イノシトールリン脂質およびその構造類縁体に関する研究:
HIV Gag蛋⽩質との相互作⽤と創薬展開
創薬・⽣命薬科学専攻 メディシナルケミストリーコース
⽣体機能分⼦合成学分野 ⽴⽯ ⼤
⽣体内では様々なイノシトールリン脂質やその類縁体が存在し、細胞膜の構成やシ グナル伝達、蛋⽩質の膜局在など多岐にわたる役割を担っていることが知られている。
近年、HIV-1感染細胞からのウイルス粒⼦放出に、ホスファチジルイノシトール(4, 5)
2リン酸(PIP2)が関与していることが報告された。Gag蛋⽩質はHIV-1の構造蛋⽩質で
あり、
Highly basic regionと疎⽔性ポケットをもつMAドメインがN末端に存在する。そ
の領域に細胞膜中のPIP2が結合することにより膜移⾏がおこる。その後、Gag蛋⽩質 が多量体を形成し、ウイルス粒⼦が出芽・放出へと導かれる。当研究室では、MAと 強く結合し、Gag蛋⽩質の細胞膜結合を阻害するイノシトールリン脂質誘導体の研究 を進めてきた。その過程でMA領域との結合にはイノシトールリン脂質の酸性部位と 脂溶性部位の両⽅が結合に重要であるということ、さらにはイノシトール上にリン酸 基の数が多いほど結合が強まるといった知⾒を得た。本研究では、この知⾒を基にし た創薬展開やイノシトールリン脂質構造類縁体とMAとの相互作⽤などについて検討 した。
(1)
抗HIV
活性をもつ⾮天然型イノシトールリン脂質L -HIPPO
の開発阻害剤として、イノシトールの全てのヒドロキシル基にリン酸基をもつ
IP6
に脂溶 性部位を導⼊したIP6
誘導体6
種類を合成した。これら誘導体の合成は、イノシトー ル部位と脂溶性部位のアミダイト試薬を⽤いたカップリングにより⾏なった。合成した誘導体と
MA
蛋⽩質との結合解離定数をSurface Plasmon Resonance ( SPR)
にて測定したところ、L -HIPPO
が最も強くMA
蛋⽩質に結合した(KD = 180 nM)。 L -
HIPPO
はL
型のイノシトール⾻格もち、かつイノシトールに6
個のリン酸と脂質をもつという
2
つの意味で⾮天然型である。次にDL -HIPPO
を細胞内導⼊キャリアであ るα-CDEと混合しHIV-1
蛋⽩質発現細胞に加えたところ、Gag 蛋⽩質の膜局在を顕 著に抑えていた。ウイルス放出抑制効果を確認したところ、L -HIPPO
を加えることに よりウイルス粒⼦の放出が75%減少していた。さらにインキュベーション時間を⻑く
すると感染細胞にアポトーシスを誘導することを⾒出した。これは細胞内に蓄積したOR OH RO
OR
RO OR
+
P OR+
N
N HO O
O R1
R2
Phosphoroamidite Glycerol moiety Inositol moiety
OR OR O
OR
RO OR
OP O
O
OH O
O O
L-HIPPO
R = -PO(OH)
2ウイルス蛋⽩質によると考えられ、この現象を“Lock-in and apoptosis”と命名した。本 知⾒は、HIV潜伏感染細胞の除去につながり得る。
(2)
カルジオリピン誘導体の合成および評価PIP2
以外のリン脂質類もMA
ドメインと結合すると考え、様々な⽣体内リン脂質 を検討した。その結果、ミトコンドリアの内膜に存在するカルジオリピン(CL)がPIP2
よりも強く結合することを⾒出した。この知⾒から、CL
誘導体とCL
にイノシトール⾻格を導⼊したハイブリッド化合物の合成を⾏なった。合成化合物と
MA
蛋⽩質Highly basic region
との結合解離定数をSPR
にて測定したが、MA 蛋⽩質のこの領域 との強固な結合は⾒られなかった。(3) IP6
のMA
との相互作⽤およびそのウイルス学的意義の解明IP6
は⽣体内に豊富に存在しており、MA
に対して側鎖が短いPIP2
と同程度の結合⼒であることを⾒出していた。これらの知⾒から、
IP6
がHIV
感染細胞内でGag
蛋⽩質に影響を与えていることが考えられた。そこで、IP6と精製
MA
蛋⽩質の共結晶を 作成し、X線結晶構造解析により結合様式の解明を⾏なった。その結果、IP6はPIP2
と同じHighly basic region
に結合することが明らかになった。次に、溶液中でのIP6
とMA
またはその変異体との相互作⽤をDifferential Scanning Fluorimetry (DSF)で確認し
た。溶液中でもIP6
がHighly basic region
の塩基性アミノ酸と相互作⽤していること が確認され、これらの結果からIP6
とMA
の結合にはMA
のK17, K26, K31
が重要で あることが判明した。さらに、MA蛋⽩質はPIP2
と結合すると熱安定性が16℃減少
するに対して、IP6と結合すると熱安定性が10 ℃
上昇することがわかった。⼆つの分⼦は同じ部位に結合するが、
MA
に対して異なる影響を与えていることが推測された。ウイルス学的意義など詳細については現在検討中である。
以上のように本研究では、
Gag
蛋⽩質膜移⾏阻害剤L -HIPPO
の開発に成功し、“lock-in and apoptosis”を提唱した。今⽇の HIV
治療の⽬標は体内から潜伏感染細胞を除去 することであり、“Lock-in and apoptosis”法は今後の治療につながることが期待される。また