平成18年度卒業論文発表レジュメ 比較社会論コース 4年 発表日:2007年2月3日 10310355 劉 娜
未来に向けての日中国際交流の意義と課題
──富山県の事例を中心に──
1、 問題意識と目的
毛里は日中関係の構造が変化し、国民が重要なアクターとして登場してきたことを図 1 のように示している(毛里、2006;205〜206)。日中国家(本論文では政府を指す)レベ ルの国際交流について言及した文献は多く存在するが、国民レベルの国際交流に関する文 献はけっして多くない。本論文では国民レベルの交流に焦点を当て、日中国際交流の現状、
意義と課題を明らかにしたい。
中国 日本 中国 日本 政府 政府 政府 政府 経済界
経済界 経済界 経済界
世論 世論 世論 世論 1972年 2005年
図1.日中関係の重層化
出典:毛里和子『日中関係:戦後から新時代へ』岩波書房、
2006年、205〜206ページより転載。
2、調査対象と分析方法
本論文は富山県において展開された「日中国際交流」(図2を参照)の事例を中心に扱っ ている。そして、報告書の記述、交流現場でのインタビュー等からサンプルを取り、それ らの事例に共通している傾向性を見出す。
図2.調査分析の対象の範囲(点線部分) 筆者作成 日中国際交流
国家間以外の交流 国家間の交流
自治体レベルの交流 教育機関同士の交流 その他の民間交流
3、 論文の構成と要約 序論
第1章 富山県における日中自治体レベルの交流 第1節 日中地方自治体の取り組みとその内容 第2節 富山県の自治体の日中交流の現状 第3節 友好都市交流の事例
第4節 日中友好都市交流の意義と課題 第1章の内容紹介
本章では、高岡市の友好都市交流の報告書と富山県国際交流係長へのインタビュー等に 基づき、以下の分析結果が得られた。
▲ 政府関係者の交流だけにとどまり、市民が主体とした交流まで発展できていない。
▲ 日本側の人事異動が頻繁に行われており、仕事の引継ぎ作業でうまくできていないケ ースがある。
▲ 中国語を操る日本人スタッフが少ない。
▲ 民間交流の友好人士の高齢化が進んでいる。
▲ 日中双方の情報交換が足りないに加え、中国側による自国民への情報発信が市民全体 に行き届いていない状況がある。
▲ 日本の自治体の財政難などにより、友好交流予算の規模が縮小された。
第2章 富山県における日中教育機関の国際交流 第1節 日本の教育の国際化
第2節 富山県教育機関の交流の現状
第3節 富山医科薬科大学(現富山大学医学部)の事例
第4節 教育機関による日中国際交流への取り組みの意義と課題 第2章の内容紹介
本章では、富山医科薬科大学(現富山大学医学部、以下医薬大とする)の交流事例に基 づき、以下の分析結果が得られた。
▲ 交換留学の期間は半年か一年間であり、技術を習得するにしては短い。
▲ 交流協定を結ぶ教育機関が増えてきており、奨学金をもらえる確率が低く、短期留学 生の来日後の生活がきちんとサポートされていない場合がある。
▲ 中国側の協定機関に対し、共同研究のための日本側の支援が足りない。
第3章 富山県におけるその他の日中民間団体の国際交流 第1節 日中民間交流の時期分け
第2節 富山県の場合
第3節 交流団体による民間レベルの交流の事例
第4節 日中民間団体交流の意義と課題 第3章の内容紹介
本章では、「国際交流フェスティバルin富山2005」の事例と民間交流団体の代表者への インタビュー等に基づき、以下の分析結果が得られた。
▲ イベント参加者の大半は富山市民交流協会の会員であり、市民全体に広がっていない ところである。
▲ イベントに日本人の若者の参加は非常に少なかった。
▲ 昔と違って、留学生の数が急増した(資料1を参照)。中国人同士がかたまって積極的 に日本人と交流しようと思わなくなった。
結論 終わりに 参考文献一覧 資料編
4、 論文の結論
本論文は高岡市の友好都市交流、医薬大の国際交流及び「国際交流フェスティバルin富
山2005」等の事例と国際交流関係者へのインタビュー等に基づき、富山県の日中国際交流
の現状を明らかにした。そして、日中両国の友好はアジアだけではなく、世界の平和にも 影響し得ると思われ、日中市民同士の国際交流に期待したい。しかし、日中国際交流は日 中両国の国民全体に広がっていないなどの課題を抱えている。
5、残された課題
① 日本の立場から見た日中国際交流であり、中国側から見た場合にあまり触れていない。
② 富山県の事例を中心に調査したものなので、それらの事例から一般化できるかどうか。
③ 調査対象が充分に広げられなかった。(サンプルが少ない中で、分析として限界があ る。)
6、 参考文献リスト
国際交流基金編『実りある文化交流を求めて:東南アジアとの交流を考える』国際交流基 金(基金叢書;5)、1980 年
長洲一二・坂本義和=編著『自治体の国際交流──ひらかれた地方をめざして──』学陽 書房、1983 年
日野開三郎東洋史学論集『北東アジア国際交流史の研究.上―第9巻、第 10 巻―』三一書 房、1984 年
島袋邦・比嘉良充編『地域からの国際交流──アジア太平洋時代と沖縄──』研文出版、
1986 年
斉藤真、杉山恭、馬場伸也、平野健一郎編『国際関係における文化交流』財団法人日本国 際問題研究所、1990年
鈴木一郎『地域研究入門:異文化理解への道』東京大学出版会、1990 年
国際理解教育研究会、島久代・増田茂編著『教室からの国際理解──世界との共存をめざ して──』中教出版、1991年
富山県総務部学術国際課『富山県環日本海交流拠点構想』1991 年
山本節子『現代プロートコールわかりやすい国際交流マナー』ぎょうせい、1994 年 富山県総務部国際課『世界を舞台に地域の協力―富山県国際協力プラン―』1994 年 富山県統計課・富山県統計協会編『富山がわかる本』1996 年
榎田勝利監修『国際交流入門―NGO,NPO,ボランティア活動を通して考える地域の明日と地 球の未来―』アルク、1996年
国際交流基金、大阪国際交流基金共同編集『実践国際交流』大阪国際交流センター、1997 年
平野健一郎(編著)『国際文化交流の政治経済学』勁草書房、1999年
日本国自治体国際化協会北京事務所『21世紀に向けた日中(中日)友好交流のあり方研究 会報告書』2000年
富山医科歯科大学(現富山大学医学部)『中国交流協定機関若手研究者シンポジウム 1998 報告書』2000年
富山市企画管理部文化国際課『「日中友好富山市民の翼」報告書』2001 年
王成家主編『以史為鑑・世代友好──中日民間交往50年』北京:世界知識出版社、2002 年
金沢経済大学経済研究所<特定共同研究>『環日本海における経済・文化交流と歴史的環 境』2002年
財団法人とやま国際センター『富山県国際交流団体ダイレクトリー』2004年
富山県生活環境部国際・日本海政策課『とやまの国際交流 第 39 号(2005 年度版)』2005 年
高岡市『高岡市・錦州市 友好都市提携20周年記念親善交流事業 報告書』2005年 毛里和子『日中関係 戦後から新時代へ』岩波書店、2006年
国際交流基金日米センター編集・発行、(財)日本国際交流センター編集協力『姉妹都市交 流ブックレット〜あなたの町の国際交流をより元気にするために〜』2006年
7、 資料編
留学生総数
平成 17 年 5 月 1 日現在の留学生数 121,812 人 (過去最高)
(対前年度 4,510 人 (3.8%)増)
出身国(地域)別留学生数上位 5 位
中国 80,592 人 (2,879 人(3.7%)増)
韓国 15,606 人 (73 人(0.5%)増)
台湾 4,134 人 (38 人(0.9%)増)
マレーシア 2,114 人 (104 人(5.2%)増)
ベトナム 1,745 人 (175 人(11.1%)増)
留学生数の推移(各年 5 月1日現在)
(注) 外国政府派遣留学生は、マレーシア、インドネシア、タイ、シンガポール、アラブ首長国連邦、
クウェート、ウズベキスタン、ラオス、ベトナム、カンボジア、モンゴル、中国、ミャンマー、フィリピン、
バングラデシュ及び大韓民国 の各国政府派遣留学生である。
出典:独立行政法人日本学生支援機構ウェブサイトから引用
http://www.jasso.go.jp/statistics/intl̲student/data05.html 2007 年 1 月 25 日確認