耳 鼻 臨 床 72: 10; 1403∼1414, 1979 1403
研
究
顔 面神経幹損傷 におけ る神 経核 細胞 の
変性 度 につ いて
古
閑
次
夫
The Degree of Degeneration in the Facial Nerve
Nuclear cells after Facial Trunk Injuries
Tsuguo Kokan
(Kobe Univ.)
The state of degeneration and the resulting reactions were studied in grown cats
subjected to damage of the Fallopian canal.
1) By sharply amputating the nerves and obstructing their regeneration, I studied
the rate of nerve degeneration and the process of cell number decrease for a period of
time, in an attempt to discover a particular pattern.
The degeneration rate was found to increase after the amputation and reached a
peak of 33% at 2 weeks. The rate then decreased to 0 % in 4 weeks. The number of
cells also decreased gradually during the period.
2) Another observation was made by binding and applying pressure to the nerve
trunk of 1/2, 1/3 and 2/3 size of the diameter.
As a result, the degeneration of motor nuclear cells reached a peak of 37% in 2
weeks regardless of the severity of pressure. In 10 weeks, the degeneration decreased
to near 0%.
The rate of decrease in number of cells, however, varied according to
the severity of the pressure.
3) In another case, the binding was removed during the course of study and the
rate of degeneration and the cell-number decrease was observed in those cases.
The effect of relieved pressure on degeneration reached a peak on or before the
12th day after the operation.
This finding parallels observations made in experiments
on the decompression of peripheral nerves by Yamamoto & Fisch. (Proceedings, Third
Int. Symposium on Facial Nerve Surgery, 1976.)
From the above findings, the dynamics of degeneration of cells were clarified and
clinical problems such as partial treatment of Bell's palsy and synkinesis were further
explored.
1404 古 閑 次 夫 耳 鼻 臨床 72: 10
緒 言
側 頭骨 内 に お け る末 梢 性 顔 面 神 経 麻 痺(以 下 顔 神麻 痺 と略 す)の 原 因 に 関 して は, 初 め に耳 介 組
織 内 に症 状 の 出 るRamsay Hunt Syndrome以 外 で は 特 発 的 な もの が 一 番 多 く, 次 い で外 傷, 感
染 の順 に多 い1). この うち特 発 的 な もの と してBell麻 痺 が あ げ られ るが, こ の成 因 に 関 して は 幾
多 の研 究 報 告 が あ る. 近 来, 神 経 障害 の 原 因 と して Bunnell(1937)2)は 炎 症, 寒 冷説 を挙 げ,
Pollak(1924), Mygind alld Dederding(1929)は 循 環 不 全 か ら来 る神 経 の 腫 脹 によ るも の だ と
し, del Piano, Bergara and Bergara(1936)は 神 経 麻 痺 は血 管 うっ血 に よ る神 経 の圧 迫 のた め
で あ る と報 告 して い る3). ま たHilger(1949)4)はBell麻痺を虚 血性 神経 炎 と し, これ は分 節 的小 動 脈 の 痙 縮 によ って 生 じ るも ので, その 後 更 に二 次 的 現 象 と して 浮 腫 が起 こる と述 べ て い る. 従 来 顔 神 麻 痺 に おい て は, 神 経 損 傷 が 高 度 で あ る程 回復 が よ くな い こ とは 臨 床 的 に観 察 され て い る こと で あ る. そ こで 今 回 著者 は 顔 面 神 経 損 傷 に 際 し, 中枢 側 に起 こ る逆 行 性 変 性 に関 してNissl (1892)5)の 行 った 顔 面 神 経 核 細 胞(以 下 顔 神 核 細 胞 と略 す)の 変 性 状 態 を 観 察 した の に ヒ ン トを得, こ こに異 った神 経 損 傷 法, す なわ ち切 断法, 結 紮 法, 減荷 法 の3種 類 の 神経 損 傷 方 法 を 加 え, そ の 後 の顔 神核 細 胞 の 消 長 な らび に回 復 過 程 を 形 態 学 的 に観 察 し, 顔 神 麻痺 究 明 の 手 が か りを 得 ん と試 み, い ささか の 知 見 を 得 た の で 報 告 す る. 実験材料および 実験 方法 顔面 神経 末 梢 部 損 傷 負 荷 に よ る運 動 核 細 胞 の 変 化 の観 察. 健 康 な成 熟 ネ コ(約3kg)を 使 用, ネ ン ブ タ ー ル に て腹 腔 内麻 酔(25∼30mg/kg)後, 無 菌 的 に手 術用 顕 微 鏡 下 に右 外 耳 道 上 部 よ り鼓 室 内 に ア プ ロー チ し, 顔 面 神 経 管 を 削 開, 垂 直 部 か ら水 平 部へ の移 行 部 に おい て 神 経 幹 に実 験 操 作 を加 え た. 損 傷 後 一 定 期 間 生 存 せ し め たの ち, 大 動 脈 よ り生 理 的食 塩 水 な らび に10%フ ォル マ リンに て脳 の灌 流 固 定 を 行 い, 顔 面 神 経 運 動 核 (Photo-1)を 含 む脳 幹 部 分, す なわ ち前 は外 転 神経 枝 か ら, 後 は菱 形 窩 の 末 端 部 まで の 範 囲 を 摘 出 し, 流水 下 にて 水 洗 後 アル コール で 上 昇 固 定, パ ラ フ ィ ン包 埋 を 行 っ た. 左 右 対 称 とな る よ う に厚 さ4μの 連 続 切 片 を作 製, Nissl染 色 を 施 し細 胞 の観 察 に供 し た. す なわ ち神 経 細 胞 の 数 は光 学顕 微 鏡 下 に神 経 細 胞 核 の核 小 体 の 確 認 し得 る神経 細 胞 の み を求 め た. 変 性 細 胞 に 関 して は1枚 の プ レパ ラー トにの せ た5枚 の 連 続 切 片 標 本 の 変 性 細 胞 を1枚 づ っ数 え, そ の後 5枚 目 ご との プ レパ ラー トを 同様 に算 定 し, 最 後 に これ らの合 計 を5倍 した もの を変 性 細 胞 総 数 と した. 細 胞 総 数 お よ び 変性 細 胞 数 の 決定 に はRus-sel6)の理論を 採 用 した. そ れ等 よ り変 性率 を 求 め, 実 験 負 荷 の 期 間 と残 存 細胞 数 な らび に 変 性 率 との 関 係 を 求 め た. 変 性 細胞 の判 定 には, 武 谷(1971)7)の基準 に従 い, B, C, Dを 変 性 細 胞 と して 算 定 した. (Photo-2参 照) 神 経 幹 損 傷 負 荷 の 方 法 と して はFig. 1に 示 め す と お り切 断 群 ㈲, 結 紮 群(B), お よ び減 荷 群 (C)とした
耳 鼻 臨床 72: 10 顔 面 神経 幹 損 傷 に お け る神経 核細 胞 の 変性 度 にっ いて 1405 A 切 断 群 (amputatedgroup) 切 断 し た神 経 間 に は ス ポ ンジエ ル を挿 入 し, 両 切 断 部 が 癒 合 して 神 経 が 再 生 す るの を防 止 し た. ネ コ5匹 に神 経 切 断 操 作 を 施 して, それ ぞ れ1, 2, 3, 4, 6週 間 生 存 せ しめ た後, 顔 神 核 細 胞 総 数 お よ び 変 性 細 胞 総 数 を数 え, 更 に そ れ 等 よ り変 性 率 を 求 め た. B 結 紮 群 (ligated group) 1) 生 理 的 食 塩 水 に浸 した 外 科 用絹 糸3号 を 用 い, ネ コ8匹 に神 経 幹 の 直 径 が1/2にな る よ う に(Fig. 1-B1) 結 紮 操 作 を 施 して, それ ぞ れ 10, 14, 20, 21, 28, 42, 56, 70日 間生 存 せ し め た 後, 顔 神 核 細 胞 にっ い て 切 断 群 と同 様 の 観 察 を 行 った. 2) 結 紮 部 の 直 径 を 周 囲 神 経 幹 の1/3にし た時 (Fig. 1-B2)の 顔 神 核 細 胞 の 変性 状 態 を 観 察 し た. これ は1)の 結 果 か ら細 胞 数 の 減少 傾 向 の 少 な い7, 12, 17, 21日 目 にお け る顔 神 核 細 胞 が 結 紮 力 を 強 く した 時 に 如 何 な る変化 を来 た す か を 観察 した もの で あ る. 使 用 した ネ コは5匹 で あ る. 3) 結 紮 部 の 直 径 を 周 囲 神 経 幹 の2/3とし た時 (Fig. 1-B3)の 神 経 核 細 胞 の 変 性 状 態 を観 察 し た. これ は1)の 結 果 か ら細 胞 数 の 減少 傾 向 が大 きい56, 70日 目 に お け る神 経 核 細 胞 が 結紮 力 を 弱 くした 時 に如 何 な る変 化 を来 た す か を観 察 し た もの で, 使 用 し た ネ コは2匹 で あ る. C 減 荷 群(decompressed group) 一 定 期 間 結紮 後, 減圧 術 を施 して 再 び一 定 の 再 生 期 間 を 与 え た 神 経 核 細 胞 に っ いて, A, B 群 と同 様 の 観 察 を 行 った. これ は実 験 期 間 を14 日と定 め, 最 初 の 結 紮 日か ら数 え て3, 5, 7, 10, 12日 目 に減 圧 術 を 施 し た. な お 結 紮の 強 さ は直 径 が1/2(Fig. 1-B1)に な る よ う行 った. 実 験 結 果 切 断 群, 結 紮 群, 減 荷 群 に お け る顔 神 核 細 胞 総 数 と変 性 細 胞 数 お よ び変 性 率 は次 の如 くで あ
Photo-2 The State of Degeneration of Facial Nuclear Cells.
A. normal cells B. central chromatolyse
C. total 〃
D. retrograde degeneration
(Classification of S. Takeya. 1970)
Fig. 1 Damage of 3 Methods in Facial Nerve Trunk
A
B
C
c: central p: peripheral 1: half diameter by ligation 2: one third diameter by ligation
1406 古 閑 次 夫 一 耳 鼻 臨床 72: 10 る. A 切 断群 (amputated group) 切 断 後6週 目まで の各 期 間 の顔 神 核 細 胞 総 数 お よ び変 性 細 胞 数 をTable. 1に 示 し, Fig. 2 に顔 神 核 細 胞数 の推 移 を示 す. 顔 神 核 細胞 総 数 は切 数 断後4週 目頃 ま で は漸 次 減 少 す るが, それ 以 後 は あ ま り減 少 傾 向 は み られ な い. (Fig. 2) 変 性 細 胞 の残 存 細 胞 数 に 対 す る 変 性 率 は, Fig. 3の 如 く切 断後2週 目で最 高 値33%に 達 し, そ の後 は漸 次 減 少, 4週 目 に は0%と な り 変 性 細 胞 は見 られ な い. B 結 紮 群 (ligated group) 1) 神 経 幹 の 直 径 が 周 囲神 経 幹 の1/2(B1群) とな る よ う結 紮 し た場 合 の各 時 点 に お け る神経 核 細 胞 総 数 な らび に変 性 細 胞 数, 変 性 率 をTa-ble. 2に 示 し, 神 経 核 細 胞 総 数 の 推移 をFig. 4に ●印 で示 す. 神 経 核 細 胞 総 数 の 減 少 は4週 目頃 まで は極 く僅 か で は あ るが, そ の 後 は漸 次 減 少 す る傾 向 が み られ る. また 変 性 率 の推 移 は Fig. 5●印 に示 す 如 く切 断 群(Fig. 3)と 同様 に2週 目 に最 高 に達 し, 37%と な り, 以 後 は4 週 目頃 まで 急 速 に低 下 し, その 後 は 漸 減 し, 10 週 目で ほ ぼ0%と な る. 2) 神 経 幹 の 直 径 が 周 囲 神 経 幹 の1/3(B2群) とな る よ う結 紮 した 場 合, す な わ ち1)よ りも強 い 圧 迫 方 法 で の 神 経 核 細 胞 数 な らび に変性 率 の
結 果 をTable. 3お よ びFig. 4, Fig. 5に ■
印 で 示 す. B1群(Fig. 4●印)の 同時 期 の も の とそ れ ぞ れ 比 較 す る と, い ず れ の 時期 に お い て も神 経 核 細 胞 数 は 少 な い. 3) 神 経 幹 の 直 径 が 周 囲 神 経 幹 の2/3 (B3群) とな るよ う結紮 した場 合(Table. 4), す なわ ちB1群 よ りも 弱 い圧 迫方 法(Fig. 4▲印)で は, 8∼10週 目 にお い て そ れ ぞ れB1群 に よ る同 時 期 の 細 胞 総 数 と比 較 して 多 く残存 し て い る (Fig. 4), 以 上3種 類 の 結紮 法 に よ る 結 果 を 比 較 す る と, 神経 幹 圧 迫 の 強 さが 神 経 核 細胞 数 の 変 化 に 影 響 す るの が 明 瞭 で あ る. 一方 これ ら3種 類 の Table. 1
The Number and Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells
(amputated group)
IS: the number of inflicted side w: week DC: the number of degenerating cell
GD: grade of degeneration in facial nuclear cells
Fig. 2 The Number of Facial Nuclear Cells (amputated group)
N: number W: week
●-●amputated group
Fig. 3 The Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells (amputated group)
耳 鼻 臨床 72: 10 顔 面 神経 幹 損 傷 に お け る神 経 核 細 胞 の 変 性度 につ い て 1407 結 紮 方 法 に お け る 変 性 率(Fig. 5)は い ず れ の 時 期 に お い て も ほ ぼ 一 致 し て お り, 換 言 す れ ば 細 胞 の 変 性 率 は 圧 迫 の 強 さ に よ り 左 右 さ れ な い こ と が わ か る. C 減 荷 群 (decompressed group) 各stage(3, 5, 7, 10, 12日 目)に お い て 減 圧 を 施 し た 場 合 の14日 目 に お け る 残 存 細 胞 数 に は 多 少 の ば ら つ き が あ る (Table. 5, Fig. 6, Fig. 7). 特 に3日 目 の4匹, 10日 目 の2 匹 に つ い て は そ れ ぞ れ 最 高 値 と 最 低 値 の 差 が 1000∼1300も あ る. 然 し, こ れ ら減 荷 群 細 胞 数 Table. 2
The Number and Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells (half diameter by ligation)
IS: the number of inflicted side
DC: 〃 〃 〃degenerating cell
GD: grade of degeneration in facial nuclear cells
D: day W: week
Fig. 4 The Number of Facial Nuclear Cells (ligated group)
N: number W: week
(B1) ●-●half dlameter by llgatlon
(B2) ■one thlrd dlameter by l-gatlon
(B3) ▲two thlrds 〃 〃 〃
Fig. 5 The Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells (ligated group)
(B1) ●-●: half diameter by legation W: week (B2) ■: one thlrd dlameter by llgatlon (B3) ▲: two thlrds 〃 〃 〃
Table. 3
The Number and Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells (one third diameter by ligation)
IS: thenumberofinflictedside
DC: 〃 〃 〃 degeneratingcell
GD: gradeofdegenerationinfacialnuclearcells
D: day W: week
Table. 4
The Number and Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells (two thirds diameter by ligation)
IS: the number of inflicted side W: week
DC: 〃 〃 〃 degenerating celI
1408 古 閑 次 夫 耳 鼻 臨 床 72: 10 の 減 少 度 と 減 圧 期 と の 関 係 は 相 関 係 数 γ=-0. 52(n: 12)で5%の 危 険 率 で 有 意 で あ る. 細 胞 数 をY, 減 圧 時 期 をX(日)と す る と, Y=-87.4X+6460の 式 が 成 り 立 つ(Fig. 7), 一 方 変 性 率 に っ い て は, 各stageに お け る 複 数 の 実 験 例 にお い て, 殆 ん ど差 が 認 め られ なか った (Table. 5). 10日 を境 と して これ よ り後 減 荷 を 施 した場 合, 変 性 率 は急 上 昇 の 傾 向が 認 め ら れ た(Fig. 6). 結 紮7日 ∼14日 以 内 の変 性 率 の 推 移 と, そ の 期 間 に減荷 した場 合 の14日 目 に お け る変 性 率 と を 比 較 した の がFig. 8で あ る. 考 按 神 経 核 を 構 成 す る神 経 細胞 のcountに あた って は 出来 る限 り誤差 の少 な い こ とが 望 ま し く, それ に は切 片 の 厚 さ, 算 出 の 仕方 が影 響 し て く る. Agduhr8), Abercrombie9)は 理 論 的 Table. 5
The Number and Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells (decompressed group)
IS: the number of inflicted side D: day
DC: 〃 〃 〃 degenerating cell
GD: grade of degeneration in facial nuclear cells
Fig. 6 The Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells (decompressed group)
Hdecompressed group
D: day (ligated term)
Fig. 7 The Number of Facial Nuclear Cells
(decompressed group)
N: number D: day
■decompressed group
Y=-87.4X+6460
Figi. 8 The Grade of Degeneration in Facial Nuclear Cells
●-●ligated group ●→▲: 2days (regenerated term) ●→■: 4days(〃 〃) ●→△: 7days (〃 〃)
D: day (ligated term)
(comparison betweenli gation and decompression)
耳 鼻 臨 床 72: 10 顔 面神 経 幹 損 傷 に お け る神 経 核 細 胞 の変 性 度 につ い て 1409 に切 片 の 厚 さの 定 め 方, 細 胞 数 の 算 出 の仕 方 を 述 べ て い る. 切 片 の厚 さ決 定 に つ い て はAbe-rcrombie9)の 理 論 を 参 考 に し た. す な わ ち本 実 験 標 本 に おい て は正 常 神 経 小 核 が ほ ぼ一 様 に 円形 で あ った こ と. 計 測 に よ る直 径 が 信 頼 限界 99%の 範 囲 で3.96≧m3.45μ(sample 50中 平 均3.70μ)と 大 き さ の ば らっ き範 囲 が大 き く な い こ との 理 由 に よ り, また 細 胞 の 算 定 洩 れ を 出来 るだ け少 な くし たい とい う著 者 の意 図 も あ って薄 切 々片 の 厚 さを4μと し た. 細 胞 総 数 の 決 定 につ い て は, 仮 りにAbercrombie9)の理 論 に従 う とす れ ば, 本 実 験 の 場 合, 神 経 細 胞 総 数 をS, 算 定 総 数 をs, 薄 切 々片 の 厚 さL, 細 胞 の 直 径 をMと す る とS=s×L/L+Mと な り, L=4μ, Mの 平 均3.7μで あ る か らS=s× 4/7.7=1/2sと な り, 神 経 核 を構 成 す る細 胞 総 数 は 実 測値 の 半 分 とい う こ とに な る. これ は 核小 体 が ミク ロ トー ム によ り切 断 され るで あ ろ う とい う こ とを念 頭 に お い て は じ き出 され た理 論 で あ るが, 一 方Russel6)は具体的な薄切実 験 に よ って, 細 胞 総 数 の算 出 の た め に は薄 切 々 片 の厚 さは あ る範 囲 内 で あれ ば厳 密 に定 め る必 要 は な い と して お り, 算 定 総 数 す な わ ち細 胞 総 数 で あ る こ とを 実 証 し, 複 雑 な計 算 も行 って い な い. 彼 は これ に っ いて, 核 小 体 は周 囲の 組 織 や パ ラ プ ィ ン等 と の 固 さの 違 い に よ り, ミク ロ トー ム に よ り分 割 され る2切 片 標 本 の い ず れ か に お しや られ るた め, 切 断 され る こ とは極 め て 少 な い と考 按 し た. 事 実, 著 者 が 正 常 組 織 標本 の 中 に見 る核 小 体 は ほぼ3∼4μの 間 に あ り, これ 等 は核 小 体 を 取 り囲 む 周 囲 細 胞 体 との 関係 か ら切 断 され た もの と はみ な し難 か った. 従 っ て, 細 胞 総 数 の 決 定 にはRussel6)の理論に基 き, 5枚 に1枚 の 割 合 で4μ切 片 の 核 小 体 を 含 む 細 胞 総 数 を算 定 し, これ 等 の総 和 を5倍 した もの を顔 面 神経 運動 核 構 成 の細 胞 総 数 とみ な し た. Buskirk10)は正常ネコ13匹, 26側 につ い て顔 面 神 経 核 細 胞 総 数 を 数 え, 最 低4610, 最 高 9790, 平 均7734と し た. これ は著 者 の 実 験 によ り推 察 す る正 常 核 細 胞 数6000∼7000(後 述)と ほ ぼ一 致 す るが, 彼 は薄 切 々片 の厚 さを10μと し, 算 定 法 にっ いて はRussel6)の方法によって い る. 実 際 に算 定 に 当 る と, 著 者 は正 常側 に お け る顔 面 神 経 核 の 細 胞 数 を 個 々の 症 例 に つ い て 正 確 に算 定 し得 な か った. これ は神 経 核 の あ る 部 分 の 高 さで は周 辺 の 細 胞 と接 して お り, それ ら との 境 界 を 明 瞭 に把 握 し得 な か っ た た め で あ る. Buskirk10)は境界判別 の 困 難 さ につ いて は
触 れ て い な い が, Schwalbe, K6lliker,
Hud-overnig, Yagita等 は顔 面 神 経 下 極 に お け る疑 核 との連 絡 性 に っ い て述 べ ている10). Papez11) は顔 面 神 経 核 内 に お け る末 梢 支 配 の subdivis-ion追 求 の た め に軸 索 損 傷 法 を 用 い たが, 末 梢 に お け る損 傷 が 中 枢 細 胞 お よび 神 経 核 に与 え る 濃 染 性, 膨 化, 腫 脹 等 の 故 に, 周 囲 との 境 界 部 決 定 が 容 易 にな る こ とを述 べ, これ 等 の 現 象 が 細 胞 の 変 性 によ る もの で は な く, 損 傷 後 ま もな く始 ま る中 枢 にお け る再 生 現 象 が先 行 す るた め と して い る. 彼 は この現 象 は 神経 線 維 損 傷 後2∼3日 目が 強 くな り, 漸 次 槌 色 して い くと述 べ て い るが, そ の時 間 的 な こ と につ い て は触 れ て いな い. 一 方Bucy12)は染色性 が 最 も強 くな るの は変 性 率 が 最 高 に達 す る2週 目頃 と して い る. この 点 に っ い て は著 者 も全 く同 感 で あ る. 2週 目以 降 で は細 胞 密 度 が 周 囲 細 胞 群 の それ と比 較 して 小 さ くな るた め, 境 界 部判 別 に 困 難 は な か っ た. Brodal13)も脳にお け る核 の位 置 づ け に逆 行 性 変 性 によ る細 胞染 色 性 の違 い を 利 用 し て い る が, 特 に幼 若 動物 に こ の現 象 が 著 し い こ と を指 摘 し, これ はGuddenの 変 法 と して 知 られ て い る. 著 者 は既 述 の如 く, 正 常側 の正 確 な細 胞数 は 把 握 し得 な か った が, 術側 に お け る 全 細 胞 数 は, 変 性 が 始 ま りか け の1週 目で は ま だ細 胞 の 崩 壊 は 始 ま って い な い と結 論 され, 正 常 細 胞 数 とみ な し得 る. 切 断例 最 高 で6424 (1週 目),
1410 古 閑 次 夫 耳 鼻 臨 床 72: 10 結 紮 例6661(10日 目), 減圧 例6848(5日 間結 紮 後9日 間 再 生)で あ る こ と よ り, 正 常細 胞 数 は約6500前 後 と推 察 し た. そ し て誤 差 範 囲 の少 な い 減 荷 群(Table. 5, Fig. 7)の 神 経 核 細 胞 数 お よ び変 性 率 か ら, 著 者 は神 経 核 細 胞 の平 均 値 が3日 目 の4匹 で は5978±457で あ る こと よ り, 正 常 細 胞 数 を 信 頼 限界95%の 範 囲 で は5978 ±840.99%の 範 囲 で は5978±1541, 同 様 に3 日目か ら10目 まで の10匹 で は平 均 値5989±1770 で あ る こ と よ り, 信 頼 限 界95%の 範 囲で は5989 ±1333, 99%の 範 囲で は5989±1917等 の値 を得 た. 末 梢 神 経 に損 傷 が 加 わ った場 合, 神 経 細 胞 に 変 化 の生 じ る こ とを最 初 に指 摘 し た の は, Vu-lpianお よ びGoldnerと 言 わ れ て い るが14), Nissl5)は家兎 の 顔 面 神 経 を 用 い, 運 動 核 に お け る逆 行 性 変 性 の形 態 学 的 変 化 を 明 ら か に し た. 以後 変 性 お よ び再 生 の観 察 が 多 数 の 学 者 に よ って な され (Table. 6), 用 い る動 物, 神 経 の 種 類 も様 々で あ る. Geist15)は自らの実験で使 用 す る動 物 の種 類, 年 令, 損 傷 部 と細 胞 群 の 距 離 術 後 の生 存 期 間, 損 傷 を 受 け るニ ュ ー ロ ン の 機 能 的, 形 態 的 な 型 に よ り中 枢 核 構 成 細 胞 の 辿 る運 命 は異 な る と して い る. 著 者 も この 点 に 留 意 して, 結 紮 の 場 所, 結紮 に よ る圧 迫 力 が一 定 にな る よ う に材 料 も3kg前 後 の健 康 な 成 猫 を 用 い て, 実 験 条 件 が 可 及 的 に一 様 に な るよ う に 努 め た. い ず れ にせ よ中 枢 核 を構 成 す る個 々の 細 胞 は, 末 梢 にお け る損 傷 を修 復 せず と も再 生 す るか 崩 壊 す るか で ある16)(Fig. 9)17). 神 経 細 胞 の 変 性 像 の 細 か い観 察 はNisslを は じめ そ の 後 多 くの 学 者 によ っ て な さ れ て お り, Courville18)は細胞の観 察 に お い て 変性 細 胞 の 確 認 を 厳 密 に行 う必 要 が あ る と強 調 して い るが, 武 谷7)は変 性 の始 ま りはNissl小 体 が, 核 の 周 囲 よ り崩 壊 して い く こ とで あ る とし て お り, 著 者 は この 点 には 特 に正 常細 胞 との鑑 別 に おい て 注 意 を 払 った. 末 梢 神 経 損 傷 様 式 には 種 々の方 法 が あ るが, われ われ が 行 っ た切 断 あ るい は 種 々 の力 の結 紮 法 等 の如 何 に拘 らず, それ ぞ れ 変 性 率 が2週 目 を ピ ー ク とす る ほ ぼ一 定 した 曲 線 を 描 くと い う 興 味 あ る結 果 を 得 た. 江 口19)は切 断 以 外 の種 々 の損 傷 法 に よ り, 中 枢 神 経 細胞 の 受 け るdam-ageに は あ ま り変 化 の な い こ とを 説 い て い る. この 点 にっ い て著 者 の実 験 結 果 と 比 較 す る と, 切 断 以 外 の 損傷 す な わ ち種 々の 方 法 に よ る 結 紮 の 場合, 結 紮 力 の如 何 にか か わ らず(B1: 直 径%, B2: 直径%, B3: 直径%と な るよ うな 結紮), 各 時 期 に お け る変 性 率 は個 々の実 験 症 例 に よ って殆 ん ど差 が な く, 江 口19)の理 論 を具 体 的 によ り詳 し く実 証 し得 た と思 う. 彼 は 切 断 と結 紮 の場 合 の細 胞 の damageは 異 な る と して い る が, 詳 細 に は触 れ て い な い. 著者 が 明 らか に し得 た点 の 一 っ は, 変 性 率 の ピー クが いず れ も2週 目 に あ る こ と で あ る. 細 胞 変性 率 の ピー ク に 関 して, 家 兎 の舌 下 神 経 切 断 によ る江 口19)の観i察で は6∼28日 とか な りの 幅 が あ り, 関20)は2∼3週 目, 吉 村21)は3∼4 Table. 6
Comparison among the studies of the nuclear degeneration of the nervus.
図1, 69 末梢運動性 ネウロンの逆行性変性の3つ の経 過を模型的 に示す。 A: 分解消失するもの、B: 一旦回復し後萎縮消失する もの、C: 回復再生するもの。 岡本道雄17)"脳の解剖学"よ り引用
耳 鼻 臨 床 72: 10 顔 面 神 経 幹 損傷 にお け る神 経核 細 胞 の変 性 度 につ いて 1411 週 目 と して い る. 一 方 家 兎 の 顔 面 神 経, 舌 下 神 経 を用 い た 切 断 実 験 で, Bucy12)は変性率のピ ー クが2週 目 と断言 して お り, 而 も そ の変 性 率 は38%で, 著者 の33%(切 断), 37%(結 紮) と近 似 して い る. これ 等 の 変 性 曲 線 は極 めて 類 似 して い るが, 変性 細 胞 が 略 認 め られ な くな る の は切 断 例 で は 略4週 で あ るが, 結 紮 例 で は10 週 で あ り, 結紮 例 の 方 が6週 間 長 く変 性 細 胞 が 存在 して い る こ と にな る. この こ と は 中枢 細 胞 と末 梢 神 経 の 連 絡 が あ るか 否 か の違 い に よ る と 思 わ れ, axonal flow22)23)の現象が関与して い る と推 察 す る. 最 高 変 性 率 が 損 傷 の 種 類 に関 係 な く2週 目で 最 高 とな り, ま た結 紮 の場 合 に は圧 迫 の 強 さ に関 係 な く一 定 の推 移 を 辿 るの に 対 し, 細 胞 数 は損 傷の 強 さ, す な わ ち神 経 幹 の 受 け る圧 迫 力 に よ り左 右 され る こ とが 今 回 の 研 究 で 明 らか に な った(Fig. 4). 細 胞 数 にっ い て 更 に検 討 して み る と, 切 断 例 で は す で に1週 目 よ り細 胞 減 少 傾 向 が み ら れ る. そ の減 少 数 は, た と え ば1週 目 と2週 目を 比 較 す る と(Table. 1), 2週 目の 減少 数(6424 -5508=916)は1週 目の 変性 細 胞 数(225)よ り も多 い. す な わ ち変 性 を 示 しつ っ 崩 壊 す る細 胞 の他 に, 急 速 な 崩 壊 を 示 す 細 胞 が 存 在 す る と 推 測 され る. 変 性 細 胞 数 と減 少 細 胞 数 を 結 紮 シ リー ズ につ いて み て も, 10日 目以 後 にっ い て 同 様 に解 釈 して よ いで あ ろ う. 特 に結 紮 例 に おい て は, こ の崩 壊 の程 度 は神 経 圧 迫 の強 さ に よ り 左 右 さ れ る も の と思 われ る. 岡本17)は正 常細 胞 がprimare Reizungを 示 す こ とな く崩 壊 し て い くこ と が あ る と述 べ て い る. 既 述 の如 く, 著 者 は正 常細 胞 と変 性 細 胞 の 極 く初 期 の鑑 別 に は細 心 の注 意 を払 っ たが, な お正 常細 胞 と み な し て い る も の 自体 で も非 術 側 と比 較 す る と染 色 濃 度 が著 し く異 な って お り, 崩 壊 の 可 能 性 を秘 め た細 胞 がか な り混 在 して い る もの と思 わ れ る. Courville18)はchromo-philic materialの 蓄 積 につ い て は, 変 性 細 胞 の 算 定 に際 して あ ま り留意 す る必 要 は な い と述 べ て い るが, この 点 に つ い て は今 後 再 考 の余 地 が あ るで あ ろ う. B2, B3法 に よ る結 紮, す な わ ちB1法 よ りも 強 い か ま た 弱 い圧 迫 力 で は細 胞 の 減少 度 が か な り 異 って来 る. これ 等 の結 紮 法 は そ れ ぞ れ に おい て 可 及 的 に一 定 に な る よ うに努 め た が, 肉眼 的 計 測 に基 くも ので 圧 迫 を 一 定 にす るの は 結 果 的 に は若 干 の無 理 が あ った と思 う. 変性 率 に関 し て は 問題 は な い. 1/3結紮11週 間 例 に おい て, 残 存 細 胞 数 が3872 と少 な い. 細 胞 数 は1週 目 まで 殆 ん ど減 少 しな い とす る と著 者 の 結 論 と矛 盾 す る. Lavelle (1958, 1959), Jilek(1970)等 は, 幼 若 動 物 の神 経 細 胞 は成 熟 動 物 よ り もは るか に急 速 に逆 行 性 変 性 を 起 こ して 消 滅 しや す い こ とを 証 明す る と共 に, anoxiaの 状 態 にお い て も細 胞 の崩 壊 が 成 熟 動 物 よ り早 い こ とを述 べ て い る14). こ のanoxiaに よ る細 胞 の崩 壊 にっ いて は速 度 の違 い は あ って も成 熟 動 動 に も起 こ り得 る. 本 例 は細 胞 崩 壊 の 早 い 幼 若 ネ コで は な いが, 恐 ら く断頭 前 にhypoxiaを 起 こ して お り, 中枢 細 胞 に崩 壊 が 始 ま って い た の で は な い か と推 察 す る. 今 回 の実 験 で 断 頭 以 前 に死 亡 し たた め標 本 に供 す る こ との 出来 な か っ た ネ コ も 数 例 あ り, それ らの 中 には窒 息 死 例 も あ る. 本 例 は hypoxiaの 状 態 で 断頭 時 まで 生 存 して い た 可 能 性 も否 定 出来 な い. この意 味 で は, 実 験 の 条 件 に 断頭 前 の健 康状 態 も充 分 考 慮 に入 れ な けれ ば な らな い で あ ろ う. 末 梢 神 経 に加 わ って い る圧 迫 を 取 り除 い た 場 合, 中枢 神 経 細 胞 が どの よ うな 変 化 を す るか に っ いて は過 去 に研 究 報 告 が み られ な い. 結 紮 日よ り変 性 率 の最 高 に達 す る14日 まで の 間 で, 減 圧 を 早 く行 う程 変性 が少 な い(換 言 す れ ば再 生 が 進 行 す る)の は理 論 的 に当 然 な こ と で あ る. 結 紮 を ほ ど こす第1手 術 日よ り減 荷 を ほ ど こす 第2手 術 日ま で の期 間(圧 迫期 間)が 一 定 で あれ ば, 換言 すれ ば第2手 術 日よ り14日 まで の 期 間(再 生 期 間)が 一 定 で あれ ば変 性 率 は ほ ぼ一 定 して い る. 例 え ば3日 間結 紮, 11日 間 減 荷 の 群 にお け る4匹 の例 に っ い て み る と,
1412 古 閑 次 夫 耳 鼻 臨 床 72: 10 変性 率 は0. 5%(Table. 5, Fig. 6)で あ る. しか る に細 胞 数 に は 多 少 の ば らっ きが あ る. 結 紮 に は最 もば らっ きの少 な い1/2結紮 を 選 ん だ が, な お結 紮 力 の わ ず か な違 い に よ り生 じた も ので あ る と考 え られ る. 2週 目に お け る細 胞 数 は2週 間結 紮 例 と2週 以 内減 圧 群 とを比 較 した場 合, 当 然後 者 の方 が 多 くな け れ ば な らな い. しか るにFig. 4とFig. 7 (あ る い はTable. 2とTable. 5)を 比 較 し て み る と(Fig. 10), 後 者 の方 が 前 者 よ り も少 な い. こ れ は減 圧 群 で は, 結 紮 と減 圧 の2回 の手 術 を ほ ど こす た め神 経 にか な りの負 担 がか か る こと, す な わ ち結 紮 糸 を解 く操 作 で神 経 にか な りのdamageが 加 わ る た めで は な いか と推 察 す る. 結 紮 に よ る変 性 率(Fig. 5)は10日 目か ら14日 目ま で の4日 間 で急 速 に増 大 す る. この 14日 以 内 に行 う減 圧 術 の効 果 はか な り大 きい が, 特 に10日 以 内 に行 うの が効 果 的 で あ ろ う. (Fig. 6). 残 存 細 胞 数 は末 梢 神経 に対 す る圧 迫 の強 さ に よ り左 右 され る. 神 経 の圧 迫 に よ っ て 起 こ る Bell麻 痺 は, 障 害 の程 度 が 強 い 場 合 に は完 治 しなか った り, 筋 電 図学 的 に或 い は神 経 興 奮 性 検 査 は正 常 に復 し て もな お共 同運 動 等 の不 本 意 な合 併 症 を残 す こ とが あ る. これ は神 経 幹 に対 す るdamageが 逆 行 性 変 性 を 起 こす 程 の 強 さ の場 合 には, 神経 細 胞 に も圧 迫 の 強 さ に応 じて 変性 が起 こ り24). 神 経 細 胞 の再 生 に伴 い 損 傷 部 に過 誤 再生 が起 こ るた め で もある25)26). 神 経 核 細 胞 の 崩壊 は末 梢 神 経 の死 滅 にっ な が る. 従 って圧 迫力 が 強 い ほ ど早 い時 期 の 減 荷 が 必要 とな る. ま た圧 迫力 の さ ほ ど 強 くな いた め に神経 細 胞 の 崩壊 程 度 が少 な い場 合 で も, 一 旦 変 性 の 過 程 を辿 った細 胞 の末 梢 線 維 に は変 性 が 起 こ り, 細 胞 再生 の 際 に末 梢 線 維 の損 傷 部 にお い て 過 誤 再 生 の起 こ る可能 性 が あ る. そ して 末 梢 神 経 に対 す るdamageが 強 い こ と は, 起 始 核 細 胞 崩 壊 数 の 大 な る こ とを 意 味 す る と 同 時 に, 変 性 細 胞 の 過 程 を経 る細 胞 数 の大 な る こ と を も意 味 す るで あ ろ う. 変 性 細 胞 増 加 に伴 う過 誤 再 生 の 線 維 の 増 加 は, 末 梢 筋 肉 に は共 同 運 動 と して 現 われ る25). これ を 防止 す るた め に は 中枢 細 胞 に変 性 を起 こ す 程 度 の圧 迫 の あ る場 合27)28), すなわち軸索断 裂 の あ る段 階 で は減 圧 は14日 以 内, 特 に10日 以 内 に行 うのが 妥 当で はな か ろ うか. Yamamoto &Fisch29)は ネ コの末 梢 に お け る減 圧 術 の 実 験 で, 12日 以 内 に減 圧 を行 った 場 合 には 回 復 が 良 い と述 べ て い るが, 著 者 は こ れ を 形 態 学 的 に 中枢 細 胞 の 変 性 状 態 か ら裏 付 け た もの と考 え る.
Yamamoto & Fisch29)の圧迫程度は神経幹
直 径 の2/3とな る よ うな方 法 で あ るが, 圧 迫 部 の 長 さが3mmと か な り長 く, 著 者 が3号 絹 糸 を 用 い て 行 った2/3圧迫 よ りもか な り強 く, 中枢 核 に 対 して は1/2圧迫 に 匹敵 す る 強 さ で は な い か と推 察 す る. 中 枢 細 胞 は た とえ神 経 を 切 断 し て も約 半 数 近 くは残 って い る(Fig. 2). しか し この 様 な 場 合 も8日 後 には末 梢 の神 経 は完 全 に 変性 して し ま う17). 圧 迫力 の強 い場 合 に も同様 で あ る. 如 何 ほ どの 細 胞 減少 が末 梢 筋 の運 動 不 全 や不 随 意 運 動 とな って現 わ れ るか に つ い て今 回 の著
者 の 実 験 とYamamoto & Fischの 末 梢 神 経
に対 す る実 験 と対 比す る とか な り明 らか に な っ た とい え よ う.
神 経 圧 迫 の度 合 が 臨床 諸検 査 に よ り定 量 的 に
Fig. 10 The Number of Facial Nuclear Cells
N: number D: day
●--●: half diamoter by ligation
-: decompressed group (half diameter by ligation
and decompressed group)
耳 鼻 臨床 72: 10 顔 面 神 経幹 損 傷 にお け る神経 核 細 胞 の 変 性度 に つ いて 1413 表 わ す こ とが 可能 とな れ ば, 中枢 細 胞 の 変 動 を 明 瞭 に把 握 出来, 神経 圧 迫 に対 す る保 存 的 あ る い は 手 術 的 な 治 療 の 指 針 が 得 られ る で あ ろ う と 考 え られ る. 結 語 ネ コ顔面 神経 の起 始 核 細 胞 が 末 梢 神 経 の 損 傷 に よ り如 何 な る影 響 を 受 け るか を, 核 細 胞 総 数 と細 胞 変性 率 の推 移 を 追 って 観 察 した. そ の結 果, 神経 損 傷 方 法 の 如 何 にか か わ らず 変 性 率 は2週 目で 最 高 にな り, また 神 経 が 圧 迫 を 受 け た 場合, 中枢 細 胞 の 崩 壊 は圧 迫 の 強 さ に よ って 変 わ る. か つ 切 断 法 に比 し結 紮圧 迫 で は 変性 細 胞 が よ り長 期 に わ た って 観 察 され た. 神 経 細 胞 は 末 梢 で 神 経 を切 断 して も約 半 数 近 く は生 き残 る こ と を 確 認 した. また 減 圧 実 験 を 行 い, 核 細 胞 の 反 応 態 度 にっ い て の 観 察 面 よ り その効 果 に つ い て 明 ら か にす る と共 に 減圧 の 意 義 にっ い て も考 按 した. 稿 を終 るに際 し, 御指導御校閲を戴 きました服 部浩教授, 武田創教授 に深 く感 謝致 します. また本研 究遂 行に あた り終始御指 導御協 力下 さった湊川徹助教授(兵 庫 医科大学), 細見英男講師に心か ら感謝致 します. なお本研究の一部 は第76回 日耳鼻総会(奈 良), 第3回 国際顔面神経外科学会 (チュー リッヒ), 第79回 日耳 鼻総 会 (新潟) に於 て発表 した. 参 考 文 献
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原 稿 到 着: 昭 和54年5月21日
別 刷請 求 先: 古 閑 次 夫
〒670姫 路 市本 町68 国 立姫 路 病 院 耳鼻 咽 喉 科