FASB 発行者による金融商品会計における 負債領域の拡大
──FASB財務会計基準書第
150
号「負債と持分の両方の特徴を有する ある種の金融商品に関する会計処理」について──志 賀 理
蠢 FASBステイトメント第150号公表の経緯 蠡 FASBステイトメント第150号の内容 蠱 FASBステイトメント第150号の具体的適用例
蠶 FASBステイトメント第150号による負債領域拡大の本質的意味
Ⅰ FASB ステイトメント第 150 号公表の経緯
FASB
は1986
年に「多様な金融商品とそれに関連する取引がもたらす現存の財務会 計問題および財務報告問題と,将来に生ずるであろう諸問題を解決するための幅広い会 計基準を開発するこ1
と」を目的に,金融商品会計プロジェクトを発足させた。FASBは 金融商品会計プロジェクトを「金融商品の開示問題を取り扱う部門」,「金融商品の認識 と測定を取り扱う部門」,および「債務証券と持分証券の区別に関する問題を取り扱う 部門」という三つの部門に分けて展開してきた。
FASB
は前者二つの部門については,FASBステイトメント第105
号,第107
号,第119
号という金融商品に関する開示基準の公表を経て,1998年に金融商品の認識と測定 に関する包括的な会計基準であるFASB
ステイトメント第133
号『デリバティブおよ びヘッジ活動に関する会計処理』を公表するに至っている。金融商品の発行者側の会計処理に係る「債務証券と持分証券の区別に関する問題を取 り扱う部門」については,1990年に
FASB
ディスカッション・メモランダム『負債証 券と持分証券の区別と,両方の特徴を有する証券に関する会計処理』の公表を経て,2000
年10
月にFASB
ステイトメント公開草案『負債,持分,もしくは両方の特徴を有する 金融商品に関する会計処理』(以下,「公開草案」と略称する)が公表された。公開草案は(a)負債の特徴を有するが,実務上は財政状態表で完全に持分として,
────────────
1 FASB, Statement of Financial Accounting Standards No. 105,Disclosure of Information about Financial In- struments with Off-Balance-Sheet Risk and Financial Instruments with Concentrations of Credit Risk, March 1990, par. 1.
(207)207
もしくは負債の部と持分の部の間のいずれかで表示されている金融商品,(b)持分の特 徴を有するが,実務上は財政状態表で負債の部と持分の部の間で表示される金融商品,
(c)負債と持分との両方の特徴を有するが,実務上は完全に負債として,もしくは完全 に持分として分類される金融商品,さらに,(d)持分株式を発行する義務を含むある種 の金融商品を,発行者が財政状態表でどのように分類すべきかについて,作成者,監査 人,規制者などによって表明された懸念に応えるために開発されたものであるとい
2
う。
その公開草案の主な内容は,たとえば,将来に資産を譲渡することによって償還する 義務を組み込んでいる定時償還優先株や,将来に持分株式を発行するある種の義務を組 み込んでいる金融商品を負債として分類することを要求するものであった。また,転換 社債は構成要素に分解し,社債の償還による資産を譲渡する義務は負債,転換オプショ ンが行使された場合に持分株式を発行しなければならない義務は持分として分類するこ とを要求するものであっ
3
た。それと同時に,持分株式を発行するある種の義務を負債と して解釈するために,FASB概念ステイトメント第
6
号の負債の定義を改正することも 提案していた。FASB
は公開草案を再検討した結果,2003年5
月にFASB
ステイトメント第150
号『負債と持分の両方の特徴を有するある種の金融商品に関する会計処理』(以下,「ステ イトメント第
150
号」と略称する)を公表した。ステイトメント第150
号は,公開草案 で提示した適用範囲のうち,負債として分類する金融商品,すなわち,定時償還金融商 品,資産を譲渡することによって発行者の持分株式を買い戻す義務を組み込んでいる金 融商品,および発行者の持分株式を発行する義務を組み込んでいる金融商品の三つのク ラスに適用を限定したものである。負債と持分の要素から構成される転換社債のような 金融商品や連結子会社における少数株主持分の処理に係る問題については,解決するに 至らず,継続審議となっている。また,概念ステイトメントの第6
号の改正も,それら の諸問題を解決するまで延期されることになった。しかし,FASBは明確かつ解決可能 な実務上の問題をもつ金融商品についてガイダンスを提供することのほうがタイムリー で必要であるとして,公開草案よりも適用範囲を限定したステイトメント第150
号を公 表したのであ4
る。
そこで本稿では,FASBステイトメント第
150
号の内容を考察することにより,それ が負債として処理する金融商品に焦点を絞ったことの意味を明らかにしたい。────────────
2 FASB, Exposure Draft, Proposed Statement of Financial Accounting Standards,Accounting for Financial In- struments with Characteristics of Liabilities, Equity, or Both,October 2000, par. 1.
3 公開草案の内容については,志賀理「FASB金融商品会計における負債概念の解釈のあり方−FASB財 務会計基準書公開草案『負債,持分,もしくは両方の特徴を有する金融商品に関する会計処理』につい て」『同志社商学』第54巻第1・2・3号,2002年12月を参照されたい。
4 FASB, Statement of Financial Accounting Standards No. 150, Accounting for Certain Financial Instruments with Characteristics of both Liabilities and Equity,May 2003, par. B 11.
同志社商学 第56巻 第1号(2004年5月)
208(208)
Ⅱ FASB ステイトメント第 150 号の内容
1.適用範囲
ステイトメント第
150
号は負債と持分の両方の特徴を有するある種の金融商品につい て,当該金融商品の発行者がそれらの金融商品を財政状態表でどのように分類し測定す べきかという基準を設定したものである。その主な内容は発行者に対する義務を組み込 んでいる金融商品を発行した場合,当該金融商品を負債(あるいはある状況においては 資産)として分類することを発行者に義務づけるものである。発行者に対する「義務」について,ステイトメント第
150
号は資産を譲渡するかもし くは持分株式を発行する条件付義務もしくは責任,あるいは無条件の義務もしくは責任 を表しているという。このことについてステイトメント第150
号は以下のように説明し ている。すなわち,「たとえば,ある実体に現物決済によって持分株式を買い戻すこと を義務づけるプット・オプションを発行すれば,当該実体は資産を譲渡しなければなら ない条件付義務を負うことになる。また,差金決済を義務づける同様の契約を発行して も,当該実体は資産を譲渡しなければならない条件付義務を負うことになる。株式によ る差額決済を義務づける同様の契約を発行しても,当該実体は持分株式を発行しなけれ ばならない条件付義務を負うことになる。それとは対照的に,株式を発行した場合は,一般に実体は,当該株式を償還する義務を負わず,それゆえ,当該実体は資産を譲渡す るかあるいは持分株式を追加発行する義務を負わない。しかし,ある種の株式の発行
(たとえば,定時償還優先株)は,資産を譲渡するかあるいは持分株式を発行すること を発行者に要求する義務を課
5
す」という。
ステイトメント第
150
号は,金融商品の特徴を発行者が負う「義務」に求め,負債と して計上する金融商品の範囲を,資産を譲渡する義務を組み込んでいる金融商品だけで なく,持分株式を発行する義務を組み込んでいる金融商品にまで拡大させている。2.金融商品の初期分類
ステイトメント第
150
号は,発行者の義務を組み込んでいる独立した金融商品の三つ のクラス,すなわち,漓定時償還金融商品,滷資産を譲渡することによって発行者の持 分株式を買い戻す義務を組み込んでいる金融商品,澆不定数の株式を発行する義務を組 み込んでいる金融商品を,負債(あるいは,ある状況においては資産)として分類する ことを発行者に義務づけている。このステイトメントを金融商品に適用するさいには,その三つの金融商品の特徴を本質的に有していることが重要な要因となり,何らかの本
────────────
5 Ibid.,par. 3.
FASB発行者による金融商品会計における負債領域の拡大(志賀) (209)209
質的でない特徴がそれらの金融商品に組み込まれている場合には,その本質的でない特 徴を無視するものとしてい
6
る。
漓定時償還金融商品
定時償還金融商品については,その償還が報告実体の清算もしくは解散によってのみ 行われることが義務づけられていない限り,負債として分類することを要求している。
株式という形態で発行される金融商品が特定の日もしくは決定可能な日(もしくは期 間)に,あるいは発生が確実な事象にもとづいて,発行者がその資産を譲渡することに よって金融商品を償還することを要求する無条件義務を組み込んでいる場合,当該金融 商品は償還が義務づけられているとみなされるという。
また,ある金融商品を発生が確実でない事象にもとづいて,資産を譲渡することによ ってその金融商品を償還するという条件付義務を組み込んでいる場合,当該金融商品 は,その事象が発生するか,その条件が解消されるか,あるいは,その事象の発生が確 実になった場合に,償還が義務づけられることになり,その時点で負債として分類する ことを要求してい
7
る。
滷資産を譲渡することによって発行者の持分株式を買い戻す義務を組み込んでいる金融 商品
発行当初に(a)発行者の持分株式を買い戻す義務を組み込んでいるか,あるいはそ のような義務が持分株式の公正価値の変動にもとづいている金融商品,(b)発行者が資 産を譲渡することによって決済しなければならないかあるいは決済しなければならない かもしれない金融商品は,負債(あるいはある状況のもとでは資
8
産)として分類するも のとする(ただし,発行済み株式は除く)。その例として,現物決済もしくは差金決済 が行われる発行者の持分株式についてのプット・オプションの発行もしくは先渡購入契 約などがあ
9
る。
澆不定数の株式を発行するある種の義務を組み込んでいる金融商品
無条件義務を組み込んでいる金融商品,もしくは条件付義務を組み込んでいる発行済 株式以外の金融商品で,発行者が不定数の持分株式を発行することによって決済しなけ
────────────
6 Ibid.,par. 8.
7 Ibid.,pars. 9−10.
8 ステイトメント第150号の範囲内にある負債となる義務を組み込んでいるある種の金融商品もまた,資 産の特徴を含んでいるかもしれないが,一つの項目として報告しなければならない。たとえば,差金決 済もしくは株式差額決済が行われる先渡購入契約や,発行者の株式を買い戻すオプションが結合してい る金融商品などがある。それらの金融商品は,最初に資産もしくは負債として分類され,その後に,報 告日の金融商品の公正価値に依拠して分類される。(Ibid., footnote. 7.)たとえば,発行者の持分株式に ついての先渡購入契約の場合,発行時点で当該契約が発行者にとって不利なポジションとなっている場 合(持分株式の市場価格が先渡購入価格を下回っている場合)は,当該先渡契約は負債として分類され るが,有利なポジション(持分株式の市場価格が先渡購入価格より上回っている場合)は資産として分 類されるのである。
9 Ibid.,par. 11.
同志社商学 第56巻 第1号(2004年5月)
210(210)
ればならないか決済することができる金融商品は,当初にその義務の貨幣価値が,以下 のいずれかに単独もしくは支配的にもとづく場合,負債として(あるいはある状況のも とでは資産)として分類することが要求されてい
10
る。
澆−1.当初に知られている固定貨幣価値(たとえば,不定数の発行者の持分株式で決 済可能な支払勘定)
澆−2.発行者の持分株式の公正価値以外のものの変動(たとえば,S&P 500の指標と なる金融商品で不定数の発行者の持分株式で決済可能なもの)
澆−3.発行者の持分株式の公正価値の変動に対して反対に連動する変動(たとえば,
株式による差額決済が行われる発行プット・オプション)
ここで重要なのが貨幣価値(Monetary Value)という用語であるが,貨幣価値とは,
現金,株式,もしくはある金融商品によって発行者がその保有者に譲渡することが義務 づけられている他の金融商品が,特定の市場条件のもとで決済日に有している公正価値 を意味しているという。ステイトメント第
150
号はある種の金融商品に対して,貨幣価 値が固定されたままであるのか,あるいは市場条件の変動に応じて変動するかどうかを 検討することを要求している。金融商品の貨幣価値が市場条件の変動に応じてどのよう に変動するかは,決済方法を含む契約条件の性質に依拠する。上記の条件について,以 下のような説明がなされてい11
る。
澆−1.義務の貨幣価値が固定されている場合:
現金$100,000を譲渡するかもしくは$100,000の価値のある持分株式を発行すること によって決済することを要求する義務を組み込んでいる金融商品については,その貨幣 価値は,たとえ株価が変動しても,$100,000に固定されている。
澆−2.義務の貨幣価値が持分株式以外のものの公正価値の変動にもとづく場合:
発行者の持分株式以外のものの変動にもとづいて不定数の株式を発行することによっ て決済することを要求する義務を組み込んでいる金融商品については,その貨幣価値は 他のものの変動価格の変動にもとづいて変動する。たとえば,その決済価値がゴールド
100
オンスの公正価値の変動に等しい株式数を引き渡さなければならないという株式に よる差額決済義務は,ゴールドの価格にもとづいて変動する貨幣価値を有しているので あって,発行者の持分株式の価格にはもとづいていない。澆−3.義務の貨幣価値が持分株式の公正価値の変動と逆に変動する場合:
発行者の持分株式固定数の公正価値の変動にもとづいて不定数の株式を発行すること によって株式による差額決済を要求する義務を組み込んでいる金融商品については,そ
────────────
10 Ibid.,par. 12.
11 Ibid.,par. 4.
FASB発行者による金融商品会計における負債領域の拡大(志賀) (211)211
の貨幣価値はその義務を満たすために発行することが要求される株式数にもとづいて変 動する。たとえば,発行者の持分株式
10,000
株を売りつける権利を保有者に与える株 式による差額決済のプット・オプションの行使価格が$11の場合,行使日に発行される 実体の持分株式の公正価値が$13から$10に下落したとすると,その発行者の株式の公 正価値の変動は,決済する義務の貨幣価値を$0から$10,000($110,000−$100,000)に上 昇させ,そのオプションは1,000
株($10,000÷$10)を発行することによって決済され ることになる。ステイトメント第
150
号は,持分株式を発行する義務を組み込んでいる金融商品であ っても,上記のような貨幣価値を有する金融商品については負債として分類することを 要求している。これは公開草案において提言された,当該金融商品がその保有者と発行 者との間に構築する関係の性質にもとづいたものである。つまり,将来に持分株式を発 行することによって発行者の義務を決済する金融商品であっても,その決済する義務の 貨幣価値が固定されている場合は,当該金融商品の保有者と発行者の関係は,債権者と 債務者の関係に類似するものであり,その場合の義務は負債とみなされるべきものであ るというのである。また,持分株式を発行することによって決済される(株式による差 額決済)義務の貨幣価値が,株式の公正価値と反対に変動する場合,すなわち,株式の 公正価値が下落すれば貨幣価値は増大するというような関係にある場合,当該金融商品 の保有者と発行者との間には所有主と企業という関係は構築されないため,当該金融商 品は持分ではなく,負債として分類すべきであるというのである。3.初期測定および事後測定
ステイトメント第
150
号は,負債として分類される上記の三つの金融商品について,以下のように初期測定・事後測定することを要求してい
12
る。
定時償還金融商品は公正価値で初期測定される。
資産を譲渡することによって(たとえば,現金と交換に)発行者の持分株式を特定数 買い戻すことによる現物決済を要求する先渡契約については,契約時の当該株式の公正 価値で初期測定するものとする。持分は契約時の株式の公正価値と同額まで減額するも のとする。
現金と交換に発行者の持分株式特定数を買い戻すことによる現物決済を要求する先渡 契約と,定時償還金融商品は,二つの方法のうちのいずれかで事後測定される。支払額 と決済日が固定されている場合,それらの金融商品は,契約時の利子率を用いて利子コ ストを計上し,決済日における支払額の現在価値で事後測定される。支払額もしくは決
────────────
12 Ibid.,pars. 20−23.
同志社商学 第56巻 第1号(2004年5月)
212(212)
済日のいずれかが,特定の状況にもとづいて変動する場合,それらの金融商品は,報告 日に決済が発生する場合,当該契約における特定の状況のもとで支払われるであろう現 金額で事後測定される。ただし,以前の報告日からその金額の結果的変動を利子コスト として認識する。それらの契約の保有者に対して,初期測定額を超過して支払われるも しくは支払われるべき金額は,利子コストのなかで反映される。
ステイトメント第
150
号の適用を受ける他のすべての金融商品は,公正価値で初期測 定される。条件付償還金融商品が,強制的に償還可能になる場合,再分類にもとづい て,発行者は当該負債を公正価値で初期測定し,初期測定額まで持分を減額するものと する。ただし,そのさいに利得もしくは損失は認識してはならないとしている。4.開
示ステイトメント第
150
号は,上述の金融商品を負債として計上した場合に,当該金融 商品の発行者に,当該金融商品の内容および契約条件,当該金融商品に組み込まれてい る権利・義務を開示することを要求している。その開示には,当該契約において代替的 な決済方法が認められている場合は,その決済方法についての情報,代替的な決済方法 を管理する実体を明確にする情報を含めなければならないとしてい13
る。
さらに,ステイトメント第
150
号の適用を受けるすべての発行済みの金融商品,およ び各代替的決済方法に関して,発行者に以下の項目を開示することを要求してい14
る。
a
.報告日に決済が行われる場合に,契約で定められている状況のもとで決定され る,支払額,発行株式数,およびその公正価値。b
.決済金額に影響を与える発行者の持分株式の公正価値の変動傾向(たとえば,「一株の公正価値が$1減少すれば,発行者は追加株式を何株発行しなければなら ないか,もしくは現金を何ドル追加支払しなければならないか」)。
c
.適切な場合,発行者が現物決済によって当該金融商品を償還するために支払わな ければならない最高金額。d
.適切な場合,発行しなければならない最高株式数。e
.適切な場合,発行者が支払わなければならない金額もしくは発行者が発行しなけ ればならない株式数を,当該契約が制限していないということ。f
.適切な場合,発行者の持分株式にスライドする先渡契約もしくはオプションに 関して,先渡価格もしくはオプション行使価格,当該契約がスライドする発行者 の株式数,契約日もしくは決済日。────────────
13 Ibid.,par. 26.
14 Ibid.,par. 27.
FASB発行者による金融商品会計における負債領域の拡大(志賀) (213)213
以上のように,ステイトメント第
150
号は株式という形態で発行されても資産を譲渡 することによって償還する義務を組み込んでいる金融商品,資産を譲渡することによっ て持分株式を買い戻す義務を組み込んでいる金融商品,さらにはある一定の条件のもと で持分株式を発行する義務を組み込んでいる金融商品を負債として処理し,それらの義 務を公正価値で評価するという内容のものである。これらの金融商品は現行の会計処理 では,持分として処理されていたもの,あるいは財務諸表上では認識されていなかった ものであり,ステイトメント第150
号は,基準レベルで負債として認識される項目・領 域を拡大したのである。Ⅲ FASB ステイトメント第 150 号の具体的適用例
ステイトメント第
150
号は上記三つのクラスの金融商品について,以下のようなガイ ダンスを示している。1.分類漓:定時償還金融商品の例示−トラスト優先証券
株式の形態で発行される様々な金融商品は,特定の日もしくは決定可能な日に,ある いは発生するのが確実な事象にもとづいて,資産を譲渡することによって金融商品を償 還しなければならないという発行者の無条件義務を組み込んでいる。それらの定時償還 金融商品を負債として分類することが要求されている。定時償還金融商品には,トラス ト優先証券(特定の日もしくは決定可能な日に償還することを義務づけられている証 券)や,保有者の死亡など発生するのが確実な事象にもとづいて償還しなければならな い株式などがある。
定時償還優先株およびトラスト優先証券は,月次利益優先証券,トラスト優先証券,
およびトラスト・オリジネイティッド優先証券と呼ばれる金融商品を含む,多くの形態 で発行される。多くのトラスト優先証券は以下のような方式で発行される。金融機関は 当該金融機関が結合するトラストもしくは他の実体を設立する。そのトラストは外部の 投資家に優先証券を発行し,その発行による受領額を,その金額に等しい劣後債券もし くは記載満期日を有する他のローンを金融機関から購入するために使用する。その劣後 債券もしくはローンは,トラストの唯一の資産である。金融機関がその劣後債券もしく は他のローンについて,利子の支払いを行う場合,トラストはトラスト優先証券の保有 者に現金を分配する。トラスト優先証券は劣後債券もしくは他のローンの満期日に償還 しなければならない。
上記の例において,トラスト優先証券は定時償還可能であり,株式を償還するために 資産を譲渡しなければならない義務を表すために,それらの金融商品は金融機関の連結
同志社商学 第56巻 第1号(2004年5月)
214(214)
財務諸表上で負債として分類され,保有者に支払われる配当もしくは他の金額の支払あ るいは発生は,利子コストとして報告されることにな
15
る。
2.分類滷:資産を譲渡することによって発行者の持分株式を買い戻す義務を組み込ん
でいる金融商品の例示滷−1.現物決済もしくは差金決済が要求されるプット・オプションの発行
現物決済を要求するオプション・ライター(発行者)の持分株式についての独立した 発行プット・オプションは一般的に,ステイトメント第
150
号公表以前は,緊急問題特 別委員会(EITF)の問題書第00−19
号『自己株式にスライドするデリバティブおよび 自己株式で潜在的に決済されるデリバティブに係る会計処理』のもとで持分として分類 されていたという。しかし,ステイトメント第150
号によって,現物決済を要求する発 行プット・オプションは,負債として分類されることになる。なぜなら,それらの証券 は発行者が,資産を譲渡することによって決済しなければならない発行者の持分株式の 再購入義務を組み込んでいるからであるという。さらに,差金決済を要求するもしくは認める発行プット・オプションも負債として分 類される。なぜなら,それらの証券は発行者の持分株式を再購入する義務の公正価値の 変動にもとづき,発行者が資産を譲渡することによって決済することを要求するからで あ
16
る。
滷−2.現物決済もしくは差金決済が要求される先渡購入契約
現物決済が要求される発行者の持分株式を購入するという独立した先渡契約は,一般 的に,ステイトメント第
150
号公表以前は,問題書第00−19
号のもとで持分として分 類されていたという。しかし,ステイトメント第150
号によって,それらの先渡購入契 約は負債として分類される。なぜなら,それらの証券は発行者が資産を譲渡することに よって決済することを要求する義務を組み込んでいるからであるという。公正価値で初 期測定および事後測定される現物決済の発行プット・オプションとは異なって,現金で 発行者の持分株式を再購入するという現物決済を要求する先渡契約から生ずる負債は,株式の公正価値で初期測定される。さらに,最初には対価もしくは未確定の権利あるい は特権に係る修正を行う。現金額と決済日の両方が固定されている場合,それらの契約 は,最初の段階で暗黙的な利率で利子コストを考慮することによって,決済時に支払わ れる金額の現在価値で事後測定される。その結果,満期日には,先渡契約金額に等しい 負債を生じさせる。先渡購入契約のもとで,支払われる現金額と決済日のいずれかが,
特定の条件によって変動する場合,それらの証券はその契約で定められた条件のもとで
────────────
15 Ibid.,pars. A 2−A 5.
16 Ibid.,par. A 10.
FASB発行者による金融商品会計における負債領域の拡大(志賀) (215)215
支払われる現金額で事後測定される。ただし,その株式が報告日に償還もしくは再購入 される場合である。そのことによって,前の報告日からの変動額に対して利子コストが 認識され
17
る。
たとえば,ある実体が
2
年後に第三者から当該実体の普通株式100
万株を再購入する という先渡契約を締結したとする。契約当初,その先渡契約1
株当たりの価格は$30で ある。その基礎となる株式の現在の価格は$25である。契約条項は当該実体が株式を再 購入するために現金を支払うことを要求する(実体は2
年後に$3,000万を譲渡しなけれ ばならない)。当該証券は資産を譲渡しなければならないという無条件義務を組み込ん でいるために,負債として分類しなければならない。当該実体は負債を認識し,$2,500 万だけ持分を減少させる(それは契約における暗黙的な利率9.54% で割り引いた,契
約価額$3,000万の現在価値であり,この例の場合は,契約当初の基礎となる株式の公正 価値でもある)。利息は先渡契約価額の$3,000万に対して2
年間にわたって発生する。その利息の計算には契約における暗黙的な利率
9.54% が用いられる。基礎となる株式
が再購入日前に配当の支払が行われると期待され,かつ,その事実が契約における暗黙 的利率で反映される場合,負債の現在価値および契約価額に対するその後の利息の発生 は,その暗黙的利率を反映する。発生した金額は利子コストとして認識され18
る。
現金との交換による現物決済を要求する先渡購入契約とは対照的に,差金決済を要求 もしくは認める先渡購入契約,あるいは現金以外の特定の資産との交換による現物決済 を要求する先渡購入契約は,公正価値で初期測定および事後測定され,報告日における 契約の公正価値に依拠して資産もしくは負債として分類され
19
る。
3.分類澆:不定数の株式を発行するある種の義務を組み込んでいる金融商品の例示
澆−1.契約当初にわかっている固定貨幣額にもとづく貨幣価値を有する株式の発行義務の例示
ある種の金融商品は,固定貨幣額に等しい価値を有する発行者の持分株式を不定数発 行することによって決済しなければならない義務(もしくは発行者の任意で認められて いる義務)を組み込んでいる。たとえば,ある実体は将来に,$110,000の価値のある株 式を発行するという約束と交換に$100,000を受け取ったとする。その無条件義務を決済 するために発行しなければならない株式数は,可変的である。なぜなら,その株式数 は,決済日における発行者の持分株式の公正価値によって決定されるからである。決済 日における株式の公正価値にかかわらず,保有者は$110,000の固定貨幣額を受け取る。
────────────
17 Ibid.,par. A 11.
18 Ibid.,par. A 12.
19 Ibid.,par. A 14.
同志社商学 第56巻 第1号(2004年5月)
216(216)
したがって,当該証券は分類規準澆−1にしたがって負債として分類され
20
る。
澆−2.発行者の持分の公正価値の変動以外のものにもとづく貨幣価値を有する株式の
発行義務の例示
ある実体による他の実体の資産,負債,もしくは持分証券の価値の保証は,当該実体 の持分株式での決済を要求する,あるいは認めている。たとえば,ある実体は他の実体 への相手方の持分投資の価値が,ある一定レベル以下に落ちないことを保証していると する。その保証契約は,ある特定の日の,保証人がその保証された投資の価値と現在の 公正価値との差額に等しい公正価値を有する株式を不定数発行することを要求するもの である。その発行によって,その保証がデリバティブとして計上されないかぎり,履行 しなければならない義務は,FASB解釈書第
45
号『他人の債務の間接的保証を含む,保証に係る保証人の会計処理と開示要件』が提言している負債となる。契約期間中に,
保証された投資の公正価値が,価値の増加がなく,特定のレベル以下に下がった場合,
保証人はその持分株式を発行しなければならない。その時点に,解釈書第
45
号にした がって認識される負債は,FASBステイトメント第5
号『偶発事象会計』の要件にした がうことになるという。ステイトメント第150
号は,偶発損失が持分株式で決済可能で あったとしても,ステイトメント第5
号のもとでの義務は,保証人が株式を発行するこ とによってその義務を決済するまでは負債になるという。これは,株式を発行するとい う保証人の条件付義務が,他の実体への相手側の持分投資の価値にもとづいているので あって,保証人の持分証券の公正価値の変動にもとづいていないからであるとい21
う。
澆−3.発行者の持分株式の公正価値の変動と反対の変動にもとづく貨幣価値を有する
株式の発行義務の例示
独立した先渡購入契約,独立した発行プット・オプション,もしくは株式による差額 決済が行われる純発行オプションは,分類規準澆−3にしたがって負債となる。なぜな ら,その契約に組み込まれた不定数の株式を引き渡すという義務の貨幣価値は,発行者 の持分株式の公正価値の変動とは逆に変動するからであるという。たとえば,発行者の 株価が下落すれば,それらの契約のもとでの発行者の義務は増加する。そのような契約 は公正価値で初期測定および事後測定が行われ(公正価値の変動は純利益で認識され る),報告日時点のその契約の公正価値に依拠して負債もしくは資産として分類され
22
る。
────────────
20 Ibid.,par. A 18.
21 Ibid.,par. A 20.
22 Ibid.,par. A 22.
FASB発行者による金融商品会計における負債領域の拡大(志賀) (217)217
Ⅳ FASB ステイトメント第 150 号による負債領域拡大の本質的意味
以上のように,FASBステイトメント第
150
号は,定時償還金融商品,資産を譲渡す ることによって発行者の持分株式を買い戻す義務を組み込んでいる金融商品,発行者が 不定数の持分株式を発行することによって決済する義務を組み込んでいる金融商品とい う三つのカテゴリーの金融商品を負債として分類することを要求したものである。ステ イトメント第150
号は,それらの金融商品を負債として認識領域に含めることをどのよ うに論理化したのであろうか。定時償還金融商品は,株式という形態で発行されるが,それは将来に資産を譲渡する ことによって償還するという義務を発行者に課しているために,当該株式を発行した時 点で負債として処理される。この義務は(a)特定の日,もしくは特定の事象の発生に もとづき,将来に資産を譲渡することによる決済をともなう現在の義務を表しており,
(b)発行者の任意で将来の資産の犠牲を避けることができず,さらに(c)すでに発生 している取引(当該金融商品の発行)の結果として生じたものであるがゆえに,現行の 概念ステイトメント第
6
号による負債の定義に合致しているとい23
う。
資産を譲渡することによって発行者の持分株式を買い戻す義務を組み込んでいる金融 商品は,当該買い戻す対象となっている発行済株式は持分として処理されているが,将 来に資産を譲渡することによって持分株式を買い戻すという義務はまだ未履行の状態で あっても負債として処理される。この義務は(a)発行者の持分株式を買い戻す義務を 表しており,(b)発行者に資産を譲渡することによってその義務を決済することを要求 するものであるがゆえに,現行の概念ステイトメント第
6
号による負債の定義に合致し ているとい24
う。
しかし,金融商品の発行者が不定数の持分株式を発行することによって決済する義務 を組み込んでいる金融商品については,その義務は現行の負債の定義には合致しないと いう。なぜなら,その金融商品は決済をともなう義務を組み込んでおり,その義務は過 去の事象から生じているが,発行者は資産を譲渡することを避けることができ,持分株 式を発行することによってその義務を決済することができるがゆえに,現行の負債の定 義に合致せず,持分として分類されうるからであるとい
25
う。それでは,ステイトメント 第
150
号は,持分株式を発行する義務を組み込んでいる金融商品を負債として分類する ことをどのように論理化したのであろうか。────────────
23 Ibid.,par. B 20.
24 Ibid.,par. B 26.
25 Ibid.,par. B 30.
同志社商学 第56巻 第1号(2004年5月)
218(218)
ステイトメント第
150
号は持分株式を発行する責務もしくは責任を,義務という概念 に加えたという。発行者の持分株式は発行者の資産とはならず,当該持分株式の新たな 保有者の資産となる。持分株式を発行することによって義務を決済することは,他の持 分株式の保有者にとっては,彼らの発行者の資産に対する持分を希薄化することによっ て,彼らの持分に不利な影響を与えることになる。それは資産を譲渡することによって 義務を決済することが,発行者の資産を減少させることによって他の持分株式の保有者 の持分に不利な影響を与えることと同じであるとい26
う。持分株式を発行することは資産 を譲渡することと同質であると指摘したうえで,持分株式を発行するという責務もしく は責任は,発行者の任意ではほとんど避けることができないため,それは義務であり,
潜在的に負債になりうると論理化する。
このことは公開草案が提言した金融商品の保有者と発行者との間に構築される関係の 性質にもとづいている。ステイトメント第
150
号は,発行者と保有者との関係に着目 し,それが企業とその所有主との関係,すなわち,FASB がいうところの所有主持分関 係(ownership relationship)を構築しない限り,持分として計上してはならないという のである。持分として分類するためには,金融商品に組み込まれている持分株式を発行 することによって決済するという義務は,その保有者に所有主(発行済持分株式の保有 者)が直面するリスクと便益と同じ状況を与えなければならないとい27
う。
所有主の投資の価値は発行者である実体の持分株式の公正価値の変動に比例する。し たがって,発行者の持分株式の公正価値の変動は,それが所有主の実現可能な便益を反 映するために,所有主持分関係の特徴となりうるという。そのことが株式を発行する義 務が持分となるのか負債となるのかという重要な判断規準になるのである。
金融商品が所有主持分関係を構築するかどうかの判断は,その義務を組み込んでいる 金融商品の保有者がその義務の決済によって受け取る価値(貨幣価値)と,基礎となる 持分株式の価値との関係にもとづいてなされるのである。たとえば,持分株式
1,000
株 を発行することによって決済する義務を組み込んでいる金融商品を発行した場合,現 在,当該持分株式の公正価値が$10であったとすると,その義務の貨幣価値は$10,000 である。決済日に持分株式の公正価値が$11に上昇した場合,その義務の貨幣価値は$11,000
に上昇する。つまり,当該金融商品の保有者は持分株式の公正価値の上昇によって便益を得ることになる。これはある実体の所有主(持分株式の保有者)が,当該持 分株式の公正価値が増加すれば便益を得るのと同じであるために,当該金融商品は保有 者と発行者の間に所有主持分関係を構築する。それゆえ,当該金融商品は持分として分 類されるのである。
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26 Ibid.,par. B 34.
27 Ibid.,par. B 37.
FASB発行者による金融商品会計における負債領域の拡大(志賀) (219)219
上記のように貨幣価値が持分株式の公正価値の変動と同じ方向で変動する金融商品と は対照的に,貨幣価値が持分株式の公正価値の変動と逆の方向で変動する金融商品の場 合はどうか。たとえば,行使価格が$11で持分株式
1,000
株についてのプット・オプシ ョンを発行した場合,当該持分株式の公正価値が$10に下落すると,持分株式を購入す るという義務の貨幣価値は$1,000増加する。株式による差額決済をする場合には,それ だけ多くの株式を発行しなければならない。このプット・オプションの保有者は,持分 株式の公正価値が下落すると便益を得ることになり,これは上記のような所有主持分を 構築しない。したがって,当該金融商品は負債として分類されることになる。このようにステイトメント第
150
号は株式という形態であっても資産を譲渡すること によって償還する義務を組み込んでいる金融商品,持分株式を買い戻す義務を組み込ん でいる金融商品について,それらの義務を現行の概念ステイトメント第6
号による負債 の定義にあてはめることによって負債の認識領域に含めることを可能にした。さらに は,現行の負債の定義に合致しない,ある一定の条件を満たす持分株式を発行する義務 についても,保有者と発行者との関係に所有主持分関係という概念を導入することによ って負債の領域に含めることを論理化したのである。FASB
は現在,概念ステイトメント第6
号の負債の定義に所有主持分関係を構築しな い義務を含めるという改正の提言を行っている。このことから,ステイトメント第150
号が基準レベルで,金融商品に組み込まれている義務を具体的に負債として処理するこ とを可能にしたことの意味は,概念ステイトメント第6
号の改定をつうじて,負債の認 識領域を概念的に拡大することにあると考えられる。同志社商学 第56巻 第1号(2004年5月)
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