学びの基盤となる意識の形成 1年生春の題材「音と 音楽の違いは? : 声による表現の可能性を探る (「
サウンドスケープによる創作」)」を通して
著者 芝 幸弘
雑誌名 福井大学教育実践研究
巻 33
ページ 107‑115
発行年 2009‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10098/1950
1.はじめに
「音楽とは音である。コンサートホールの内と外とを 問わず我々を取り巻く音である。」これはアメリカの現 代作曲家ジョン・ケージの言葉である。この言葉の意味 は「音楽」の素材を「楽音」からそれ以外のあらゆる音 に拡大させ,「音楽」そのものを「芸術」の制度の中か ら日常生活の環境へと拡大させていくことを意味してい る。
音に意識を向けさせることは,個々の音そのものがも つ,あたたかさややわらかさといった音の色彩感や質感 に注目することであり,身の周りの日常的な音を単なる 音 として捉えるのではなく, 音楽の素材 と認識 し,それを用いた創作活動を展開することで,音や音楽 に対する意識は深まっていく。また,活動の中で新たな 発見や感動を味わうことで,更にその意識は深まり,子 どもたちの音楽観は大きく広がっていく。これこそが本 校音楽科の核となる学び「感動を音楽表現に高めるプロ セスを大切にする」につながっていくものである。
2.学びのストーリー
(1) 音 と 音楽 の違いについて考える。(第1 時〜2時)
入学して約半月。前時の授業でこれからの音楽の授業
のオリエンテーションを終えたばかりの子どもたちに,
次のような問いを投げかけた。
教師: 音楽 って何?
拓也:音と音の響き合い?音を楽しむ?
梨子:相手を楽しませるもの?
悠太:歌を楽しむ!
春菜:芸術!
教師:もう他にはない?
諒二:気持ちを伝える!
聡子:自分を表現できるもの!
質問の内容が漠然としていたためか予想していたほど,
たくさんの答えは返ってこない。そこで次のように質問 を続けた。
教師:じゃあ, 音 と 音楽 の違いって何?
佳男:一つが音でたくさんの音が集まったのが音楽.
ひかり:音を使って楽しむのが音楽で,音は物がかすっ てなるものとか…。
数人答えを返してくれたものの,みんな考えこんでい るのかあまり反応がない。
教師:じゃあ,今から先生がA〜Dの4つ演奏をします。そ れが 音 か 音楽 か判断してみてください。では,
最初の演奏は…
学びの基盤となる意識の形成
1年生春の題材「音と音楽の違いは? 〜声による表現の可能性を探る〜
( 「サウンドスケープによる創作」 ) 」 を通して
福井大学教育地域科学部附属中学校 芝 幸 弘 教育実践報告
4月に入学したばかりの1年生。対面式で先輩たちの歌声を聴き,附中の音楽文化を肌で感じたこと で,音楽に対する興味・関心の高まりとともに「自分たちもあんな風に歌えるのだろうか」といった不 安も抱いたようである。そんな中,普段何気なく親しんできた 音楽 について考えてみる。「音と音 楽の違いは?」「これって音?それとも音楽?」… ピアノで音階を弾く や 机をたたいてリズムを 刻む , 椅子や本など身近なものを適当に落とす など具体的な例を挙げ,それが 音 なのか 音楽 なのかを各自が考えた後,グループで話し合い,自分たちなりの 音楽の条件 を見出していく。その 後,サウンドスケープ1)の諸活動を通し 音 についての意識を深める中で, 聴く ことの大切さを学 んでいく。また,自然音や環境音を身近な素材を使って再現する活動を取り入れることで,音が持つそ れぞれの特徴について関心を持ち,次第に音の色彩感や質感にもこだわりを持つようになる。この 音 へのこだわりが合唱やその他音楽活動にも活かされ,質の高い表現力につながっていく。
本校音楽科では,授業の中で 耳を澄まして聴く 心に感じたことを素直に表現する こだわって 表現(創作)する ことを大切にしている。本題材は,これらを子どもたち自らが認識する出発点とな る。また,ここで考えた 音楽 に対する意識は,これからの3年間というロングスパンの中で,様々 な活動や経験を通し広がりや深まりを見せ,音楽科における探究活動の原動力となっていく。
キーワード:音,音楽,サウンドスケープ,音の特徴,聴く,こだわり
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そう言って,A:「モーツァルトのピアノソナタ」を 弾く。これが音か音楽か尋ねた後,続けてB:「音階を 弾く」,C:「ピアノの上をたたいてリズム(16ビート にいろいろなアクセントをつけたもの)を刻む」,D:
「椅子や本,ペンなどを倒したり落としたりする」につ いても尋ねた。その結果は以下の通りであった。
教師: 音 と 音楽 ,判断した基準は?
春菜:聴いて楽しめたら音楽。
和雄:気持ちが伝わったら音楽。
和雄はDの演奏を 音楽 と答えている。それは和雄 の発言から推測するに,Dの演奏の前後に 演奏 と分 かるように教師が礼を入れたことが原因だと思われる。
この後グループ(生活班)で「音と音楽の違い」につ いて話し合った。
和雄:今から音と音楽の話し合いをします。
麻友:音と音楽の違いでしょ。音楽は音を楽しむもの!
拓也:メロディーになっているもの!(音楽は)
諒二:意味があるもの!(音楽は)
和雄:誰でも楽しめる音(音楽は)
明日美:気持ちを伝えるもの
和雄:(アンパンマンを歌って)これって音楽?
拓也:音楽だよ。
しばらくして全体に,音が音楽になる条件について話 し合うように指示を出す。
和雄:どうしたら音楽になる?俺は気持ちが伝われば音楽に なると思うよ
拓也:音を楽しめて、メロディーになっていれば(音楽に)
なると思うよ。
話し合いの結果,この班では音楽の条件は「音を楽し んでいる。心がすごくこもっているもの。メロディーに なっているもの。」となった。麻友は,この活動の中で 音と音楽の違いについて 音はただ単に並べたもの ,音 楽は音と音を楽しんでメロディーになっているもので心 がこもっているもの と考え方を広げていった。
グループでの話し合いの後,その結果を発表し合い意 見を共有していった。
どのグループも話し合いの内容は充実しており,それ ぞれに考えを深めることができていたように思う。別の 班では「言葉では交流は深められないけど音楽があれば 外国人とでも交流を深められる。」,「音楽とは音と一つ の独特なリズムとテンポを混ぜると音楽になり,いい感 情を作ったり,感動を与えようとするともっといい音楽 になると思う。」などの意見も見られた。
各班の発表後に,授業前の カデンツ や中学校最初 の授業で歌った おおシャンゼリゼ は 音 か 音楽 か尋ねてみた。自分たちの考えた音楽の条件と照らし合 わせて考えているせいか反応に困っていたようだった。
その答えをこれから3年間の中で探していくこと,これ からの活動の中で 音楽 じゃないと感じたときにそれ を音楽にすることが君たちの音楽の学習であるというこ とを告げこの日の授業を終えた。
(2)サウンドスケープの諸活動(第3時〜4時)
サウンドスケッチとサウンドウォーク
前時に話し合った「音と音楽の違い」や「音が音楽に なる条件」について振り返る中で, 音楽 についての 認識を確認した後,次は 音 について考えていく。
まず1分間の静寂の中で,どのような音が聞こえるか を試してみた。その後,一人一つずつ聞こえた音を発表 していった。
○聞こえた音
・外の子どもの声(附属小) ・椅子の音 ・足音
・車の音 ・鳥の鳴き声 ・口の中の音 ・息
・笑い声 ・廊下(階段)から聞こえた声
・鼻をすする音 ・天井の音 ・咳払い ・風の音
・何かが落ちた音 ・髪の毛を触る音 ・時計の音
・服がすれる音
麻友は「椅子がきしむ音」「鼻をすする音」「笑い声」
「隣の教室(3年)の声」の4つを聞き取っていたが,
全員の発表を聞いて,たくさんの音が鳴っていたことに
演奏に対する子どもたちの反応 話し合いの結果のまとめ
芝 幸弘
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驚いていた。
次に,外に出てサウンドスケッチを行った。グループ ごとに好きな場所に移動し,各自3分間ほど自分を中心 として周囲の音をスケッチした。
麻友はサウンドスケッチの振り返りで次の述べている。
「よく耳をすましてみると,今まで鳴っていないと思っ ていたものの音や声がいっぱい鳴っていた。でも,その 音を言葉で表すのは難しくて,言葉ではうまく表現でき なかった。(言葉で書くことが!)」
最初,予想以上にスケッチできていないため,その原 因は音が聞こえた方向や自分からの距離にとまどいがあ ったのかと考えたが,音そのものの表現の仕方にととま どいがあったことに気づいた。
次にサウンドウォークを行った。職員玄関を出発点と して校舎を一列でぐるっと回って音楽室に戻ってくる。
その間に聞こえた音を記憶(記録)してくるのだが,始 める前に,「一番大きな音」「一番小さな音」「一番高い 音」「一番低い音」「一番きれいな音」「一番嫌な音」の 6つを見つけるよう指示を出した。
音楽室に戻った子どもたちは,グループで自分たちが 見つけた音について話し合いを行った。
諒二:一番大きい音はドキャズギョドーン!一番嫌な音はギ ーッ。低い音はドン!
和雄:大きな音はしゃべる音 拓也:大きな音は諒二君と同じ。
和雄:ドギャズギョドーンって何の音?
諒二:金属のやつ(側溝の蓋)を踏む音!
和雄:一番低い音は車の音だと思った。
拓也・諒二:俺も!
和雄:じゃあ、車の音ね!
諒二:葉っぱの音がきれいな音!
授業の終わりの方だったため,どのグループも話し合 い活動はあまり深まらなかったが,音の感じ方は人それ ぞれだということを実感していたようである。
身近な物や声で自然音や環境音を再現する。
次の授業では,自然の音や環境音など身の回りの音を 身近な物を使って再現する活動を取り入れた。グループ でお互いにクイズ形式で発表し,聞いている者は何の音 を再現しているかを探っていった。
拓也:(ビニールシートをこする)この音は何でしょう?
諒二:台風!
和雄:俺もそう思う。
拓也:正解は一応 雷 。だんだん激しくなる感じにしてみ た!
諒二:(カンカンに大豆が入ったものを振って)これって何 の音?
和雄:…何だろう?
諒二:正解は 雨 の音!
和雄: あられ じゃないの?
諒二: あられ じゃないでしょ!
拓也: ガラガラ (福引きのやつ)は?
麻友:自然の音じゃないでしょ!
諒二:麻友さんの音は?
麻友:(ペンとペンをたたいて)一応、静電気…。
拓也:…まあ、確かに…。
各グループで発表し終わった後,良かったものを推薦 してもらい,発表してもらった。発表の後,どうやって その音を見つけてきたのかを尋ねると「家にあるもので いろいろ音を鳴らしてみて,何かの音に似ていないか考 えた」という返答が返ってきた。その他の見つけ方はな 麻友のサウンドスケッチ
身近な物をを使って自然音・環境音を再現する サウンドウォークの様子
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かったを尋ねたが,皆同じように探してきたようである。
そこで,前時のサウンドスケッチの時に,見てもいない のに○○の音と限定できたことを例に挙げ,みんなは音 の特徴を覚えていて,それを基に判断していたのだとい うことを確認していった。また,サウンドウォークのこ とを振り返り, 高い音 や きれいな音 など音の特 徴の捉え方にも個人差があることもおさえた。
次に自然音や環境音を声で即興的に表現する活動を取 り入れた。その際に,オノマトペで表現するのではなく,
声を 音 としてとらえ,「どのような特徴の声」で「何 の音」を表現したのかを意識するよう指示した。
6班の生徒が表現した音とその特徴
拓也:鳥の鳴き声を表現 ※特徴: 高い音 を意識 和雄:車の音 ※特徴:濁音?を意識
諒二:バイクの音 ※特徴:響く大きな音を意識 麻友:風の音 ※特徴:軽い感じで小さい声を意識 明日美:風の音 ※特徴:口笛みたいな音を意識
実際には子どもたちが意識した特徴以外に,声質や発 音原理など表現した音には様々な要素や要因が含まれて いる。麻友は授業の振り返りの中で「音を声で表現する のは難しい!!…擬音語になってしまう。」と述べてい る。この言葉からも分かるように,子どもたちはこの活 動を通し ただ声を出し音をまねる のではなく, 特 徴を捉えてこだわって表現する ことを実感することが できた。
授業の最後に一冊の冊子(ピンク色)を見せ,次のよ うな問いかけをした。
「この色を声で表すとどうなる?」
子どもたちからは「え〜っ?!」という反応とともに
「ほえあ〜(奇声)」など何とか表現しようとしている声 も聞こえる。とまどう子どもたちに,次の時間から一枚 の絵を声で表現することを告げ授業を終えた。
(3)一枚の絵を声で表現する(第5時〜13時)
創作活動の第一歩
前時にいろいろな音を声で表現したことを振り返りっ た後「ミニワンカ」(R・マリー・シェーファー作曲)
を鑑賞した。一度聴いた後,この曲は何を表していると 思うか尋ねると 森 ・ 川 ・ 平和 ・ 雫 ・ 風
・ 夜明け などの答えが返ってきた。そこで,作曲者 が表現しようとしたのは 水 であることを告げ,もう 一度鑑賞した。
その後,子どもたちに 水 のイメージが持てたかど うか聞いてみると,ほとんどの子どもたちは納得してい た。続けて,「この曲は音楽?それとも音?」と尋ねて みた。ざわめきが起き,その中から口々に「音楽だよ ね?」の言葉が聞こえた。麻友は,本題材の最初の話し 合いで,音楽を 音と音を楽しんでメロディーになって
いるもので心がこもっているもの と考えていたが,こ の時 感情があるのが音楽(演奏する側・聴く側がなん らかの感情を持つ)という風に考えが変わってきていた。
この曲を最初に聴いた時に 森・夜明け・雨が止んだま での時々 をイメージしていたため,それを基準にこの 曲を 音楽 だと判断していた。
次に,前時の最後にピンク色を声で表したこととみん ながこの曲を最初に聴いたときにイメージしたことを取 り上げ, 自分というフィルターを通して感じ取ったこ とに間違いはないこと と 視覚的特徴を声で表すこと の難しさ 附属中学校の音楽では創作活動を大切にし ていること について触れた後,一枚の絵(カンディン スキー2):「コンポジションⅧ」3))を提示した。
教師:今から3分間、誰とも話したり相談したりせずに,こ の絵をあなたならどうやって声で表すか考えてくださ い。長さは自由だし,移動しても構いません。声に出 して練習はまだしないで下さい。
子どもたちは絵を近くで見たり,じっと考えたりして いる。そこに「この絵の特徴は?この絵の中の特徴的な 部分や図形を表現しても構わないよ。」とアドバイスを 付け加えた。
教師:では今から自分以外の男女2名以上と考えた音を発表 し合ってください。その中で,自分と感性が似ている なぁとかこの表現面白い!って思える子を探して下さ い!あと,音の発表以外には絶対に声を出さないでく ださい。
子どもたちは指示通り,静かに交流する中で,お互い の考えた声(表現)を確認していった。全員が終わった 段階で今の活動の主旨が グループ作り であったこと を説明し,自分がこの絵を表現するのに必要な友達(声)
とグループを組むように指示を出した。
男女混合で班を作ろうとする生徒が多い中,麻友は絵 から 高い声 のイメージを持ったため,低い声の男子 とは組まずに,女子だけのグループを編成していった。
グループ編成後,自分が絵のどの部分を表現したかお カンディンスキー:コンポジションⅧ
芝 幸弘
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互いに発表しあった。
○2班のメンバーの考え
麻友:線を軽く速く引いてある感じで短い線
→高い声で速く(すばやく)短く シャッ カクカク
朝子:黄色い感じ
→高い声
紗季:丸とか三角定規っぽいものが落ってくる
→ちょっと高めの声 颯美:赤いモヤモヤ
→モワーン
春菜:全体的にごちゃごちゃ
→ゴチャゴチャ
どの班を見ても,絵の中の具体的な線や円,色や雰囲 気など,子どもたちが絵から受けた印象はそれぞれであ り,なんとか声で表現しようと努力した足跡が見られた。
各自が考えた音を組み合わせて音楽にする
次に各自が考える 音楽の条件 をもとに,みんなの 音を組み合わせたりして音楽を作っていくように指示を 出した。併せて,楽譜(時間軸がわかる表みたいなもの)
を提示し,その記入例等も簡単に説明した。
朝子:丸いのがたくさん。
麻友:直線がいっぱい,一定のものがたくさん。
春菜:太陽的な何か。
麻友:これが何かっていうのが…。 ゴチャゴチャ はいろ んなものがいっぱい。
颯美:まわりの赤いものが もわーん 。 紗季:細かいものが降ってきたって感じ。
春菜:直線とか四角形。 バラバラ は比較的大きいものが 降ってくる。
麻友: カクカク は多角形のもののイメージ。
2班では,いろいろな音が出そろってくると,それら を適当に合わせ始めた。「高いのがいい」「パラパラが いい」など考えた音を誰が担当するかの話に展開してい き,みんなが同じ音を高さを変えて重ねることになった。
また,考えた音を即興的に重ねながら楽しんでいく中で,
「パラパラ」の入るタイミングや長さなどを調整してい った。途中,教師の「絵のどの部分を表してるかわかる といい」の言葉を受け,考えた音を表(楽譜の裏側)に まとめはじめた。
2班は比較的順調に創作活動に取り組めていたが,人 数の多い5班をはじめ,いくつかの班は方向性が決まら ず活動が停滞していた。そこで, 音を重ねる ことの 一つの例として,昨年度の作品を鑑賞することにした。
昨年度は今回の活動と違って,自分たちで撮影した三枚 の写真から想像した音を使って創作活動を行っていった。
その旨を伝えた上で鑑賞した。
その後,創作活動は全体的に少しずつ軌道にのってき
たが,その表現はグループ作りの時に各自が考えた音を 組み合わせただけの表現であった。そこで,次のような 指示をクラス全体に出した。
教師:自分たちの作る音楽が この絵だけのもの にするこ と。違う絵と合わせてもよいような作品ではなくて,
この絵からできた音楽 なんだと思えるものを作っ てください。もっとしっかり絵をみて,特徴をたくさ ん捉えてください。
この言葉を受けて,どの班ももう一度絵の特徴につい て話し合い始めた。
麻友: しゅるしゅる は回っている線があるから。
春菜:くるくる回っている線が しゅるる〜 か。
朝子:全体的に 未知なる世界 で高い感じがするんだって。
春菜: ぐわーん はオーラ。
颯美:物と物とが軽くぶつかった音?(とんとん)
麻友: キェー は未知なる世界の高い音で ドン は重い 物が落ちた音。
朝子:黄色い青い物(絵)が落ちた感じ。
麻友: ぴこっ って感じもしない?四角い物がぽんって置 かれる音。
※言い方にかなりこだわり。高く短い音で表現。
最初はただ絵から特徴を探すだけだったのが,自然に 表現を伴った話し合いに変化していった。この日の活動 を,麻友は「おもしろくってかなり頑張ってやった。絵 の特徴とかをしっかりつかんで声に表現できた。」と振 り返っている。
声の表現にこだわりが表れる
前時の話し合ったことをお互い確認しながら声に出し て練習している。
教師:ちょっと見せてみて(記録)。これは何?
麻友:効果音の集まり。
教師:この ごちゃごちゃ っていうのは全体の雰囲気?
麻友:全体の雰囲気。
教師:四角いものとか三角形のものっていうのは?
絵 とみんなが考えた音をまとめていく
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春菜:これとか…これとか(絵を指さし)。
教師:じゃあ,三角形のこれとこれの違いは?
春菜:大きさ。
教師:声で表現しようと思ったらどうやる?
紗季:大きさ!
教師:色も違うよ?
紗季:声の色?
この教師とのやりとりの後, 角張っている感じ な ど「形」や「色」についての意識と表現が深まっていく。
麻友:ピコって感じするよね。なんかマリオって感じ。
春菜: しゅっ っていうのは?勢いよく線が引かれてるよ ね?
麻友: さっ っていうのは?
春菜:短直線だよ!長い線は しゅーっ って感じだし。
麻友:じゃあ さっ っていうのは高く短く切って!
※音の長さや高さでの表現にこだわる。
麻友: もわーん の方が弱々しい。( ぐわーん に比べて)
みんな:弱々しい?
麻友:弱々しいってわけではないけど,弱い感じ?
グループで話し合う中で,絵の特徴の読み取りが 色 の濃さ や 柔らかさ 平面から立体 軽さ 等にも 発展し,その表現にも深まりが見られるようになった。
どのグループも創作活動が軌道にのってきているが,
即興的な表現をしているところが多かった。そこで安定 した作品作りになることをねらい,「シーラカンス」(広 瀬量平作曲)を聴かせた。その楽譜を見ながら鑑賞する ことを通して,楽譜の書き方の参考にすることと記録を 残すことの意味を伝えた。
麻友の班は,「シーラカンス」の鑑賞前から少しずつ 楽譜の作成に取り組んでいた。そのため,教師のねらっ た楽譜の作成についてはあまり参考にならなかったが,
「シーラカンス」という曲名から,自分たちの作品全体 のイメージをまとめるようなタイトルについての話し合 いが展開されていった。
麻友:異空間の誕生? 異空間 って言葉入れたい。
春菜:なんだろう?
麻友:異空間の出来事?異空間の終わり?
この後,この班が楽譜の裏にまとめていた 音 の一 覧表を参考に作成したワークシートを使い,それに自分 たちの考えた音と絵の特徴をまとめていった。
絵を時間軸でとらえる
2班の活動は,前時の最後に話していたタイトルにつ いての話し合いから始まった。最終的には「未知なる世 界」ということで話がまとまったようである。ある程度 作品が仕上がっていたため,しばらくは楽譜作りと練習 といった活動を繰り返していただけであった。
教師:このまわりの赤いオーラ, もわーん っていうのは、
内側から広がってる?このとんがってるのはどっちの 方向に向かってる?とんがってる方から広がってる?
それとも逆?
2班では,この教師からの問いを受け,話し合いは時 間的な流れとともに作品の構成に展開していった。
2班の考えた時間的な流れと構成
①線が初めに引かれる。
②線が曲がる。
③太陽からオーラが出てくる。
④四角いものが瞬間移動する。
⑤いろんなものが軽くぶつかる。
⑥重いものがおもいっきりドンって落ちる。
⑦しみのようなものが1滴落ちる。
⑧落ちたものが速く広がっている。
⑨未知なる世界へ!
作品の構成と楽譜ができ上がったため,手拍子に合わ せて全員で合わせ始める。音の入るタイミングや重なり 方を工夫しながら微調整を加えていく。途中なかなか合 わないため,各自が自分の担当する音の長さやタイミン グを覚えたり,手拍子を無くして合わせるなどの練習を 行っていった。その中で, しゅるるる などの展開の きっかけになるような音の表現にもこだわりが見られる ようになった。この日の振り返りで,麻友は「がんばれ ばどんなものでも声にできるんだ!って思った。やっぱ り客観的にみて感じたことを1度声にしてみるっていう のが大切なんだと思った。音楽サイコー!」と述べてい る。ここまでの仕上がりに対し,満足感を持っているの が伺えた。
中間発表会
最初15分間の練習時間をとった。2班のメンバーはク レッシェンドや入るタイミングなどの最終調整を行った。
いよいよ中間発表会の本番が始まった。しかし,2班 の発表は練習の時とは程遠い演奏であった。声も小さく,
こだわりを持って臨んでいた表現は,ただ単にオノマト ペを言葉として言っているだけであった。曲の最後を締 めくくる キェー(未知なる世界を表現)という音は省 略されてしまっていた。演奏後には,質疑応答の時間を 設けていたが,一つも質問されずに終わってしまった。
全部のグループの演奏が終わった段階で一人一票,自分 が良かったと思う班にコメントや質問(アドバイスカー ド)を書いたのだが,2班のところに届いたのは結局寛 子からの一票のみであった。
中間発表全体を見ても,どの班も音に対するこだわり があまり見られなかったため次のような質問を投げかけ てみた。
教師:今回,絵を見てみんなは自分たちで作品や音を作った 芝 幸弘
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んだけど,じゃあ君らの演奏を聴いて絵を描こうと思 ったらこんな絵になるのかな?
しばらくの静寂とざわめきの中で「ならない!」など の言葉が聞こえてくる。そこで,もっと演奏を立体的に するために,自分の周りの音をもう一度意識して聞くこ とで音の空間的な認識が生まれることを期待して,サウ ンドスケッチを取り入れた。
再構成〜クラスコンサート
再構成はアドバイスカード読み合いから始まった。し かし,2班は寛子からの一票「ボンっていう音にはどう いう意味があるんですか?」しか届けられなかったため 話し合いにならない。とりあえず,その質問に対する答 えだけ本人に告げただけで活動は止まっていた。
教師の方から,前時の最後に行ったサウンドスケッチ の意味について触れた上で,立ち位置等にも工夫するよ うアドバイスを行った。また,同じく前時の最後に投げ か け た「自 分 た ち の 演 奏 を 絵 に し た ら こ ん な 絵 に な る?」という質問の補足説明「この絵を表現することが 最終目標ではなく,この絵から感じ取ったことを表現す ることが目的」であることをおさえ,自分たちの作品の 再構成に入っていった。
麻友:どうする?タイミングをずらしてみたら?ここで パ ラパラ が入ったりして。で、ここで3秒間くらい パ ラパラ が入って。
春菜:で、次どうする?
麻友: ぐわーん をずらす感じで。
揚原: ぐわーん 何秒間くらいやる?4秒間?
麻友:で, シュルルル を…あ、上田、 シュルルル を いうから ぐわーん ダメなのか!
麻友:で, ピコッ をこの辺から始めよう!
春菜:言ってる途中(シュルルル)に ピコッ って入るの!
麻友:あ,そうか。じゃあ,タイミング的にはこの辺でいい かな。
麻友は,中間発表の時の3班の演奏から タイミング をずらす ことを参考にしていた。それまでの自分たち の演奏は,同じ音を数人が同時に表現する場合,音の高 さを変えるぐらいであったが,タイミングをずらして音 を重ねる効果を面白いと感じたようである。
クラスコンサートの前に15分間の練習時間を設けた。
そこでの2班の話し合いは,楽譜を暗譜することとタイ ミングを合わせることが中心だった。しかし,本番間際 になって最後の キエー という表現についてどうする か悩んでいた。麻友はやりたいという気持ちでいっぱい だったが周囲のメンバーの 恥ずかしい という気持ち におされ,結局 ドン という言葉に置き換えてしまっ た。その気持ちを象徴したように,クラスコンサート本 番の演奏も中間発表の時と同じく,練習の時とは比べも のにならない中途半端なものとなってしまった。
音楽集会の振り返り
音楽集会で他のクラス発表,2年生・3年生の発表を 見た子どもたちは大いに刺激を受けたようである。麻友 は音楽集会を次のように振り返っている。
麻友の振り返りから
2年生の俳句を表現するのは,本当に深い森の中にいる って感じがして,1年生とはレベルが違っていた。来年私 たちもこんな風になれるか心配になった。
3年生は全員がしっかりと声を出していて,みんなで一 生懸命つくりあげたものだってことがよくわかるものだっ た。そして,3年生が1・2年やまわりの人達に何を伝え たいのかっていうのがすごくわかった。とにかく,すごい としか言いようがなかった。
自分たちの学年の演奏については,他のクラスのやつと かも聴けて良かった。A組とかは,絵を表現した動きがい っぱい入っていてびっくりした。
授業後「今,自分たちが発表したものは音?それとも 音楽?」と尋ねたところ,口々に「音楽!」という言葉 が聞かれた。麻友は「自分がどういう風にしようか一生 懸命考えたから」という理由と併せて,今回の活動の中 で音と音楽の違いは 感情の有無 であると自分なりに 定義付けることができたことから,自分たちの作品を 音 楽 であると答えていた。上記の振り返りの中でもその 視点が伺える。
最後に,これからの三年間の音楽活動の中で,自分が 胸を張って 音楽 だと言えように全ての活動を展開し てほしいということを伝え,授業を終えた。
3.省察
(1)題材内の諸活動とその問題点
本題材は, 音 と 音楽 の違いについて考えるこ とから始まった。それは, こだわりをもって表現する こと の大切さを教師から教わるのではなく,子どもた ち自らが気づいてくれることをねらいとしたためである。
しかし,そこでの活動は話し合いが中心となり,実技教 科としての意味合いが薄れてしまったように思われる。
また,サウンドスケープの諸活動では, 聴くこと か
中間発表を受けて再構成し直した楽譜
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ら 表現すること へと活動を展開することで, 音 と 音楽 の違いに対する意識や考えが,実感とともに 深まっていったと思われる。しかし,声での表現追究を 目的としながら「身近なものを使って自然音・環境音表 現する活動」を取り入れたのは,子どもが学びの筋を見 失ってしまうおそれがあったのではないのだろうか。ま た, 音の特徴 を捉えて声で表現する活動から色や絵 といった 視覚的特徴 を声で表現する活動に結びつけ るのには些か無理があったように思う。そのため今回は,
教師が子どもの学びを導いた感が強くなってしまった。
子どもが自分の筋で学びを繰り上げられるような活動と その展開を考えていく必要があることを痛感した。
(2)本題材のカリキュラムの位置づけ
本校音楽科では,春:音楽を総合的に理解し構築する 題材,夏:合唱を中心に表現力を高める題材,秋:多様 な音楽に触れ音楽観をひろげる題材,冬:学年オリジナ ルの音楽づくりを通して感動を共有する題材,というよ うに3年間で12の題材を設定しており,それらが有機的 に絡み合い,学びが螺旋状に繰り上がっていくようにそ れぞれの題材が位置づけられている。
昨年度までは1年春の題材に「 おおシャンゼリゼ を ミュージカル風に表現する活動」が設定されており,本 題材で取り扱った「サウンドスケープによる創作活動」
は1年秋の題材として位置づけられていた。それを春の 題材に位置づけた理由は次の3つである。一つ目に,例 年本校音楽科で一番最初の授業で,教師から伝えられて きた「音楽の授業で大切にしてほしいこと」の3つ
, 聴くこと こだわって表現すること 感じたこと を素直に表現すること を,子どもたち自らが活動を通 して学んでいくのに適しているためである。二つ目に,
他学年の活動との関係,春の題材を「音楽を総合的に理 解し構築する題材」と位置付けていることからも,一年 の春に「サウンドスケープの諸活動」を設定することは 有意義であると考えたからである。三つ目に,今までの 活動( おおシャンゼリゼ の活動)が 音楽 としての 表現追究というよりも 身体表現 または 舞台芸術 としての表現追究の意味合いが強いと感じたためである。
今回の実践を振り返ってみたときに 聴くこと と こ だわって表現すること を子どもたち自らが学んでいく ことには大変有意義であり,中学校三年間の学びの基盤 となる意識の形成につながったと実感している。しかし,
素直に感じたことを表現する という視点からみた時 に,本実践の結果からもわかるように問題は残っている。
子どもたちの 恥ずかしい という感情を払拭できるよ うな題材の扱いや授業そのものの展開・支援を考えてい く必要があることを実感した。
(3)グループ活動における話し合いの記録の導入 今回,グループでの話し合いの記録を子どもたち自身
の手で残すようにしたわけであるが,これには2つの大 きなメリットがあった。まず一つ目は,音楽科の授業が 週一回,休日等で授業がなくなると半月に一回というこ ともあり,子どもたち自身が前時にどのような活動をし ていたか忘れてしまい,思い出すのに時間がかかる 最 初からもう一度作り直す といった無駄が生じてしまう のであるが,自分たちが話し合いの記録を残し,それを 読み返すことで子どもたちの学びがつながっていったよ うに思われる。二つ目は,グループ活動を見て回った時 に,教師がそのグループの活動の展開や話の筋が見取れ るため,無駄な質問や見当違いな支援が少なくなったよ うに思われる。ただ,メリットばかりでなく,記録を担 当している生徒の活動を制限してしまったり,記録をと るためにグループ全体の活動が停滞してしまうなどのデ メリットも発生した。本題材が中学生最初の活動である ため,今後こういった記録を継続してとっていくことで 多少のタイムロス等は軽減されると思うが,記録者の活 動を制限することについては,何らかの手立てを講じて いく必要がある。
1)サウンドスケープ…個人,あるいは特定の社会がど のように知覚し,理解しているかに強調点の置かれ た音の環境。したがって,サウンドスケープはその 個人がそうした環境とどのような環境を取り結んで いるかによって規定される。この用語は現実の環境 を意味する場合もあれば,とりわけそれが一種の人 為的環境と見なされた場合には,音楽作品やテープ モンタージュのような抽象的構築物を意味する場合 もある。
2)ヴァシリー・カンディンスキー…(1866−1944)モ スクワ生まれ。20世紀最初の抽象画家。彼は「美術 は直接感覚に訴え,物語を語る必要のない音楽のよ うなものであるべきだ」と考えており,「色彩は音 と同じ方法で用いることができる」と確信していた。
3)《コンポジションⅧ》…1923年の作品。動く対角線,
平板なチェッカーボードの部分,色彩の強弱,そし て半透明なあるいは不透明な色彩, 安定していた り不安定であったり , 堅い,あるいはやわらかい , 収縮したり拡大したりする円。この絵は,そうした 動的な要素と静的な要素のコントラストを追求して いる。
参考文献
R・マリー・シェーファー(1986) 世界の調律 サウ ンドスケープとはなにか
鳥越けい子(1997) サウンドスケープ〔その思想と実 践〕
山岸美穂・山岸 健(1999) 音の風景とは何か 芝 幸弘
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R・マリー・シェーファー・今田匡彦(1996) 音さが しの本 リトル・サウンド・エデュケーション
同朋舎出版(1990) THE GREAT ARTISTS 18カン ディンスキー
Formation of consciousness which becomes a base of learning.
Yukihiro SHIBA
Key words : sound , music , soundscape , special features of sound , listen , particularity
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