智 山 学
報第
五 十輯
ダ
イ
オ キ
シ
ン の
形
と六
大
の
形
里
見 秀 明
一
意 識
・
心
に形 は あ る か
六大
の形
といっ た とき
、識 大
、 つ まり心
に形
があ
る か という問
題 に突 き当
たる。六大
に対 す
る伝統
的
な解
釈
を
見
てみ ると
、
次
の よう
な
表
で現
す
ことが
でき
る。こ の
表
は、
高 木俊
一
著
『
仏 教 概論 』
に載
っ て いるも
の であ
る。 この表
で、
顯
色
の種
々形
は種
々色
の ミスであ
ろう
。こ こで問題
にす
べき
ことは
、
形 色
の種
々形
であ
る。様
々 な形
という
の は決ま
っ た 形 が ないと解釈
でき
る。それ
で は前 五 大
は形
があ
るのであ
ろう
か。方
・
円
・
三角
・
半月
・
団 形
はそれ ぞ
れ地 大
・
水 大
・
火 大
・
風 大
・
空 大
に対
応
し ている が、
大
地
が 四角
で水 が 丸 く
て火 が三
角
でな け
れ ばな ら
ない という
こ と は ない。 そ れぞ れ そ
の形
に似
て い る場 合 もあ
るが全
く
別
の形
を
取
ること
の方 が
多
い。敢 え
て対
応 さ せ れ.
ぱ一
番 適 当
な選 択
と も言
え る。多 く
の人
は意 識
つま り心
の働 き
に形
な ど は ないと
感
じ ている。
しか しそ れ は正 し
い識
空
風
火
水
地 六大
了無
性瑠
動
燠濕
堅
遍礙
徳決
不
長
業
熟
攝
持
噺 障養
用 顯 々白 青
黒
赤
白
黄
7色
團
半 三 形 々圓
方
形形
月
角
色種
吽
欠
解
嘱
躍
阿字
覊
等
離
無 離本
字
不
虚 因 塵 言 不 可得
空縁
垢
説
生義
(
IS1>
NII-Electronic Library Service
ダ イ オ キシンの形 と六 大の形 ので あ ろ う か。一
般 に 心 は 心 臓 に あ る よ う に思
わ れてい る。 その人体
の臓 器
であ る 心臓 は 通 常
ハー
ト
の形
で現 され
る。記
号
また は
象
徴 と し
て心 臓 を
ハー
ト
の形
で現 す
の は世 界 共 通
であ
る。この
心臓
の医学用
の模
型
はも
っと
リ アルで実物
の心 臓
に よく似
ている。し か しいく ら
リア ルであ
ると
い っ ても実物
の心 臓
で はな
い。
そ れ で は 人体
か ら 取 り出 され た 心 臓
は どう
であ
ろうか
。確 か
にそ れ は実 物
であ る
、
実物
であ
るが 真 実
の心 臓
で は ない。 な ぜ な ら、心 臓
は 血液
の循 環
を助 け
る ポンプの役 目 を し
て初
め て心 臓
という真 実
があ
る。
そ れ ではポ
ンプ
は心
臓 であ
る か という と
そう
は 喬え な
い。心 臓 が 本 来
の機 能 を失
っ た時
か わり に人
工の心 臓
に切 り換 え
て心 臓
の機 能
回
復
の手
術 をす
る。人
工心 臓
は本 来 的
に ポ ン プ であ
る。 にも
か か わらず 五
臓
六腑
の一
つと
して の機能
を果
た し てい る。手術
の間
臓
器 と
しての心 臓
が実態
だろう
か、
人
工心 臓
が心 臘
と して の実
態
であ
ろう
か。こ の よう
に突 き誥
め ていく と
実態
と
して の心 臓
そ の物
の存在
が危
くな
る、こ の こと
は仏
教
が常
に説
いて い るところであ
る。こ の こと を
別
の観
点
か ら考
えてみ る。常
に精 進 し
て仏 道
に励
ん でい る人 間
と
、
強 盗 殺 人 を 犯 す 人 間 と心
の構 造
が 同 じ であ
ろう
か。
同
じ でな
いと
し た ら、
形
のないも
の にどう
して区 別
ができ
る の であ
ろう
か。も
とも
と形 が 潜
んでい て肉
眼 に は 見え
ないだ
け な の で は ないか。
も
し、
心 の 形 が 見 え る眼 鏡
で も か け る と、
前 者
の心 が 円
で後 者
の心 が 三 角
であ
るか も しれ な
い 。つま り形 とは
目 に見
え るも
のだけ
で は ない ら しい と推
測
でき
る。 二古
代
西
洋
で は形 を如 何
に考
え
た かこ こ で い
う形
とは、
円
・
三角
・
四角
・
星 型 等
の具体 的 な も
のか ら 目 に見 え
な いが統 計 を取
ると
現 れ るも
の、
あ
るも
のには無 意味
でも他
のも
の には意
味 を 持 つも
の など をす
べて含
む
。例 え
ば温 度 を例
にとっ てみ る。私 た ち
の体 温
は、
平
常
で365
度前後
で あ る。37 度
を超 え
ると
体
の調子
が お か しく
なり
、
長 く続 く
と病 気
になる。40
度
の熱
が何
日も続 く
と脳 が 侵 さ
れ る。さ ら
に温 度
が上 が る
と人 間
の皮 膚 組 織 が 破 壊 さ
(t52) N工工一
Electronlc Llbrary智 山学 報 第五十 輯
れ
死 に至
る。 しか
し、あ
る種
の微
生
物
にと
っ ては
、
人 間 が耐 え きれ な
い温 度
でも平 気
で生 き
て い るも
のがい る。つま り
、
温度
の高低
という単
に物
理的
な ものも
、
あ
るも
のにと
っ ては意味
を
持
ち
、
様
々な
段階
で作
用 を
及
ぼし
、
図 示 す れ ば
形 と し
て見
ることが
でき
る。「
ね え
ソ フ ィー、
な
ぜす
べ て の馬
は似
て いる ん だ と思 う
? きっ とき
み は、
馬
た ち は ぜ ん ぜ ん似
てない、
と思
っ た ん じゃな
いかな ?
でも
、
何
か があ
る で しよう
、
す
べて の馬
に共
通
した
何
か が、
こ れは
馬
だ
、
と
ぼくた ちが 判 断 す
るの にち
っ とも困
らな
い何
かが
、一
頭
一
頭
の馬
は「
流
れ去
る」
こ と は当 然
だ よ ね、馬
は牛 も と
れ ば、
体 も
いう
ことを きか な
くな
る。
時 と と も
に病 気
にも な
るし
、
死
にもす る
。 でも
、
も と も
との馬 と
いう型
は永 遠
で不変
だ。」
一
『
ソ フ ィー
の世
界 」
ヨー
ス タイ
ン・
ゴ ルデル著 池 田春 代 訳須 田朗
監
修
NHK
出
版
以
下前 書
より引
用。
「プ
ラ トンが永 遠
不変
と
考
え た も
のは、
した
がっ て、
物
質
であ
る元 素
ではな
い。
永 遠
で不 変 な も
のは精 神 的 な
、
という
か、
抽 象 的
な フ t−
L ひな型
、 そ れを も と
にあ
ら ゆ る現
象
が型 ど
ら れ るよ
う
な型 な
んだ
。」
プ
ラト
ン が思
い描
い た型
は、
精神 的抽 象 的
とい いな
が ら、
即 物 的
であ
る が、
六大
の形
は、
も
のを
形
作
るも
の、
つま り生
命
的
創
造 的
であ
ると
言
え
る。こ こでは
こ の比 較 が
目的
では な
いの でくわ し くは 述
べな
い。「
ソクラ テ ス以前
の哲 学 者
た ち が納 得
の いく説 明
を し な かっ た こ と が あ る。彼
ら はい った
ん はあ
る馬
を形
つっていた ち
っ ぽけ な
部 分
が、
四百 年 か
五百 年
たっ てか ら
、
い った
いど
のよ う
にし
てひ
ょっ こり別
のち
ゃん とし
た馬
にな
るの 力丶 という
ことを説 明
し な かっ た ん だ !馬
で なく
象
や ワニ でも
い いけ
れ ど。
……
プ
ラ トンは、
ど
う
して自然
界
の現象
は こ んな
に似
ている のだ
ろう
、
とび
っく り し
て、
私 た ち
の身
の回 り
にあ
るあ ら
ゆ るも
の の上 か 後
に は、
限 られ
た『
型 亅
が あ る はず
だ という結 論
に 達 し た。
こ の『
型』を
プ ラ トンは『
イ デ ア』 と
なず
け
た。」
ギ リ シヤに おい て の
哲
学
、つま り物
事
の追
及即
ち
真
理
の探 究
にお
いても
のを
形 作っ てい る もの の考 察
が行
わ れ ていた。
そ して そ れ はソク ラ テス に よっ ても
う少 し発 展
々開 さ
れ た。「
ア リス トテ レスは、
プラ トンは本 末 顛 倒
だと考
え た。(
153>
NII-Electronic Library Service
ダ イ オ キ シン の形と六 大の形一
頭
一
頭
の馬
は「
流
れ去
る」
し、
永
遠
に生 き
る馬
はいな
いと
いう
こと
で は 、先
生
のプラ トンと同
じ意 見
であ
っ た。馬
の形 そ
のも
のは永 遠
で不 変
だ という
こ と でも意
見
は一
致
し ていた
。け
れど も
、
ア リス トテレス は、
馬
のイ
デ アと
いう
の はた だ
の概 念
で、
僕
たち 人 間 が
かな り
の数
の馬 を見
たあ
とつく りあ げ
たも
の だ、
と言った。
すべ て の経 験
に 先 立つ馬
の ア イ デ ア や 型 な ん か あ る わ け が な い、
とね
。
ア リスト
テレ スに言 わ せ れ ば
、
プ
ラト
ン先 生
の言 う馬
の型
は、
馬
の様
々な 特 性 か ら出来 上 が
っ ている
。アリ
スト
テレ スは、
こん にち
の生 物 学
で いう
、
主
とし
ての馬
の よう
な もの を考 え
た。」
こ
う
した基 礎 的
な考
察
の 上、
様
々な 患想
が 展 開 し てい っ た。
これ は 仏教
でいう
と、
上 座 部 仏 教
か ら大衆 部 仏 教
へ と展 開
し ていっ たの と似
てい た。つ まり世
の中
の仕組
み が、ど
の様
にな
っ ている かを調
べ上 げ
、
そ れで はその存在
と し て の仕 組
み と、
自我
を持
っ て いる人 間
とのか か わ りが どの よう
な関 係
にあ
る かと
いう
こと
に問 題
意
識
が移
っ てきた
の であ
る。「
キュ ニ ス学派
の人
々 は、本 当
の幸
せ は、物 質的
なぜ
いた く
や政
治権力
や健康
な ど
の外
面 的 な も
のとは
関係
な
いと主
張
し た。本
当
の幸
せと
は、
そんな
偶
然
のはか な
いも
のを
頼
み にしな
い こ と だ。」
「
ス トア派
の 人々は
、
す
べ ての人 間 は 世 界 じ
ゅう
に広 が
っ ている 同 じ理 性
、
あ
るい は同
じロ ゴ ス を持
っ てい る、
と考
え
た。一
人 ひ と りの入間
は 世界
の ミニ チュ ア、
つま リ
マ クロ コス モ ス(
大 宇 宙
)
を う
つす
ミクロ コス モ ス(
小 宇 宙
)
だ と考 え た
。ス トア
派
は、人閥 と
宇宙
の違
いをな く
し て しま
った
よう
に、
魂
と物 質
の対
立
も解 消
し て しま
った
。あ
るの はただ
一
つ の自然
だけ
だ と考 え
た。」
そ
し て、左 道 密 教 的
なも
のも現
れ てき
た。「
ア リス ティッボスは、
でき
るだ
け
たく
さ んの感 覚
的 な楽
しみ を手
に入 れ ること が 人 生の 目 的 だ、
と考
え た。ア リス ティッ ボスは、
最 高
の善
は快 楽
で、
最 大
の悪
は苦 痛
だ といっ て いる。そ
こ か ら ア リス ティッボ ス は、あ ら ゆ る苦痛
を と
り
の ぞく
生活技術
を
発展
さ せ よう
と
考
え
た。」
そ してこ の
快 楽 主 義 を全 く否 定 す
るの でな く
、
それ を乗 り越 え
よう とす
る考
(星54) N工工一
Electronlc Llbrary智 山学 報 第 五 十 輯 え も
芽
生 え て き た。「
エ ピ クロ スは
、
快 楽 とは た
とえ ばチ
ョ コ レー
トを食
べる感 覚
を楽
し ま せ る こと で は ない 、 とも言
っ ている。友
情
や芸
術
をも
た らす
だ ろう
。自
制
や中庸
や心
の平 安 と
いった昔 か
らのギ
リシ ャ の思 想 も
、
人 生 を楽 し
むた め
の条 件
だ。激
し
い欲 望
はコ ントロー
ルさ
れな けれ
ばな らな
い。心
の平
安
と苦痛
を
たえ
しの ぶ助 け
にな
る。」
こ の よ
う
に古代
に おいて ほぼ東洋哲
学
と同時 進 行 的
に進 展
してき
た思 想
の流 れ が突
然 中断 す
ることにな
っ た。こ こま
で の思
想
の流
れ は東洋
の多神教
世
界
と
同
じく
地 中海
的多神教
の中
か ら育
っ てき
た の であ
る。中
断
の 理由
は一
神
教
の登
場
にあ
る。こ の一
神
教
と は何 者
であ
る のか
、
これ は心
の ダ イ オ キシ ン問 題
で もあ
る。 三環 境
ホ ル モ ンと して の ダ イオ キ
シ
ン類 の 正 体 と人体
への影響
ダ イ オ キ シンと
一
般
に呼
ば れ る ものは、
ダ イ オ キ シン・
ダ イベ ンゾフラン・
コプ
ラ ナPCB
を含 む も
のの総 称
であ る
。したが
っ てダ イ オ
キシ ン類
と呼
ば れ る のが 正 し
い 。環境
ホル モ ン「
環 境 ホ
ル モ ン(
内分 泌撹 乱 化 学 物 質 )
とは、
人 間が 広 範
に使 用 し
、
環 境
に蓄積
させ て しま
っ た合 成
化
学
物質
のう
ち、ヒ トを
は じめとす
る様
々な
動物
の内
分 泌 系
を狂
わ せる汚 染物
質
の こ とであ
る。代 表 的
な もの に、
DDT
な どの農 薬
、
PCB
類 な ど
の工業化学物質
、
ダ イ オ キ シンな ど
の非 意 図 的 生 成 物 質 (
ゴミ焼 却
や容
器
など
か ら溶
け 出
るも
の な ど)
。合 成
女
性
ホル モ ン と し て使
わ れ たDES
な
どの医 薬 品 な
ど があ
る。生物
がこれ らの物 質
を ごく微 量
で も発
生初 期
に浴
び
たり
、
長
期
的
に浴
び た りす
ると
、
内分
泌系
、免疫 系
、
神 経
系
に様
々な形
で異 常 を
引 き起
こす
こ とが
わか
っ てきた
。」以 下
の引用
は『
環境
ホルモン入 門 』
立花
隆
・
新 潮 社
「
環
境
ホ ル モンのき
わだ
っ た特徴
は、先
に述
べ た定
義
のと
おり 『
内 分 泌
系
を
撹 乱 す
る』
ことであ
る。内分 泌 系
と は、
生物
が ごく微 量
の『
ホル モ ン」
とい う(
15s)
NII-Electronic Library Service
ダイ オ キ シン の形と 六大の形物
質
を使
っ て、
体 を成 長 さ
せた り調 節 し
たりす る
一
連
の仕 組 み
の こ とだ
。問 題
にな
っ てい る人
工の化 学 物
質
は、生物
の体 内
に取 り込
ま れ る と、 この ホル モ ンを
用い た情
報伝
達
経
路
にニセ の情 報 を流
し たり
、
通信 妨 害 を
おこなっ たりす
る こと
で、
体
の正 常 な機 能 を じ
わじ
わ と奪
っ ていく
。内 分 泌 撹 乱 物 質
の こ のよう
な作 用
の こ とを
、そ
れぞ
れ『
ホ ル モン様
作 用 』
『
ホルモン阻
害作
用 亅
と呼
ん で い る。」
そ れ で は
環 境
ホル モ ン の作 用 を誘 発 す
る ホ ル モ ン と は どんな も
のな
のか。
「
そ
もそ
も ホ ルモ ンと は何
な んだ
ろう
。 ホ ルモ ンという
言 葉
は ギ リ シャ語
のhormao (
「
刺
激 す
る」
の意 味 )
に由来 す
る。・
…・
・
ス ター
リ
ング は、
ホ ル モ ンを
『
体
内
の特定
な器
官
でつく
ら れて、
血液
を と お して他
の器
官
に運
ば れ、
ごく微
量
で作 用
す
る化学物質』
と
定
義
した
。
抽
象
的
にいえ ば
、
ホル モ ンとは 生体 反応 を直 接 行 う物 質
でな く
、
む し
ろ調
節
・
制 御
の方
をつか さ ど る もの であ
る。 ヒ トを含
め多 細 胞
生物
において は、
各
細胞
がバラバ ラ に働
いていて は一
個体
と
し ての生
命活動
を
維持
できな
い。ホル モ ンは細 胞 間
の情
報伝
達 を仲 介 し
ているの であ
る。 ホル モ ン の働
きは
、
複雑
な
生体
シ ス テ ム の維 持
・
調 節
に深 く関
わっ てい る。」
ホル モ ンは 脳
・
副 腎
・
精 巣
・
卵 巣
・
交 感 神 経 な ど
の臓 器
で生 成
さ れ、
貯 蔵
・
分泌
・
輸 送 され
て、
役 割 が 終
わっ たら代 謝
・
分解 さ
れ る。し
かし
、
環 境
ホル モ ンとい わ れ るも
の は、人体
に よ けいな作
用を
し代謝
分
解
さ れ に くい。 こ の分 解
し にく
い性 質
が入体
に悪 影 響 を 及
ぼす
の であ
る。「
ホルモンのも う
一
つ の重
要
な働 き
は発
生過 程
の 制御
であ
る。 ヒ トの よう
な複雑
な
多
細 胞 生 物 も
、
最 初
は た だ一
つの細 胞
であ
る受
精 卵
から発 生 す
る。細 胞
は分裂
し て その数 を増
やす と
同時
に各 細 胞
の役割 分 担 を決
め ていか ね ば
な ら な い。糟 子
や卵 子
の よう
な 生殖 細 胞
と は違
い、体 細
胞
は ご く一
部
の 例外
を 除
け ばDNA
は共 逓
であ
る。にも
かか
わらず
、
全 身
に は皮 膚
や筋 肉
や神 経
といっ た様
々 な種 類
の細
胞
が存
在 す
る。これ らの細 胞
はす
べ て発 生 過程
の様
々な段 階
に おい て、
決
まっ た働
き を す る細 胞
と な る よう
に『
運命 付 け
ら れ た』
ので あ る。 この ような 制御
は様
々な生 体 化 学 物 質
によっ てな さ
れるが、
特
に男 女
の性
を決 定 付
(156
) N工工一
Electronlc Llbrary智 山学 報
第
五 十 輯け
る性 分 化
の過 程
におい て性
ホル モ ンが 重要
な役 劉
を 果 た す。
」
この こ
と
は生
物
の生
存
を
脅
かす
ほど
の重 大 な事 態 をあ らわ し
てい る。そ
れ では なぜ
こ の ような
ことが 起
こる
のか
。分 子
の世界
の出来
事
ホルモ ンに は そ れ
を
結
合 す
るレ セプ
ター
(
受 容 体 )が 存 在 す
る。
レセ プ ター
は主
に タン パ ク質
から
でき
ていて、
そ
の形 は 特 定
のホ
ル モ ンが 結 合 す
る よう
にな
っ ている
。つま り
エス トロ ゲンはエス トロゲンレセ プ ター
に、ア ドレナ リン は ア ドレナ リン レ セ ブ ター
に結 合 す
る。
こ の特 異 性
は鍵
と鍵 穴
の関係
にた とえ
ら
れ る。 レセ プ ター
に ホ ルモ ンが結
合 す
る と レ セプ
ター
の形
が変化
す
る。
こ の構
造 変 化
が引 き金 と
なっ て様
々な化学
反 応
が起
こるのが ホル モ ン作 用
であ
る。環 境
ホル モ ン のうち
、
エ スト
ロゲン様物 質
と呼
ば れるも
の は、
エ ス トロゲン レ セ プ ター
にエ ス トロゲンが認 識
さ れ る部位
に似
た形
を
持
っ てい るので、
エ スト
ロゲンレ セプ
ター
に結合
し て生 理 活 性 を示 す と
考
え られ
る。「
環 境
ホル モ ンは こう
し た ホル モ ン の作 用
を様
々 な 形 で撹
乱す
る。 レ セプ ター
は 天然
ホル モ ン同
士を わず か な構 造
の違
いに基
づいて区 別
でき
るが
、
幾
つか
の合 成 化 学 物 質 を
ホル モ ンと区 別
でき な
い 。こ の よう
に レ セ プ ター
に結
合
し てホルモ ン と同
じ作
用 を す る物
質
をア ゴニ ス トと
いう
。
」
次
ペー
ジ にそ
の化 学
式
の一
覧 を示 す
。
こ れ らの
代 表
が ダイ
オ キ シン類
であ
る。 し か し、「
環
境
ホ ルモ ンがど
の よう
に内
分
泌系
を
撹乱す
るのかの メ カニ ズム は実
際
の とこ ろあ ま り
わ かっ ていな い 。一
般
には、
ホル モ ンと構 造
がに ている た めにホル モン・
レセプ
ター
が 天然
ホル モ ンと区別
できな
いという
ことが
いわれ
て いる。」
この よ
う
に ダ イ オ キ シン類
が 生物
に悪 影響 をあ
たえ続 け
てい るら
しい こと は間違
いな
い が、
問題
はそ
れ に囚
わ れて、
他
の悪 影 響
も見逃
し てい る 可能
性
があ
ると
いう
こと
であ
る。 こ の こと
につ い ては
、
これ ら環境 問題 を科 学 的
に研 究 し
ている 人々も別
の意
味
で懸
念 し てい る。
「
そ し て、
誤閂断
にな
るか も し
れな
い判 断
を下 す 場 合
に準 拠 す
べ き原 則
は ただ
一
つ、『(
間
違
え
ると
し ても
)
よ り
安
全
な方 向
に(
問 違 え
る)
』
という
ことし
かな
い。 (且57
)NII-Electronic Library Service
ダ イオ キ シン の形と六 大の形〔
環境ホ ル モ ン入門〕立花隆著より 先天性 副 腎過形戒 ス テロイ ドホルモン合 成
酵素
の遺伝 子に欠損してい るもの があると、
糖質
コル チコ イ ドや鉱 質コルチコ イ ドの 合成に 支 障 をきた し、
麟 下 垂 体 か らの フ ィー
ドバッ ク に よ るACTH 等の 分 泌 増加に よって副 腎が 肥大 することが あ る。これ が先天性 副 腎過形成であり、日本で は2卜 水 酸化 酵 素の欠損が最も多い。
こ の酵 素が ない と プロ ゲス テロ ンや17−
rヒ ドロキ シ プロゲス テロ ンがデ オ キシコル チコステロ ン、
デオキ シコルチ ゾー
ル に変換 されない ので過剰にな り、
これらが 出口 を求めるように男 性ホル モ ン である ア ンドロ ス テ ンジオンとなる。男性ホ ル モ ン の過 剰により、
患 者は男子では思 春期早 発、
女子では半陰 陽や 男性 化が認め られ る。
コ レ ステロー
ル/
° o 。腰
硫
1
・。 。
讀
疑
*
・・ 。 0・
0闘亀
17七 ドロキ シ プ レヴネ ノロン H1
・ 。ex
一 17七 ド囗キ シ プロゲステロ ン 0
*
・ 。・
・
0日ー
o デヒ ドロ エ ア ンドロス ol
・ 。 OH.
1
・ ステロ ン讒
許
諌
_ 娜 0 晶 柱 ホルモン デ オキシ コ ル チ コ ス テ ロ ン o旗
o 0↓
・ ・ 。 鱒 卿o 0 デオキシ コ ル チゾー
ル 一 1& ヒドm キシコ
ルチコ
ステロ ン 0 ル OH o アルドステロ ン 鉱與コルチコイド M エ ス トロ ン1
・ 。w エ ストラジオー
ル 雄 ホ ルモン (158) N工工一
Electronic Library智 山学 報 第五 十 輯 ス テ ロイド ホ ル モ ン の構造 と合成
/
・ H頭
焼
1
・ 。 。諌
暁
1
・ ・H 。 0 0 o 叺 ■ 「 ■ ー Ψ H デ オキ シ コル チ コステ ロン 0 Zル チ コ ス テ 囗 ン1
・ ・H 。 HOHO 01
コ レステ ロー
ル 0 0鳧
な
磯
読
0:
・
OH乳
tア・
匕ドロキシ プロゲ ステロ ン1
… 。 駆 1 ー ■ 巳 ▼ 闘一
〇H デオキ シ コルチゾー
ル OH0.
OH コ ルチ ゾー
ル H 樋闘コ ルチコイド OH O O HO 句 1匹 ヒドロキシ コルチ コステロン アル ドステロ ン 0 鉱 釁コ 」レチコ
イド10
アン ドロ ステ ン ジオン OI ・ 。讒
、 即↓
・ 。H£
嶋
HO 女性ホル モ ン1
OH β一
アンドロ ステロ ン ジ オー
ル OH銑
螺
一 ス テ ロイ ドホ ル モ ンの生合成 経路 そ れ ぞ れの反応は 以下の酵素でおこなわ れ る。P450 (soc )
匚
コ レス テロー
ル側 鎖 切 断Pt
素]N
3p
一
ヒ ドロキシステロ イ ド脱水 素酵 素・
異性化 酵 素、 P450(17a・
lyase) [17a・
水酸 化・
開 裂酵 素】、
(動P4SO(c21)[21・水酸化酵索]
、
P450 (11β)[H β
一
水 酸化 酵 素]
、
ウシ・
ブ タではP450 (!1 β)が、
ラッ ト・
ヒトではP4SO (aldo)がア ル ドステロ ン合成酵 素として作用する。 P450 (arom ) [アロマ タ
ー
ゼ】
、
i7
β一
ヒ ドロキシステロイ ド脱水 素酵素NII-Electronic Library Service
ダイオ キ シンの
形
と六大
の形こ こ で
、
フォー
ルス・
ネ
ガテ ィブ(
偽 陰性
)
と
、
フt
一
ル ス・
ポ ジテ ィブ(
偽
陽 性
)
と
いう問題
が出
てく
る。問題
の性 質
に よっ て、
どち ら を避 け る
べきか
は、
『
よ り安
全 な 方向
に』
の原 則 か ら明 らか で あ る。
脳 死 判 定 の 場 合 に は、
す で に脳 死 した 入 を まだ 生 き
ている
と判 断 (
フt
一
ル ス・
ネ
ガ ティブ〉し
ても何 も問
題
は起 きな
いが、
ま
だ生 き
て いる人
を、脳 死
と判 断
して(
フォー
ルス・
ポ ジテ ィ ブ〉
、そ
れ が心 臓 移 植
の ドナー
に使
わ れ た と した ら、殺
人 と同
じ に なっ て し まう
か ら、
フ ォー
ル ス・
ポ ジティ ブだけ
は絶 対
に避 け な け
れ ばな ら な
い。
」
こ のよ
うに 様
々な問 題
があ
る が、「
環 境
ホ ルモ ン問 題
に おい て、
我
々は、 こ れ ま での環 境 問 題
と は、
全く異
質
の問
題 に 出会
っ てい る。どこ が
異 質
か という
と、
まず
、
初
め て ヒ トの種
の存
在 そ
の もの にか か わる可
能 性
があ
る という
、
その潜在
的
な驚
異
の大 き
さ であ
る。
そ の 可能
性 あ
る が ゆえ
に、『
より
多
く
の 人 にと
っ て より安 全 な方 向
に』
と
いう原 則 か ら
考
え た と き
、
こ の問 題
をいさ さ
かでも過 小 評 価 す
る こと は絶 対
に許
され ない という大 原 則
が成
り
立つ 。『
よ り多
くの人』考
え
る 限り
の最 大
値
『
ヒ トと
いう
主 全
体 』
だ
か らだ
。」
という
認 識
に落
ち
着
く
。 四一
神 教
に お け るダ
イ オ キ シ ン性
一
神 教
こそ が 真
の宗教 だ
と信 じ主 張 し
て い る人
々が
い る。し
かし
、一
神 教
が カル トの一
番
の温床
だ という
こ と も事
実
で あ る。一
神
教
とカ ル ト、 そ れ は同根
のも
のであ
る か似
て非 な
るも
のか、
一
神 教
の成 り立 ちか ら見
ていく必 要
があ
る。人
が宗 教
を信
じ る という
こ とは どう
ゆう
こ と か。信
じ る という
原 因
は さ て お い て、 人 があ
る宗
教
・
哲
学
・
思想 を信
じた場 合
、
な
ぜ簡 単
に他
の考
え
に変 更
し たり
、
受
け 入 れ た りで き ない の であろ う か、
このこ と はコ ン ピュー
タ機 能
と 比 べ るこ と に よっ て少 し
は明
ら か にす
ることができ
る。あ
と で述
べ る が、コ ン ピュー
タ は 人間
の脳
の機能
を まね
て作
ら れている が全
く同
じでは ない 。こ こ でいえ
ること はコ ン ピュー
タ は そ れ ぞ れ機
種
に拠っ て記
憶 す
る容 量
や、
作 業 す
る能 力
が異
な る という
ことであ
る。こ の こ と は何
を意 味
してい る か という
と、
その人
の脳
の活動
は様
々な 分
野があ り
、
その分
野の容 量
(
160)
N工工一
Electronlc Llbrary智
山学報第
五十輯
がい っ ぱい にな
ると、
他
のも
の が入
る余 地
が少 な くな
る という
ことである。宗
教
につ い て いえ ば、
そ
の人
が宗 教
に対 す
る容 量
が少
ない と、
最
初 に はい っ てき
た宗教
の考
え
が その人のその大
部 分 を
占
め る という
こ とであ
る。だ か ら、
最 初
に カ ル ト的 信 仰
をそ の人
が信
じると、
他
の宗 教
・
思想
・
倫
理 道 徳 を 理解
す
る能
力 (
容 量 )
が 不 足す
ると思 われ
る。
こ の
事
か ら言 え ば
、
コンピュー
タ が容 量 を増
や せ る様
に、
特 定
の宗 教 を深 く
信
じ る前
に、
宗 教
に対 す
る考
え方
の情 報
を な るべく多
く与
え な け れ ば な ら な い。
こ こで言 え
る事
は、
子
供
の頃 か ら幅
広い思想 を受 け
入 れ る柔 軟 な心 を養 わ
な け れ ば な ら な
いと言 う事
であ
る。古 代
エ ジ プ トにおいて、
BC1364
年
ア メン ヘ テ プ 四 世 が 第 十 八 代 王朝
十代
目 の王 と
し て即 位
した
。
こ の王 は
、
そ れ ま
でのエジ プ ト王朝
の多 神 教 的伝 統 的 な
宗 教
と違
っ て、
ア テ ン神
という新 し
い神
を唯
一
神
と して奉
じた。こ の神
は太
陽神
で、
その恵
みと光
は、
人々 の上 に 入注
ぐ
と さ れ た。 こ の事
はユ ダヤ教 成
立の謎
を解 く
一
つ の鍵
と なる。アメ ンヘ テ プ 王 が なぜ
唯
一
神
た る ア テン神 を信
じる よう
に なっ た の か。そ れ は、
王 に神
託 を
授
け勝
利
に導
いた アメ ン神
と、
そ れを奉 じ
て いた神 官 団
との関
係
にあ
っ た。神 官 団
の国政
へ の影響 力
を押
さ えるた め都
も
テー
ベ か らアマ ル ナ にう
つ し た。
さら
に、
王
の名 も
ア メンヘ テプか ら イ
ク ナト
ー
ン(イ
クエ ン アテ ン)
に変
え た。日本 で は
、
物 部 氏 と曾我
氏の勢力
争い のと き
の宇 佐神 宮
の神 託
と、
平 安 京 遷
都
と を一
緒
に し た様
な話
であ
る。しか し
、
ア テ ン神
の信 奉 者
はア メ ン神
の信 奉 者
と 違っ て、
王の身
近 な一
族と
、
少 数
の信 奉 者
であ
った
。
こ の中
にモー
ゼが 含 まれ
ていた
と推 測 さ
れ る。BC1347
年
ツタンカー
メ ン(ト
ゥト
ア ンクア テ ン)
が 九歳
で即
位
し た。 し か し、
彼
はあ ま
り若
すぎ
たの で、
権
力
は摂
政であ
る宰
相達
に握
られ てい た。 そ し て、
あ ま りにも急 進 的
・
狂信
的 なア テ ン神宗
教
改革
か ら ア メン神
の信 仰
へと宗
教 復 興 をす
ることになっ た。名 前 も
、 トゥ トアン ク ア テンか ら トゥ トアンアメ ン に変
えてい る。そ して、
女 婿
の ツ タ ン カー
メ ンは僅
か十
八歳
で亡く
なる こ と(
161)NII-Electronic Library Service
ダ イ オ キ シン の形と 六大の形 にな
る。こ こ には、
複 雑 な 政 治
の権 力争
い と混 乱 した宗 教 上
の争
いが あ
った
と推 測 さ
れ謎
に満 ち
てい る。BC1290
年 頃 第 十 九 王朝
ラム セ スニ 世 が 王位
に 就い た。 ラムセスは先代
の セ ティー
世 が 回復 し
たシリア・
パ レ ス チナの統 治
に当
たっ た。
そ し
て、
そ
こ の支
配 権
を巡 り
、北
の ヒッ タ イ トと幾度
と なく戦 火
を交
え た。交 戦
は な かな
か決 着
がつかず
、 王位
二 十一
年
目 に し て講
和 を
結
びこの地
に平 和
が訪
れ た。BC
工260
年 頃
、
伝 承
に拠
れ ばモー
ゼ がエ ジ プトを脱 出
し た。 モー
ゼ と共
に脱
出
し た イス ラエル の民
は60
万 入 と さ れ ている。 しかも
、 こ れ らの人々はエ ジプ
ト に住
み着
いてか ら
430 年
にもな
る の であ
る。
そ して、
四十 年
の間
シナイ半
島
の荒 野
を さ ま よう
の であ
る。その目 的
は た だ一
つ約 束
の地
、
カ ナンを目指
し て であ
っ た。 しか し、
この事
は、
物
語 と
し て成
立
しても
、
物 理 的
に不 可 能
であ
る。「イ
スラエ ル各 地
でつ づけ られ た
、
七十 年
に わ た る発 掘 調 査 を検 証
した
、
イ ス ラエ ル の考 古 学 者
達 に よ る、
『
出エ ジ プ ト記』
の記
述に対
す る反 論
が、
つ い最 近 も
ニ ュー
スにな
った
。……
そこに は、
『
古 代
エジプ ト
にユダ
ヤ 人 が集
団
で住
み、
脱 出 し
たこと を示 す 』様 な記 録
はど
こにもな く
、
脱 出
があ
った と
し ても
、
数 家 族の小 さ な ものに す ぎ ない、
とい う。
」『
聖 書 は どこか ら来
た か」
久保
田展
弘 著 新 潮 社
以 下引 用
はこ の書
に依
る。
この
本
は、
著 書
が現
地 に行 き
、聖 書
の成
立 し た風
土 を体 験
し て書
か れて い る。 こ こ で注 意
しな け
ればな
らな
い事
は、
新 約
・
旧約
聖書
に書
か れ ている
事
の な かの幾
つ か が考古
学
的に証
明 さ れ た か ら、
聖 書
は多
少
の拡 張
はあ
る もの の真
実
であ
ると
不用 意
に信
じ る事
であ
る。
しか
し、
別
の立 場
でいえ ば
聖書
の記 述 者
が、
そ
れ らの物 事
を知
っ ていて巧
み に取 り入
れ た とも
考
え
る事
ができ
る。「
ユ ダ ヤ 民族
の初
めにア ブラハ ムがい る。
アブラハ ム という名
そ れ自
体 が『
民 族 の 父』 を意
味 し ていたのだ。
旧 約 聖書
で は神
は、
しば
しば 『
ア ブ ラハ ム の神 』
と さ え呼
ば れている。
ア ブ ラハムが神
の啓 示 を受
け たこと に よっ て、
三千 年
に及
ぶユダ
ヤ民 族
の歴 史 が は じま り
、
む
ろ んユ ダ ヤ教
が生 まれ
ること にな
る。 さ らにキ リス ト教
が 生 ま れ、 イス ラー
ムが 生 ま れ ること に なっ たのだ。」
「
そ して ア ブラハ ム という族 長
は、
実
はユー
フラ テス河 下流
の ウ ルに生 ま
れ、
(162>
N工工一
Electronlc Llbrary智 山 学報 第五十 輯 メ ソポタ ミヤのハ ラン に
移
っ て のち
、
(
中外
日報
26409号 滝 澤 武 人解 説
・
ハ ラ ン…
そ れ は トル コ東 部
、
シ リアとの国境 沿
い にあ
る 小 さ な村
であ
っ た。 そ れ は、
旧約
聖書
に 登場 す
るあ
の族
長 ア ブ ラハ ムが、
カナ ン の地
へと出 発 し
て いっ た記 念
の場 所
であ
る。)神
の声
を聴 く
。 アブラハ ムが こ の と き、
神
の啓 示
に した
がい、
未
知
の国
カナンに向
かっ て旅 立 た な け
れば
、
あ
の よう な
ユ ダ ヤ民 族
の歴 史
はな か
った
のか も しれ な
い。」
は た
し
てそ う
であ
ろうか
。も う
一
度
アメ ンヘ テ プ から
ツタンカー
メ ン・
ラム セスニ世の頃
の政治
と地 理 的関係
を みてみ る。
BCI270
年 頃 以 前
に、
今
の シリ
ア の東北 ト
ル コ の東
イラ ク の西 北
一
体
に ミタ ンニ という
王国
があ
っ た。 この国
はエ ジプ
トと
友好
関
係
にあ り
、
一
時
は アッ シ リアを 臣従
させ る ほど
の勢 力
があ
っ た。
しか し、
エ ジ プト
がアマ ルナ時 代 (
一
神 教 )
に入
る と友好 関係
は破 綻 し
た。そ し
て ヒッ タ イ トに攻 撃
さ れ、
そ
の属 国
と なっ た。さ ら に、ラ ム セス大
王 とヒ ッタ イ トが シ リア の帰 属
を かけ
て戦
っ て いる隙
に、
東 隣 り
の ア ッ シ リ アがミ タ ンニ を滅
ぼ し属 国
とした。 こ こ で考
え ら れ るこ と は、
アブラハ ム もモー
ゼ も国
に い ら れ ない事
情
が発
生 したのだ と
推
測す
ること
が でき
る。アメ ンヘ テプ
四世
は自分
の信 じ
る一
神 教 を広
め る た め、伝
道師
を ミ タン ニ王 国 に 派 遣 し た と 思 わ れ る。
その時に アブ ラハ ムは一
神
教の教義 を聴
い て神
の啓 示 を受 け
た様
に感 じ
たの であ
ろう
。
しか し
、
多 神 教
であ
るメ ソポ タ ミア文 明
の一
員
であ
るミタンニ王 国
は一
神 教
を受 け入
れな
かっ た。そ こ で、一
神
教
徒
に なっ たアブラハムは約 束
の地
カ ナン(
エ ジ プ ト とも
考
え
ら れ る)
へ 纎発
を し な け れ ば な ら なかっ た。
「
し かし
、
ア ブ ラハ ム は飢 饉
の とき
、
エ ジプ トを短 期 問 訪 れ た以外
には、
神
に よっ て 約 束 さ れ たカナンの地 で 生 涯の大 半 を 過ご し、
し か も彼 自 身
、
土 地を
所 有 す
る こ とが な かっ た。」
この こ と は カナ
ン の地 をエ ジ プ ト以外
に求
め な け れ ばな
らな くな
っ たことをあ ら
わし
ている。一
方、
モー
ゼ はパ ピルス に 編 ん だ籠
に 入 れ ら れ、
密 か に ナ イル河 に流
さ れパ ロ の娘
に拾
わ れ た といわ れ る。そ し
て「
赤 子
の とき
か らエジ プ トの王 宮
に育
ち
、
成長
した人 だっ た。新
約 聖 書の『
使徒伝』
に はぎ
モー
ゼ亅
はエ ジ プ ト人
の (163)NII-Electronic Library Service
ダ イ オ キ シ ン の形と 六大の形あ
ら ゆる学 問 を教 え込 ま
れ、
言 葉
にも
わざ
にも
、
力
があ
っ た」
とあ
る。
この こ と か ら
考
え ら れ る可 能性
は、モー
ゼ は必 ず
し もユ ダ ヤ 人 と は限
ら ない の で はな
いか という
こ とであ
る。一
神 教
の布 教
の た めユ ダ ヤ人であ
っ た方
が都
合
が よ かっ たので は ないかと も言 え
る。ア
ブ
ラハ ムと
モー
ゼの関 係 を考 え
て み る。
「
アブ
ラハ ムは主 が 言 わ
れ た よう
にい で立
っ た。」
のは七 十
五歳
のと き
であ
る。そ し
て息 子
のイ サ
クを授
かっ た と き は百 歳
の と きで、妻
のサラは 九 十 歳であっ た。 アブラハ ムがこ の世
を去
った
とき
は百 七 十
五歳
であ
る。ア ブ ラハ ムは そ
の父
テ ラの百
四十
八歳
のと き
の子
で、
アブ ラハ ム の先 祖
エ デン の園
の アダムは九 百
三十 歳
で死
に、
ノ ア の箱 船
の ノ アは 九 百 五 十 歳 で 死 ん だ と さ れ る。 アブラハ ムの子
イ サ ク は ヤコ プ を 生 み、
ヨセブはヤ
コ ブの十
二人
の子
の十
一
番 目
であ
った が
、
兄達
にう
とまれ
エジ プ ト
の隊 商
に奴 隷
と して売
ら れ た。 しか しヨセブは異郷
の地
で才 覚
を表 し
て、
帝 国
の宰
相 ま
で の ぼり
つ めた と され る。
子
の ヨ セブの四代
目 がモー
ゼ と さ れ てい る。我
々はこ こ に、
ア メ ンヘ テプ四世
の始
め た一
神 教
の教
え を隠 す た
め、一
神 教
の起
源 を
は る か昔
に始 ま
っ た とす
る意
図
を感
じ ること が でき
る。つ まり
、
アブ ラハ ムも
モー
ゼもあ
まり時代
が違
わ ない と きに生 存
し て一
神 教 を
信 じた と考 え
た方 が よい。 こ の こと
は、
これ以 降
のモー
ゼ の行
動 を
み る と よ り明
ら か に なっ てく
る。「
旧 約 聖 書 『
申 命 記 』
に は『あ な
た はあ な
たの神
、
主
の聖 な
る民
であ
る。あ
な たの神
、
主は地のおも
ての すべての 民のう
ち か ら あ な た を 選 ん で、
自 分の民 と さ れ た。』
とあ
る。 む ろ んこ の民
が イス ラエ ル の民
であ
るこ と はいう ま
でも
ない。つ
ま り
イスラエ ル は、
ユ ダヤ 人は神
に よっ てす
べ て の民のう ち
か ら 選 ば れ た民
であ
り、
神
は イ ス ラエ ルを宝
の 民と
したと
いう
の で あ る。 そ して そ れ は、
神
が イスラエ ル を愛
してい る か ら だ という
。」
言 葉
に力
を持
つ といわれたモー
ゼ は、
一
神 教
の教 え
を伝
えるため、
エ ジプ ト の勢 力
圏のうち
、
も
っと も条 件
の よ かっ た イスラエ ルを
神
の選 民、
つ ま り、一
神 教 を 伝 え な け れ ば な ら ない民 と して し まっ た と も考
え ら れ る。
(164) N工工一
Electronlc Llbrary智 山学 報 第五十 輯