結合カオス回路にみられる同期現象と インターミッテンシーによる同期崩壊
Synchronization in Coupled Chaotic Circuits and its Breakdown by Intermittency
上手洋子† 西尾芳文†
†徳島大学工学部電気電子工学科
Yoko Uwate† Yoshifumi Nishio†
Dept. of Electrical and Electronic Eng., Tokushima University†
1 はじめに
カオス回路における同期とその前後にみられる分 岐現象は,自然科学における高次元の非線形現象 を説明する優れたモデルである.特にカオス同期 の崩壊は非常に興味深い現象であり,多くの研究 者によってそれらのメカニズムが明らかにされて
きた[1]-[5].しかしながら,カオス同期に関する多
くの現象にはその他の非線形現象と同様にまだ不 明瞭な点がある.したがって,このような現象を 理解し有効に利用するためには,それらの発見・モ デル化・研究・調査が非常に重要である.
一方,インターミッテンシー・カオスはカオスの 縁と深い関係がある[7].多くの研究者は,この秩 序とカオスの間の現象が様々な種類の情報処理に おいて完全に発達したカオスよりも良い性能を得 ると述べている.それゆえに,明らかにされたイ ンターミッテンシー・カオスが持つ様々な機能が工 学アプリケーションの応用のために重要であると 考える.
本研究では,インターミッテンシー・カオスが 発生するカオス回路を2つ結合したときに見られ る複雑な現象について調査を行う.まずはじめに,
それぞれのカオス回路が3周期解を生成するとき の同期状態が異なる3つのタイプに分かれること を観測する.次に,3周期窓付近のインターミッテ ンシー・カオスを生成するためにそれぞれのカオス 回路のパラメータを変化させる.そうすることに よって,3つの同期状態の複雑な現象を観察するこ とができる.これは,インターミッテンシー・バー ストが同期の妨げをし,異なる同期をバーストが 落ち着いたあと後に再発させていると考えられる.
このような興味深い複雑な現象を4状態からなる 1次元のマルコフ・チェインによってモデリングを 行う.状態間の遷移確率は数多くのコンピュータシ ミュレーションを行い,全ての遷移をカウントする
ことにより得られる.それぞれの状態での状態確 率と滞在時間は遷移確率によって計算される.これ らの統計量はコンピュータシミュレーションによっ て得られたものと同等であるとみなされる.また,
3周期解の同期とインターミッテンシーによって引 き起こされる複雑な現象を数値実験と回路実験の 両方で観察する.
2 回路モデル
本研究で用いた回路モデルを図1に示す.この回 路は,2つの同じカオス回路を抵抗Rによって結 合したものである.
R -r
C C
-r
L1 L1
L2
L2
i1 i2
I1 I2
v1 v2
図1: Circuit model.
ダイオードのi−v特性は式(1)に示すような区 分線形関数で近似される.
vd(ik) =1
2(rdik+E− |rdid−E|). (1) 式(2)に示した変数変換とパラメータを用いるこ
とによって,
Ik=
C
L1Exk, ik=
C
L1Eyk, vk=Ezk,
t=L1Cτ , α=L1
L2, β=r
C L1, γ=R
C
L1, δ=rd
C L1,
(2) 回路方程式を式 (3)に記述したように正規化する ことができる.
⎧⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎨
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎩ dxk
dτ =β(xk+yk)−zk−γ 2 j=1
xj
dyk
dτ =αβ(xk+yk)−zk−f(yk) dzk
dτ =xk+yk
(k= 1,2)
(3) ここで,関数fは式(4)に示す.
f(yk) = 0.5 (δyk+ 1− |δyk−1|) (4)
3 同期現象
単独のカオス回路で観察される3周期アトラクタ を図 2に示す.数値計算は4次のルンゲクッタ法 を用いて行う.このときステップ幅はh= 0.001と する.
0 0
-1.5 1.5
1.5 -1.5
xk
(a) Zk
Ik
vk
(b)
図2: Three-periodic attractor observed form each subcircuit. (a) Computer calculated result. xkvs.
zk. α= 7.0, β= 0.152, γ = 0.0 and δ= 100.0.
(b) Circuit experimental result. Ik vs. vk. L1 = 300mH, L2 = 10mH, C = 33nF, r = 740Ω and R= 0.0Ω.
x2 x1
x2 x1
x2 x1
(a)
(b)
(c)
t
t
t
図 3: Time waveforms of three synchronization states (computer calculated results). α = 7.0, β= 0.152,γ= 0.005 andδ= 100.0. (a) StateT1, (b) StateT2, and (c) StateT3.
3周期アトラクタを生成している2つの回路を 結合したときに観察された異なる3タイプの同期 状態を図3に示す.これら3つの同期状態は,異 なる初期条件によって得ることができる.この図 より,2つの回路は逆相同期する傾向があると考え られる.これは結合抵抗Rによってエネルギーを 消費された状態は安定な同期状態に相当するから である.また,3周期解なので波形に3つの異なる ピークが存在する.それゆえに,図3に示すよう に3つの異なる同期状態が共存することができる のである.この3つの同期状態をそれぞれT1,T2, T3とする.回路実験においても同様に3つの異な る同期状態の生成を確認することができた.これ を図4に示す.
次に,図5に示すような3周期窓付近のインター ミッテンシー・カオスを発生させるために各々のカ オス回路のコントロールパラメータを変化させる.
(a)
I1
I2
(b)
I1
I2
(c)
I1
I2
t
t
t
図 4: Time waveforms of three synchroniza- tion states (circuit experimental results). L1 = 300mH, L2 = 10mH, C = 33nF, r = 740Ω and R = 40.0Ω. (a) State T1, (b) State T2, and (c) StateT3.
インターミッテンシー・カオスが発生したときに2 つのカオス回路を結合すると,3つの同期状態の複 雑な現象を観察することができる.すなわち,イ ンターミッテンシー・バーストが同期を混乱させ,
カオスになっていく過程で異なる同期を発生させ たり消滅させたりしているのである.
この複雑な現象を調査するために,ポアンカレ 断面をz1= 0,x1<0に定義する.さらに,x1が
−1.2よりも小さいときにポアンカレマップにx2の データをプロットする.このしきい値は,x1が図3 の波形のなかで最も大きいピーク値をとるときだ けのデータを抽出するために導入したものである.
説明した方法で得られたx2のデータを図6に示す.
この図から,インターミッテンシー・バーストが同 期状態を崩壊させ,バーストが終わった後に異な る同期を再発させていることがわかる.この複雑
0 0
-1.5 1.5
-1.5
xk (a)
Ik
(b)
図5: Intermittency chaos near the three-periodic window. (a) Computer calculated result. xkvs.
zk.α= 7.0,β= 0.133682,γ= 0.0 andδ= 100.0.
(b) Circuit experimental result. Ikvs. vk. L1= 300mH,L2 = 10mH, C = 33nF, r = 735Ω and R= 0.0Ω.
な現象と同様の現象を回路実験でも確認すること ができた.回路実験で観察された同期状態の変化 を図7に示す.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
0 20 40 60 80 100 120 140
x2
t
図 6: Time series of synchronization states dis- turbed by intermittency chaos (computer c alcu- lated results). α= 7.0,β= 0.133682, γ= 0.005 andδ= 100.0.
4 マルコフ・チェインによるモデリング 本節では,このような興味深い複雑な現象を4状態 からなる1次元のマルコフ・チェインによってモデ リングする.本研究で用いるマルコフ・チェインを 図8に示す.ここで,T1,T2,T3はそれぞれ3つ の同期状態を表すものであり,Bは3つの状態間 を遷移するときに現れるバースト状態を示す.さ らにP(B|B)は式(5)を満たさなければならない.
P(B|B) = 1−3
i=1
P(B|Ti). (5) 図8の状態遷移図表から遷移確率の行列Pが以 下のように求まる.
⎡
⎣ P(T100|T1) P(T020|T2) 00 P(B|TP(B|T12))
P(T3|T3) P(B|T3) 1−P(T1|T1) 1−P(T2|T2) 1−P(T3|T3) P(B|B)
⎤
⎦ (6)
T B
1
1 T2 T3
P(T |T1) P(T |T2 2) P(T |T3 3)
P(B |B ) 1-P(T |T1 1)
1-P(T |T2 2)
1-P(T |T3 3)
P(B |T3)
P(B |T2)
P(B |T1)
図8: Markov chain model.
I1
I2
t
図 7: Time series of synchronization states dis- turbed by intermittency chaos (circuit ex peri- mental results). α= 7.0,β= 0.133682, γ= 0.0 andδ= 100.0.
状態確率分布は各々の位相状態にある解の確率 を表しており,
Q= [Q(T1), Q(T2), Q(T3), Q(B)]T (7) 以下の式から計算することができる.
Q=PQ and 3 i=1
Q(Ti) +Q(B) = 1. (8)
さらに,それぞれの状態での滞在時間は遷移確 率を用いることによって推定することが可能であ る.例えば,Q(T1)における滞在時間の確率密度関 数は式(9)で与えられる.
PST(Q(T1)), n) =P(T1|T1)n−1(1−P(T1|T1)) (9)
式(9)より,Q(T1)の滞在時間は以下のように計算 することができる.
EST(Q(T1)) = ∞
n=1{n×PST(Q(T1), n)}
= (1−P(T1|T1)) ∞ n=1
nP(T1|T1)n−1
= 1
1−P(T1|T1)
(10) 5 結果および検討
遷移確率を理論的に得ることができなかったため,
数多くのコンピュータシミュレーションを行い,全 ての遷移をカウントすることによって遷移確率を 求めた.状態遷移確率は,
P(T1|T1) = 0.91641, P(T2|T2) = 0.33261, P(T3|T3) = 0.79080, P(TB|TB) = 0.84255, P(TB|T1) = 0.03922, P(TB|T2) = 0.05680, P(TB|T3) = 0.06142,
のように求めることができた.ここでパラメータは,
図6に示しているものを用いた.これらの遷移確率 を用いて各状態での状態確率と滞在時間を計算し た.その結果を表1,2に示す.表での“Simulation”
は回路方程式の数値計算を行い状態をカウントする ことによって得られた結果で,“Markov”は式(6)- (10)を用いて計算した結果である.
これらの結果から,マルコフ・チェインによって 得られた結果が数値計算で得られた結果とよく一 致していることがわかる.
表1: Stationary ProbabilityQ.
State Simulation Markov Q(T1) 0.2547 0.25397 Q(T2) 0.0460 0.04606 Q(T3) 0.1587 0.15888 Q(B) 0.5406 0.54116
表2: Expected sojourn timesEST. State Simulation Markov EST(Q(T1)) 11.9632 11.9198 EST(Q(T2)) 1.4984 1.4984 EST(Q(T3)) 4.7801 4.7500 EST(Q(B)) 6.3391 6.3490
6 まとめ
本研究では,インターミッテンシー・カオスが発生 するカオス回路を2つ結合したときに見られる複 雑な現象についての調査を行った.それぞれのカ オス回路が3周期解を生成するときに,同期状態 が異なる3つのタイプに分かれることを観測する ことができた.また,3周期窓付近のインターミッ テンシー・カオスを生成するためにそれぞれのカ オス回路のコントロールパラメータを変化させる と,インターミッテンシー・バーストは同期の妨げ をし,異なる同期をバーストが落ち着いたあと後 に再発させることがわかった.この複雑な現象を 4状態からなる1次元のマルコフ・チェインによっ てモデリングを行った.各状態での状態確率と滞 在時間の計算を行った結果,モデリングによって 得られた結果と数値計算で得られた結果がよく一 致することがわかった.さらに,この現象を回路 実験においても確認することができた.
References
[1] N. Platt, E.A. Spiegel and C. Tresser, ”On-Off In- termittency: A Mechanism for Bursting,”Phys.
Rev. Lett., vol. 70, no. 3, pp. 279-282, 1993 [2] E. Ott and J.C. Sommerer, ”Blowout Bifurca-
tions: the Occurrence of Riddled Basins and On- Off Intermittency,” Phys. Lett., vol. A 188, pp.
39-47, 1994.
[3] P. Ashwin, J. Buescu and I. Stewart, ”Bubbling of Attractors and Synchronisation of Chaotic Os- cillators,” Phys. Lett., vol. A 193, pp. 126-139, 1994.
[4] T. Kapitaniak and L.O. Chua, ”Locally- Intermingled Basins of Attraction in Coupled Chua’s Circuits,”Int. J. Bifurcation and Chaos, vol. 6, no. 2, pp. 357-366, 1996.
Bifurcation Phenomena on Two Chaotic Circuits Coupled by an Inductor,”IEICE Trans. Funda- mentals, vol. E80-A, no. 5, pp. 869-875, May 1997.
[6] Y. Pomeau and P. Manneville, “Intermittent Transition to Turbulence in Dissipative Dynam- ical Systems,” Comm. Math. Phys., vol. 74, pp. 189-197, 1980.
[7] C.G. Langton, “Computation at the Edge of Chaos: Phase Transitions and Emergent Com- putation,”Physica D, vol. 42, pp. 12-37, 1990.