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よりやさしい低侵襲性手術を求めて

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東医大誌 75(2): 177-186, 2017

最 終 講 義

よりやさしい低侵襲性手術を求めて Towards establishment of kinder and

easier minimally invasive surgery

井 坂 惠 一 Keiichi ISAKA

東京医科大学産科婦人科学教室

Department of Obstetrics and Gynecology, Tokyo Medical University

は じ め に

低侵襲手術には、腹腔鏡手術、子宮鏡手術、小切 開創手術などが挙げられるが、最も代表的なものは 腹腔鏡手術である。腹腔鏡手術が本格的に手術に応 用されるようになったのは、1987 年にフランスの

外科医 Mouret がテレビモニターを導入

1)

したこと

による功績が大きい。従来の術者が内視鏡を直接覗 いて行っていた手術から、モニターを使用すること により皆で術野を共有する手術へと大きな変身を遂 げた。これにより術者は内視鏡を保持する必要がな くなり、現在の基本形である両手で鉗子を使うスタ イルとなった。これは、それまでの手術の概念を根 本的に覆す画期的な出来事であった。腹腔鏡手術は、

その低侵襲性から従来の開腹手術に比べ疼痛が少な く患者にとって優しい手術である。しかしながら、

術者にとっても優しい手術かと言うと “Yes” とは言 えない。術者が、開腹手術と同様に安全で確実な手 術が行えるようになるには、それなりの訓練と努力 が必要である。この技術面での問題こそが、現在ま で腹腔鏡手術が開腹手術に取って代わることができ ない大きな妨げとなっている。我々は、この問題に ついて改善を図るべく長年検討を重ねてきた。本講 演では、ガスレス法である皮下鋼線吊り上げ法と近

年急速に普及しているロボット手術を key word と して取り上げ、我々の取り組みについて紹介する。

First key word

『ガスレス法(皮下鋼線吊り上げ法)』

なぜ皮下鋼線吊り上げ法なのか?

当教室では 1993 年に本格的に腹腔鏡手術を導入 した際に術野確保に必要な気腹操作に起因する重篤 な合併症を 67 例中 2 件に経験したことから、より 安全性な腹腔鏡手術を模索するようになった。その 結果、導入・開発した方法が皮下鋼線吊り上げ法で あった。本法は、気腹を用いないことからガスレス 法と呼ばれ、その後、安全性の他に操作性・経済性 にも優れることが明らかとなった。

1

) 腹壁吊り上げ法の種類とその歴史

腹壁吊り上げ法は炭酸ガス注入により術野を確保 する気腹法とは異なり、腹壁を挙上して腹腔内に術 野スペースを作る(図 1)術野確保法であり、皮下 鋼線吊り上げ法と全層吊り上げ法がある。このうち 皮下鋼線吊り上げ法は、皮下に刺入した細い鋼線を 支持として腹壁を上方に挙上し腹腔内術野を確保す る方法であり、気腹法とは異なる発想から生まれた。

本法は、1991 年に外科の永井や橋本によって報告

2)

3)

されたのが最初とされる。一方、全層吊り上げ法 は、Gazayerli により 1991 年に報告

4)

されたが、気

本論文は平成29年1月20日に行われた最終講義の要旨である。

キーワード: 低侵襲性手術、腹腔鏡手術、吊り上げ式手術、ロボット手術、先進医療

(別冊請求先:〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1 東京医科大学産科婦人科学教室)

(2)

東 京 医 科 大 学 雑 誌

─178─ 第75巻 第2号

腹法を併用することから純粋な吊り上げ法とは言い 難い。気腹を用いない全層吊り上げ法としては、

1993 年に Newman らにより報告

5)

された Laparolift 法がある。婦人科における吊り上げ法を用いた腹腔 鏡手術は、 1993 年に我々が導入した皮下鋼線吊り 上げ法を用いた方法

6)

が最初であったと考える。

2

) 教室における皮下鋼線吊り上げ法の歴史 皮下鋼線吊り上げ法を導入した当初は、比較的太 い鋼線を使用し 2 か所で腹壁を吊り上げていた。こ の方法では、良好な術野は得られる反面、症例毎に 鋼線の挿入部位を設定しなければならず、準備に時 間がかかる、鉗子操作が吊り上げ棒により制限され る、そして何よりも外観がグロテスクであった(図 2)。これら導入当初の不具合を改善すべく、鋼線の 挿入部位の固定化、子宮マニピュレーターの使用、

腹壁孔のトロカーおよびシースの使用停止、ラップ プロテクター

(八光)の採用、オープン法による 腹壁孔作成、腹壁孔部位の変更、腹壁孔の減少( 2 孔式および 1 孔式腹腔手術の開発)など試行錯誤し ながら一貫して本術式にさまざまな改良を重ね現在 に至っている。

3

) 皮下鋼線吊り上げ法の利点欠点

我々は導入に際し、本法の利点に関して、 “安全性・

操作性・経済性” に優れた方法と報告

7)8)

してきたが、

その後の術式改良や新しい手技・操作法の導入によ り、その利点に関しても導入当初とは大きく変わっ てきた。初めは安全性を求めて導入した皮下鋼線吊 り上げ法であったが、次第に気腹法にはない独特の 利点が明らかとなった。つまりトロカー不要となり 腹壁孔を有用に利用できることによる鉗子操作性の 向上、ディスポーザブル製品を使用しないことによ るコスト面での経済効果などである。さらにこれら 安全性・操作性・経済性に次ぐ本法の利点は、優れ た美容面に加え learning curve が短いことにある。

一般に気腹法を用いた従来の腹腔鏡手術は高度の技 術(特に鉗子操作)が要求され、一人前の術者にな るには多くの修練を積まなければならない。この点 において、開腹用の鉗子を使用することができる皮 下鋼線吊り上げ法は、十分な開腹手術の経験さえあ れば容易に腹腔鏡手術を導入可能とする術者に “や さしい” 方法である。欠点としては、術野が気腹法 に比べ狭小である点、腹壁孔が大きく美容的でない などの問題が以前指摘されていた。確かに術野は気 腹法に比べると狭小であるが、手術ができないほど の術野環境ではなく、一方でその欠点を十分に補っ て余りある利点を本法は有している。腹壁孔の大き さに関しては、当時は腹壁孔から指を挿入して結紮 するハンドアシストも本法の利点と考えていたた

1 吊り上げ法の種類

図1.

(3)

め、腹壁孔の大きさをあまり重視していなかったの は事実である。しかし、その後の手技向上により、

美容面を重視した 2.5 孔式および 1 孔式腹腔鏡手術

9)

へと術式が改良され、現在の 1.5 孔式腹腔鏡手術の 術式が確立された。1.5 孔式腹腔鏡手術は、これら 本法の欠点を十分に改善した新しい術式である。気 腹法を用いた腹腔鏡手術が周辺機器や器具の充実に より進歩していると同じように吊り上げ式手術も独 自に進化を続けていると考える。

4

) 教室における成績

吊り上げ式手術は、1993 年に最初の症例が行わ れて以来年々増加して 2006 年には年間約 400 例を 施行するに至った。その後 2009 年から症例数の漸 減を認めたが、これは 2009 年に気腹法を用いたロ ボット手術を導入したことによる(図 3)。これま での症例に関しては、1993 年から 2015 年までの間

に 5,309 例の吊り上げ式手術が行われ、このうち 47

例が開腹手術に移行した。その理由を見てみると、

観察後に開腹に移行した症例が 26 例(0.5%)と最 も多く、術中合併症( 0.19% )、悪性腫瘍( 0.17% ) によるものがそれに続く(表 1)。全体の開腹移行

率は 0.89% となるが、観察後の開腹移行例が全体

の 0.5% を占め、そのほとんどが導入時期の症例で

2 1993年開発当時の皮下鋼線吊り上げ法

皮下鋼線吊り上げ法

0 100 200 300 400 500

1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014

手術件数

年度 気腹法 吊り上げ法

図3.教室における腹腔鏡手術の症例数

3 教室における腹腔鏡手術の症例数

    1 開腹移行症例の内訳

   (1993年〜2015年: 東京医科大学院)

開腹移行理由 症例数 開腹移行率 (%)

観察後移行 26 0.50

悪性腫瘍 9 0.17

術野確保困難 1 0.02 術中合併症 10 0.19 術後合併症 1 0.02 開腹移行症数/総症例数 47/5,309 0.89 合併症による開腹移行率 11/5,309 0.21  *腹腔鏡手術では難しいと考えられた主に以前の症例

(4)

東 京 医 科 大 学 雑 誌

─180─ 第75巻 第2号

あり、その当時は腹腔鏡手術が困難と判断された重 症子宮内膜症例や間質部妊娠例であった。腹腔鏡手 術の続行が困難あるいは術後合併症により開腹に 至った症例は 11 例であり、その開腹移行率は 0.21%

であった。ちなみに、1.5 孔式腹腔鏡手術を導入後 の 2007 年以降は 2,762 例中 3 例のみが開腹に移行 しており、 0.11% と非常に低い開腹移行率を示して いる(図 4)。

現在、我々の行っている吊り上げ式手術は、短い learning curve を有し、安全性・操作性・経済性に優 れた術式であると確信しているが、本法はディス ポーザブル製品をほとんど使う必要がないことか

ら、企業のサポートが得られず、当教室にて独自に 進化を遂げた経緯がある。この意味では “1.5 孔式 腹腔鏡手術” は、いわゆるガラパゴス化した結果、

誕生した術式であると言える(図 5)。当教室では 後期研修医から上級医まですべての医局員が本法を マスターしているように、本法は長年改良を重ねた 結果、誰にでも容易に習得できる術式として確立さ れたと考える。

Second key point

『ロボット手術』

なぜロボット手術を始めたのか?

幸運にも当病院には高額な医療機器である da

Vinci がすでに設置されていたことが大きな理由で

ある。これは心臓外科が他に先駆けて導入したもの であった。当初は、細い血管や卵管の縫合など繊細 な操作に適していると聞いていたが、産婦人科領域 では体外受精・胚移植が一般診療化され、卵管縫合 の需要は少なくなっていたため、da Vinci の導入に は躊躇していた。しかし、2009 年頃から婦人科悪 性腫瘍への導入報告が相次ぎ、従来の腹腔鏡手術で は技術的に難度が高い子宮悪性腫瘍手術への応用が 指摘され始めた。その時点では、我が国の婦人科手

術への da Vinci 導入がなされていなかったが、その

5 1.5孔式腹腔鏡手術

4 吊り上げ式腹腔鏡手術の症例数と開腹移行症例数

0 100 200 300 400 500

0 2 3 5 6 8

1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014

症例数

年度

開腹移行症例数 全症例数

図5.吊り上げ式腹腔鏡手術の症例数と開腹移行症例数

吊 り 上 げ 法

医療機器企業

安全性・操作性・経済性 短 い 学習曲線

気腹法

図6.1.5孔式腹腔鏡手術

(5)

有用性に対する興味が未経験に対する心配を上回っ たことがもう一つの要因である。

1

) 我が国におけるロボット手術の導入の歴史 我が国においては世界の趨勢とは異なり、da

Vinci の医療機器としての認可がなかなか下りな

かったこともあり、その普及は諸外国に比べ大きな 遅れをとった。このためしばらくの間は個人輸入の 未承認機器として数か所の施設においてのみ使用さ れていた。しかし、2008 年 12 月に東京医科大学泌 尿器科が申請した前立腺癌の da Vinci を使用したロ ボット支援手術が初めて高度医療に承認され転機が 訪れた。引き続き 2009 年 11 月になり、da Vinci が 薬事承認を得て正式に医療機器としてジョンソン・

エンド・ジョンソンより販売されるようになり、

2012 年 4 月に泌尿器科においてロボット支援下前 立腺全摘術が保険収載され、泌尿器科を中心に急速 な普及が始まった。

2

) 婦人科におけるロボット手術

産婦人科におけるロボット手術は、2005 年米国 FDA において子宮筋腫核出術と子宮全摘術が承認 されたことに始まる。これによって米国では、泌尿 器科に追従するように多くの施設において婦人科疾 患に対するロボット手術が行われるようになった。

婦人科における適応は、良性・悪性を含めほとんど 全ての疾患に及ぶため、現在米国においては全ロ ボット手術症例数の約半数を婦人科疾患のロボット 手術が占めるようになっている。我が国においては、

我々が 2009 年 3 月に子宮全摘術に対して da Vinci を使用したのが最初の婦人科症例であり、その後 2010 年 11 月に鳥取大学、2011 年 6 月に名古屋大学 がそれぞれ開始し、現在までに全国で 30 以上の施 設がロボット手術を開始している。

3

) 

da Vinci

の婦人科特有の利点

da Vinci の利点としては、自然な奥行き感が得ら

れる 3D の拡大術野、自分の指先のように動かせる 自由度の高いた多関節鉗子、鉗子の手ブレ防止機能、

操作速度を downgrade できるモーションスケール機 能などがあり、腹腔内の複雑で細やかな手術手技が 可能となる。これらの機能は、特に深くて狭い場所 での操作や大血管周囲の繊細かつ正確な操作が必要 とされる婦人科悪性腫瘍に対しては有用性が高く、

広汎子宮全摘術や傍大動脈リンパ節郭清術などの際 には威力を発揮すると考えられる。また動きを制限 される術衣を着用することなく座って手術すること

ができるため、長時間手術においてもストレスを軽 減できる。一方、欠点に関しては、装置が高額、鉗 子の触覚がない、手術実施にライセンスが必要など 挙げられるが、そのほとんどは克服可能である。現 時点で最も深刻なのは、健康保険の適応がないため 手術費用が高額になってしまうことである。

4

) 教室における成績

当教室では、これまでに 327 例のロボット支援手 術を行ってきた。この内、子宮悪性腫瘍手術は 169 例であり、内訳は子宮体癌 95 例、子宮頸癌 74 例で ある。

子宮悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術は、早期子宮体 がんに対する術式(子宮全摘術+骨盤リンパ節廓清 術)以外は、保険収載の承認が得られていない。一 方、近年急速に普及してきた手術支援装置であるダ ヴィンチは、前述したように従来の腹腔鏡手術とは 異なり卓越した鉗子操作性を有する。我々は、この 点を鑑みて小骨盤底の奥深く狭い場所での操作が必 要とされる広汎子宮全摘術に利用することを念頭に おいてロボット手術の取り組みを行ってきた。ここ で、我々の初期のデータを紹介する。 2010 年 11 月 から 2016 年 7 月までにロボット支援下に広汎子宮 全摘出術を行った 33 例(ロボット群)について、

同時期に施行された 38 例の開腹子宮全摘出術をコ ントロール(開腹群)として比較検討を行った(表 2 )。平均年齢はロボット群が高く、平均 BMI はほ ぼ同等であった。組織型に関しては、扁平上皮癌と 腺癌の割合は両群とも同等であり、臨床進行期では いずれも IB1 期が最も多くを占めたが、ロボット群 にのみ IIB を認めた(18.2%)。ロボット群では、極 端な出血量の減量を認め、輸血症例はなかった。自

2 広汎子宮全摘出術における両群の症例背景比較

ロボット 開腹

症例数 33 38

平均年齢 50(31〜76) 40(26〜71)

平均BMI 21.3 23.3 組織型 扁平上皮癌 22 25

腺癌 11 13

臨床進行期 IA2 2 2

IB1 21 27

IB2 2 5

IIA 2 4

IIB 6 0

(6)

東 京 医 科 大 学 雑 誌

─182─ 第75巻 第2号

己血準備に関しては、ロボット群では初期の症例に のみ準備(6.1%)したが、開腹群(68.4%)とは異 なりその必要はなかった。両者の比較検討では、ロ ボット群は、開腹群に比べて有意な出血量の減少(6

分の 1)、入院日数の短縮(4.8 分の 1)、合併症の減

少(18.4% から 9.1%)を認めた。一方で、手術時 間の延長(平均 116 分)、摘出リンパ節個数減少(平 均 51 個から 36 個)を認めた。また、自己導尿期間 に関しても、開腹群に比べ良好な結果を得ており、

再発に関しては開腹群とほぼ同等の結果であった

(表 3、4)。出血量の減少と入院日数短縮は、既に

報告されている海外の報告

10)11)

と同様の結果であっ た。合併症に関してもロボット群は、既知の報告と 同様

12)13)

に開腹群に比べ減少を示した。手術時間

に関しては開腹群に比べ延長を示したが、症例数が まだ 33 例と少ないので、ロボット手術の短い学習 曲線から考えると今後症例数の増加に伴い短縮が期 待される。摘出リンパ節個数に関しては、これまで の文献ではロボット手術と開腹手術では同等である ことが示されており、個数的にも 20〜40 個程度が 一般的と報告されている

14)

。これよりロボット群の 摘出個数は開腹群に比べ減少を示したが、常識的範 疇の個数と考えられた。今回開腹群の個数が通常よ り著明に多かったことに関しては、術者間による相 違が推測された。

5

) 婦人科ロボット手術の先進医療承認

我が国においてロボット手術の保険収載は、泌尿 器科においてのみ承認されている。このため、婦人

3 広汎子宮全摘出術における両群のdata比較

ロボット 開腹 p

平均手術時間 (min) 420 304  0.05 平均コンソール時間 (min) 354

平均出血量 (ml) 156 994 < 0.001       他家血   0 1 (2.6%)

輸血 (%)

        自己血   2 (6.1%) 26 (68.4%)

平均リンパ節摘出個数 36 51 < 0.001 平均入院日数(日) 6.5 31.3 < 0.001

合併症 (%) 3 (9.1%) 7 (18.4%)

自己導尿 3か月以上の症例数 (%) 2 (6.1%) 8 (21.1%)

観察期間(月) 32 (10〜73) 21 (1〜39)

再発 (%) 4 (12.1%) 5 (13.2%)

4 両群の術後合併症発生率比較

Clavien-Dindo分類

GradeII以上の合併症 ロボット手術(n=33) 開腹手術(n=38)

イレウス 0(0.0) 3(7.9)

尿路系障害 2(6.1) 0(0.0)

骨盤内感染 0(0.0) 1(2.6)

リンパ嚢胞 0(0.0) 1(2.6)

下肢静脈血栓 0(0.0) 1(2.6)

下肢浮腫 0(0.0) 1(2.6)

創部離開 0(0.0) 0(0.0)

その他 1(3.0) 0(0.0)

総  数 3(9.1) 7(18.4)

  合併症数(%)

(7)

科領域におけるロボット手術の普及は滞っているの が現状である。そこで我々は、将来の婦人科疾患に おけるロボット手術の保険収載を目指して、前述の ように先進医療導入を進めてきた。その結果、平成 28 年 4 月 1 日よりロボット支援下広汎子宮全摘術

(先進医療技術名 : 子宮頸がんの内視鏡下手術用ロ ボットを用いた腹腔鏡下広汎子宮全摘術)が先進医 療 B の承認を得た。対象は、子宮頸がん(FIGO に よる臨床進行期分類が 1B 期以上および IIB 期以下 の扁平上皮がん又は FIGO による臨床進行期分類が 1A2 期以上および IIB 期以下の腺がんであって、リ ンパ節転移および腹腔内臓器に転移していないもの に限る。)で、本先進医療を施行するにあたり以下 の付加条件がある。施設条件は、da Vinci を導入し て 1 年以上経過し、 da Vinci を用いた子宮悪性腫瘍 手術を 10 件以上施行している施設と定められてい る。術者条件としては、当該手術を 5 例以上経験し ていることが必須条件となる。この他にがん拠点病 院であること、産婦人科と麻酔科に当直体制を持つ 施設であるなどの条件が付く。今回の先進医療の試 験デザインは多施設共同非盲検単群臨床試験であ り、ヒストリカルコントロールである開腹の広汎子 宮全摘術との比較対照試験である。主要評価項目は、

出血少量手術成功(切除断端陰性)であり、1 年 6 か月の期間に 100 症例の被験者数を設定している。

Third key word

my opinion :

よりやさしい低侵襲手術とは?』

最初の腹腔鏡手技は、1902 年に Kelling が犬を用 いて行い、その後 1910 年に Jacobaeus が初めて人 間に行ったと報告

15)

されている。1960 年になり、

後に体外受精・胚移植を最初に成功させた Steptoe により滅菌の環境下での腹腔鏡手技が始められ

16)

、 1982 年に硬性腹腔鏡の導入がなされた。その後、

腹腔鏡は主に検査の目的で使用されていたが、1987

年になり Mouret が胆嚢摘出術にビデオモニターを

用いた腹腔鏡手術を導入

1)

したことにより外科領域 における腹腔鏡手術の急速な普及が始まった。これ は、術者が内視鏡を把持して直接覗きながら行って いたそれまでの腹腔鏡手術とは異なり、ビデオモニ ターの使用により術者は両手を使って手術を行える ようになり、さらに皆で術野を共有することができ る画期的な手術法であった。

我が国においても、1990 年に入り腹腔鏡を用い

た胆嚢摘出術の急速な導入が始まり 1996 年には腹 腔鏡手術の比率が全体の 80% に達した(図 6 )。婦 人科における腹腔鏡手術の導入は、数年遅れはした ものの外科と同様に急速に始まった。しかし、術式 によってその普及は異なる傾向を示し、卵巣嚢腫摘 出術(80.7%)や異所性妊娠手術(70.2%)など比 較的簡単な術式は、胆嚢摘出術と同様の普及を示し たが、やや難度の高い子宮筋腫核出術(61.9%)や 子宮全摘術(26.1%)については、腹腔鏡手術の伸 びが少ない傾向を示した(図 7)(図 8)。また悪性 腫瘍に関しては、未だほとんどが開腹手術で行われ ているのが現状である。

腹腔鏡手術は、開腹手術に比べ侵襲や術後癒着の 点で優位であるのは間違いないが、手技の難度は高 い。この点が、手技の難しい手術において腹腔鏡手 術が開腹手術に取って代わるのを遅らせる一つの要 因となっている。ここで、Mouret により示された 手術手技の侵襲度と難度の関連性ついてのグラフ

17)

を示す。縦軸に侵襲度、横軸に難度を表した場合、

図10.胆嚢摘出術の術式比率

内視鏡外科手術に関するアンケート調査.日鏡外会誌 19:503、2014

6 胆嚢摘出術の術式比率

図11.同一術式での腹腔鏡手術の占める割合の変化

開腹手術、腹腔鏡下手術およびロボット支援下手術の割合に関する全国調査(2012年度) 産婦人科手術 25:140、2014

7 同一術式での腹腔鏡手術の占める割合の変化

(8)

東 京 医 科 大 学 雑 誌

─184─ 第75巻 第2号

の合併症を引き起こし易くなる。それゆえ術者は自 身の技量を十分理解して手術に臨むことが大切であ る。一方で昨今の腹腔鏡手術は、急速に進歩し新し い技術の導入がなされている。これらは、単孔式で 代表される reduced port surgery、Notes、ロボット手 術などであるが、前者の二つと後者は、術式に対す る考え方が根本的に異なる。前者は、従来の腹腔鏡 手術に比べ手技の難度が高く究極の腹腔鏡手術を求 めた手術法である。一方で後者は、手技の難度を下 げるためにロボットという装置を利用した手術法で ある。術者を寿司職人に例えるならば、前者は達人 の寿司職人、後者は寿司ロボットを目指すようなイ メージとなる。

Fourth key word

『よりやさしい腹腔鏡手術』

これまでの経験から、低侵襲手術をよりやさしく 行う上で最も重要とされることは、短い learning 一般に手術では難度が増すに従い侵襲度も増加す

る。例えば難度が低く易しい手術では、腹腔鏡手術 は開腹手術に比べ明らかに侵襲度が低い。しかし難 度が高くなるにつれその侵襲度は開腹手術の侵襲度 を超えてしまう(図 9)。ここでの侵襲度は、合併 症などを含めた手術全体のことを意味する。同じ難 度で腹腔鏡手術の侵襲度が開腹手術の下にあれば、

腹腔鏡手術はメリットがあるが上になってしまえば メリットはなくなり逆にデメリットとなる。しかし この関係は、術者の手術技量に寄与するところが大 きい。侵襲度を示す曲線の立ち上がりが、初心者は 早く熟練者は遅い(図 10)。つまり、腹腔鏡手術の 達人になればなるほど開腹手術と比べ侵襲度は低く 抑えられるが、初心者では手術が難しくなれば、開 腹と同様の手術を行うことができなくなり何かしら

開腹手術、腹腔鏡下手術およびロボット支援下手術の割合に関する全国調査(2012年度) . 産婦人科手術 25:140、2014

9 手術における難度と侵襲度の関係

8 単純子宮全摘術での各術式の占める割合の変化

図13.手術における難度と侵襲度の関係

1 2 3

難度 侵襲度

開腹手術 腹腔鏡手術

merit

no merit

図14.手術における難度と侵襲度の関係

難度 侵襲度

1 2 3 1 2 3

熟練 した 専門医 見習 い 研修医

開腹手術 開腹手術

10 手術における難度と侵襲度の関係

(9)

curve、優れた鉗子操作性、学びやすい環境、標準 的術式の確立などであると考える。従来の腹腔鏡手 術は、技術習得のゴールが遠く一人前になるには多 くの修練と絶え間ない努力が必要である。一方、吊 り上げ式手術とロボット手術は、従来の腹腔鏡手術 に比べそのゴールが近い(図 11)。これは、これら の術式がいずれも習得しやすい、所謂 “よりやさし い腹腔鏡手術” であるに他ならない。

一般に手術は、その疾患(例えば良性腫瘍と悪性 腫瘍)によって手技の難易度が異なる。故に手術の

難易度に関わらず対応できる術者になるのが理想で あるが、術者によりスキル(技量)の違いができて しまうのは仕方がないことである。これを是正する ために、術式の確立、トレーニング方法の確立、

energy device など優れた周辺機器の開発が術者のス

キルアップに寄与するのは間違いない。しかし、す べての修練者に対し十分であるかといえば難しい

(図 12 )。この点において、難易度の高い技術を、

安全性や技術の quality を担保しつつ容易に習得で きる方法があれば、受ける側(患者)だけでなく行 う側(術者)にとっても大きな価値を見出す事がで きると考える。

お わ り に

我々は、腹腔鏡手術の導入初期に気腹による重篤 な合併症を経験したことを契機に、より安全性に優 れた腹腔鏡手術を求めて試行錯誤した結果、腹壁吊 り上げ法に辿り着いた。その後長年にわたり改良を 重ね、基本形の 3 孔式から 1 孔式を経て現在の 1.5 孔式腹腔鏡手術の確立に至り、その副産物として小 切開創手術が誕生している。そして腹壁吊り上げ法 導入から 20 数年の年月を経て、ロボット手術との 衝撃的な出会いを迎える。これら二つの方法は、経 済性の面からは両極端であるが、learning curve が非

11 各術式のGoalの違い

Goal

Goal

ロボット手術

腹腔鏡手術

吊り上げ式腹腔鏡手術

エナジーデバイス

手技の難度 高い

低い

良性腫瘍 悪性腫瘍

低い

初心者 達人

高い

研修方法 術式

術者の技量 図16.手技の難度と術者のスキルの関係

12 手技の難度と術者のスキルの関係

(10)

東 京 医 科 大 学 雑 誌

─186─ 第75巻 第2号

常に短いことに関しては、相容れるものがある。腹 腔鏡手術を学ぶ術者には、勿論、安全性と完成度を 担保した上での話であるが、二通りのタイプあると 考える。前者は、日々鍛錬することにより高難度の 手技を会得し、さらにレベルの高い技術習得を目指 す術者であり、後者は、誰にでも容易に行えるよう な手技の開発を目指す術者である。不肖私は、後者 に属し、易しい手技ゆえに術者に優しい手術を目指 してきた。腹腔鏡手術を始めて以来、患者と術者の 両者に優しい手術をめざして邁進してきたが、その 過程で吊り上げ式手術とロボット手術に巡り会えた ことは、私の手術人生の中で最も幸運なことであり、

この技術を Standardization して次世代に継承するこ とも自身の役目と考えている。

文   献

1) Litynski GS : Mouret, Dubois, and Perissat : The Laparoscopic Breakthrough in Europe (1987-1988). JSLS 3(2): 163-167, 1999

2) Nagai H, Inaba T, Kamiya S : A new method of lapa- roscopic cholecystectomy. An abdominal wall lift- ing technique without pneumoperitoneum. Abstract Surg laparosc Endosc 1: 126, 1991

3) Hashimoto D, Nayeem SA, Kajiwara S, Hoshino T : Laparoscopic cholecystectomy : an approach without pneumoperitoneum. Sur Endosc 7: 54-56, 1993 4) Gazayerli MM : The Gazayerli endoscopic retractor

model 1. Surg Laparosc Endosc 1: 98-100, 1991 5) Newman L 3rd, Luke JP, Ruben DM, Eubanks S :

Laparoscopic herniorrhaphy without pneumoperito- neum. Surg Laparosc Endosc 3: 213-215, 1993 6) 中嶋章子、井坂恵一、小川俊隆、小杉好紀、輿

石 真、高田淳子、高山雅臣: 皮下鋼線吊り上 げ方式を使用した婦人科腹腔鏡下手術について。

日産婦誌46: 919-920, 1994

7) 井坂恵一、中嶋章子、保坂 真、小杉好紀、小 川俊隆、高山雅臣: 臍下正中皮下鋼線吊り上げ 法(TMC方式)の操作とその経済性。産婦人科

の実際 44(6): 735-740, 1995

8) 井坂恵一、中嶋章子、小川俊隆、保坂 真、小 杉好紀、鈴木良知、輿石 真、高山雅臣: 我々 が開発した皮下一点吊り上げ法の人科腹腔鏡下 手術における有用性。日産婦誌 48: 53-60, 1996 9) 中山大栄、伊東宏絵、仲地紀智、高橋千絵、長

壁由美、糸数 修、杉山里英、赤枝朋嘉、藤東 淳也、井坂恵一: 皮下鋼線吊り上げ法を用いた 1孔式腹腔鏡下手術。日産婦内視鏡誌21: 82, 10) Sert B, et al : A Robotic radical hysterectomy in 2005 early-stage cervical carcinoma patients, comparing results with total laparoscopic radical hysterectomy cases. The future is now? Int J Med Robot 3(3): 224-228, 2007

11) Nezhat FR, et al : Robotic radical hysterectomy ver- sus total laparoscopic radical hysterectomy with pel- vic lymphadenectomy for treatment of early cervical cancer. JSLS 12(3): 227-237, 2008

12) Rocconi RP, et al : Evaluation of the learning curve of total robotic hysterectomy with or without lymph- adenectomy for a gynecologic oncology service. J Robotic Surg 5: 189-193, 2011

13) Estape R, et al : A case matched analysis of robotic radical hysterectomy with lymphadenectomy com- pared with laparoscopy and laparotomy. Gynecol Oncol 113(3): 357-361, 2009

14) Bogani G, et al : Predictors of postoperative morbid- ity after laparoscopic versus open radical hysterec- tomy plus external beam radiotherapy : a propensity- matched comparison. J Surg Oncol 110(7): 893- 898, 2014

15) Litynski GS : Laparoscopy-the early attempts : spotlighting Georg Kelling and Hans Christian Jacobaeus. JSLS 1(1): 83-85, 1997

16) Steptoe PC : GYNECOLOGICAL ENDOSCOPY - LAPAROSCOPY AND CULDOSCOPY. J Obstet Gynaecol Commonw 72: 535-543, 1965

17) Mouret P : Laparoscopy : Another means to see in surgery Another means to appraise surgery. Com- memorative lecture at twenty eighth Honda Prize Awarding Ceremony on the 19th November 2007

参照

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