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所得税法第56条に関する一考察

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Academic year: 2021

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神奈川大学大学院経営学研究科『研究年報』第21号 2017年3月  5

 本論文の目的は、所得税法第56条(以下、「法 56条」という。)が生じさせている問題と、解決 策について検討を行うものである。現在の法56 条は、適正な商取引にまで租税回避行為防止の法 律適用され、納税者間において不公平を生じさせ ている。例えば、独立して事業を営む事業者が同 種同一の取引を行っていても事業者が親族である かどうかによって税負担が異なってしまうのであ る。

 この法56条は、生計を一にする親族間の取引 を無かったものと取り扱う規定であり、世帯内で の所得分割による租税回避行為を防止するために 設けられたものである。まずは、この規定の沿革 と立法当時の社会情勢について第1章にて詳しく 検討を行うこととした。

 この規定は、シャウプ勧告に基づき、戦後すぐ に制定された制度である。当時は「家」制度と呼 ばれる制度が廃止されたばかりであり、その影響 が未だ残っていること、また、納税者の記帳慣行 が無かった事などから世帯内で支払われた対価の 経費性が曖昧であったことから、その存在には意 義があったことが明らかになったのである。

 しかし、制定から長い時間が経過し、現代社会

は大きく変化した。そしてこの変化により規定内 容と現実が乖離してしまったことが、法56条を 巡る問題の原因ではないかと考えた。

 第2章では、この規定内容と現実が乖離してし まっている点について明らかにした。その乖離と は、端的に言えば女性の社会進出である。現代で は女性が職を有するということはなんら珍しくな い事である。

 さらには、専門職を有する女性も増加している。

加えて、夫・妻共に事業を行っている上で、互い に取引を行う機会が増えているのである。この状 況下では戦後すぐに制定された法56条では対応 することが出来ていないのである。

 第3章では、こうした法56条と現実との乖離が 実際にどのような問題を起こしているのか。そし て、それに対して司法はどのような判断を下して いるのか。判例について詳細な分析を行った。

 その結果、実際に租税回避行為を目的としない 正当な商取引にまで法56条が適用されている現 状が明らかになった。さらに、実際の法律の適用 条件についても検討を行った。これは、法56条 は現状の条文のままでも租税回避行為に適用を限 定化される、という意見が判例について検討する

■ 修士論文要旨

所得税法第56条に関する一考察

―世帯内取引における対価の経費否認の問題と解決の方向性―

A Study of the Article 56 of Income Tax Law

-Problems of the disallowed expense in the household transaction and Direction of the solution-

神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士前期課程

杉 野 彰 一

SUGINO, Akihito

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6  神奈川大学大学院経営学研究科『研究年報』第21号 2017年3月

論文に幾つか見られたためである。

 しかし、この検討により、上述のように租税回 避行為以外の取引にも法56条が適用されること に矛楯が無い事がわかったのである。従って、こ の法56条の問題は、今後同様の裁判が起こった としても納税者有利の判断がされる可能性は無 く、問題を解決するには抜本的な解決作を用意し なければならないのである。

 第4章において、この問題の解決作として3つ の策の検討を行った。この3つの策とは、①「法 56条・法57条の単純な廃止案」、②「独立事業者 間価格制度の導入」、③「課税単位の変更案」の 3つである。本論文ではこの3つについて検討を 行ったが、③「課税単位の変更案」が最もふさわ しい解決策であると結論づけた。

 まず、①「法56条・法57条の単純な廃止案」では、

これまで防がれていた所得分割による租税回避行 為が可能となってしまう。法56条は現代におい て納税者間の公平が阻害されているとしても、か といって単純に廃しを行い、所得分割が可能に なってしまえば、納税者間の公平が阻害されてし まう。

 次に、②「独立事業者間価格制度の導入」である。

「独立事業者間価格制度」とは、世帯内で行う取 引について、対価の適正な金額を規定する。そし て、その金額で支払われた対価については法56 条にかかわらず必要経費算入を認めるという制度 である。この制度を導入すれば、租税回避を意図 しない取引については必要経費算入が認められる 事になる。

 この案の問題はその実行可能性にある。この制 度自体は「移転価格税制」という形で法人税法で 既に導入されている制度である。しかし、法人、

しかも国際取引という規模で行われてる取引につ いて規定した制度を、世帯内という小規模の取引 に引き直してこの規定を適用できるのかという疑 問が存在する。

 仮に導入したとして、金額の算定方法を適正に 選択したか、算定した金額は妥当なものかといっ た点で今後訴訟が起こる可能性は大いにある。結

局の所、租税回避を目的としない取引に法56条 が適用されてしまうという根本的な法56条の問 題は残るのである。

 そして、③「課税単位の変更案」である。具体 的には、個人単位課税から世帯単位課税へと移行 し、2分2乗やn分n乗と呼ばれる制度を導入す ることである。

 本制度の導入によれば、世帯内でどのように対 価のやりとりを行っても、最終的には所得を合算 することになるため世帯単位での税負担に影響が 無くなる。そのため法56条の問題は完全に解消 する事になる。

 本案は、戦後から続いてきた個人単位課税から 大幅な制度変更であり、行政手続きや徴税コスト、

さらには社会保険制度といった他の制度にに大き な影響を与えることとなる。制度導入には慎重な 検討が必要であることは承知の上で、現代社会に 対応する新たな税制として、課税単位の変更の提 案を本論文の最終的な結論とするものである。

参照

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