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宇宙環境がカイコ休眠卵の発育へ及ぼす影響

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

宇宙環境がカイコ休眠卵の発育へ及ぼす影響

著者 森本 弘一, 堺 裕史, 山岡 史賢, 大西 武雄

雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学

巻 49

号 2

ページ 9‑14

発行年 2000‑11‑10

その他のタイトル The Effect of Cosmic Radiation on Silkworm Eggs

URL http://hdl.handle.net/10105/1416

(2)

Bull.Nara Univ.Educ,Vol.49, No. 2 (Nat.), 2000

宇宙環境がカイコ休眠卵の発育へ及ぼす影響

森 本 弘 一・珊   裕 史* ・山 岡 史 賢**

(奈良教育大学理科教育教室) )、 IILl 武 % (奈良県立医科大学生物学教室)

(平成12年4H5日受理)

The Effect of Cosmic Radiation on Silkworm Eggs

Kouichi MORIMOTO , Yuji SAK朋, Fumimasa YAMAOKA ( Department of Science Education, Nara University of Education, Nara 630‑8528, Japan)

Takeo OHNISHI

( Department of Biology, Nara Medical Universtiy, Nara 634‑0813, Japan) (Received April 5, 2000)

Abstract

We investigated the lethal and mutageneic effects of cosmic radiation on silkworm eggs, using the Radiation Monitoring Container and Dosimeter in the Russian space station "MirH as part of the first MIR utilization space experiment. In hatching and pupation, there was difference in survival rate between the launched eggs and the eggs on the earth. But, in emergence, there was no difference in it between them. In order to detect the mutation frequency, we used the specific locus method using the egg‑color gene pe and re located on the fi氏h chromo‑

some. The mutation frequency was 12.4 × 10‑3 in space, as compared with controls, it was very high. We think that the cause is the effect of cosmic rays and micro gravity.

Key Words: silkworm, cosmic radiation, Mir

は じ め に

人間が宇宙に飛び出すようになってほぼ40年が経ち、

国際宇宙ステーションの建設が進んでいる.国際的にも 宇宙に対する関心が非常に高まっており.宇宙ロケット が科学研究のみならず,商業用にも使われる時代となっ た.すでに,民間人による宇宙旅行の予約まで行われて いる. H木においても,宇宙飛行士が何人も生まれてお り.ますます宇宙が身近に感じられるようになってきた.

こうしたなかで.宇宙は生物にとって.人にとって, 安全な空間であるかどうかの検討を行うことが急務とな

キ‑ワード:宇宙ステ‑ション「ミール」.カ イコ休眠卵.宇宙放射線

っている.無重力が生物にどのような影響を及ぼすか, 宇宙線が生物にどのような影響を及ぼすか.ということ が明らかにならなければ,安心して宇宙空間に滞在する ことはできない.

アメリカのスペースシャトル内での放射線測定結果に よると,ほぼ1mSV/day程度の被爆が推定されている1)

・2)31.地上での自然放射線による被爆が年間  3mSV である41ことを考えると.宇宙船内の環境はかなり放射 線が高いことが分かる.

宇宙船内における宇宙放射線を考えた時,問題となる のは, γ線と重粒子線である.垂粒子線として.炭素.

* 現在 スキャナーセンター エム・アート(鞠

**現在 科学共栄社(櫛

(3)

10 森 本 弘 一・堺   裕 史・山 岡 史 賢・大 西 武 雄

酸素,鉄などといった原子の原子核が考えられている.

地上の研究室においては, X線やγ線といった電磁波放 射線の研究は進んでいるが,垂粒子線の研究は,始まっ たばかりである.

また,宇宙線内で考慮しなければならないもう一つの 環境要因として,微小重力がある.宇宙線内は完全な無 重力状態ではなく,実際はio 3‑i0‑6jの環境である

と言われている.この微小重力と宇宙放射線との相互作 用が示唆された報告が幾つかある.例えば,西洋ナナフ シ(c,arausius morosus)の膝の奇形が,微小重力環境下 の方が1gの環境下よりも出現しやすいこと5)やショウ ジョウバエを用いた実験で,宇宙滞在期間中の物理計測 で推定された放射線被爆では生じ得ないような高頻度の 劣性致死突然変異が子孫に現れた6)というようなもので ある.

以上のような報告があるが,これらの実験はスペース シャトルを用いて1週間から10日間と短期間に行われた ものである.これから計画が進む宇宙ステーションのこ とを考えると,さらに長期間にわたる実験が必要とされ る.そこで,ロシアの宇宙ステーション「ミール」を用 いて宇宙空間滞在40日間のカイコ休眠卵への影響を調べ ることとした.

実 験 方 法

1.実験材料と内容

材料としては,カイコ休眠卵を用いた.カイコ休眠卵 を用いた理由は,遺伝的な背景がよく調べられているこ と,省スペースで実験できること,宇宙飛行士が世話を しなくてよいことなどである.調べたのは,宇宙放射線 によるカイコ休眠卵の生存率の変化,突然変異率の変化 である.

また,宇宙に打ち上げる前に,地上予備実験として, γ線がカイコ休眠卵に及ぼす影響について調べた.さら に,宇宙船内では,浴びることは予想されないが, γ線 に関連して, α線と紫外線がカイコ休眠卵に及ぼす影響 についても調べた.

カイコ(Bombyxmori)の一品種である錦秋×鐘和の 休眠卵を用いた.これは,国が指定している蚕品種であ り夏秋蚕(飼育)に適するものであるとされている.広 く養蚕農家で飼育されており,遺伝子型は,野生型と考 えられるものである.

このカイコ卵を蚕種業者より購入し, 1世代飼育し, 休眠卵を得た.実験に用いたのは, 4蛾が産下した卵

(4枚)であり,約1800個である.

2.生存率

カイコは,完全変態の昆虫であり,卵‑幼虫一癖(繭)

‑成虫という生活環である.卵から成虫になるまで,約 40日間である.もし,遺伝子に何らかの損傷があれば, それぞれのステージにおいて生存率が低下するものと考 えられる.特に,卵は宇宙放射線に曝されているので, 直接的な影響があれば,卵から幼虫へ肺化する贈化率が 低下することが予想される.各ステージの生存数をカウ ントし,下記のように楯化率,癌化率,羽化率を算出し, 地上のコントロールと比較した.

肺化率:肺化した数/全卵数  % 虫酎ヒ率:蛸化した数/全卵数  % 羽化率:羽化した数/全卵数  % 3.突然変異の検出法

力イコの突然変異検出として,図1に示すような特定 座位法を用いた.これは,突然変異系統pere卵と交配 させ,卵の色の変化を観察し,突然変異率を算出するも のである7).

pere卵とは,第5染色体に座位する劣性の遺伝子pe (白色卵:0.0)とre (赤色卵:31.7)がホモになってい るものであり,突然変異の検出に用いられる.これと交 配し,通常の色の黒い卵が産まれれば突然変異を起こし ていないことを示し,起きていれば,白色,赤色の卵が 産まれる.

黒色:突然変異なし

白色:peのみか, peとreの両方に突然変異が起こる 赤色: reのみに突然変異が起こる

よって,突然変異率の算出は次のように行う.

reの突然変異率:  赤色の卵数/全卵数  % pe,pereの突然変異率:白色の卵数/全卵数 %

放射線処理

Pi pe+

pe十   re+

黒 色 卵

pe re 白 色 卵

pe十   re

pe re

pe

pe re 白 色 卵

pe re

赤 色 卵

図1卵色の特定座位法による突然変異検出法 4.カイコ休眠卵に及ぼすγ線の影響(地上予備実験)

カイコ休眠卵(約200個)に線量0.5Gy, 1.0Gy, 2.0 Gyのγ線を照射した.その後,飼育し,肺化率,蛸化

(4)

率,羽化率を調べた.羽化後> pere卵と交配させ,突然 変異率を求めた.照射線源は,コバルト60 (60CO)であ り,奈良県立医大で照射した.この線量は,以下の理由 から設定した.当初の計画ではミールの利用期間が3ケ 月以上であったこと,ミール船内の具体的な線量のデ‑

タを打ち上げ前に得ることが出来なかったこと,これま での実験結果から7),これ以下の線量では, γ線の影響 が出ないことが予想されることの3点であるl尚,ミー ルは実験期間中に太陽電池パネルの故障を起こし,利用 期間が大幅に短縮され. 40日間となった.

5.カイコ休眠卵に及ぼすα線の影響(地上予備実験) カイコ休眠卵(約200個)に線量0.25Gy, 0.5Gy, 1.0 Gyのα線を照射した後,飼育し,嫡化率,輔化率,羽 化率を調べた.照射線量の設定は, γ線に準じて行った.

照射線源は,アメリシウム(241Am)で,京都大学放射 線研究センターで照射した.

6.カイコ休眠卵に及ぼす紫外線の影響(地上予備実験) カイコ休眠卵(約200個)に線量5kJ/m¥ 10kJ/m¥

20kJ/mの紫外線UVB (波長320nm‑280nm)を照射後飼 育し,肺化率,蛸化率,羽化率を調べた.照射線量の設 定にあたっては,照射時間の許容範囲を越えないことを 考えて行った.乾燥の影響が出る恐れがある.照射線源 は,東芝健康線用蛍光ランプ(FL20SE20W)を用いた.

線量の測定は, Macam Photometries社製UV103で行っ た.この機器により1秒間に1nf当たりの熱蔓が測定で きる. (J/nf).その測定で得られた値から照射しようと する線量に必要な照射時間を求めた. 5kJ/m2の場合,紫 外線ランプからの距離15cmで12分4秒であった.以下, 同様に, lOkJ!誠の場合,紫外線ランプからの距離15cm で24分8秒, 20kJ/mの場合,紫外線ランプからの距離 15cmで48分16秒であった.また, UVBを照射するとき には,できるだけUvcの影響がないようにコダセルシ ート(透過波長290nm以上)をかぶせた.

7.ミール利用実験

打ち上げに用いられたカイコ休眠卵は,図2に示すよ

図2 ミールに搭載したホルダー

うな2個のホルダーに密封された.一つのホルダーに約 450個の休眠卵が産みつけられている.各ホルダー内の 容積は, 9×9×0.4 (32.4) cmであり,乾燥を防ぐため に,中央に脱脂綿を置き,そこに水分を0.1mlしみ込ま せた.これらのホルダーは,図3に示すように他の生物

試料と線量計(Holder‑1,5,6)と共に搭載された.

図3 搭載ホルダーの積載順

この実験装置は,円本から蔓混で輸送され,バイコヌ

‑ル基地でプログレスM‑35に搭載された.プログレス M‑35は,日本時間1997年7月5日に打ち上げられ, 7 117日に宇宙ステーションミールにドッキングした.そ の後,この装置は,宇宙ステーションミール内のコアモ ジュールと呼ばれる宇宙飛行士の住居区城内に設置さ れ,同8日13日まで約40日間の軌道上実験が実施された.

その後,実験装置は,ソユーズTM‑25に積み込まれ.

同8月14日ミールから切り離され.カザフスタンに着陸 し回収された.帰還後サンプルは日本まで輸送された.

また,地上対照実験として,打ち上げ試料と同時に調 整した試料(カイコ休眠卵約900個)についても,同様 なホルダーに同様な方法で密封され.打ち上げ試料と同 じ時期にバイコヌール基地まで輸送された.プログレス 打ち上げ後,この試料は,日本に返送され.筑波宇宙セ

ンターでミールから送られてくるデータをもとに,ミー ル内と同様の温度管理が行われた.

尚,双方の実験試料は6月19日から8月16日までの約 60u間,ほぼ賓温に保存されたことになる.

8fU6日に,ミール搭載のカイコ休眠卵と地上対照実 験のカイコ休眠卵刈方を受け取った後,蚕種業者より入 手したpere卵も共に下記の日程で,休眠解除を行った.

休眠卵の休眠を解除するには,低温(約5‑C)に3ヶ月 間置かなければならないのである.

1997年   8月17日 8月20R

8I 2311

8円26日 11月25日 11月26日 11月30日

℃ C ℃ C C ℃ C

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(5)

森 本 弘 一・堺   裕 史・山 岡 史 賢・大 西 武 雄

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耶化率     境化率     羽化率

図4 γ線照射後のカイコ休眠卵の生存率 表1 γ線照射に対する突然変異率

吸収線量    突然変異率(%)

0.5 Gy     6.1×10」

1.0 Gy    3.4×10・3 2.0 Gy    2.3×10"3

結果と考察

1.カイコ休眠卵に及ぼすγ線の影響(地上予備実験) 図4にカイコの休眠卵にγ線を照射後,発育を観察し た結果を示している.緑量O.5Gy, 1.0Gy, 2.0Gyのい ずれの場合も照射していないものに比べて,楯化率では 違いが見られないが,虫酎ヒ率、羽化率で発育が阻害され た様子が見られた.線量の違いでは, 0.5Gy, 1.0Gyで は,虫酎ヒ率,羽化率において著しく発育が阻害されてい るが, 2.0Gyでは, 0.5Gy, 1.0Gyの群ほど発育が阻害さ れなかった. γ線の急性の影響が出るのは,数Gy以上 である.これ以上の線量になると,線量が上がるほど急 性の死亡率が上がるといった関係が明瞭に見られるもの と思われる.よって,今回の線量では,楯化においては 影響が観察されず,線量と虫酎ヒ率,羽化率に一定の規則 性が見られなかったものと推察される.

表1に突然変異率の検出結果を示している.これを見 ると, peに関する突然変異が見られたが,吸収線量の違 いによる突然変異率の違いは見られなかった. reに関す る突然変異は見られなかった.

突然変異率を求めた後,交尾させ, 25℃で卵を保存し ておいたところ,本来ならば, 1化性の卵なので,休眠 するはずのものが肺化してきた. 1化性から2化性へ変 化したものと考えられる.

2.カイコ休眠卵に及ぼすα線の影響(地上予備実験) 図5にカイコの休眠卵にα線を照射後,発育を観察し た結果を示している.線量0.25Gy, 0.5Gy, 1.0Gyのい

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群化率     鰍ヒ率     羽化率

図5 α線照射後のカイコ休眠卵の生存率

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田UVB 5kJ/m 匝UVB IOkJ/rr了 tuvB 20kJ/rr了

弼化率     輔化串     羽化率

図6 紫外線照射後のカイコ休眠卵の生存率 ずれの場合も照射していないものに比べて,発育が阻害

された様子が分かる.しかし,これらの線量では,際立 った急性の影響は観察されなかった.線量が上がるほど 急性の死亡率が上がる関係を見るには,数Gy以上の線 量が必要である.

羽化後,交尾させ, 25℃で卵を保存しておいたところ, 本来ならば, 1化性の卵なので,休眠するはずのものが 肺化してきた.これは, 1化性から2化性へ変化したも のと考えられる.

3.カイコ休眠卵に及ぼす紫外線の影響(地上予備実験) 図6にカイコの休眠卵に紫外線UvBを照射後,究育を

観察した結果を示している.これを見ると,線量5kJ/m¥

10kJ/m¥ 20kJ/mのいずれの場合も照射していないもの に比べて,虫酎ヒ率,羽化率で発育が阻害された様子が分 かる.しかし,これらの線量では,線量が増すほど,発 育が阻害されるという線量依存性の関係は認められなか

った.

4.ミール利用実験における生存率

婚化後の成長は,図7に示すように幼虫,棉,成虫と 進んでいった.卵,幼虫,蛸,成虫を観察したところで

は,ミール搭載のカイコ休眠卵と地上対照のカイコ休眠 卵では,違いが見られなかった.特に,カイコでは幼虫 において多くの突然変異体が得られているので,注意深

(6)

BiLT      甘ILf      消It*

図8 ミール利用実験におけるカイコ休眠卵の生存率

く観察したが,突然変異体に相当するような布形はHL.ら れなかった.また,成虫においては,通常の飼育でも, 生殖器の異常が観察されることが稀にあるが,これも観 察されず,正常な交尾が行われ,産卵された.

図8に示しているように,ミ‑ル上のカイコ休眠卵と 地上対照のカイコ休眠卵の贈化率,蛸化率,羽化率を見 ると,違いがあるように見える.そこで.比率の差の検 定をF記のようにして行い,ミール上のカイコ休眠卵と 地上対照のカイコ休眠卵の贈化率.蛸化率,羽化率の差

が有意かどうか調べた.

まず,ミール上のカイコ休眠卵(2ホルダー)の合計 楯化率,蛸化率,羽化率plを求め,地上対照実験のカイ

コ休眠卵(2群)の合計肺化率,帰化率.羽化率p2を }いう‑*‑

共通の比率をpとして, Z検定を次式により行った.

z= (Pi‑P2)/√ ((p (1‑P) (l/n.+l/n,)) (n,:ミー

ル上のカイコ休眠卵の数, nz:地上対照実験のカイコ休 眠卵の数)

その結果.肺化率では, z=6.97となり, P<0.001で 比率の差は有意であることが認められた.よって.ミ‑

ル[・.のカイコ休眠卵の贈化率は,地上対照のカイコ休眠 卵の姻化率に比べて.イ‑[意に低いものであると言える.

桶化率では, z=2.11となり, P<0.05で比率の差は有 意であることが認められた.よって,ミール上のカイコ 休眠卵の虫酎ヒ率は,地1・̲対照のカイコ休眠卵の虫酎ヒ率に 比べて.有意に低いものであると言える.

:】射ヒ率では, 7.=1.26となり.比率の差は有意である とは認められなかった.よって,ミールLのカイコ休眠 卯の羽化率は.地上対照のカイコ休眠卵の羽化率に比べ

て,変わらないと言える.

以上のことから.ミール上のカイコ休眠卵は卵封ヒ.幼 也,蛸化の段階で宇宙線の影響が見られたが,羽化の段 階では.見られないと言える.これは,卵封ヒ直後は.守 描線により細胞が掴傷を受け,その影響が明確に見られ るが,発′主段階で様々な修復機構が働き.幼虫,蛸,羽 化と成長が進むにつれて,その影響が次第にLg]復してい ったものと考えられる.そのため,羽化の段階では,地 上対照のカイコ休恥岬L]と比較してあまり差がなかったも のと推察される.尚,放射線l実学総合研究所の藤高和信 氏,保川浩志氏のグループによれば.ミール利用宇宙実 験での約40H間の宇宙飛行における集積線量は, γ線に 換算すると10‑21mGy, 1日あたり0.25‑0.51mGy/day と見積もられた8).

また,地上での(,備実験では.紫外線uVB, a線, γ線,いずれも,嫡化率,羽化率に影響が見られたが.

今Inlの実験では,羽化率で違いが見られなかった.これ は, '‑Hlf船内の環境が, γ線のみならず,垂粒子線に曝 されること,微小車力であること,それらの相乗効果な どによるものと考えられる.

地上でのJ',備実験の結果と比較すると,宇宙実験の蛸 化率.羽化率がかなり低いものとなっている.この原因 は,搭載したカイコ休眠卵があまり状態のよいものでな かったことが考えられる.度重なる打ち上げ延期の際に 休眠卵を作りl自二したが,その調整がうまくいかなかった ものと思われる.さらに,通常カイコ卵を購入している 業器も廃業となったことから,購入したカイコ卵白体が 状態のよいものでなかった可能性もある.

地上予備実験では,微小重力のみの影響,屯粒子線の 影響を観察することが望ましいが,いずれも現状では, 実施不可能および困難である. γ線の線量については, 字[If船内の集積線量に近い線量で実施することが望まし いが,実験方法で述べた理由からこの線量が適切である と考えている.

5.鰐化率とCR39の線量の関係

ミールに搭載したカイコ休眠卵のホルダーにはCR39 と呼ばれる放射線計測板が付着されていた. CR39は, 放射線がCR39にヒットすると,放射線の原子核の飛程

(7)

IE! 森 本 弘 一・堺   裕 史・山 岡 史 賢・大 西 武 雄

が飛跡として確り.その飛跡から放射線の線量を求める ことができるものである.このCR39により記録された

‖及収線量,線量当呈を調べてみると,ホルダー内の卵の 位置により吸収線量と線量当量が異なっていることが分 かった9).そこで.吸収線量6.325×10"DmGy以上,線 量当量1.024×10  mSv以上とホルダ‑内でも放射線量 が高い位置に置かれたカイコ休眠卵の楯化率を求める と, 75.7%であった.調べたホルダー(ミール1)全体 の肺化率は74.0%であり,大きな違いは見られなかっ た.

6.ミール利用実験における突然変異率

ミールに搭載したカイコ休眠卵の突然変異率は表2に 示す通りであった.観察された突然変異はpeに関連す るもののみでreに関連する突然変異は見られなかった.

また,今回飼育したpere卵の婚化が悪く成長が遅れた ため,地Lの対照実験のカイコ休眠卵との交配をするこ とができなかったので,ミールに搭載したカイコ休眠卵 のみの突然変異率を求めた.なお,文献等で示されてい

るコントロール実験での突然変異率は10‑ である(7) 地上での予備実験の結果と比べると.測定された線量 が低いにもかかわらず,突然変異率が地上予備実験と同 様な結果となっている.これは,宇宙での重力による影 響があるのかもしれない.

表2 ミールに搭載したカイコ休眠卵の突然変異率 ホルダー    突然変異率(%)

ミール     13.0×10 3 ミール       10.6×io‑

平均      12.4X io‑

結 請

ロシアの宇宙ステーション「ミール」を用いて,カイ コの休眠卵に及ぼす宇宙線の影響を調べた〕 「ミール」

船内に置かれたカイコ休眠卵と地上に置かれたカイコ休 眠卵との間では,楯化率と蛸化率に違いが見られ, 「ミ ール」船内に置かれたものの方が乍存率が存意に低かっ

た.しかし.羽化率には違いが見られなかった.特定座 位法を用いてJ突然変異率を調べたところ, 12.4×10"と いう高い突然変異率であった.これらの原関は,宇宙線

と微小重力の相互作間によるものと考えられる.

謝   辞

本実験は宇宙開発事業団および(財)宇宙環境利用推 進センターの支援により実施した.さらに,実験機器の 開発,宇宙実験の運用などには,ロシア宇宙庁, RSCエ ネルギア杜. (株日]揮. (秩)三菱垂⊥業, (柿)東レリサ ーチセンターのご協力を頂いた.これらの各機関に感謝 申し上げる.

文 献

Doke,T‥ Hayashi.T., Kikuchi, J., Hasebc, N., Nagaoka, S., Kato・

M., and Badhwar, G. D., (1995) Real Time Measurement of LET Distribution in the IML‑2 Spacelab (STS‑65). Nuclear lnst, and Methods in Phs. Res., A365, 524‑532

2 ) Hayashi, T., Doke,T., Kikuchi, J., Takeuchi, R., Hasebe, N., Ogura, K., Nagaoka, S., Kato. M., and Badhwar, G, D., (1996) Measurement of LET distribution and dose equivalent on board the Space Shuttle STS‑65, Radiation Measurements, 26 (6), 935‑945

3 ) Sekiugchi, T.. Doke, T‥ Hayashi, T., Kikuchi, J., Hascbe, N.,

Kashiwagi, T.. Takashima, T., Takahashi, K., Nakano. T‥

Nagaok礼S., Kato, M., and Badhwar, G. DH (1997) Radiation Dosimetry Measurement with Real Time Radiation Monitor】ng Device (RRMD‑It) in Space Shuttle STS‑79, Jpn. J. Appl.

phys., 36 (12A), 7453‑7459

4) n本アイソトープ協会編(1996)やさしい放射線とアイソ トープ.34,0本アイソトープ協会

5) Bucker. H.I Horneck, G., Reitz, E., Graul, H., Berger, H.,

Hoffken, W., Ruther, W., Heinrich, W‥ and Beaujean, R.,

(1996) Embryogenesis and Organogencsis of Carausius moro‑

susu under Spacefligh【 Conditions. Naturwissenschaften, 73, 433‑434

6) Ikenaga, M., Yoshikawa. I,. Koji, M., Araki, T.I Ryo, H., Ishizaki, K., Kato. T., Yamamoto. H.. and Hara, R.、 (1997〕

Mutations nlduced in Dorosophila during the Spaceilight. Biol.

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7)村上昭雄(1982日放射線と突然変異.変異原と毒性5 (6),

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8)藤高相信・保田浩志(1998) :スペースシャトル及びミ‑

ル利悶宇宙実験結果報告会予稿集, IV‑ll

9)小倉紘一・松島il二直(1998) :スペースシャトル及びミー 'i f‑1j町:'l(1'Iキ味結')用111言? )'稿集IV‑19‑IV‑24

参照

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