実 験を行 った とこ ろ 、繊 維方 向の長 さが 70 ㎜ のブ ナ材 に 対して 、約 10 秒間 の吸 引で 染料が 全体 に浸 透し 、内 部 をむら なく 一様 に染 色でき た。 「吸引染色法」における染色の仕組みとして、吸引によ って染液が木材の導管を通って材料の奥深くに運ばれ、導 管周囲の組織に浸透して色素が定着したと考える。吸引力 の強い真空ポンプを採用し、より長い時間吸引することで、 導管を通して染液をより遠く届けられるのではないか、ま た、より浸透性の高い染料を選定すれば、導管から離れた 組織でも広範囲に染色できるのではないか、その結果とし て、染色木材のサイズを飛躍的に大きくできるのではない か。 本研究では、これらの問いについて、実験を通して 検証を行う。 2. 研究の目的 本研 究の 目的 は、 木材内 部の染 色に 関す る「 吸引染 色法」の確立 であ る。「 吸引 染色法 」とは 、木材 に減 圧 負荷を かけ 、染 料を 吸引 し 、浸透 させ て、 内部 に着色 を施す 独自 の染 色法 である 。近年 、唐 木な ど独 特な色 を持つ 希少 な木 材が 枯渇し ている こと によ り、 木材の 表面に 染色 を施 し、 高級材 に 見え るよ うに 加工 する例 を多く 見か ける 。表 面部分 のみを 染色 した 木製 家具や 玩具に は、 長年 の使 用によ ってで きた 傷 の 部分 に内部 の色が 露出 し、 見窄 らしい 状態に 至っ た物 を見 かける ことが ある 。永 く使 ってそ の良さ を実 感で きる はずの 自然素 材が 、短 期間 で廃棄 される 結果 を招 いて いる。 経年変 化が 魅力 とな る木材 本来の 特徴 を引 き出 し、美 しい木 理と 材質 感を 生かす には、 染料 によ る木 材内部 までの 染色 が適 して いる。 また、 内部 を染 色し た木材 は、切 断切 削加 工 し ても着 彩の状 態を 保て る利 点があ り、も のづ くり の多 くの場 面で利 用で きる と考 える。 例のひ とつ を挙 げる と、 唐 木を使 った 伝統 的工 芸品の 箱根寄 木細 工が ある 。異な る色の 多数 の部 材を 美しく 配列し て接 着し ブロ ック状 にし て 、そ れを 大鉋 で切削 して、 ズク と呼 ばれ るシー ト状の 化粧 材を 作る 工程が ある。 この 寄木 細工 の唐 木 の代用 材と して 染色 木材が 利用で きる と考 える 。 染色 木材の 色の バリ エー ション は無限 で、 サイ ズの 拡大化 を図れ ば、 人々 の生 活空間 に彩り を添 える 素材 として 利用価 値は 高く 、デ ザイン 分野に 及ぼ す影 響は 大きい と考え る。 3. 研究の方針 従来 の木 材内 部の 染色法 として 減圧 加圧 注入 染色法 と立木 染色 法が ある 。減圧 加圧注 入法 では 染色 に長時 間要す るこ とや 大型 設備が 必要で ある こと 、ま た立木 染色法 では 辺材 部分 のみの 染色で あり 、ま た呈 色が不 均一で ある こと で、 共に実 用化は 限ら れた 範囲 に留ま ってい る。 本研 究で 提案 する 「吸引 染色法 」で は、 従来 の減圧 注入染 色法 と同 じく 減圧 負 荷を材 料に かけ て染 料を注 入し、 木材 の内 部に 染色を 施す。 ただ 、従 来の 減圧法
は、装 置に 材料 をセ ットし て減圧 をか け、 木材 から空 気を抜 き取 り、 染料 が浸透 しやす い状 態に する 仕組み である のに 対し、「 吸引染 色 法」では 、図 1 に 示す よう に材料 の片 方の 木口 を減圧 装置に 装着 し、 反対 側の木 口から 繊維 方向 に染 料を吸 引する 方法 をと って おり、 浸透を 促す 仕組 みが 異なっ ている 。 本 研究 に入 る前 の 段階で 簡易 な実 験装 置を用 いて「 吸引 染色 法」 を実践 し、図 2 の よう な結 果を得 ている 。こ の実 験で は、減 圧した 時間 は約 10 秒 で、染 色でき た材 料の 繊維 方向の 長さは 70 ㎜ であ る 。染 料・助剤の 選定 や減 圧の 出力を 上げる など 実験 方法 に改良 、新た な工 夫を 加え ること で、家 具や 建築 部材 にも利 用可能 なサ イズ の木 材を染 色でき ると 考え た 。 図 1 吸 引 染 色 装 置 略 図 図 2 初 期 の 実 験 結 果 近 年 、あ い ち産 業 科学 技 術総 合 セン タ ーが 木 材内 部 の染色 につ いて の複 数の報 告 を行 なっ てい る。 本研究 では、 同セ ンタ ーと 連絡を 取り、 また 施設 の視 察を行 い、減 圧加 圧実 験装 置 ( 図 3) や木 材内 部の 染色に 関 する情 報を 得た 。同 センタ ーで行 った 染色 実験 では、 最大で 厚さ 20 ㍉×幅 150 ㍉ ×長さ 680 ㍉の サイ ズの木 材で試 行し た例 があ る。し かし、 課題 も多 く、 中心部 まで均 一な 染色 がで きない こと、 樹種 によ って は木材 内部に 全く 染料 が浸 透しな いこと など 、現 在は 実験段 階であ り、 実用 化に は到っ ていな い と いう 報告 を受け た。同 セン ター では 、木材 内部の 染色 に吸 引 負 荷を採 用した 研究 実績 はな く、減 圧加圧 のみ で研 究を 進めて いる。 本研 究は 新た な染 色法確 立の初 期段 階で 、図3 のよ うな大 がか りな 設備 を用意 する 状 況で は無 い。 まずは 小型真 空ポ ンプ とア クリル 素材で 手作 りし た実 験装置 を用い て木 材の テス トピー ス で効 果を 検証 し、 次第に サイズ の拡 大化 を図 る方針 である 。 図 3 あ い ち 産 業 科 学 技 術 総 合 セ ン タ ー 減 圧 加 圧 装 置 「吸 引染 色法 」に おける 染色可 能な 木材 の長 さ方向 の数値 につ いて は、 以下に 示す 6 つの 条件 が大 きく関 係して いる と考 える 。本研 究では 、真 空ポ ンプ を用い た吸引 装置 や以 下に 示す素 材を用 意し て、 準備 し得る 実験設 備お よび 環境 のもと で染色 でき る木 材の 長さの 最大値 を明 らか にす る。 ・ 吸引の 強さ と時 間 ・ 吸 引 と 併 用 す る 染 料 浸 透 促 進 作 用 ( 超 音 波 照 射 な ど) ・ 木材の 樹種( 針葉 樹 広葉 樹(環 孔材 散孔 材 放 射孔材 )) ・ 木材の 部位 (芯 材 辺材) ・ 木 材 の 乾 燥 の 度 合 い (含 水 率 )や 乾 燥 方 法 ( 天 然 乾 燥 人 工乾 燥(高 周波 スチ ーム 真空) ・ 染 料 の 種 類 ( 直 接 染 料 、 反 応 染 料 、 酸 性 染 料 、 ナ ノ 染 料 な ど 浸 透 性 の 高 い 開 発 染 料 、 浸 透 後 に 発 色 反応す る染 料な ど) 4. 研究の方法 4-1 染色装置 木材 内部 の染 色に ついて は、1970 年代以降に研究報 告を確 認で きる が、 初期と 近年の 研究 では 、染 料分野
木材内部の染色に関する「吸引染色法」の確立 神 戸 芸 術 工 科 大 学 紀 要「 芸 術 工 学 2 0 2 0 」( 共 同 研 究 ) の技術 的発 展な ど研 究に関 する 環 境や 状況 が明 らかに 変化し てい る。 現在 の染料 や助剤 を用 いて 過去 の実験 を再現 し、 結果 を見 直しす る必要 性が ある と考 え、吸 引装置 だけ でな く減 圧装置 等を用 いた 染色 実験 を行な い、そ れぞ れの 装置 におけ る染色 効果 を再 確認 するこ とから 始め た。真 空ポ ンプ注2)を減 圧機と して 利用 し、 以下の 3つ の装 置を 製作し て実験 を行 なっ た。 ・吸引 染色 装置 (図 4) ・減圧 装置 (図 5) ・超音 波照 射機 能付 き注3)減圧装 置 (図 6) 図4 吸引染色装置 図5 減圧装置および 装置の機構略図 図6 超音波照射機能付き減圧装置および装置の機構略図 4-2 染料の選定 木材 の染 色に 用い る 染料 の条件 とし て、 セル ロース および リグ ニン に吸 着する 性質で ある こと 、ま た木材 繊維に 対し 浸透 性の 高いこ とが挙 げら れる 。以 上のこ とを踏 まえ て、 以下 の3つ の染料 を用 い て 染色 実験を 行った 。 ・アル コー ル染 料 「Roapas ス ピラ ン」( ア ルコー ル溶 媒) ・反応 染料 「リ アッ ク染 料」( 水溶 媒) ・鉄媒 染液 「天 然鉄 液」( 水溶 媒) アル コー ル染 料は 、木材 内部に お い て浸 透性 が高い 性質が あり 採用 した 。 反応 染料は 他の 染料 と比 較し 粒 子の分 子量 が小 さ く 、木材 内部の 浸透 経路 にお いて通 過性能 が高 いと 考え た。鉄 媒染液 は、 成分 であ る鉄分 が木材 中の タン ニン と反応 して黒 く発 色し 、一 般的な 染料と は発 色の メカ ニズム が異な る の で採 用し た。 4-3 助剤の利用 実験 を開 始し て間 もなく 判明し たこ とは 、針 葉樹の ような 仮導 管を 有す る 樹種 は、染 液が 全く 木材 に浸透 しない 場合 が多 いこ とであ る 。染 料の 粒子 はお ろか水 分も入 りに くい 状況 が確認 できた ため 、木 材内 部への 水分浸 透促 進効 果が 期待で きる助 剤の 利用 を試 行した 。 染料販 売店 の技 術ス タッフ と打ち 合わ せを 行い 、以下 の助剤 を染 料に 混合 して浸 透性向 上を 図り 、効 果を確 認した 。ま た、 市販 の家庭 用洗剤 に含 まれ る界 面活性 剤につ いて も同 様に 試行し た。 ・ 「グリエノール」(染料の溶解、 染着 剤) ・ 「エフ ェク ター DS2C」(カ チオン 高分 子物 ) ・ 「アニノール」(アニオン界面活性剤) 4-4 染色する木材 本研 究の 目標 は染 色木材 の拡大 化で ある が、 まずは 厚さ25 ㍉×幅 25 ㍉×長さ 270 ㍉に切り出した木材を テスト ピー スと し 、 その内 部を 染 色す る実 験か ら始め た。テ スト ピー スの 長さに ついて は、 過去 の研 究 結果 を踏ま え、 染色 装置 の効果 を確認 し得 るサ イズ とし、 厚さと 幅に つい ては 、染液 の浸透 性 の 検証 には 関係し ないた め、 市販 の一 般的な 規格 サ イズ の木 材を 利用で
きるよ う設 定し た。 テス トピ ース に用 いた樹 種を以 下に 示す 。市 場に流 通して いる 一般 的な 樹種を 選び、 広葉 樹に つい ては、 散孔材 と環 孔材 から 代表的 な樹種 を選 定し た。 ・ 針葉樹 檜、 杉 ・ 広葉樹 橅、ハー ドメ ープ ル、タ モ 、楢、栗、ホ ワイ トア ッシュ 5. 染色実験の結果 前章 の研 究の 方法 に従っ て実験 を行 い、 過去 の研究 事例の 結果 と照 合し 、染色 効果の 進展 が確 認で きた結 果のみ 報告 する 。 ●アル コー ル染 料に よる染 色 「ス ピラン 」(ア ルコ ール 溶媒)は、浸 透性が 高い 染 料であ り、 減圧 負荷 のみで も効果 があ り、 減圧 染色法 による 染色 で木 材サ イズの 拡大を 図る こと にし た。 し かし、 この 実験 を始 めて間 もなく 、 ア ルコ ール 溶媒の 染料に 減圧 をか ける 場合、 引火、 爆発 の恐 れが あるこ とが判 明し た。 防爆 装置の 付設が 不可 欠で ある ため、 木材サ イズ が 厚 さ40 ㍉×幅 120 ㍉×長さ 900 ㍉(減 圧25 分間)に到ったところで中断をした。図 7 に示 すよう に内 部の 中心 あたり に多少 色ム ラが 残っ たが、 ほぼ染 色す るこ とが できた 。 図7 アルコール染料 (青 色)による染色 ● 反応染料「リアック」を用いた吸引染色 図 8 は 、 反 応 染 料 の 「リ ア ッ ク 」(赤色 )を 用い て、 吸 引染色(2〜10 分間)を行ったテストピース( 25 ㍉×25 ㍉×270 ㍉)である。染色後にピースの 4 分の 1 を切 断して 取り 除き 、内 部の染 色の状 態を 確認 した 。樹種 は、写 真左 から ヒノ キ、ナ ラ、ブ ナ、 ハー ドメ ープル である 。ブ ナとハ ード メー プルが 一様 に染 まっ ている 。 反応染 料に つい ては 、減圧 負荷を かけ た実 験も 行い、 ブナと ハー ドメ ープ ルにつ いては 吸引 負荷 と同 様の染 色結果 が得 られ た。ただ、減圧時 間が 吸引 に比べ 5〜6 倍の時 間を 要す る結 果とな った。 図 8 反 応染 料を 用 い た 吸 引 染 色 結 果 ●鉄媒 染液 「天 然鉄 液」を 用いた 吸引 染色 図 9 は、鉄媒染液の「天然鉄液」(黒色)を用いて、吸 引染色(2〜10 分間)を行った結果のテストピース(25 ㍉×25 ㍉×270 ㍉)である。樹種は、写真左からナラ( 辺材)、ナラ、ナラ 、クリ 、タモで ある。写真 左端 の楢 の辺材 部分 と右 端の タモが 一様に 染ま って いる 。 図9 鉄 媒染 液を 用 い た 吸 引 染 色 結 果 ● 反応染料「リアック」に助剤を添加した染色 図 10 は、反応染料に助剤を添加した染液を用いて 減圧染 色(10 分間)を行ったテストピースであ り、内 部の染 色状 態を 確認 するた め ピー スを 縦に 2等 分して いる。 助剤 であ るグ リエノ ールに は、 染料 の溶 解や染 着剤と して の効 果が ある。 樹種は 、写 真の 左4 本がブ ナ、右 2本 がヒ ノキ であ り 、ブナ が一 様に 染ま ってい るのが 分か る。
木材内部の染色に関する「吸引染色法」の確立 神 戸 芸 術 工 科 大 学 紀 要「 芸 術 工 学 2 0 2 0 」( 共 同 研 究 ) 図10 反応染料に助剤を添加した染色結果 ●超音 波照 射を 併用 した 染 色 減圧 負荷 に加 えて 超音波 照射を 併用 する こと によっ て染料 の浸 透性 が向 上し た 旨の報 告書注 4)を参考 にし て装置 を用 意し たが 、 顕著 な超音 波の 効果 は確 認でき なかっ た。 6. まとめ 本研究では、準備しうる実験設備を用いて木材内部にム ラのない一様な染色を施し、木材サイズの拡大化を図るこ とが目標であった。結果として、テストピースより大きな サイズの木材で染色を試行できたのは、アルコール染料に よるブナ材の染色のみであった。サイズは、厚さ40 ㍉× 幅120 ㍉×長さ 900 ㍉(減圧 25 分間)で、椅子を作れる 程度の木材は染色できることが判明した。アルコール染料 は浸透性が高く、防爆装置を備えた減圧装置を利用すると、 さらに大きな材を染色できると考える。 「吸 引染 色法 」の 確立に ついて は、 テス トピ ース の サイズ で樹 種も 限ら れるが 木材内 部の 一様 な染 色 がで きたこ と、また、減圧 負荷 の染色 に比 べ 5 分の1 程度 の時間 で染 色で きた ことは 成果と 考え る。 木材 サイズ の拡大 化を 図れ なか ったの は、 装 置の 木材 装着 部に空 気漏れ や作 業性 の問 題があ り 、そ こに 適切 な解 決策 を 考案で きな かっ たた めであ り、今 後の 課題 とし て受け 止める 。 染色実験を重ねて改めて明確になったことは、樹種によ って染色の度合いが全く異なることである。比較的染まり 易い材は、染料の種類の違いに関係なく広葉樹の散孔材で あった。同じ散孔材でもブナ材は色濃く染まり、ハードメ ープルは、試験体全体に染料が浸透はしているが、淡い染 まり方であった。また、同じ樹種でも芯材と辺材では、辺 材の方がより染まる例が多いことがわかった。 反応染料に染着を促進する助剤を添加した染液では、広 葉樹の散孔材でテストピースを短時間で一様に染色でき た。試験体のサイズを拡大する段階に移れる状況である。 本研 究を 始め た理 由の一 つ に、 国内 に豊 富に ある針 葉樹の 利用 促進 に染 色木材 が寄与 でき ない かと いう 考 えがあ った 。ア ルコ ール染 料によ る ヒ ノキ 材の 染色に ついて は、 縞状 のム ラは発 生する が、 テス トピ ースの 長さ方 向に は全 体に 染料が 浸透す るこ とが 確認 できた 。 縞状の ムラ の原 因を 突き止 め、解 消で きれ ば染 色木材 として 十分 利用 可能 である 。 一方 、針 葉樹 材に 対する 水溶媒 染料 によ る染 色 では 、十分 な成 果が 出せ なかっ た。ア ニオ ン系 の界 面活性 剤 や浸 透剤 など の助 剤の添 加によ って 染色 範囲 の改善 が見ら れた ので 、 結 果を引 き継い で研 究を 継続 する。 参考文献 1) 喜太村洋子、「木材の染色性」、『色材』、52、1979 年、 pp.389-398 4) 伊東祥太、「木質材の染色」、『東北工業技術試験所報 告』、第18 号、1985 年 3 月、pp59-64 仕様 2) ダイアフラム型ドライ真空ポンプ(排気速度 24L/min 到達圧力5.33×1000 Pa) 3) 超音波洗浄器(ステンレス製・ASU-M シリーズ) 384 ×234×273mm ASU-6M