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昭和大学藤が丘病院小児科

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298

昭和学士会誌 第77巻 第

3

号〔

298‑301

頁,2017

思春期・若年成人(AYA)世代がんに対する  取り組みと今後の課題

昭和大学藤が丘病院小児科

山本 将平  磯山 恵一

は じ め に

 近年,小児がんの治療成績は向上し,小児がん患 者の生存率は 70%を超えるようになった1).一方,欧 米では思春期以降に発生する小児がんを,思春期世 代と若年成人世代を AYA(Adolescent and Young  Adult)という一つの集団として捉え,その集団の がんの特徴や問題点を明らかにして診療を行ってい る2).AYA 世代とは一般的に 15 歳以上 40 歳未満 を指すが,本邦では 15 歳以上 30 歳未満と定義され ている3).日本における小児科の診療範囲は 15 歳 未満(主に中学生まで)とされ,それ以上の年齢は 細分化した成人科の担当となっており,この世代に 発症する小児がん患者に関する情報は乏しい.ま た,成人科領域から見ると AYA 世代に発生する小 児がんは,成人の 5 大がん(肺がん,胃がん,大腸 がん,乳がん,肝臓がん)とは異なる特殊な疾患で あると考えられており,標準治療すら存在しないと いう問題がある.また,AYA 世代は,身体的問題,

精神心理的問題,社会的問題など小児や成人とは異 なる特徴があるため,この世代に対応した診療体制 を構築することが求められている.

 そこで本稿では,本邦での AYA 世代がん診療の 現状,および当院における AYA 世代がん診療の経 験を提示し,今後の課題および取り組みについて概 説する.

日本の現状

 本邦における 2012 年の AYA 世代の年代別がん 患者数は,15 歳から 19 歳が 820 人,20 歳から 24 歳が 1,455 人,25 歳から 29 歳が 2,791 人と報告さ れている4).この世代は,成人と小児のはざまであ

り,疾患の種類も単一ではない.20 歳代前半まで は白血病,リンパ腫,髄芽腫,胚細胞腫,骨軟部肉 腫が多く小児期の疾患頻度に類似するが,20 歳代 後半になると胃,大腸,子宮,乳房の成人に多いが ん種が増加するといわれている5).これらの統計 は,院内がん登録や地域がん登録を基にしており両 者で重複が見られるなどの問題がある.わが国の人 口動態統計(2014 年)によると,1 〜 14 歳の悪性 新生物による死亡者数は年間 293 人であり,AYA 世代(15 〜 29 歳)の悪性新生物による死亡数は 641 人で,両世代共に死因疾病としては最も多い6). また,AYA 世代(15 〜 29 歳)のがんの 15%程度 を占める急性リンパ性白血病(ALL)の 5 年相対 生存率はいまだ 50%程度であり,小児(0 〜 14 歳)

ALL の 80%と比較すると今後,治療成績の改善が 望まれる.

 上述したように,AYA 世代の小児がん頻度・治 療成績の正確な把握は今後の重要な課題である.特 に AYA 世代がん治療をどの科(小児科または各成 人科)が主体となって行っているかどうかについて の把握も重要である.

 藤が丘病院小児科での

AYA

世代小児がんの

 

治療経験

 藤が丘病院小児科では,小児がん治療に加え,各 科(主に血液内科,脳神経外科)と連携して AYA 世代に発症した小児がん治療も積極的に行ってきた.

 2002 年 1 月から 2015 年 12 月に当科で治療を行っ た小児がん症例は255例で,そのうちAYA世代(治 療途中で AYA 世代に移行した症例を省く)は 24 例

(9.4%,女性 10 例,男性 14 例)であった(表 1).

年齢構成は,15 〜 19 歳が 20 名であり,20 〜 29 歳 総  説

責任著者

(2)

AYA 世代がんに対する取り組みと課題

299

が 4 名であった.疾患は,悪性リンパ腫を含む血液 造血器腫瘍が 17 例と最も多く,脳腫瘍 4 例,悪性 固形腫瘍が 3 例であった.このうち,11 例に造血 幹細胞移植(自家末梢血幹細胞移植を含む)を施行 した.生存者は 17/24 例(71%)であり本邦全体で の成績と同程度であった.

 受診経路は,院内成人科からの相談・紹介が 16 例【急性リンパ性白血病(ALL)7 例,慢性骨髄性 白血病(CML)1 例,悪性リンパ腫 1 例,脳腫瘍 4 例,悪性固形腫瘍 3 例】,院外から直接小児科への 紹介が 8 例【ALL 2 例,急性骨髄性白血病(AML)

4 例,CML 1 例,悪性リンパ腫 1 例】であった.脳 腫瘍および悪性固形腫瘍は,全例院内成人科からの 紹介であった.治療は小児病棟で行ったが,必要に 応じ個室を AYA 病室として活用した.

 治療は,小児がんの標準的なプロトコールに準じ て行い,標準的なプロトコールがないか,または再 発例については症例ごとに検討し治療を実施した.

脳腫瘍,悪性固形腫瘍は,脳神経外科,小児外科,

放射線科と連携して集学的治療を行った.AYA 世 代患者においても,小児同様の体表面積換算での抗 がん剤投与量計算を用いたが,grade 4 以上の合併 症や致死的合併症は認めなかった.

 義務教育年齢を対象とした院内の特別支援学級は 利用できないため,学業に対する組織的な支援はで きなかった.また,就労者に対する勤務状況の把握 も困難であった.

 希望のあった一部の患者で,治療開始前に精子保 存がなされたが実際に挙児が得られたかどうかにつ いては不明であった.女性患者に対する卵子保存は

表 1 2001 年 1 月から 2015 年 12 月に当科で経験した AYA 世代小児がんの症例一覧

症例 診断年 疾患の種類 疾患名 年齢 性別 造血細胞移植の種類 転帰

1 2002 造血器腫瘍 CML 17 男性 なし 生存

2 2002 造血器腫瘍 ALL 17 男性 同種臍帯血移植 生存

3 2002 造血器腫瘍 悪性リンパ腫 15 男性 同種臍帯血移植 死亡

4 2002 固形腫瘍 Ewing 肉腫 23 男性 なし 生存

5 2002 固形腫瘍 RMS 29 男性 自家末梢血幹細胞移植 死亡

6 2004 脳腫瘍 MB 16 男性 自家末梢血幹細胞移植 死亡

7 2005 脳腫瘍 胚細胞性腫瘍 23 男性 自家末梢血幹細胞移植 生存

8 2005 脳腫瘍 MB 18 男性 自家末梢血幹細胞移植 生存

9 2005 造血器腫瘍 ALL 16 男性 同種骨髄移植 死亡

10 2006 脳腫瘍 MB 28 男性 自家末梢血幹細胞移植 死亡

11 2008 造血器腫瘍 ALL 15 女性 同種骨髄移植 生存

12 2009 造血器腫瘍 AML 15 女性 なし 生存

13 2009 造血器腫瘍 ALL 16 女性 なし 生存

14 2010 造血器腫瘍 ALL 15 女性 なし 生存

15 2010 造血器腫瘍 ALL 15 女性 なし 死亡

16 2010 造血器腫瘍 B-ALL 15 男性 なし 生存

17 2011 造血器腫瘍 ALL 15 女性 なし 生存

18 2012 造血器腫瘍 AML 15 女性 同種骨髄移植,同種臍帯血移植 生存

19 2013 固形腫瘍 NB 19 女性 自家末梢血幹細胞移植 死亡

20 2014 造血器腫瘍 ALL 16 男性 なし 生存

21 2015 造血器腫瘍 CML 16 男性 なし 生存

22 2015 造血器腫瘍 ALL 16 女性 なし 生存

23 2015 造血器腫瘍 AML 17 女性 なし 生存

24 2015 造血器腫瘍 AML 16 男性 なし 生存

CML:慢性骨髄性白血病,ALL:急性リンパ性白血病,RMS:横紋筋肉腫,MB:髄芽腫,

AML:急性骨髄性白血病,NB:神経芽細胞腫

(3)

山 本 将 平・ほか

300

一例もなかった.

 AYA 世代患者における終末期医療も経験した.

AYA 世代患者に対する病状説明,余命告知は極め て困難であり,精神科医および臨床心理士などのサ ポートが必要であった.疼痛コントロールは腫瘍内 科医と連携して行うことで可能であった.

AYA

世代がんに対する日本での近年の取り組み  本邦では,2012 年に開始された第 2 期がん対策基 本計画において AYA 世代を含むライフステージに 応じたがん対策が掲げられた7).また,2017 年に予 定されている第 3 期がん対策推進基本計画に,AYA 世代がん患者の支援が盛り込まれる予定である.現 在,がん対策推進総合研究事業の中で,AYA 世代 がん対策のあり方や実態把握に関する研究が進めら れつつある.これらは小児がんに特化したものでは ないが,小児科医が関わる役割は大きい.実際,わ れわれの所在地である横浜市では,当院を含めた 4 病院が小児がん連携病院に指定され市内の小児がん 実態調査を行っているが,AYA 世代に対する対策 も重要課題として検討している.

AYA

世代がんの問題点

 AYA 世代は小児と成人のはざまにあり,特にプ ライバシーを気にするなど AYA 世代特有の問題が ある.そのため AYA 世代専用病棟設置など,療養 環境の整備が重要である.

 AYA 世代は義務教育年齢ではないため治療を受 けながら勉強を継続する制度がない.これには小児 期とは異なった対応が必要である.横浜市および神 奈川県教育委員会では,高校生患者が発生した場 合,各病院に教師を派遣し指導を行うなど,個別に 対応ができるよう協議中である.年齢によっては就 職時期と治療時期が重なるため,特別な就労支援が 必要である.同時に就労中の患者が,がんの診断に よって職を失わないよう企業への働きかけも重要で ある.また,心理社会的な問題への対応を含めた相 談支援体制,緩和ケアを提供する体制などを検討す る必要がある.AYA 世代のがん治療にあっては,

倫理面に配慮しつつ,生殖機能温存に関する正確な 情報提供を患者,家族に対して行うよう,医療従事 者に周知を図る必要がある.また,AYA 世代の患 者であっても病状に応じて適切な介護が受けられる

体制を構築してゆく必要がある.AYA 世代を受け 入れる施設はこれらの課題を整理し,患者に診療開 始時に一括提示し選択されたものを支援できる体制 を整えることが望ましいと考える.

AYA

世代がんの診療体制について  1.治療

 近年 AYA 世代がんのうち,ALL に対する小児 型プロトコールの成績が,成人型プロトコールの成 績より良いことが示されている8).当院でも,AYA 世代 ALL は小児科医が小児型プロトコールを使用 し治療を行っている.一方,成人に多く発生するが ん種は臓器別に分類され当該成人科が担当してい る.診療責任科は年齢でなく,疾患別にするかどう かについての議論も重要である.しかし,AYA 世 代の小児がん治療に小児型のプロトコールが標準的 な治療法として適切であるのかについては,エビデ ンスが得られているとは言いがたい.稀少疾患であ ることが標準治療を確立できない要因の一つである が,今後は臨床試験の立案および積極的な参加によ る標準治療の構築が急務である.

 2.病室その他のアメニティ

 従来,診療病棟は成人科病棟,小児科病棟に大別 され AYA 世代がん患者はその診療責任科により病 室を決めている.AYA 世代は受験勉強,就職活動 などの世代特有の問題があり,高齢者や小児とは区 別し,よりプライバシーを重視した AYA 世代患者 用の病棟および病室が必要である.インターネット 環境を整備した自習室や新聞,雑誌などを閲覧でき るリラックスルームなどを設置し,AYA 世代に特 化したアメニティの充実をはかることも重要である.

 3.多職種連携

 成人がん診療科では AYA 世代は希少な年齢であ り,疾患も多岐にわたるため,疾患ごとの経験症例 は極めて少ない.各臓器別がんに対する成人診療科 に加えて,小児科,血液内科,腫瘍内科,小児外 科,脳神経外科,整形外科など多くの診療科がそれ ぞれの治療経験を生かして,協力して治療にあたる 必要がある.また,臨床病理科,放射線科による正 確な診断は必須であり,放射線治療には放射線治療 医による治療が必要である.緩和医療科による疼痛 コントロールも極めて重要である.

 また,妊孕性の問題には産婦人科,泌尿器科の介

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AYA 世代がんに対する取り組みと課題

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入が必須であり,心理的問題には精神科の介入を要 する.就学や就労などの生活面での問題に対する ソーシャルワーカーや,高校生の学業をサポートす る教員など各科医師以外の多職種が問題を共有し,

連携して患者に対応する診療体制が必要である.

 藤が丘病院においても,AYA 世代がん患者が安 心して集学的治療およびサポートが受けられるよ う,多職種が連携した診療体制を構築していく予定 である.

結  語

 現在,日本小児血液・がん学会の全数登録事業が 稼動しているが,わが国の AYA 世代におけるがん の実態は十分に把握されておらず,連携体制や療養 環境の整備も欧米に比べ遅れている.AYA 世代の がんについても正確な実態把握を行い,AYA 世代 のがん医療について施設の集約化や医療水準の均て ん化,診療ガイドラインの確立,さらには AYA 世 代のがん医療についての情報の収集,分析,発信を 行う情報拠点の確立など,医療体制の充実に向けて 更に検討する必要がある.国のみならず各関連学会 の協力のもとに,さまざまな診療科のがんに関わる スタッフが情報を共有し,連携協働して治療を行え る医療システムの構築が喫緊の課題である.

利益相反

 本研究に関し開示すべき利益相反はない.

文  献

1) Gatta G, Botta L, Rossi S,  . Childhood can- cer  survival  in  Europe  1999 2007:  results  of  EUROCARE-5--a population-based study. 

. 2014;15:35‑47.

2) Go RS, Gundrum JD. Cancer in the adolescent  and  young  adult (AYA) population  in  the  United  States:  current  statistics  and  projec- tions.  . 2011;29 (15 Suppl) :402s.

3) 堀部敬三.年齢を考慮したがん治療(高齢者,

AYA 世代,小児)AYA 世代,小児がんに対す る対策 日本小児・思春期・若年成人がん関連 学会協議会の mission と vision.腫瘍内科.2015; 

16:441‑444.

4) 国立がん研究センターがん対策情報センターが ん統計研究部院内がん登録室.がん診療連携拠 点病院院内がん登録 2012 年全国集計報告書.

国立がん研究センターがん対策情報センター.

2014.

5) 松本公一.年齢を考慮したがん治療(高齢者,

AYA 世代,小児)AYA 世代,小児がんに対す る対策 小児・思春期・若年成人がん医療の課 題.腫瘍内科.2015;16:445‑449.

6) 厚生労働省.平成 26 年 人口動態統計月報年 計(概数)の概況.(2017 年 5 月 31 日アクセス)

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ 

jinkou/geppo/nengai14/dl/gaikyou26.pdf 7) 厚生労働省.がん対策推進基本計画 平成 24 年

6 月.(2017 年 5 月 31 日アクセス)http://www. 

mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan̲keikaku02.

pdf

8) Curran E, Stock W. How I treat acute lympho- blastic  leukemia  in  older  adolescents  and  young adults.  . 2015;125:21. Erratum in: 

. 2015;126:1868.

〔受付:1 月 13 日,受理:1 月 26 日,2017〕

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