地域づくり活動活性化の観点から見た地方自治体による再生可能エネルギー普及政策の現状 -北海道内の市町村を対象にしたアンケート調査の結果から-
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(2) 釧路論集 −北海道教育大学釧路校研究紀要−第46号(平成26年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.46(2014):1-8. 地域づくり活動活性化の観点から見た地方自治体による 再生可能エネルギー普及政策の現状 ―北海道内の市町村を対象にしたアンケート調査の結果から― 平 岡 俊 一1・豊 田 陽 介2・的 場 信 敬3・井 上 芳 恵3 1. 北海道教育大学釧路校・地域社会と環境研究室,2NPO法人ネットワーク,3龍谷大学政策学部. Present Situation of Renewable Energy Policy in Local Governments-Oriented Community Enhancement. -Based on a Questionnaire Survey of Local Governments in Hokkaido, JapanShunichi HIRAOKA1 / Yosuke TOYOTA2 / Nobutaka MATOBA3 / Yoshie INOUE4 1. Department of Regional Society and Environment, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education 2 3. Kiko Network. Faculty of Policy Science, Ryukoku University. 概要 本研究は,北海道内の市町村を対象に実施したアンケート調査の結果をもとに,地方自治体による再生可能エネルギー 普及政策について,地域づくり活動活性化への寄与という観点から分析し,その現状を明らかにすることを目的にしてい る。具体的には,自治体による再エネ政策の実施状況について,①民間主体による再エネ導入事業の促進・支援,②参加・ 協働型の再エネ導入・普及の推進,③人材・組織育成等の基盤整備,という3つの取り組み分野に焦点を絞り検証していっ た。その結果,いずれについても,北海道内の自治体においては,地域づくり活動活性化に寄与すると捉えられる施策・ 事業は非常に少ないことが分かった。現時点では,北海道内の自治体では再エネ政策を通じた地域づくり活動活性化やそ れに取り組む民間主体に対する支援,それらとの協働等に対する関心自体が全体として希薄であると推測した。今後,ま ずは,地域づくり型再エネ事業に関する協議会組織の設置と学習・議論の実施,地域戦略の検討を行うことが求められる。. るものであった。. 1.はじめに. こうした形態の事業の多くでは,立地する地域の関係者 1.1.本研究の背景. の関与は薄く,発電等で得られる売電収入等の利益の大半. 現在,日本国内の各地では, 再生可能エネルギー(以下,. は地元には還元されず,地域外の企業に渡る構図になって. 再エネ)導入を巡る動きが急速な勢いで活発化している。. いる。このような,地域外主体による再エネ事業が多数を. この背景には,2012年に日本でも導入された,電力会社に. 占める状況が続けば,再エネの導入は,立地する地域社会. 再エネの買取を一定期間義務付ける「固定価格買取制度」. の維持・発展にはあまり貢献しないという,これまでの大. (FIT)が大きく影響している。このこと自体は,再エネ. 規模・集中型の地域開発とさほど変わらない構造が固定化. 普及拡大を通じた温暖化防止,エネルギー自給等の観点か. してしまう恐れがある。また,そのような構造が固定化し. ら大いに意義あることと評価できる。. てしまうことは,地域の住民等の再エネに対する感情を悪. しかし,同制度導入後に各地で実施されている再エネ事. 化させてしまう危険性もある。. 業の内容を見ると,特にその担い手や地域との関係性など. 再エネ導入は,風や太陽,森林など,地域が有する資源. に関して重大な問題を有すると考えられる事業も少なくな. を活用する形で実行する取り組みである。それを踏まえれ. い。例えば,本稿で取り上げる,筆者らが北海道内の市町. ば,既に長谷川(2011)や寺西ほか(2013),和田(2013). 村を対象に実施したアンケート調査の結果によれば,2013. などで指摘されているように,再エネ事業によって得られ. 年8月時点で,道内で実施・計画されている1MW以上の. る利益は,第一義的には立地する地域社会の維持・発展に. 大規模な太陽光発電導入事業の実施主体を見ると,33件中. 活用されるべきであり,それを意図した事業を積極的に推. の24件は立地自治体には事業所を有していない事業者によ. 進していくことが求められる。より具体的には,再エネ導. −1−.
(3) 平 岡 俊 一・豊 田 陽 介・的 場 信 敬・井 上 芳 恵 入を推進することが地域の環境,経済,社会という三要素. 性化」に分析,考察の対象を絞ることにする。. の持続可能性の確保に貢献する,いわゆる「持続可能な地. 現時点で再エネ事業を通じた地域づくりに関しては,農. 域づくり」に資することを常に視野に入れて事業を推進す. 林業の活性化などの経済的活動との関係性について注目さ. ることが不可欠である。また,そうした形態の事業は,そ. れることが多い。しかし,持続可能な地域づくりを推進す. の担い手自体も地域社会の当事者である,地域内のNPO. る上では,経済分野だけでなく,社会的な分野に関連する. や地縁組織,事業者,自治体などの主体自身が主導してい. 活動も重要である。筆者の一人である的場は,持続可能な. (1). く必要があると言える. 発展を巡る研究や議論においても,環境と経済の持続可能. 。. こうした地域活性化,地域主導等を重視した再エネ導入. 性ならびに両者の関係性については注目されることが多い. 事業を,本稿では「地域づくり型再エネ事業」と呼ぶこと. が,社会的な視点に関しては未だ未発展であると指摘して. とする。. いる(的場,2012) 。再エネ事業においても,それを通じ た地域における市民・地域活動や市民参加・協働などの活. 1. 2.本研究の目的. 性化を視野に入れていくことが強く求められる。. 地域づくり型再エネ事業の推進にあたっては,事業ス. 再エネ政策においてこれに関連すると考えられる取り組. キームや担い手,推進体制,資金調達方法など,多岐に渡. みを大まかに整理すると,①民間主体による地域貢献等を. る事項について検討を行う必要がある。その中で本研究で. 主目的にした再エネ導入事業の促進・支援策,②地域の多. は,地方自治体(以下,自治体)による政策に焦点を当て. 様な主体の参加・協働にもとづく再エネ導入・普及の推進. る。地域づくり再エネ事業を活発化させる上では,地域の. 策, ③人材・組織の育成策, の3分野に分けることができる。. 諸主体が関連事業に取り組みやすくなるための条件・基盤. それぞれに該当する具体的な取り組みについて先行事例を. 等を整備していくことが求められる。 基礎自治体 (市町村). 中心にあげていくと,例えば①に関しては,地域づくりを. には,地域社会に身近な存在として,それぞれの地域の実. 主目的に地域の複数の主体が共同で再エネ導入を行う際. 情を踏まえながら,条件・基盤整備を行う役割を担うこと. に, その設備導入費に対して財政支援を行う, 北海道の「エ. が期待される。. (2) ネルギーの地産地消促進事業費補助金」 (2013年∼) ,. 本稿では,自治体による地域づくり型再エネ事業の促進. 市民出資型の太陽光発電設備を導入する一般社団法人に対. 政策のあり方を考察する前段階として,北海道内の市町村. して,市所有施設の屋根等を無償で貸し出しを行う,京都. を対象に実施したアンケート調査の結果をもとに,市町村. 市の「京都市市民協働発電所制度」 (2011年∼) (和田ほか,. を中心とする自治体による再生可能エネルギー普及政策. 2014),長野県飯田市が「再生可能エネルギーの導入によ. (以下,再エネ政策)の現状について,地域づくり活動活. る持続可能な地域づくりに関する条例」にもとづき実施し. 性化への寄与という観点から分析し,明らかにしていくこ. ている,地域に根差した組織が地域づくり等を主目的に実. とにする。. 施する再エネ事業を市が「地域公共再生可能エネルギー活 用事業」と認定した上で,それに対して専門家による助言. 2.研究方法と分析視角. や無利子貸付,信用力付与等を行う支援策(2013年∼) , などが該当する。. 2. 1.研究方法. ②に関しては,長崎県雲仙市において温泉熱エネルギー. 本研究は,北海道の全市町村を対象に実施した再エネ政. の利活用をテーマに地元温泉街関係者,観光協会,自治. 策の実施状況に関するアンケート調査によって得られた. 体,大学等の関係者が集まり,検討を行っている「小浜温. データをもとに分析,考察を行っている。同調査は,筆者. 泉エネルギー活用推進協議会」(小石ほか,2013)のよう. らの研究グループと公益財団法人北海道環境財団が合同. な,地域の関係主体が構成員となり,再エネ事業の推進に. で,2013年7∼8月の期間に実施した。アンケート調査票. 関して学習・検討等を行う「協議会組織(パートナーシッ. を対象市町村の地球温暖化対策担当課宛に郵送し,回収す. プ組織)」の整備や,自治体と地域の各種民間組織が連携. る方法をとった。調査対象数は179市町村であり,回収数. して地域活性化を主目的にしながら実施する具体的な再エ. 112(回収率62.5%)となっている。. ネ導入事業,地域の多様な主体が連携して再エネ事業の検 討を行う協議会の運営等に対して財政支援を行う「滋賀県. 2. 2.分析の視角. 再生可能エネルギー創出地域連携化支援事業補助金」 (2013. 持続可能な地域づくりに関連する取り組みは,環境保全. 年) ,などが該当する。. にかかわる活動以外に,地域の産業活性化や教育活動,福. ③については,例えば,愛媛県内子町などで実施されて. 祉活動,自治体の行政改革など多方面に渡っている。その. いる,地元住民向けの再エネに関する連続公開型の学習. 中で本稿では,特にNPOや地縁組織等による地域貢献を. 会「自然エネルギー学校」 (平岡ほか,2014;的場ほか,. 主目的とした非営利的な活動や,地域内の多様な主体の積. 2013)や,愛知県新城市において同市と龍谷大学の連携に. 極的な参加・連携,いわゆる「市民参加・協働」にもとづ. よって実施された「新城市再生可能エネルギー塾」,さら. く取り組みの推進などの,地域における「社会的活動の活. に②において既に述べた滋賀県の補助制度,などが該当す. −2−.
(4) 地域づくり活動活性化の観点から見た地方自治体による再生可能エネルギー普及政策の現状 る。 また,全ての分野に該当すると捉えられる取り組みとし て,後述するような各地で先行事例が見られるようになっ ている,自治体としての再エネ政策の理念や枠組み等を明 らかにする条例や計画の制定・策定をあげることができる。 本稿では,アンケート調査結果について,この3分野に 分けて,それぞれに該当すると考えられる施策・事業等の 実施状況を整理していく。 3.北海道内市町村における再エネ政策の現状 本研究の主要課題について考察する前に,まずはアン ケート調査の結果から,北海道内市町村の再エネ政策の概 況について明らかにしておく。 3. 1.自治体における再エネ政策の位置づけ,体制整備. 3. 2.再エネ政策関連の条例・計画,目標. 第一に,自治体の再エネ政策の位置づけ,体制整備等に. 第二に,再エネ政策関連の条例・計画等の制定・策定状. ついて見ていく。自治体の政策課題としての再エネ導入・. 況ならびに目標設定について見ていく。再エネ政策に関連. 普及の位置づけについて見ると,42.8%(48市町村)の自. する条例・計画は多岐に渡るが, その中で地域新エネルギー. 治体が重要政策として位置付けていると回答している(図. ビジョンは42.8%(48市町村)と,比較的多くの自治体で. 1)。回答自治体の4割以上が,既に自治体政策全体の中. 策定済みとなっている。しかし,その他は進んでいない。. でも再エネを重要な政策であると位置づけていることにな. 例えば,詳しくは後述するように,近年国内では再エネ政. る。位置づけの根拠としてもっとも多かったのは「総合計. 策の基本理念等を明らかにする条例を制定する自治体が増. 画,まちづくり計画など」で27市町村, 「施政方針等」が. え始めているが,北海道内で再エネの名称がついた条例を. 16市町村,「首長公約」が2市町村などとなっている。. 制定している自治体はわずか2市町村,関連計画を策定し. 次に,再エネ政策を担当する専任職員の配置の有無につ. ているのは7市町村であった。また,条例については,両. いて質問したところ,配置している自治体は8.9%(10市. 自治体とも再エネ政策の理念をはじめとする枠組みに関す. 町村)となっている(図2)。さらに,自治体の行政組織. るものではなく,再エネ設備導入に関する補助,税金減免. 内で再生可能エネルギー導入・普及を担当している部署に. など,特定の施策に関する内容のものであった。計画につ. ついて質問したところ,エネルギーの名称がついた担当組. いては,次世代エネルギーパーク(足寄町),バイオマス. 織(部局,課,係,グループ等)を置いている自治体は6.2%(7. 産業都市構想(別海町)などである。. 市町村)であった。具体的には,課レベルで担当組織を設. 次に,再エネ導入・普及に関して何らかの目標を設定し. 置しているのが札幌市,稚内市,係レベルで設置している. ている自治体は12.5%(14市町村)であった(図3)。そ. のがニセコ町,湧別町,苫前町,となっている。また,行. の内容は表1の通りであるが,愛別町のように,地域全体. 政内での再エネ推進のための部署横断型推進組織を設置し. での再生可能エネルギー導入割合を設定している例と,帯. ている自治体は8.9%(10市町村)となっている。. 広市のように,特定の再エネ関連設備の導入量を設定して. −3−.
(5) 平 岡 俊 一・豊 田 陽 介・的 場 信 敬・井 上 芳 恵. 表1.再エネ導入目標の設定例 千歳市. 住宅用太陽光発電設備等の設置研修を累計 400 件以上にする. 愛別町. 2015 年までに新エネルギー導入率を 15%引き上げる. 和寒町. 新エネルギー導入目標値 5.0%. 美幌町. ペレットストーブ設置:100 台,廃食油精製:12,000 リットル,ヒートポンプ設置 10 軒など. 帯広市. 一般家庭1万戸への太陽光発電システム及びペレットストーブ設置 市町村はいずれも1割未満であることが分かった。関連条. いる例が見られる。. 例・計画については, 策定に対して国からの財政支援があっ 3. 3.再エネ導入・普及に関する支援施策. た新エネビジョンを除くと,北海道内では極めて制定・策. 第三に,再エネ導入・普及に関する支援施策等の実施状. 定が進んでいない状況にあると捉えられる。これに関連す. 況について見ていく。施策のタイプ別に見ると, 最も多かっ. ると考えられるが,再エネ導入・普及に関連する何らかの. たのは財政的支援で51.7%(58市町村)の自治体が実施し. 目標を設定している自治体も約1割と少ない。支援施策に. ている(図4) 。その内容は,太陽光発電導入に対する補. ついては,太陽光発電設置に対する補助制度をはじめとす. 助事業が50市町村と最も多くを占めている。それ以外に. る財政的支援に関する施策が多数を占めている一方で,相. は,ペレットストーブ導入に対する補助を実施している自. 談助言や公共施設の貸し出し・提供などの他のタイプの施. 治体が10市町村(南幌町,音更町,等)と比較的多い。そ. 策を実施している自治体は少ないことが分かった。. の他には,太陽光発電導入に対する低利融資(登別市等) ,. これらから,北海道内では,再エネ政策に関心をもつ自. 無利子貸付(帯広市), 地中熱ヒートポンプ設備導入補助 (上. 治体は一定数存在しているが,推進体制,条例・計画,目. 富良野町,等),木質バイオマス利用設備の整備を行う事. 標など,再エネ政策推進のための基盤・枠組み整備,体系. 業者に対する補助(芦別市等),雪氷熱利用倉庫の導入・. 化はあまり進んでいない状況にあると捉えられる。. 改修に対する補助(ニセコ町) などの取り組みが見られる。 その他のタイプの施策については,情報提供・普及啓発が. 4.地域づくり活動活性化の観点から見た再エネ政策の分 析. 33.9%(38市町村) ,相談・助言・専門家派遣が8.9%(10 市町村),公共施設の屋根,敷地の貸し出し・提供が7.1% (8市町村),事業者誘致が18.7%(21市町村) ,などとなっ. 次に,本研究の主要課題である,地域づくり活動活性化. ている。これらの内容については後述する。. の観点から見た再エネ政策の現状について,第2章で分析 視角として設定した3つの取り組み(①民間主体による再. 3. 4.小括. エネ導入事業の促進・支援,②参加・協働型の再エネ導入・. 以上の結果から,北海道内の市町村における再エネ政策. 普及の推進,③人材・組織育成等の基盤整備)を中心に見. の全般的な状況については以下のように整理することがで. ていく。. きる。まず,再エネ政策を自治体の重要政策課題として位 置付けている自治体は4割以上と一定割合を占めている. 4. 1.民間主体による再エネ導入事業の促進・支援策. が,専任職員の配置や専門部署,横断的推進組織の設置な. 第一に,民間主体による地域貢献等を主目的にした再エ. ど,具体的にそれを推進するための体制整備を行っている. ネ導入事業の促進・支援策の実施状況について見ていく。 先述したように,北海道の市町村による支援施策で最も多 く実施されているのは財政的支援,特に太陽光発電設置に 対する補助制度である(50市町村)。そして, その大半(48 市町村)は,補助対象が一般家庭の住宅に限定されている 制度となっている(3)。こうした制度は,住宅に再エネ設 備を導入する方式をとらない限り,非営利・地域貢献目的 の再エネ事業であっても支援を受けることは困難であると 考えられる。 一方,企業・事業者向けの支援施策に関しては,実施自 治体の数は多くないものの,再エネ設備導入に対する補助 制度や減税制度などを実施している自治体がある(9市町 村)。しかし,その大半は企業・事業者が所有している建 物(事業所) や工場での設備導入に対象が限定されており, そうした施設を有していない組織や事業所等以外で再エネ. −4−.
(6) 地域づくり活動活性化の観点から見た地方自治体による再生可能エネルギー普及政策の現状 事業を行う場合には支援を受けることは難しい制度である. ると捉えられる。したがって,より多くの自治体において. と考えられる。. 同様の組織が設置されることが望まれる。. さらに,公共施設の屋根・敷地等の貸し出し,提供を実. 次に,自治体,NPO,地縁組織など,複数の主体が連. 施している自治体も先述したように少数ながら存在してい. 携して非営利・地域貢献的な目的のもと取り組む具体的な. るが,その多くは, 「未利用の自治体所有地をメガソーラー. 再エネ事業の実施状況について見る。今回のアンケート調. 候補地として公募,有償貸付」といったように,1MW以. 査では,市町村以外の民間組織によるものも含めて,各自. 上の大規模な太陽光発電設備導入を対象にしている制度と. 治体内で実施・計画されている再エネ導入事業について,. なっている。よって,これらの支援施策についても,資金. その概要や参加主体等を質問している。回答結果を見る. 力等の制約から比較的小規模な設備導入が多くなると思わ. と,複数の企業あるいは自治体と企業が連携してメガソー. れるNPOや地縁組織等にとっては,利用しづらい制度が. ラーの設置に取り組む事例は6事業見られた。しかし,そ. ほとんどであると考えられる。. れ以外に,自治体とNPOや地縁組織をはじめとする民間. その他のタイプの施策も含めて,本調査の回答結果から. 組織が上記のような目的のもと実施していると推測される. は,地域貢献・非営利目的の再エネ導入事業の促進・支援. 事業は確認することができなかった。民間組織による単独. を念頭に置いていると考えられる施策はほとんど見られな. の事業自体も,この質問に対する回答において非営利・地. かった。数少ない自治体として,町民が組織する再エネ導. 域貢献等を目的としている事業と推測されたのは,稚内市. 入に関する研究会に対して道内の専門家をアドバイザー. の稚内新エネルギー研究会による活動など,ごくわずかで. (環境エネルギー戦略アドバイザー)として派遣する制度. あった。. を実施しているニセコ町があげられる程度である。. 以上から,多様な主体が参加した再エネ政策・事業に関 する協議会組織を設置する自治体は現れ始めているが,現. 4.2.参加・協働型の再エネ導入・普及の推進策. 時点では北海道全体から見るとその数は少数であり,また. 次に,地域の多様な主体の参加・協働にもとづいた再エ. 具体的な参加・協働型の再エネ事業はほとんど見られない. ネ事業(以下,参加・協働型再エネ事業)に関連する推進. 状況にあることが分かった。これらから,北海道内では参. 策について見ていく。まず,参加・協働型再エネ事業を推. 加・協働型の再エネ導入・普及に関する取り組みもあまり. 進する上での基盤となる,地域の多様な主体が一堂に会. 活発ではないと捉えられる。. し,再エネ導入・普及について議論,活動等を行う場とな る協議会組織(パートナーシップ組織)の設置状況につ. 4. 3.人材・組織の育成策. いて見ると,北海道内で同組織を設置している自治体は. 再エネ事業の促進を目的にした,地域内での人材・組織. 12.5%(14市町村)にとどまっている(図5) 。. 育成等の事業について見ていく。これに関連する支援施策. 具体的な自治体は,表2の通りである。協議会組織の活. としては, 「情報提供・普及啓発」, 「相談・助言・専門家派遣」. 動目的や構成については,例えば滝上町のように,森林組. などがあげられる。. 合や農協などを構成員として,バイオマス利用の促進を主. 情報提供・普及啓発については,前述したように実施済. な目的としている組織が比較的多く見られる。その他に. みの自治体が33.9%となっているが,その具体的内容の大. は,美幌町などのように,地域内での再エネ導入・普及に. 半は,町の広報誌, ホームページ等での普及啓発事業となっ. ついて総合的に検討・推進する組織も確認された。詳しく. ている。こうした事業については,全く該当しないと一概. は後述するように,このような協議会組織は,地域づくり. に判断することはできないが,地域内での人材・組織育成. 型再エネ事業を推進する上では重要な基盤になる存在であ. などを明確に見据えて展開されている施策であるとは考え にくい。また,相談・助言・専門家派遣については,実施 済みの自治体自体が8.9%(10市町村)と少ない。その内 容は職員による出前講座,講演会の開催,視察対応などと なっている。 こうした中で,例えば第2章で例示した連続型の学習な どのように,再エネ事業に関連する人材・組織等の育成を 継続的,体系的に取り組む施策・事業を実施していると考 えられる自治体はほとんど見られなかった。該当すると考 えられるのは,先述の促進・支援策と重複するが,ニセコ 町のアドバイザー派遣制度くらいである。 また,アンケート調査では,各自治体内で再エネ導入・ 普及に取り組む民間組織の存在の有無について質問してい る。 「存在している」 と回答した市町村は12.5% (14市町村) にとどまっている。さらに,存在しているかどうか「わか. −5−.
(7) 平 岡 俊 一・豊 田 陽 介・的 場 信 敬・井 上 芳 恵. 表2.再エネ導入・普及に関する協議会組織(パートナーシップ組織)設置自治体と組織名称等 自治体名 足. 寄. 町. 組織名称. 参加主体. 足寄町地域資源活用促進協議会. 町内産業団体等. 上富良野町. 上富良野町地球温暖化対策地域協議会. 町民・事業者・行政. 栗. 山. 町. 栗山町バイオマス活用促進協議会. 滝. 上. 町. 滝上町バイオマス利活用推進協議会. 町,林業協同組合,農業協同組合,農業生産者代 表,森林管理者,関係団体等. 士. 幌. 町. 士幌町再生可能エネルギー利用推進協議会. 町,農協,商工会. 北. 見. 市. オホーツク新エネルギー開発推進機構. 大学,市内企業,北見市など. 占. 冠. 村. 占冠村木質バイオマス推進コンソーシアム. 占冠村,民間企業,NPO. 美. 幌. 町. 美幌町新エネルギー導入推進委員会. 学識経験者・地場産業関係者・エネルギー供給関 係者. 旭. 川. 市. 旭川スマートコミュニティ協議会. 旭川市,北海道,大学,研究機関,市内民間企業. 芦. 別. 市. 芦別市木質バイオマス利用推進協議会. 行政,林業関係事業者等. 稚. 内. 市. 稚内新エネルギー研究会. 民間企業,稚内市など. 室. 蘭. 市. 室蘭市地域環境・エネルギーフロンティア. 企業,行政,学術機関,NPO. 苫. 前. 町. 苫前町町おこし協議会. 各町内会(自治会)から推薦された 50 人で組織. らない」と回答した市町村が21.4%(24市町村)にものぼっ た(図6) 。これらの結果からは,北海道内では再エネ事 業に取り組む民間組織の数自体も少ないことがうかがえる が,自治体が人材・組織育成に取り組む前の段階として, そうした民間組織の存在自体を十分把握していないことも 推察できる。 5.地域づくり活動活性化の観点から見た再エネ政策の現 状と今後の課題 前章では,地域づくり活動活性化の観点から,北海道内 の自治体による再エネ政策の実施状況について,特に3つ の取り組み分野に焦点を絞り検証した。その結果,いずれ の分野についても,地域づくり活動活性化に寄与すると捉 えられる施策・事業は非常に少ないことが分かった。. 実施・計画されている再エネ導入事業に関する問いでは,. 北海道内の自治体による再エネ関連の支援施策を見る. 実施・計画事業における地域への利益還元の有無,内容を. と,現時点では,太陽光発電関連の補助制度に代表される. 聞いているが,これに対して具体的な回答があったのは,. 家庭向けと営利目的の企業向けに二極化する傾向が現れて. わずか5事業(50事業中)にとどまっている。. おり,それらの中間領域に位置する,非営利・地域貢献的. 以上の結果を踏まえると,現時点では,北海道内の自治. な目的にもとづいた再エネ事業やその実施主体(NPOや. 体においては,そもそも再エネ政策を通じた地域づくり活. 地縁組織等)に対する支援を念頭に置いていると捉えられ. 動活性化やそれに取り組む民間主体に対する支援,それら. る施策はほとんど実施されていないことが分かった。. との協働等に対する関心自体が全体として希薄な状態であ. 今回のアンケート調査では,自治体として再生可能エネ. ると推測することができる。. ルギー導入・普及政策を推進する目的について質問してい. 無論,道内にも,数多くの文献や報道等で紹介されてい. るが, その結果, 「重要な目的」 という回答がもっとも多かっ. る下川町(4)などのように,関連する再エネ事業を積極的. たのは「地球温暖化防止」で52.6%を占めていた。それに. に展開し,全国的に知られている先進自治体がいくつか存. 対して,「地域経済の活性化」, 「地域社会の活性化」はそ. 在している。しかし,北海道全体から見るとそうした自治. れぞれ25.0%(28市町村) ,22.3%(25市町村)にとどまっ. 体は非常に少数である。北海道においてこのような状況に. ている(図7)。さらに,前章でも触れた,各市町村内で. ある背景や要因については,今回のアンケート調査では明. −6−.
(8) 地域づくり活動活性化の観点から見た地方自治体による再生可能エネルギー普及政策の現状 らかにすることができなかったので,今後改めて調査・検. 兵庫県洲本市,愛知県新城市,高知県土佐清水市,神奈川. 証を行う必要がある。. 県小田原市,東京都八丈町などで同趣旨の条例が制定され. 国内の他地域では,第2章でいくつかの事例を紹介した. ている。. ように,地域づくり活動活性化に資する再エネ事業の促進. 2014年6月時点では市議会で条例案が審議中であるが,. を目的にした支援政策を積極的に実施し,注目を集めてい. 兵庫県宝塚市の「再生可能エネルギーの利用の推進に関す. る自治体がいくつか出始めている。そうした地域づくり活. る基本条例(案)」の基本理念では,「第3条 再生可能エ. 動に寄与すると考えられる再エネ政策の種類は,同じく例. ネルギーは,本来的に地域の共有的資源であり,その地域. 示したように実に多岐に渡っている。その中で,人員等が. に存在する主体が連携し,地域の受益に配慮して利用され. 限られる小規模自治体であっても着手しやすいと考えられ. るべきものとする。」 ,「2再生可能エネルギーの利用の推. るのは,地域の複数の主体が集まり,地域づくり型再エネ. 進は,地域の持続的な発展に資するよう,地域の条件に配. 事業について学習・議論を行う場,機会の設置であると考. 慮して行われなければならない。 」 「3再生可能エネルギー ,. えられる。具体的には,道内の自治体でも少数ではあるが. の利用の推進は,エネルギーの自立性及び安全性の向上に. 設置され始めている協議会組織がそのような場のひとつに. 資することに鑑み,非常時における市民の安全及び安心の. なる。地域内の多様な人材・組織が協議会組織一堂に会し. 確保に配慮して行われなければならない。」 , 「4再生可能. て学習や議論を行うことによって,関連する情報を共有す. エネルギーの利用の推進は,地域での影響に配慮して周辺. るだけでなく,主体間の信頼・協力関係を構築していくネッ. 住民との十分な合意形成に努めた上で行われなければなら. トワーク化やそれらの間で関連事業を推進していく機運. ない。」 , 「5再生可能エネルギーの利用の推進は,市民,. の醸成が図られ,地域づくり型再エネ事業の形成・発展の. 事業者,エネルギー事業者,地域エネルギー事業者又は市. きっかけとなる可能性を有している。道内の自治体におい. の相互の協働が促進されるよう配慮して行われなければな. ても,そうした場を積極的に設けていくことが求められる. らない。 」 といった文言が明記され,地域活性化, 環境保全,. とともに,協議会組織を設置している自治体においては,. 参加・協働等を重視しながら再エネ政策を推進するという. 今後の地域づくり型再エネ事業の発展に期待したい。. 自治体の姿勢が明快に示されている。. 次の段階の取り組みとして考えられるのが,自治体全体. さらに,第2章で紹介した長野県飯田市の「再生可能エ. で共有される,地域づくり型再エネ事業推進のための戦略. ネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条. の構築である。具体的には,自治体としての上記政策に関. 例」においては,市民が市域内にある自然資源を再生可能. わる基本理念や重点分野,目標,推進方策等を明らかにす. エネルギーとして主体的に利用し,持続可能な地域づくり. る条例や計画・プラン等の策定が想定される。. を進めることができる権利「地域環境権」を有していると. 北海道外では,再エネ導入の推進を主目的にした条例を. し,地域の各種組織等が地域環境権を行使する形で実施す. 制定する自治体が見られるようになっている。現時点で. る再エネ事業を市が審査,認定した上で,助言や無利子貸. は,自治体として再エネ事業を推進する上で地域主体が主. 付などの支援策を実施する,という条文を明記するなど,. 導していくことや地域貢献等を重視していく旨などの基本. 具体的な支援策にまで踏み込んだ内容になっている。. 理念を明らかにする内容が主となっているが,滋賀県湖南. こうした条例が制定されることで,すぐに地域づくりを. 市「地域自然エネルギー基本条例」 (2012年)を皮切りに,. 視野に入れた再エネ事業を行う組織が増えたり,事業が活. 地球温暖化防止 エネルギー自給率の向上 防災対策 自治体収入源 持続可能な地域社会の実現 地域経済の活性化 地域社会の活性化. −7−.
(9) 平 岡 俊 一・豊 田 陽 介・的 場 信 敬・井 上 芳 恵 発化したりすることにつながる訳ではないと思われる。し. (4). 例えば保母(2013),大友(2012)など。. かし,自治体として,再エネ事業・政策において地域主導 や地域貢献を重視する理念や方策を明確に示すことは,地. 文献. 域内で再エネ事業を行おうと考えている主体に対する強い. 長谷川公一,2011,『脱原子力社会へ―電力をグリーン化 する』岩波書店.. メッセージとなり,地域づくり型再エネ事業を地域全体で. 平岡俊一・的場信敬・豊田陽介・井上芳恵・多比良雅美・. 推進していく上で重要な意味があると考えられる。 また,再エネ事業は,関連する分野・主体等が多岐に渡. 多比良康彦,2014, 「地域づくり型温暖化対策推進のた. るため,意識的に対処していなければ, 同じ自治体内であっ. めのパートナーシップ組織の構築に関する考察―愛媛県. ても主体ごとに縦割り的,場当たり的に事業が実施され,. 内子町における実践の成果と課題」『ESD・環境教育研. 思うような成果をあげることができない恐れがある。そこ. 究』16,13-22.. で,地域内の幅広い主体の参加のもと条例・計画に関する. 保母武彦,2013,『日本の農山村をどう再生するか』岩波 書店.. 議論を行い,それを通じて関係者間で再エネ事業において 考慮に入れるべき理念,推進方策等の戦略について共有し. 小石勝朗・越膳綾子,2013,『地域エネルギー発電所―事 業化の最前線』 .. ておくことは,地域全体で総合・横断的に取り組みを推進. 的場信敬,2012, 「社会的持続可能性のための地域再生政. していく上で不可欠であると考えられる。 以上のような,再エネ普及に関する協議会組織の設置と. 策―コミュニティ・エンパワメントを志向するコミュニ. 学習・議論の実施,地域全体での戦略の検討は,各地域が. ティーズ・ファースト事業の分析」 『龍谷政策学論集』2 (1) ,21-33.. 具体的な地域づくり型再エネ事業を実行していく上での重 要な基盤,根拠となる役割を果たすものと捉えられる。こ. 的場信敬・平岡俊一・豊田陽介・多比良雅美・井上芳恵,. れらの取り組みは,金銭面での負担はあまり要するもので. 2013, 「内子町における地域住民のエンパワメントの可. はなく,取り組み推進に関する意欲や理解さえあれば実施. 能性」阿部大輔・的場信敬編『地域空間の包容力と社会 的持続性』日本経済評論社:206-222.. 可能な,現実的な取り組みであると考えられる。 本研究は,北海道内に限定した調査結果にもとづいた考. 大友詔雄編,2012,『自然エネルギーが生み出す地域の雇 用』自治体研究社.. 察にとどまっている。今後は,他の地域においても同様の 観点にもとづく調査研究を行い,全体的な状況を把握する. 寺西俊一・石田信隆・山下英俊編,2013,『ドイツに学ぶ 地域からのエネルギー転換―再生可能エネルギーと地. ことが必要である。. 域の自立』家の光協会. 和田武,2013,『市民・地域主導の再生可能エネルギー普. 付記. 及戦略―電力買取制度を活かして』かもがわ出版.. 本研究は, 「アサヒグループ学術振興財団2013年度研究 助成」 ,「日本生命財団環境問題研究助成・平成25年度若手. 和田武・豊田陽介・田浦健朗・伊藤真吾編,2014, 『市民・. 研究・奨励研究」によって実施された研究の成果の一部で. 地域共同発電所のつくり方―みんなが主役の自然エネル. ある。. ギー普及』かもがわ出版.. 注 (1). 無論,地域外の主体が再エネ事業に関与することを全. 面的には否定しない。ただし,再エネ事業の企画,実施 などにおける主導的な役割はあくまでも地域内の主体が 担うべきであり,地域外の主体はそれに対して支援的な 役割に徹する形態をとることが望ましいと考える。各種 の事情により,地域内主体が再エネ事業において主導的 な役割を担うことが困難な場合,地域外主体が主導する ことも致し方ないが,その際も,地域への利益還元や地 域内主体の巻き込み等については,常に優先的に考慮す べきものと考える。 (2). 同制度では,売電収益を全て地域活性化に回すことが. 補助の条件とされている。 (3). ペレットストーブ導入に関する補助制度は,実施市町. 村の数自体は少ないが,太陽光よりも補助対象の幅を広 くして,住宅以外の施設も対象として自治体が見られる (6市町村)。. −8−.
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