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英語・国際俳句の真髄に迫る

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Academic year: 2021

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英語・国際俳句の真髄に迫る

マクマレイ・デビッド

  海士の屋は小海老にまじるいとど哉

はじめに

 元禄

年(

1690

年)秋に松尾芭蕉が近江の堅田で読んだ句です。「いとど」

とは、コオロギに似た、羽がなくジャンプ力に優れている「カマドウマ」のこ とです。この句は、目に触れたものを即興的に詠む「嘱目吟」と呼ばれるもの で、海士の貧しい家に入ったとき、獲りたての小海老の籠の中にカマドウマも 一緒になって飛び跳ねているという光景を表現した「軽み(身近な題材の本質 に深く迫りながらも、表現はあくまでもシンプルにさらりとしている芭蕉晩年 の俳諧理念)」の代表作の一つです。

1.背景

 この度、国際俳句プロジェクトを実施する愛知県立大学文字文化財研究所よ りご招待いただき、愛知県を訪問することになりました。今回の訪問の大きな 目的は、「英語俳句」の真髄に迫り、講演に参加してくださる方々が国際俳句 の魅力を更に感じていただけるようなワークショップを実施することでした。

本稿は今回の講演を回想し、今後の国際俳句の展望について考察していきます。

即位礼正殿の儀に伴い国民の祝日となった2019年10月22日㈫、幸いにも秋晴 れに恵まれ、とても良い俳句日和となりました。大学キャンパスに到着後、芭 蕉の茶室を彷彿とさせる研究センターを訪問しました。文字文化財研究所の先

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図1.晴天に恵まれた当日の会場(マクマレイ、2019a)

生は俳句と環境についてのトピックに非常に関心を寄せていらっしゃいまし た。そして井戸先生に、地球温暖化と俳句の関係についての研究論文をお渡し いたしました。カナダや鹿児島についての話、そして俳句と気候変動について の話に花が咲きました。先生方や今回の講演をサポートして下さいました2名 の大学職員の方々とお話しをする中で会話に花を添えてくれたのが、その場で いただいた緑茶と京都の上生菓子、「エビ」の入ったお弁当でした。この雰囲 気、そしてまわりにあるものすべてが、私に「日本の俳句のはじまり」を思い 出させてくれました。

 「日本の俳句のはじまり」にかかわる重要人物は、松尾芭蕉の二人の弟子で ある向井去来と野沢凡兆です。二人の弟子は、芭蕉が詠んだ俳句から蕉門の最 高峰の句集『猿蓑(さるみの)』撰を編集し、そして元禄

年(1691年)

月 には芭蕉が京都に滞在し、『猿蓑』撰の監修を行いました。編集中の出来事で、

この句か「病雁の夜寒に落ちて旅寝哉」のどちらを入集するか決めるとき、凡 兆は、「格別際立った新鮮さを感じさせる句だ」と述べたのに対し、去来は「そ の句は興味深いものであるが、海士の屋の景色を思わせるならば、私でも詠め

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るだろう。病雁の句こそ格が高く趣深い句だ」と反論しました。どちらを入集 するかなかなか決まらず、最終的に両方入集したというエピソードがあります。

さて、世界的なミリオンセラー『優雅なハリネズミ』の作者で、京都在住のフ ランス人作家ミュリエル・バルベリさんも俳句愛好家です。この小説の主人公 であり、日本的なものが好きな12歳の天才少女パロマは、芭蕉の「海士の屋 は……」の句がいちばん好きと言い、日記を俳句や短歌で表現しようと試みま す。この小説で最初にでてくるパロマの句

  Follow the stars   

In the goldfish bowl

  An end

は、世間とのかかわりを絶ちたいと思っているからか、どこか悲しさを感じさ せます。

2.方法

 最近の俳句研究に関する2時間近くの講演と、ワークショップを開催しまし た。同日、高校生向けオープンキャンパスも実施されていました。俳句のイベ ントに参加していた高校生たちは驚くほど英語が堪能でした。久冨木原学長に もご出席いただき、大変光栄に思います。

2.1 口コミからはじまり、世界的な俳句

 俳句は明治時代に翻訳され海外に紹介されましたが、本格的に世界中に広 まったのは第二次世界大戦後です。今では、英語以外に、フランス語やロシア 語等、様々な言語で詠まれています。俳句が世界中に広まり、支持を得ている 要因は色々あります。しかし、前出の芭蕉の二人の弟子が、『猿蓑』の編集の ため一句一句を深く読み解き、そしてどの俳句を入集させるか吟味し、さらに 文学的芸術に高い品質を持った作品に仕上げたことによって、俳句は「世界一 短い詩」として世界中の人々を楽しませ、魅了し続けていると言えるのではな いでしょうか。

(4)

2.2 俳句のワークショップ

 俳句のワークショップでは、

36

名の参加者が

つのテーブルに分かれて行 われました。高校生から、大学生、大学院生、一般の方々と、多様な方々が集 う良いイベントになりました。参加された方の中には、英語俳句に通じてい らっしゃる方、英語俳句に初めて触れられた方など、多様な方々にお集まりい ただき本当に良かったと思っています。参加者の中には、朝日カルチャーセン ター英語俳句コースの受講者もいらっしゃいました。さらに、愛知県在住で朝 日新聞の朝日俳句コラムに俳句を投稿している方々も今回のイベントに参加 し、積極的に俳句を詠んでくださいました。

3. 観察「もっと楽しむ英語俳句の世界(実践・スキルアップ編)」

について

 参加者は講義とワークショップの前に俳句作品を提出することを課題として 与えられました。課題は、鹿児島の仙巌園で行われた菊まつりの写真が1枚提 供され、それを見て菊と友達をテーマに書いてもらいました(付録

参照)。

これは国際的な課題としても取り扱われ、

43

の写真俳句がアメリカ、中国、

および日本の俳句愛好家から寄せられました。優秀な俳句は、2019年10月

18

日の朝日新聞に掲載されました(付録

参照)。

3.1 「日本人と西洋人の写真俳句の比較研究」について

 愛知県立大学での俳句プロジェクトワークショップの前に参加者に俳句を提 出してもらうという手法は、日本各地の大学での俳句コンテストと俳句討論会 開催の影響を受けています。そして全世界から投稿された俳句をマクマレイが 審査します。例えば、マクマレイ(

2019b

)が行った研究は、着眼点における 感受性を観察したものです。つまり、写真俳句における日本人と西洋人の着眼 点の違いについての比較研究です。この研究では、4,060名が写真を見ながら 俳句を作りました。研究の結果、日本人の俳句は写真の全体を取り上げている

(5)

こと、アメリカ人の俳句は、特徴的な部分を取り上げていることが分かりまし た。その要因として、文化の違いがあると考えています。

3.2 俳句の選考基準について

 私は講演を開催して「前アメリカ大使キャロライン・ケネディは俳句が好き です」という挨拶から始めました。俳句の審査にはいろいろな方法がありま す。例えば、鹿児島国際大学で2014年に行われた国際俳句コンテストのため 来学され、審査員を務めたキャロライン・ケネディ前駐日米国大使も俳句の愛 好家です。しかし、彼女は俳句の審査員としてではなく、聴衆として俳句を楽 しむ方を好まれました。そして、彼女は「もしあなたがその俳句が好きなら ば、その俳句はよい俳句だといえます。その好きな俳句がよい俳句であるか、

そうでないかを決める必要はありません」と述べられました。

3.3 「伊藤園お~いお茶新俳句大賞」について

 他の大会では厳しい審査が行われることもあります。私は来日してから多く の俳句コンテストの審査員を務めており、伊藤園主催「伊藤園お〜いお茶新俳 句大賞」の英語俳句一次審査員もその一つです。英語俳句の部への応募総数は、

2016

17,825

句、

2017

18,248

句、

2018

20,815

句、 そ し て

2019

25,860

句 と年々増えています。応募数が多くなればなるほど、審査にかかる時間も長く 厳しくなります。今回は約

400

時間かかりました。

2020

年も写真俳句の審査か らスタートします。私はこれらの写真俳句を研究しようと思います。

3.4 「第7回日露俳句コンテスト」について

 秋田国際俳句・川柳・短歌ネットワーク主催で、第7回日露俳句コンテスト が行われました。同コンテストは、寄せられた優秀な句をインターネット上で 共有し、異文化を持つ人々の間で相互理解を深め、世界平和の実現の一助を目 的として開催されており、日本語はもちろん、英語、ロシア語でも応募が可能 です。2019年度の同コンテスト英語部門には

407句の英語俳句が寄せられ、国

際教養大学学長賞にはインド出身の留学生、ミナル・サーロッシュの俳句が選

(6)

ばれました。

  waves of people … 人の波……

  

a child wails for her parents

子供が両親を求めて泣き叫んでいる   border fences shake 国境のフェンスが揺れる

 次に、今回入選を果たした学生は、鹿児島国際大学でオーラル・コミュニ ケーションを受講していました。この授業では、学生が英語俳句の理解を深め られるよう、授業の一環として英語俳句を作成させ、英語俳句コンテストに応 募する機会が設けられています。学生たちは、英語俳句の第一人者である教授 から英語俳句についての知識を学び、ティーチング・アシスタントの補助を受 け、試行錯誤しながら実際に頭の中で描いた情景を表す英語俳句を作成しまし た。この活動を通し、学生たちは創造力豊かな英語力を習得し、入選を果たし ました。それでは、入選した学生の英語俳句を紹介します。

 岩元涼夏(国際文化学科

年)は、「美しい桜島ですが、鹿児島では桜島の 灰が降ると窓が開けられず、鬱陶しく感じます。そんな鹿児島の日常生活を俳 句にしてみました」と述べました。

  

A hot day

  falling volcanic ash wave   

I opened a window

  暑き日に 窓を開けたるも 火山灰の波

 江崎未侑(国際文化学科

年)は、「私の好きなヒグラシの鳴き声で目覚め る気持ちのいい朝をうまく俳句で表現できました」と述べました。

  Higurashi cicadas   

wake me up

  cool before dawn

  蜩が私の目を覚まし 涼しくする 夜明け前

(7)

 井上吉祥(国際文化学科

年)は、「梅雨時は心も波のように移り変わりや すいので、それを梅雨にたとえて俳句を作りました」と述べました。

  

In the rainy season

  your heart also   wave pattern

  五月雨に 君の心も 波模様

 日露俳句コンテストで国際文化学科の学生が作った英語俳句が、ロシアと親 交を深めるきっかけとなりました。

3.5 ディベートを通して俳句学ぶ

 愛知県立大学、高校、大学、地域住民の参加者とのワークショップで、俳句 の評価を求められました。生徒に良い俳句を作らせる1つの方法は、生徒たち 自身に俳句を詠んでもらい、好きな俳句を自分たちで決めさせることです。こ れをさらに積極的に行わせるために、生徒はグループで自分のお気に入りにつ いて話し合いをします。この活動は、全クラスディベートへと発展しました。

 例えば、鹿児島高等学校でディベートスタイルの形で俳句を題とした「俳句 甲子園」を実施しました。「俳句甲子園」とは、

人でグループを作り、日本 人が作った俳句を英語に翻訳したものと、外国人が作った俳句を用意し、日本 俳句チームと国際俳句チームでディベートを行うというものです。このディ ベートに挑戦したのは、

32

名の高校

年生でした。

 授業では、日本の俳句・国際俳句それぞれの魅力についてマクマレイ研究ゼ ミの学生がプレゼンテーションを行い、高校生の理解を深めさせました。学習 者の英語力不足を補助しつつ国際俳句力や論理的思考力も定着させるために も、生徒のレベルに応じた過程を経てディスカッションまたはディベートの形 にする必要がありました。その後

つのグループに分かれ、それぞれのグルー プで俳句を1つ選び、日本俳句チーム対国際俳句チームでディベートを3回ず つ行いました。例えば、外国人のミナル・サーロッシュの俳句を使って、学生 たちはディベートを行い、競い合いました。上記の俳句をご覧ください。

(8)

ティーチング・アシスタントの補助のもと、井上吉祥さんの俳句を詠みまし た。「In the rainy season your heart also wave pattern」と学生は競い合いました。

 まず、

人目が自分のチームの俳句を詠み、

人目は相手チームに質問、

人目は質問に対して答え、4人目でまとめるという流れでディベートを進めま した。英語俳句にあまり馴染みのない高校生は、初めは短い文の中に込められ た情景を想像することに苦戦していたようですが、マクマレイ研究ゼミ学生の サポートにより英語俳句の理解に進んで取り組んでいました。普段の授業中に 友達と話す機会が少ない高校生は、ディベートに楽しそうに取り組んでおり、

生徒たちは賑やかでした。また、小グループでのディベートだったので、生徒 全員が英語を口にする機会がありました。一方、ディベートはディスカッショ ンに比べ、意見を考えてまとめる時間が少ないため、言葉に詰まる生徒もいま した。高校生においてはディベートの方がディスカッションより難易度が高い ように見受けられました。

4.結果

 「国際

HAIKU

プロジェクト:世界文学としての

HAIKU

もっと楽しむ英語俳

句の世界(実践・スキルアップ編)」で私の研究について説明し、有益なワー クショップを実施することができました。特に大学院生は、私が述べた俳句の ことをより深く理解していたと確信しています。そのワークショップの参加学 生は俳句の研究にさらに興味を持っているようで、彼らに私の俳句と気候変動 の論文をお渡しすることができて良かったです。そして、今後は多くの学生が 俳句を詠んだり、書いたり、互いに評価しあい、最終的に俳句の本を出版して くれることを望んでいます。前アメリカ大使キャロライン・ケネディは「もし その俳句が好きなら、それはよい俳句である」と、俳句を判定することを避け ました。つまり、それがよい俳句かそうでないかを決める必要はないと述べら れたということを心に留めておくことが必要です。講習参加者の年齢層が幅広 く意欲的なので、英語俳句の繁栄がこれから期待できると思います。

 私の夢は、座卓で少しずつお茶を飲みながら、ゆっくりと声に出して俳句を

(9)

詠み、ほかの委員会のメンバーたちと一緒に俳句を審査するという伝統的な方 法で俳句の審査に参加することです。

 当日は、貴学の充実した設備とサポートにより、安心して講習を行うことが できました。俳句のワークショップでは、久冨木原学長にもご出席いただき、

大変光栄に思っております。このような貴重な機会をいただけましたことに、

改めて感謝申し上げます。私もこれまで以上に写真俳句に関する研究を進めて いきたいと考えております。

5.おわりに

 講習とワークショップの最後に大塚英二学部長からご挨拶いただき、大変光 栄に思います。井戸先生は「短い時間ではございましたが、たいへん良いひと 時を過ごさせていただきました。ぜひ愛知県立大学にお越しください。」と おっしゃってくださいました。愛知県立大学は、地域社会への貢献や生涯学習 に向けた取組の一つとして、これまでに蓄積された研究成果を広く社会に還元 するため、以上のとおりミニ公開講座を開催されました。また、久冨木原学長 からは学長の研究論文(『ブラジルにおけるハイカイ研究の現在─日本文化の 受容・展開の一様相─』)を頂戴しました(

2018a, b

)。私もより一層写真俳句 に関する研究に邁進していきたいと考えております(付録3参照)。

(付録1)

 事前に写真を見て俳句を作り、投稿してもらった(お題は「菊

“chrysanthemum”」

)。

また、

10/22

当日のワークショップではグループごとに俳句を作ってもらうこ

ととし、お題は「菊の友

“chrysanthemum friends”」とした。

(10)

写真は、鹿児島県にある薩摩藩主島津氏の別邸跡(仙巌園)とその庭園(マク マレイ研究室提供)

(付録2)

ASAHI HAIKUIST NETWORK/ David McMurray October 18, 2019

       (Mitsuaki Kojima)

http://www.asahi.com/ajw/articles/AJ201910180007.html

A chrysanthemum smiling, wavering, silvern in a sake glass

̶

Miyazaki Masumi (Nagoya)

(11)

* * *

Transient beauty chrysanthemum dolls in full bloom

̶

Taduko Oshima (Aichi Prefecture)

* * *

Silence turns into bright chrysanthemums on two friends

̶

Aya Kato (Togo, Aichi Prefecture)

* * *

(付録3)

 俳号マック。朝日カルチャーセンター通信講座「英語で俳句を楽しもう」担 当。鹿児島国際大学国際文化学部教授「国際俳句」担当。査読学術論文に「日 本人と西洋人の写真俳句の比較研究」「大統領の俳句」「気候変化が俳句を変え る」など。

1995

年から

週間に一度更新されている「朝日新聞・朝日ハイク イスト」俳句コーナー主宰者。俳句の提出はメールで受け付けています。

[email protected]

参考文献

久冨木原玲.(2018a).「ブラジルにおけるハイカイ研究の現在─日本文化の受容・展開の一様 相─」.愛知県立大学日本文化学部論集(9)128‒187.

久冨木原玲.(2018b).「ブラジル・アマゾンにおけるハイカイ集『百枚の花びらの菊』─

1985年アマゾナス州マナウス市発行─」.愛知県立大学文字文化財研究所紀要(4)176‒197.

マクマレイ・デビッド.(2019a).「愛知県立大学主催「国際HAIKUプロジェクト」に参加し て」.鹿児島国際大学国際文化学部 国際文化学科研究室だより.国際文化学科掲載ペー ジ https://intercultural.iuk-plus.net/?p=411(取得2019年10月31日)

マクマレイ・デビッド.(2019b).「日本人と西洋人の写真俳句の比較研究」.鹿児島国際大学 大学院学術論集(11)31‒40.

参照

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