熱帯医学 第16巻 第2号 85−87貢,1974年6月 85
西サモアでみられた黒色真菌症の1例
西本勝太郎
長崎大学医学部皮膚科単数室(主任:野北通夫教授〕
Tapeni FAAIUASO
Apia GeneralHoSpital,l楠∫tern Samoa
A chromomycosis case in Western Samoa
Katsutaro NISHIMOTO(DqpartTTaTadDerTTutOtOSy,NasⅦsakitのiverSiLy Sthoqlqf胞dic孟Ta);
TapeniFAAIUASO(J卸のGenuralHの岬ila吉,WのSternSのnrua〕
Abstract : A 66 years-old male Polynesian farmer visited Apia General Hospital on May 18, 1973, for the granulomatous lesions on his left leg. Fifteen years ago, he suffered a crush wound during work in the plantation of bananas coconuts and taros. The wound healed by medical treatment but soon after he noticed a granulomatous lesion on the site of previous scar tissue. The lesion became gradually enlarged and made cauliflower-like ulcerogranulomatous vegetations with central healing occupying almost entire left leg.
KOH-examination of crust and necrotic mass from lesions revealed numerous dark brown.
hyphae and spores with septation. Materials from the lesions were cultured on Sabouraud's glucose agar slants containing cycloheximide and chloramphenicol at room temperature and yielded a slow growing, dark brown to greyish, flat colony with short aerial hyphae on its surface. Microscopically, Cladosporium-type (Hormodendrum-type) sporulatoin was recognized and the fungus was identified as Phialophora pedrosoi. This will be the first chromomycosis case reported from South Pacific islands.
Tropical Medicine, 16 (2), 85-87, June, 1974.
は じ め に
黒色真菌症(または黒色分芽菌症〕は,おもに熱帯 地方に分布する深在性の真菌症とされてほいるが,そ れらの中においてもかなりの頻度の差がみられ,一方 でほ少数例ながら寒帯に属する地方からも報告がみら れるなど,一応全世界に分布しているものと考えられ ている(Conant et aL..1971;Emmons e占al.,
1970〕i
しかLながら,まだこの症例の報告のない地方もか なりあり,それらの地方における症例の有無,あるい は頻度,菌学などについて大きな興味がもたれている ものである.今回著者ほ,南太平洋の島暁に属する西 サモア国(南緯13〜140,西経171〜1730)におい
て,皮膚病検診の際本症の1例を発見し その,菌学 的検索を行なう機会をもったので症例と併わせて報告 する.
南太平洋の島暁における本症の報告ほまだみられて おらず,本症例はその第1例に当たると思われる.
症 例
66才農夫,ポリネシア系サモア人.これまで西サモ ア国以外に居住Lたことほないi
約15年前,バナナ,ココナツ,タロ芋などの農園で 作業中,岩にほさまれて左足関節内側に挫創をうけた.
この創は医治により間もなく軽快したが.その後同部 に(療病の上に)肉芽腫性潰瘍を生じ,Lだいに拡大
Received for publication,March13,1974
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Lて釆た。この間数回にわたる病巣の切除をうけたが,
その都度再発Lたと云う曝
1973年6月,著者が診た時にほ,病巣はほぼ左下版 全般を占める程に拡大していたiすなわち,左足関節 内側より足世 下腿にかけて巨大な,不規則に隆起し た肉芽腫があり,辺線は明確に正常皮面よりもり上っ ているが,それらの周臣削こはほぼ同じ性状をもった娘 病巣が,址=漿 膝蓋部より大腿にまで点々と散在また ほ集族Lている.これらの病巣はいずれも鮮紅色でカ リフラワμ様の増殖を示めしており,易出血性である.
中央部ほ療病形成の傾向を示めすが,色素の沈着ほむ Lろすくない.悪臭もあまり発しない(Photo・1)・
リン㌧ペ節の腫大なL.その他簡単な打聴診において ほ,とくに転移と思われる病巣はなかった.病理組織 学的検索ほ行なえなかった.
菌 学 的 検 索
病巣よりの壊死組織,痴皮,鱗屑痴などについて KOH標本による検索を行ない,いずれよりも褐色調 を示めす菌糸,一部に分割線を有する大型の胞子
(Sclerotic cell〕などを豊富に認めた(Photo・2)・
現地において分離培養は行なえなかったが,その後 長崎大学医学部皮膚科学教室において,病的材料をグ
ロマイ・アクチジオン加サブロ【培地上に培養するこ とにより,病原菌の分離を行なうことが出来た.
分離された菌は,発育がやや遅く,30日で経約40 mmに達するi表面ほほぼ一様な帯緑灰褐色で短か い気中菌糸を有し,ビロ←ド司紫 中心掛こ小さな睦ま りをもち,そこより教条の放射状のヒダを作る.培地 内への発育も旺盛で,周辺にほ黒色の培地内菌糸を巾 数mm生じている(Photo・3〕・
スライドカルチャ岬でほ Hormodendrum型
(C】adosporium型)と一部Acrotheca塑の分生子形 成をしめL,これらにより Conant e&al・(1971〕,
Ajello軌a孟(柑髄),高橋(1956)にしたがい木簡を mのt叩ゐ即apear舶0去(Hのrmロ血相ar撼調pear脚わと同 定した(Photo.4〕廿
かんがえとま とめ
さきにのべたように,(いわゆる症状皮ふ典型の〕
黒色某菌症の分布はほとんど全世界に蛹んでおり,そ れらの臨床症状などについてほほぼつくされた感があ るが,それでもなお報告のみられない土地もかなり残 っている.著者の知るかぎりでは,これまで南太平洋 の島々においてほ本症の報告がみられておらず,本例 はその第1例に当たると思われる.
一方その原因菌である黒色菌群についてほ,その菌 種,各地方における分布状態において若干の特色がみ られる.すなわち,まずmiaiqeゐ卯a pearO甜孟 ほ原 困菌とLてもっとも多く分離されており,その分布も 全世界にわたっている.これに対L Cta〔iospⅣi緑m ear孟餓茄ほオーストラリア,ベネズエラ,南アフリカ などに限局して見出されており,また用のt叩鮎ra 曲r打u由ia誌 は極東とくに日本に多いと云う具合であ
る.
これらの真菌がどのような方法,経路をへて全世界 に分布するようになったかほ明らかでほないが,たと
えば高等植物,動物などについては,オμストラリア 大陸の間にウォーレス油新ウォーレス線,ウェーバ ー線などその分布上の境界がみられているし,またア ジアとアメリカ大陸の間にほ,人類を含めた動植物の 類似もみられるなど,それらの発紫進展の経路をし めす例証が残っている(山田常雄他,1960〕■
其菌などを含む下等な動植物においては,これらの 推測をなすに足る証拠ほ,その体細胞や組織の構築上 の特徴のために残されていないが,自然界(たとえば 土中など〕における生括を行なうのと同時に,また人 間その他の動物に対する寄生生活をも行なうこれらの 真菌群の分布の拡大と進展の解明についてほ,今後さ らに詳細な検討を要しようi
西サモアを含む南太平洋の諸島ほ,まさにアジア,
オーストラリアとアメリカ大陸の中間に位置Lており,
そこから用撼叩払Ⅶμ血舶跡見出されたと云うこ とは非常に興味深いことであり,今後の,この地方の 某菌相や下等動植物相などの調査により,これらの島 々に真菌が定着するようになった経路も判明Lていく のでほないかと思われる.
(野北教授の御校閲に深謝する。〕
文 献
1〕Ajello,L.,Georg,L.K.,Kaplan,W.& Kaufman,L・(1966):Laboratory Manualfor Medica】Mycology.F.7iCommunicable Disease Center・Atlantai
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2〕Conant,N.F.,Smith,D.T.,Baker,R・D・&Callaway,J・L・(1971):Manualof Clinical
Myco]ogy・3rd ed・P・503・
3〕Emm。nS,C.W.,Binford,CiH.&Utz,J.P.(1970):MedicalMycology,2nded■P・347・
4〕高橋吉定(1956):日本皮膚科学全書ⅩIi金原出世 5)山田常雄編(1960):生物学辞典.岩波書店
Explanation of photographs・
Ph。t。.1. Cau]iflower・1ike]esions with centralhea]ing oLltheleftleg・
Photo.2. Dark・brown sclerotic cells andhyphaeinnecrotic mos$fromlesion・
Pho七0.3i f%ialqphofaPedroSO孟,30daysonSabouraud,sglucoseagar at roomtemperaturei Photo.4i Cladosporium・tyPe SPOru1ation withshort chains・