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小学校社会科における主権者教育の原理と方法に関する研究

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小学校社会科における主権者教育の原理と方法に関する研究

― 地域社会の伝統や文化の保護・継承を扱う単元の開発を通して ―

桑原 敏典 ・ 山田 凪紗 *

 本研究は,主権者育成を目指した小学校社会科の原理と方法を解明し,単元開発を通して それを具体的に提案しようとするものである。18 歳に選挙権年齢が引き下げられて以降,

主権者教育が注目されるようになったが,一般的には主権者教育は中等教育段階のものと考 えられ,小学校における取組事例は多くはない。しかし,主権者教育は選挙の際の投票行動 を促すことを目標とするものではない。主権者として必要な社会認識を形成し,主権者とし て必要な政治的判断力を養うとともに,主権者としての自覚や態度,さらには主権者として 行動するためのスキルを身に着けさせるものである。それらは,初等教育段階から体系的・

継続的に育成する必要がある。本研究では,主権者教育の原理に関する先行研究や,小学校 主権者教育のために開発された実践等の分析を通して,小学校主権者教育の原理と方法を解 明し,社会科の学習として位置づけられる単元の開発を通してそれらを具体的に提案するも のである。

Keywords:主権者教育,小学校社会科,単元開発,伝統や文化

Ⅰ.はじめに―問題の所在―

 本研究は,主権者育成を目指した小学校社会科の 原理と方法を解明し,単元開発を通して具体的にそ れを提案しようとするものである。18 歳に選挙権 年齢が引き下げられて以降,主権者教育が注目され るようになったが,一般的には主権者教育は中等教 育段階のものと考えられ,小学校における取組事例 は多くはない。そこで,本研究では,小学校社会科 に焦点をあて,それを通していかに主権者育成を展 開するかについて検討する。

 主権者教育は選挙の際の投票行動を促すことを目 標とするものではない。主権者として必要な社会認 識を形成し,主権者として必要な政治的判断力を養 うとともに,主権者としての自覚や態度,さらには 主権者として行動するためのスキルを身に着けさせ

るものである。いわゆる,「選挙に行こう!」をスロー ガンに掲げるような,極めて狭義に捉えた主権者教 育ではなく,子供たちが将来,主権者として活躍す ることができるようになるために必要な力を育成す ることを目指した教育は,長期間の継続的で体系的 な指導が必要である。本研究で小学校段階からの主 権者教育を対象とするのは,このような問題意識に 基づいているからである。

 小学校段階における主権者教育を対象とする先行 研究は多くはない。しかし,それらは,中等教育段 階のものとは異なる特徴を持っている。つまり,そ れらは小学生という発達段階を考慮して,何につい てどこまで期待することができるかを検討したもの になっているという特徴を持つ。中等教育段階の主 権者教育が,理想的な主権者像を掲げ,そこから子 岡山大学大学院教育学研究科 社会・言語教育学系 700−8530 岡山市北区津島中3−1−1

*岡山大学大学院社会文化科学研究科 700−8530 岡山市北区津島中3−1−1

A Study on Principles and Methods of Citizenship Education in Elementary School Social Studies: Through the Development of a Teaching Plan Dealing with the Protection and Inheritance of the Traditions and Culture of Local Communities

Toshinori KUWABARA and Nagisa YAMADA*

Division of Social Studies and Language Education, Graduate School of Education, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700-8530

*Graduate School of Humanities and Social Sciences, Okayama University, 3-1-1 Tsushima-naka, Kita-ku, Okayama 700- 8530

(2)

供に身に着けることを期待する能力を導き出してい るのに対して,小学校段階では,子供たちの実態が 優先されていると言ってもいいだろう。小学校段階 の主権者教育に関する研究成果を検討するうえで は,それぞれの研究において子供の実態がどのよう に捉えられており,それに基づいて目標がいかに設 定されているかということが重要になるのである。

 先行研究の検討を行ったうえで,本研究では,小 学校社会における主権者教育の原理と方法を,これ までの研究成果を応用しながら提案する。さらに,

そのような原理に基づいて授業を開発し,実践する ための方法を明らかにする。

 以上のような手順により,本研究では,主権者教 育の原理に関する先行研究や,小学校主権者教育の ために開発された実践等の分析を行ったうえで,中 学年の地域社会の伝統や文化の保護・継承を扱った 社会科の単元において,主権者教育としての授業計 画を提案する。

Ⅱ.小学校主権者教育研究の検討

 小学校の主権者教育に関する先行研究は多くはな いが,先にも述べたように,子供の発達段階をふま えて,何をどこまで指導できるかを検討している点 について多くの示唆を与えてくれる。それらを類型 化すると,以下のようになる。

主権者としての態度育成を目指したもの

主権者としての認識形成を目指したもの

主権者としての能力育成を目指したもの

 態度育成を目指したものは,主権者としての自覚 や態度の育成に重点を置いたもので,共同体の一員 としてふさわしい態度の育成を目指すものや,政治 や社会に積極的に関わろうとする意欲の育成を目指 したものがある。認識形成を目指したものは,政治 の仕組みやシステムの理解に重点を置いたもので,

一般的な社会科との違いが一見分かりにくいが,主 権者として期待される態度形成と一体となっている 点に特徴がある。能力育成を目指したものは,主権 者として特に期待される価値的判断力や政治的判断 力の育成を重視したものである。

1.態度育成を目指した小学校主権者教育の検討  態度育成を目指した小学校主権者教育の事例とし ては,今村(2018)や,松野ら(2018)の研究成果 がある1)。今村は道徳科で,松野らは社会科で実践 をしている。

(1)小学校道徳科における主権者教育

 今村は,第3学年と第5学年の授業を開発してい る。実践の概要は以下の通りである。

[第3学年道徳科「ぶらんこ復活」](1時間)

①目標

・約束や社会のきまりを守り,公徳心をもとうとす る態度を養う。(道徳科としての目標)

・よりよい社会を求めて,よりよい生活を求めて,

自分たちでできることを考え,進んで行おうとす る態度を養う。(法教育・主権者教育としての目標)

②授業の展開

(導入)

・ぶらんこ遊びでの経験を話す。ぶらんこ遊びがで きなくなったことに共感できるようにする。

(展開1)

・ぶらんこにどうしても乗りたくても乗れないの で,校長先生にお願いしためぐみさんの気持ちを 考える。

(展開2)

・校長先生の気持ちを考えるとともに,ぶらんこ遊 びでけがをした理由を考え,それを防ぐためにど のようなきまりが必要かを考える。

(展開3)

・自分たちが作ったきまりを確認し,それらが安心・

安全のものであることを理解する。

(終結)

・きまりを作ってぶらんこ遊びができるように働き かけためぐみさんや,子供たちに考えさせてぶら んこ遊びをできるようにした校長先生のような人 がいたおかげで,今もぶらんこ遊びができること を理解する。

 この授業は,ぶらんこ遊びが,けが人が出たため に中止になったことを問題視して,けが人が出ない ように遊び方の決まりを作り,ぶらんこ遊びを復活 させためぐみさんの活躍と,それを受け入れてぶら んこ遊びをできるようにした校長先生の姿を学ぶこ とが中心となっている。きまりを作り守ることの大 切さを理解したうえで,めぐみさんや校長先生のよ うな行動ができるようになることを目標とした授業 である。

[第5学年道徳科「ぶらんこ復活」](1時間)

①目標

・きまりを作るときに込められた思いを考えること を通して,きまりの意義について理解し,進んで それを守る態度を育てる。

②授業の展開

(導入)

・事前アンケートから,きまりについての子供たち の考え方を明らかにする。

(3)

・きまりを守ろうと思っても守れない時はどんな時 か考える。

・そのうえで,きまりは何のために作られているの かを考えるという本時のねらいを確認する。

(展開)

・資料によって示されたぶらんこ復活のために活躍 しためぐみさんと,それを受け入れた校長先生の 話を理解する。

・資料の話をふまえて,同じ状況で自分が校長先生 からきまりを考えてほしいと頼まれたら,何を大 切にして,どのようなきまりを作るかを考える。

・資料の話の中で実際に作られたきまりを見て,き まりの持つ意味を考える。低学年を優先したきま りについて,平等性という観点から検討する。

(終結)

・資料で取り上げられた小学校において,その後 10 年間もきまりが守られ続けていることを理解 する。

 この授業も,第3学年で用いた資料と同じものを 活用する。第3学年が,登場した人物に共感し,そ の人物のような態度や行動ができるようになること を目指すのに対して,第5学年では,人物の置かれ た状況や,作られたきまりそのものに重点を置き,

どのような状況できまりが作られるようになったの か,作られたきまりは,状況をふまえてどのような 視点から考えられたものであったかを理解させる。

そのうえで,皆が納得し,守ろうとするきまりはど のようなものでなければならないかを考えさせる授 業になっている。

(2)小学校社会科における主権者教育

 松野らは,市長を選ぶ模擬選挙を組み込んだ授業 を行った。その概要は以下の通りである。

[第6学年社会科「広島市長を選ぶ」](1時間)

①目標

・空き地の利用方法を集団で決定する過程を通し て,一人ひとりの考えや決定が大切なことに気付 き,これによって主権者意識の基礎を養う。

②授業の展開

(導入)

・空き地に作るとよい施設に関する事前アンケート の結果を確認し,演説を聞いてどれが一番必要な ものかを決めるというめあてを確認する。

(展開)

・市長候補となる代表児童の演説を聞く。

・演説を聞き,各自で,自分はどの施設を作りたい

かを考える。

・グループでどの施設を作りたいかについて話し合 う。候補者となった児童は,グループを回って自 分の主張を述べる。

・班ごとに話し合いの内容を報告する。

・投票し,開票する。

(終結)

・集団で物事を決定する過程が大切であることを教 師の説明によって理解する。

・授業後のワークシートを記入する。

 この授業では,空き地に作る施設の決定という政 策課題について,異なる候補者の考えを聞いたうえ で,自分なりの決定をし,その決定をふまえて投票 をさせる。実際に物事を集団で決める過程を体験す ることを通して,皆で話し合うことや,一人ひとり が社会に参加することの大切さを実感させることを ねらいとしている。原理や概念の理解よりも,体験 を通して実感的に理解することで,話し合いや投票 といった活動への参加を促している点が特徴であ る。

2.認識形成を目指した小学校主権者教育の検討  科学的な社会認識の形成に重点を置いた小学校主 権者教育の事例としては,神野(2018)の成果を検 討する2)

[第6学年社会科「安全な暮らしを守る 歩車分離 式信号ができるまで」](全6時間)

①目標

・地域の交差点の安全について関心をもち,社会問 題を解決していこうとする意欲をもつ。

・市民の納めた税金が,信号機や交差点が設置され る過程において,どのように使用されているか政 治制度をふまえながら理解することができる。

・公正や公平,効率や正義といった社会的・政治的 な価値を用いながら,税金を地域安全のために,

どのように効果的に再分配するべきかを選択した り判断したりすることができる。

②単元の展開

(第1次)

・交差点が新しくなった背景に,交通事故があるこ とを理解する。

・誰の要望により,新しくなったかを確認する。

・なぜ,歩車分離交差点に変更されたのかという問 題を確認する。

(第2次)

・請願書や署名用紙などの資料から,設置までにど 供に身に着けることを期待する能力を導き出してい

るのに対して,小学校段階では,子供たちの実態が 優先されていると言ってもいいだろう。小学校段階 の主権者教育に関する研究成果を検討するうえで は,それぞれの研究において子供の実態がどのよう に捉えられており,それに基づいて目標がいかに設 定されているかということが重要になるのである。

 先行研究の検討を行ったうえで,本研究では,小 学校社会における主権者教育の原理と方法を,これ までの研究成果を応用しながら提案する。さらに,

そのような原理に基づいて授業を開発し,実践する ための方法を明らかにする。

 以上のような手順により,本研究では,主権者教 育の原理に関する先行研究や,小学校主権者教育の ために開発された実践等の分析を行ったうえで,中 学年の地域社会の伝統や文化の保護・継承を扱った 社会科の単元において,主権者教育としての授業計 画を提案する。

Ⅱ.小学校主権者教育研究の検討

 小学校の主権者教育に関する先行研究は多くはな いが,先にも述べたように,子供の発達段階をふま えて,何をどこまで指導できるかを検討している点 について多くの示唆を与えてくれる。それらを類型 化すると,以下のようになる。

主権者としての態度育成を目指したもの

主権者としての認識形成を目指したもの

主権者としての能力育成を目指したもの

 態度育成を目指したものは,主権者としての自覚 や態度の育成に重点を置いたもので,共同体の一員 としてふさわしい態度の育成を目指すものや,政治 や社会に積極的に関わろうとする意欲の育成を目指 したものがある。認識形成を目指したものは,政治 の仕組みやシステムの理解に重点を置いたもので,

一般的な社会科との違いが一見分かりにくいが,主 権者として期待される態度形成と一体となっている 点に特徴がある。能力育成を目指したものは,主権 者として特に期待される価値的判断力や政治的判断 力の育成を重視したものである。

1.態度育成を目指した小学校主権者教育の検討  態度育成を目指した小学校主権者教育の事例とし ては,今村(2018)や,松野ら(2018)の研究成果 がある1)。今村は道徳科で,松野らは社会科で実践 をしている。

(1)小学校道徳科における主権者教育

 今村は,第3学年と第5学年の授業を開発してい る。実践の概要は以下の通りである。

[第3学年道徳科「ぶらんこ復活」](1時間)

①目標

・約束や社会のきまりを守り,公徳心をもとうとす る態度を養う。(道徳科としての目標)

・よりよい社会を求めて,よりよい生活を求めて,

自分たちでできることを考え,進んで行おうとす る態度を養う。(法教育・主権者教育としての目標)

②授業の展開

(導入)

・ぶらんこ遊びでの経験を話す。ぶらんこ遊びがで きなくなったことに共感できるようにする。

(展開1)

・ぶらんこにどうしても乗りたくても乗れないの で,校長先生にお願いしためぐみさんの気持ちを 考える。

(展開2)

・校長先生の気持ちを考えるとともに,ぶらんこ遊 びでけがをした理由を考え,それを防ぐためにど のようなきまりが必要かを考える。

(展開3)

・自分たちが作ったきまりを確認し,それらが安心・

安全のものであることを理解する。

(終結)

・きまりを作ってぶらんこ遊びができるように働き かけためぐみさんや,子供たちに考えさせてぶら んこ遊びをできるようにした校長先生のような人 がいたおかげで,今もぶらんこ遊びができること を理解する。

 この授業は,ぶらんこ遊びが,けが人が出たため に中止になったことを問題視して,けが人が出ない ように遊び方の決まりを作り,ぶらんこ遊びを復活 させためぐみさんの活躍と,それを受け入れてぶら んこ遊びをできるようにした校長先生の姿を学ぶこ とが中心となっている。きまりを作り守ることの大 切さを理解したうえで,めぐみさんや校長先生のよ うな行動ができるようになることを目標とした授業 である。

[第5学年道徳科「ぶらんこ復活」](1時間)

①目標

・きまりを作るときに込められた思いを考えること を通して,きまりの意義について理解し,進んで それを守る態度を育てる。

②授業の展開

(導入)

・事前アンケートから,きまりについての子供たち の考え方を明らかにする。

(4)

のような話し合いがなされたかを確認する。

・交差点改修に対する賛成派の意見と反対派の意見 を比べる。

・それぞれの主張の理由やその主張通りの決定がな された際の影響について調べる。

(第3次)

・模擬選挙を行う。

・結果をふまえて,多数派が重視したことは何かを 考える。

・自分たちが政治に関わることができる範囲や対象 を理解したうえで,期待されている役割を把握す る。

 この授業では,実際の政治的決定がなされる過程 を事実に基づいて理解したうえで,問題について模 擬選挙を行い,社会問題を解決するための判断や決 定に関わることの重要性を認識させようとしてい る。前節で説明した態度育成を目指した主権者教育 と共通する部分が多く,最終的なねらいは類似して いるものの,交通事故によって交差点の改修が行わ れたという事実を取り上げている点に違いがある。

事実について詳しく理解させることを通して,政治 の仕組みと,その仕組みの中で選挙がどのような役 割を果たしているかを捉えさせようとしているので ある。

3.能力育成を目指した小学校主権者教育の検討  能力育成を目指した小学校主権者教育では,主権 者として必要な政治的な判断ができるようになるこ とが目指される。その事例としては,菊池(2018)や,

岡田(2019)の成果がある3)

菊池の実践の概要は以下の通りである。

[第3学年社会科「金沢市の様子」]

①目標

・自分たちの住んでいる金沢市の様子について,特 色ある地形,土地利用の様子,主な公共施設など の場所と働き,交通の様子,古くから残る建造物 の場所と様子などを理解する。

・金沢市の様子を,絵地図や白地図などにまとめる とともに,場所による様子の違いや金沢市の特色 やよさを考え,キャッチフレーズに適切に表現す る。

・金沢市の社会的課題について,模擬議会を通じて 解決策を考え,政治的な課題解決の必要性と課題 について理解する。

②単元の展開(全13時間)

(第1次)

・金沢市全体でも地域によって違いがあるかという 問題に関心を持つ。

・地形図を見たり,実際にバスに乗ってみたりして 問題について調べる。

・調査した結果からわかることをまとめる。

・特徴のある場所ごとにまとめてキャッチフレーズ を作る。

(第2次)

・地域によって困っていることを確認する。

・困っていることを誰が解決すればよいか考える。

・市長が決めるべきかどうかを考える。

(第3次)

・模擬議会を行う。

・どの課題から優先して解決すべきか,どんな解決 方法があるかを考える。

・実際に金沢市ではどのように問題を解決している かを確認する。

・自分たちが話し合ったことと,実際に行われてい る解決策を比較して気づいたことをまとめる。

 菊池の実践は,政治的判断力の育成を目指したも のである。その育成方法は,問題の解決策について 話し合い,その話し合いの結果と実際の解決策を比 較して,自分たちの判断が妥当であったかどうかを 吟味するというものである。菊池は,「社会的課題 解決のための政治による解決方法の必要性について 実感を伴って認識できるような体験的活動が政治的 判断力育成に含まれる」と述べている4)。すなわち,

政治的判断の必要性の実感が,判断力自体の基盤と して必要であるということである。

 また,岡田の実践の概要は以下の通りである。

[第5学年社会科「川内原発の再稼働について考え よう」]

①目標

・川内原子力発電所の再稼働の賛成・反対について,

3つの「判断の規準」について優先順位を決めて 討論を行い,最終的な自分の考えを意見文に書く ことができる。

②単元の展開(全11時間)

(第1次)

・全国の火山の噴火予知や登山者への安全対策,政 府や都道府県・市町村の自然災害対策について調 べ,どのような課題があるのか,全体を俯瞰する。

(第2次)

・全国にある原子力発電所には火山噴火や巨大カル デラ爆発などの脅威があることを知った上で,特 に薩摩川内市の川内原発の再稼働をめぐる論争

(5)

点,背景について「判断の規準」をもって考えを まとめる。

・「判断の規準」をもとに,対話・討議を行い反論 を得てそれへの反駁をする。

(第3次)

・判断の規準1~3について,それぞれに対する自 分の考えを書き,対立する考えと積極的に妥協で きる案の有無を話し合う。

 第3次で示されている判断規準1~3は以下の通 りである。

規準1:原発立地市町村市民の声,それ以外の市町 村・国民の声,どちらを優先的に聞くのか(公正)

規準2:原発の火山噴火対策は十分か

規準3:火山爆発(原発事故の複合災害も含めて)

時の住民の避難計画は十分か

 このように,岡田の実践は,原発再稼働に関する 政治的判断を行う活動を通して,子供自身の判断力 の基盤となる価値規準を形成しようとするものであ る。その価値規準とは,公正さにかかわるものであ り,日本国民全体の意見に基づいて判断することが 公正なのか,地元の薩摩川内市民の意見を優先する ことが公正なのかである。この二つの規準の間で,

子供の判断は揺れ動く。そのうえで,再稼働に賛成 か,反対かの決断を行わせる。高学年で行われるだ けあって,価値観の形成に関わろうとする実践に なっている。

 以上のような小学校主権者教育の検討をふまえる と,以下の3点を指摘することができる。

①中学年においては,共感的理解や体験に基づいて,

主権者としての態度や自覚と育てることに重点が置 かれている。

②高学年になり,自主的自立的な判断が可能になる と価値的判断や意思決定が学習に取り入れられる。

③高学年の主権者教育においては,価値的判断や意 思決定を取り入れた学習を通して,より科学的な認 識形成を図るものと,価値観の形成を図るものがあ る。

 ①は,今村や菊池の研究成果から導きだされる結 論である。また,②は,松野,神野,岡田らの研究 成果に共通している点である。そして,神野や岡田 の研究をふまえると③の傾向を指摘することができ る。このように,発達段階に応じて目指すところが 異なってくることが,小学校段階の主権者教育の特 質であると言えるだろう。

Ⅲ.小学校社会科における主権者教育の原理と方法 1.小中高一貫有権者教育のカリキュラム・フレー

ムワーク

 小学校社会科における主権者教育の原理として,

まず,取り上げたいのが,筆者である桑原がかつて 提案した小中高一貫有権者教育のカリキュラム・フ レームワークである。筆者は,政治認識変容調査の 結果に基づいて,図1のようなカリキュラム・フレー ムワークを示した5)。このカリキュラム・フレーム ワークについては,次のように説明している。

   図においては,カリキュラムを習得すべき概 念と取り上げるべき事象に分けて構想した。概 念については,基礎的で単純なものから,複雑 なものへ,そして,それらが結びついたより複 雑な概念というように配置している。特に概念 の結びつきを考える際には,概念の意味を目的 と機能に分けて捉えさせるようにした。例えば,

選挙という概念であれば,その目的は政治的な 決定の際の公正さの確保ということになる。一 方で選挙の機能は,多数派の考えを政治に反映 することと,多様な選択肢がある中で人びとの 意思をまとめ上げること,すなわち意思決定あ るいは代表者を決定することである。概念の配 置にあたっては,目的や機能といった概念の意 味をそれぞれ理解させたうえで,それらを結び 付けより複雑なものとして把握できるような配 慮が必要となる。

   また,概念を習得させるために取り上げる事 象は,学校段階が上がるにつれて,日常的なも のから,地方や国の政治に関わり立場や見方が

図1 小中高一貫有権者教育のカリキュラム・フレームワーク6)

のような話し合いがなされたかを確認する。

・交差点改修に対する賛成派の意見と反対派の意見 を比べる。

・それぞれの主張の理由やその主張通りの決定がな された際の影響について調べる。

(第3次)

・模擬選挙を行う。

・結果をふまえて,多数派が重視したことは何かを 考える。

・自分たちが政治に関わることができる範囲や対象 を理解したうえで,期待されている役割を把握す る。

 この授業では,実際の政治的決定がなされる過程 を事実に基づいて理解したうえで,問題について模 擬選挙を行い,社会問題を解決するための判断や決 定に関わることの重要性を認識させようとしてい る。前節で説明した態度育成を目指した主権者教育 と共通する部分が多く,最終的なねらいは類似して いるものの,交通事故によって交差点の改修が行わ れたという事実を取り上げている点に違いがある。

事実について詳しく理解させることを通して,政治 の仕組みと,その仕組みの中で選挙がどのような役 割を果たしているかを捉えさせようとしているので ある。

3.能力育成を目指した小学校主権者教育の検討  能力育成を目指した小学校主権者教育では,主権 者として必要な政治的な判断ができるようになるこ とが目指される。その事例としては,菊池(2018)や,

岡田(2019)の成果がある3)

菊池の実践の概要は以下の通りである。

[第3学年社会科「金沢市の様子」]

①目標

・自分たちの住んでいる金沢市の様子について,特 色ある地形,土地利用の様子,主な公共施設など の場所と働き,交通の様子,古くから残る建造物 の場所と様子などを理解する。

・金沢市の様子を,絵地図や白地図などにまとめる とともに,場所による様子の違いや金沢市の特色 やよさを考え,キャッチフレーズに適切に表現す る。

・金沢市の社会的課題について,模擬議会を通じて 解決策を考え,政治的な課題解決の必要性と課題 について理解する。

②単元の展開(全13時間)

(第1次)

・金沢市全体でも地域によって違いがあるかという 問題に関心を持つ。

・地形図を見たり,実際にバスに乗ってみたりして 問題について調べる。

・調査した結果からわかることをまとめる。

・特徴のある場所ごとにまとめてキャッチフレーズ を作る。

(第2次)

・地域によって困っていることを確認する。

・困っていることを誰が解決すればよいか考える。

・市長が決めるべきかどうかを考える。

(第3次)

・模擬議会を行う。

・どの課題から優先して解決すべきか,どんな解決 方法があるかを考える。

・実際に金沢市ではどのように問題を解決している かを確認する。

・自分たちが話し合ったことと,実際に行われてい る解決策を比較して気づいたことをまとめる。

 菊池の実践は,政治的判断力の育成を目指したも のである。その育成方法は,問題の解決策について 話し合い,その話し合いの結果と実際の解決策を比 較して,自分たちの判断が妥当であったかどうかを 吟味するというものである。菊池は,「社会的課題 解決のための政治による解決方法の必要性について 実感を伴って認識できるような体験的活動が政治的 判断力育成に含まれる」と述べている4)。すなわち,

政治的判断の必要性の実感が,判断力自体の基盤と して必要であるということである。

 また,岡田の実践の概要は以下の通りである。

[第5学年社会科「川内原発の再稼働について考え よう」]

①目標

・川内原子力発電所の再稼働の賛成・反対について,

3つの「判断の規準」について優先順位を決めて 討論を行い,最終的な自分の考えを意見文に書く ことができる。

②単元の展開(全11時間)

(第1次)

・全国の火山の噴火予知や登山者への安全対策,政 府や都道府県・市町村の自然災害対策について調 べ,どのような課題があるのか,全体を俯瞰する。

(第2次)

・全国にある原子力発電所には火山噴火や巨大カル デラ爆発などの脅威があることを知った上で,特 に薩摩川内市の川内原発の再稼働をめぐる論争

(6)

違えば異なる判断が可能な事象へと展開してい く。先にも述べたように,この枠組みは暫定的 なものに過ぎない。児童の実態に合わせて柔軟 に対応し,彼らの日常生活の状況等をふまえた 学習内容の系統的な配置が求められる7)。  以上のようなカリキュラム・フレームワークに基 づくならば,小学校段階の主権者教育は,単純な概 念から複雑な概念の習得が目指されることになり,

そのために,単純で日常的な現象を中心にしながら も,国や地方の政治に関連した政治的な現象も取り あげて学習が展開されることになる。

 筆者は,このカリキュラム・フレームワークに基 づいて,中学年と高学年を対象とする二つの授業を 提案した。

 中学年を対象とする授業の概要は,以下の通りで ある8)

[小学校中学年社会科の授業の展開]

(導入)多様な決めた方の確認

・次のような場面で,誰か一人を選ばなければなら ない時,これまでどのような方法で選んできまし たか。また,それはなぜですか。

 ア.生活班のリーダー  イ.掃除の班長

 ウ.スポーツ大会のチームのキャプテン  エ.鬼ごっこの鬼

 オ.クラスの委員長

(展開1)公平な代表の決め方の条件の理解

・誰かを選ばなければならない時,大切なことは何 でしょうか。

・①から⑤のうち,くじやじゃんけんで決めてもよ いと思うものはどれですか。それは,なぜですか。

・くじやじゃんけんは,他のどのような場面で使い ますか。なぜ,くじやじゃんけんで決めるのでしょ うか。

・くじやじゃんけんで決められないと思ったものに ついては,どのような方法で決めればよいと思い ますか。

・くじやじゃんけん,話し合いや選挙などの方法は,

何かを決める際に用いられるのでしょうか。

(展開2)公平な代表の決め方の仕組みの理解

・リーダーや委員長については,先生が選んで決め た方がふさわしい人にお願いすることができるか もしれません。先生が決めるのと,自分たちが選 挙で選ぶのとどちらがよいと思いますか。それぞ れの良い点,悪い点を挙げたうえでこのクラスで は,どうすべきかを決めましょう。

(終結)選挙の意味の確認

・社会では,自分たちの代表を選ぶとき選挙で選ぶ ことが多い。その理由ななぜでしょうか。

 また,高学年を対象とする授業の概要は,以下の 通りである9)

[小学校高学年社会科の授業の展開]

(導入)選挙の役割の確認

・自分たちが病院に行って診てもらった時,どれく らいお金を払っているか知っていますか。

・近隣の市の中には,小学生は病院にかかっても無 料のところがあります。知っていますか。また,

市によっては,中学生まで無料のところもありま す。なぜ,市によって仕組みが違っているのでしょ うか。

・私たちが住む市においても,子どもの医療費を無 料にすべきでしょうか。

・子どもの医療費の無料化は,どのようにして決定 すればよいでしょうか。

(展開)政治的意思決定という選挙の役割の理解

・近隣の市では,どのようにして医療費が無料化さ れたのでしょうか。

・無料化は誰の手によって提案され,進められたの でしょうか。

・子どもの医療費の無料化に取り組んでいるところ と,そうでないところがあるのはなぜでしょうか。

それを進めるうえでどのような問題があります か。

・自分たちの市で,現時点では医療費が無料化され ていないのはなぜだと思いますか。もし,無料化 するならば,どのような問題を解決しなければな りませんか。

・私たちの市においても,小学生の医療費の無料化 は必要でしょうか。様々な立場から考えてみま しょう。

・私たちの市においても,医療費の無料化を進める かどうかを争点に,市長選挙が行われたと仮定し,

皆さんの手で市長を選びましょう。

・一回目の模擬投票:先にあげたアからオのいずれ かの立場を選択して,投票しましょう。投票の際 には,どの立場を選んだかを記してください。 

・二回目の模擬投票:一回目とは異なる立場を選択 して,同じように投票しましょう。

・投票の結果を比較して,分かることは何でしょう か。

・選挙は,社会の仕組みや制度を決定するうえでど のような役割を果たしていると言えますか。

(終結)選挙における政治的意思決定の意味の理解

(7)

・選挙で当選した候補者は,支持をしてくれた人々 のために約束したことを実現しようとします。当 選した人として,どのような態度が望ましいと思 いますか。

・首長や議員など選挙で選ばれた人が政治を行うう えで心がけるべきことは何でしょう。

 このように,提案したカリキュラム・フレームワー クに基づくならば,複数の概念を活用して政治的な 判断を行うことができるようになることが,小学校 段階における主権者育成が最終的に目指すことにな る。

2.主権者教育で育成すべき学力

 桑原は,カリキュラム・フレームワークを提案し た後に,主権者教育で育成すべき学力を段階的に示 した10)。それが,図2である。図2について,桑原 は,以下のように解説している。

   

STEP

1 は,基本的な知識を活用しながら獲 得していくことを目指した授業である。この授 業における基本的な知識とは,個別的知識であ る事実を捉え,それらを結びつけて事象や出来 事の原因や理由を説明するために必要な一般的 な知識,すなわち見方・考え方である。…(中 略)…。

   

STEP

2 は,見方・考え方を用いて,なぜそ のような問題が生じたのか,その問題はどのよ うな結果や影響をもたらすかを推論したうえ で,自分自身の価値観に基づいて問題の解決方 法や対処法に関する意思決定できるようになる ことを目指すものである。…(中略)…意思決 定力を育てる授業では,意思決定をすること自 体が目標なのではない。意思決定を通して,意 思決定のために必要な資質を身に付けることが 重要である。その資質とは,異なる他者の意見 をふまえて自らの決定やその根拠となっている 価値観を見直し,よりよい決定ができるように なるための資質である。…(中略)…

   

STEP

3 は,基本的には

STEP

2 の授業と同じ 原理に基づき,思考・判断や意思決定を求めて いくものである。

STEP

2との違いは,模擬選挙,

模擬請願,模擬議会など,現実の社会により近 い活動を積極的に取り入れた学習方法を取り入 れていることである。…(中略)…

   

STEP

4 は,

STEP

3 の授業を社会との連携に 基づいて行おうとするものである。…(中略)

…これらの連携を通して,生徒は地域の人々や 団体と直接触れ合い,自分とのつながりを実感 することができる。そのようなつながりは,生 徒に自らが社会と関わり,参画していくことの 図2 主権者教育で育成すべき学力と学習方法11

違えば異なる判断が可能な事象へと展開してい く。先にも述べたように,この枠組みは暫定的 なものに過ぎない。児童の実態に合わせて柔軟 に対応し,彼らの日常生活の状況等をふまえた 学習内容の系統的な配置が求められる7)。  以上のようなカリキュラム・フレームワークに基 づくならば,小学校段階の主権者教育は,単純な概 念から複雑な概念の習得が目指されることになり,

そのために,単純で日常的な現象を中心にしながら も,国や地方の政治に関連した政治的な現象も取り あげて学習が展開されることになる。

 筆者は,このカリキュラム・フレームワークに基 づいて,中学年と高学年を対象とする二つの授業を 提案した。

 中学年を対象とする授業の概要は,以下の通りで ある8)

[小学校中学年社会科の授業の展開]

(導入)多様な決めた方の確認

・次のような場面で,誰か一人を選ばなければなら ない時,これまでどのような方法で選んできまし たか。また,それはなぜですか。

 ア.生活班のリーダー  イ.掃除の班長

 ウ.スポーツ大会のチームのキャプテン  エ.鬼ごっこの鬼

 オ.クラスの委員長

(展開1)公平な代表の決め方の条件の理解

・誰かを選ばなければならない時,大切なことは何 でしょうか。

・①から⑤のうち,くじやじゃんけんで決めてもよ いと思うものはどれですか。それは,なぜですか。

・くじやじゃんけんは,他のどのような場面で使い ますか。なぜ,くじやじゃんけんで決めるのでしょ うか。

・くじやじゃんけんで決められないと思ったものに ついては,どのような方法で決めればよいと思い ますか。

・くじやじゃんけん,話し合いや選挙などの方法は,

何かを決める際に用いられるのでしょうか。

(展開2)公平な代表の決め方の仕組みの理解

・リーダーや委員長については,先生が選んで決め た方がふさわしい人にお願いすることができるか もしれません。先生が決めるのと,自分たちが選 挙で選ぶのとどちらがよいと思いますか。それぞ れの良い点,悪い点を挙げたうえでこのクラスで は,どうすべきかを決めましょう。

(終結)選挙の意味の確認

・社会では,自分たちの代表を選ぶとき選挙で選ぶ ことが多い。その理由ななぜでしょうか。

 また,高学年を対象とする授業の概要は,以下の 通りである9)

[小学校高学年社会科の授業の展開]

(導入)選挙の役割の確認

・自分たちが病院に行って診てもらった時,どれく らいお金を払っているか知っていますか。

・近隣の市の中には,小学生は病院にかかっても無 料のところがあります。知っていますか。また,

市によっては,中学生まで無料のところもありま す。なぜ,市によって仕組みが違っているのでしょ うか。

・私たちが住む市においても,子どもの医療費を無 料にすべきでしょうか。

・子どもの医療費の無料化は,どのようにして決定 すればよいでしょうか。

(展開)政治的意思決定という選挙の役割の理解

・近隣の市では,どのようにして医療費が無料化さ れたのでしょうか。

・無料化は誰の手によって提案され,進められたの でしょうか。

・子どもの医療費の無料化に取り組んでいるところ と,そうでないところがあるのはなぜでしょうか。

それを進めるうえでどのような問題があります か。

・自分たちの市で,現時点では医療費が無料化され ていないのはなぜだと思いますか。もし,無料化 するならば,どのような問題を解決しなければな りませんか。

・私たちの市においても,小学生の医療費の無料化 は必要でしょうか。様々な立場から考えてみま しょう。

・私たちの市においても,医療費の無料化を進める かどうかを争点に,市長選挙が行われたと仮定し,

皆さんの手で市長を選びましょう。

・一回目の模擬投票:先にあげたアからオのいずれ かの立場を選択して,投票しましょう。投票の際 には,どの立場を選んだかを記してください。 

・二回目の模擬投票:一回目とは異なる立場を選択 して,同じように投票しましょう。

・投票の結果を比較して,分かることは何でしょう か。

・選挙は,社会の仕組みや制度を決定するうえでど のような役割を果たしていると言えますか。

(終結)選挙における政治的意思決定の意味の理解

(8)

大切さを実感するために必要である12)。  主権者教育がこのような4つのステップによって 構成されるとしても,これらは必ずしも小学校から 段階的に積み上げていくものとは限らない。小学校 段階で,4つのステップを完結するように主権者教 育を展開することもあれば,4つのステップをサイ クルのように繰り返すような展開もあるのではない だろうか。

Ⅳ.小学校社会科主権者教育プログラムの開発  開発した単元は,全10時間のプログラムである。

詳細は,後に資料として学習指導案を提示している。

この単元は,中学年社会科の地域社会の伝統や文化 の保護・継承に関わる内容に位置付けられる。ここ では,地域の伝統や文化を,現在の価値から世代を 超えた価値へと統合し発信を行うことを目指す主権 者教育プログラムを構想した。

 本単元は,地域の伝統的な工芸品について学習す ることを通して,山鹿灯篭の世代を超えた価値の統 合を目指し,継承案を地域の構成員の一人として発 信できる市民の育成を目指したプログラムである。

 本単元の目標は,地域の伝統工芸品である山鹿灯 篭について学ぶことを通して,山鹿灯篭の伝統や,

現在抱えている課題を自分なりに捉えるとともに,

世代を超えた価値の統合に向けて,地域の構成員の 一人として継承案を考え,その発信に向けて行動す ることができるようになることである。

 第1時では,地域の伝統工芸品である山鹿灯篭に ついて知っていることを話しあった上で,山鹿灯篭 が抱える課題にはどのようなものがあるか考えさせ る。

 第2時では,自分たちにとって山鹿灯篭はどのよ うな存在かを考える。そして,山鹿灯篭の継承が年々 難しくなっている状況を踏まえ,地域住民や灯篭師,

行政はそのことをどのように感じているのかについ て興味を持ち,外部人材との交流に繋げるようにす る。

 第3,4時では,外部人材として,地域住民や灯 篭師,行政を招いて,山鹿灯篭に対する思いや継承 に向けて取り組んでいることを聞く。その上で,山 鹿灯篭を今後どのように発信し継承していけば良い か,招いた外部人材と子どもが一緒に考える機会を 作る。

 第5時では,前時で作成した山鹿灯篭の継承案を さらにブラッシュアップさせるとともに,その案を 発信する方法をクラスで一つ決定する。決定後は,

考えた発信方法に沿って,発信に必要な準備物を考 え,次回以降の学習に繋げるようにする。なお,発

信の方法としては,地元のテレビに流せるような

CM

や観光名所や公共施設,回覧板に掲載するチラ シ・ポスターをイメージしている。

 第6,7時では,山鹿灯篭を発信するための広報 物の作成を行う。広報物はクラスで一つにまとめる が,そこに載せるものをグループごと作成する。発 信に向けては,作成した広報物をどこに配るか,ま た,どのように発信するかも併せて検討させる。

 第8,9時では,作成した広報物を使って学校内 や学校周辺でのインタビューを実施する。インタ ビューの前には,地域住民や観光客,学校内の児童 や先生などに広報物を使って,山鹿灯篭の伝統と考 えた継承案を紹介する。その後,インタビューを行 い,考えた継承案についての意見をもらうようにす る。

 第 10 時では,インタビューを通して得た意見を 地域住民や灯篭師,行政に届けるために,ゲストと して授業に参加してもらう。可能であれば,第3時・

第4時に参加いただいた方に来ていただきたい。そ れが,難しい場合は,第3,4時に参加いただいた 中の数名にいらしてもらうようにする。その後,本 単元のまとめと振り返りを行う。

 以上のように,本単元「山鹿灯篭の継承案を発信 しよう」を学習することを通して,子どもたちには 世代を超えた価値の統合に向けて,地域の構成員の 一人として継承案を考え,その発信に向けて行動す ることができるようになることが期待される。

Ⅴ.おわりに

 本研究の成果は,小学校社会科における主権者教 育の研究成果を検討したうえで,知識から行動まで 広く射程に入れた主権者教育原理に基づくプログラ ムの開発を行ったことである。若者の政治・社会へ の関心の低さは現在でもなお指摘されており,また,

選挙権年齢が 18 歳に引き下げられたことを受け,

若者にはこれまで以上に社会への参加が求められて いる。さらに,まもなく,成人年齢も 18 歳に引き 下げられることを考えると,若者の社会参加を期待 する傾向は今後さらに増していくことが考えられ る。その期待に応えるためには,早い段階から地域 問題に目を向け,自身の考えを持ち,地域へ飛び出 し,どのように向き合っていくかについて学ぶ必要 がある。

 その点から考えても,本研究で開発したプログラ ムは,社会との接点を大事にし,また,将来に渡っ て地域の未来を支える人材の育成を目指した点,さ らには,地域社会が抱える課題に対して,学校と行 政,地域住民と様々なセクターが連携・協働して取

(9)

り組む体制を構想した点が成果である。

 一方,主権者教育は,「積極的かつ公平な取り扱い」

を教育活動に取り入れるという観点からも進めてい くべきであろう13)。主権者教育特有の課題として,

「政治的中立性」が挙げられる。しかし,「中立公平」

では,生徒は自分と教師の見解を比較する機会を失 い,自分の正しさを説明する機会を失ってしまうと 考えられており,その解決策として,「積極的かつ 公平な取り扱い」が求められるとする研究が岩崎に よって紹介されている。「積極的かつ公平な取り扱 い」とは,教師は論争問題に関して自身の見解を隠 すよりもむしろ話すべきであり,批判的な対話を通 して公平な取り扱いを目指すという立場である。し かし,教師自身が自身の主義主張を言うことの難し い教育事情を加味すると,この「積極的かつ公平な 取り扱い」を教師が行うことは困難である。

 そこで,「積極的かつ公平な取り扱い」を取り入 れた授業を行うために,教師に代わり外部人材にそ の役割を担ってもらい,授業に参画してもらうとい うことが考えられる。外部人材を活用することは,

教育現場において「積極的かつ公平な取り扱い」を 行うための方法の一つであると考えられ,主権者教 育において外部人材を取り入れることの意義である と言える。

 しかし,「積極的かつ公平な取り扱い」を取り入 れることは,現実的には容易ではない。そこで本研 究では,「積極的かつ公平な取り扱い」を取り入れ る授業の導入を目指すという点からも,地域住民を 取り入れた授業を提案した。

 「積極的かつ公平な取り扱い」を取り入れた授業 を行うためには,教師に代わり外部人材にその役割 を担ってもらい,授業に参画してもらうということ が考えられる。外部人材を活用することは,教育現 場において「積極的かつ公平な取り扱い」を行うた めの方法の一つであると考えられ,主権者教育にお いて外部人材を取り入れることの意義をさらに高め ることにつながる。今後,「積極的かつ公平な取り 扱い」を取り入れた主権者教育プログラムの開発を 行い,従来の主権者教育とは異なる主権者教育のプ ログラム開発と外部人材の活用を目指したい。しか し,この考え方が学校において受け入れられるのか,

また,実現可能な内容であるのか,今後吟味する必 要がある。

(本研究は,桑原と山田が共同で企画・実施した。

第Ⅰ章,第Ⅱ章,第Ⅲ章の1は桑原が執筆し,第Ⅲ 章の2,第Ⅳ章,第Ⅴ章は山田が執筆し,学習指導 案も山田が作成した。最後に全体の調整を,桑原が

行った。また、作成した単元は、山田が令和3年1 月に岡山大学に提出した修士論文『アクティブな市 民の育成を目指した主権者教育プログラムの開発−

地域社会との連携を基盤として−』の一部を修正・

補足したものである。)

[注]

1)今村信哉「主体的に生きる子供を育てる小学校 における主権者教育―小学校道徳科「ぶらんこ復 活」の実践を通して―」『共栄大学研究論集』第 16号,2018年,

pp.

179−193.

 松野実・沖西啓子・二階堂年惠「主権者意識の基 礎を育成する小学校社会科授業の開発と実践」『広 島文化学園大学大学院教育学研究科』第4巻,

2018年,

pp.

11−26.

2)神野幸隆「「税金」に焦点をあてた小学校社会 科政治学習の授業開発」『初等教育カリキュラム 研究』第6号,初等教育カリキュラム学会,2018 年,

pp.

31−40.

3)菊池八穂子「主権者教育としての初等社会科授 業開発:第3学年「金沢市の様子」を事例に」『名 古屋学院大学論集 社会科学篇』第55巻,2018年,

pp.

131−145.

 岡田泰孝「「政治的リテラシー」を涵養する小学 校の主権者教育―「判断の規準」に基づいて論争 問題の意見文を書くパフォーマンスを通して―」

『お茶の水女子大学附属小学校 研究紀要』第 26 巻,2019年,

pp.

9−22.

 同様の岡田の研究としては,他に次のものがある。

 岡田泰孝「「政治的リテラシー」を涵養する小学 校社会科学習のあり方―時事的な問題を「判断の 規準」に基づいて論争する―」『社会科教育研究』

№ 129,日本社会科教育学会,2016 年,

pp.

14 − 27.

4)菊池前掲論文,

p.

144.

5)桑原敏典・工藤文三・棚橋健治・谷田部玲生・

小山茂喜・吉村功太郎・鴛原進・永田忠道・橋本 康弘・渡部竜也「小中高一貫有権者教育プログラ ム開発の方法(1)―「選挙」をテーマとする小 学校社会科の単元の開発を通して―」『岡山大学 教師教育開発センター紀要』第5号,2015 年,

pp.

93−100.

6)同上,

p.

94.

7)同上,

p.

95.

8)同上,

pp.

96−97.

9)同上,

pp.

97−99.

10)桑原敏典編著『高校生のための主権者教育実践 ハンドブック』明治図書,2017年。

大切さを実感するために必要である12)。  主権者教育がこのような4つのステップによって 構成されるとしても,これらは必ずしも小学校から 段階的に積み上げていくものとは限らない。小学校 段階で,4つのステップを完結するように主権者教 育を展開することもあれば,4つのステップをサイ クルのように繰り返すような展開もあるのではない だろうか。

Ⅳ.小学校社会科主権者教育プログラムの開発  開発した単元は,全10時間のプログラムである。

詳細は,後に資料として学習指導案を提示している。

この単元は,中学年社会科の地域社会の伝統や文化 の保護・継承に関わる内容に位置付けられる。ここ では,地域の伝統や文化を,現在の価値から世代を 超えた価値へと統合し発信を行うことを目指す主権 者教育プログラムを構想した。

 本単元は,地域の伝統的な工芸品について学習す ることを通して,山鹿灯篭の世代を超えた価値の統 合を目指し,継承案を地域の構成員の一人として発 信できる市民の育成を目指したプログラムである。

 本単元の目標は,地域の伝統工芸品である山鹿灯 篭について学ぶことを通して,山鹿灯篭の伝統や,

現在抱えている課題を自分なりに捉えるとともに,

世代を超えた価値の統合に向けて,地域の構成員の 一人として継承案を考え,その発信に向けて行動す ることができるようになることである。

 第1時では,地域の伝統工芸品である山鹿灯篭に ついて知っていることを話しあった上で,山鹿灯篭 が抱える課題にはどのようなものがあるか考えさせ る。

 第2時では,自分たちにとって山鹿灯篭はどのよ うな存在かを考える。そして,山鹿灯篭の継承が年々 難しくなっている状況を踏まえ,地域住民や灯篭師,

行政はそのことをどのように感じているのかについ て興味を持ち,外部人材との交流に繋げるようにす る。

 第3,4時では,外部人材として,地域住民や灯 篭師,行政を招いて,山鹿灯篭に対する思いや継承 に向けて取り組んでいることを聞く。その上で,山 鹿灯篭を今後どのように発信し継承していけば良い か,招いた外部人材と子どもが一緒に考える機会を 作る。

 第5時では,前時で作成した山鹿灯篭の継承案を さらにブラッシュアップさせるとともに,その案を 発信する方法をクラスで一つ決定する。決定後は,

考えた発信方法に沿って,発信に必要な準備物を考 え,次回以降の学習に繋げるようにする。なお,発

信の方法としては,地元のテレビに流せるような

CM

や観光名所や公共施設,回覧板に掲載するチラ シ・ポスターをイメージしている。

 第6,7時では,山鹿灯篭を発信するための広報 物の作成を行う。広報物はクラスで一つにまとめる が,そこに載せるものをグループごと作成する。発 信に向けては,作成した広報物をどこに配るか,ま た,どのように発信するかも併せて検討させる。

 第8,9時では,作成した広報物を使って学校内 や学校周辺でのインタビューを実施する。インタ ビューの前には,地域住民や観光客,学校内の児童 や先生などに広報物を使って,山鹿灯篭の伝統と考 えた継承案を紹介する。その後,インタビューを行 い,考えた継承案についての意見をもらうようにす る。

 第 10 時では,インタビューを通して得た意見を 地域住民や灯篭師,行政に届けるために,ゲストと して授業に参加してもらう。可能であれば,第3時・

第4時に参加いただいた方に来ていただきたい。そ れが,難しい場合は,第3,4時に参加いただいた 中の数名にいらしてもらうようにする。その後,本 単元のまとめと振り返りを行う。

 以上のように,本単元「山鹿灯篭の継承案を発信 しよう」を学習することを通して,子どもたちには 世代を超えた価値の統合に向けて,地域の構成員の 一人として継承案を考え,その発信に向けて行動す ることができるようになることが期待される。

Ⅴ.おわりに

 本研究の成果は,小学校社会科における主権者教 育の研究成果を検討したうえで,知識から行動まで 広く射程に入れた主権者教育原理に基づくプログラ ムの開発を行ったことである。若者の政治・社会へ の関心の低さは現在でもなお指摘されており,また,

選挙権年齢が 18 歳に引き下げられたことを受け,

若者にはこれまで以上に社会への参加が求められて いる。さらに,まもなく,成人年齢も 18 歳に引き 下げられることを考えると,若者の社会参加を期待 する傾向は今後さらに増していくことが考えられ る。その期待に応えるためには,早い段階から地域 問題に目を向け,自身の考えを持ち,地域へ飛び出 し,どのように向き合っていくかについて学ぶ必要 がある。

 その点から考えても,本研究で開発したプログラ ムは,社会との接点を大事にし,また,将来に渡っ て地域の未来を支える人材の育成を目指した点,さ らには,地域社会が抱える課題に対して,学校と行 政,地域住民と様々なセクターが連携・協働して取

(10)

11)同上,

p.

31.

12)同上,

pp.

32−33.

13)この考え方は,次の文献で論じられている。岩 崎圭佑「論争問題学習における教師の役割と立場

―近年の米国社会科教育研究の動向をふまえて

―」『社会科教育研究』№ 129,日本社会科教育 学会,2016年,

pp.

54−63.

資料 小学校社会科学習指導案 1 単元名 山鹿灯篭の継承案を発信しよう

2 単元の目標

 地域の伝統工芸品である山鹿灯篭について学ぶことを通して,山鹿灯篭の伝統や現在抱えている課題を自 分なりに捉えるとともに,世代を超えた価値の統合に向けて,地域の構成員の一人として継承案を考え,

その発信に向けて行動することができる。

3 単元計画(全10時間)

時 主な発問 主な学習内容

第1時 山鹿灯篭が抱える課 題にはどのようなも のがあるのだろうか。

・地域の伝統工芸品である山鹿灯篭について知っていることを話し合う。

・山鹿灯篭の抱えている課題について考える。

第2時

山鹿灯篭は,地域住民 や灯篭師,行政にとっ てどのような存在な のだろうか。

・自分たちにとっての山鹿灯篭を考える。

・地域住民や灯篭師さん,行政の担当者にとって,山鹿灯篭がどのような存在な のかを予想する。

・次回の授業でお招きする地域住民や灯篭師さん,行政の担当者に聞きたい内容 を考える。

第3,4時

山鹿灯篭を今後どの ように発信し,継承し ていけばいいだろう か。

・山鹿灯篭に対するそれぞれの思いを知る。

・山鹿灯篭の継承に向けた新たな取り組みを聞く。

・山鹿灯篭を今後どのように発信し,継承していけば良いかを招いた外部人材と 一緒に考える。

・他のグループから意見を貰い,課題を見つける。

第5時 山鹿灯篭の継承案を さ ら に ブ ラ ッ シ ュ アップしよう。

・発信方法をクラスで一つに決定する。

・グループごと山鹿灯篭の継承案をブラッシュアップする。

・考えた発信方法に沿って,発信に必要な準備物を考える。

第6,7時 山鹿灯篭を発信する ための広報物を作成 しよう。

・グループごと広報物に載せるものを作成する。

・広報物を配る場所や発信する場所を考える。

・グループごと作成した広報物を,クラスで一つにまとめる。

第8,9時 作 成 し た 広 報 物 を 使ってインタビュー に出掛けよう。

・地域住民や観光客,学校内の児童や先生などに広報物を使って,山鹿灯篭の伝 統と考えた継承案を紹介する。

・インタビューを行い,考えた継承案についての意見をもらう。

第10時

インタビューを通し て得た意見を地域住 民や灯篭師,行政に届 けよう。

・作成した広報物を紹介するとともに,インタビューで得た意見を地域住民や灯 篭師,行政に紹介する。

・本単元のまとめと振り返りを行う。

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