長 崎 大学 教 育 学 部 自然 科学 研 究 報 告 第49号91〜106(1993)
竹 材 の 被 削 性 に 関 す る 研 究(1)*1
竹桿壁接線断面 の二次元横切削における竹桿壁位置 (桿軸方向お よび半径方向位置)の 影響(1)
杉 山 滋
長 崎 大学教 育学 部工 業技術 教室 (平成5年3月15日 受理)
Studies on Machinability of Bamboo Culm. .*1
Effects of Stem Wall of Bamboo Culm in Radial Direction and Longitudinal Direction on Variation of Cutting-Force Components in Orthogonal Cutting of Bamboo ( 1 )
Shigeru SUGIYAMA
Department of Technology, Faculty of Education, Nagasaki University, Nagasaki 852
(Received March 15, 1993)
Abstract
The properties of bamboo are mainly determined by the structure of the culm, but in spite of its wide use knowledge of its anatomy is still rather limited. The purpose of this study is to make clear the machinability of the bamboo culm. Using Mosochiku (Phyllostachys pubescens MAZEL) grown at Kyushu district, the structure in its bamboo culm and the arrangement of the vascular bundles in internode region, nodal region and diaphragm region were observed microscopically, and the variations of the cutting-force components in orth- ogonal cutting of the bamboo culm were measured. In addition, several physical properties and several cutting phenomena were observed and measured. Using these results, the effects of the stem wall and the bamboo culm in radial direction and the longitudinal direction on the variations of the cutting-force components and the other cutting phenomena were clarified.
Characteristics of the orthogonal cutting of bamboo in this study are discussed, comparing it with the orthogonal cutting of wood.
*1本 研 究 を 「竹 材 の 組 織 構 造 と被 削性 に 関 す る研 究(そ の2)StudiesonMicroscopicStructureandMa ・ chinabilityofBambooCulm(Part2)」 とす る。 前 報(そ の1)は,長 崎 大 学 教 育 学 部 自 然 科 学 研 究 報 告 第 34号89〜109(1983)に 掲 載 。
1.緒 口
竹は多年生の木本植物であるから,竹の材料的な性質は概ね木材に類似している。しかし,性 質によっては木材と著しく異なる傾向がみられるから,竹の加工の方法や利用の方法には木材と 異なった独特な配慮を要する場合が少なくない。このような違いは,主として竹の外部形態と解 剖学的構造に起因すると考えられている。とくに,竹桿の桿壁(中心柱)を形成している柔組織 や維管束の集合の仕方が竹の特徴であり,これらは竹の産地,竹の種類によっては勿論のこと,
同一の竹桿であっても桿壁の桿軸方向部位や半径方向部位によっても異なるから,その相異の程 度によって材料的な性質や被削性などが異なると考えられる。したがって,竹桿の部位別に組織 構造を明らかにし,それに対応した材料的な性質や被削性を明らかにすることが竹の研究を進め
るうえで必要であるのみならず,竹の広範囲の利用を検討するうえでも必要である。
これまでの竹については,極めて数多くの研究が行われ,その成果も数多く報じられてきた。
竹の利用についての興味,関心は極めて古く,したがって古い時代から竹について論じられてき たが,これらについて全てを調べ尽くすことはできなかったが,筆者の調べた限りにおいても100 編以上の研究・資料等がとりまとめられ,報じられている1)〜138)。これらの文献1)〜138》は,竹の工芸 的利用方法の分野から竹の物理的・機械的性質の分野にいたる広範囲にわたっている。このよう に,竹を追究し続けた背景には,日本人は古来から竹の美しさに魅せられ,竹の美とそれを活か した利用を追求し続けていたことを伺い知ることができる。しかし,竹の工業材料としての利用 を検討した研究例は殆どみあたらなかった。竹の工業材料化を考える場合には,竹の機械加工に ついての検討が必要となってくるが,竹の機械加工,とくに切削加工については,二,三の研究 例24)・66)・129)があるのみで,詳細な検討は殆ど行われていない。
竹を工業材料として利用する場合には,竹の量的確保の問題や,竹の形状・寸法等の外観的形 状ならびに強度的性質上からの問題などを考慮に入れると,竹を単板化して利用する方法が考え られる。即ち,竹を単板化し,在来の木質材料または非木質材料の表面に,化粧単板として被覆 して利用することになるが,この方法によれば,竹の形状・寸法等の外観的形状や強度的性質上
』からの問題もr部は解消することができるため,竹の単板切削の方法さえ技術的に明確にしてお けば,竹の工業材料としての利用の途が広くなってくる。
本研究では,竹の単板切削,その他一般的な竹の被削性についての基礎資料を得るために,竹 桿壁のいろいろな部位を切削加工する場合をとりあげて検討してみる。本報では,主として,竹 のロータリー単板切削を直接の対象として,竹の被削性および単板切削性を明らかにするが,竹 の組織構造,、とくに維管束の走向状態との関連で検討を試みる。即ち,竹桿壁を切削加工する場 合における竹の被削性および単板切削性を,いろいろな場合を想定していろいろな実験条件の組 み合わせのもとで検討するが,とくに,本報では,竹桿壁位置(桿軸方向位置および半径方向位 置)の相異が被削性にどのような変化をもたらすかを検討する。即ち,竹桿壁の部位の違いによ る被削性および単板切削性を検討し得るような試験片を各種作成し,それを用いての切削実験に より切削抵抗の測定を中心に行い,切削抵抗の変化に及ぼす竹桿壁位置の影響を明らかにし,そ の結果に基づいて,竹の被削性および単板切削性についての検討を行う。
2.竹の工業材料としての一つの利用方法
7竹の単板化について(本研究着想に至った経緯を中心として)一
竹を利用する場合には,中空円筒状の竹桿そのものを利用する場合と,竹桿壁をなんらかの切
竹材の被削性に関する研究(1) 93
削加工により,桿の桿軸方向に沿い,その桿壁の一部を削りとって利用する場合とに,大別され
る。
たけぎお たじナづえ たリナ いずれの場合も,各種の民芸品や玩具類などに多くの利用の例を見ることができる。前者の場合,竹竿,竹杖,竹
すが噂 すのこ たけすが唇 すが撃 たサのれん たけばしご たけたぱ
箕掻(竹でつくった床としての簑子),竹簑垣(竹の透垣),竹暖簾,竹梯子,竹束(丸竹の竹桿自体を一定の数だけ たて
一つに束ねたもので,これをいくつも縦かけて戦陣に用いて,矢や銃弾を防ぐために用いた一種の楯)などがその好 例であるが,今日では殆どその利用の例を見ることすら難しくなった。しかし,後者の場合,竹材専用ベニヤレース たけへげ(バンブーレース)による竹のロータリー単板(主として,室内装飾用材の化粧単板として利用),竹剥(竹細工をす
たけひご しつぺい し は
るために竹を薄く削り剥がしたもの),竹筏(竹細工をするために竹を細く割って削ったもの),竹箆(禅家で師家が わきゆう
修行者の指導に用いる具),和弓などがその好例であり,広い範囲にわたっているが,今日いずれの例をもみることが できる。
建築部材(とくに,室内部材)などの工業材料として,竹を利用することは,竹桿の形状・寸法から考えて,竹そ のものを利用することは難しい。したがって,竹桿を何らかの機械加工により小材化し,接着・接合した複合材料化
(例えば,集成材など)して利用することが考えられる。しかし,今日における竹の量的確保の点から考えて,竹の工 業材料化は極めて難しいと考えられる。
竹の美しさは,竹桿の外観のみならず,竹桿の縦断面も他材料には見られない美しさがあることから,竹を単板化 して,他材料の表面に化粧単板として被覆(オーバーレイ)し,一般の工業材料の表面を化粧することにより,竹を 利用することが考えられる。竹を単板化する場合には,スライスド単板またはロータリー単板の製造が考えられる。
竹桿の寸法・形状から理解できるように,スライスド単板の場合には得られる単板は幅狭であり,これを化粧単板と して利用する場合には,モザイク状に貼り付ける手間のかかる接着工程が必要となる。一方,ロータリー単板の場合 には,幅広であり,これを化粧単板として利用する場合には,広範囲な化粧のときにはつぎ貼りの必要はあるが,ス ライスド単板の場合のような煩雑な接着工程とはならない。横断面が丸く,中空円筒状の竹桿を小型のベニヤレース の切削許容長さに応じた長さに竹を玉切りし,通常行われている丸太を用いてのロータリー単板切削とほぼ同様に,
竹桿壁の接線方向に横切削を行うことにより,竹のロータリー単板を得ることができる。このような竹のロータリー 単板は,いくつかの節間部といくっかの節部とが同時に横切削されるから,竹のロータリー単板切削性についての基 礎資料を得るためには,節部や節間部の被削性を知ることが必要であり,節部と節間部を同時に横切削したときに,
単板品質を低下させないような最適の切削条件を見い出すことが必要となる。
3.竹材の組織構造
一本研究における竹の被削性および単板切削性に係わる竹桿壁の組織構造(とくに,維管束の走向を中心として)一
3.1 竹桿壁位置による影響
竹桿の外観的構造を模式図にしてとりまとめ,図1に示す。
竹材の材料的な性質は,桿軸方向および半径方向の桿壁位置によって異なるが,それは,主として桿壁を樽成する柔組織と維 管束の分布の違い(維管束一つひとっにおいても,その維管束鞘の分布が異なっている)によることは,既に多くの報告によっ て指摘されている81・10》・11》・鋤39》・54)・95》・102》・103》・123)。例えば,一つひとつの維管束の四側に位置する維管束鞘の発達の程度はそれぞ れ異なるが,概ね3種類の形状に分類でき1),しかもその維管束鞘の占める割合は半径方向位置の違いによって大きく異なるこ と8》・LO》・II》・:26》,また,比重や圧縮強度は維管束鞘の占める割合に正比例すること38)・39)や,維管束鞘の占める割合,比重および引 張・勇断・曲げの各強さは桿壁の桿軸方向位置の違い,とくに根元部分より槍端部分の方が大きくなる傾向があるが,半径方向 位置の違い,とくに表皮層側より厚壁細胞層側に向うにつれ減少する傾向があること8脚L砿などがそれである。
竹の被削性および単板切削性を明らかにするためには,上記のように,維管束の分布の違いとの関係で明らかにすることが必 要であるが,それと同時に,維管束の走向状態との関係で明らかにすることも必要である。即ち,桿壁内における維管束は,節 間部では桿軸方向に縦走するが,節部では節問部よりも桿壁も厚くなるから,当然曲走することになるが,桿軸方向や隔壁方向 などへの複雑な走向状態を呈するから,節問部と節部とを同時に切削する桿壁のロータリー単板切削性や桿軸方向への被削性の 違いを明らかにするためには,桿壁における維管束の走向状態を明らかにしておくことが必要となる。
3.2 供 試材
竹材は,前記したように,同一の竹桿においてもその桿壁位置により組織構造の変化が生じる から竹材の性質に違いが現れるが,異なった竹桿では,桿壁位置が同じであっても竹材の種類,
丁方向
R方向
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1
F D
a
e
図1 竹桿の外観的構造および各断面の名称
断面A,BおよびC:節問部横断面,半径断面および接線断面;断面D,E およびF:節部横断面,半径断面および接線断面;断面G,Hおよび1:隔 壁横断面,半径断面および接線断面;a:節間部;b:節部;c:隔壁;
d:竹桿壁;e:厚壁細胞層(内皮層);f:表皮層;9:髄腔;丁方向,R 方向およびL方向:竹桿の接線方向,半径方向および縦方向(桿軸方向)
産地,伐採時期,年齢によって桿壁の組織構造の変化が生じるから竹材の性質にも違いが現れる。
本研究で用いた竹材は,九州産モウソウチク(P勿IJos如6h鐸ρκ6θs66ns MAZEL)で伐採時期が 2〜4月,または8〜11月で,年齢が3〜5年生のもので,桿外径120〜135mm,肉厚10〜17 mm,節間長300mm以下,地上高2,000mm以下で伐採された根元部のもので,健全材である。
3.3 検鏡用切片の採取方法
上記の竹材を用い,組織構造の観察を行うために,検鏡用切片の採取を行った。採取には,特 殊ミクロトームを使用した。同ミクトロームは,その本体はシャンツェ型ミクロトームの本体と 類似しているが,ナイフとその摺動には手鉋を利用している。即ち,ミクロトーム用小片(即ち,
ブロック)を本体に固定し,同ブロックの表面を手鉋により鉋削する。このときの手鉋による鉋 削条件を決定するために,種々の条件を設定して予備実験を行った。予備実験の結果により,鉋 刃(材質は炭素工具鋼)の切削条件として,切削角28。59 ,逃げ角5〆〜15〆(横断面の切片採取には 15 ,半径断面および接線断面の切片採取には5ノ),バイアス角15。が好結果をもたらしたので,こ の条件を採用した(竹桿の外観的構造および竹桿の断面は図1参照)。
ブロックの軟化条件も,予備実験を行って適正な条件を決定した。1000C,2時間煮沸が好結果 をもたらしたので,この条件を採用した。
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壁細胞層とが加わる。表皮層と厚壁細胞層は,モウソウチクでは比較的壁厚が厚く,容積重は1.O g/cm3以上となる場合が殆どで,桿壁内部の柔組織とは異なる点が多いので,竹桿の材質評価にあ たっては,これまでの研究においても,これらの層を削除している59)・126)。
維管束は,柔組織の中に一つひとつ散在している。個々の維管束は,その周囲が維管束鞘と呼 ばれる多量の厚壁の靱皮繊維で保護されている。この維管束鞘の発達の程度と維管束の発達の程 度は反比例し,桿の外側(表皮層側)ほど靱皮繊維の量が多いが,逆に,維管束の発達は悪く,
とくに,最外側では維管束の発達はとくに悪く,殆ど靱皮繊維だけが束状に集まっている(図2
(a)および(b))。
図2(a)および(b)における維管束の断面から明らかなように,節間部では桿軸方向を縦走する維管束の横断面のみが観察される が,節部では,節間部の場合と同様に桿軸方向を縦走する維管束の横断面のほかに,桿壁の半径方向に走向する維管束の縦断面
も観察される。半径方向へ走向する維管束の縦断面には内容物で充填されている様子も観察される(維管束が水分・養分などの 通導の機能を失ったために,これらが固化したものと考えられる)。このような半径方向へ走向する維管束は,一部は筍皮へ走向 し,また,一部は隔壁へ走向するが,そのほか,下部桿内から上部桿内へ走向する維管束が節部で走向位置を転換するために,
短い距離ではあるが半径方向を走向する場合なども考えられる(これについては,後述する)。
3.4.2 切削抵抗測定位置における竹桿壁の組織構造
この研究では,竹材の工業材料としての利用上における基礎資料の収集を目的としている。竹 を工業材料として利用しようとする場合には,竹材の単板化が望まれる。したがって,竹の単板 切削性および一般的な竹の被削性に関する基礎資料を得るために,竹桿壁のいろいろな部位を切 削加工する場合をとりあげて検討する。主として,竹材のロータリー単板切削を直接の対象とし て竹の被削性について検討するが(図3参照),竹の組織構造,とくに維管束の走向状態との関連 で被削性についての検討を試みる。
竹材をロータリー単板切削する場合には,ナイフの切削方向が円筒状の竹桿壁に対して接線方 向となり,得られる切削面が桿壁の接線断面となるような,いわゆる 桿壁の接線断面の二次元 横切削 となる方式で切削することとなる。前項で述べたように,桿壁の半径方向の位置によっ
ベニヤレ〆一ス のスピンドル
(鱒写簑着)
竹桿
節部r一
嘱il
・灘
寮螺、
ナイフの歩出し方向
(a)竹材のロータリー切削の模式図
回転方向 単板
1
−1一単板の曲率半径 7
職難離
、嚢鉢・嚢
車魯り喧 職
麟繕
黙㈱纐 縷
ナイフ
鰍鞠+β)
鋤込動舞蓼縄購葦欝羅織 酬Rの主分力)
編蓬i霜灘灘灘,騰難
ナイフ 灘藻灘鞭鱗翻轟劒削抵抗(合力)1
轟面騒難繋馨瓢
(鵬男籔レー祁ンブーレース))
(b)竹材のロータリー切削を対象とした切削 実験の模式図
(講鞭面を切削面とした二次元)
図3 この研究で対象としている竹材のロータリー切削の模式図および切削実験における切削 抵抗の測定
α:ナイフの逃げ角1β:ナイフの刃先角;θ:ナイフの切削角(=α+β)
竹材の被削性に関する研究(1) 97
節部・半径断面
lI
桿 軸 方 向
1↓
竹桿壁半径方向
翻一 卍 庸
欝蕪
隔壁 図4(a)節部桿壁半径方向における維管束走向状態の一例
て,維管束の集合形態やそれをとり囲む靱皮繊維の量的比率が異なるから,竹材のロータリー単 板切削では,桿壁の半径方向位置の違いを考慮に入れなければならない。図4(a)に,節部桿壁半 径断面を示したが,ロータリー単板切削を行う場合には,図4(a〉の写真の面に垂直で桿軸方向に 平行な方向がナイフの切削方向であるから,図4(a〉における維管束の集合形態や靱皮繊維の量的 比率からも明らかなように,半径方向のどの位置にナイフ切れ刃が位置するかによって被削性が 異なってくることは容易に想像できる。
そこで,この研究では,図4(b)に示すように,竹桿壁のうち,表皮層と厚壁細胞層を削除した 桿壁を半径方向に7等分し(表皮層側からa,b,c,……,9の記号で半径方向の表皮層側か
らの位置を表示),それら各位置における切削抵抗の 平均的な測定 *2を行った。
半径方向位置ごとに,切削面が桿壁接線断面となる二次元横切削実験を行うのに先立ち,それ
*2 削抵抗の 平均的な測定 とは,竹材のロータリー単板切削実験を特殊な切削実験装置(図8)および特異な形状の試験片 (図9(b))を用いて測定することに基づくもので,実験方法等の問題から 厳密な測定 とは異なっているため,本研究では,
便宜上, 平均的な測定 と呼ぶこととした。竹材のロータリー単板切削では,桿壁の接線断面が切削面となる二次元横切削 方式であり,円筒状の桿壁に対して切削方向は桿壁の円弧と同じとなる 円弧状切削方式 であるが,この研究で用いる切削 実験装置は,設定したナイフに対して被削材を直線的に送り込んで切削する 直線切削方式 である。切削方向に対してナイ フの切れ刃線は直交するように切削実験装置に固定されているから,二次元横切削方式となるが,そのナイフに対して送り 込まれる被削材(試験片)は桿壁に沿った円弧状に送り込まれないから,図9(b)の試験片を送り込む場合には切削長さに対 して桿壁の半径方向位置が異なってくる。試験片の切削長さを小さくすれば,このような二次元直線切削方式であっても,
ロータリー単板切削方式と比較的近似できると考えられる。この研究では,120mmの桿壁を半径方向に7等分し,1つの半 径方向の区間の距離が節間部で13mm,節部で17mmであり,切削長さを30mmとしているから,試験片の切削の初期段階 (または,切削の終了段階)における桿壁半径方向位置と,最も異なると考えられる試験片中央部における桿壁半径方向位置 の差は2、Omm程度と考えられる。したがって,例えば,a位置での切削抵抗を測定する場合には,切込量設定時にa位置の うちで表皮層側から最も近い位置から切削を開始すれば,桿壁の中央部ではa位置のうちで表皮層側から最も離れた位置の a区間内を切削することができる。この研究における切削抵抗の測定は,上記のようにa区間内でも半径方向位置の違いが あるから,厳密には半径方向位置を特定しての切削抵抗の測定ではないことを意味する(図8および図9は次報参照)。
半径方・
R
上部節問。
接線方向 丁
・じ
筍皮(葉鞘,簿)
下部節間部
/
表皮層
灘お
\
12mm
\
縄、
矧 ヨ ¢ 鱗 馨 縫撚一碧 鰹1
纏 灘
1
雛
1 竃観 き
灘灘 、簸
糊繕
桿外径
mR
ぎ
半径断面
図4(b)竹桿壁半径方向における切削抵抗の測定位置
竹桿壁半径方向の位置(a〜9〉は,表皮層側からおおよそつぎの距離の位置を示す。
表皮層からの半径方向のおおよその距離(mm) 肉 厚
a b C d e f 9 mm)
節 部 1.7 3.4 5.1 6.8 8.5 10.2 11.9 14.0
節間部 1.3 2.6 3.9 5.2 6.5 7.8 9.1 11.0
」6:a〜9のそれぞれの区間の距離で,節間部は1.3mm,節部では1.7mm。
らの切削抵抗測定位置における桿壁の組織構造を明らかにした。竹桿壁半径方向位置における組 織構造の二,三の例を図4(c)〜図4(e)に示した。節部における桿壁半径方向位置ごとの半径断面 の例(図4(c))および接線断面の例(図4(d))から明らかなように,桿壁を構成する維管束と柔 組織の縦断面が観察される。また,節間部における桿壁半径方向位置,即ち表皮層側のa位置か
ら厚壁細胞層側の9位置までの接線断面の一例(図4(e))からも柔組織および維管束の走向が桿
竹材の被削性に関する研究(1)
節部・半径断面
99
養 鷹
上部節間一
竹桿壁半径方向の位置(a) 竹桿壁半径方向の位置(f〉
竹桿壁半径方向の位置(b)
竹桿壁半径方向の位置(d)
竹桿壁半径方向の位置(9)
一下部節間
↓
羅 翻 編
隔壁上部 0。5mm
一下部節間 上部節間一
図4(c)竹桿壁半径方向の位置(切削抵抗の測定位置)における組織構造の概要例
それぞれの写真図面の長手方向が切削方向であり,図面に垂直方向がそれぞれの位置(a〜9)の切削面となる。
節部・接線断面
竹桿壁半径方向の位置(9)
0 0.3 0 0.3
《・一上部節間 一一一 下部節間一 一上部節間 一一一一 下部節間一
(mm) (mm)
図4(d)切削抵抗の測定を行う竹桿壁(節部)接線断面の組織構造の概要例 図は,それぞれの節部桿壁半径方向位置(a〜9)における切削面を意味し,その切削面の 組織構造の例を示したものである。
竹材の被削性に関する研究(1) 101
節間部・接線断面
0.5mm O。5mm
一上部節間 卜__1 下部節問一 ・《一上部節間 卜_→ 下部節間→
図4(e)切削抵抗の測定を行う竹桿壁(節間部)接線断面の組織構造の概要例 図は,それぞれの節間部桿壁半径方向位置(a〜9)における切削面を意味し,その切削面の 組織構造の例を示したものである。
軸方向に平行している様子 が観察される。また,維管束 鞘の量的比率が表皮層側で 著しく大きく,中央部に向う につれ次第に減少する様子,
ならびに厚壁細胞層に隣接 した部位で維管束が若干増 加する様子も観察される。
図4(c)〜図4(e)により,切
削面の組織構造を的確に把 握することができる。桿壁半 径方向位置a〜9における 切削抵抗の大きさの違いは,
主として,この切削面に現れ る維管束の集合形態と靱皮 繊維の量的比率に支配され ることになる。これら維管束 の集合形態と靱皮繊維の量 的比率の違いは,桿壁半径方 向位置a〜9における容積 重の違いにより概ね知るこ とができる(容積重の変化お よび維管束の走向状態につ いては,次項で詳解してい
る)。
3.4.3
1.00
0.80
0。60 鞄 蕊
く 0.40
0.20
0
奮\
懸潅濾譜弓
a b C d e f 9 竹桿壁半径方向の位置
一
懸壁麹灘耀纒簗灘図5 竹桿壁半径方向の位置の変化に伴う気乾容積 重名。の変化
竹桿壁半径方向の位置(a〜9):図4(b)参照
切削抵抗測定位置における竹桿壁の容積重
竹桿壁半径方向位置(切削抵抗の測定位置)ごとの気乾容積重名uを測定した結果を図5に示し た。図より明らかなように,名、は,竹桿壁半径方向位置がaから9へ変化するに伴い指数関数的 な減少傾向を示した。名uは,表皮層側から厚壁細胞層側へ向う半径方向位置で,とくに,表皮層 側に近い位置では急激な減少傾向を,また,厚壁細胞層側に近い位置ではほぼ一定で変化のない 傾向をそれぞれ示した。節部と節間部との名uの差は顕著に現れたが,節付近におけるγ、は節部の 名uと節間部の名、とのほぼ中問程度の名、の大きさを示した。
節部と節間部では,名、は顕著な差となって現れたが,節付近では,節部に近い側と節間部に近い側で名。の差は殆どなく,桿壁 の僅かな桿軸方向位置の差は名、には顕著には現れなかった。節付近の名。は,表皮層側では節間部の名。に近く,また,厚壁細胞 層側では節部と節間部のほぼ中間程度の名。の大きさを示した。
このような桿壁半径方向位置の違いに基づく名、の大きさの違いは,維管束の集合形態と靱皮繊維の量的比率に基づくものであ る。即ち,桿壁半径方向位置aに近い側では,維管束の集合も密となり,それをとり囲む靱皮繊維の量も多いが,桿壁半径方向 位置e,fでは維管束の集合も粗となり,靱皮繊維の量も少なくなる(桿壁半径方向位置9では,節間部では厚壁細胞層に隣接 した部分に維管束が列をなして配列するために,節部を除いてんが若干増加するが,節部では厚壁細胞層は隔壁中へ入り込むた め,節間部の場合のような名・の増加はみられない)。
3.4.4 竹桿壁内における維管束の走向状態
竹桿壁半径断面および接線断面(図4(a),図4(c〉〜図4(e))を観察すれば,維管束の走向状態を概ね把握できる。維管束の走 向は,その大半が縦走する場合である。このうち,下部桿内から節部を経て上部桿内へ走向する維管束は節部で若干半径方向へ 曲走している。また,一部の維管束は下部桿内から節部で接線方向にも曲走しつつ上部桿内へ走向するため,節部ぞはそれの切 断面が観察される。このような縦走する維管束のほか,厚壁細胞層側の下部桿内より半径方向へ走向し,のちに表皮層側の上部
竹材の被削性に関する研究(1) 103
⑤
②
③
厚壁細胞層
筍皮(葉鞘,纏)
表皮層
桿壁(横断面)
上部,節間部
下部節問部
1肱_,
隔壁
図6 節部における維管束走向状態の模式図
①:下部桿内から上部桿内へ縦走する維管束;②:衷皮層側の下部桿内より筍皮へ走向する維管束;③:表 皮層側の下部桿内から節部接線方向を一部曲走し,半径方向を走向ののちに隔壁上部において厚壁細胞層側 の桿壁に沿って集合して廻走する維管束1③:厚壁細胞層側の下部桿内から隔壁内部を曲走し,のちに上部 桿内へ曲走する維管束;④:厚壁細胞層側の下部桿内から節部半径方向を経て表皮層の上部桿内を曲走する 維管束;⑤:隔壁から節部半径方向を走向し,のちに表皮層側の上部桿内へ曲走する維管束;⑥:隔壁から 表皮層側の上部桿内へ曲走する維管束;⑦:隔壁から筍皮へ走向する維管束;⑧:隔壁上部において厚壁細 胞層側の桿壁に沿い集合して廻走する維管束;⑨:隔壁上部において厚壁細胞層側の桿壁に沿い集合して廻 走する維管束の一部が上部桿内へ曲走する維管束1⑩:隔壁中央部付近で方向転換などして錯走する維管束
桿内へ走向する維管束も観察される。このほか,筍皮へ走向する維管束も観察されるが,これには,表皮層側の下部桿内より直 接筍皮へ走向する場合,隔壁内部より節部半径方向を経て筍皮へ走向する場合,および厚壁細胞層側の下部桿内より半径方向を 経て筍皮へ走向する場合などがあった。この他に,隔壁内部より節部半径方向へ走向し,のちに表皮層側の上部桿内へ走向する 維管束,それとは逆に,下部桿内より半径方向を経て隔壁内部へ走向する維管束が観察された(この場合,前者の維管束は小径 であり,絶えず後者の大径の維管束の上側を走向する)。また,一部ではあるが,隔壁内部から厚壁細胞層側の上部桿内へ走向す る維管束,それとは逆に,厚壁細胞層側の下部桿内より直接隔壁内部へ走向する維管束も存在した。
隔壁あるいは表皮層側の下部桿内より筍皮へ走向する維管束,および隔壁内部あるいは厚壁細胞層側の下部桿内より半径方向 を経て表皮層側の上部桿内へ走向する維管束などの大径の維管束の内部には内容物の充填が観察される。これは,生長の初期,
即ち,筍の時期には,桿の強度支持の目的で一定間隔おきに節を形成し,隔壁および節から発生する筍皮(鐘)によって桿の補 強,内部保護などの機能を果してきたが,生長ののち根元部の桿においては,桿内部から筍皮や隔壁へ,あるいは隔壁内部から 桿内部への横方向の通導機能を失い,それに伴い維管束内部に内容物が塊状に固化したものと推察される。
節間部接線断面(図4(e〉)から,柔組織および維管束の走向が桿軸方向に平行している様子が観察される。また,維管束鞘の 量的比率が表皮層側で著しく大きく,中央部に向うにつれて次第に減少する様子,ならびに厚壁細胞層に隣接した部分で維管束 が若干増加する様子も観察される。
節部桿壁および隔壁における組織構造の顕微鏡観察に基づいて,竹桿内における維管束の走向 状態の模式図を作成した。その一例を図6に示す。ただし,同模式図は,同一断面において図の
ような維管束の走向が観察されるのではなく,種々の断面で維管束の走向が異なっているが,そ れらを同一断面上に便宜的に重ね合わせて示したものである。維管束の曲走状態の現れる典型的 な断面の一例(節部および隔壁の半径断面)を図7に示す。
0
雛
5
桿壁 隔壁
図7 竹桿内の維管束の走向状態の一例
上部節間部,下部節間部,節部の各桿壁および隔壁における維管束の断面により,維管束の走向状態を知る ことができる。
文 献
本文をとりまとめるにあたって,参考にした竹材に関する既往の研究・資料・総説・随筆等を 表1に示した。
竹材の被削性に関する研究(1) 105
表1 竹材に関する既往の研究・資料・総説・随筆等
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