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中学校理科における巻貝を教材とした環境教育

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Academic year: 2021

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熊本大学教育学部紀要,自然科学 第58号,1-6,2009

中学校理科における巻貝を教材とした環境教育

島田秀昭

EnvironmentalEducationUsingRockShells inLowerSecondarySchoolScience

HideakiSHIMADA

(ReceivedOctoberL2009)

TheusefUlnessofrockshellsasateachingmaterialfOrenvironmentaleducationwasinvestigatedinlower secondaryschoolscience、TheresultsindicatedthatthepracticeusingrockshellsisusefUlfOrenvironmental educationlnthispaper,severalinfOrmationfOrthepractice,includingthesuitableperiodandpointsfbr collectionofrockshellsintheKumamotocoastalwaters,howtodistinctthesexofrocksheUs,andhowto examinetheimposexareintroduced.

KeyWOrds:environmentaleducation,teachingmaterial,rockshelLenvironmentalhormone

討してきた.その結果,イポニシのインポセックスを 調べる実験は,試料採取が容易なことや,異常が肉眼 で観察できることに加え,高度な技術や特殊な器具を 必要としないことなどから,環境教育教材として適し ていると考えられた.実際,小・中学校や自然体験学 習会などにおいて行った授業実践では,多くの児童・

生徒がイポニシを用いた実験に強い興味・関心を示し た3-'0).ざらにこの実験を通して児童・生徒は,化 学物質による海洋汚染を身近な問題として認識し自 然保護の意識が高まった様子が見られたことからイ ポニシは環境教育を行う上で有用な教材であることが わかった3-'0).

そこで今回は,これまで蓄積したデータをもとに,

熊本県の中学校理科の教師がイポニシを用いた環境教 育を実践する上で必要となる情報,すなわち実験試料 に関することや,授業の展開並びに実験上の留意点な どについて解説する

はじめに

中学校理科第2分野における「自然と人間」の学習 では,「自然環境を調べ,自然界における生物相互の 関係や自然界のつり合いについて理解させるとともに 自然と人間のかかわり方について認識を深め,自然環 境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に 考察し判断する態度を養う」ことを目的としている'し この目的を達成させるためには,身近な自然を学習材 料とする探求的な調査や実験等を行い,生徒の自然に 対する興味・関心を高めることが重要であると考えら れ,これにより環境保全に対する知力および行動力を 育成できるものと思われる.

環境汚染物質の一つである有機スズ化合物は,海洋 に生息するイポニシなどの巻貝に作用し,雌に雄の生 殖器が形成されるインポセックスと呼ばれる生殖異常 を引き起こすことが知られている21.本化合物は,

1960年代の半ばから船底防汚塗料や魚網防汚剤など として広く世界中で使用されてきたが,海洋環境への 負荷が大きいことから,現在では多くの国でその製造 および使用が規制されている.しかし’990年から 1996年にかけて日本各地の沿岸において行われた調 査結果によると,インポセックスを発現したイポニシ は調査された97地点のうち94地点で観察され,深刻 な汚染の実態が明らかになった2).

これまで我々は,熊本県沿岸におけるイボニシの生 殖異常の調査と並行して,小学生や中学生を対象とし た環境教育教材としてのイポニシの有用性について検

実験材料

l)イポニシの採取時期と保存

イポニシは,アクキガイ科に属する肉食性の巻貝の 一つである(図1).本巻貝は,カキやフジツボ類が 付着する岩場,船着場およびコンクリート製の護岸な

どで一年を通して容易に採取できる.しかし,実験に

用いるイボニシは,雌雄の判別が容易となる産卵期に

採取しておく必要があるこの理由として,産卵期を

迎えた雌のイポニシは,生殖腺の色が鮮やかな黄色を

(1)

(2)

島田秀昭

示し中学生でも簡単に雌雄を判別することが可能な ためである産卵期以外の時期では,雌雄の半|」別は極 めて困難である

3月6日 3月20日 4月3日 4月16日 5月1日 5月15日 5月29日 6月12日 6月27日 7月10日 7月26日 8月16日 8月21日 9月4日 9月17日 10月2日 10月19日 10月30日

Ⅱ月13日 11月28日 ]2月]]曰

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図lイボニシ

2006年から2008年にかけてイポニシの採取に適し

た時期を把握するため,熊本港に生息する雌イポニシ の卵巣成熟の割合を経時的に調べた(図2)3年間に 亘る調査の結果,5月の中旬から下旬にかけて卵巣が 成熟した雌イポニシの割合は100%に達し,この高い 割合は9月の中旬まで継続することがわかった.した がって,熊本県においてイポニシを用いた授業を行う 場合には,試料採取を5月下旬から9月上旬にかけて 行う必要があるまた採取したイポニシは,授業に 用いるまでの間-20℃で保存しておくとよいただ し,採取から実験に用いるまでの期間が長くなると,

試料を解凍したときに強い腐敗臭を生じる場合がある ので注意を要する臭いが強いとイポニシに触れるこ とを嫌う生徒が出てきて,授業の進行に支障が生じる ためである41しかしこの臭いは,解凍時にso%エ タノール水溶液に5分間程度浸しておくことで、かな り改善される`し

l■ID

020406080100

雌の総数に占める成熟雌の割合(%)

図2雌イポニシの卵巣成熟の経時変化

かけて熊本県内の港や海岸においてイポニシの生息状 況および生殖異常調査を行ってきた3叶凹しこれまで の調査の結果,正常なイポニシを採取する場所として は,生息個体数が比較的多く、また採取した雌のほぼ 100%が正常であった熊本港および住吉海岸が適して いると考えられる(図3)逆に異常なイポニシを 採取する場所としては,採取した雌の90%以上がイ ンポセックスを発現しており,また生息個体数も多い 串港が適しているまた,昨年の調査でインポセック スの発現率が100%であった佐敷港や,50%であった 牛深港も適していると思われる一般に,インポセッ クスを発現したイポニシは,船舶数が多く,海水の環 流の良くない港において多く観察される傾向にある 逆に港から離れた海岸などにおいては,正常なイポ ニシが数多く観察される

2)イポニシの採取場所

これまで行ってきた授業実践における生徒の様子や,

実`験終了後に行ったアンケート調査の結果から,イポ ニシを用いた実験を行う場合,正常な個体のみで行う

よりも,正常な個体とインポセックスを発現した異常 な個体の両方を用いて行った方が生徒に与えるイン パクトは大きく,環境保全の重要'性を認識させる上で より効果があるものと考えられるしたがって,イポ ニシを採取する場所の選定条件としては,まず短時間 で必要個体数を確保できる数のイボニシが生息してい ること,次に正常な個体のみを採取できる場所と異常 な個体の割合が多い場所をそれぞれ見つけることであ る本研究室では,授業に用いるイポニシを採取する のに適した場所を見出す目的で2003年から2008年に

実験方法

l)殻の割り方

イポニシの生殖異常を調べる実験は,殻を割り,軟 体部を取り出す必要があるこのときできるだけ軟体 部を損傷しないよう注意する金槌や万力を用いて殻 を破壊する方法も紹介されているが'5),金槌では力加 減がわからずイポニシを完全に潰してしまうことがあ

(3)

イポニシを教材とした環境教育

イポニシは,卵巣が成熟を示す鮮やかな黄色を呈する のに対し,雄の精巣はこげ茶色もしくは暗褐色を呈し ているので容易に判別できるただし産卵を終えた 雌では,卵巣の黄色い部分が小さくなり,殻の先端に わずかに黄色い部分が残っているだけの個体もあるの で,必ず殻の先端まで割ってから判別する必要がある

熊本港 住吉

卵巣

露Tjii

佐敷港

:《R7

・牛深港

雄}癖

図3イポニシの採取に適した場所  ̄~R、閂

11生徒が殻を割るのが難しいと感じる一因ともなる').

▲〆精巣

また万力では操作が煩雑で1個の試料の破壊にかかる 時間が長くなるそこで,イボニシの殻の破壊にはプ ライヤーを推奨するプライヤーはジョイント部分が スライド構造になっており,この部分をスライドさせ ることで,先端部分が大きく開くようになっている この状態でイポニシの殻を割れば,たとえ力を入れす ぎたとしても試料が完全に潰れてしまうことはない (図4)しかし生徒が殻を割り,軟体部を傷つけな いように取り出すには,ある程度の練習が必要であり,

もし時間的な余裕があれば,あらかじめ練習用の個体 で確実な殻の割り方と軟体部の取り出し方を身につけ させておく方が望ましい

図5イポニシの雌雄

3)インポセックスの確認

軟体部を取り出し雌雄の判別を終えたら,次に雌の イポニシについてペニスの有無の確認を行う.手順と しては,まず軟体部の蓋の部分を下にして持ち,次に ピンセットで外套膜をめくると,先端部分が黒色をし た2本の触角を見ることができるこの触角を見つけ ることが観察のポイントとなる雄のイポニシは触角 の横にペニスを有する(図5)観察する側から見て,

触角の左側にペニスがある生殖腺が黄色を示し雌 と判定された個体にペニスが見られた場合,その個体 はインポセックスと判定する(図6)

授業の展開

授業は1回(50分)で行うことができるように組 み立てた学習指導案を表1に示す.現在の中学校理 科の授業カリキュラムにおいて,この巻貝を用いた環 境教育を当てはめることができる単元は,3年次の

「自然と人間」が適していると思われるが選択理科 の時間を用いれば自由に時間数を増やして行うことも 図4プライヤーを用いた殻の割り方

2)雌雄の判別

イポニシの雌雄の判別は,殻を割り生殖腺の色の違 いを調べることで行う.区'5に示すように産卵期の雌

(4)

島田秀昭

表l学習指導案 1.単元名

自然と人間(理科2分野下)または選択理科 2.本時の学習

(1)本時の目標

イボニシの観察実験を通して,環境保全の重要性を認識し,自然と人間とのかかわり 方について考えることができる.

(2)展開

過程 時間

学習内容 教師の支援 備考

導入

1.知っている環境問題を発 表する.

身近な環境問題にはどのよ うなものがあるか聞く.

展開 54

2.L環境ホルモンやイボニ シについて知る.

22.生殖異常のイボニシの 存在を知る.

3.実験方法を聞く.

41.実際にイボニシの殻を 害Iり,異常な個体がない か観察実験を行う.

4.2.片づけを行う

5.結果を発表する.

。環境ホルモンやイボニシに ついて説明する.

・生殖異常のイボニシを見せ,

環境ホルモンが原因である ことを説明する.

・殻の割り方を説明する.

・道具を取りに来させる.

・机間支援を行う.

・異常な個体がない班には,

他の班の結果を見に行く ように促す.

.結果を発表させる.

・パソコン

プロジェクター

・パソコン

プロジェクター

・プライヤー

ピンセット

シャーレ

・新聞紙

ビニール袋

まとめ 10

6.1.結果をふまえて,環境

保全の重要'性を考える.

6.2.自然と人間とのかかわ りについて考える.

・得られた結果をもとに,

なぜ自然を守らなければ ならないのかを考えさ

せる.

・今後我々は,自然とどの

ように向き合っていくべき

かをそれぞれ考えさせる.

(5)

イポニシを教材とした環境教育

表2授業の感想

戸とF=

.実際にイボニシを観察してみて,異常を 起こしているものが本当にあったので驚いた

・環境ホルモンというものの存在や,それに よって引き起こされる生体異常について 今日初めて知った.私たちも地球に棲む 生き物としてもっと環境について考えて いかなければならないと,思った.

・人間の目では見られない変化でも,小さな

生き物に影響を与えていることなど,普段の 授業では学べないことを学ぶことができた のでよかった

・し゛Ⅶ

、鍵:二鼬

図'6インポセックスのイボニシ できる

授業の導入部として,生徒に環境問題について知っ ていることを挙げさせるこれまで中学校において 行った授業実践では,「酸性雨」「オゾン層破壊」

「地球温暖化」「ゴミ問題」「森林減少」「水質汚染」

「大気汚染」などの代表的な環境問題が挙げられた しかし,「環境ホルモン」を挙げる生徒はほとんどい なかったしたがって,身近に存在しながらその影響 が見えにくい環境ホルモン問題について,実`験を通し て学習する意義は大きいと考えられる

次に,環境ホルモンについて,ヒトの体内に存在す るホルモン(男性ホルモンや女性ホルモンなど)を交 えながら説明するその後イポニシの写真を見せな がら本巻貝の生態について説明した後,インポセック スを発現した雌イポニシの写真を見せて,この現象は 環境ホルモンが原因で起こることを教え,実`験への意 欲・関心を高める

次に,イポニシの殻の割り方について説明した後,

各班に分かれて正常な個体の多い港から採取したイポ ニシと,異常な個体の多い港で採取したイポニシの両 方を用いて観察実験を行う.このとき2つの異なる港 で採取したイポニシがどちらの港で採取したもので あるかはっきり区別させておく必要がある例えば A港,B港と記したシャーレに分けて入れておくと間 違えなくてよいまた,本時に初めてイポニシの観察 を行う場合,生徒が自力でイポニシの触角を見つける ことは困難であるので,机間支援を行うようにする

実験終了後,班ごとに実験結果を発表させ,全体の データを集計しイポニシのインポセックス発現に地 理的差異があることを確認させ,なぜこのような差異 を生じたのか考えさせる

最後に,これらの結果を踏まえて環境保全の重要性 について考えさせ,さらにこれから自然とどのように 向き合っていかなければならないか考えさせる

参考として2008年度に中学3年生を対象に実施し

・環境ホルモンのことについて学べて,改めて 環境について考えられた授業だった

・自分たちの身近にある環境問題について知る ことができたのでよかった

た授業実践に対する生徒の感想の一部を表2に示す.

まとめ

中学校理科における環境教育の一つとして,巻貝を 教材とした実験を紹介したこれは,本研究室におい て2003年から行ってきた授業実践および熊本県沿岸 におけるイボニシの生殖異常調査の結果をもとにまと めたものである身近に存在するイボニシの生殖異常 を調べる実験は,環境ホルモンの影響を実際に目で見 て確認することができるため,生徒は実験に興味・関 心を持って取り組むことができるものと思われるま た,イボニシは生徒に環境問題について直接認識させ ることのできる教材として有効であると考えられる

今後さらに授業実践を重ね,より効果的な環境教育 システムの構築を目指したい

謝辞

熊本県沿岸におけるイポニシの生殖異常調査は,主 に本学理科教育講座島田研究室の学生諸子の協力によ り行われたものであり,ここに謝意を表します.また,

授業実践を行うにあたりご協力頂きました教諭の方々 に深謝いたします.

参考文献

l)文部科学省.中学校学習指導要領解説理科編‘大日本

(6)

島田秀昭

図書,pp90-96(2008).

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3)島田秀昭,楠本功一,中村恭介,中田晴彦.熊本県沿岸 域の巻貝における環境ホルモンの影響評価とその環境教 育教材としての有用性熊本大学教育学部紀要F1然科 学53,45-50(20041

4)島田秀昭,川辺理恵,楠本功一,中村恭介.有明海の巻

貝を利用した環境教育実践から生じた問題点とその改善

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(20061

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7)田中均,島田秀昭,土田理,高濱秀樹,牧野治俊,

平井正則原尻育史郎,山下俊雄.九州の教育系4大学 が合同で取り組む自然体験学習会一大分県津久見市無垢 島での取り組み-.日本理科教育学会第57回全国大会発

表論文集第5号,p335(2007)

8)島田秀昭,田中均,鳴海里加林智洋,本多栄喜,

坂口静磨,薬師寺光,上田陽一郎熊本大学教育学部が 取り組む地域連携事業一熊本県球磨郡の小・中学校にお ける地学および環境教育実践一日本理科教育学会第58

回全国大会発表論文集第6号,p417(2008).

9)島田秀昭,田中均,井上貴裕,山岡勇介,三宅安,

井上潤一,蓮田博忠熊本大学教育学部が取り組む地域 連携事業(その2)-熊本県天草市内の小・中学校にお ける環境教育および地学実習一.日本理科教育学会第59

1回|全国大会発表論文集第7号,p369(2009).

10)111岡勇介,井上貴裕,三宅安,井上潤一,島田秀昭

熊本県沿岸域のイボニシを用いた環境教育一中学校第3

学年における授業実践一.平成21年度日本理科教育学会

九州支部大会発表論文集第37巻,p91-92(2009)

11)島田秀昭,吉本真紀,中田晴彦,楠本功一,今村111頁茂.

熊本県沿岸域の巻貝における環境ホルモンの影響評価

(第2報)-環境教育教材としての情報収集一.熊本大学 教育学部紀要自然科学5499-102(2005).

12)島田秀昭,上村彩,今村順茂,中田晴彦.熊本県沿岸 域の巻貝における環境ホルモンの影響評価(第3報)-

環境教育の教材として用いるイポニシの採取時期につい て-.熊本大学教育学部紀要自然科学55,15-18(2006)

13)島田秀昭松田幸喜,今村111頁茂,中田晴彦.熊本県沿岸

域の巻貝における環境ホルモンの影響評価(第4報)-

教材に適したイポニシの採取時期と場所一熊本大学教

育学部紀要自然科学56,47-51(Z007l

l4)島田秀昭,田中智文,今村順茂,中田晴彦.熊本県沿岸

域の巻貝における環境ホルモンの影響評価(第5報)-

教材に適したイポニシの採取時期と場所(2)-.熊本大

学教育学部紀要自然科学57,27-32(2008)

15)内山裕之,栃本武良.生物による環境調査辞典,東京書

籍pplO-l3(2003).

参照

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4月 5月 6月 7月 8月 9月 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q

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