佐藤 智也 内容の要旨
論文内容の要約(要旨)
【目的】肉芽形成は創傷治癒における重要な過程の一つである。これまでに低栄養、糖尿病、 肥満、貧血など多くの創傷治癒阻害因子が知られている。また近年、創傷治療の分野でクリティ カルコロナイゼーションという概念が提唱されている。クリティカルコロナイゼーションとは古 典的な感染徴候は見られないもの、創部の細菌が増加し創傷治癒が遅延している状態と定義され る。これまで動物の創傷モデルに細菌を付着させると創傷治癒が遅延するという報告が散見され るようになった。しかし細菌による創傷治癒遅延が、実際に人間でも起こりうるかは明らかにな っていない。 本研究の目的は創傷の肉芽組織における細胞増殖を阻害する因子を解析することである。 【方法】2010 年 11 月から 2016 年 10 月の間に NPUAP 分類ステージ III または IV の褥瘡があり、 褥瘡の再建手術の適応となった患者 86 名を対象とした。全身麻酔下に褥瘡辺縁の皮膚と表面の肉 芽組織を切除した。切除した肉芽組織から 4mm パンチで 2 検体採取した。一つの検体を細菌の定 量培養に用い、もう一つの検体を細胞増殖マーカーである Ki-67 免疫染色に用いた。全細胞中の うち Ki-67 免疫染色陽性となった細胞のパーセンテージを Ki-67 index と定義した。Ki-67 index と年齢、body mass index (BMI)、肉芽組織の細菌量(Log10 CFU/g)、アルブミン 値、ヘモグロビン値、白血球数、CRP 値の関係を相関係数を用いて比較した。また Ki-67 index と性別、糖尿病の有無、喫煙の有無、細菌培養(陽性/陰性)の関係を Mann-Whitney U検定を用 いて比較した。さらに因子間の交絡を避けるため Ki-67 index と上記のすべての因子との関係を 重回帰分析を用いて比較した。細菌種による違いを比較するため、5 例以上の患者から検出され た細菌について、細菌種ごとに重回帰分析した。P<0.05 で有意差ありとした。
【結果】細菌培養陽性群では陰性群より有意に Ki-67 index が低かった(p=0.045)。Ki-67 index と肉芽組織の細菌量の間には負の相関関係があった(Pearson’s r = -0.325, p=0.002)。重回帰 分 析 に お い て も Ki-67 index と 肉 芽 組 織 の 細 菌 量 の 間 に 負 の 関 係 を 認 め た (adjusted β
氏 名 佐藤 智也 学位の種類 博士(医学) 学位記番号 乙第1406 号 学位授与の日付 平成31 年 1 月 25 日 学位授与の要件 学位規則第3 条第 1 項第 4 号に該当 学位申請論文タイトル及び掲載誌
Factors impairing cell proliferation in the granulation tissue of pressure ulcers: impact of bacterial burden.
褥瘡の肉芽組織における細胞増殖阻害因子:細菌負荷の影響
Wound Repair and Regeneration 2018 年 9 月 28 日 電子版掲載 学位審査委員(主査)教授 土田 哲也