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第1章 総論 「判断」場面に着目した教科横断的な学習指導研究のまとめと展望-思考ツールなどを活用し,問題解決・課題解決の力を主体的に育むゆさぶりのある授業改善Ⅱ-

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Academic year: 2021

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総論 

第1章 総論



「判断」場面に着目した教科横断的な学習指導研究のまとめと展望

-思考ツールなどを活用し,問題解決・課題解決の力を 主体的に育むゆさぶりのある授業改善Ⅱ- 太田 聡 本論の要旨  本稿は,国立教育政策研究所「平成,年度教育課程研究指定校事業」(中学校・論理的思考)の 2年間の研究指定を受け,本校が2年次として実施した研究内容に関するまとめと今後の展望について 報告するものである。  本研究では,前年度に引き続き,生徒自身に問題解決・課題解決の場面を教科横断的に経験させ,主 体的な論理的思考活動を引き出すための学習課題設定の強化/思考の発想・拡散・集約段階での思考ツー ルやICTなどの活用/生徒の思考や判断をゆさぶる教師の直接的指導場面の意識化/自分の考えを論理 的に発表させる機会の確保,の工夫を施す教育実践を行った。また,各教科の指導改善の工夫だけでな く,本校が年間継続してきた「総合的な学習の時間」の学習においても並行して,「ものの見方や考 え方」を論理的に行う学習内容を強化し,展開した。この際,三角ロジックやMECEを意識した発問な どを通して,おもに学習内容の生徒による説明場面で,単なる物事の鵜呑みでない,多面的・多角的な 「判断」を促す指導の在り方を検討した。 これらの研究成果の一端として,経時的な追跡調査から,思考ツール活用による思考の外化の促進や 記述問題への無回答率の減少,論理的な文書記述の促進などの学習効果が得られた。  キーワード 論理的思考,思考・判断・表現,問題解決・課題解決,ゆさぶり,教科横断,思考ツール  はじめに  本校は前年度より,文部科学省国立教育政策研究 所の「平成 , 年度教育課程研究指定校事業」 中 学校・論理的思考 の2年間の研究指定を受け,「思 考と表現をつなぐ『判断』のありように着目した学 習指導研究 ~論理的思考の,思考ツールなどを活用 した教科横断的指導を通して~」という研究主題の もと,実践開発 2年次 を進めてきた。  本稿では,まず,本校が前年度までに取り組んで きた各教科・総合的な学習の時間等に見られた指導 上の課題を述べる。   次に,本校が本年度新たに,どのような改善を進 めてきたのかを述べる。最後に,これらの研究から 得られた成果,今後目指されるべき方向性について 記したい。  なお,総合的な学習の時間の中に位置づけている 「BIWAKO TIME 」 以 下 , 「 BT 」 と 示 す ,COMMUNICATION TIME」 以下,「CT」と示す 「情報の時間」のそれぞれに関する本年度の運用の 実際の詳述,またその成果と課題についての考察は, 本研究紀要に所収の各論考に譲る。  1.問題の所在 (1)前年度までの研究成果と課題から 本校が「判断」に着目して,3年目となる。前年 度までの研究成果を活かしながら,各教科の実践事 例を蓄積するとともに,思考ツール活用とICTの連携 をいっそう強化し,生徒自身に課題意識を持たせる ような授業改善を目指した。また,総合的な学習の 時間と,教科との指導の関連性を高めることで,生 徒自身に,生活上の諸課題や社会の未解決課題に関 して,判断を迫られている現実に触れさせ,主体的 な学習経験を積む重要性を見出させたいと考えた。 ところで,日々の学習活動の中で,生徒自身に判 図1 「判断の誤り」を起こすおもな原因 総論 1

第1章 総論

「判断」場面に着目した教科横断的な学習指導研究のまとめと展望

-思考ツールなどを活用し,問題解決・課題解決の力を 主体的に育むゆさぶりのある授業改善Ⅱ- 太田 聡 本論の要旨 本稿は,国立教育政策研究所「平成26,27年度教育課程研究指定校事業」(中学校・論理的思考)の 2年間の研究指定を受け,本校が2年次として実施した研究内容に関するまとめと今後の展望について 報告するものである。 本研究では,前年度に引き続き,生徒自身に問題解決・課題解決の場面を教科横断的に経験させ,主 体的な論理的思考活動を引き出すための学習課題設定の強化/思考の発想・拡散・集約段階での思考ツー ルやICTなどの活用/生徒の思考や判断をゆさぶる教師の直接的指導場面の意識化/自分の考えを論理 的に発表させる機会の確保,の工夫を施す教育実践を行った。また,各教科の指導改善の工夫だけでな く,本校が32年間継続してきた「BIWAKO TIME」をはじめ,総合的な学習の時間の学習においても並 行して,「ものの見方や考え方」を論理的に行う学習内容を強化し,展開した。この際,三角ロジック やMECEを意識した発問などを通して,おもに学習内容の生徒による説明場面で,単なる物事の鵜呑み でない,多面的・多角的な「判断」を促す指導の在り方を検討した。 これらの研究成果の一端として,経時的な追跡調査から,思考ツール活用による思考の外化の促進や 記述問題への無回答率の減少,論理的な文書記述の促進などの学習効果が得られた。 キーワード 論理的思考,思考・判断・表現,問題解決・課題解決,ゆさぶり,教科横断,思考ツール はじめに 本校は前年度より,文部科学省国立教育政策研究 所の「平成 26,27 年度教育課程研究指定校事業」(中 学校・論理的思考)の2年間の研究指定を受け,「思 考と表現をつなぐ『判断』のありように着目した学 習指導研究 ~論理的思考の,思考ツールなどを活用 した教科横断的指導を通して~」という研究主題の もと,実践開発(2年次)を進めてきた。 本稿では,まず,本校が前年度までに取り組んで きた各教科・総合的な学習の時間等に見られた指導 上の課題を述べる。 次に,本校が本年度新たに,どのような改善を進 めてきたのかを述べる。最後に,これらの研究から 得られた成果,今後目指されるべき方向性について れた成果,今後目指されるべき方向性について記し たい。 なお,総合的な学習の時間の中に位置づけている 「BIWAKO TIME 」 ( 以 下 , 「 BT 」 と 示 す ) ,COMMUNICATION TIME」(以下,「CT」と示す) 「情報の時間」のそれぞれに関する本年度の運用の 実際の詳述,またその成果と課題についての考察は, 本研究紀要に所収の各論考に譲る。 1.問題の所在 (1)前年度までの研究成果と課題から 本校が「判断」に着目して,3年目となる。前年 度までの研究成果を活かしながら,各教科の実践事 例を蓄積するとともに,思考ツール活用とICTの連携 をいっそう強化し,生徒自身に課題意識を持たせる ような授業改善を目指した。また,総合的な学習の 時間と,教科との指導の関連性を高めることで,生 徒自身に,生活上の諸課題や社会の未解決課題に関 して,判断を迫られている現実に触れさせ,主体的 な学習経験を積む重要性を見出させたいと考えた。 図1 「判断の誤り」を起こすおもな原因 — 2 —

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総論  断させている場面には,どんな場面があり,具体的 に,何に着目して学習指導すべきであろうか。 一般的に,我々人間が「判断の誤り」を起こすお もな原因としては,図1で示したように,問題の全 体像が見えていないことや,思い込み,他人への同 調,因果関係の誤り,物事に対する疑問の欠如など が挙げられよう。 では,各教科の指導実践の中ではどうだろうか。 生徒自身に判断させている学習活動とは何か,本校 全職員に問い,議論したところ,おもに,生徒自身 に記述・説明させる場面が挙げられた 図2 。            そこで,授業改善を行う際,例えば,課題解決の ために,場合分けや条件付けをしながら発言を促す ことで,状況に応じて結論が変化する可能性を意識 させる学習指導(判断基準の吟味)や,物事の相関 関係や前後関係をそのまま因果関係等と誤解させな い指導,身の回りで起こりやすい「誤った論理」に 対し,違和感や誤りが含まれていることを気づかせ る指導(論理的であるかの吟味)などを通して,論 理的思考の指導充実を図る必要があると捉えた。 (2)研究2年目の具体的な取組に向けて  本年度重視した研究の柱は,次の3つ(図3)で あり,その研究の必要性について述べる。 ① 論理的思考に基づいた,本質的な問いに迫る授 業改善 論理的思考に基づく学習指導とは,生徒自身の考 えを客観的に意識させることでもある。自分とは異 なる考えを持つ他者を知る指導を通して,生徒自身 の考えを外化させるとともに,他者との共通点や相 違点を捉えさせ,各教科で探究的な学習に向かう課 題設定の研究が必要である。 ② 用語・概念を活用した,論理的な文章の記述や 発表機会の充実 新たな学術用語・学習用語・語彙等を獲得させる 学習指導とは,新たな概念形成を促す指導とともに 行われるものであるため,基礎・基本的な用語の意 味を正しく理解させることは重要である。新たに獲 得させた用語を,思考ツールなどの活用を通して結 びつけさせる場として,文章記述や発表による指導 の機会を教科横断的に機能させ,新たな概念形成を 促す指導の充実が必要である。 ③ 思考の視点や判断基準を明確にし,生徒の学び の幅を広げる発問やゆさぶりの在り方 思考ツールなどを活用する学習指導では,さまざ まな立場からの見方・判断基準に気づかせる場面が 多い。学習課題で設定した,「判断」基準が曖昧だ ったり,学習課題に対する基準や視点,前提等が変 化したりすれば,結論が根本から覆される可能性が 含まれる。探究的な学習課題設定と,その展開に関 して各教科で教材研究を行い,生徒の学びの幅を広 げる「判断のゆさぶり」を生じさせる発問の在り方 に関して,研究する必要がある。  (3)本校が目指す論理的思考と研究仮説 本校が目指す論理的思考力を,「思考ツールなど を活用し,物事を筋道立てて捉え,説明することが できる」,「思考ツールなどを活用し,物事を客観 的に整理し,問いなおすことができる」,「根拠に 基づいた複数の意見から判断し,より妥当な結論を 合意形成することができる」力と位置づけ,研究仮 説を,「思考と表現をつなぐ『判断』のありように 着目し,思考ツールなどを活用した教科横断的な学 習指導研究を行うことにより,論理的思考力を育成 できるであろう」とし,研究を推進した(図4)。  図4本校が目指す論理的思考の育成  図2各教科での判断場面の例  図32年次の研究の柱 — 3 —

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総論 3 2.研究の構想 (1)基本方針 グローバル社会や高度情報化社会などで活用され る教科横断的な論理的思考力や,的確な判断をくだ し,それらを表現する力の育成を図るため,学校全 体として,特に,生徒の「判断」場面に着目し,各 教科等における学習指導研究の連携や指導方法等の 工夫改善に関する実践研究を行う。 (2)研究体制の確保 本校が本年度とった研究体制について,工夫点を 以下に列挙する。 ・校務分掌を,教務部・生活指導部・研究部の3事 業部に整理することで,小規模校において校内研 究に携われる職員を6名確保し,チームで臨機応 変に議論しつつ推進した。 ・研究部内にBT・情報の時間・CT 等の各担当者を 置き,授業のポイントを各職員に発信し,指導記 録や指導上の課題を各教科主任や各職員から集約 して,研究推進の円滑化を図った。 ・毎月2回校内研究会を行い,校内研究の起案,議 論,企画,運営,省察を年間通じて連続的に行い, 学外から講師を招き,研究に助言をいただいた。 また,研究部会は校内研究会の前後で開催するこ とを増やし,職員全員の議論への参加感を高め, 生徒の実態に即した企画立案をするよう努めた。 (3)研究計画(1年間の主な取り組み) 通年 総合的な学習(70時間)のうち 全学年 24時間「BT」 (5~10月,週1回2時間ペース) 全学年 20時間「情報の時間」 全学年 26時間「CT」 (集中実施) 4~5月 6~7月 各教科における実践内容を構想,議論 (特に判断のゆさぶり) BT・情報の時間等で実践内容を議論 (特に判断力向上の方策) 各教科における実践期間① BT・情報の時間等での実践期間① 各教科等で判断力向上に関するツール 活用事例の開発と収集,検討 8月 9~10月 本校研究協議会における中間報告と議 論(成果発表①),本校担当官招聘・授業 視察,研究内容に関する研修視察,研 究内容への指導 各教科における実践期間② BT・情報の時間等での実践期間② 11~1月 研究成果のまとめ,報告書執筆検討 各教科等での判断力向上に関するツー ル活用事例の検討,研究報告書提出 2月 3月 3月末 国立教育政策研究所教育課程研究セン ター関係指定事業研究協議会への出席 報告書,本校研究紀要に成果掲載 本校研究紀要を本学学術情報リポジト リで無償公開(成果発表②) 3.研究実践に関する3本の柱 各教科における「判断」場面のありようを検討し, ゆさぶりのある授業づくりのために,既に示した3 つの授業改善策,すなわち, (1)論理的思考に基づいた,本質的な問いに迫る 授業改善 (2)用語・概念を活用した,論理的な文章の記述 や発表機会の充実 (3)思考の視点や判断基準を明確にし,生徒の学 びの幅を広げる発問やゆさぶりの在り方 について,全教科で実施することを通して,校内研 究を推進することとした。 4.校内研究で,明らかになってきた成果 論理的思考の指導事例を,各教科の授業で指導者 が日常的に収集・整理するとともに,校内研究会に おいて,専門とする教科の枠組みを越えた指導者同 士が,3.(1)~(3)に示した視点を柱に意見交流 し,効果的な授業展開について分析することで,論 理的思考の教科横断的な活用を図った。 (1)探究したくなる学習課題の重要性 各教科授業の学習課題を設定する導入段階で,生 徒自身にとって主体的な思考・判断・表現に基づく 学習活動が促進され,論理的思考が行われるような 工夫が,指導案や授業に反映されているかどうかに ついて授業研究会で検討を行った。 各教科で,挙げられた学習課題設定に関する工夫 改善の一例を図5に示す。 図5 学習課題設定に関する工夫改善の一例 — 4 —

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総論   各教科でのこれらの工夫改善策をまとめると, ・実生活や身近な素材を事例として示し,学習意欲 の向上を図る ・違和感を引き出し,予想と異なるような事象を導 入段階で示し,本質的な問いや疑問を引き出す ・既存の知識と新たな知識を活用させながら筋道立 てて,論理的に説明させる場面を設ける ・課題の明確化を図り,学習の見通しを整理させ, 単元の終末などに論述を実施する といった工夫を,教科横断的に実施した。 また,前年度に引き続き,従来の各教科授業の導 入段階で示されがちであった「○○は,どうなるだ ろう?」や「○○について,考えてみよう」などの 曖昧な課題提示や発問を,各教科の全指導者で見直 し,学習を探究的に進められるような学習課題設定 に関する改善を継続して行った。学習指導案内の「考 える」という表記を全廃し,具体的に何を「考え」 させようとしているのかをより明確にするため, 「比較する」「分類する」「分析する」などの汎用 的な思考スキルを指導案に具体的に取り出して示 し,学習内容を焦点化した 図6 。 図6 教科横断的な方策を指導案に明示 探究的な学習課題の担う役割は,生徒自身の学習 課題把握から最終的な結論に至るまでの,協働的な 学習活動に向かう学習環境を大きく左右し,適切な 合意形成に向けての学習過程の場を確保するうえ で,重要な役割を有しているといえる。 (2)教科横断的な思考ツール・,&7 などの活用 全ての授業において,日常的かつ教科横断的に生 徒自らが視覚的に学習情報を整理できる土壌づくり を推進したいという考えから,思考ツールや ,&7 の 活用を意図的・計画的に盛り込む授業設計に関して, 教科を越えた全指導者がアイデアを出し合い,議論 を続けた。 思考ツールに関しては,前年度までの研究成果か ら,おもに,生徒自身の「判断」や「論理的思考」 を促す思考ツールと成り得るものは何か,に関して 焦点化していくこととなった。 その中で,有効に活用できたと考えられたものの 中から実例を数例挙げる。まず,国語科での読解マ ップ(図7)である。 図7 国語科での読解マップ これは,批評のための材料を集めて情報を整理さ せ,そう判断した理由を明確にさせるツールとして 活用したものである。 次に,社会科でのクラゲチャート(図8)である。          図8 社会科でのクラゲチャート これまでは,数直線上に自分の立ち位置を示す数 直線マップを活用していたことが多かったが,事実 や論拠を挙げ,論述につなぐことを意識させるまで には至らなかった。そこで,論理的な判断を促すた めのツールとして,クラゲチャートを活用させるこ とで,三角ロジックの主張・論拠・事実を補うよう な論述が可能となった。また,これら小さな判断の 積み重ねを通して,単元末に論述課題を与える形で も活用できた。  (3)生徒の学びの幅を広げる発問や「ゆさぶり」 の在り方 総合的な学習の時間においては,「論理的に理解 しよう」の中で,論理的な説明や, 適切な判断を行 う基本として,先行的に「三角ロジック」の考え方 を示し,説明の基本の形として活用させる指導を継 — 5 —

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総論  続している。 実際の研究テーマに関する結論を導くためには, それにつながる事実や論拠が必要であること,また, 考え方や説明が「論理的である」ためには,客観性 が重要であることや,事実・論拠の信頼性が重要で あることを,卒業生の研究事例などをもとに理解さ せ,BT での生徒自身の研究テーマに関しても,ピラ ミッドストラクチャーや逆ピラミッドストラクチャ ー(図9)などを活用させながら,仮説を実証する には何が言えるとよいか,生徒自身に説明させるこ とが,この3年間を通して可能になってきた。 図9 %7 における逆ピラミッドストラクチャー 同様に,各教科指導においても,事実・論拠・結 論のいずれかを問う際,「例えば?」や,「つまり?」, 「なぜ?」などのように,三角ロジックでの補完的 な発問を行うことの意味を共通理解し,指導に当た ることができた。また,「本当にそういえるのか?」, 「いつでもそうか?」,「他にはないか?」などの ように,学習課題に対し多面的・多角的に迫らせる ような,ゆさぶりを意識した発問を行う場面に関し ても,各教科指導の意図を持って実現できるように なってきた。 次に,論理的思考に基づく,適切な判断・ゆさぶ りを促す指導の概念図を図  に示す。 図  適切な判断・ゆさぶりを促す指導の概念図 各教科のこうした指導工夫の模索は,先の(2) においても述べたように,従来の学習情報の整理や 分類などの目的で主に用いてきた思考ツールとは性 質が異なり,適切な判断を行う際に,三角ロジック を補完するように機能するような, いわば, 新たな 「判断ツール」開発のきっかけにもつながった,と いえるだろう。 5.研究の成果と課題 (1)成果 思考・判断・表現の中で,特に「判断」の場面に 着目することで,我々は,判断のありように関して 思考ツールなどを活用した,大きく2 つの方向性が 示せたと考えている。 一つは,「価値を問う判断」であり,美術科など での指導のように,バタフライチャート(図 )な どを活用することによって,中心となる作品のテー マに対して,互いの様々な判断基準を, 多面的・多 角的に分析させ,その中で総合的にどの作品を選ぶ か,「価値を問う判断」のありようを追究するとい う方向性である。 図  美術科におけるバタフライチャートの活用 二つめは,「真偽を問う判断」であり,理科など での指導のように,予想と事実との間のズレや,違 和感を活かすような学習活動(図 )などを通して 「本当にそうか?」という,判断に対するゆさぶり を与え,モデルを用いた検証実験や具体的な観察に よる事実から,「なぜ?」という疑問を解決するよ うな「真偽を問う判断」の在り方を追究するという 方向性である。 図  理科におけるマトリクス・モデル図の活用 — 6 —

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総論  いずれの場合にせよ,「判断」をくだす生徒自身 の視点や判断基準について,指導者が思考ツールの 活用を通して客観視させることが,多面的・多角的 な見方や考え方を促し,論理的思考に基づく思考の 深化や,論述や説明場面での適切な表現を導くうえ で有効な視点であったことを,授業実践事例の集約 によって具体的に示せたと考えている。 最後に,生徒の論理的思考力の向上を客観的に調 査するため,全国学力・学習状況調査B 問題の調査 結果 第4章カリキュラム評価,第1節グラフ4を参 照されたい ,および,前年度より継続して実施した, 本校独自の論理的思考力を問う記述式調査問題 同 一内容の問題で,無予告で各学年 2 回実施 の結果 図  を,経時的に分析した。 すると,平成 27 年度全国学力・学習状況調査 B 問題に関する回答を調査したところ,説明が求めら れる記述式の問題に対して,前年度同様,無回答率 の割合が全国平均に比べて低く,正答率が高い傾向 が見られた。 また,論理的思考力を問う記述式調査問題に関し ては,学年が上がるにつれ,思考ツールや図などを 活用した記述回答の割合が増え,誤答率が減少する 傾向が見られた。 さらに,前年度誤答であった者の中から,今年度 には正答に転じた生徒の記述内容を抽出し,経時的 な変化を調査した。すると,図  に示されるように, 前年度は説明が曖昧であり,事実・論拠・結論をは っきりと示すことがなかった生徒が,今年度の調査 では,事実・論拠・結論を示し,論理的に説明を展 開する回答の事例を確認できるようになった。また, 文章だけでなく,図を活用しながら正答を導く様子 も見受けられた。 図  論理的思考力を問う記述式回答の傾向   (2)課題 本研究で浮かび上がってきた,指導上の課題を挙 げると,学習課題設定に関しては,学習に用いる資 料が思考の幅を固定化し,「判断場面」を左右する ことがないよう,適切な学習資料の精選が重要とな る点である。また,生徒が自主的に議論を深め,展 開するような形式の授業をいつ,どのように継続的 に実施していくかを,単元の中に位置づけて単元構 成を明確化していくかという点である。 次に,思考ツール・,&7 の活用に関しては,既習 の用語・概念などを,学習者・指導者の情報共有の 場として,思考ツール上に引き出すことが可能とな り,論理的な文章記述や,意見交流,発表の機会の 設定が容易となった反面,思考ツールや ,&7 単独で は,生徒の論理的思考・判断・表現を完結するもの ではないことに留意すべきである。つまり,指導者 は,生徒自身による学習課題に対する説明や論述の 場面を,単元の各段階で意図的に位置づけ,適切な 指導を行うことが,重要な課題となると言えよう。 最後に,発問やゆさぶりの在り方に関しては,単 元全体を見通した,本質的な問いの追究が必要であ り,課題解決のために,生徒自身が自発的に問い直 したり,議論を活性化し合意形成したりするような 指導研究が,今後さらに必要となると考えている。  (3)今後の研究に向けての取組 「判断」場面に着目したこれまでの研究成果を活 かし,総合的な学習の時間と教科との指導の関連性 を高め,適切な文章記述や説明の機会を充実させる ともに,論理的思考の学習指導研究を継続していき たい。また,今後の諸課題に対応する資質・能力と して重要な,新たな価値や判断基準を生み出す創造 的思考の育成に向けた研究の充実を目指したい。            図  記述式問題への回答内容の変容  — 7 —

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