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妊娠期の薬物摂取が胎児の成長に及ぼす影響

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(1)

著者 北岡 諭

雑誌名 星薬科大学紀要

号 60

ページ 11‑17

発行年 218‑12‑10

URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000816/

(2)

我が国において、 女性の社会進出に伴い、 晩婚化が進 んでいる。 それに相まって、 初産年齢が上昇している。

厚生労働省の調査によると、 1980年における平均初婚 年齢は25.2歳であり、 第一子の平均出産年齢は26.4 であったのに対し、 2013年における平均初婚年齢は 29.3歳であり、 第一子の平均出産年齢は30.4歳と両者 ともに著しく上昇していることがわかる1)

妊婦の高齢化は、 元に何らかの基礎疾患を抱えている ことや、 妊娠中に種々の疾患を発症するリスクが高いこ とより、 妊娠中に薬物による治療を必要とするケースが 多い。 しかしながら、 妊婦に対して薬物を使用する際は、

催奇形性や胎児毒性などの胎児への影響を検討する必要 がある一方で、 倫理的な面から臨床研究を行うことが困 難であり、 胎児への安全性に関するエビデンスレベルは 低く、 明確な根拠に基づいた薬物治療を行うことは難し い状況である。

母体の生命を守るべく、 妊娠期においても積極的な薬 物治療が行われる疾患にがんがある。 がんは、 長い間、

我が国の死因の第1位であり、 60歳を過ぎると急激に 罹患率が上昇する。 しかしながら、 近年、 15歳から39 歳前後の思春期・若年成人 (Adolescent and Young Adult, AYA) にがんを発症するケースが増大しており、

がん治療が就学・就業に大きな障害となることより、 新 たな社会問題となっている。 また、 AYA世代は、 妊娠・

出産の可能な世代であり、 実際に妊娠中にがんと診断さ れる妊婦 (がん合併妊娠) の割合は、 全妊婦の0.1%で あると報告されている2)。 がん合併妊娠の治療には、 ア ントラサイクリン系やタキサン系に代表される種々の抗 悪性腫瘍薬が使用されるが、 その多くが胎児に移行する ことが知られている。 そのため、 中絶を余儀なくされた り、 胎児への安全性を優先して治療が遅れたことにより 母体が死亡するケースがある。

このような背景の下、 当研究室では、 がん合併妊娠の 中で罹患率の高い乳がんに焦点を当て、 胎児への影響を 最小限にしつつ、 母体の治療を積極的に行うための新た な妊娠期の乳がんの治療法を確立することを最終的な目 的とし、 薬物動態学的観点から研究を行ってきた。 そこ で、 本稿では、 昨今の妊娠期の乳がんの治療法を概説す るとともに、 私の研究成果を述べる。

ヒトの妊娠期間は約10ヶ月であり、 妊娠初期、 中期、

後期の大きく三期に区分されている。 妊娠中の薬物治療 による胎児への影響は、 妊娠の時期により大きく異なる。

受精から妊娠3週目までの時期は、 医薬品の影響が残 らない 「全か無か (all or none)」 の時期である。 この 時期は薬物治療を行って、 影響があれば流産するし、 流 産しなければ影響は残らないと考えられている。 一方で、

妊娠4週から15週までの時期は催奇形性が問題となる 時期である。 さらに、 この時期には、 絶対過敏期と相対 過敏期に区分される場合がある。 絶対過敏期は、 妊娠4 週から7週までの時期であり、 中枢神経系や心臓、 眼 や耳、 上下肢などが形成されるため、 医薬品の催奇形性 が問題となる。 相対性過敏期は、 妊娠8週から15週ま での時期であり、 性の決定や口蓋への影響が問題となる。

また、 妊娠16週以降は胎児の発育を阻害する、 機能的 な異常を生じさせる、 子宮内の環境を悪化させるといっ た胎児毒性が問題となる。 この時期は、 潜在性過敏期と 呼ばれ、 胎児の臓器障害、 羊水量の減少、 陣痛の抑制や 促進、 新生児期への薬物の残留などの影響がある。 これ らの理由や科学的なエビデンスの欠如から、 妊娠中の薬 物治療は、 積極的に行われていない。

世界各国では、 やむを得ず妊婦に対して医薬品を使用 する際には、 独自のリスクカテゴリーをそれぞれに定め ている。 その代表的なものが、 米国のFood and Drug Administration (FDA) 及びオーストラリア医薬品評

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北 岡 諭

星薬科大学 薬品物理化学研究室

Effects of drug intake during pregnancy on fetal growth

Satoshi KITAOKA

Department of Physical Chemistry, School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, Hoshi University

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価委員会 (Australian Drug Evaluation Committee:

ADEC) の胎児危険度分類がある。 FDAの分類では、

各医薬品をカテゴリーA、 B、 C、 D及びX5つのカ テゴリーに分類している。 その危険度は、 AからX 順に高くなり、 Xに分類された医薬品は妊婦に対して禁 忌となっている。 各カテゴリーへの分類の根拠は、

Table 1に示したとおりである。 一方、 ADCE分類は、

基本的にはFDA分類と同様に各医薬品をカテゴリーA、

B、 C、 D及びX5つのカテゴリーに分類しているが、

カテゴリーBをさらにB1、 B2及びB3に細分化して いるのが特徴である (Table 2)。 これら2つの胎児危 険度分類は、 分類間で多少のズレがあるものの、 妊婦に 医薬品を使用する際の安全性に関する科学的エビデンス として国際的に重要視されているものである。

日本において胎児への危険性を明記した情報資料は、

病院が独自に作成しているものもあるが、 その中で、 医 薬品添付文書のみが法的根拠を持つ。 医薬品添付文書に おける胎児に対する危険度は、 「使用上の注意」 に記載 されている。 医薬品添付文書では、 FDAADCEの分 類のように医薬品をカテゴリー別に分類しておらず、

Table 3に示すような種々の表現で妊婦に使用する際の

胎児へのリスクを表記している。 しかしながら、 表現が 曖昧なものが多く、 FDAADCEの分類ほど明確に胎 児へのリスクを読み取ることが困難である。 そこで、 濱 田らは、 多岐にわたる医薬品添付文書の表現をFDA ADCEの分類にならいカテゴリーAからXに分類した (Table 3)。

日本では、 妊婦に対するリスクカテゴリーは医薬品を 使用することで得られる主作用よりも、 動物実験で得ら れた医薬品を使用したことによる副作用に主眼がおかれ ている。 一方、 欧米では、 妊婦に対するリスクカテゴリー は、 医薬品の副作用よりも、 医薬品を使用することで得 られる主作用に主眼がおかれている。 そして、 過去の臨

床例や、 患者の希望を考慮して、 医師が医薬品を積極的 に使用することで、 安全性に関するエビデンスが構築さ れている。 この違いが、 日本において、 妊婦に投与禁忌 となっている医薬品が欧米よりも多い理由となっている。

過去の報告によると、 日本では調査した医薬品 (全 403種類) のうち、 25.3%が妊婦に対して投与禁忌となっ

Table 1 FDA3

Table 2 ADEC3

Table 3

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ている3)。 それに対し、 アメリカでは、 それより少ない 4.5%、 オーストラリアでは、 わずか2.5%であり、 日 本のリスクカテゴリーと欧米のリスクカテゴリーとで大 きな差が存在することがわかる (Fig. 1)。 この差によ り、 現在日本では、 慢性疾患を持った女性や妊娠中にが んと診断された場合、 患者は、 妊娠中の薬物治療が及ぼ す胎児への影響を考え、 妊娠・出産を諦めることがある。

また、 抗悪性腫瘍薬による治療を選択した場合でも、 母 体への治療が遅れる場合があり、 子供が助かっても母親 が死亡するケースがある。 このように、 有用な薬理作用 を有しているにも関わらず、 妊婦に対して投与禁忌となっ ている医薬品を活かすには、 妊娠中の薬物治療を積極的 に行うための安全性に関するエビデンスが必要となる。

がん合併妊娠の罹患率は、 がん発症年齢の若年齢化や 晩婚化に伴う第一子出産年齢の上昇により増加している。

欧米の統計では、 妊婦1,000人あたり1人の割合で妊 娠にがんを合併すると言われており、 我が国においても 同程度の確率で罹患するものと推定される。 がん合併妊 娠をがん種別に分類すると、 妊婦はAYA世代の女性で あることから、 乳がん、 血液系がん、 皮膚がん及び子宮 頸がんが多くを占め、 とりわけ乳がんは全がん合併妊娠 の約半数を占めることが報告されている4, 5)

妊娠中の乳がんは、 妊娠関連乳がん (pregnancy as- sociated breast cancer, PABC) と表現され、 非妊娠 期の乳がんと区別されている。 一般に、 妊娠関連乳がん は、 非妊娠の乳がんと比較して予後が悪いことが報告さ れている6-8)。 妊娠中あるいは周産期及び授乳期の女性で は、 乳房が敏感になって腫れが生じてくることから、 し こりが小さい場合には発見が難しくなり、 乳がんと診断 されるまでにかなりの時間を要してしまう場合がある。

その結果、 より進行したステージで乳がんが発見され、

治療が困難な事例が少なくない6, 7)。 また、 妊娠可能な AYA世代における乳がんでは、 ホルモン受容体 (エス トロゲン受容体、 プロゲステロン受容体) 及びhuman epidermal growth factor receptor (HER) 2の発現が 陰性で、 内分泌療法や抗HER2療法による効果が期待

できず、 悪性度が高いトリプルネガティブ乳がん (tri- ple negative breast cancer; TNBC) が多いことも、

妊娠関連乳がんの予後が悪い要因の一つとなっている9)

乳がんの治療には、 手術法、 放射線療法及び化学療法 3つがある。 しかしながら、 妊娠関連乳がんの治療 では、 母体の乳がん治療に加え胎児への影響を考慮する 必要があり、 その治療体系は非妊娠期の乳がんのそれと 大きく異なる。

妊娠関連乳がんの治療において、 最も優先して行われ るのが手術法である。 手術法は、 麻酔薬の胎児への影響 を慎重に精査する必要はあるが、 他の2つと比較して胎 児への影響が温和であることや、 母体の乳がん治療に大 きな効果を示すことから第一選択となっている。

放射線の胎児への影響は、 妊娠の時期によって異なる が、 胎児の発育不全や小頭症などの先天性奇形などがあ 10)。 特に、 種々の臓器が形成される妊娠初期はそのリ スクが大きい。 したがって、 放射線療法を行う際は、 胎 児への放射線暴露を極力最小限にすることが求められる。

化学療法は、 胎児への影響を最小限にするため、 種々 の臓器の形成が概ね完了した妊娠中期以降 (妊娠14 以降) に開始される11-13)。 妊娠関連乳がんの化学療法に は、 FAC療法、 AC療法、 FEC療法、 DTX療法などの レジメンが使用されている14-18)。 これらのレジメンで使 用される抗悪性腫瘍薬とその用法・用量に関しては、

Table 4に示したとおりである。

妊娠関連乳がんの化学療法に使用されるレジメンの中 で、 DTX療法以外のレジメンではanthracycline系抗 悪性腫瘍薬 (doxorubicin及びepirubicin) が使用され ている。 Anthracycline系抗悪性腫瘍薬は、 種々のがん 種の治療に用いられており、 がん細胞に到達すると核内 に移行し、 DNAにインターカレーションすることで topoisomerase Ⅱを阻害し、 細胞傷害性を発揮する19) また、 Anthracycline系抗悪性腫瘍薬は、 出生時の体重

Fig. 13

Table 4 !

(5)

減 少 の リ ス ク が 高 い も の の 、 methotrexate aminopterinなどのアルキル化剤で高頻度で見られる胎 児の催奇形成のリスクが低いことから、 現在、 妊娠関連 乳がんの治療薬として汎用されている6, 20)

doxorubicin

前述のようにanthracycline系抗悪性腫瘍薬は、 妊婦 に使用しても胎児への影響が他の抗悪性腫瘍薬と比較し て低いことが知られている。 しかしながら、 母体に doxorubicinなどのanthracycline系抗悪性腫瘍薬を投 与した場合、 母体から胎児に全く移行しないわけではな い。 過去の報告においても、 母体にdoxorubicinを投与 すると、 受動拡散によって血液-胎盤関門を速やかに透 過し、 胎児に移行することが知られている。 一方、 胎児 に移行したdoxorubicinが胎児のどの組織にどの程度移 行し、 蓄積するのかについては全く明らかになっていな い。 一般に、 薬物による作用や毒性は、 その薬物が多く 移 行 し た 組 織 で 生 じ る こ と か ら 、 胎 児 に 移 行 し た doxorubicinの胎児における分布を明らかにすることは、

これまで明らかになっていなかったdoxorubicinの胎児 への影響を評価する上で極めて重要であると考える。

Doxorubicinは、 構造中にanthracycline骨格を有し ていることから、 特有の蛍光を発することが知られてい る。 そこで、 私は、 胎児におけるdoxorubicinの分布を この蛍光を利用して解析した。 具体的には、 母体に doxorubicin9 mg/kgの投与量で尾静脈内に投与し、

24時間後に帝王切開にて胎児を摘出した。 摘出した胎 児の組織切片を作成し、 共焦点レーザー顕微鏡 (FV12 00、 OLYMPUS) を用いて胎児におけるdoxorubicin の分布を解析した。 その結果、 母体から胎児に移行した doxorubicinは、 主に脳、 肝臓及び消化管に集積してい ることが明らかになった (Fig. 2)。

脳においてdoxorubicinは、 全体に均一に分布してい るのではなく、 神経幹細胞が多く存在している大脳皮質 に局在していることが明らかになった。 これは、 細胞分 裂が盛んな細胞に集積しやすいというdoxorubicinの特 性に起因しているものと考察できる。 神経幹細胞は、 妊 娠中期から後期にかけてニューロン及びグリア細胞へと 分化し、 胎児の神経発生に重要な役割を担っている。 す なわち、 doxorubicinは、 神経幹細胞の系譜制御機構に 対し、 何らかの影響を及ぼすことで、 脳の高次ネットワー ク機構の発達を障害する可能性があると考えられる。

胎盤で酸素化された臍静脈血の一部は、 門脈を経由し 肝臓に直接流入する。 そのため、 血液-胎盤関門を介し て母体から胎児に移行したdoxorubicinは、 上述の経路 により肝臓に多く集積したものと考察できる。 成体にお い て doxorubicin は 、 肝 臓 の 代 謝 酵 素 aldo-keto reductase (AKR) 1A1によって代謝され、 毒性の少な

doxorubicinolに変換される21, 22)。 私は、 doxorubicin が胎児の肝臓に集積していたことから、 胎児においても 同様の機構が働いているか検討した。 その結果、 胎児期 の肝臓においてAKR1A1は、 発現していないことが明 ら か に な っ た (Fig. 3) 。 す な わ ち 、 胎 児 は 、 doxorubicinを代謝できないため、 doxorubicinによる 影響を長時間にわたって受けるものと推察される。

消化管に移行したdoxorubicinの分布を詳細に観察す ると、 doxorubicinは、 消化管の管腔側に集積していた。

しかしながら、 一般に、 胎盤から移行した薬物は、 腸間 膜動脈を介し、 腸管上皮細胞の基底膜側から消化管に到 達する。 一方、 本研究結果では、 基底膜側への集積は見 られなかったことから、 上述の移行経路とは別の経路で doxorubicinが消化管に集積したと考察できる。 そこで 考えられる別の移行経路として、 私は、 羊水を介した経 路に着目した。 羊水はその大部分を胎児の尿によって賄 われている。 また、 胎児は、 定期的に羊水を飲み、 消化

Fig. 2 doxorubicin

13.5ICRdoxorubicin 9 mg/kg

24

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doxorubicin01 23

Fig. 3 AKR1A1 mRNA

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(6)

管から吸収し、 母体に排泄することで、 羊水量の恒常性 を維持している。 この恒常性維持機構に薬物が溶け込ん だ場合、 Fig. 4に示すような胎児-羊水間の循環系によっ て薬物が胎児の消化管に蓄積することがある。 この機構 は、 尿中に排泄されやすい薬物において生じやすい。

Doxorubicinは、 水に容易に溶解するため、 成体におい て主に尿中排泄によって体外に排泄される。 すなわち、

doxorubicinは、 胎児-羊水間の循環系に移行しやすい薬 物であると考えられ、 その結果として胎児の消化管の管 腔側に集積したものと考えられる。

DOXIL®

妊娠関連乳がんの治療に用いられている抗悪性腫瘍薬 のほとんどが胎盤を介して胎児に移行することが知られ ている。 そのため、 抗悪性腫瘍薬を妊婦に使用する場合、

催奇形性や胎児毒性などの胎児への影響に特段の注意が 必要であり、 妊娠関連乳がんの治療を困難にしている。

したがって、 母体への治療効果を担保しつつ、 胎児に移 行しにくい抗悪性腫瘍薬の開発が望まれている。 このよ うな背景の下、 私は、 ドラックリポジショニングの観点 から、 既存の抗悪性腫瘍薬の中で、 母体から胎児への移 行性が低い薬剤を見出すことが出来れば、 新たな妊娠期 乳がんの治療薬となりうるのではないかと考えた。 そし て、 これまで当研究室で研究してきたdoxorubicin drug delivery system (DDS) 製剤であるDOXIL® 着目した。

DOXIL®doxorubicin を 粒 子 系100 nm ほ ど の STEALTH®リ ポ ソ ー ム に 封 入 し た 製 剤 で あ り 、 En- hanced Permeability and Retention (EPR) 効果に よって腫瘍組織への集積性が高いという特徴を持つ23, 24) また、 DOXIL®の血中滞留性は、 doxorubicinと比較し て著しく長いため、 長期間にわたって治療効果が持続す

ることより、 投与回数を少なくすることが可能であり、

患者のquality of life (QOL) の向上も期待出来る。

DOXIL®は、 1995年に米国FDAよりエイズ関連カ ポジ肉腫の治療薬として承認された後に、 再発卵巣癌へ の適応が追加された。 また、 2003年には、 EUにおい て乳がんへの適応が追加された。 しかしながら、 我が国 におけるDOXIL®の適応は、 今日においても、 がん化 学療法後に増悪した卵巣癌及びエイズ関連カポジ肉腫に 限定されており、 乳がんへの適応はない。 そこで、 私は、

DOXIL®の妊娠期乳がんへの適応拡大につながる基礎デー タを見出すことを目的とし、 薬物動態学的観点から検討 した。

DoxorubicinDOXIL®の母体から胎児への移行量 を測定した結果、 doxorubicinを投与した場合と比較し DOXIL®では胎児へ移行したdoxorubicin量は有意 に低下することが明らかになった (Fig. 5)。

一般に、 doxorubicinは、 細胞膜を直接透過する受動 拡散によって胎盤を透過する。 一方、 DOXIL®のような リポソーム製剤は、 100 nmのサイズがあるため受動拡 散によって胎盤を透過することができず、 エンドサイトー シスによって胎盤を透過すると考えられているが、 一般 に、 エンドサイトーシスによる膜透過は、 受動拡散と比 較して著しく頻度が低い25)。 その結果は、 DOXIL®を母 体に投与しても、 doxorubicinの母体から胎児への移行

Fig. 4 !-"#$%&

Fig. 5 'doxorubicin(

13.5ICRdoxorubicin DOXIL®

9 mg/kgdoxorubichin

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(7)

量が有意に低下したものと考察できる。 本結果は、

DOXIL®が妊娠関連乳がんの新たな治療薬となりうるこ

とを示すものであり、 今後、 DOXIL®の妊娠関連乳がん に対する適応拡大に向け、 さらに研究を進めていく予定 である。

本稿の冒頭にも述べたように、 近年、 科学的エビデン スに基づいた安全な妊娠中の薬物治療へのニーズは、 種々 の社会的要因に相まって極めて高いものとなっている。

一方、 我が国では、 医薬品の胎児への安全性に関する解 析が不十分であるために、 妊婦に対して投与禁忌となっ ている医薬品が欧米諸国と比較して多く、 社会的ニーズ とは著しく乖離した状況下にある。

このような背景の下、 本研究では、 妊娠中に医薬品を 使用した際の胎児への影響を妊娠中の乳がんに対する化 学療法に使用されるdoxorubicinに着目し、 薬物動態学 的観点から詳細に解析した。 その結果、 胎児に移行した doxorubicinは、 胎児中に均一に分布することなく、 一 部の臓器に不均一に局在することを明らかにした。 また、

doxorubicinは、 胎児の尿を介して羊水中に移行し、 胎 児がその羊水を飲むことで再び胎児に移行するという特 異な動態を示すことが明らかになった。 この胎児に特有 のイベント (胎児-羊水間の循環) がdoxorubicinの胎 児 か ら 母 体 へ の 排 泄 を 遅 延 さ せ 、 胎 児 に お け る doxorubicinの高い滞留性の要因となっているものと考

えられる。

これまで、 薬物の胎児への安全性は、 胎盤の透過性を 主軸に議論され、 胎児に移行した薬物の動態はほとんど 明らかにされていなかった。 その中で、 本研究は、 血管 系の発達が未熟であり、 また羊水中という特異な環境下 にある胎児における薬物動態が、 成体の薬物動態と大き く異なり、 容易に推測することが困難であることを示し た。 一般に、 薬物の毒性はその薬物が集積した組織で生 じることが多い。 すなわち、 成体と同様に胎児に対して も詳細な薬物動態学的解析を行うことは、 胎児に対する 未知の毒性の発現を未然に防ぐことを可能にするものと 考える。 今後、 胎児における薬物動態に関する研究がさ らに発展し、 より胎児に影響の少ない妊娠中の薬物療法 が確立されることを期待する。

本研究を遂行するにあたり平成28年度星薬科大学大 谷記念助成金をいただき深く御礼申し上げます。 また、

一緒に研究を行った薬動学研究室の卒業生、 卒論生並び に大学院生にこの場を借りて感謝申し上げるとともに、

本稿を執筆するにあたりご指導いただきました星薬科大 学副学長杉山清教授並びに星薬科大学薬動学研究室落合 和准教授に深く感謝いたします。

本稿執筆に際し、 筆者に開示すべき利益相反はない。

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Effects of drug intake during pregnancy on fetal growth Satoshi KITAOKA

Department of Physical Chemistry, School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, Hoshi University

In developed countries including Japan, late marriage is progressing with the advancement of women to society.

Pregnant women who have merged various diseases are increasing. Meanwhile, evidence on safety of fetuses of drugs used to treat pregnant women is ambiguous in the clinical setting.

Under these circumstances, our laboratory has conducted basic research aimed at proper use of pregnant medi- cines. In particular, focusing on breast cancer as a disease in which active treatment is performed even during preg- nancy to protect the maternal life, we have analyzed the effect on fetuses when pregnant women use doxorubicin from the viewpoint of pharmacokinetics.

In addition, I examined the new treatment of pregnancy-related breast cancer with little influence on the fetus, while maintaining the therapeutic effect on the mother.

Fig. 3  AKR1A1 mRNA

参照

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