学 位 論 文 審 査 要 旨 公開審査日 2014 年 3 月 26 日(水)
報告番号: 甲 第 1636 号 氏名: 呉 宗憲
論文審査
担当者 主査 教授 松本 哲哉 印
副査 教授 行岡 哲男 印
副査 教授 内野 博之 印 審査論文の題目:インフルエンザ脳症における鼻汁中サイトカインプロファイル
著 者:呉宗憲、河島尚志、柏木保代、武隈孝治 掲載誌:小児感染免疫 (26 巻 1 号掲載予定)
論文要旨:
近年、インフルエンザ脳症の致死率は改善を認めるものの、後遺症を含めた予後は依然として不良であ る。このため、より早期からの治療の介入が必要となるが、病初期における脳症発症の予測は困難なこ とも多く、何らかの指標が望まれている。そこで鼻粘膜局所での病態形成への影響因子が脳症発症予測 の早期指標となる可能性を考慮し、非脳症群と脳症群の鼻粘膜局所での免疫応答の差異を知るべく検討 を行った。対象は東京医科大学病院小児科で 2008 年 12 月から 2009 年 5 月までにインフルエンザ様の症 状を有し、迅速診断キットにて季節型インフルエンザ A 型と診断された非脳症群 73 例と脳症群 4 例の鼻 汁中の各種サイトカイン、およびケモカイン 17 項目を計測し検討を行った。鼻汁中サイトカインは非脳 症群と脳症群ともに IL-1β、IL-6、IL-8、G-CSF、IFN-γ、CCL2、CCL4、TNF-αの上昇を認め、G-CSF と CCL4 は脳症群において有意に上昇していた。脳症群の髄液でもほぼ同様の項目が上昇していた。以上よ り、鼻汁中サイトカインの計測がインフルエンザ脳症の発症予測に役立つ可能性がある。
審査過程:
1.本研究は retrospective study として倫理委員会の承認も得ており、倫理上の疑義はないことが確 認された。
2.本研究に至った臨床的背景や研究方法について具体的に説明がなされた.
3.インフルエンザ脳症と全身の炎症との因果関係について質問がなされ、適切に回答がなされた。
4.検体の採取時期によって病態や重症度の違いが生じる可能性について質問がなされ、経時的に検体 を採取して検討した症例はないが、検体採取のタイミングが結果に影響する可能性について説明がな された.
5.鼻汁中のサイトカインが嗅球−大脳辺縁系を刺激して脳症を引き起こしているという推測について 質問がなされ、まだ確証は得られていないが過去の報告を含めてその可能性が考えられるとの回答が あった.
価値判定:
本研究では予後不良な重症感染症であるインフルエンザ脳症について、鼻汁サイトカインに焦点を当て、
一部のサイトカインは非脳症患者に比べて有意な上昇を認めたことを報告している。今後、インフルエ ンザ脳症の病態解明や診断に結び付く研究成果であると考えられ、学位論文としての価値を認める。