新商法における会計理念 : 企業会計原則との関連 において
その他のタイトル Accounting Thought in Revised Commercial Law.
著者 植野 郁太
雑誌名 關西大學商學論集
巻 8
号 2
ページ 113‑132
発行年 1963‑06‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00021633
三七年四月に商法の一部を改正する法律で︑ ﹁会社ノ計算﹂の規定が大幅に改正され︑それをうけて三八年三月
公布され︑ここに年度決算に対する商法の考え方が非常に明瞭になった︒その内容が戦後︑企業会計原則を中心に
して培われてきた﹁一般に公正妥当と認められるところ﹂の会計慣習にすべてをゆだね︑それを是認するものであ
るか︑あるいは積極的に︑それを規定のうえに反映させ︑助成しようとするものであるならば︑問題はない︒しか
しながら︑現実はそうではない︒商法の規定もそうだが︑とりわけ計算書類規則ほかなり詳細にして︑具体的な規
定であり、従来の企業会計原則•財務諸表準則と相当ことなった、あいいれない内容をもりこんでいる。しかも商
法は甚本法である︒それに背反することは許されない︒法に違反するものが﹁公正妥当な﹂慣習として許される余
地はないのではないか︒従来の会計︑さらにそれを裏付ける会計理念は︑これを機会に︑根本的に反省しなくては
ならない︒個々の条文の非をならすまえに︑今度の商法を貫いている思想︑それが打出してきた立場がどういうも
のであるかを十分に検討し︑さらに今日の企業会計原則︑あるいは会計理論に支配的な期間計算中心の動態論的な
新 商
法 に
お け
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計 理
念 ︵
植 野
︶
末日に﹁株式会社の貸借対照表及び損益計算書に関する規則﹂
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稿 で
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算 書
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ー企業会計原則との関連においてーー
新商法における会計理念
植
野
郁
太
新商法における会計理念︵植野︶
そ の
﹁実務﹂がわが国のそれであるというよりむ 考え方とのへだたりをできるだけ刷出してみることが︑なによりもまず必要である︒
本稿はこうした観点から︑新商法の計算規定を検討しようとするものである︒
戦 後
︑
わが国の企業会計制度は一大飛躍をなしとげた︒その場合︑会計処理の方法と財務諸表の様式を基本的に
規律したのは︑
こ と で あ っ た ︒ いまさらいうまでもなく︑ 企業会計原則•財務諸表準則である。同原則は二四年に発表され、その
序文で﹁企業会計原則は︑企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから︑
たとこるを要約したものであって︑必ずしも法令によって強制されないでも︑すべての企業がその会計を処理する
に当って従わなければならない基準である︒﹂と唱いているが︑
しろアメリカの実務であり︑同原則がいわゆる SHM の会計原則 一般に公正妥当と認められ
(T•H.
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1
93 8)
を手本としたものであったことは︑当時から多くの人によって
指摘されていたところである︒このようなアメリカ会計の導入は当時の特殊な事情によるもので︑ アメリカ軍中心
の占領下に︑経済再建のためにはアメリカ資本の導入は不可避とされ︑その受入準備の一環として︑ やむをえない
ところでさかのぼってアメリカの会計制度自体を考えてみるに︑それは一九二九年のニューヨーク株式市場の株
価暴落にたんをはっした深刻な経済恐慌を契機として︑大きく転換し︑発展してきたものである︒一九二九年の株
価の暴落によって直接に大きな損害をこうむったのは株主だが︑当時すでに株主の数は延二︑
0 0
0 万人にも達し
ニ 四
を樹立することであった︒その結果として一方では︑ の確保の点から重要な意義をもっていた︒
②たといわれており︑その影響がいかに甚大であったかは容易に推測できる︒かれらをいかに保護するかが当然に大 きな社会的︑経済的問題となった︒今日しばしば聞かれる企業の公共性︑社会性という理念もこの頃からとくに強 くいわれるようになったもので︑そこではとりわけ株式の分散化︑すなわち大衆株主︑ く遊離し︑株価の変動︑利益の配当を楽しむ不在株主の登場︑会社のこれら一般投資家に対する責任を強調するも のであった︒またその頃には︑企業の必要資金の調達方法として︑銀行等の金融機関からの借入れよりはむしろ︑ 証券金融︑すなわち株式や社債の発行︑さらに利益の社内留保による自己金融により大きな比重がかかっていたの で
あ っ
て ︑
一般投資家の保護はたんに時代の要請というだけにとどまらず︑
このような事態のもとで会計に課せられた任務は︑
表に対していだいている強い不信感を払拭するとともに︑大衆投資家をも含めた一般の部外者が会社の実情を知る
ための唯一の包括綜合的判断資料としての財務諸表のもつ意義ないし機能をいっそうよく発揮せしめるための方策
る証券取引制度の整備に関連して︑上場会社の財務諸表の強制監査制度が確立され︑他方では︑会計実践を基本的
に規律するものとしての会計原則の存在とその意義が一般に広く認識されるようになった︒会計原則なる用語は以
前からも通用していたが︑それが一般化したのは一九一︱︱︱︱一年以降︑公認会計士が株主に報告される会社決算表に添
附される監査証明にこの用語をつかう例が多くなってからであり︑各種の法令にもこの用語が使用されるようにな
っ た
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う ︒
新商法における会計理念︵植野︶
二五
日常会社の経営からまった
企業自体の立場においても︑資金源泉
まず多大の犠牲をしいられた投資家が会社の公示する財務諸
一九三三年の証券法︑三四年の証券取引所法の公布︑等によ
新商法における会計理念︵植野︶
またこの時期にアメリカの会計理論にも大きな展開があった︒ギルマソは三二年以降にそれまでの貸借対照表中
心の親点から︑費用と収益の各会計期間への適正な配分の必要性を強調する損益計算書中心の観点に転換したと指
に重要な事実であり︑ 摘し︑とりわけアメリカ会計士協会の特別委員会が三二年九月に︐ニューヨーク株式取引所の委員会に送った最初の
④
書翰はかかる転換をマークする歴史的なものだとしている︒同書翰には﹁収益力が一般企業の評価において決定的
したがって損益計算書が貸借対照表よりはるかに大きな重要をもっている﹂と主張され︑ま
た﹁原則として会計の第一目標は各年度の損益計算書への適正な借方記入および貸方記入を確保することであり︑
これができさえすれば︑費用支出や収入の残余価額の貸借対照表のそれぞれのところへの適正な記入は一般的に推
定できる﹂と述べている︒三六年にアメリカ会計研究学会が発表した﹁会社財務諸表の基礎をなす会計原則の試案﹂
( A A A
̀ A e T n t a t i v e S t a t e m e n t o f A c c o u n t i n g P r i n c i p l e s U n d e r l y i n g C o r p o r a t e i n F a n c i a l S t a t e m e n t s )
の序文の最後にも﹁かくして会計は本質的には評価のプロセスではなく︑歴史的原価と収益の当期および次期以降
の会計期間への配分である﹂と主張し︑それを﹁基本的公理﹂とさえいっている︒そしてペートン・リトルトンの
名著﹁会社会計基準序説﹂
S t a n d a r d s ,
19 40 )
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の会計原則の考え方を敷術したものというにとどまらず︑
いっても過言ではなく︑
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A . C . L i t t l e t o n ,
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I n t r o d u c t i o n t o C o r p o r a t e A c c o u n t i n g
きめ
アメリカの動態論の極手と
わが国でも最も多く引用されている文献である︒
アメリカの会計は一九二九年以降に一大飛躍をとげたのであるが︑そこに顕著に認められる次の三点
は︑たんにアメリカだけの特殊事情というにとどまらず︑ より一般的なもので︑わが国の企業会計原則をみる場合
にも︑それがアメリカ会計の影響下にあるだけに︑常に念頭においておくべきことがらである︒
二六
用語︑様式及び作成方法に関する規則﹂ ︵略称財務諸表規則︶が公布されたが︑
二 七
それは主に財務諸表準則を法制化
ア メ
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山 栴
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著 ﹁
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4 4
4
戦後の会計制度の改革の法的根拠をなす証券取引法と公認会計士法はすでに二三年に公布されており︑企業会計
原則はその発表時に予定されていたとうり︑証券取引法による公認会計士の財務諸表の監査というまったく新しい
分野において︑実に円滑に全面的に実施されていった︒二五年九月には証券取引法一九三条による﹁財務諸表等の
したものだといわれている︒また同法一九三条の二は財務計算書類に対する公認会計士による監査証明を規定した
ものだが︑これについては︑二六年三月に﹁財務書類の監査証明に関する規則﹂が公布され︑同年七月から資本金
一億円以上の有価証券上場会社に対し監査が実施されることになった︒これにはわが国の名実ともにそなわった典
新 商
法 に
お け
る 会
計 理
念 ︵
植 野
︶
( 4 ) ( 3 ) ( 2 ) ( 1 ) 場会社の問題に大部分即応するように形成されてきたこと︒ 国 口
日
今日の会計制度は株主︑ よりひろくいって一般投資家保護の考え方が非常に強く働いていること︒
理論的には期間損益の決定を第一目標とする動態論的な考え方が支配していること︒
一般に認められた会計原則というのは比較的新しい概念で︑それはとりわけその株式が広く分散している上
従来の商法の評価規定は単純であった︒ ないうちに︑商法の改正法律が公布された︒
新 商
法 に
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計 理
念 ︵
植 野
︶
型的な株式会社をほとんどすべて包括することになり︑この監査制度の完全実施に平行して︑企業会計原則は文字
通り︑戦後の会計実践の大勢を決定づけたといって過言ではない︒
企業会計原則•財務諸表準則を発表した経済安定本部企業会計制度対策調査会(現在の大蔵省企業会計審議会)は、
それをただ証券取引法による監査の領分にとどめることなく︑さらに一般化し︑その線にそって会計実践全般を近
代化しようとの意図を強くもっていた︒すなわち二六年九月に﹁商法と企業会計原則との調整に関する意見書﹂ニ
七年六月に﹁税法と企業会計原則との調整に関する意見書﹂を発表して︑商法および税法関係諸法令との矛盾点を
明らかにし︑その調整を要求した︒さらに三五年六月には﹁企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見
書﹂の第一﹁財務諸表の体系について﹂第二﹁財務諸表の様式について﹂第三﹁有形固定資産の減価償却について﹂
を発表した︒この意見書は序文にも明らかなように︑法務省法制審議会において商法︑とくにその計算関係規定改
正の審議が行われていることにかんがみ︑そこで十分に尊重されることに大きな期待をかけ︑ ﹁関係諸法令との調
整を要すべき問題のうち特に主要な項目を選定し︑これらについて企業会計原則の基本理念を詳細に展開するとと
もに︑具体的総合的に調整意見を述べよう﹂としたのである︒しかし現実には︑連続意見書の第四以下が発表され
商法の計算規定の改正の要点を摘記すると︑次のとうりである︒
資産の評価
一般原則として︑三四条に時価以下主義を規定し︑同二項で︑営業用固
定資産には取得原価から減損額を控除した額によってもよいとした︒そして株式会社においては営業用固定資産に
ニ八119
( 4 ) は ( 3 ) ( 2 )
な ら
な い
︵ 二
八 五
条 ノ
四 ︶
︒
五条︶︒これに対し︑新商法では二八五条から二八五条ノ七で︑
込のないときは時価により︑
固定資産については︑今日の一般の会計処理法をそのまま受入れ︑原価により︑
に は ︑ そ れ 相 当 の 減 額 を す る こ と を 要 求 し て い る ︵ 二 八 五 条 ノ ︱ ︱ ‑ ︶ ︒
二 九
取引所の相場のある有価証券には決算前の一月の平均価格を超えてはならないと規定していた︵二八
より詳細にいわば資産客体別に評価基準を設けてい
﹁流動資産﹂については原価主義によること︒但し時価が原価より著るしく低く︑それが原価まで回復する見
いわゆる回収可能価額まで引下げることを要求している︒なお以前からある低価主
義も合法的なものと認めた︵二八五条ノニ︶︒ここにいう流動資産は特殊な概念で︑実質的には︑ いわゆる棚卸資
産を意味するが︑なおそのほかに処分すべく保有されている土地その他の固定資産︑さらに作為を目的とする債
しかも毎期相当の償却をする
ことと規定し︑なお減価償却計算にあたって考慮されえないような不測の偶発的な原因による減損が生じたとき
金銭債権については︑計算上の便宜を考慮にいれて︑債権金額による評価を建前とし︑なお当然のことながら︑
債権金額より低い価額で買入れたとき︵たとえば手形を割引いたとき︶やその他相当の理由あるとき︵たとえば利息の
前払をうけたり︑無利息ないし低利息の長期債権の湯合︶に︑相当の減額をし︑会社が利子などを考慮にいれて実質的
な現在価値で評価することを認めるとしている︒なお取立不能のおそれあるときは︑その見込額を控除しなくて
社債︵二八五条ノ五︶株式︵二八五条ノ六︶等の有価証券については︑会計上は市場性のある一時所有のものとそ
新 商
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念 ︵
植 野
︶
権も含むものと解釈されている︒ ( 1 ) る︒その概略は次のとうりである︒ は
取 得
原 価
︑
︵ 二
八 六
条 ︶
︑
( 5 ) 額をするよう規定している︒
新 商
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る 会
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念 ︵
植 野
︶
なお会計実務では設 れ以外のものとに区別し︑前者については時価による評価を通説としているが︑新商法ではかかる区別にこだわ らず︑すべて原価主義を建前とし︑さらに取引所の相場のあるものについては︑先に述べた流動資産の場合と同 様に︑時価が著るしく下落して回復の見込のないときには時価によること︑また選択的に低価主義を採用しうる こと︑取引所の相場がなく︑その発行会社の資産状態が悪化してその実質的価値が低下していると考えられると きには︑それが過大評価にならないよう︑社債については取立不能の見込額だけ︑株式についてはそれ相当の減
のれんについては従来規定がなかったが︑今度は︑会計上の通説にもとずき︑有償にて譲受けたとき︑または
合併により取得したときに限り︑取得原価により︑しかもそれを五年以内に均等額以上を償却することを条件に
して︑資産に計上することを認めた︵二八五条ノ七︶︒
繰延資産の範囲の拡大
改正前の商法では︑会社の負担すべき設立費用︑発起人の受くべき報酬︑設立登記のための税額等の会社設立費
新株発行のために必要な費用すなわち新株発行費︵二八六条ノニ︑新商法では二八六条ノ四︶︑社債権者に
償還すべき金額が社債の発行によって得た実額を超過する金額すなわち社債発行差額︵二八七条︶︑会社設立後二年
以上︑会社の目的たる営業の全部を開業できないと認められるとき︑開業前一定期間内に株主に支払った利息の額
すなわち建設利息︵二九一条︶の四つにつき︑
,
.
ー
9 ,
繰延を認めていたが︑新商法ではこれにさらに次の三つを追加した︒
開業準備のために支出した金額すなわち開業費で︑繰延期間は五年以内︵二八六条ノニ︶︒
立費と一括して創業費として処理する例も多いが︑両者は法的に配当可能利益の計算上その取扱いを異にしてい
゜
121
引当金の規定は改正前の商法にはまったくなかったが︑新商法では︑
ヲ貸借対照表ノ負債ノ部二計上スル﹂ことを︑その目的を貸借対照表に明らかにして株主総会の承認をうけること
と︑かかる引当金をその目的以外に使用するときにはその理由を損益計算書に記載することの二つを条件にして認
め た
︵ 二
八 七
条 ノ
ニ ︶
︒
して説明されてきたもののうち︑貸倒引当金や減価償却引当金等の評価性引当金は当該資産からの控除項目︑納税
引当金や労働協約等による退職給与引当金等の負債性引当金は金額不確定債務か条件付債務と法的には解釈される
から︑それらはここにいう引当金の範囲にはいらないことに注意を要する︒
( 3 ) ( 2 )
新商法における会計理念︵植野︶ 引当金の設定 加えられている︒ 新製品または新技術の研究︑新技術または新経営組織の採用︑資源の開発︑市場の開拓のために特別に支出し た 金 額 す な わ ち 開 発 費 お よ び 試 験 研 究 費 で ︑ 繰 延 期 間 は 五 年 以 内 ︵ 二 八 六 条 ノ 一 ︱ ︱ ) ︒
社債の発行のために必要な費用額すなわち社債発行費で︑
﹁特定ノ支出又ハ損失二備フル為二引当金 では社債発行差額と社債発行費を一括して社債発行差金として処理する例が多いが︑両者は繰延期間が相違する
なおこの三つがあらたに法的に認められるにあたり︑開業費︑開発費および試験研究費については︑後に述べ
るように︑その資産性において他のものと差別がつけられ︑会社の配当可能利益の算出にあたり︑重要な制限が
ここには引当金の範囲等にはまったくふれていない︒ただ従来の会計で︑典型的な引当金と からそれは許されない︒ る
か ら
︑
かかる処理はできないことになる︒
繰延期間は三年以内︵二八六条ノ五︶︒なお会計実務
新 商
法 に
お け
る 会
計 理
念 ︵
植 野
︶
資本関係のものについての改正は︑従来の規定の不備の是正︑さらに内容の明確化に主眼があったようである︒
利益準備金について︑資本金の四分の一に達するまで︑毎決算期の利益の二 0 分の一以上を積立てるとあった
のを︑毎決算期の金銭による利益の配当の一 0
分 の
一 以
上 と
し た
︵ 二
八 八
条 ︶
︒
資本準備金については︑その規定の設けられたときから︑その誤謬が明白にされていた財産の評価益から評価
損を控除した額というのを削除し︑また合併差益について︑合併により消減した会社の利益準備金と任意積立金
に相当する金額をそのまま存続会社の利益準備金︑任意積立金に繰入れ︑資本準備金からはずすことを認めた
︵二八八条ノニ︶︒これは業界からも強く要請されていたことである︒
利益配当の可能な限度を明確化したが︑それは︑純資産額から︑切資本の額︑回資本準備金と利益準備金の合
計額︑りその決算期に積立てることを要する利益準備金の額︑日新商法ではじめて繰延計上を認められた開業費
と開発費および試験研究費の貸借対照表上の評価額が前記の回とパの合計額を超える金額の四つを控除した額と
して計算される︵二九 0 条︶︒この利益配当可能額は新商法にとって非常に重要なものであるから︑なお理解に便
ならしめるため︑その計算式を示しておこう︒ ( 3 ) ( 2 ) ( 1 )
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(C+LS+ES)
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ーC—DA企業会計原則は財産計算中心から損益計算中心への会計理念の転換の︱つのキーボイントとして︑財務諸表の体
系の根本的変更を調整意見書でも連続意見書でもまず第一にかかげ︑それを強く要請してきた︒しかしこの点は今
度の改正では完全に無視されたといってよい︒取締役が定時総会の会日の二週間前に監査役に提出する書類として︑
財産目録︑貸借対照表︑営業報告書︑損益計算書︑準備金および利益または利息の配当に関する議案を規定したニ
ただわずかに財産目録を定時総会に提出する書類から除外しただけである︵二八一︱︱
条一項︶︒定時総会で承認をえた後に公告されるのが貸借対照表だけであることも従来通りである︵
1
‑
八 一
1
一
条 二
項 ︶
︒
これらの点をみただけでも︑商法が基本的には︑財産計算中心の考え方を堅持していることが明瞭となる︒前項で
概略説明した商法の改正点も︑この角度から検討するとき︑その内容がいっそうよく理解される︒
資産の評価について原価主義を原則としてうたっていることは︑企業会計原則を大幅にとりいれたものとして一
般に歓迎されている︒しかしそれは︑企業会計原則が主張するような今日の会計に一般的な実現主義を中心とする
収益と費用の対応の理念から引出されてきた原価主義の立場とはいえない︒この点から規定のうえでもっとも議論
が集中すると思われるのは︑棚卸資産の評価について低価主義を是認したことだろう︒また時価が原価より著るし
新 商
法 に
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念 ︵
植 野
︶
八一条にはなんの改正もない︒
新商法における会計理念︵植野︶
く低下し回復の見込みのないときには︑時価によるべきことをそれぞれの条項に加えていることも︑それがどの程
度の低下を意味するかは別として︑無条件に原価主義を採用したのではないと解釈される︒金銭債権について債権
金額を附するとしたことは︑原価主義でもなければ︑時価主義でもない︒その本旨はおそらく︑満期日に債権金額
に等しくなるよう利子を考慮した実質的価値すなわち時価による評価をすべきだが︑計算実務上の便宜を考慮して︑
債権金額でよいとしたにすぎないと解釈される︒但書の低い価額で取得したとき相当の減価をしてもよいというの
は︑取得原価によるとの意味ではなく︑実質的価値による評価を考え︑それを会社で採用しようというのを否定す
る理由はないとの主旨からでたものであろう︒固定資産について正規の償却だけでなく不測の減損が生じたとき減
額する︑また金銭債権について取立不能見積り額を控除するというのも︑費用の期間配分をより正確にするという
のではなく︑これらの資産についての過大評価をいましめることに重点があるのだろう︒要するに︑資産評価につ
いて︑原価主義の主要な特質のひとつである計算の確実性ないし客観性を第一義に考え︑それが過大評価におちい
らない限り︑商法に伝統的な時価以下主義にも反しないから︑会計慣習としての原価主義を原則として採用しよう
としたに過ないと考えられる︒資産の客体別に規定を設けているのも︑ かかる主旨からでたものと解釈される︒
繰延資産の範囲の拡大もやはり企業会計原則・ヘの接近とも考えられる︒しかし繰延資産一般についての会計的な
理解の仕方を商法は拒否していることに注目しなくてはならない︒企業会計原則は資産を流動資産︑固定資産︑繰
延勘定に大別し︑繰延勘定には一年以上にわたり費用化する前払費用と各種の繰延資産が属するとした︒これらの
科目は費用収益の期間的対応において相手方からの継続的な給付でまだそれを受けていない部分があるか︑または
給付をすでに受け終っているがその効果が将来に多く期待されるために︑費用への計上を繰延べたものである︒資
一 四
に し
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る (
‑ ︱
1
一条︶︒他方︑繰延資産は処分価値が認められないから資産性はなく︑会計処理上の擬制的資産とす
る考え方をすてていないと解釈される︒その結果として︑貸借対照表では他の一般の資産と明瞭に区別し︑
商法で規定した各科目ごとに表示することを要求する︵規則二四条︶とともに︑新たに認められた開業費︑開発費お
よび試験研究費については金額も相対的に大きく︑また常時計上される可能性が強く︑これを悪用して資本充実の
原則にもとる利益配当が行われ︑債権者保護の目的に反するようなことがあっては困るという配慮から︑配当可能
利益の計算にあたって︑すでに述べたような制限を加えたと想像される︒なお企業会計原則が一定の条件のもとに
認めていた﹁巨額の臨時的損失の繰延'﹂は︑商法では問題にされておらず︑
引当金についての商法の態度はむしろ消極的である︒そこでは︑引当金の設定によって会社の資産内容はむしろ
充実する方向にあるのだから排斥すべきことではない︑問題はそれによって配当可能利益が減少し︑株主のさしあ
たっての利害と対立するということである︑したがって︑法としては引当金の設定︑取崩しについてその経過を明
瞭にして︑常に株主の同意をうけるようにしておけばよいと考えているものと解釈される︒複雑にいりくみ︑変動
の激しい経済状態のもとにおいて︑どこまで引当金の設定が一般に妥当なものとして是認されるかは︑期間損益計
新商法における会計理念︵植野︶ るものは流動資産の部に︑ ては︑それが給付を受ける債権を示す点から︑
一 五
産の本質を企業が取得した財貨用役でいまだ消費されずまたその効果が将来に及ぶ﹁サービス・ボテンシァル﹂
未来費用﹂と解釈し︑繰延勘定も他の一般の手持の財貨用役と何ら資産としての本質において異なるものでないと
するところに︑今日の動態的会計理論の特色がある︒しかし商法はこの考え方を採用しなかった︒前払費用につい
一般の債権と同様に取扱い︑計算書類規則では一年以内に費用化す
一年以上のものはいままでみられなかった分類だが︑無形固定資産の部に記載すること
かかる繰延は違法となる︒ しかも
→
商法は今度の改正にあたり企業会計原則を尊重し︑
計算法的な考え方のわくのなかにおいてだけであり︑けっして企業会計原則の基本理念である期間損益計算的立場
への移行を意味するものでないことは︑すでに前項で述べたとうりであるが︑さらに計算書類規則までふくめてみ
ていくと︑商法が考えている損益計算書︑またひろくいって損益計算の内容が企業会計原則のそれとちがったもの
であることがとくに眼につく︒この点について少し検討してみよう︒
企業会計原則は﹁資本取引と損益取引を明瞭に区別し︑特に資本剰余金と利益剰余金を混同してはならない﹂と
いうことを一般原則にかかげ︑それを期間損益計算の出発点にある重要原則としているにもかかわらず︑商法では
四
いした問題ではない︒
新 商
法 に
お け
る 会
計 理
念 ︵
植 野
︶
算にとってとりわけ重要な問題である︒商法がこのような重要な問題の核心をはずした規定に終っていることはな
にかものたりないようにも感じられるが︑他方からみると︑商法が問題の解決を企業会計原則なり︑会計理論の発
展に全面的にゆだねたものとして︑大いに歓迎すべきことだろう︒規定された条件さえみたせば︑どのような引当
最後に︑資本に関する規定で︑改正前にあった﹁毎決算期ノ利益﹂︵二八八条︶︑﹁会社^損失ヲ填補シ且ッ準備金
ヲ 控
除 シ
ク 後
ー 一
非 ザ
ど ^
﹂ ︵
二 九
0 条︶というような文章が消えており︑ その点から期間利益の計算の考え方が改正
前の規定からさらに一歩後退したのではないかとの印象をあたえるが︑これは表現のうえだけのことであって︑た
かなり取入れているといっても︑それは商法に伝統的な財産 金でも合法的に設定できるなどという解釈は慎むべきだろう︒
一 六
一 七
それを相当に無視した規定をしている︒二八八条ノニの資本準備金の規定は︑商法が会計原則にいう資本取引の範
法律で同様の取扱いを規定したもの以外は資本準備金としないのだから︑ 囲を明確にしたものとの解釈もあろうが︑それは正しいとはいえない︒商法はそこにあげた四つのものおよび他の
いかに会計上詳細に資本取引を検討し︑
法の規定以外の資本剰余金の計上をしてみても︑それは法的には無意味なことになる︒しかも今度の計算書類規則
によれば︑貸借対照表の資本の部は資本金︑法定準備金︑剰余金に区別され︑法定準備金は資本準備金と利益準備
金をふくむのである︵三四条︑三五条︶︒これは資本が資本金を超過する額を剰余金とする会計上の概念とくいちがっ
ており︑資本剰余金と利益剰余金の明瞭な区別を無視し︑あたかもそうした区別が問題にされなかった戦前の姿に
逆戻りしたのではないかとの感じさえする︒資本準備金の設定には会計でいう資本取引の理念が相当に影響してい
ることは認められうる︒しかし規定のうえでは商法は企業会計原則とは別の観点をとっている︒資本取引による剰
余金か︑損益取引による利益の社内留保分としての剰余金かの区別ではなく︑それが法的に配当可能なものか否か︑
配当可能利益を構成するものか否かということが︑いわゆる剰余金区別の基準をなしていると判断すべきである︒
計算書類規則︱二条には︑自己株式を他の株式と区別して︑貸借対照表の資産の部に記載することをとくに規定し
ているが︑これも従来から会計で述べている資本取引の概念にこだわっていては説明できない︒
損益計算書について︑企業会計原則はそれを企業の経常的な収益力の表示の場として把握し︑別に剰余金計算書
をもちいることによって︑臨時偶発的損益︑前期損益の修正を損益計算書から除外するという当期業績主義を採用
した︒剰余金計算書は利益剰余金と資本剰余金の部に区別し︑前者には︑前期末処分利益剰余金の処分の経過を示
し︑その残高としての繰越利益剰余金を表示し︑それに前記の偶発的損益︑損益の修正項目を加減して︑繰越利益
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植 野
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新商法における会計理念︵植野︶
剰余金の期末有高を算出し︑後者には︑資本剰余金の期中の変動を表示している︒そこでは損益計算書と剰余金計
算書は密接不可分の関係にあり︑両者を通じて︑各期間の損益︑さらに各種の剰余金の設定の経過がすべて財務諸
表のうちに表示される仕組みになっている︒これに対し︑新商法ではだいたい剰余金の概念が異なっており︑また
剰余金計算書そのものを考えていないのだから︑損益計算書を当期業績主義によって作成するみちが封じられてお
り︑おのずから包括主義に帰することになった︒ここにまず企業会計原則との大きな相違がある︒
計算書類規則によると︑損益計算書は経常損益の部と特別損益の部にわけられ︑さらに前者は営業損益と営業外
損益に二分される︵三七条︶︒この経常損益の部はだいたい企業会計原則による損益計算書に相当し︑前者での経常
損益が後者の純損益に一致する︒しかしここでの問題は︑商法では法人税は費用として取扱われることである︒︑直
接このことが規定されているわけではないが︑法人税の支払は会社の当然の義務であり︑金額不確定債務として貸
借対照表に表示するのが当然だとされており︑そうすればそれにみあう金額は損益計算書に費用として計上すべき
だというのが商法上の解釈である︒法人税は利益への課税であり︑利益処分の一種であって費用ではないとして︑
利益処分項目として取扱ってきた従来の会計慣習との対立がここにでてくる︒法人税を費用として計上するときに
は︑それを営業外損益の部の末尾に計上するのが無難な方法であろうし︑更正決定をうけたときには︑最初に計上
した額との差額は︑次に述べる特別損益の部の前期損益の修正の一項目として計上すぺきことになる︒
右に指摘した法人税の取扱いの相違は︑税引前の利益か税引後の利益かの問題として︑まだ理解できるにしても︑
一定目的のために留保した利益のその目的にしたがう取崩しによる利益 特別損益の部になると︑会計的には理解に苦しむ点がでてくる︒計算書類規則四二条によると︑特別損益の部に
一 八
これだけを別個にして︑ はとくに山の理解が厄介である︒利益剰余金の取崩しがなぜ利益とされるのか︒
九
一定目的に設定された利益剰余金
のその目的にしたがう取崩しだけを損益計算書に利益として取扱い︑それ以外のもの︑たとえば目的を設定してい
ないものの取崩し︑目的外の取崩しをなぜ除外するのか︒利益剰余金について︑このような差別をする理由はただ
ひとつ︑法律上の取扱いの問題だけである︒すなわち︑目的が設定され︑その目的通りに取崩すのは取締役の一存
でできるが︑それ以外の湯合は︑株主総会の承認を要し︑そのためには利益処分案に示すべきだという点にある︒
②については理論上の問題はない︒引当金の設定時には当然それだけの費用が事前に計上されており︑当該事項が
発生したとき︑その金額だけ引当金を取崩すことになるのは当然である︒かかる事実なくしていわば一方的に引当
金を取崩すことが︑規則にいう﹁目的外に使用する﹂場合であり︑それは一度費用として計上したものを利益に振
戻すことを意味し︑前期損益の修正のひとつである︒これを別個に計上するよう規定したのは︑引当金の設定にあ
たり株主総会の承認をうるように条件付けたのに照応するもので︑その取崩しについての経過を明示し︑十分に株
主がその使途を監視できるようにしただけである︒③についてはいうことはない︒これを特別損益の部でなく営業
外損益の部に計上してもよいとしたのは︑山と②には法的手続なり︑法の特殊な要請も加わったものであるから︑
一般会計上の包括主義による損益計算書の形式との調整を考慮した結果だろう︒
さて損益計算書に会計一般にいわれる費用と収益のほかに︑右にとくに指摘したように︑法人税や利益剰余金の
新商法における会計理念︵植野︶ をあげ︑これを経常損益の部の経常損益に加減して︑
( 3 ) ( 2 )
前期損益修正その他異常な利益または損失
﹁当期利益﹂または﹁当期損失﹂を示すとしている︒ここで 商法二八七条ノニに規定する引当金の目的外の使用による利益
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植 野
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取崩しまでふくめて計上するとなると当然に︑これらを同列にみる商法上の費用とか収益の概念はなにかというこ
とが問題になる︒どこにもこのような規定はない︒結局それは︑配当可能利益に関連づけて︑収益はそれのプラス
の要素︑費用はマイナスの要素と解釈し︑損益計算書は一期間に発生した配当可能利益の増加分︑減少分をすべて
一 覧 的 に 表 示 し た も の と い う こ と に な る ︒ ︵ こ の 湯 合 ︑ 任 意 積 立 金 は 法 的 に は 配 当 可 能 利 益 で あ っ て も ︑ 個 々 の 会 社 の 立 場 で
は そ
れ を
配 当
可 能
利 益
か ら
は 除
外 さ
れ た
も の
で あ
り ︑
そ の
取 崩
し は
配 当
可 能
利 益
へ の
繰 入
れ ︑
す な
わ ち
そ の
増 加
分 と
考 え
ら れ
る ︒
︶
損益計算書の末尾に︑当期純損益に前期繰越利益ないし損失を加減して︑当期未処分利益ないし損失を記載すると
いう損益計算書にとってまった<蛇足ともいえるような表示を規定している︵規則四四条︶ことも︑商法が右に指摘
したように︑損益計算書を当期に発生した配当可能利益の計算書としていることに由来するものといえよう︒この
ようにして商法の損益計算書は企業会計原則におけるそれとは性格を異にしているものと結論することができる︒
いままで概略説明したところから十分に推測されるように︑企業会計原則の側からの強い要請にもかかわらず︑
商法は財産計算法的立場を貫いている︒しかしそれは非近代的な伝統的な財産計算のわくにとじこもっているので
はなく︑配当可能利益というものを中核して︑新しい財産計算法的会計構造を打出している︒配当可能利益は︑ま
ず各決算期に財産計算的に純資産額を決定し︑それから資本金︑法定準備金︑
って︑その限度額を算出するとの考え方から出発して︑すべての規定が組立てられているといってよい︒各資産の
客体別の評価︑特殊資産についての資産性とその繰延期間について相当具体的に規定しているのも︑また貸借対照
五
一部の繰延資産を控除することによ
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新商法における会計理念︵植野︶ ない引当金の設定︑
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