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Current Status of Ger Camp Development and Suggestions for Landscape Preservation in Mongolia and Inner Mongolia

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モンゴル高原のゲルキャンプ開発による草原景観破壊の動向と 景観保全に向けた提案

山口 有次・齋藤 隆夫

Current Status of Ger Camp Development and Suggestions for Landscape Preservation in Mongolia and Inner Mongolia

Yuji Yamaguchi ・Takao Saito

(2)

要 旨

 モンゴル高原のモンゴル国、中国内モンゴルでは、近年急速に草原観光開発が進み、遊 牧民の伝統的な組立移動式テント住宅「ゲル」を用いた宿泊施設 “ゲルキャンプ” が急増し ている。草原地域において観光は新たな有望産業として位置づけられ、その発展において 一定の開発は不可欠である。しかし、草原観光開発が、最大の観光資源である「大草原の景 観」を破壊するケースが急増している。

 筆者らは、モンゴル国の土地法に関する長年の研究を背景に、モンゴル高原における観 光開発による景観破壊の動向と、その対策としての法制度整備について研究を行っている。

 本稿では、モンゴル国のゲルキャンプ開発による草原景観破壊の経年変化を定点写真で 考察し、中国内モンゴルのゲルキャンプ開発と草原景観の現状を事例分析した。そして、

草原景観に調和するゲルキャンプ開発の考え方として、優良景観ポイントと景観保全地域 の設定・重点保護、開発施設数と施設規模の総量管理による過剰開発抑制、施設立地・施設 配置の適正化、ゲルのデザイン管理・指導、共同施設及び付帯機能のデザイン管理・指導、

施設基盤整備の適正化、案内看板設置の適正化、閉鎖後の施設撤去義務化を提示した。また、

草原景観とゲルキャンプ開発の調和に向けて、モンゴル高原エコ・ツーリズムキャンペー ンと草原景観を保全する禁忌のアピール、ゲルキャンプ開発基準設定と罰則を含む法的規 制・監視、草原景観保全協力金の徴収と観光施設データベース構築を提案した。

キーワード: モンゴル、内モンゴル、ゲルキャンプ、観光開発、草原、景観、環境、観光政策、

法規制、禁忌

(3)

1.はじめに

 モンゴル高原の広大な草原は砂漠化が進行している。中国内モンゴル自治区の内蒙古草 原勘察設計院の調査によると、内モンゴルの草原の74%が退化しているという。その要因 は、気候以外では、過放牧や農地化の影響が大きいといわれているが、観光開発も草原を 直接的に削り取り、環境にダメージを与え、草原の景観を大きく破壊し、草原の価値を大 きく減衰させている。

 モンゴル高原のなかで、特にモンゴル国、中国内モンゴルでは、近年急速に草原の観光 開発が進み、遊牧民の伝統的な組立移動式テント住宅「ゲル」を用いたモンゴル特有の観 光宿泊施設 “ゲルキャンプ” が急増している。草原地域において観光は新たな有望産業と して位置づけられ、その発展において一定の開発は不可欠である。しかし、草原の観光開 発が、最大の観光資源である「大草原の景観」を破壊するケースが急増している。観光開発 としてのゲルキャンプ開発と、観光資源としての草原景観保全の調和をとる何らかの対策 を早急に進める必要がある。

 これまで、急成長するモンゴル高原の観光開発において、ゲルキャンプ開発の現状と景 観保全に着目した研究はみられなかった。そこで、筆者らは、モンゴル国の土地法に関す る長年の研究成果を背景に、モンゴル高原における観光開発と景観破壊の動向と、その対 策としての法制度整備について研究を行っている。2007年8月には、モンゴル国の現地調 査を行い、モンゴル国におけるゲルキャンプの現状を総観するとともに、施設開発と土地 利用・景観保全との関連性を法的に概観した1)。2008年5月には、観光関連事業に携わる可 能性の高い、観光系学部学科のある大学、モンゴル国のオトゴン・テンゲル大学(ウランバー トル)と、日本の観光系コースのある大学、桜美林大学ビジネスマネジメント学群(東京都 町田市)の大学生を対象にアンケート調査を行い、ゲルキャンプの利用状況と需要、ゲル キャンプ開発に関する景観保全・環境保全意識の差を明らかにした2)。さらに、2008年8月 および2009年8月には、中国内モンゴルとモンゴル国において、ゲルキャンプ開発と景観 破壊の動向を現地調査した3)

 本稿では、モンゴル国におけるゲルキャンプ開発による草原景観の経年変化を定点写真 で考察し、中国内モンゴルにおけるゲルキャンプ開発と草原景観の現状を事例分析した上 で、モンゴル高原の遊牧民族における口伝の禁止事項 “禁忌” を活かした環境保全意識向 上と、モンゴル高原の草原景観に調和するゲルチャンプ開発の考え方を提示し、対策を提 案する。

2.モンゴル国におけるゲルキャンプ開発による草原景観の経年変化

 過去1998年、2003年、2007年時点に現地調査を行った調査地点の写真と、同一地点に

おける2009年調査時の写真を比較し、ゲルキャンプ開発と草原景観の経年変化を考察し

た。

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2-1 テレルジの景観変化

 首都ウランバートルに近い古くからの景勝地テレルジでは、ここ10年または6年で施設 が急増している。道路沿いの案内・広告看板増加も目立つ。ここ2年だけをみても、ゲルキャ ンプが増加し、共同施設の屋根は赤・青・オレンジ色といった必要以上に目立つ色で塗り かえられている。

1998年        2009年

写真1 テレルジ(入口付近の川沿い)の景観変化 *別荘等の施設増加、看板増加で景観一変

2003年        2009年

*ゲルキャンプの増加、レストラン・売店などの観光施設の増加 写真2 テレルジ(有名な観光スポット亀石)の景観変化

2007年        2009年

*ゲルキャンプの増加、施設規模拡大、道路沿い付帯施設拡張、共同施設は目立つ色へ塗り替え 写真3 テレルジ(ある谷筋)の景観変化

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2009年 *乱雑な土地利用、必要以上に目立つ施設配色、道路沿いの案内・広告看板増加 写真4 テレルジの景観破壊の要因例

2-2 ウギー湖畔の景観変化

 ウギー湖は、モンゴル国中央部にある周囲約25kmの淡水湖(ラムサール条約登録湿地)

である。環境保護の観点から、ゲルキャンプ数、個別ゲルキャンプの湖からの距離・取水 量、施設規模、従業員数、建物の色・形状・配置、発電量、ごみ・汚水の排出量などが決めら れている。アクセス道路の舗装が未整備であることも影響し、若干の施設増加はあっても、

景観変化は小さい。

2007年        2009年

2003年        2009年

写真5 ウギー湖の景観変化  *若干施設は増加しているが、景観変化は小さい

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2-3 ゲルキャンプの施設リニューアルによる景観変化

 ゲルキャンプが施設リニューアルを行う際、特に共同施設の塗り替えにおいて、必要以 上に目立つ色を採用するケースが目立つ。バスケットコートなどのスポーツ施設を新設す るところが増えている。観客席まで設ける本格的な施設もある。場所によってはゴルフ場 を整備したところもある。また、ゲルキャンプが閉鎖され、施設が撤去されず放置される ケースが出てきた。

2007年        2009年

*建物の壁は空色から白緑に、テラス屋根はオレンジ色に塗り替え、バスケットコート新設 写真6 ゲルキャンプ(テレルジ)の施設リニューアルによる景観変化

2007年        2009年

*2年前は宿泊用ゲル8棟以上を設置していたが、現在 は設置していない。施設は閉鎖されているが、撤去さ れず放置されるところが増えてきた。

写真7 ゲルキャンプ(テレルジ)の施設閉鎖による景観変化

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3.中国・内モンゴルにおけるゲルキャンプ開発と草原景観の現状

 内モンゴルにおいても、主要幹線道路沿いを中心にゲルキャンプが急増している。既報 3)では、内モンゴル北部、フルンバイル草原の事例を紹介した。本稿では、内モンゴル中 部のシリンゴル草原における特徴的なゲルキャンプの事例を紹介する。

3-1 モンゴル文化村のようなゲルキャンプ

 内モンゴル自治区シリンゴル盟・正藍旗(せいらんき)の代表的なゲルキャンプ。2006 年開業。大型のゲルで、伝統的なモンゴル料理を提供するとともに、馬頭琴などを使った 民族音楽を聞かせる。従業員はすべて民族衣装を着用し、演出効果を高めている。他にも 中小規模のレストラン用ゲルが約20棟ある。屋外の広場では、民族文化色の強いイベント やショーを開催している。 

 利用者は、北京、上海、天津、フフホトなどの国内大都市、韓国、アメリカ、日本、あるい はモンゴル国などの外国からも訪れる。年間利用者数は例年約3万人(2009年度は約5万 人)。

 宿泊用ゲルは37棟。トイレは共同施設。シャワーは設置されていない。トイレには水道 設備がないため、バケツの水で流し手を洗う。各ゲルには、顔や手洗い用の水がバケツに 入っており、ポットに温水が配られている。夜間照明設備は整っている。ごみや汚水は穴 を掘って埋めている。

 沿道からは、草原に植林された林で隠され、施設が直接みられることはないが、背後に高 圧電線の鉄塔が通り、火力発電所や工場などが視界に入るため、施設内からの景観は良く ない。施設整備において政府のチェックはあるが、政府の建築基準、指導はない。施設経営 者は、集客のためには施設を目立たせたいが、伝統的な姿は残すよう心がけているという。

モンゴル料理の大規模ゲル 民族音楽のショー イベント広場

宿泊用ゲル(37棟) 共同トイレと手洗い場所 トイレ内・缶の水で流す 写真8 正藍旗の文化村のようなゲルキャンプ

(8)

3-2 レストラン重視のゲルキャンプ

 内モンゴル自治区シリンゴル盟の県級市シリンホトで唯一の大学教育機関「シリンゴル 職業学院(短期大学)」が所有する、同市郊外のゲルキャンプ。2008年開業。500人収容可 能な大規模レストラン棟を中心に、両脇にゲル風にデザインされたテラス付きの個室レス

トラン18棟を配置している。宿泊用として、それと同様にデザインされたゲル風のテラス

付き宿泊施設17棟(トイレ、シャワー、TV完備)と一般的なゲルが21棟ある。年間利用者 数は飲食と宿泊をあわせて約3万人。北京、上海など大都市住民や外国人観光客が約6割、

地元客が約4割を占める。ただし、地元客は飲食が中心である。夏休みを中心に学生イン ターンシップを多数受け入れている。

ゲート 施設正面のチンギスハン像 500人収容のレストラン棟

ゲル風個室レストラン(18棟) ゲル風の宿泊施設(17棟) 宿泊用ゲル(21棟)

写真9 シリンホト市郊外のレストラン重視のゲルキャンプ 3-3 高級リゾートホテルのようなゲルキャンプ

 内モンゴル自治区シリンゴル盟の多倫(ドロンノール)には、元のフビライ・ハンが造営 した夏の都「上都」(北京は「大都」と呼ばれる)の遺跡があり、発掘とともに、観光地とし ての整備が進められている。この近くにある小ジャクステ湖畔に、高級リゾートホテルの ような宿泊施設が2008年開業。ホテル棟は船の形をしており、周囲の景観と調和していな い。開業時、利用客と従業員で、ホテル棟の壁に記念の落書きをしたことが、施設イメージ を悪化させている。ゲルに泊まってみたいという需要に応え、ゲルを4棟配置し、それとは

別に2人用の宿泊テント10棟を整備している。ゲル内部は、通常はない板の間のベッドが

設置されている。ホテル棟やゲルのすぐ近くにゴミ捨て用の穴があり、利用者の視界に入 りやすいこと、さらに、アクセス道路の脇に建設時に掘り出された木の根を逆さに埋めて ならべるなど、景観や環境に対する意識が極めて低い。

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舟形のホテル棟(20室×2人)ホテル棟と湖 離れの別荘(4室×2人)

宿泊用のゲル(4棟) ゲル内部にある板の間ベッド ゲル至近のゴミ捨て場

2人用宿泊テント(10棟) 宿泊テントの内部 アクセス道路にならぶ木の根

写真10 小ジャクステ湖畔の高級リゾートホテルのようなゲルキャンプ

3-4 レジャーランドのような巨大ゲルキャンプ

 内モンゴル自治区ウランチャブ市の四子王旗(ししおうき)郊外にあるレジャーランド のように巨大な観光施設である。内モンゴル自治区の首府フフホト市から車で約1時間と 比較的近いため、身近な観光拠点として地元でもよく知られている。

 幹線道路沿いにあるイベントスタジアム(観客席付き)では、乗馬や弓矢・モンゴル相撲 などのショーやイベントが行われ、乗馬・バギーカー・ウルトラライトプレーンの試乗体 験もできる。また、幹線道路沿いの目立つ位置にゲル風のテラス付き個室レストランが90 棟近くならんでおり、飲食事業に力を入れている。敷地の奥には、ダンスホールや映画館、

土産物店もある。

 一般的な宿泊用ゲルは170棟も整備されており、極めて巨大なゲルキャンプとなってい る。トイレとシャワーは共同施設にある。ゲル風のコンクリート製宿泊棟(54棟)は、ガラ ス窓があり、エアコン、衛星テレビ、トイレ、シャワーを完備している。大家族向けに2棟 つながったところもあり、その連結部分に簡単な調理台が設置されている。

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幹線道路からの景観 レストラン棟 イベントスタジアム

ゲル風の宿泊棟(54棟) ガラス窓付きゲル エアコンと衛星放送アンテナ

ゲル(170棟) ゲルの通路 ダンスホール・映画館 写真11 四子王旗のレジャーランドのような巨大ゲルキャンプ

4.モンゴル高原の遊牧民族における禁忌による景観保全意識向上

 古くから、モンゴル高原の遊牧民族には、土地や草原を大事にする習慣と思想があった といわれている。遊牧生活に起因する口伝文化が根強く、文字で書いた法律だけではなく、

口で伝える禁止事項・忌むべきこと・タブー、いわゆる “禁忌” によって自然環境を大切に 守りながら活かし暮らしてきた。禁忌は主に子どもを教育する際に使われ、子どものころ から意識のなかに浸透し、大人になってもそれを遵守することが習慣化された。現在のモ ンゴル民族においても、禁忌の影響は小さくない。

 この禁忌の内容を以下に例示する。モンゴル高原のなかでも地域により若干表現が異な るようだが、概ね同様のものが存在するという。

 〈モンゴル民族の禁忌(要約例)〉

  ・草原の土を掘ってはいけない。もし勝手に土を掘ったら家族が災害にあう。

  ・草原にゴミを捨ててはいけない。土地を汚せば人間や牧畜に病気が伝染する。

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  ・きれいな花を切り取ったら、醜い嫁をもらう。

  ・鳥の卵を壊してはいけない。壊すと顔に卵のようなシミが出てくる。

 シリンゴル職業学院の「蒙古文化研究所」はモンゴル民族の禁忌を研究しており、それ をまとめた教科書をつくり、改めて禁忌を広く伝えていく方針である。草原の景観保全に 向けた対策には、経済成長への圧力が強いことから今のところ現実的な決定打を見いだせ ていない。そのため、即効性は薄いかもしれないが、こうした禁忌とその思想を、モンゴル の遊牧民、移住人口が急増する漢民族、そしてゲルキャンプ開発に携わる人々にアピール していくことも重要である。

 既報2)では、モンゴル国の大学生は、日本の大学生と比べて、景観保全や環境保全に対

する意識がやや低いというアンケート結果を紹介した。モンゴル高原に住む人々の景観保 全・環境保全意識を高めていくことは大変重要であり、そのためにモンゴルの伝統的な禁 忌を有効活用していくことが期待される。その際、例えば「草原に建物をつくる時は、草原 にとけ込まなければ壊れる」といった、新しい禁忌をつくり景観保全・環境保全をアピー ルすることも考えられる。

 ただし、禁忌は狭い人間関係のなかでは非常に有効であるが、広い社会では通用しない ことが多い。特にモンゴル民族以外には、その効果は低くなる。そのため、禁忌をアピール するとともに、モンゴル高原特有の草原景観保全に資する観光開発規制の条例あるいは法 律が必要であろう。

 モンゴルの古い法律には、「川で物を洗って汚してはいけない。違反した場合は耳を切っ てしまう。あるいは死罪となる。」といった、厳しい規定があったという。法制度の実効性 を確保するためには、罰則を設けることが不可欠である。 

5.モンゴル高原の草原景観に調和するゲルキャンプ開発の考え方 5-1 優良景観ポイントと景観保全地域の設定・重点保護

 モンゴル高原の草原景観をすべて完全に保全することは現実的には難しい。そのため、

特に景観の優れている場所を「優良景観ポイント」に設定し、そこから見える景観を保全 すべき「景観保全地域」に指定して、優先的に保護・保全することが望ましい。特に重要な 観光施設のまわり、優良景観ポイントから重要な観光施設をみた景観の範囲内、重要な景 観保全地域においては、ゲルキャンプ開発を禁止することも考えられる。極めて重要な観 光地については、土地所有や土地利用を共有化(国有化等)することも検討に値する。

5-2 開発施設数と施設規模の総量管理による過剰開発抑制

 モンゴル国のウギー湖畔の例のように、特定地域に立地するゲルキャンプの数を抑制し、

総量管理を行うことが必要である。特に前述の景観保全地域においては、限界とするゲル キャンプの数を定め、それ以上数が増えないように管理することで過剰開発を抑制するこ

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とが望ましい。

 また、大規模施設は草原景観に与える影響が大きい。施設規模が大きくなれば、施設が 草原の環境に与える影響も大きくなる。ウギー湖の例のように、湖の水質保全などの環境 保全目標を設定できれば、規模の抑制は比較的容易である。

 景観保全地域においては、標準的な施設規模を設定し、過大な施設規模を抑制しながら、

開発施設の数と規模をあわせて総量管理したい。

5-3 施設立地・施設配置の適正化

 ゲルキャンプの至近距離に、高圧電線の鉄塔が立っている、周囲の近代的な建物が見え るなど、立地が望ましくないケースが見られる。観光施設としての適正な施設立地の誘導 が必要である。

 また、道路の前面に過剰に施設を露出し、道路から見て必要以上に目立つ施設がある。

道路から見える範囲には、できるだけ草原景観を残すよう配慮することが望ましい。

 一方、モンゴル高原の草原には水が少ないことから、川沿いや湖畔のような、水辺に近 い位置に施設配置を望む傾向がみられる。しかし、水辺に立地しながら、水辺の景観を眺 めることができるような配慮をしている施設は少ない。

 道路沿いから施設がどう見られるか、施設内から施設外の景観がどう見えるかを十分考 慮し、施設立地・施設配置を決定することが望ましい。そのためには、そうした考え方を開 発者に説明し、その重要性について理解を得るとともに、必要に応じて誘導あるはい指導 することが必要である。

5-4 ゲルのデザイン管理・指導

 内モンゴルにおいては、青や赤色などを基調とした模様のついたゲルが数多くみられた。

これは豪華であることを象徴する、あるいは美しくみせるために模様がついていると思わ れる。この模様については、「きれいでよい」とする見方があるが、「必要以上に目立ってよ くない」とする見方もある。草原の景観の中で、人工的な模様や配色は目を引くが、草原景 観の中で人工物が目立ちすぎることによる景観破壊が懸念される。ゲルのデザインについ ては、単独のゲルだけでみるのではなく、複数のゲルが草原のなかに存在する全体として の景観を評価し、その上で模様の有無の是非を判断すべきであろう。

 一方、伝統的なゲルのスタイルとかけ離れ、レンガやコンクリートで外壁をつくり、そ こにゲルの布地をかぶせて、外観は一般的なゲルとほとんど変わらないようにしたゲルも ある。伝統的なゲルにはなかったと思われる、小さな窓の付いたゲルもみられる。これが エスカレートし、コンクリート製の外壁と屋根で、外観だけをゲルに似せた施設を整備し ているケースは、内モンゴルで数多い。ガラスの大きな窓やテラスを備えているところも ある。こうした施設は、機密性が高く、エアコンによって室内温度を快適に保ちやすい、あ るいは、室内に虫が入ってくることを防止しやすい、といったメリットがある。内モンゴ

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ルでは、一般的なゲルの中に一段上がった板の間をつくるケースがみられた。トイレとシャ ワー、エアコンやテレビ、高価な家具など、ホテル並みの設備を備えるところが多い。一般 的なゲルのスタイルで、オンドルを設置しているところもある。

 コンクリート製のゲルについては、伝統的なゲルとは異なるため、すべての経営者が設 置に賛成しているわけではないが、観光客の要望があるためやむを得ないと認識している ようだ。

 なかには、照明設備さえなく、ロウソクで明かりを灯し利用する簡素なゲルもある。も ちろん、冷房設備はなく、暖房は薪ストーブであり、付帯設備も必要最小限にとどめている。

草原の景観保全の観点からは、コンクリート製ゲルは草原のなかで必要以上に目立ってお り、草原景観には似合わない。観光客には、何でも備わったホテルと同様の機能を求める のではなく、モンゴルの伝統文化を踏まえ、一定の不便さを許容しながら楽しむ意識を求 めることが必要ではないだろうか。最低限の快適性は維持しながら、どこまで伝統的なゲ ルの姿を残すことができるか、十分検討した上でデザイン標準をつくり、指導・管理する ことが望ましい。

5-5 共同施設及び付帯機能のデザイン管理・指導

 一般的なゲルキャンプは、共同施設として食堂・トイレ・シャワーを備えている。この共 同施設の建物は、屋根や壁が赤・青・オレンジなどの色に塗られているケースが多い。その 結果、白色のゲルはシンプルで草原景観のなかで違和感がなくても、共同施設だけが必要 以上に目立っている。ゲルと同様、共同施設についても、やはりコンクリート製の施設は 景観上望ましくない。そして、共同施設の建築素材は、できるだけ天然素材を用い、装飾は 最小限に留め、形状はシンプルなものとし、建物の塗装はしない(天然素材色とする)こと が望ましい。

 また、ゲルキャンプのある種の発展形態として、バスケットボールコートなどのスポー ツ施設を併設するケースが目立つ。付帯施設としてショーの観覧席やカラオケ施設などの 複合化が進行しており、本来のゲル生活体験とはほど遠い姿に変化するところも少なくな い。過剰なサービスを抑制し、エコ・ツーリズムの理念にそったゲル生活体験を提供する よう心掛けるべきである。

5-6 施設基盤整備の適正化

 共同施設において電気と水道設備は不可欠であり、ごみ処理と汚水処理も必要となるが、

敷地内に穴を掘ってごみや汚水を捨てるケースが目立つ。これは中長期的にみて、環境へ の影響は無視できない。ゲルキャンプにおいては、適正なごみ・汚水処理設備を備えるこ とを開発条件とすべきである。

 そのほか、ゲルキャンプの入口に門やゲートを設ける、アクセス道路に街灯を設置する など、草原景観に似合わないものがある。アクセス道路を安易にアスファルト舗装するの

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ではなく、きれいに整備した土の道に留めておくと草原景観に馴染みやすい。ゲルキャン プは必要最小限のつくりとし、できるだけ機能を絞り込むことが結果として草原景観への ダメージを軽減することになる。

 一方、モンゴル高原の草原景観においては、地域の発展にともなう電力供給のための電 線・電柱・鉄塔、あるいは通信環境整備にともなう電話線が増え、自然のままであった景観 を阻害している。特に、道路沿いに電線・電柱が並行して通っている影響は大きい。

 ゲルキャンプのインフラ整備だけでなく、電気、通信等のインフラ整備の際、草原景観 を阻害しないよう配慮することも重要な視点である。開発が急速に進む前に、電線・電柱 の地中化を進めておくことが望ましい。

 また、内モンゴルに限ると、遊牧民が優良な牧草を確保するために設置した鉄柵が、草 原の自然環境維持に悪影響を与えており、撤去は進められているが、残されたままの鉄柵 はまだまだ多い。この鉄柵は、特定地域に適正量を超えた家畜を封じ込める、いわゆる過 放牧の物理的要因であり、草原の砂漠化にも大きな影響を与えている。それと同時に、草 原景観を阻害する要因にもなっている鉄柵は、早急に全面撤去することが期待される。

5-7 案内看板設置の適正化

 沿道に設置されているゲルキャンプの案内看板は、観光客の利便性の観点から、設置を 否定することはできないが、草原の景観を乱していることは間違いない。同一地域に集中 して、あるいは道路沿いに無秩序に置かれると、目的を達しえないばかりか、車の運転手 の視界に悪影響を与え、交通事故の原因となる可能性もある。道路沿いの施設への案内に ついては、交通の障害にならない場所を選び、集約させて風景に配慮して設置させる方法 を早急に実施すべきである。

 次に、道路沿いに設けられた宣伝広告物についても、自動車交通の増加に比例して増加 傾向にある。モンゴル国においても、主要観光地のテレルジをはじめ、首都ウランバート ルから草原地帯に至る幹線道路沿いは、宣伝広告物が増加している。屋外の宣伝広告物は、

当然のことながら自動車から目につくよう、色彩が派手で大型化する傾向が顕著である。

 屋外の宣伝広告物の設置に関しては、自治体が設置して費用を徴収し事業者に貸し出す 方法が日本でも行われている。しかし、この方法は、「金を出せば使える」意識を作り出す だけで景観への配慮を欠く。モンゴルは今急速に市場経済化し、消費文明の波に襲撃され て首都ウランバートルの道路、特に交差点付近は巨大な宣伝広告物に占拠されそうな勢い である。日本の田園地帯の大型看板が醜悪であるように、草原景観に宣伝広告物は似合わ ない。宣伝広告物が草原を覆う前に、法的規制を行うべきである。

5-8 閉鎖後の施設撤去義務化

 ゲルキャンプの施設数増加とともに、経営難などで施設閉鎖となるケースが増えてきた。

閉鎖施設はそのまま放置されやすいため、草原の景観を阻害する要因となっている。

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 ゲルキャンプ開発許可の際には、施設閉鎖時の施設撤去と完全なる現状復帰を義務づけ るべきである。

6.モンゴル高原の草原景観とゲルキャンプ開発の調和に向けた提案

6-1 モンゴル高原エコ・ツーリズムキャンペーンと草原景観を保全する禁忌のアピール  モンゴル高原の草原景観は、人類にとって極めて重要な観光資源であることは間違いな い。しかし、そこを訪れる観光客は、どこでも同じように便利で快適な生活環境を維持し たいと考え、草原のゲルキャンプにもそれを期待する。そうすると、結果として、草原のゲ ルキャンプは草原に似つかわしくないものとなり、結果として草原景観の魅力が低減する ことになり、草原の環境を破壊する要因にもなる。

 草原のゲルキャンプは、外国人観光客向けとモンゴル住民向けで、期待される主な役割 は異なるが、モンゴルの伝統文化を踏まえたエコ・ツーリズムの理念にもとづき、質素で 素朴な生活体験を志向し、一定の不便さを許容しながら楽しむ意識を求める必要がある。

 〈ゲルキャンプに期待される主な役割〉

   外国人観光客:伝統文化を体験できる宿泊施設    モンゴル住民:昔懐かしい廉価な宿泊施設

 また、草原で観光開発を行う経営者には、草原のゲルキャンプは草原の景観にとけ込ま なければならない(必要以上に目立ってはいけない、草原景観にマッチしたデザインを心 掛ける)ことを強く訴えかける必要がある。

 そうした考え方を、外国人観光客やモンゴル住民、そして、ゲルキャンプ経営者まで、広 くアピールする観光キャンペーンを実施したい。モンゴル高原に住む人々の景観保全・環 境保全意識を高めていくために、例えば「草原に建物をつくる時は、草原にとけ込まなけ れば壊れる」といった新しい口伝の禁止事項 “禁忌” をつくりアピールすることも一案で ある。

6-2 ゲルキャンプ開発基準設定と罰則を含む法的規制・監視

 前述のような、モンゴル高原の草原景観に調和するゲルキャンプ開発の考え方を踏まえ た「ゲルキャンプ開発計画」「ゲルキャンプ開発基準」を定め、罰則を含む法的規制を行い、

それを監視する必要がある。

 〈ゲルキャンプ総合開発計画〉

   優良景観ポイント、景観保全地域の設定    開発施設数・施設規模の総量管理  〈ゲルキャンプ開発基準の基本項目〉

   施設立地・施設配置

   ゲルのデザイン(模様の有無、色、建築様式、付帯設備)

   共同施設及び付帯機能のデザイン(建築様式、建築素材、形状、色、付帯設備)

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   施設基盤整備(ゲートの有無、アクセス道路舗装、電気、水道、ごみ処理、汚水処理)

   案内看板(位置、数、サイズ、設置方法、色、デザイン)

   閉鎖後の施設撤去義務  〈都市基盤整備における開発方針〉

   電線・電柱・電話線の地中化、宣伝広告物の全面禁止、遊牧用の鉄柵の撤去

6-3 草原景観保全協力金の徴収と観光施設データベース構築

 現在、モンゴル高原の遊牧は、放牧頭数を増やして規模を拡大しても、必ずしも十分な 収入が得られない状況にある。草原景観を保全するためには、ある程度の遊牧が維持継続 される必要があるが、それは容易なことではない。

 そこで、草原を守るために、外国人観光客をはじめとする地域外観光客から草原景観保 全協力金(あるいは草原地域への入場料)を徴収することも検討に値する。これを草原景 観保全の原資とし、遊牧民に公平に分配して収入を増やすことで遊牧を維持継続していく ことを促したい。

 同時に、ゲルキャンプを中心とする観光施設のデータベースを一元的に構築し、新たな 観光施設開発に際して景観的に問題ないかをチェックし、必要に応じて開発指導に活用で きるような情報システムと仕組みを設けることが望ましい。

7.おわりに

 急速に観光開発が進むモンゴル高原においては、ゲルキャンプが急増しており、早急に 対策を行わなければ、草原景観は破壊され復元困難となり、人類の大切な資産を失うこと になる。

 我々は、観光開発、法制度、政治、経済、生活文化、環境倫理、宗教など多面的な分野に わたる日本・モンゴル国・中国内モンゴルの研究者によって「モンゴル高原草原文化研究会」

を組織し、2007年8月から毎年継続的に現地調査を行っている。

 次年度からは、中国内モンゴル自治区の内蒙古草原勘察設計院と共同で、シリンゴル盟 正藍旗の草原における観光開発と景観の現状を調査し、草原における観光開発の負荷を科 学的に検証するとともに、具体的な景観保護施策を検討する方針である。また、シリンゴ ル職業学院と共同研究を開始し、モンゴル遊牧民の口伝の禁止事項 “禁忌” を活かした観 光開発抑制のあり方を研究していく方針である。

 モンゴル国においても、オトゴン・テンゲル大学(観光系学部学科のある私立大学の雄)

の研究者と研究チームをつくり、アルハンガイ県ハラホリン(かつてのモンゴル帝国の首 都)を対象に、現地調査を進める予定である。

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参考文献

1 山口有次・斎藤隆夫:モンゴル国のゲルキャンプ開発と景観保全、桜美林大学「経営政策論集」

Vol.72007.12

2 山口有次・斎藤隆夫:モンゴルと日本の大学生のゲルキャンプ開発に関する環境保全意識、桜美 林大学「経営政策論集」Vol.82009.2

3 耿順・バイカル・斎藤隆夫:蒙古高原の環境問題に関する調査研究―中国内蒙古自治区を中心に-、

桜美林論集第36号、2009.3

参照

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