論文審査の結果の要旨
氏名:村 松 輝 晃
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:顎口腔領域疾患への先端的画像診断法の評価
審査委員(主査)日本大学教授 歯学博士 岡田裕之
(副査)日本大学教授 歯学博士 小方賴昌
(副査) 日本大学教授 博士(歯学) 金田 隆
顎口腔領域疾患への画像診断法は従来から単純エックス線検査を中心とした方法が用いられてきた。
しかしながら、炎症や悪性腫瘍の進展範囲や良悪性の鑑別診断等に十分な検査法ではなかった。
近年、臨床のエックス線とは異なる新しいタイプの電磁放射現象を用いた、エックス線の一つとし て単色エックス線のパラメトリックエックス線(Parametric radiation-based X-ray: PXR)が注目さ れ、新たな画像診断用エックス線源の研究が進められている。日本大学量子科学研究所(Laboratory for Electron Beam Research and Application : LEBRA)では、独自の技術により、世界で唯一長時間の安 定したパラメトリックエックス線(LEBRA-PXR)を発生させることに成功した。しかしながら、PXR に関する医療応用の研究は世界でも非常に乏しい。また、顎口腔領域の疾患に対してエックス線を利 用しない画像診断法および診断装置の臨床的有用性は益々高まっている。歯周炎は歯肉の炎症と歯槽 骨の吸収を主徴候とする疾患であり、日常臨床にて主に歯周病検査とエックス線検査で歯周炎の診断 がなされている。しかしながら、顎骨骨髄が歯周炎によりどのように反応するかはいまだ報告されて いない。全身の筋骨格系では骨髄の画像化にMRIが有用とされ、そのうち悪性腫瘍や全身疾患等の重 大疾患に随伴する骨髄浮腫はMRIの信号異常として観察される。しかしながら、歯周炎と顎骨骨髄浮 腫との関係についての検討はいまだみられない。
本論文の著者の研究目的は、1) 新たなエックス線源としてLEBRA-PXRの画像診断への可能性を 評価し、2)エックス線を用いない歯周炎の診断装置として、被曝のないMRI検査を用い、歯周炎に よる下顎骨骨髄浮腫について検討し、顎口腔領域疾患への先端的画像診断法の評価を行うことである。
本研究は、日本大学松戸歯学部倫理委員会 (EC12-009)によって承認を受けている。PXRの研 究は、悪性黒色腫に罹患した犬下顎骨を対象とし評価した。LEBRA-PXRの線源を用いて単純エック ス線検査を施行し、そこで得られたエネルギーサブトラクション画像、従来法エックス線画像および 病理組織学的所見を比較検討した。エネルギーサブトラクションはLEBRA-PXRを用いて異なる条件 の波長で撮影し、これらの最長波長および最短波長のPXR画像からエネルギーサブトラクション画像 を生成した。撮影後、対象組織にHematoxylin-Eosin重染色を施行し、顕微鏡下で観察を行った。
MRIを用いた歯周炎の下顎骨骨髄浮腫の検討は、2006年8月から2012年8月までに、本学付属病 院で脳ドックのためにMRI検査を施行した104例の下顎骨を左右の前歯部、小臼歯部および大臼歯 部に分け、歯周炎と臨床診断された412部位を対象とした。また、対象を①歯槽骨吸収および4mm 以上のプロービングポケット深さ(PPD)がみられた、②歯槽骨吸収およびプロービング時の出血
(Bleeding on Probing (BOP))がみられた、③歯槽骨吸収、4mm以上のPPDおよびBOPがみられ た、④歯槽骨吸収のみがみられた部位の4パターンに分け、それぞれのブロックでMRI short tau inversion recovery 法(以下STIR法) 画像での骨髄信号強度を評価した。信号強度は、脳脊髄液の高信
号、筋肉の中信号、脂肪の低信号を基準とし、さらに中~高信号、低~中信号を加えた計5段階評価 を行い、低信号を正常骨髄、低信号より高い信号強度を呈した場合を骨髄浮腫として評価した。
本研究により。次のような結果を得た。
1) LEBRA-PXRは、従来のX線画像と比較して波長を変化させることにより、悪性黒色腫の進展範 囲がより明確に判定された。特にエネルギーサブトラクション画像により、従来のエックス線検 査とは異なる軟組織や骨の形態および骨構造に関する情報を得ることができた。組織学的所見と 比較すると、悪性腫瘍のLEBRA-PXR画像は、従来のエックス線画像では不可能であった、悪性 腫瘍の軟組織進展範囲も病理組織像に近似した像を呈した。
2) MRIを用いた歯周炎の下顎骨骨髄浮腫の検討は、歯周炎がみられた412部位のうち365部位 に下顎骨骨髄浮腫が認められ、歯周炎で有意に骨髄浮腫がみられた(P <0.01)。
本検討により、単波長のLEBRA-PXRは従来のエックス線源よりも悪性腫瘍検出や進展範囲の画像 診断に有用と示唆された。また、MRIにて歯周炎患者の下顎骨骨髄に骨髄浮腫が高率にみられ、エッ クス線を用いない新しい歯周炎の診断法としてMRIの有用性が示唆されたと結論付けている。
本研究は、従来では得られなかった新しい画像検査法による顎口腔領域疾患への先端的画像診断法 の新たな可能性を示したものであり、歯科医学ならびに放射線学に大きく寄与し、今後一層の発展が 望めるものである。
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平成28年1月28日