J. Soc. Powder Technol., Japan, 42, 478-491 (2005)
解
説
Review
液相 にお ける ナ ノ粒 子 のサ イ ズ形態 制御機 構 に関す る―考 察
Insights into the Mechanisms of Size and Shape Control of Nanoparticles in Liquid Phases
杉本 忠夫
Tadao SugimotoInsights have been given into basic problems in understanding of underlying mechanisms for size
and shape control of nanoparticles in liquid phases on five major topics of current nanotechnology:
applicable systems of the fundamental equation for size control, limits of Nielsen's chronomal analysis
in its application to growth mechanisms, contradictions involved in the aggregative growth model of
monodispersed particles, a new idea on the mechanism of particle growth in W/O microemulsions ,
questions on the soft- template model of surfactants for the anisotropic growth of metallic nanoparticles.
Keywords: Chronomal, Nanoparticle, Nanotemplate, Size control, Shape control
1.は じめ に 近 年,材 料 技 術 分 野 で は ナ ノ テ ク ノ ロ ジ ー が 特 に 注 目を 集 め て い る が,中 で も超 微 粒 子 の 世 界 で は ナ ノ粒 子 や ナ ノ チ ュ-ブ 等 の 材 料 が そ の 代 表 と言 え る 。 しか し,ナ ノ粒 子 と言 っ て も,量 子 サ イ ズ 効 果 が 顕 著 に現 れ る 約10ナ ノ メ ー トル 以 下 の よ う な 領 域 に 限 らず, 通 常 は数100ナ ノ メ ー トル の サ イ ズ の 粒 子 を も含 め た 総 称 で あ る。 そ の意 味 で は,従 来 の 微 粒 子 科 学 が 日常 的 に 取 り扱 う数 ナ ノか ら数 ミク ロ ン に わ た る サ イ ズ領 域 と ほ と ん ど 重 な る の で,何 ら特 別 の 粒 子 で は な い 。 有 用 性 と い う意 味 で は,特 に 区 別 し て シ ン グ ル ナ ノ粒 子 と 呼 ば れ る10ナ ノ メ ー トル 以 下 の 粒 子 に 限 定 され る もの で は な く,従 来 の微 粒 子 科 学 の取 り扱 う個 々の あ らゆ る サ イ ズ 域 で そ れ ぞ れ の 目 的 に応 じ た重 要 な 役 割 が あ る。 従 っ て,当 初 の 狭 い 定 義 か ら次 第 に 拡 張 さ れ,遂 に 振 り出 しに 戻 っ た 感 が あ る の は,む し ろ 自然 の 流 れ と言 え る で あ ろ う。 こ の こ と と,微 粒 子 合 成 に お け る基 本 技 術 で あ る サ イ ズ形 態 制 御 法 の 基 本 的 な 考 え 方 が,あ らゆ る サ イ ズ域 で 共 通 して い る こ と と は 無 縁 で は な い 。 しか し,大 変 残 念 な こ と で あ る が,未 曾 有 の ナ ノ粒 子 合 成 化 学 の 隆 盛 に もか か わ らず,発 表 され る こ の 領 域 の学 術 論 文 の 多 くは 生 成 機 構 に 関 す る考 察 が 大 変 貧 弱 で あ る ば か りで な く,既 成 事 実 を 積 み 上 げ て 誤 っ た説 が 堂 々 と ま か り通 っ て い る 場 合 も少 な くな い 。 言 う ま で もな く機 構 の 理 解 を 誤 れ ば ,折 角 構 築 し た か に 見 え た 科 学 技 術 や 美 しい 理 論 も砂 上 の 楼 閣 の 如 く無 意 味 な もの に な る に 留 ま らず,後 続 の 研 究 を 誤 っ た 方 向 に 導 い て し ま う危 険 す ら含 ん で い る。 そ の 意 味 で,今 日隆 盛 を 極 め る か に 見 え る ナ ノ テ ク ノ ロ ジ ー の 基 礎 に は,実 は 非 常 に 危 う い 側 面 も潜 ん で い る こ とを 心 に 留 め て お く必 要 が あ る 。 本 稿 で は,こ の ナ ノ テ ク ノ ロ ジ ー の 基 礎 を 支 え る超 微 粒 子 の サ イ ズ 形 態 制 御 機 構 の 解 釈 を 巡 る問 題 の 中 か ら,特 に 重 要 な も の 五 つ を 取 り上 げ て 考 察 し,微 粒 子 科 学 の 研 究 者 や,今 後 粒 子 設 計 に か か わ る 皆 さん の ご 参 考 に 供 す る次 第 で あ る 。 2.ナ ノ粒 子 の サ イ ズ 形 態 制 御 機 構 に関 す る基 本 的 な問 題 点 2.1 サ イ ズ 制 御 の 基 本 式 に つ い て 粒 子 の 平 均 体 積 サ イ ズ は 沈 殿 した 固 体 の 全 体 積 を 粒 2005年4月5日 受 付 真 鶴 超 微 粒 子 科 学 研 究 所
Manazuru Institute for Superfine Particle Science (〒259―0201神 奈 川 県 足 柄 下 郡 真 鶴 町 真 鶴1912-4) Manazuru 1912-4, Manazuru-machi. Ashigara-shimogun, Kanagawa 259-0201, Japan TEL0965-68-3563 〈著 者 紹介 〉 昭 和39年 東京 大 学工 学 部卒,41年 同大 学 院修 士 課 程 修 了 後 富 士 写 真 フ イル ム(株)に 入 社,同 社 足柄 研究 所 主 任研 究 員 を経 て.平 成 3年 よ り東 北 大学 教 授,同16年 よ り東 北大 学 名誉 教 授,工 学博 士 。 専 門:コ ロ イ ド界 面 化学,特 に 界面 熱 力学 の 理論 構 築,単 分散 ナ ノ粒 子 の 新 合成 法及 びサ イズ形 態制 御技 術 の 開発 と理 論構 築 等
子 数 で割 った もの であ るか ら,得 られ る粒子 の サイ ズ
制 御 は得 られ る粒子 の数 の制 御 と同義 であ る。単 分散
粒 子 に関 して は,最 終粒 子数 を与 え る基 本式 は 多 くの
場 合,次 式 で記述 され る。
(1)
た だ し,n∞ は 系 の 最 終 粒 子 数,Qは モ ノ マ ー(溶 質 分 子)の モ ル 供 給 速 度(molS-1),Vmは 固 体 の モ ル 体 積(cm3mol-1),vは 生 成 安 定 核 の 体 積 増 加 速 度(cm3 s-1)で あ る1∼3)。 な お,n∞ を 反 応 系 の 初 期 単 位 体 積 当 た り の 最 終 粒 子 数(dm-3)で 定 義 す る場 合 は,Qも 反 応 系 の 初 期 単 位 体 積 当 た り の モ ル 供 給 速 度(mol s-1dm-3)で 定 義 す る 。 こ の 式 は,生 成 す る と 同 時 に 成 長 を 開 始 す る核 の 数 が,一 定 速 度 で 供 給 さ れ る モ ノ マ ー を 定 常 的 に 吸 収 す る に 充 分 な値 に達 した と き核 生 成 期 を 終 了 し,以 後 の 成 長 期 に は 新 た な 核 発 生 は な く,粒 子 数 は 核 生 成 終 了 時 の ま ま一 定 に 保 た れ る と い う単 分 散 粒 子 生 成 系 の 特 性 に基 づ い て導 い た もの で あ る2)。 文 献2)や3)に 示 した よ う に,核 生 成 期 に お い て,系 外 か ら の導 入 や 系 内 の 反 応 で 生 成 す る こ と に よ る前 駆 体 モ ノ マ ー の 供 給 速 度 に対 して,核 生 成 や 核 の 成 長 に 伴 う バ ル ク液 相 か ら の 拡 散 や 固 液 界 面 で の 反 応 に よ る前 駆 体 モ ノ マ ー の 消 費 速 度 が 等 しい 定 常 状 態 に あ る こ と を 仮 定 して,下 記 の よ う な 微 分 方 程 式 を 立 て た 。(2)
こ こ で,短 い核 生 成 期 間 で は,Qは 一 定 と し,数 平 均 の 安 定 核 体 積vと そ の 体 積 増 加 速 度vは 核 生 成 期 の 平 均 値 と し,初 期 条 件 をt=0でn=0と 設 定 し た 上 で,核 の 数nを 時 間tの 関 数 と して 解 く と,(3)
を 得 る 。 こ こ で,t=∞ と お け ばEq.(1)が 得 られ る 。 しか しEq.(1)はEq.(2)の 右 辺 第1項 を0と お く こ と に よ っ て も得 られ る の で,Q,v,v等 は 核 生 成 速 度dn/dtが0と 見 な し う る 核 生 成 終 了 時 に お け る 値 と 定 義 す れ ば,Eq.(2)で 表 さ れ る 定 常 条 件 は 必 ず し も核 生 成 期 の 初 期 か ら成 立 して い な くて もEq.(1)の 関 係 は 成 り立 つ 。 い ず れ に して も,モ ノ マ ー の 供 給 速 度Qは 核 生 成 や そ の 成 長 に よ る 消 費 速 度 と は 独 立 で あ り,Eq.(2)の 定 常 関 係 が 成 立 す る 時 点 で は,核 生 成 速 度 と そ の 成 長 速 度 と は 供 給 さ れ る モ ノ マ ー の 消 費 を 巡 っ て お 互 い に 競 争 関 係 に あ る こ と が 仮 定 さ れ て い る 。 こ の よ う に し て 導 か れ たEq.(1)は,外 部 か ら モ ノ マ ー が 連 続 供 給 さ れ る に つ れ て 粒 子 が 定 常 的 に 生 成 す る"開 放 系"で あ る か,系 内 に お い て 粒 子 の 前 駆 体 モ ノ マ ー に な る溶 質 分 子 ま た は 錯 イ オ ン 等 が 化 学 反 応 を 通 じて 生 成 供 給 さ れ る"閉 鎖 系"で あ る か に か か わ らず 適 用 可 能 で あ り,ナ ノ 粒 子 の サ イ ズ を 制 御 す る 際 の 最 も基 本 的 な 式 と し て 重 要 で あ る 。 こ こで,Eq.(1)の 導 出 に お い て,い くつ か の 重 要 な こ とが 仮 定 さ れ て い る点 に 注 目す る 必 要 が あ る。 す な わ ち,言 う ま で も な く,こ の 式 の 導 出 に 際 して は, 如 何 な る 場 合 に も核 や 成 長 粒 子 間 の 凝 集 が な い こ とが 前 提 に な っ て い る が,そ の 他 に下 記 の よ うな 条 件 が 仮 定 さ れ て い る3,4)。 (1)前 駆 体 モ ノ マ ー の 供 給 速 度Qが,核 生 成 及 び そ の 成 長 に よ る 消 費 速 度 に 等 しい 定 常 状 態 に あ る こ と 。 (2)前 駆 体 モ ノ マ ー の 供 給 速 度Qは,核 生 成 と そ の 成 長 に よ る モ ノマ ー の 消 費 速 度 の 変 化 の 影 響 を受 け ず,独 立 で あ る こ と。 (3)系 内 に は 種 晶 や 不 均 一 核 生 成 を ひ き お こ す 異 種 核,あ る い は,モ ノ マ ー を 含 む 界 面 活 性 剤 の ミセ ル 等 の よ う に核 生 成 の 拠 点 と な る も の が 存 在 しな い こ と 。 条 件(2)は,「 沈 殿 生 成 の 律 速 段 階 は,前 駆 体 モ ノ マ ー の 消 費 過 程 で は な く,そ の 供 給 過 程 で あ る こ と 」 と言 い換 え て も よ い 。 具 体 的 に は,系 外 か ら溶 質 が 連 続 添 加 され る開 放 系 の 場 合 や,系 内 で 前 駆 体 モ ノ マ ー が 連 続 的 に 生 成 さ れ る 閉鎖 系 に お い て,そ の 生 成 反 応 が 不 可 逆 反 応 で あ る か,あ る い は,可 逆 反 応 で も前 駆 体 モ ノ マ ー 濃 度 が 大 幅 に下 が って 逆 反 応 が 作 用 し な い た め に事 実 上 不 可 逆 的 に な っ て い る 場 合 等 が そ れ に 当 た る 。 例 え ば,系 外 か ら定 量 ポ ンプ 等 に よ り連 続 的 に 溶 質 が 供 給 され,そ れ に 伴 っ て 系 全 体 で 均 一 且 つ 定 常 的 に 前 駆 体 モ ノ マ ー が 形 成 さ れ る 開 放 系 に お い て,必 要 な 凝 集 防 止 策 が 施 され,種 晶 等 を 含 ま な い 場 合,こ れ ら の 三 つ の 必 要 条 件 は 満 足 され る。 典 型 例 と して,ゼ ラ チ ン等 を 保 護 剤 に 用 い,硝 酸 銀 と ハ ロ ゲ ン化 ア ル カ リ の 溶 液 を 同 時 に 連 続 添 加 して 単 分 散 ハ ロ ゲ ン化 銀 粒 子 を 合 成 す る コ ン トロ ー ル ド ・ダ ブ ル ジ ェ ッ ト法 等5)が 挙 げ ら れ る 。 しか し,溶 質 を 連 続 添 加 す る と溶 質 添 加 部 分 に局 所 的 な 超 高 過 飽 和 域 が 常 時 存 在 し,そ こで 常Vol. 42 No. 7 (2005)
(23)
479
に 新 核 が 生 成 して い る の で,ハ ロ ゲ ン化 銀 の 新 核 の よ う に 溶 解 が 充 分 速 く,バ ル ク域 の 過 飽 和 度 の 変 化 に 即 応 して 定 常 的 に 溶 解 し う る機 構 が 働 か な い と新 核 の 溶 解 に 遅 れ を 生 じ,(1)の 定 常 条 件 が 成 立 せ ず,ま た, 核 生 成 と そ の 成 長 の 間 の 定 常 的 な 競 争 関 係 も生 ま れ な い 。 多 くの 酸 化 物 粒 子 や 硫 化 物 粒 子 等 は,溶 解 速 度 が 低 く,こ れ に該 当 す る。 そ の よ う な 場 合,単 分 散 粒 子 は 得 ら れ ず,Eq.(1)も 成 立 しな い 。 ダ ブ ル ジ ェ ッ ト 法 を 含 め 多 くの 開 放 系 で 単 分 散 粒 子 合 成 の 成 功 例 が 少 な い の は 主 と して この た め で あ る。 一 方,閉 鎖 系 で は,ア ル コ キ シ ド類 尿 素 等 の 有 機 化 合 物,あ る い は 金 属 イ オ ン等 の 緩 や か な 加 水 分 解 や,ラ ジカ ル 重 合 に 基 づ く分 散 重 合,界 面 活 性 剤 な し の 乳 化 重 合 等 に お い て,不 可 逆 的 且 つ 定 常 的 に 前 駆 体 モ ノ マ ー が 供 給 さ れ る の で,条 件(1)と(2)は 容 易 に 満 足 され てEq.(1)が 適 用 で き る場 合 が 多 く,多 数 の ナ ノ粒 子 合 成 系 が この 範 疇 に 入 る3)。 こ こ で,ラ ジ カ ル 分 散 重 合 や 界 面 活 性 剤 フ リ ー の 乳 化 重 合 の 場 合, ポ リ マ ー 粒 子 形 成 の 前 駆 体 は 重 合 途 中 の 低 分 子 重 合 体 で あ る オ リゴ マ ー で あ り,そ の 凝 集 で ポ リマ ー 粒 子 の 核 を 形 成 す る の で,オ リ ゴ マ ー 数 の 増 加 速 度 がQ値 を 与 え る。 こ こ で 重 要 な こ と は,い ず れ も前 駆 体 モ ノ マ ー の 生 成 過 程 が 不 可 逆 反 応 で あ る点 で あ る 。 言 う ま で も な く不 可 逆 反 応 の 場 合,そ の 生 成 物 の 消 費 速 度 に よ っ て 反 応 速 度 は 左 右 さ れ な い か ら,条 件(2)が 自 然 に 満 足 さ れ て い る。 こ の 場 合,本 質 的 に は 可 逆 反 応 で あ っ て も,そ の 反 応 が 前 駆 体 モ ノ マ ー 供 給 一 連 の プ ロ セ ス の 律 速 段 階 で あ り,逆 反 応 が 無 視 で き る と き に は,事 実 上 不 可 逆 反 応 と な り,や は り条 件(1)と(2) を 満 足 す る 系 が あ る。 例 え ば,ア ン モ ニ ア存 在 下 で ゼ ラ チ ンを 保 護 剤 に 用 い たCd(OH)2分 散 液6)や,Cd2+ のEDTAキ レ ー ト錯 体 溶 液7)に,チ オ ア セ トア ミ ド 溶 液 を 瞬 間 混 合 し た 後 の 熟 成 でCdSの 単 分 散 ナ ノ 粒 子 を 形 成 す る よ う な 系 が 挙 げ られ る 。 これ ら の 場 合, CdS粒 子 は 充 分 低 い モ ノ マ ー 濃 度 で 急 速 に 成 長 で き る た め,モ ノ マ ー の 定 常 濃 度 は 充 分 低 く保 た れ る。 そ れ 故,Cd(OH)2粒 子 の 溶 解 過 程 やCd-EDTAキ レ ー トの 解 離 過 程 がCdS粒 子 の 成 長 の 律 速 段 階 に な っ て お り,逆 反 応 で あ るCd2+とOH-のCd(OH)2表 面 へ の 析 出 過 程 やCd2+とEDTAの 結 合 過 程 の 速 度 は 無 視 で き る 程 低 く抑 え られ て い る 。 こ の 場 合,Cd2+イ オ ン供 給 源 か らのCd2+イ オ ン の 供 給 速 度 は,Cd(OH)2 は そ の 溶 解 速 度 に 当 た り,Cd-EDTAキ レ ー トは そ の 解 離 速 度 に 相 当 す る 。 こ の 場 合,前 者 の 方 が 後 者 よ り大 き い の で,得 られ る 粒 子 の サ イ ズ は 前 者 の 方 が 小 さ い 。 そ の こ と は,同 種 の 硫 化 物 粒 子 で も,出 発 の金 属 イ オ ン の キ レ ー ト種 の 解 離 速 度 の 違 い で,得 ら れ る 粒 子 の サ イ ズ を 大 き く変 え ら れ る こ と に も 通 じ る8)。 一 方,条 件(1)∼(3)の い ず れ か が 成 立 せ ず,Eq. (1)が 適 用 さ れ な い 閉 鎖 系 も あ る。 例 え ば,濃 厚 な 金 属 水 酸 化 物 等 の ゲ ル を 出 発 点 と し,そ の ゲ ル 網 上 に 最 終 生 成 物 で あ る 金 属 酸 化 物 粒 子 の 核 を 発 生 さ せ,そ れ を そ の ま ま ゲ ル 網 に 保 持 す る こ と に よ り凝 集 を 回 避 し,ゲ ル の 溶 解 に よ っ て 供 給 さ れ る溶 質 の 析 出 を 通 じ て 単 分 散 酸 化 物 粒 子 を 成 長 さ せ る"ゲ ル-ゾ ル 法"に 立 脚 し た 閉 鎖 系 が あ る(ゾ ル-ゲ ル 法 と は 全 く異 な る の で 注 意)1∼4,9,10)。こ の 系 で は,酸 化 物 粒 子 の 前 駆 体 モ ノ マ ー の 供 給 過 程 は,水 酸 化 物 ゲ ル の 溶 解 で あ り, そ の 速 度 定 数 は 一 般 に 充 分 大 き い た め,核 生 成 や そ の 成 長 に よ る モ ノ マ ー の 消 費 速 度 が 上 昇 して も,そ れ に 即 応 して 溶 解 速 度 を 高 め て,溶 液 相 の 溶 質 濃 度 を ゲ ル の 溶 解 度 に ほ ぼ 近 い レベ ル に 保 つ 。 そ れ 故,Q値 は モ ノ マ ー の 消 費 速 度 の 変 化 に 対 して 独 立 で は な く,(2) の 条 件 が 成 立 し な い の で,Eq.(1)は 適 用 で き な い。 同 様 に,金 属 イ オ ン の リザ ー バ ー と して 金 属 キ レ ー ト を 用 い て も,そ の 解 離 速 度 定 数 が 高 す ぎ る と,モ ノ マ ー の 供 給 過 程 は 律 速 に な らず,粒 子 へ の モ ノ マ ー の 析 出過 程 が 律 速 段 階 に な って し ま い,や は り条 件(2) が 成 立 せ ず,Eq.(1)は 適 用 で き な い 。 こ の こ と は キ レ ー ト系 に 限 ら ず,溶 質 錯 体 間 の 平 衡 が 常 に 維 持 さ れ る過 飽 和 均 一 溶 液 系 か ら核 生 成 や 成 長 が お こ る場 合 も 同 様 で,前 駆 体 モ ノ マ ー の 供 給 は 律 速 段 階 で は な い の で,条 件(2)は 成 立 せ ず,Eq.(1)は 適 用 され な い 。 ま た,分 散 重 合 系 で も,有 機 金 属 触 媒 を 利 用 す る ア ニ オ ン重 合 型 の 分 散 重 合 の 場 合 もEq.(1)は 適 用 さ れ な い 。 な ぜ な ら,モ ノ マ ー 溶 液 に 有 機 金 属 触 媒 を 添 加 す る と,モ ノ マ ー は 各 金 属 触 媒 分 子 を 起 点 と して 一 斉 に 重 合 を 開 始 して,あ る分 子 量 に 達 す る と,ま た 一 斉 に 凝 集 して 高 分 子 球 の 核 を 形 成 す る 。 こ の 過 程 で,金 属 イ オ ンを 末 端 に 持 つ 高 分 子 鎖 は 事 実 上 全 て 生 成 した 核 に 吸 収 され る と 共 に,核 同 士 の 凝 集 も進 み,そ の 数 密 度 が あ る レ ベ ル 以 下 に な る と 全 て の 凝 集 過 程 は 停 止 し,以 後,各 高 分 子 球 は 溶 液 か らモ ノマ ー を 吸 収 し な が ら重 合 を 続 け て 成 長 す る 。 こ の 場 合,モ ノ マ ー の 供 給 過 程 と核 生 成 お よ び 成 長 の 消 費 過 程 の 間 の 定 常 状 態 は 実 現 しな い の で,条 件(1)が 成 立 せ ず,Eq.(1)は 適 用 され な い 。 さ ら に,生 成 す る高 分 子 球 を 安 定 化 す る た め に 界 面 活 性 剤 が 共 存 す る 乳 化 重 合 系 の 場 合 は, 既 存 の 界 面 活 性 剤 ミセ ル に モ ノマ ー が 予 め 吸 収 され て
い る た め に,そ れ ら が 高 分 子 球 の 核 生 成 セ ン タ ー と し て 作 用 す る。 従 って,界 面 活 性 剤 フ リー の 時 と は 異 な り,高 分 子 球 の 核 の 数 は 重 合 開 始 剤 と モ ノ マ ー の 反 応 で 生 成 す る オ リ ゴ マ ー の 増 加 速 度 の み で は 決 ま らな い 。 よ って,(3)の 条 件 に よ り,Eq.(1)は 適 用 され な い 。 以 上,Eq.(1)は 単 分 散 粒 子 の サ イ ズ 制 御 の 基 本 式 で あ る が,そ の 成 立 条 件 と 背 後 に あ る粒 子 生 成 機 構 を 充 分 に 理 解 し た上 で 使 用 す る必 要 が あ る 。 2.2 NielsenのChronomal法 に つ い て Nielsen11)は,粒 子 成 長 が 拡 散 律 速 か 表 面 反 応 律 速 か を 判 定 す る 方 法 と して,現 在 広 く用 い られ て い る chronomal法 と い う解 析 法 を 提 案 し た 。 す な わ ち, 過 飽 和 状 態 に あ る 均 一 溶 液 系 か らの 核 生 成 と そ れ に 引 き続 く粒 子 成 長 を 想 定 して,溶 質 の 初 期 モ ル 濃 度,反 応 途 中 の モ ル 濃 度,反 応 終 了 後 の 最 終 モ ル 濃 度 を そ れ ぞ れC0,C,C∞ と し,反 応 率 ξを 次 の よ う に 定 義 す る。
(4)
ここで,核 生 成 に よる溶質 消費 を無 視す れ ば,反 応 途
中 の平均 粒 子 半 径 をr,最
終 的 な粒 子 半径 をr∞ と置
いて次 式 を得 る。
(5)
よ っ て(6)
と な る 。 こ こ に 含 ま れ る粒 子 の 線 成 長 速 度dr/dtは, 拡 散 律 速 成 長 の 場 合,次 式 で 与 え られ る 。(7)
但 し,Dは 溶 質 の 拡 散 係 数,Vmは 固 体 の モ ル 体 積 で あ る。Eqs.(4),(6),(7)よ り(8)
こ こ で,Kdは 次 式 で 定 義 さ れ る 定 数 で あ る 。(9)
そ れ故,次 の 関 係 式 を 得 る 。 (10) 反 応 の 進 行 に つ れ て,こ の 左 辺 を 縦 軸 に,時 間tを 横 軸 に と っ て プ ロ ッ ト した と き,も し直 線 関 係 が 得 ら れ,且 つ,そ の 傾 き で あ るKdをEq.(9)に 代 入 して 得 られ る 拡 散 係 数Dの 値 が 妥 当 な も の で あ れ ば,拡 散 律 速 成 長 と判 定 さ れ る。 一 方,表 面 反 応 律 速 成 長 の 場 合,dr/dtは 一 般 に 次 式 で 与 え られ る。(11)
こ こ で,k,は 反 応 速 度 定 数,α は 無 次 元 の 正 の 定 数 で あ る 。Eqs.(4),(6),(11)式 よ り(12)
こ のKrは 次 式 で 定 義 され る 定 数 で あ る. (13) Eq.(10)に 基 づ い た プ ロ ッ トで 拡 散 律 速 で は な く, 表 面 反 応 律 速 と判 定 さ れ た 場 合,色 々 な パ ラ メ ー タ α の 値 に つ き,時 間tに 対 してEq.(12)の 左 辺 を プ ロ ッ ト して 得 た 直 線 関 係 よ り α値 を 決 定 し,そ の 傾 き か らkr値 を 決 定 す る 。 以 上 の プ ロ セ ス か ら 次 の こ と が 言 え る3)。 す な わ ち, (1)こ の 方 法 で 成 長 機 構 を 論 ず る こ と が で き る の は, 沈 殿 生 成 の 律 速 段 階 が 前 駆 体 モ ノ マ ー の 消 費 過 程 で あ る 固 相 へ の 析 出 過 程 で あ る 場 合 の み に 限 られ る。 な ぜ な ら,モ ノ マ ー の 供 給 過 程 が 律 速 で あ れ ば,測 定 さ れ る 反 応 の 速 度 は,前 段 階 で あ る 系 外 か ら の溶 質 の 導 入 速 度 や,閉 鎖 系 な ら 出 発 物 質 の 加 水 分 解 反 応 等,粒 子 成 長 機 構 と は 関 係 の な い モ ノ マ ー の 供 給 速 度 で しか な い か ら で あ る 。 そ れ 故,前 節 で 述 べ た サ イ ズ 制 御 の 基 本 式(1)を 適 用 で き る 開 放 系 や 閉 鎖 系 の う ち,通 称 ゾ ル-ゲ ル 法 と言 わ れ る ア ル コ キ シ ドの 加 水 分 解,金 属 イ オ ンの 強 制 加 水 分 解(forced hydrolysis),尿 素 等 の 有 機 化 合 物 の 加 水 分 解,ラ ジ カ ル 分 散 重 合 や 界 面 活 性 剤 無 しの 乳 化 重 合,金 属 キ レー トの 解 離 速 度 が 律 速 の 金 属 硫 化 物 粒 子 の 合 成 系 等,代 表 的 な単 分 散 粒 子 合 成 系 の 多 くが 適 用 外 で あ る 。 こ れ らの 合 成 系 に お け る 粒 子 成 長 機 構 を,こ のchronomal法 で 解 析 して いVol. 42 No. 7 (2005)
(25)
481
る 論 文 が 非 常 に 多 い の で 充 分 な 注 意 が 必 要 で あ る 。 (2)ゲ ル-ゾ ル 法 に 代 表 さ れ る金 属 水 酸 化 物 ゲ ル や, 結 晶 性 の 水 酸 化 物 や 酸 化 物 の 溶 解 で 金 属 イ オ ンや 水 酸 化 物 イ オ ンが 供 給 さ れ,そ れ らの 溶 質 の 析 出 で 最 終 的 に 目的 の 酸 化 物,硫 化 物,純 金 属 等 の 粒 子 を 得 る 不 均 一 系 に お い て は,前 駆 固 体 の 溶 解 過 程 が 律 速 で な く, 溶 質 の 析 出 過 程 が 律 速 の 場 合 で も,chronomal法 は 適 用 で き な い 。 な ぜ な ら,こ れ ら の 系 で は粒 子 成 長 過 程 の 間,溶 液 相 の 溶 質 濃 度 は 前 駆 固 体 の 溶 解 度 近 傍 に 終 始 保 た れ て い る た め,Eq.(4)の 反 応 率 や,Eq. (5)の 反 応 率 と粒 子 半 径 の 関 係 等 が 成 り立 た な い か ら で あ る 。 こ の よ う な 系 で はNielsenのchronomal法 で は な く,拡 散 律 速 成 長 と 表 面 反 応 律 速 成 長 に 関 す る dr/dtの 式(7)と(11)のCをC0で 置 き換 え て 直 接 積 分 し,そ れ ぞ れ の 時 間 と 粒 子 半 径 の 関 係 に 直 し た 上 で,そ れ ぞ れr2ま た はrを 時 間 の 関 数 と して プ ロ ッ ト して 成 長 機 構 の 判 定 を 行 う べ き で あ る。 こ の よ う に,Nielsenのchronomal法 が 適 用 で き る の は,過 飽 和 状 態 に あ って 溶 質 錯 体 間 の 平 衡 が 常 に 保 た れ て い る均 一 溶 液 系,ま た は,1種 類 の 溶 質 分 子 の 均 一 過 飽 和 溶 液 か ら中 間 体 等 を 経 ず に 緩 や か に 沈 殿 生 成 が 起 こ り,粒 子 成 長 中 に は 再 核 発 生 が な い 単 分 散 粒 子 系 で あ る と言 う,現 実 に は 非 常 に 限 られ た 系 で あ る こ と に 注 意 す る必 要 が あ る。 2.3 単 分 散 ナ ノ粒 子 の成 長 機 構 に お け る 一 次 粒 子 の 凝 集 説 に つ い て 1980年,筆 者 は 粒 子 間 凝 集 が あ っ て も 非 常 に 狭 い サ イ ズ 分 布 を 持 つ 粒 子 が 得 ら れ る 場 合 が あ る こ と を 示 し た12)。そ れ ま でLaMer機 構13)に 代 表 さ れ る よ う に, 特 に サ イ ズ 分 布 の 狭 い 単 分 散 粒 子 は,粒 子 間 の 凝 集 が な く,核 生 成 と成 長 が 明 瞭 に分 離 し た 系 で しか 生 ま れ な い と考 え られ て い た だ け に,ナ ノ粒 子 を 扱 う一 般 の 研 究 者 の み で な く,筆 者 自身 に と っ て も新 鮮 な 驚 き で あ っ た 。 こ の 発 見 は,25mmol/l程 度 の 希 薄 な 分 散 物 で あ る 水 酸 化 第 一 鉄 ゲ ル を 硝 酸 根 で 部 分 酸 化 して 強 磁 性 の マ グ ネ タ イ ト(Fe3O4)粒 子 を 合 成 す る 際 最 初,水 酸 化 第 一 鉄 ゲ ル の 上 に 微 細 な マ グ ネ タ イ トの 一 次 粒 子(∼5nm)が 生 成 し,こ れ が ゲ ル基 盤 上 で 凝 集 しな が ら次 第 に 成 長 して 行 く過 程 を 電 顕 で 観 察 した こ と に 基 づ い て い る。 こ の 凝 集 は粒 子 の 持 つ 磁 性 に よ る もの で,特 に 電 気 的 反 発 の な い マ グ ネ タ イ トの 等 電 点 近 傍 のpH6.7付 近 で 急 速 に 進 行 す る。 サ イ ズ 分 布 が 狭 い 理 由 は,ゲ ル 基 盤 上 に お い て 核 生 成 に相 当 す る一 次 粒 子 間 の 凝 集 が 起 こ り,そ れ が 成 長 粒 子 と して 周 囲 か ら更 に一 次 粒 子 を 磁 力 で 集 め 始 め る が,成 長 粒 子 自 身 は ゲ ル 基 盤 上 に 拘 束 さ れ て い る た め に お 互 い に 凝 集 す る こ と な く,や が て 磁 力 の 及 ぶ 周 辺 の 一 次 粒 子 が 涸 渇 す る と 成 長 を 停 止 す る 機 構 が 働 く た め と考 え ら れ る12,14)。しか し,こ の よ う に 成 長 が あ る サ イ ズ で 停 止 す る よ う な特 別 な 機 構 が 働 く場 合 は と も か く,一 般 に 一 次 粒 子 の 凝 集 析 出 を 通 じて 単 分 散 粒 子 は 生 成 し う る で あ ろ う か 。 凝 集 体 二 次 粒 子 の 核 生 成 に相 当 す る一 次 粒 子 間 の 凝 集 が 常 時 起 こ り,且 つ,一 次 粒 子 の 析 出 で 成 長 す る二 次 粒 子 同 士 の 凝 集 も常 に 起 こ る系 で は,単 分 散 粒 子 生 成 の 条 件 で あ る 「核 生 成 期 と成 長 期 の 分 離 」 と 「凝 集 の 防 止 」 の い ず れ も満 足 さ れ な い か ら, 単 分 散 粒 子 の 生 成 は 原 理 的 に 有 り得 な い よ う に 思 わ れ る 。 こ の ご く当 た り前 の 予 測 に 反 して,実 際 に は 一 次 粒 子 等 は 一 切 観 察 さ れ て い な い に も か か わ ら ず,単 分 散 粒 子 の 生 成 と 成 長 を 大 き さ約2∼10nm程 度 の 一 次 粒 子 の 凝 集 で 説 明 す る 研 究 が 非 常 に 多 い の で あ る 。 例 え ば,SiO215,16),TiO217),α-Fe2O318,19),CeO220), SnO221),ZnO22),CuO23),Au24,25),CdS26,27)等 の 単 分 散,ま た は,そ れ に 近 い 粒 子 の 他 に,凝 集 機 構 を 提 唱 す る 総 説28)ま で 出 版 さ れ て い る 。 こ れ ら の 粒 子 の 多 く は球 形 の 非 晶 質 ま た は 多 結 晶 粒 子 で あ るが,中 に は α-Fe2O318,19),SnO221),ZnO22),CuO23)等 の 非 球 形 粒 子 も含 ま れ て い る 。 この 機 構 を 主 張 す る根 拠 は さ ま ざ ま で あ るが,最 も多 い の は 生 成 粒 子 が 粒 状 の 微 細 構 造 を 有 し,成 長 に方 向 性 の 無 い 球 形 で あ る か ら と い う 理 由 で あ る17,21,24∼26)。ま た,中 に は 球 形 で な く明 ら か に 結 晶 性 の 自形 を 有 す る もの ま で,球 に な らな い 理 由 は さ て お き,内 部 が 多 孔 質 で あ る こ と19)や,無 秩 序 な 放 射 状 に発 達 した 結 晶 子 を 有 す る こ と21,22),あ る い は,繊 維 状 の 微 細 構 造 が 観 察 さ れ る こ と23)等 を 理 由 に した 論 文 もあ る 。 しか し,こ れ らの よ う に,生 成 粒 子 の 外 見 の み か ら一 次 粒 子 の 凝 集 で 生 成 して い る と結 論 す る の は大 変 危 険 で あ る3)。 な ぜ な ら,通 常 の 溶 質 析 出 の 成 長 で 全 く同 様 の 粒 子 が 生 成 す る こ とが 証 明 済 み の 例 は 幾 らで もあ る か らで あ る。 あ る い は,希 薄 溶 液 系 の 反 応 の途 中 経 過 を 追 跡 し,一 次 粒 子 が ま さ に凝 集 し よ う と して い る瞬 間 を捉 え た と い う電 顕 写 真 を 示 した 例 も あ る18,20)。こ れ は,上 記 の マ グ ネ タ イ トの 例 の よ う に,ゲ ル 基 盤 の 上 に 固 定 さ れ た 粒 子 の 状 態 を 見 る 等 の 場 合 で な い 限 り,サ ン プ リ ン グ後 の水 洗 工 程 や グ リ ッ ド上 で の 乾 燥 過 程 を 経 る 電 顕 観 察 で は 反 応 溶 液 中 の 分 散 粒 子 の 動 的 挙 動 の 瞬 間 を 捉 え る こ と は で き な い か ら,意 味 の な い 主 張 で あ る 。 な お,エ リプ ソ イ ド 型 α-Fe2O3粒 子 に ま さ に 凝 集 析 出 しよ う と して い る
一 次 粒 子 と見 ら れ た も の は18),実 は α-Fe2O3で は な く,形 の よ く似 た 中 間 体 の 微 細 な β-FeOOH粒 子 で あ る こ とが 後 に 判 明 した(文 献29参 照)。 そ れ で は,ど の よ う に した ら溶 質 モ ノ マ ー の 析 出 に よ る成 長 か,一 次 粒 子 の 凝 集 析 出 に よ る 成 長 か を 区 別 で き る の で あ ろ う か 。 そ の 最 も有 効 な 方 法 の一 つ に 種 粒 子 解 析 法 が あ る3)。す な わ ち,微 粒 子 合 成 系 に 種 と な る微 粒 子 を 導 入 す る と,粒 子 生 成 反 応 が 著 し く促 進 さ れ る こ と が あ る。 こ れ は,新 た な 成 長 拠 点 の 導 入 で 反 応 場 が 増 え る と溶 質 の 消 費 速 度 が 上 昇 し,溶 質 の 定 常 濃 度 が 下 が ろ う と す る か ら,そ れ を 補 う た あ の 溶 質 の 供 給 反 応 が 促 進 さ れ る た め で あ り,溶 質 モ ノ マ ー が 析 出 す る 場 合 に特 有 な 現 象 で あ る。 な ぜ な ら,も し一 次 粒 子 を 経 由 して 反 応 が 進 行 す るな ら,新 た な 反 応 拠 点 に 一 次 粒 子 が 析 出 して 一 次 粒 子 の 数 密 度 が 減 少 して も液 相 の 溶 質 濃 度 に は 影 響 が な い の で,一 次 粒 子 を 生 み 出 す 反 応 は 全 く促 進 さ れ な い か ら で あ る 。 この 方 法 を 用 い て,α-FeO310,29,30),CeO231),CuO31),Au32) 等 の 粒 子 の 成 長 は 溶 質 析 出 で あ り,一 次 粒 子 の 凝 集 に よ る もの で は な い こ と を 証 明 した 。 但 し,こ こで 注 意 す べ き点 は,こ の 方 法 は 溶 質 が 析 出 す る過 程 が 律 速 段 階 で あ る こ とが 必 要 な こ と で あ る 。 も しそ の 前 の 溶 質 を 生 み 出 す 過 程 が 律 速 で あ る と,種 の 導 入 で 溶 質 の 消 費 が 促 進 さ れ て も全 体 の 反 応 は促 進 され な い の で,こ の 方 法 は 無 効 で あ る。 例 え ば,ア ル コキ シ ドの 加 水 分 解 や 金 属 イ オ ンの 加 水 分 解 等 が 律 速 の 場 合 や,外 部 か ら 溶 質 が 連 続 添 加 さ れ る 開 放 系 等 で は 種 に よ る 反 応 促 進 は な い の で,凝 集 機 構 か 否 か の 判 定 は で き な い 。 従 っ て,種 に よ る 反 応 促 進 が あ れ ば 凝 集 機 構 で は な い と言 え る が,逆 に反 応 促 進 が 無 い か ら と言 って,そ れ が 直 ち に 凝 集 機 構 を 意 味 す る 訳 で は な い 。Zukoski ら15,16)はシ リ コ ン ア ル コ キ シ ドの 加 水 分 解 に よ る シ リカ(SiO2)粒 子 の 成 長 は,定 常 的 に 生 成 す る シ リ カ の 一 次 粒 子 の 凝 集 析 出 に よ る と した が,そ の 大 き な 根 拠 の 一 つ と して 種 に よ る反 応 促 進 が な い こ とを 挙 げ て い る。 しか し,こ の 過 程 の 律 速 段 階 は ア ル コキ シ ド の 加 水 分 解 過 程 で あ る か ら,促 進 効 果 が な い の は 当 然 で あ り,そ れ を溶 質 析 出 機 構 の 否 定 や 一 次 粒 子 の 凝 集 機 構 の 根 拠 に 使 う こ と は で き な い 。 な おSiO2系 に お け る 更 に 立 ち 入 っ た考 察 は 文 献3)を 参 照 さ れ た い 。 そ れ で は,粒 子 生 成 速 度 の 律 速 段 階 が 溶 質 の 生 成 過 程 に あ る 場 合 の 判 定 に は ど の よ うな 方 法 が 考 え られ る で あ ろ うか 。 そ の 一 つ に,ア ンモ ニ ア 等 を 代 表 と す る 金 属 イ オ ン と の 錯 形 成 剤 の 効 果 を 利 用 す る 方 法 が あ る3)。 例 え ば,Cd2+イ オ ン のEDTA錯 体 と チ オ ア セ
トア ミ ドの 反応 でCdSの
単 分 散 多結 晶 体 球状 粒 子 を
合成 す る系 で7),Cd2+イ
オ ンと錯体 を形 成 しCdSの
見 か けの溶解 度 を上 げて溶 質の析 出を促進 す る効果 の
あ るア ンモ ニ アを用 い る。 この ア ンモニ アが充 分効 い
て い る系 で は,Cd-EDTAが
解 離 してCd2+イ オ ンを
供 給 す る過程 が律 速 とな り,種 を導入 して も反 応促 進
は起 きない。 しか し,ア ンモニ アを減 らす と,大 幅 に
反 応 速 度 が下 が る と同時 に単 分 散 性 も急 速 に劣 化 す
る。 これ は,反 応 の 律速段 階 がCd2+の 供 給 過 程 か ら
CdS粒 子 へ の析 出過 程 に移 行 す るた め で あ り,こ の
ときに種 を用 いれ ば反応 促進 が起 きる。す な わ ち,こ
の 系 は粒 子 の外 見 か らの予 測 とは異 な り,一 次 粒 子
の凝集 析 出 では な く,溶 質 モ ノマー の析 出で成 長 して
い る の で あ る。 も っ と も,こ の よ うに錯 形 成 剤 の 添
加 で反 応 が大 幅 に促 進 され る こと 自体,凝 集 析 出 を否
定 す る に充 分 な 事実 で あ る。 な ぜ な ら,錯 形 成 剤 で
固体 の見 か けの 溶解 度 を上 げ て 溶質 の消 費 を促 進 し
て も,過 飽 和 度 は下 が るの みで上 が る ことは な く,一
次 粒 子 形 成 の た め の核 生 成 は促 進 され な いか らで あ
る。 す なわ ち,も し一次 粒子 の形 成 を経 由す る凝集 析
出機構 で あれ ば,錯 形成 剤 によ る反応促 進 は ない か ら
であ る。
また,別 の判定法 と して は,溶 質供給 律速 で単分 散
粒 子 を生 成す る閉鎖 系 の溶質供 給 を外部 か ら連 続添 加
す る開放 系 に切 り替 え,常 時核 を発生 させ て一 次粒 子
を連続 的 に生 成す る よ うに して得 た粒子 のサ イズ分 布
を,も との 閉鎖 系 と比較 す る方法 が あ る。 も し,開 放
系 にす る ことに よ って サ イズ分布 が大 き く広が るよ う
であ れば,逆 に閉鎖 系 の単分散 粒 子の成 長 は溶 質析 出
機 構 に よ る もので あ るこ とを示 して い る。 なぜ な ら,
閉鎖 系 にお いて一次 粒子 の凝集 析 出機構 で単 分 散粒 子
が得 られ る のな ら,開 放 系で も常 時発生 す る一 次粒 子
を吸収 して単 分散粒 子 にな る筈 だか らで あ る。 この方
法 を成長 機 構 解析 に用 い た例 と して は,Cd(OH)2か
ら溶 出 す るCd2+イ オ ンとチ オ アセ トア ミ ドとを反 応
させ てCdSの
単 分 散 多結 晶 体球 状 粒 子 を得 る系 で,
溶 質析 出機 構 で ある ことが示 され た6)。
以上,幾 つ かの判 別法 を紹 介 したが,実 際問 題 と し
て,細 孔 サ イズ一定 の鋳 型 を用 い るか,マ グネ タイ ト
の例 の よ うに,途 中 あるサ イズで 成長 が 自動 的 に止 ま
る よ うな特 別 の機構 等 が働 かな い限 り,一 次 粒 子 の凝
集 析 出で サ イズ分布 の極 め て シ ャー プな単 分散 粒 子 に
な る ことは まず ない と考 え てよ い。単 分散 シ リカ粒子
の生 成 をSmoluchowskiの
凝 集 理 論 を用 い て,凝 集
機 構 で も単 分 散粒子 が得 られ るこ とを理 論 的 に証 明 し
Vol. 42 No. 7 (2005)
(27)
483
よ う と した試 み も あ るが,結 果 的 に は サ イ ズ 分 布 の 小 サ イ ズ 側 に 大 き く裾 を 引 く分 布 と な り,逆 に,単 分 散 に は な ら な い こ と を 証 明 した よ う な 形 に な っ て い る16)。ま た,金 や 硫 化 カ ド ミウ ム 等 の 単 分 散 多 結 晶 体 球 状 粒 子 の 合 成 系 に お い て も,同 様 の 研 究 例 が あ る。 す な わ ち,溶 質 モ ノ マ ー は 一 次 粒 子 の 生 成 の み に 使 わ れ,一 次 粒 子 は 他 の 一 次 粒 子 ま た は そ れ よ り大 き い凝 集 体 粒 子 に 拡 散 律 速 で 析 出 し,2量 体 以 上 の 凝 集 体 粒 子 間 の 凝 集 は全 くな い こ と を 仮 定 して 導 い た 理 論 式 を 用 い て 計 算 さ れ る サ イ ズ 分 布 と 実 際 の サ イ ズ 分 布 を 比 較 して い る25∼27)。こ の 場 合 も,計 算 に よ る サ イ ズ 分 布 は 小 サ イ ズ 側 に 大 き く裾 を 引 き,や は り実 際 の サ イ ズ 分 布 と は か け離 れ た 結 果 に な っ て い る 。 い ず れ に して も,こ の 種 の 理 論 的 研 究 は,仮 定 の 当 否 が 命 で あ り, 仮 定 に 誤 りが 含 ま れ て い れ ば,パ ラ メ ー タ を 如 何 に う ま く選 ん で 実 験 に よ く一 致 させ て も,得 られ た 結 果 は 全 く無 意 味 に な っ て しま う 危 険 が あ る 。 も ち ろ ん,単 分 散 で な い 粒 子 な ら,成 長 途 中 の 粒 子 間 凝 集 は ご く 日常 的 で あ る 。 しか し,そ の 場 合 も凝 集 は 溶 質 モ ノ マ ー の析 出 で 生 成 した 核 同士 や 成 長 した 粒 子 間 で 起 こ る も の で あ り,専 ら微 細 な 一 次 粒 子 の 生 成 を 経 由 し,そ れ が 成 長 粒 子 に 凝 集 析 出 して 粒 子 成 長 が 進 行 し,且 つ,成 長 粒 子 間 の 凝 集 は ほ と ん ど無 い と い う確 か な 証 拠 を 備 え た 系 は,少 な く と も筆 者 の 知 識 に は上 記 の マ グ ネ タ イ ト粒 子 系 以 外 な い 。 そ して,も し そ の よ うな 系 が あ る とす れ ば,マ グ ネ タ イ トの ケ ー ス の よ う に,得 ら れ た 粒 子 は 多 結 晶 ま た は非 晶 質 で,外 形 は 球 で あ る と想 像 さ れ る 。 しか し,逆 に 得 られ た 粒 子 が そ の よ うな 特 徴 を 備 え て い た か ら と い って,そ の 粒 子 が 必 ず し も一 次 粒 子 の 凝 集 で 生 ま れ た と は 言 え な い こ と は,上 記 の 例 か ら も理 解 さ れ る で あ ろ う。 この 場 合,多 結 晶 で 球 状 の 粒 子 は,成 長 粒 子 の 表 面 に 生 成 す る 二 次 元 核 の 結 晶 方 位 が 下 地 の 結 晶 格 子 方 位 と は 独 立 の と き に 生 ま れ る6,7,33)。そ れ に 対 し て,ゲ ル-ゾ ル 法 で 合 成 した 単 分 散 ヘ マ タ イ ト(α-Fe2O3)粒 子 の よ う に,外 形 は 単 結 晶 と 同 じ 自形 を 有 して い な が ら多 結 晶 体 に な る こ と も あ る 。 そ れ は,エ ピ タ キ シ ャル 成 長 を しな が ら も,成 長 した 表 面 二 次 元 核 が 互 い に 接 触 す る際 の 融 合 が,吸 着 した ア ニ オ ン類 に よ って 妨 げ ら れ,連 続 した 結 晶 面 を 構 成 で き ず に三 次 元 的 発 達 を 遂 げ た 結 果 で あ る と理 解 され る3,10,30,34,35)。 2.4 W/Oマ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン系 に お け る 粒 子 成 長 機 構 W/Oマ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ンは,オ イ ル 媒 体 中 に 直 径 数nmの 微 細 な水 滴(water pool)が 界 面 活 性 剤 に よ って 熱 力 学 的 に 安 定 な状 態 で 分 散 して い る エ マ ル ジ ョ ンで あ る。 界 面 活 性 剤 に 対 す る水 の 比 率 が 小 さ く, 水 分 子 の 多 くが 界 面 活 性 剤 の逆 ミセ ル に 束 縛 水 と して 含 ま れ る 系 を,マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン と は 区 別 して 定 義 さ れ る場 合 も あ る が,本 稿 で は この 逆 ミセ ル 系 も W/Oマ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ンに 含 め て 定 義 す る。 逆 ミセ ル 系 を 含 め てW/Oマ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ンに お け る粒 子 形 成 で 得 ら れ る粒 子 の大 き な 特 徴 は,通 常 の 水 溶 液 で 得 られ る もの に比 較 して 著 し く小 さ い ナ ノ 粒 子 に な る と い う こ と で あ る 。 従 来,こ の 事 実 は,反 応 場 と して のwater poolは 絶 え ず 離 合 集 散 を繰 り返 し て い る が,そ の 平 均 サ イ ズ が 数nmと 非 常 に 小 さ く,一 種 の 鋳 型(template)と して 働 くた め に 成 長 が 制 限 され る た め で あ る と説 明 さ れ て き た36∼38)。そ の 一 つ の 根 拠 と して,界 面 活 性 剤 に対 す る 水 の 比 率 を 上 げ てwater poolの サ イ ズ を 大 き くす る と得 ら れ る粒 子 の サ イ ズ も大 き くな る 等 の 現 象 が 挙 げ ら れ る 。 しか し な が ら,一 般 に 得 られ る粒 子 の サ イ ズ は 通 常 の 水 溶 液 系 よ り遙 か に 小 さ い もの の,water poolの サ イ ズ に 比 較 す れ ば ず っ と大 き く,直 径 で10倍 あ る い は そ れ 以 上 に 達 す る こ と も ま れ で は な く,果 た し て この 直 感 的 な 説 明 が 妥 当 な も の な の か 疑 問 の 余 地 が あ る 。 そ こ で 筆 者 ら は コ ン トロ ー ル ド ・ダ ブ ル ジ ェ ッ ト法 を 用 い,通 常 の ゼ ラ チ ン水 溶 液(AGS)系 と マ イ ク ロエ マ ル ジ ョ ン の 逆 ミセ ル(RM)系 でAgClナ ノ粒 子 を 合 成 して 比 較 を 行 っ た39∼41)。ま ず,AGS系 で は,30 分 間 の 等 速 同 時 添 加 に 用 い る 各30mlのAgNO3お よ びKCl水 溶 液 の 濃 度 を そ れ ぞ れ1.00×10-2mol/lお よ び1.20×10-2mol/lと した 。 ま た,こ れ ら が 充 分 な 攪 拌 下 に添 加 さ れ る 反 応 場 と して30℃ に保 た れ た 100mlの2wt%の ゼ ラ チ ン 水 溶 液 中 のKCl濃 度 を 1.00×10-3mol/lに 設 定 して,添 加 操 作 中 の ゼ ラ チ ン溶 液 に お け る過 剰 塩 化 物 イ オ ン濃 度 を 常 に1.00× 10-3mol/lに 保 つ よ う に した 。 比 較 す るRM系 で は, これ らの 水 溶 液 を そ れ ぞ れNP-6(非 イ オ ン性 界 面 活 性 剤polyoxyethylene (6) nonylphenyl ether) 0.10 mol/lを 含 む シ ク ロ ヘ キ サ ンに 添 加 混 合 し,H2Oを 0.30mol/l含 む 逆 ミ セ ル 溶 液[RW(=[H2O]/[NP-6])=3]を 調 製 し て 用 い た 。 添 加 す るAgNO3とKCl のRM溶 液 お よ び 反 応 器 のRM溶 液 の 体 積 は,そ れ ぞ れ6,6,20mlと し,反 応 溶 液 中 の ゼ ラ チ ン は 除 い た 。 他 の 条 件 は 全 てAGS系 と 同 じで あ る 。 この 標 準 条 件 で 得 ら れ るAgCl粒 子 の サ イ ズ は,AGS系 で 86nm,RM系 で13nmで あ り,逆 ミセ ル の サ イ ズ は 3.3nm(water poolサ イ ズ は1.5nm)で あ っ た 。 ま ず
明 ら か な こ と は,AgCl粒 子 のRM系 で の サ イ ズ が water poolサ イ ズ よ り約1桁 も大 き い こ と で あ る。 こ こ で 更 に 注 目 す べ き 点 と して,反 応 場 のRM溶 液 中 の 逆 ミセ ル1個 当 た りに 銀 塩 化 物 錯 体 等 の 形 で 銀 イ オ ン を 含 む 確 率 を,AgClの 水 溶 液 中 に お け る溶 解 度 とwater poolの 平 均 体 積 か ら計 算 す る と,約100万 分 の1で あ る こ と が 挙 げ ら れ る 。 こ の こ と は,各 逆 ミ セ ル が 銀 イ オ ンを 含 ん で い る と して も そ れ は 高 々1個 で あ り,し か も,そ の1個 の 銀 イ オ ンを 含 む 逆 ミセ ル は約100万 個 中1個 に 過 ぎず,残 り は す べ て 空 で あ る こ と を 意 味 す る 。 ち な み に,最 終 的 に 得 られ る粒 子 を 含 む 逆 ミセ ル は 約600万 個 に1個 と計 算 され る。 こ れ らの こ と か ら,個 々 の 逆 ミセ ル を 微 細 反 応 場(nano-reactor)や 微 細 な 鋳 型(nanotemplate)と 見 な す の は 不 適 当 の よ うに 思 わ れ る。 む し ろ,塩 化 物 錯 体 状 の 銀 イ オ ン1個 を 含 む 逆 ミ セ ル 自 身 を 一 種 の 大 き な 銀 イ オ ン錯 体 と見 な し,オ イ ル 媒 体 中 で そ れ らが 合 一 し な が ら核 を 形 成 す る 。 そ して,更 に この 逆 ミセ ル 銀 錯 体 は,界 面 活 性 剤 で 保 護 さ れ て 分 散 し て い る生 成 核 に拡 散 して 中 身 の 銀 イ オ ンの 塩 化 物 錯 体 を 放 出 して 成 長 させ る と 理 解 す べ き で あ ろ う。 こ の 従 来 と は 本 質 的 に 異 な る マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン 系 の 粒 子 形 成 モ デ ル で は,媒 体 が 水 か ら オ イ ル に 変 わ っ た だ け で,ご く一 般 的 な水 溶 液 系 と全 く 同 じ取 り扱 い と な り,生 成 す る 粒 子 の サ イ ズ とwaterpoolの サ イ ズ は 無 関 係 で あ る。 も し この モ デ ル が 正 しい とす る な ら,AgCl粒 子 の よ う に 拡 散 律 速 成 長 す る 粒 子 を ゼ ラ チ ン の よ う な 保 護 コ ロ イ ド存 在 下 で ダ プ ル ジ ェ ッ ト法 に よ り調 製 す る 開 放 系 で 厳 密 に 成 り立 つ 下 記 の 理 論 式Eq.(14)42) を,こ のAgClのAGS系 とRM系 に そ れ ぞ れ 適 用 し た 場 合,両 者 と も理 論 と一 致 す る 筈 で あ る39)。す な わ ち,
(14)
こ こ で,Rは 気 体 定 数,Tは 絶 対 温 度,σ は 固 体 の 単 位 面 積 当 た りの 表 面 エ ネ ル ギ ー で あ る。 他 は 既 出 の 定 義 と 同 じで あ る 。 この 式 と,こ れ の 一 般 式 で あ るEq. (1)と を 組 み 合 わ せ る と,核 の 体 積 成 長 速 度vは(15)
と な る 。RM系 に お け る オ イ ル 媒 体 中 に 換 算 し た AgClの 溶 解 度C∞ は,水 溶 液 中 の 溶 解 度 を 特 にCW と す れ ば,次 式 で 与 え られ る 。(16)
但 し,VwとV0は,そ れ ぞ れRM系 の 反 応 液 中 に お け る 水 と オ イ ル の 体 積 で あ る 。 す な わ ち,Vw/(Vw+ V0)はRM系 に お け る 水 の 体 積 分 率 で あ る 。 ま た, 銀 イ オ ン錯 体(RM系 の 場 合 は 銀 イ オ ンを 含 む 逆 ミセ ル)の 拡 散 係 数Dは 下 記 のStokes-Einstein式 で 与 え られ る 。(17)
但 し,kはBoltzmann定 数,η は 粘 度,rは 銀 錯 体 の 半 径 で あ る。AgNO3とKCIの 添 加 速 度 を 変 え て, Qに 対 す るn∞ を プ ロ ッ トす る と両 方 の 系 で 原 点 を 通 る直 線 関 係 が 得 られ た 。Eq.(1)の 関 係 か ら,そ れ ぞ れ の 直 線 の 傾 き よ りvの 値 を 求 め る と,AGS系 で361 nm3s-1,RM系 で0.270nm3s-1と な っ た 。 これ らv の 実 験 値 に 対 し て,銀 錯 体 の 半 径r(AGS系 で は 錯 体 構 成 イ オ ン大 き さ か らの 計 算 値,RM系 で はX線 小 角 散 乱 か ら求 め た 逆 ミセ ル の 半 径)と 粘 度 の 測 定 値 か ら Eq.(17)を 用 い て 得 たD値 お よ びAgClの 溶 解 度C∞ (AGS系 で は ゼ ラ チ ンの 銀 錯 体 の 寄 与 も含 め て デ ー タ ベ ー ス よ り求 め た 値,RM系 は 水 溶 液 に お け るAgCl の 溶 解 度 に 水 の 体 積 分 率 を 掛 け て 得 た 値)を 用 い, Eq.(15)か ら計 算 して 得 た 理 論 値 は,AGS系 で344 nm3s-1,RM系 で0.259nm3s-1と な り,実 験 値 と 理 論 値 は 両 方 の 系 で 非 常 に 良 い 一 致 を示 した 。 この こ と は,上 記 の マ イ ク ロエ マ ル ジ ョ ン系 に お け る粒 子 形 成 モ デ ル の 正 当 性 を 強 く示 唆 して い る 。 従 っ て,W/O マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン系 で 得 られ る粒 子 の サ イ ズ が 非 常 に小 さ い の は,water poolの サ イ ズ が 小 さ い た め で は な く,オ イ ル 媒 体 中 の 水 の 体 積 分 率 が 小 さ い た め に 実 質 上 の 固 体 溶 解 度 が 非 常 に低 い こ と(こ の 実 験 系 で はAGS系 の 約1/300)と,逆 ミセ ル 状 の モ ノ マ ー 錯 体 の拡 散 係 数 が 低 い(こ の 実 験 系 で は 水 中 の 銀 イ オ ン錯 体 の 約1/4)た め で あ る 。 但 し,粒 子 成 長 が 表 面 反 応 律 速 の 場 合 は,こ の 拡 散 係 数 の 差 は 影 響 しな い 。 界 面 活 性 剤 濃 度 一 定 で,加 え る水 溶 液 の 量 を 増 や す こ と に よ りwater poolの サ イ ズ を 大 き くす る と,確 か に生 成 す る粒 子 の サ イ ズ は 上 昇 す る。 しか し,そ も そ も両 者 の サ イ ズ の 絶 対 値 に 大 き な 差 が あ る 上 に,急 速 なwater poolサ イ ズ の 上 昇 に対 す るAgCl粒 子 の サ イ ズ 上 昇 は 緩 慢 で,そ の 上 昇 傾 向 は 一 致 しな い 。 一 方,水 の 界 面 活 性 剤 と の モ ル 比 を 固 定 して,加 え る水と 界 面 活 性 剤 の 両 方 を 増 量 した 場 合 は,water pool の サ イ ズ は 変 化 し な い が,AgCl粒 子 の サ イ ズ は 上 昇 す る 。 い ず れ の 場 合 も,生 成 粒 子 の サ イ ズ 変 化 は 上 記 の 新 モ デ ル に 基 づ く理 論 式 で 正 確 に記 述 で き る41)。 ま た,逆 ミセ ル のwater poolに 鋳 型 効 果 が な い こ と は,生 成 粒 子 の サ イ ズ がwater poolサ イ ズ と 全 く 一 致 しな い こ と や,得 ら れ る粒 子 サ イ ズ がwater pool の サ イ ズ と は 関 係 な く,溶 質 の 添 加 速 度 の み で 決 ま る こ と の 他 に,溶 質 の連 続 添 加 の ご く初 期 の 段 階 で 核 生 成 期 が 終 了 し,そ の 後 は 溶 質 添 加 に 伴 い 粒 子 数 一 定 で 成 長 を 続 け,途 中 で 再 核 発 生 は 全 く起 こ らな い こ と か ら も言 え る 。 も し,water poolの サ イ ズ が 何 らか の 成 長 制 限 要 因 に な っ て い れ ば,粒 子 の 平 均 サ イ ズ が 制 限 サ イ ズ に 達 した と き,新 た な 粒 子 が 生 ま れ る筈 だ か ら で あ る 。 逆 ミセ ル のwater poolの サ イ ズ 限 界 に よ る 鋳 型 効 果 の 議 論 と直 接 関 係 な い が,マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン に は 大 量 の 界 面 活 性 剤 が 含 ま れ る の で,界 面 活 性 剤 が 粒 子 に 強 く吸 着 す れ ば 成 長 抑 制 は 起 こ り う る 。 しか し, そ の こ と は 均 一 水 溶 液 で も起 こ り う る こ とで あ り,今 回 紹 介 した 新 しい モ デ ル で 均 一 溶 液 と 同 様 に 取 り扱 え る。 こ れ を 鋳 型 効 果 の 一 種 と し て取 り扱 うの は,サ イ ズ に 一 定 の 物 理 的 上 限 が あ る 鋳 型 の 特 性 か ら も不 適 当 で あ ろ う。 ち な み に,NP-6のAgClへ の 吸 着 は 非 常 に 弱 く,高 濃 度 のNP-6水 溶 液 中 の 実 験 で も 全 く成 長 抑 制 の 兆 候 は 見 られ な か っ た39)。 こ こ で は ダ ブ ル ジ ェ ッ ト法 を マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン 系 に 適 用 す る と い う従 来 に な い 手 法 を 用 い,新 し い モ デ ル と理 論 との 照 合 を 通 じて,こ の 系 の 粒 子 生 成 機 構 の 解 明 を 行 っ た が,こ の手 法 は あ くま で マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン系 に お け る 粒 子 生 成 機 構 一 般 の 特 徴 を 明 らか に す る た め の 手 段 と して 用 い て い る こ と に 注 意 す る必 要 が あ る 。 そ れ 故,溶 質 分 子 や 錯 体 を 含 む 逆 ミセ ル を 一 種 の 溶 質 錯 体 と 見 な し,均 一 系 と同様 に扱 う とい う 基 本 的 な 考 え 方 は,閉 鎖 系 を 含 め て マ イ ク ロエ マ ル ジ ョ ン系 一 般 の あ ら ゆ る粒 子 生 成 過 程 に 適 用 で き る 可 能 性 を 含 ん で い る と思 わ れ る。 い ま 仮 に,水 溶 液 相 中 の 前 駆 錯 体 濃 度 が1mol/lに も達 し た と して も,逆 ミセ ル1個 の 水 分 子 数 が(上 記 のAgCl系 の よ う に)約60 個 と す る と,逆 ミセ ル1個 に 含 ま れ る前 駆 錯 体 分 子 の 数 は 平 均1個 で あ る の で,や は り逆 ミ セ ル のwater poolをnanoreactorの よ う な 反 応 場 と 考 え る の は 妥 当 で は な く,前 駆 錯 体 分 子 を 含 む 個 々 の 逆 ミセ ル そ の もの を 一 種 の 前 駆 錯 体 分 子 と理 解 し て よ い で あ ろ う。 ま して,水 溶 液 に お け る単 分 散 粒 子 系 の 固 体 の 溶 解 度 は通 常 著 し く低 く,従 っ て,粒 子 形 成 中 の 定 常 的 な 前 駆 錯 体 濃 度 も非 常 に 低 く,RM系 の 水 溶 液 相 中 の 濃 度 が1mol/lに 達 す る よ う な こ と は,普 通 は な い と考 え て 良 い 。AgCl系 と は 全 く異 な る と思 わ れ る シ リ カ粒 子 の ア ル コ キ シ ド加 水 分 解 に よ る合 成 を,RM系 で 行 う よ う な 場 合 を考 え よ う。 通 常water poolの 成 分 は ア ン モ ニ ア を 含 む 水 で あ り,オ イ ル 相 の シ リコ ン ア ル コ キ シ ドと反 応 して 前 駆 体 の シ ラ ノ ー ル は水 相 に 生 成 す る 。 そ して,一 つ の逆 ミセ ル に含 ま れ る シ ラ ノ ー ル は 高 々1分 子 で,大 部 分 は 空 で あ る 。 水 は単 分 子 で 均 一 溶 解 して い る場 合 に 比 較 して,逆 ミセ ル 中 に凝 縮 さ れ て い る 分 だ け 加 水 分 解 速 度 は 下 が る た め,前 駆 体 シ ラ ノ ー ル の 生 成 速 度 は低 くな る と思 わ れ る が,系 全 体 の シ ラ ノー ル 濃 度 は 系 全 体 の 水 の 体 積 分 率 が 著 し く低 い 分 大 幅 に 下 が る の で,シ リカ 核 の 体 積 成 長 速 度 は非 常 に 低 く,結 局,生 成 す る 粒 子 数n∞ は ア ル コ ー ル 媒 体 等 の 均 一 系 に 比 較 して は る か に 大 き く,従 っ て,得 ら れ る粒 子 は 均 一 系 よ り は る か に小 さ く な る こ とが 予 測 さ れ る。 事 実,RM系 で 得 られ る シ リ カ 粒 子 は 約 40∼50nmと 均 一 系 の 粒 子 よ り約1桁 小 さ い 。 こ の よ う に,一 般 にRM系 で 得 ら れ る 粒 子 の サ イ ズ は 数 10nmオ ー ダ ー の 微 細 な もの が 多 い の は,Eq.(1)に お け る核 の 体 積 成 長 速 度vが 通 常 の 均 一 溶 液 系 の と き よ り極 端 に低 い こ と を 示 唆 して い る 。 と こ ろ で,マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン系 で 得 ら れ る粒 子 の サ イ ズ 分 布 は,平 均 サ イ ズ が 小 さ い に もか か わ らず 比 較 的 狭 い もの が 多 い 。 そ の こ と は,界 面 活 性 剤 の 粒 子 表 面 へ の 吸 着 で 成 長 抑 制 が さ れ る よ う な 場 合,個 々 の 粒 子 は 核 生 成 の の ち 成 長 に つ れ て ミセ ル を 構 成 して い る界 面 活 性 剤 の 吸 着 が 強 化 さ れ,次 第 に 成 長 速 度 を 落 とす こ と に よ りサ イ ズ分 布 が 自動 的 に 縮 小 に 向 か う 機 構 が 加 味 さ れ て い る 可 能 性 を 示 唆 して い る。 ち な み に,上 記 のAgCl系 で は,特 に こ の 種 の 効 果 に よ る と 思 わ れ る積 極 的 な サ イ ズ分 布 の 縮 小 傾 向 は 見 られ な か った 。 そ れ は,NP-6の 吸 着 に よ る成 長 抑 制 が 無 い た め と理 解 さ れ る。 2.5 金 属 ナ ノ粒 子 の 異 方 成 長 に お け る 界 面 活 性 剤 の鋳 型 説 に つ い て 上 記 の マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン 系 に お い て,数 多 くの 金 属 ナ ノ粒 子 が 合 成 さ れ て い る が,通 常 そ れ ら は球 形 に 近 い 等 方 的 な 粒 子 で あ る 。 しか し,条 件 に よ って は,銀 の 繊 維 状 の 粒 子43)や 平 板 状 粒 子44),銅 の 棒 状 粒 子45,46)等の 異 方 成 長 粒 子 も得 ら れ る 。 こ の 異 方 性 粒 子 の 生 成 は,従 来 の 通 説 で あ る 逆 ミセ ル の 鋳 型 効 果 に よ る サ イ ズ 制 限 の 延 長 線 と して,界 面 活 性 剤 ミ セ
ル の 特 異 構 造 に 基 づ く鋳 型 効 果 等 で 説 明 さ れ て い る。 例 え ば,Pileniら45)は,ア ニ オ ン 系 界 面 活 性 剤AOT を 含 む 逆 ミセ ル 系 で 銅(II)イ オ ンを ヒ ドラ ジ ンで 還 元 して 棒 状 の 銅 粒 子 の 発 生 を 観 察 して い る 。 彼 ら は Cu(AOT)2/isooctane/waterの 組 成 の 変 化 に 従 っ て 変 わ る ミセ ル の構 造 観 察 を 行 い,そ れ と 発 生 す る 棒 状 粒 子 の 割 合 の 変 化 と の 関 係 を 検 討 して,棒 状 粒 子 は ミ セ ル の 特 異 構 造 に 由 来 す る鋳 型 効 果 で 生 成 す る と結 論 して い る 。 しか し な が ら,前 節 で 述 べ た よ うに,こ の 系 で 界 面 活 性 剤 が 鋳 型 と し て 作 用 す る 可 能 性 は 極 め て 低 い 。 そ の 上,得 ら れ る異 方 性 粒 子 は す べ て サ イ ズ や ア ス ペ ク ト比 の 似 通 っ た 棒 状 の 粒 子 で あ り,対 応 す る ミセ ル の 構 造 の 大 き な 変 化 と は,形 状 も等 方 的 な 粒 子 と の 混 合 比 も特 に 良 い 相 関 を 示 して い な い 。 ま た,本 来RM系 の ミセ ル は 絶 え ず 離 合 集 散 を 繰 り返 して お り,凍 結 法 で 得 られ た ミセ ル の 構 造 は 動 的 平 衡 状 態 の あ る 瞬 間 の 構 造 で あ る か ら,そ れ が 直 ち に 粒 子 の 形 状 を 決 め る 鋳 型 と して 作 用 す る と考 え る の は,や や 無 理 が あ る よ う に思 わ れ る 。 一 方,彼 ら 自身 が述 べ て い る よ う に,こ の 棒 状 粒 子 は,双 晶 で あ り,主 軸 の 方 位 〈111〉 で あ る と い う45)。も しそ う とす る と,そ れ と平 行 な 双 晶 面 と して{110}面 等 の 可 能 性 が 考 え られ る が,{110}面 は 単 結 晶 内 の 対 称 面 で あ るか ら双 晶 面 と は な りえ な い 。 銅 の 結 晶 系 は面 心 立 方 晶 で あ る か ら, 棒 状 双 晶 の 双 晶 面 が 通 常 見 られ る{111}面 や{411} 面 等 の{h11}面 で あ る と す れ ば47),主 軸 の 方 位 は 〈110〉で あ る 。 そ れ は と もか く,い ず れ に して も棒 状 双 晶 で あ れ ば,先 端 の 凹 入 角 部 の 特 異 的 な 成 長 活 性 に よ る異 方 成 長 で 生 ま れ る もの で あ るか ら,鋳 型 効 果 と は 無 関 係 で あ る 。 も し,こ の 異 方 成 長 が ミセ ル の 鋳 型 効 果 に よ る もの で あ る とす れ ば,そ の 主 軸 の 方 位 に一 定 の 規 則 性 は な い 筈 で あ る か ら,両 者 は 並 立 しな い 。 双 晶 の 発 生 確 率 は イ オ ン濃 度 の 増 加 等 で 容 易 に上 昇 す る が,彼 ら は 別 の 論 文48)で,水 相 中 のCu2+イ オ ン の 濃 度 が 一 定 の レベ ル を 越 す だ け で この 棒 状 粒 子 の 生 成 確 率 が ゼ ロか ら大 幅 に上 昇 す る こ と を 報 告 して い る こ と か ら,上 記 のRM系 の 組 成 変 化 に よ る 棒 状 粒 子 の 発 生 確 率 の 変 化 は,双 晶 発 生 確 率 に 対 応 す る も の と理 解 す べ き で あ ろ う3)。 同 様 の 観 点 か ら,こ の 系 に お け る 銀 粒 子 の 異 方 成 長 機 構 に つ い て も見 直 しが 必 要 で あ る よ う に 思 わ れ る。 一 方,カ チ オ ン 型 界 面 活 性 剤cetyltrimethylam-monium bromide (CTAB)お よ び 少 量 の 銀 イ オ ン を 含 む 通 常 の 均 一 溶 液 系 に お い て も,Wangら49・50)が 電 極 還 元 法 で 棒 状 の 金 ナ ノ 粒 子 を 合 成 で き る こ とを 示 して 以 来,多 く の 研 究 者 が 化 学 的 な 手 法 に よ る金 ナ ノ ロ ッ ドの 合 成 に 挑 戦 を 開 始 した 。 そ の 結 果,Jana ら51)は ア ス コ ル ビ ン 酸 を 還 元 剤 に 用 い,別 個 に 水 素 化 棚 素 ナ ト リウ ム の 還 元 作 用 で 得 た 金 の 球 形 種 粒 子 (∼3.5nm)を 添 加 す る こ と に よ り,ア ス ペ ク ト比 の 異 な る金 ナ ノ ロ ッ ドを 得 て い る 。 い ず れ の 場 合 も,共 存 さ せ るCTABが 無 い と棒 状 粒 子 の 割 合 が 大 き く下 が る こ と か ら,棒 状 粒 子 の 主 た る成 因 はCTABの 棒 状 ミセ ル の 鋳 型 効 果 に 帰 着 され て い る。 しか し,ミ セ ル の 構 造 と の 関 係 に つ い て の 詳 細 は全 く知 られ て い な い 。 確 か に,CTABは 棒 状 ミセ ル を 形 成 す る こ と で 良 く知 られ て い る が,水 溶 液 の 場 合,ミ セ ル の 内 側 は 油 溶 性 基 で 占 め られ て い る こ と を 考 え る と,そ の 棒 状 ミセ ル の 内 側 に 金 イ オ ンの 水 溶 液 が 浸 透 し,し か も, そ の 中 で 金 イ オ ンが 優 先 的 に 還 元 さ れ て 棒 状 に な る こ とは い か に も考 え に くい 。 む しろ,六 方 晶 型 の 高 次 構 造 を と っ た 場 合 の 直 線 的 な 間 隙 の 内 壁 は 親 水 基 で 占 め られ て い るの で,一 つ の 可 能 性 と し て そ の チ ャ ンネ ル が 従 来 と は 全 く異 な っ た概 念 の 鋳 型 に な り う る か も し れ な い 。 従 っ て,も し本 当 に 鋳 型 効 果 の 可 能 性 が 高 く,且 つ,与 え ら れ た 濃 度 や イ オ ン強 度 で ミセ ル が 高 次 構 造 を 取 り う る の で あ れ ば,こ れ ま で 議 論 さ れ な か っ た ミセ ル の 高 次 構 造 と の 関 係 を一 つ の 論 点 に す る 必 要 を 生 ず る こ と も考 え られ る 。 一 方 ,Kimら は52),こ の 金 粒 子 の 棒 状 粒 子 の 合 成 に 用 い る 金 の 種 粒 子 の 代 わ り に 硝 酸 銀 を 添 加 して, UV光 照 射 に よ る 光 還 元 法 で 棒 状 の 金 粒 子 を 得 て い る 。 こ の 場 合,導 入 され た 銀 イ オ ン は共 存 す るCTAB の 臭 素 イ オ ン と 反 応 してAgBr粒 子 を 形 成 し,こ れ が 紫 外 光 で 還 元 さ れ て 銀 ク ラ ス タ ー に な る こ とが 推 定 さ れ る 。 そ れ を 金 イ オ ンが 酸 化 す る こ と で 銀 イ オ ン に 戻 し,自 身 は 金 核 と な っ て 金 の 種 粒 子 と 同 様 の 働 き を す る もの と 理 解 さ れ て い る 。 こ の こ と はWangら50) の 電 気 化 学 系 に お け る 銀 イ オ ン の 役 割 と 同 一 で あ ろ う 。Kimら は ま た,銀 イ オ ンの 導 入 が 無 け れ ば 粒 子 は 球 形 と な り,棒 状 粒 子 は ご くわ ず か しか 生 ま れ な い こ と も 見 い だ して い る 。 こ の こ と は,単 にCTABが あ る だ け で は 棒 状 に は な らな い こ とを 意 味 し て い る 。 こ こ で 金 の 棒 状 粒 子 の 成 因 に つ い て 改 め て 考 察 を 加 え て み よ う。 ま ず 注 目す べ き点 と して,一 般 に い ず れ の 場 合 も,棒 状 粒 子 の 他 に 成 長 した 球 形 粒 子 や 板 状 の 粒 子 も多 数 混 在 す る こ と が 挙 げ ら れ る。 金 は 面 心 立 方 晶 系 に属 す る か ら,板 状 粒 子 は 一 重 双 晶 な い し平 行 多 重 双 晶 で あ る と考 え られ る の で,少 な く と も非 平 行 多 重 双 晶 の 角 柱 状 粒 子 が 同 時 に 生 成 し う る 環 境 に あ る こ
Vol. 42 No. 7 (2005)
(31)
487
と を 示 し て い る 。 事 実,Janaら も見 い だ して い る よ う に51),CTABが な く て も 数 は 少 な い が 棒 状 粒 子 が 観 察 さ れ て お り,少 な く と も そ れ ら は 双 晶 の 特 異 成 長 に 由来 す る 異 方 性 粒 子 と考 え られ る 。 こ のJanaら の 系 で は 種 が 無 い と 還 元 反 応 は 起 き な い 。 も し,CTABが 鋳 型 と し て 作 用 して い る と す る と,こ の 実 験 で はCTABの ミ セ ル や ア ス コ ル ビ ン 酸 塩 化 金 酸 を 含 む 系 に 対 して 最 後 に 種 が 添 加 さ れ て い る の で,種 は 優 先 的 にCTABの 棒 状 ミセ ル の 中 に 入 る か,棒 状 ミセ ル の 作 る六 方 晶 型 高 次 構 造 の 間 隙 チ ャ ンネ ル 等 の 鋳 型 に 収 納 され る とい う よ う な,か な り 特 殊 な 状 況 を 想 定 し な け れ ば な ら な い 。 し か し, CTABの ミセ ル が 存 在 して い て も 系 内 で 自発 的 に 生 ま れ た 金 核 は ほ と ん ど棒 状 に な ら な い と い うKimら の 報 告 は,元 々 そ の よ う な 特 殊 な 状 況 や そ れ に 伴 う鋳 型 内 成 長 な ど は 存 在 せ ず,む しろ,棒 状 粒 子 形 成 に は 導 入 した 種 晶 の 性 質 とCTABの 分 子 と して の 振 る 舞 い が 深 くか か わ って い る こ と を 示 唆 して い な い で あ ろ う か 。 ま た,Kimら の 結 果 を 見 る と,単 に 添 加 す る 銀 イ オ ンの 量 を 変 え た だ け で,得 ら れ る 棒 状 粒 子 は長 さ だ け で な く太 さ も大 き く変 化 す る。 こ の 操 作 は 導 入 す る 種 粒 子 の 数 や 大 き さ の 調 節 に 相 当 し,CTABの 棒 状 ミセ ル の 形 状 や そ の 高 次 構 造 等 に 影 響 は な い と思 わ れ る か ら,鋳 型 効 果 で の 解 釈 は 困 難 で あ る 。 さ らに,Wangら やKimら が 得 た 棒 状 粒 子 の 主 軸 の 方 位 は 一 定 で あ る(〈100〉 と言 わ れ て い る50,52))。こ の こ と は,既 述 の よ う に 鋳 型 説 と相 容 れ な い 。 こ う して 見 て く る と,や は り金 の 棒 状 粒 子 の 成 因 も非 平 行 多 重 双 晶 の 異 方 成 長 と 解 す べ き よ う に 思 わ れ る 。 そ し て,は っ き り して い る こ と は,種 粒 子 と CTABの 共 存 が 重 要 で あ り,し か も,導 入 す る 種 粒 子 の 性 質 が 深 く関 係 す る と い う こ と で あ る 。 今 こ の 観 点 に立 ち,こ れ ま で に 得 ら れ て い る 実 験 事 実 か らそ の 成 長 の 過 程 を 考 察 す る と,ま ず,銀 イ オ ン の 導 入 で 生 じ た 銀 核 が 再 結 晶 過 程 に よ り金 核 へ の 固 相 変 換 を 経 由 した り,あ る い は,予 め 強 い 還 元 剤 で 急 速 な 還 元 過 程 を 経 た り して 作 ら れ る金 の 種 粒 子 は,内 部 に 多 くの 欠 陥 や 双 晶 面 を 有 す る こ と が 考 え ら れ る 。 そ の よ う な 種 が 成 長 す る 初 期 段 階 で,CTAB分 子 が 粒 子 表 面 に 介 在 し て 更 に 積 層 欠 陥 を 誘 発 しな が ら棒 状 に 成 長 し う る多 重 双 晶 核 の 形 成 を 促 進 す る と い う機 構 が 浮 か び上 が る 。 一 方,同 様 の 系 に お い て ア ス コ ル ビ ン 酸 で 金 イ オ ン を還 元 す る と 同 時 に,紫 外 線 照 射 で 反 応 を 促 進 しな が ら途 中 経 過 を 追 っ た 新 留 ら の 報 告53)に よ れ ば,10%程 度 反 応 が 進 行 し た 時 点 で 既 に か な り 良 く揃 っ た 棒 状 粒 子 が 生 成 して お り,以 後 は 若 干 両 端 の 形 状 を 変 化 させ る もの の,そ の お よ そ の 形 状 と大 き さ 及 び 狭 い サ イ ズ 分 布 を 保 っ た ま ま 専 ら粒 子 数 が増 加 す る。 こ の こ と は,時 間 と と もに 生 成 して く る成 長 核 が 成 長 を 開 始 して あ る サ イ ズ に 達 す る と,成 長 が 事 実 上 止 ま る こ とを 繰 り返 す こ と を 示 唆 す る 。 す な わ ち, 一 つ の 可 能 性 と し て ,吸 着 したCTABが 種 晶 を 一 次 元 的 に 成 長 す る双 晶 核 に変 化 させ る と,金 粒 子 は 一 方 向 に 成 長 を 開 始 す る が,そ の 成 長 の 間 にCTAB分 子 の 吸 着 が 強 化 さ れ て,あ る一 定 の 長 さ に 達 す る と次 々 に 成 長 を 停 止 す る こ とが 考 え られ る 。 こ の場 合,還 元 反 応 の 律 速 段 階 は,一 次 元 成 長 す る 双 晶 核 の 生 成 過 程 と い う こ と に な る 。 そ れ 故,CTABは そ の よ う な 核 を 形 成 す る と同 時 に,吸 着 を 通 じて 形 態 制 御 に も寄 与 して い る 可 能 性 を 伺 わ せ る。 と こ ろ で,棒 状 粒 子 の 主 軸 の方 位 が 〈100〉 とす る と,そ れ に平 行 な 双 晶 面 は{100}面 や{110}面 等 ま で 含 む{hk0}面 と 言 う こ と に な る。 しか し,{100} 面 や{110}面 は 面 心 立 方 晶 で は 対 称 面 な の で,双 晶 面 とは な り得 な い 。 よ って,こ の 主 軸 の 同 定 が 正 し い 限 り,非 対 称 面 で 面 指 数{hk0}を 満 足 す る他 の 面 を 考 え る必 要 が あ る。 この よ う に 棒 状 金 粒 子 の 生 成 機 構 に 関 して は,こ の 度 提 案 し た 双 晶 説 に して も,最 終 的 な結 論 を 下 す に は 更 な る証 拠 の 積 み 重 ね が必 要 で あ る。 そ れ に は,今 後 も あ ら ゆ る可 能 性 を 視 野 に 入 れ な が ら,双 晶 面 の 有 無 の 検 証 や 同 定,CTAB濃 度 を 臨 界 ミセ ル 濃 度(CMC) や 高 次 構 造 形 成 濃 度 を 挟 ん で 変 化 させ た 場 合 の 粒 子 形 状 との 相 関 性 の 観 察 棒 状 ミセ ル を 作 る範 囲 でCTAB の ア ニ オ ン種 や カ チ オ ン種 を そ れ ぞ れ 変 え た 場 合 の テ ス ト,棒 状 ミセ ル を 作 らな い 同 種 の 界 面 活 性 剤 に よ る 棒 状 粒 子 合 成 の 試 み,種 晶 の 構 造 解 析,種 晶 とCTAB の 間 の 相 互 作 用 解 析 等 を 行 え ば 自ず と明 らか と な る で あ ろ う 。 金 の 種 粒 子 と ア ス コ ル ビ ン酸 を 用 い るJanaら の 方 法 を 用 い,種 粒 子 を 金 か ら 銀 に変 え,塩 化 金 酸 を 硝 酸 銀 に 変 え る こ と に よ り,や は り等 方 形 や 板 状 の も の に 混 じ って 棒 状 の 銀 粒 子 が 得 ら れ る こ と が 報 告 さ れ て い る54,55)。お そ ら く,形 態 制 御 の 観 点 で は 金 粒 子 の 場 合 と 同 様 の 機 構 が 働 い て い る もの と 思 わ れ る 。 一 方,Huら56)は ク エ ン酸 を 還 元 剤 に 用 い,ド デ シル ス ル フ ォ ン酸 ナ ト リウ ム(SDSN)を 吸 着 剤 に 用 い て 棒 状 あ る い は ワ イ ヤ ー状 の 銀 粒 子 を得 て い る 。 こ の 系 の SDSNの 濃 度 は 臨 界 ミセ ル 濃 度 以 下 で あ る た め ミセ ル