韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷 過程 : 多文化家族支援センターを中心に
著者 金 松美, 朴 東鎮
雑誌名 評論・社会科学
号 123
ページ 37‑66
発行年 2017‑12‑31
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000017017
要約:韓国では2008年に施行された多文化家族支援法が多文化家族支援に関する根拠とな る法律であり,この法律に基づいて多文化家族を支援する多文化家族支援センターが設置 されている。本研究では,この点に注目して韓国の多文化家族支援,法律や制度とサービ スの提供システム,そして多文化家族支援サービス機関である多文化家族支援センターで 実施されている事業やプログラムを分析した。これらの特性を考察し,現在までの変遷を 分析することで,多文化家族支援政策やサービスがどのように変化して発展してきたのか を考察した。
韓国女性家族部で多文化家族支援事業を実施した2010年から2017年までの事業及びプ ログラムの変遷を見ると,初期の単純な事業およびプログラム領域区分が時間が経つほど に多様化しており,細かい事業が展開されていく過程が明らかになった。それは,多文化 家族のニーズによって事業が徐々に拡大し,細分化し発展してきたことが要因として挙げ られる。
本研究の結果に基づき,多文化家族支援センターや多文化家族支援サービスをさらに発 展させるための提言を行った。
キーワード:多文化家族支援サービス,多文化家族支援センター,多文化家族,サービス の変遷,韓国
目次 1.序論
2.韓国の多文化家族支援の法律と政策 2-1.多文化家族支援法
2-2.多文化家族支援政策
2-3.韓国の多文化家族支援に係る法律と政策の特性 2-4.韓国における多文化家族支援事業に対する先行研究
3.多文化家族支援サービスの提供システムとしての多文化家族支援センター 3-1.韓国の多文化家族支援サービスの提供システム
3-2.多文化家族支援センターの役割と機能 3-3.多文化家族支援センターの事業・プログラム
────────────
1)同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程 2)江南大学韓国社会福祉研究所学術研究教授
*2017年9月28日受付,査読審査を経て2017年11月17日掲載決定
論文
韓国における多文化家族支援サービスの特性と 変遷過程
−多文化家族支援センターを中心に−
金 松美
1)・朴 東鎮
2)37
4.多文化家族支援センター事業及びプログラムの変遷 4-1.年度別の事業及びプログラムの現状
4-2.多文化家族支援センターの事業及びプログラムの変遷からの示唆 4-3.多文化家族の問題とニーズによる事業及びプログラムの考察 5.考察
1.序 論
近年,多くの移民者が結婚を通して韓国に流入しており,このような結婚移民者は慣 れない韓国の環境で「移民生活」と「結婚生活」を同時に経験している。彼(女)らは 韓国で生活しながら多くの困難を抱えており(韓国女性政策研究院
2012
;2015),この
困難は個人の問題にとどまらなく社会問題の一つである。特に,彼(女)らが抱えてい る問題の中で,家庭生活への適応問題が最も深刻なものであり,多文化社会に関する研 究においてもこれらの状況を踏まえて多文化家族に焦点を当てて議論されることが多い(パクジョンユン
2009)。欧米の場合,早くから多文化家族の形成が始まり,韓国と比
べて長く多文化社会を経験してきたため多文化家族に特化したアシェンダはこれまでも 論議されてきた。とくに,移民1
世に関して政治的市民権,2世に関して社会・経済市 民権,3世に関して文化的市民権が論じられてきた(オユンジャ2012)。欧米の多文化
社会と比較して韓国の多文化社会の特徴といえるのは,農村地域を中心に子孫の継承と 親のケア等の役割を果たすため結婚移民者が移住し,多文化社会という社会現象を形成 した点である。したがって,欧米とは異なる家族形態から結婚移民者が経験している適 応上の問題が生じると考えられる。結婚移民者,外国人労働者などの韓国への流入が急増することで,彼(女)らに関す る社会問題が生じ,その問題に対応する支援や政策及び制度の必要性が顕在化してき た。こうした流れの中で
2008
年に多文化家族支援法が制定され,多文化家族に対する 支援が本格的に論じられ始めた。多文化家族支援事業を推進するため,多文化家族支援 センターが短期間で全国的に100
箇所以上設置された(オユンジャ2012)。2017
年現 在,全国に217
箇所の多文化家族支援センターがあり(女性家族部2017),このセンタ
ーを中心に多文化家族を支援するための多様なサービスが提供されている。女性家族部による多文化家族支援政策とサービスは各々の地域の多文化家族支援セン ターを通して提供されるので,多文化家族支援センターは多文化政策にとって非常に重 要なサービス提供システムである。このような多文化家族支援センターが全国に設置さ れ,サービスシステムが確立している背景には,多文化家族に対する国家的な介入の必 要性が社会的に認識されているためであると予想される(パクジョンユン
2009)。
以上の点に着目した本研究の目的は,多文化家族支援サービス提供システムである多
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 38
文化家族支援センターを中心に政策とサービスの全般的な特性と変遷過程を明らかにす ることである。これにより,韓国の多文化家族支援センターを中心とした多文化家族支 援サービスの変遷過程が意味する政策的・実践的意義について論じる。
したがって,次のようなリサーチクエスチョンを設定する。
1.韓国の多文化家族支援の法律と政策はどのような現状と実態であるか。
2.韓国の多文化家族支援のサービス提供システムとしての多文化家族支援センター
はどのような実態であるか。3.韓国の多文化家族支援センターの事業及びプログラムの変遷にはどのような特性
があるか。本研究は今日,急速に多文化社会へ向かっている韓国社会の多文化家族支援政策・サ ービスの改善と発展を模索するための重要な基礎的資料を提供することが期待される。
2.韓国の多文化家族支援の法律と政策
2-1.多文化家族支援法
韓国の多文化家族支援法は
2008
年3
月21
日に制定,同年9
月22
日に施行令と施行 規則が制定・施行され,10回の改定が行われ,現在の施行(2017年3
月21
日施行)と なっている。全17
条項で構成されたこの法律は,多文化家族が安定的な家族生活を営 み,社会を構成する一人として役割と責任を果たすことで,生活の質を向上させ社会統 合に資することを目的とする。2011
年第2
次改訂の際,法的対象となる「多文化家族」の定義が拡大した。2008年 の制定の際は,「多文化家族」を「在韓外国人処遇基本法第2
条第3
の結婚移民者と,国籍法第
2
条により出生時から大韓民国の国籍を取得している者と形成された家族」,または「国籍法第
4
条により帰化した者と同法第2
条出生時から大韓民国の国籍を取得 している者と形成された家族」と定めていた。しかし現在は,「在韓外国人処遇基本法 第2
条第3
の在韓外国人と,国籍法第2
条から4
条からの出生・認知・帰化により大韓 民国の国籍を取得している者と形成された家族」,「国籍法第3
条・第4
条の認知・帰化 で大韓民国の国籍を取得している者と,同法第2
条から第4
条までの出生・認知・帰化 により大韓民国の国籍を取得している者と形成された家族」,「児童・青少年は24
歳以 下」と定めている。法律の構造は制定の目的(第
1
条),法律が定めている対象者の定義(第2
条),国家 と地方自治体の責務(第3
条),実態調査の実施と結果報告(第4
条),多文化家族に対韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 39
する理解の増進(第
5
条),生活情報の提供及び教育支援(第6
条),平等な家族関係維 持のための措置(第7
条),家庭内暴力の被害者に対する保護・支援(第8
条),医療及 び健康管理のための支援(第9
条),児童・青少年の保育・教育(第10
条),多国語に よるサービスの提供(第11
条),多文化家族支援センターの設置・運営(第12
条),多 文化家族支援業務に関連する公務員の教育(第13
条),事実婚の配偶者及び子どもの処 遇(第14
条),権限の委任と委託(第15
条),民間団体などの支援(第16
条),過料(第
17
条)に関する事項である。このように「多文化家族支援法」は韓国の多文化政策を総べる最初の法案である。多 文化家族が韓国社会で安定的に家族生活を営むことができるように,様々な支援や政策 の枠組みを策定したという意義がある(ソンジヒョン・イテヨン
2012)。この法律に基
づいて多文化家族に対する中央政府からの支援と対策が多く立案されたことから,法律 の制定は重要なターニングポイントとなった。現在の「多文化家族支援法」は,このような重要性と政策の成果はあるものの,対象 である「多文化家族」の概念や範囲が
2007
年に制定された「在韓外国人処遇基本法」と重複しているなどの問題点が指摘されている(オユンジャ
2012)。「家族」という概
念において対象者を結婚移民者中心に限定する結果を招き,法律の効率性と実効性の問 題が提起された(イギョンヒ2012;ソンジヒョン・イテヨン 2012)。
2-2.多文化家族支援政策
韓国社会の公的な領域で,居住外国人に関する政策が主な争点として登場したのは
2006
年頃からである。韓国の多文化家族支援事業は,2006年4
月に大統領の諮問機構 である貧富格差・差別是正委員会と女性家族部が共同で『女性の結婚移民者家族の社会 統合への支援』という対策を設けてから本格的に実施された。その後,2008年に制定 された「多文化家族支援法」と「結婚仲介業の管理に関する法律」に基づいて多文化家 族支援政策が立てられることとなった。さらに,「多文化家族支援法」第3
条の2
によ って,『第1
次多文化家族政策基本計画(2010〜2012)』を樹立・発表した。2012年12
月には,人口・家族・社会の変化に対応して,多文化社会への進展が社会発展のきっか けになるように,パラダイムを再構成した『第2
次多文化家族政策基本計画』が発表さ れた。これは2010
年に発表された第1
次基本計画で指摘された,①結婚移民者の韓国 文化への適応のみに重点を当てた恩恵的な支援で多文化家族に対する脆弱・否定的認識 の固着化の問題,②重複支援の問題,③一回限りの事業である問題を補完して推進して いる。したがって,活気ある多文化家族,共生社会をビジョンに据えて,社会発展の力 としての多文化家族のコンピテンスの強化,多様性が尊重される多文化社会の具現とい う目標達成に向けて次のような政策課題を設定した。①多様な文化を背景とした多文化韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 40
家族の具現,②多文化家族の子どもの成長と発達に関する支援,③安定的な家族生活基 盤の構築,④結婚移民者の社会経済的進出の拡大,⑤多文化家族に対する社会的受容性 の向上,⑥政策推進システムの整備などである。
2013
年から2017
年までの5
年間で,13箇所の中央政府機関,裁判所や地方自治体 とともに推進する第2
次基本計画は,所得水準,居住期間などを考慮して多文化家族に ついて合理的な支援を推進する方針である。家族構成員の間に相手の文化を尊重する平 等な家族文化の構築と,家族サービスの強化を促す。多文化家族の子どもの就学や学校 生活に対する支援,軍隊と社会の多文化に対する理解を高めることに焦点を当てるよう にする。入国して間もない結婚移民者については,社会統合的なサービスを提供し,一 定期間が経過した後は就労支援などの強化を図る。多文化家族政策の強化のための政策 推進システムを整備,多文化家族支援センターなどサービス提供システムの効率化及び 評価の強化を図るという推進課題を導き出した。13
箇所の中央政府機関をはじめ,裁判所と地方自治体の合同で樹立された基本計画 は政策内容によって担当部署が異なる。主要な部署である女性家族部が担当する政策内 容は表1
の通りである。2-3.韓国の多文化家族支援に係る法律と政策の特性
韓国の多文化家族支援に係る法律と政策をみると,多文化家族の韓国社会への適応に 支援の焦点が当てられている。韓国社会で急速に進行している多文化化に関する議論が 主に行われ,中央政府で政策が樹立された。民間においても多文化家族の増加に応じた 多様な社会現象や社会問題について関心のある団体が活動を始めた。その中でも特に多 文化家族が経験する経済的困難,適応上の困難を解決するために物品及び警備支援,教 育プログラムの運営などが行われた。このように多文化家族に対する公式的・非公式的 支援が増加し始めた(オユンジャ
2012)。
しかし,このような支援を具体的に見ると,多文化家族が経験する困難に対して人権 的・社会的責任より,多文化家族に対する温情主義的な態度でアプローチする傾向が顕 著である。これは,政府の支援だけでなく民間の支援においても指摘されている特徴で
表1 女性家族部の主な政策内容
部署名 政策の主な内容
女性家族部 −多文化家族の統合教育の実施
−多様な多文化家族に対する研究推進
−相手の文化の尊重のため教育内容のモニタリング
−結婚移民者の就職支援
−二重言語教育の拡大
−多文化家族支援センターの長期発展方案の準備
(出典:女性家族部(2012 b)第2次多文化家族政策基本計画参考,筆者修正作成)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 41
ある(ジュジョン
2014)。
これを具体的に見ると,中央政府の複数の部署で多文化家族支援に関連する事業を行 っているが,各部署の連携が不十分で事業が統合的に運営されず,散発的に運営される 問題がある。したがって,多文化家族支援事業の主な部署である女性家族部のコーディ ネート機能の不十分さが指摘され,散発的な事業により資源の非効率的な使用の問題が 解決せず,最も深刻化している状況がある。
また,地方自治制度を施行している韓国では,多文化家族支援政策の展開過程におい て女性福祉部および地方自治体の役割が細分化していることが特徴である。これは多文 化家族支援の提供システムに所属している複数の部署が連携してサービスを提供しなけ ればならないことを意味する。このようなシステムは女性福祉部および地方自治体で提 供されるサービスの効率性を高める方法の一つであるが,必然的に各部署の協力の強化 及び民・官の連携が必要となる。制度的にはこれを実行することができるように設計さ れているものの,互いの利害関係によって協力,連携が行われていないのが現実であ る。
一方,多文化家族支援政策の内容は,政策方針が家族全体を対象とする包括的な政策 の推進や家族の生涯周期別に合わせたサービスの提供,そして民・官の協力による効率 的な事業の推進である。しかし,これらの政策の主要な対象者は個人よりは「家族」を 単位として設定され,特に多文化家族の中でも,国際結婚移民者,または韓国人の配偶 者として形成された家族を中心に制定されている。また,家族の機能を回復や維持する ことに焦点を置いたサービスや支援などが特徴的である。
このような政策が効果的に実施されるためには,政策を継続的にモニタリングし,政 策効果を評価する過程が必須である。しかしながら,こうした政策効果を向上させるた めの制度的方法は未確立である。
上述した韓国での多文化家族支援に係る法律と政策は,多文化家族が経験する問題の 解決に貢献した部分は確かにあるが,多文化家族支援のシステム全体の部署および機関 に連動できる装置が不十分で,これを改善するための対策が明確に提示されていない問 題点がある。多文化家族が韓国社会で主体となって自立し暮らしていくことができるよ うにするには,多文化家族に権限を与え,コンピテンスを強化させるためのさまざまな 政策とサービスを開発,施行しなければならない。この政策が効果的に運用されるため の女性福祉部および地方自治体,多文化家族支援の提供システムに属する機関の柔軟な 協力が必要となる。
2-4.韓国における多文化家族支援事業に対する先行研究
韓国の多文化家族支援事業に対する先行研究は,その事業の現状と改善方法に関する
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 42
研究が多数であった。パクジョンユン(2009)とカンボクチョン(2012)は韓国で実 施されている多文化家族支援政策及びサービスの現状を分析した。特に,パクジョンユ ン(2009)は韓国社会への適応,夫婦問題,子どもの養育,親戚関係及び社会的・個人 的問題など,多文化家族が持っているニーズに関して論じつつ,それらに対応する支援 の現状を明らかにした。ここでは多文化家族支援政策のうち,特に多文化家族支援セン ターで実施している事業を具体的に挙げていた。多文化家族が直面している問題を結婚 移民女性の個人的問題のようなミクロ的な側面にとどまらず,一貫していない国家の多 文化政策と未だに広がっていない多文化に関する認識というマクロ的な側面まで広げて 論じていた。このような議論はカンボクチョン(2012)の研究でも見られている。韓国 の多文化家族政策に対して,多文化家族に関する法的・政策的基盤を作ってきたことは 高く評価しつつ,サービスのシステムの拡大や国内外の協力の基盤は弱く,未だに改善 すべき課題があることを指摘した。特に多文化家族支援センターの運営に関連して,サ ービス対象者のニーズに合う事業内容,ワーカーのコンピテンス強化,中央管理機関お よび拠点センターの安定的基盤作りが行われなければならないと述べている。
また,家族領域の支援事業については,多文化家族支援センターのワーカーの視点に 着目し,ワーカーの認識を調査したチョンミンギョンら(2016)の研究と多文化家族支 援事業を「経済性」のレベルで評価したイギョンウン・パクチャンジェ(2009)の研究 が代表的である。多文化家族支援センターのワーカーの視点から事業運営に対する評価 を試みたキムソンスク・ホンソンヒ(2010)の研究と,専門家を対象に社会統合の視点 から多文化家族政策および提供システムについて評価を試みたカンギジョン・パクスソ ン(2014)の研究では,事業そのものだけではなく多文化家族支援の提供システム全体 に関する議論にまで発展した。以上の先行研究から多文化家族支援事業を確認すること は,韓国の多文化家族支援の現状と実態を把握できるという意義がある。
このような議論は,特定の地域で実施している多文化家族支援事業に関する研究か ら,各地域の特性に基づく議論へと派生していった。特定の地域の多文化家族支援事業 はその地域特性を反映したより具体的な意味を見出すことができる。キムヒョンジら
(2010)は,釜山の多文化家族支援サービスを調査し,ナドンソク(2010)は,忠清北 道の多文化家族支援事業の現状・評価と問題点を考察し,キムミジョム(2014)は忠清 南道の青陽郡という多文化家族の割合が高い農村地域で行われている多文化家族支援事 業について分析した。そこではほとんどが現在行われている多文化家族支援事業が肯定 的な成果をあげていると評価した。しかし,結婚移民女性を中心として個人的なアプロ ーチが強い点や多文化家族支援サービスが重複しているにも関わらず,支援機関のコン ピテンスだけでは解決し難い点を指摘している。また,中央政府からの予算支援により 推進されている事業が大半であることから直ちに実績を出せることを重視し,システム
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 43
的な変化の必要性を認知しているにも関わらず,従来の方式どおりに推進しているとい う点が挙げられた。これにより,中央政府レベルで行われる全国共通の基礎事業を推進 しつつ,各地域・機関別にノウハウを蓄積することで多文化家族のニーズに基づいた専 門サービス機関として機能できるような方策が設けられるべきであると指摘した。
先行研究で多文化家族支援事業の現況と実態,改善策などが明らかにされてきたが,
ほとんどの研究において,対象とされた事業の時期は特定され,限られていた。各時期 別の現況や実態から改善案を議論することは問題を解決するために必要だが,長期的な 観点から考えると,韓国の多文化家族支援事業の全体を俯瞰し今後の方向性を提示する ことには限界がある。
以上のように,韓国の多文化家族支援事業がどのように変遷してきたかを明らかにし てきた。今後,韓国の多文化家族支援の政策方針が,自治体における事業に反映されて いるか,それらの実践の特徴は何かを議論することが必要である。
3.多文化家族支援サービスの提供システムとしての 多文化家族支援センター
3-1.韓国の多文化家族支援サービスの提供システム
2006
年,多文化家族の支援事業サービスの提供システムとして「多文化家族支援セ ンター」(旧結婚移民者家族支援センター)が初めて市・郡・区に21
箇所設置され,2008
年には,多文化家族支援法が制定され,法的・制度的基盤を整備することになっ た。韓国の多文化家族政策支援の主な提供システムは中央部署の女性家族部,広域自治団 体と基礎自治団体,全国多文化家族事業支援団,拠点センター,多文化家族支援センタ ーである。しかし,多文化家族支援事業を直接的に遂行する主体は,中央部署,広域自 治団体,地方自治体ではなく,全国多文化家族事業支援団,拠点センター,多文化家族 センターである。多文化家族支援センターの場合,地方自治体の直営の場合もあるが,
殆どが民間委託の形で運営されているため民間の提供システムと見ることができる。
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 44
3-2.多文化家族支援センターの役割と機能
2017
年現在,韓国の多文化家族支援サービスの提供システムである多文化家族支援 センターは,多文化家族支援法第12
条に基づいて国費と地方費の支援を含めて計217
箇所が設置されている。全国10
圏域に区分して設置された拠点センターは,圏域管轄 地域内でセンター関係機関のネットワークの構築や新規センターの事業支援などを行っ ている。2011年,多文化家族支援センター運営に必要なすべてのプログラム及びマニ ュアル開発・普及,人材養成,事業管理などを実施する中央管理機関を担っていた全国 多文化家族事業支援団が韓国健康家庭振興院の傘下になり,多文化家族事業支援団を置 き,拠点センターを通じて各地域センターに運営マニュアル普及,評価及び支援,情報 提供及び業務実績管理などを実施している。多文化家族支援センターは,多文化家族の安定的な定着と家族生活を支援するため,
家族,子どもの教育・相談,通訳・翻訳や情報提供,コンピテンスの強化支援など総合 的なサービスを提供して多文化家族の韓国社会への早期適応及び社会的・経済的自立支 援を図る目的で事業及びプログラムを遂行している。全国の多文化家族支援センターの 事業・プログラムは,韓国語の教育,多文化社会への理解教育,家族教育,家庭相談,
自助グループの支援などの必須領域と情緒支援,多文化家族のコンピテンス強化,多文 化に対する認識改善,専門人材を養成する特化領域に区分し実施されている。特に,結
図1 2017年多文化家族支援事業の事業推進システム
(出典:女性家族部(2017)2017年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 45
婚移民者のみならず,対象者の拡大モデル事業及び事業統合プログラムの実施などで外 国人労働者と留学生などにも韓国語教育,韓国生活の全般に対する案内・定着支援を行 っている。また,教育システム及びスタッフ,指導者などのコンピテンス強化の教育を 実施し,質の高いサービスおよび対象者特性に合った多様なサービスを提供している。
このように,多文化家族支援センターが,地域社会の中で全般的に多文化家族をはじ め,韓国社会で生活している外国人支援の重要な機能を果たしていると考えられ,韓国 における代表的な多文化支援サービス機関としての認知度は非常に高い(カンボクチョ ン
2012)。
3-3.多文化家族支援センターの事業・プログラム
ユジンイ・ホンヨンギュン(2007)は,多文化家族支援センターの概念を「コミュニ ティ」を通じて説明した。コミュニティとは,「一定の地域の住民たちが社会・経済・
文化的な連帯意識を持ち,共通して構築する価値・制度のため自発的に参加・協力しつ つ一緒に暮らす集団」を意味するもので,地域性や共同体意識に基づいて地域住民たち が共同の利害関係を持ちながら生きていく一種の近隣集団である。したがって,コミュ
表2 地域による多文化家族支援センターの数
(単位:箇所)
区分
多文化家族支援センター
(一般型)
統合サービス運営機関
(拡大型) 自治体の費用
(統合センター 3箇所含む)
計
カ型 ナ型 カ型 ナ型
ソウル 6 9 5 4 − 217
釜山 1 6 − 2 − 24
大邱 1 − − 6 − 9
仁川 2 − 3 4 − 7
光州 − − 2 2 − 9
大田 − 3 − 2 − 4
蔚山 − 2 − 3 − 5
世宗 − − − 1 − 5
京畿 8 8 5 9 − 1
江原道 − 7 2 5 4 30
忠清北道 − 8 1 3 − 18
忠清南道 2 4 2 6 − 12
全羅北道 5 6 3 − − 14
全羅南道 1 9 − 10 1 14
慶尚北道 1 13 2 7 − 21
慶尚南道 4 7 − 7 1 23
済州 1 1 − − − 19
計 32 83 25 71 6
(出典:女性家族部(2017)2017年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 46
表3 多文化家族支援センターの必修事業
事業 対象 事業のカテゴリー 内容
必 修 領 域
韓国語教育 結婚移民者 基礎課程 初/中/高級 その他
−単語及び文章教育,水準別の表現法
−生活の標準語の教育
−韓国語能力試験準備クラスとビジネスの韓国語クラ ス
多文化に関する 理解教育
結婚移民者 社会教育 −多文化及び多文化社会の理解
−法律及び人権
−結婚と家族の理解 歴史教育 −各国の歴史と文学
−韓国の歴史と文化 生活教育 −公共機関及び公衆道徳
−健康と医療,妊娠や出産
−社会保障制度の理解
−韓国の教育制度
−各分野の情報提供 家族教育 多文化家族 多文化家族の統合
教育
−家族構成員との繋がりや理解の向上のためのプログ ラム
夫婦教育 −夫婦それぞれの原家族の歴史,関係など家族情報の 理解
−夫婦の役割に対する理解
舅姑教育 −嫁の出身国の文化の理解,舅姑の役割の確立
−家族生活,家族関係教育
結婚移民者教育 −夫婦関係,親の役割,コミュニケーション方法の教 育など
配偶者教育 −様々な文化理解,夫婦関係,親の役割,育児,コミ ュニケーションの理解
子ども教育 −結婚移民者である親の文化理解,家族関係,子ども の役割,教育など
相談 家族相談/個人相
談
−夫婦問題,親の問題,子どもの問題,性的問題など 家族関係の問題
−法律問題,経済問題,心理治療及び機関連携,その 他など
自助グループ 多文化家族 家族合同 −多文化家族構成員の地域社会の定着基盤作りや所属 感の向上
配偶者 −健康な家族の成立及び配偶者役割の認識を図る 舅姑 −嫁の国の文化の理解や嫁姑間の葛藤の解消 統合国籍 −様々な国の結婚移民者間で情報交流/ネットワーク
を通じて国内適応の基盤を構築
国籍別 −出身国別の自助グループを構成し,結婚移民者間の 心理的サポート
心理的支援 多文化家族 −メンタリング,文化体験,保健や医療,サークル活動,子ども支援 多文化家族のコ
ンピテンス強化
多文化家族 −パソコン教育,就活支援,多文化講師養成の教育,通訳・翻訳士養成 の教育,相談員養成の教育
多文化に対する 認識の改善
多文化家族 地域構成員
−多文化講師の派遣,多文化のシンポジウム,多文化キャンペーン,多 文化祭,多文化教育など
専門的な人材の 養成
地域構成員 −韓国語講師の養成,多文化講師の養成,専門相談員の養成,ボランテ ィア教育など
(出典:全国多文化家族事業支援団(2008)多文化家族支援センター事業の結果報告書)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 47
ニティセンターは地域住民たちが生活情報を交換し,余暇時間を過ごし,生活の知恵を 学ぶなど,共同生活を楽しむことができる住民活動の施設または空間である。このよう な集まりを通じて,地域社会の連携意識を増進させることにとどまらず,住民が直接に 地域問題に関心を持って解決する場ともいえる。
このように異なる国籍,文化,言語などを乗り越えて結婚した家族やその子どもたち の社会文化への適応を支援する総合的なサービス提供システムとしての多文化家族支援 センターは,多文化家族の韓国社会への安定的な定着と家族関係の改善のため,全般的 なサービスを提供する機関である。このセンターを通じて多文化家族の間の情報交換だ けでなく,その社会の地域住民との情報交換,余暇を過ごす場や生活の知恵を学ぶ活動 空間でもあり,究極的に彼(女)らが自ら問題を解決できるように支援する機関だとい える。
表
3
で確認できるように多文化家族支援センターは多文化家族の安定的な韓国社会で の定着や多文化家族の特性を考慮したオーダーメード型の支援を通じ,多文化家族の安 定的・建設的な自立支援を図っている。また,家族機能強化に向けた家族教育,多文化 に関する理解教育,相談など総合的かつ体系的なサービスと,経済的自立のための就労 支援や教育支援を提供し,多文化家族及び非多文化家族の文化的センシティブの向上と 多文化に対する認識の改善に向けて事業を展開している。このように多文化家族支援セ ンターは,地域社会で多文化家族事業の中心的な機能を果たしている。4.多文化家族支援センター事業及びプログラムの変遷
4-1.年度別の事業及びプログラムの現状
2005
年から施行された健康家庭支援法に基づいて2006
年から結婚移民者家族支援セ ンター(現在の多文化家族支援センター)が設置された。2008年に多文化家族支援法 が制定され,多文化家族に向けた事業の計画や公表・実行が行われ始めた。2009年に は国務総理室に「多文化家族政策委員会」が設置され,多文化家族支援事業を総括する ようになり,2010年には多文化家族支援政策基本計画を審議・確定,同年に女性家族 部から「多文化家族支援事業案内」を発表されたことから現場での事業が開始された。このように行われた多文化家族支援センターの事業およびプログラムは,当期にサー ビス利用者および社会的ニーズが反映されて企画された。したがって,ここでは
2010
年から施行された多文化家族支援事業の各年の現況から,変遷を確認し,各年ごとに実 施された事業及びプログラムの特性を明らかにする。多文化家族や地域社会のニーズお よびその当時の状況と流れから,事業及びプログラムの意義について具体的に論じる。韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 48
1)2010年
2010
年,多文化家族支援センターは全国に計159
箇所が設置されており,このセン ターは女性家族部の支援の下,事業を展開した。保健福祉家族部と女性部に分かれてい た政府組織の再編により家族・青少年に関連する業務は女性部に移管された。これによ り,女性家族部に名称が変更され多文化家族支援に関する業務の総括を担うことになっ た。事業は基本事業と特性化事業に分けられ,基本事業は韓国語教育,家族統合や多文化 社会に関する理解教育,就職に関する支援,自助グループ,相談である。特性化事業 は,二重言語教室,言語発達の支援事業,結婚移民者の通訳・翻訳サービスなどで構成 されている。
生活言語と文化を学ぶことができるようにレベル別に韓国語教育を実施している。結 婚移民者の活発な経済活動参加のために地域特性等を考慮して就職に関する教育も実施 した。韓国保健社会研究院で発表された
2009
年全国多文化家族実態調査によると,多 くの移民者には語学に対するニーズがあり,特に就職訓練の一環として語学訓練を希望 しており,コミュニケーションが最も大きな困難であるとされている。このように,移 民者の韓国語に対するニーズの背景には,韓国生活への適応と安定のためだけでなく就 職への影響を意識したものがある。こうした背景から,韓国語教育が多文化家族支援セ ンターの中心的な事業の一つとなったことが予想できる。結婚移民者などの多文化家族構成員に対する家族内の役割及び家族の文化に対する理 解向上のための教育の実施により,多文化家族が家族,地域社会など韓国生活全般に適 応しやすくなるように家族統合や多文化社会に関する理解教育プログラムが整備され た。すでに定着した多文化家族が同じ出身国の多文化家族の初期の定着を支援すること で,心理的なサポートと安定感を図るためのグループを作るサービスも提供された。ま た,結婚移民者およびその家族の韓国生活に必要な情報提供や夫婦・親・子ども関係改 善や性・経済問題などの相談を通じて,多文化家族のストレス緩和や自尊感の向上に関 する支援も行われた。多文化家族の小学生や未就学児を対象に,結婚移民者の出身国の 言語の授業を実施し,育児に対する情報を提供した。また,地域社会構成員を対象に,
多様な文化を体験できる機会を設け,お互いについての理解および多文化センシティブ の増進に向けた活動も展開された。
小学生の子どもを持つ結婚移民者は子どもを教育することに困難を経験しているので
(韓国保健社会研究院
2009),多文化家族支援センターでは,子ども教育支援サービス
が未就学児を中心に行われている。韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 49
2)2011年
2010
年には表4
のようにセンターの運営事業(基本事業−必修,広報など運営),特 性化事業に区分されて施行されたが,2011年にはこのうち多文化家族統合の教育が家 族統合の教育,配偶者・夫婦の教育,子ども支援などに細分化されて提供された。ま た,就職連携の支援も経済活動のニーズによってより具体化され,結婚移民者の職業基 礎素養の教育と雇用および就職できる仕事先の模索・管理まで行われた。特に,雇用労 働部で運営する求人・求職者のホームページである「ワークネット」機能が多文化家族 支援センターと連携したことで,結婚移民者の求職相談,斡旋などの支援ができるよう になった。その中でも女性家族部や雇用労働部は,これまで個別に管理してきた結婚移 民者の通訳・翻訳の人材を共同データベースに登録したことで,以前より統合的なデー タ管理が可能になり,結婚移民者の就業率向上に変化をもたらすことになった。特性化 事業で前年度に比べ変わったのは,外国人の母親(父)の国の言語を習得することを支 援するための「言語英才教室」という事業が進められたことである。3)2012年
2012
年には前年度に比べてサービスの内容と管理などがより細分化されて提示され た。対象者の選定と管理,サービスの延長と中断の事由などについて,サービスの円滑 な提供のため,明確なガイドラインが提示された。また,多文化家族法の改正によって 法で定義されている「多文化家族」の範囲が拡大された。そこで,多文化家族支援セン表4 多文化家族支援センターの事業(2010年)
区分 内容 備考
事業 基本事業 −韓国語教育,家族統合及び多文化社会に関する理解教育,就職支援,自助 グループ,相談
必修 特性化事業 −二重言語教室,言語発達支援の事業,結婚移民者の通訳・翻訳サービスな
ど
選択 広報など運営 −育児に関する情報の共有,メンタリング,ボランティア運営,多文化に関
する認識改善及び地域社会の広報,機関協約及び外部との連携事業など
(出典:女性家族部(2010)2010年多文化家族支援事業の案内)
表5 多文化家族支援センターの事業(2011年)
区分 内容 備考
センター 運営
基本事業 −韓国語教育,多文化家族の統合教育,多文化家族の就職連携,多文化家族 の自助グループ,個人・家族相談
必修 広報など
運営
−育児情報の共有,多文化家族のボランティア活動の運営,多文化への認識 改善および地域社会への広報,地域社会のネットワーク強化
特性化事業 −訪問教育事業,言語発達の支援事業,通訳・翻訳サービス事業,言語英才 教室の事業など
選択
(出典:女性家族部(2011)2011年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 50
ターの利用者が増加しており,対象者,サービスの提供方法,サービス利用の延長と中 断,管理などの基準がより具体的に提示されたことが確認された。
また,基本事業が領域別に分けられていたが,各領域で共通必修事業と選択事業に分 けることで,選択できるサービスの幅を拡張させた。特に,訪問教育が特性化事業から 分離され,センターの運営の基本事業に含まれた。
さらに,サービスの質の確保と専門人材に対する必要性と需要によって韓国語講師の 資格基準をより厳しく規定した。韓国語のレベル別にサービス提供時間も拡大したとい う変化が見られる。そして,2011年から女性家族部と雇用労働部の連携で始まった
「ワークネットの連携」事業を持続的に推進して,特に「ワークネットを利用
3
回以上」などの具体的な回数まで提示して活性化させるようにした。個人・家族相談サービスに おいても,ケースワーク,心理的検査などのサービスを追加し,選択の幅を広げた。
(1)基本事業
2012
年の基本事業として韓国語教育,多文化家族の統合教育(家族の統合教育,多 文化に関する理解教育),多文化家族の就職連携,個人・家庭相談が提示された。(2)その他の事業
その他の事業としてボランティア活動,多文化家族の自助グループ,多文化に対する 認識改善および地域社会の広報,地域社会のネットワーク強化などが設けられた。
4)2013年
2013
年には既存の基本事業と特性化事業によって運営された多文化事業を教育事業,相談事業,文化事業,広報および情報提供の
4
つの領域に分けたという変化が見られ表6 多文化家族支援センターの基本事業(2012年)
共通必修 選択(例) 備考
1 韓国語教育 −1段階,2段階
−訪問韓国語教育サービス
−3段階4段階
−特別クラス
400時間(訪問教育 時間は別途)
2 多
文 化 家 族 の 統 合 教 育
家族の統合教 育
−家族コミュニケーションの プログラム,配偶者教育プ ログラム,父の教育
−親の教育・子どもの生活サ ービス(訪問)
−結婚と家族の理解,配偶者理 解プログラム
−夫婦関係の向上プログラム
−子どもたちの教育プログラム
−親の役割教育,
−子どもの生活指導
30時 間(訪 問 教 育 時間別途)
多文化に関す る理解教育
−多文化に関する理解及び認 識教育,法律と人権教育
−韓国社会適応教育
−消費者・経済教育
50時間 3 多文化家族の就職
連携
−ワークネットの登録及び連 携,就職の基礎素養の教育
ワークネット利用3 回以上
4 個人・家庭相談 −家族相談,個人相談 −ケースワーク
−心理検査
−外部の相談機関と連携
家族相談
(月3件以上)
個人相談
(月3件以上)
(出典:女性家族部(2012)2012年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 51
た。健康家庭支援センターのプログラムを運営する方式で,議論になっている健康家庭 支援センターと多文化家族支援センターの統合の準備のため似ているカテゴリーに変更 したものとして解釈することができる。
また,多文化家族支援センターの主な事業として進められている韓国語授業が一クラ スの定員を
6
人から4
人に縮小させたことで,以前に比べ,受講生に対する集中的な教 育が行われるようになったと考えられる。多文化家族統合の教育では家族関係の向上プ ログラムが選択領域から必修領域に移った。選択領域に予備・配偶者教育プログラムと 親−子ども関係,子どもの健康指導などのプログラムが新設された。これらの変化は,2013
年から2017
年までの多文化家族支援2
次基本計画の変化によって生じた部分であ るものと思われる。基本計画の推進の細部課題の中で「多文化に対する社会的理解の向 上」が「多様な文化が共存する多文化家族の具現」に変更され,家族関係と文化におい て多様性が尊重され,安定的な家族生活の営みのためのプログラムが新設された。さらに,相談事業で必修領域だった家庭相談と個人相談が,家族相談だけを必修領域 として残しておき,個人相談をはじめ,ケースワーク,心理検査,外部の相談機関連携 と,グループ相談のプログラムを選択領域に追加することで,プログラムの選択の幅を 拡張させた。また,2012年にはその他の事業に分類されたボランティア活動と自助グ ループが文化事業という領域で基本的な事業に含まれた。
(1)教育事業
教育事業では韓国語教育(1段階,2段階,訪問の韓国語教育サービス),多文化家族 統合の教育(家族のコミュニケーションのプログラム等),多文化家族の就職連携が提 示された。
表7 多文化家族支援センターの教育事業(2013年)
共通必修 選択(例) 備考
韓国語教育 −1段階,2段階
−訪問韓国語教育サービス
−3段階4段階
−特別クラス
400時間(訪問教 育時間は別途)
多文化家族 の統合教育
−家族コミュニケーション
−家族関係の向上プログラム
−夫婦・配偶者教育プログラム
−父の教育
−法律と人権教育
−親の教育サービス(訪問)
−子ども生活訪問サービス
−結婚と家族の理解
−家族の意味と役割
−配偶者理解プログラム
−予備・配偶者教育プログラム
−子どもの教育プログラム
−親の役割教育
−子どもの健康指導,
−子どもの生活指導,
−韓国社会適応教育
−消費者・経済教育
60時 間(訪 問 教 育時間別途)
多文化家族 の就職連携
−就職の基礎素養の教育
−ワークネットと連携
ワークネット利用 3回以上
(出典:女性家族部(2013)2013年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 52
(2)相談事業
相談事業では共通必修で家庭相談が,選択で個人相談,グループ相談,ケースワー ク,心理検査,外部の相談機関連携などが年間
80
会期以上(家族相談30
会期以上)で 進められるように提示された。(3)文化事業
前年度の多文化家族支援センターの運営事業の中に,基本事業であった多文化家族自 助グループと,広報など運営であった多文化家族自助グループが文化事業という新しい 事業として示された。
(4)広報及び情報提供
前年からは広報及び情報提供の機能を強化するために「多文化に対する認識改善,地 域社会に広報,地域社会のネットワーク強化」などに分けて提示した点が大きく変わっ た点である。
5)2014年
言語的問題は結婚移民者がその間,韓国生活で最も多く感じている困難として確認さ れており,言語の習得に対するニーズが大きい。このような状況で,多文化家族支援セ ンターでは毎年,多文化家族支援事業の中心的なプログラムとして言語教育が行われて きたが,2014年からは韓国語教育が基本事業から地方自治体の公募事業に変わった。
結婚移民者の韓国に居住する期間が長くなることによって,韓国語に対するニーズが減 ると思われる。2015年全国多文化家族実態調査によると,結婚移民者が考える主観的 な韓国語能力は
5
点満点に平均3.81
点で,並みよりは上手であると認識していた。ま た,最も多い年齢を占めている30
代(約33%),40
代(25%)からは韓国語能力試験 の受験率と,上級レベルの取得率が高いことが見られる。多文化家族統合の教育事業では,各教育プログラムごとに年間
60
時間以上の必修時 間が細分化されていたが,その必修時間が統合された。相談事業も必修と選択領域でそ れぞれの回数に対する規定していたが,二つの領域を含めて80
回以上などと設定した。異なる地域・機関の特性と利用者のニーズを反映して事業が行われるように,自主性を
表8 多文化家族支援センターの文化事業(2013年)
共通必修 選択(例) 備考
多文化家族の ボランティア 活動
−ボランティア活動の構成・運営
−ボランティア素養教育
ボランティアの基礎教 育6時間以上実施 多文化家族の
自助グループ
−結婚移民者の自助グループ,
−多文化家族の自助グループなど
(出典:女性家族部(2013)2013年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 53
強化する事業の展開が明らかになった。
所得別に支援する訪問教育サービスを一時的事業として実施した。就職連携と関連し てワークネット利用
3
回以上の項目が,5回以上に変更され,連携に関する詳しい項目 や基準なども具体化された。2013年から実施した『2次多文化家族政策基本計画』で初 めて「社会経済的進出」という単語が使われ,増加する経済的な困難と就職のニーズに 対応した。特に,雇用労働部と女性家族部は2013
年,女性の職業能力開発の活性化に 向けたMOU
を締結した。これは中央部署の間の協力を通じて,女性人材の活用を量 的・質的に高めることを優先した証であると思われる。このMOU
は多文化家族の結婚 移民女性なども対象になり,結婚移民女性の経済的なニーズを事業としてプログラム化 したものであると考えられる。(1)教育事業
多文化家族の統合教育として,共通必修は家族の意思疎通プログラム,家族関係向上 プログラム,夫婦・配偶者教育プログラム,父の教育,多文化理解と認識教育,法律と 人権教育が提示され,選択は結婚と家族の理解,家族の意味と役割,配偶者理解プログ ラム,予備・配偶者教育プログラムなどが提示された。一方,多文化家族の就業連携お よび教育支援(就職基礎素養教育,ワークネットの登録及び連携,新しい仕事探しセン ター・雇用センターの連携),訪問教育(韓国語教育サービス,親の教育サービス,子 ども生活サービス)が提示された。
(2)相談事業
相談事業では,共通必修で家庭相談があり,選択で個人相談,グループ相談,ケース
表9 多文化家族支援センターの教育事業(2014年)
共通必修 選択(例) 備考
多文化家族の統 合教育
(60時間以上)
−家族コミュニケーションプロ グラム
−家族関係向上プログラム
−夫婦・配偶者教育プログラム
−父の教育
−多文化に関する理解及び認識 教育
−法律と人権教育
−結婚と家族の理解
−家族の意味と役割
−配偶者の理解プログラム
−予備・配偶者教育プログラム
−子どもの教育プログラム,
−親の役割教育
−子どもの健康指導
−子どもの生活指導
−二重言語家族環境作りプログラム 年間 必修25時間 選択35時間以上
多文化家族の就 業連携
−就職基礎素養教育
−ワークネットの登録及び連携
−新しい仕事探しセンター
−雇用センターと連携
ワークネット,新し い 仕 事 探 し セ ン タ ー,雇用センター等 就職トレーニング専 門機関連携5件以上 訪問教育 −韓国語教育サービス
−親の教育サービス
−子ども生活サービス
400時間(訪問教育 時間は別途)
(出典:女性家族部(2014)2014年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 54
ワーク,心理検査,外部の相談機関との連携などが年間
80
会期以上(家族相談30
会期 以上)で進められるように提示された。(3)文化事業
文化事業では,共通必修の多文化家族のボランティア活動はボランティア活動の構成 及び運営,ボランティアの素養教育で提示され,選択の多文化家族自助グループは結婚 移民者の自助グループ,多文化家族自助グループなどで提示された。
(4)広報及び情報提供
広報や情報提供は,多文化への認識の改善および地域社会への広報,地域社会のネッ トワーク強化,情報提供などが提示された。
6)2015年
多文化家族統合の教育,多文化家族の就職連携,相談,多文化家族のボランティア活 動,多文化家族自助グループ,広報等の領域に分かれていたプログラムが,家族,性の 平等,人権,社会統合,相談,広報及び資源連携の
6
つの領域に変化した。さらに分け られた領域区分で多様なニーズに対応しようとしており,特に性の平等,人権,社会統 合の側面が新たに登場し,多文化家族支援事業が単なる支援ではなく権利擁護的な側面 を強調し始めたと考えられる。所得別に支援するプログラムがモデル事業としてではなく全面的に拡大した。特に,
子どもの養育や教育などに関する支援,二重言語家族環境作りプログラムなどが全国の 多文化家族支援センターで行われるようになった。全国多文化家族実態調査(2015)に よると,多文化家族世帯の子どもが
2012
年の平均子ども数0.9
人に比べて,2015年1.02
人に増加してお り,子 ど も の い な い 世 帯 が37.3%(2012
年)か ら33.2%(2015
表10 多文化家族支援センターの相談事業(2014年)
共通必修 選択(例) 備考
相談
年間80会期以上
家族相談 個人相談,グループ相談,ケースワー ク,心理検査,外部の相談機関との連携
(出典:女性家族部(2014)2014年多文化家族支援事業の案内)
表11 多文化家族支援センターの文化事業(2014年)
共通必修 選択(例) 備考
多文化家族のボ ランティア活動
−家族のボランティア活動の構成 及び運営
−ボランティアの素養教育
ボランティアの素養教 育6時間以上実施 多文化家族自助
グループ
結婚移民者の自助グループ,多 文化家族の自助グループなど
(出典:女性家族部(2014)2014年多文化家族支援事業の案内)
韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 55
年)に減った。子どもの養育と教育に対するニーズの増加が予想される。
二重言語家族環境作りプログラムが共通必修事業に転換され,既存の必修事業と選択 事業が結合された。特に,多文化家族統合の教育領域の必修事業の一つだった配偶者夫 婦教育が性の平等の領域にまで拡大し,配偶者・夫婦関連プログラムが性の平等領域に 含まれた。多文化家族関連法と制度,移住民に対する理解などの多文化への理解教育な どを人権領域に配置し,就職関連・ボランティア活動プログラムを社会統合事業に拡張 させた。
7)2016年
2016
年には,2015年に改変した領域を継続し,家族領域のうち共通必修の二重言語 環境作りプログラムの実施時間が年間10
時間以上(2015年)から年間20
時間以上(2016年)の
2
倍に拡大した。また,二重言語コーチ配置センターも共通必修として年 間80
時間(2015年)から160
時間(2016年)と2
倍に拡大した。一方,社会統合サービスにおいては,就職訓練と専門機関の連携についてより具体化 した。求職者がいる時は,新しい仕事探しシステムと連携したワークネットに登録した 上に,新しい仕事探しセンターと積極的に連携・協働し,結婚移民者のための就職教 育・訓練を開設するように促した。また社会統合の選択事業に「結婚移民者の定着に関 する階別支援パッケージ」というプログラム(未来の模索,道を探すことなど未来設 計)を追加した。また,多文化家族二重言語環境作りプログラムに対する時間が増加,
サービス対象者や予算が拡大した。
8)2017年
2017
年にも2015
年に改変した領域をそのまま継続している。ただ,2016年同様,家族の領域で変化があったが,共通必修で学齢期の子どもの入学および入試に関する情 報提供(親を対象として,年間
4
時間)が新設された。大学入試に対する関心が高い韓 国社会において,その間,多文化家族が大学入試に関する情報を得にくかった問題に対 応したのである。多文化家族の親は,親の役割を行う事に困難を抱えている。学齢期の子どもがいる世
帯の
76.8% が保護者としての困難を感じ,特に子どもが学ぶ教科目や学校生活につい
てよく分からず,教育に対する情報収集についての困難が見られる(韓国女性政策研究
院
2015)。これにより,多文化家族二重言語環境作りプログラムの具体的な時間の規定
と学齢期の子どもの入学・入試の情報提供に関する条項が新設された。プログラムの対 象は,乳幼児の子どもがいる多文化家族にまで拡大した。またそれに対応するため,予 算の編成が昨年より総計約
4,000
千ウォン程度拡大している。自助グループとボランテ韓国における多文化家族支援サービスの特性と変遷過程 56