博 士 ( 農 学 ) 鈴 木 昭 徳
学 位 論 文 題 名
シロイヌ ナズナ CGS1 遺伝子にみられる 転写後制御に関わる突然変異株の分離と解析
学位論文内容の要旨
mRNAの安定性による制御は迅速で厳密な制御を可能にする遺伝子発現レベルでの 制御 機構 である。制御されたmRNA分解は単なる不要なmRNAの除去ではなく、積 極的な発現制御である。移動することのできない植物では、こうした転写後制御が環 境 要 因 の 変 化 に 対 応 す る 重 要 な 手 段 の ひ と っ で あ る と 考 え ら れ る 。 CGSi遺 伝子 にコー ドさ れる シロ イヌ ナズナのシスタチオニンv一シンターゼ
(CGS)はメチオニン生合成の鍵段階を触媒する。他の多くの生合成経路の鍵段階を 触媒する酵素とは異なり、CGSはアロステリック酵素ではなく、CGSI遺伝子のmRNA がメチオニン添加に応答して不安定化することにより負のフイードバック制御を受け る。遊離メチオニンを過剰に蓄積するシロイヌナズナmめJ突然変異株は、CIGSJ遺伝 子の第1エキソンにアミノ酸の置換を伴う1塩基置換を生じており、このフイードバ ック制御に欠損を持つ。
(℃SI遺伝子の転写後制御機構のmRNAレベルでの解析を可能にする実験系を確立 することを目的として、CGSi遺伝子の第1エキソンにレポーター遺伝子をっなぎ、
カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターの制御下に置いた融合遺伝 子を導入したトランスジェニック・シロイヌナズナを作出した。作出したトランスジ エニック・シロイヌナズナは、メチオニン添加により導入遺伝子のレポーター活性が 減少するとと もに、融合遺伝子のmRNAの蓄積量も減少した。これにより、CGSヱ遺 伝子の第1エキソン領域がmRNAの安定性による制御を行うために必要十分な領域で あることが明らかになった。また、異なるレポーター遺伝子を持っトランスジェニツ ク・シロイヌナズナ同士の掛け合わせによる解析では、互いに他方のレポーター活性 に影響を与えなかったことから、第1エキソンポりペプチドがシスに働くことが遺伝 学的に明らかになった。
CG甜遺伝子における転写後制御は、少なくとも、制御のエフェクター分子の認識と mRNAの分解という2つの段階により構成される。シス領域として十数アミノ酸残基 からなる領域の重要性が示されているが、この領域が制御の全てを担っているとは考 ―l196−
え がた く、 制御 機構 にかかわる他の因子が存在していると考えられる。この ようなト ラ ンス に働 く因 子を 遺伝 学的 に同 定す るこ とを 目 的と して 、CGSJ遺 伝子の 転写後制 御にかかわる因子の機能 欠損型の突然変異株の分離を行った。
ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク ・ シ ロ イ ヌ ナ ズ ナGFPc4株 は、CGSI遺伝 子 第1エキ ソン に発 光 ク ラ ゲ の 緑 色 螢 光 タ ン パ ク 質(GFP)遺 伝 子 を っ な い でCaMV 35Sプ ロ モ ータ ーの 制 御下 に置 いた 融合 遺伝 子を 導入 した 株で ある 。このGFPc4株をメチオニン を添加し た 条件 下で 生育 さ世 るとGFP蛍 光が 減少 する 。一方、この制御に関わる因子 に変異が 生 じれ ぱ高 いGFP螢 光 を示 すこ とが 期待 され る。 そこ で、GFPc4株を 親株と して突然 変 異誘 起処 理を 行い 、親 株よ りも 高いGFP螢 光を示す突然変異株の分離を行 った。約 50,000株のスクリーニングにより、導入遺伝子の発 現量が増加している突然変異株を 12株 分 離 し た 。 こ の う ち の8株 に つ い て は 導 入遺 伝子 のCGS1遺 伝 子第1エ キソ ン内 にアミノ酸置換をもたら す塩基置換が存在しており、新たなmtol変異株と考えられた。
残 り の4株 に つ い てはCGSヱ 遺伝 子第1エキ ソン 内に 変異 は存 在せ ず、 目的 とす る突 然変異株であることが期 待された。
得ら れた4株 の候 補 株に つい てC・GSl mRNAの 蓄 積量 をノ ーザ ンブ ロット 解析によ り 調べ たと ころ 、2株 の候 補株 では 親株 の2倍近 く のCGSl mRNAを蓄 積し ていた。CGW 遺伝子の転写後制御のエ フェクター分子はメチオニンの代謝産物であるS―アデノシル メ チオ ニン (SAM) で ある 。SAMの 蓄積 量が 減少 す る変 異で あっ ても 同様の 表現型が 期 待 さ れ る が 、 こ れ ら2株 の 変 異 株 で はSAMの 蓄積 量が 親株 より も増 加し てい た。
従 っ て 、SAMの 減 少 に よ りCGW遺 伝 子 の 発 現 が 増 加 し た の で は な く 、CGW遺 伝 子 の 転写 後制 御に 関わ る未知の因子に変異が生じたために転写後制御が十分に 働かなく なった突然変異株である ことが示唆された。
この うち の1株で は 、転 写阻 害剤 を用 いた 解析 によ りClG駆ITlRNAの安定 性が増加 し てい るこ とが 示さ れ、c′恥J( 舛田dMエm6ff衂 )変 異株 と名 付け た。c恥J変異を 詳細にマップし,ポジシ ョナルクローニングにより原因遺伝子c.M舛を同定した。の裾J 遺 伝子 は1,673アミ ノ酸から成る機能未知のタンパク質をコードしており、c腦J変異 株 では507番目 のト リ プト ファ ンが 終止 コド ンに、また1,146番目のグリシ ンがアル ギ ニ ン に 変 異 し て い た 。CMS1タ ン パ ク 質 はMATHド メイ ンと 呼ぱ れる 機能 ドメ イン が タン デム に4つ並 ん でい る前 半部 と、 既報 のタンパク質ドメインモチーフ とは相同 性 を持 たな ぃ後 半部 によ り構 成さ れる 。MAlHド メ イン はホ モ多 量体 形成に 関与する と 考 え ら れ て い る が 、CMW遺 伝 子 に つ い て は こ れ ま で に 報 告 は な く 、 ま たMATHド メ イ ン を4つ 持 っ て い る タ ン パ ク 質 に つ い て の報 告も これ まで に なぃ 。一 方、CGW mRNAの 蓄積 量が 増加 して いた もう ひと つの 突然 変 異株 では 、レ ポー ター遺 伝子に依 存 し た 翻 訳 の 増 加 が み ら れ 、 翻 訳 に 関 わ る 突 然変 異株 であ るこ とが 示唆 され た。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
シ ロイヌナズナ CGS1 遺伝子にみられる 転写後制御に関わる突然変異株の分離と解析
本 論 文 は 本 文48頁 と22図 、2表 か らな る 和 文 論文 で あ り、 参 考 論文3編 が添 え ら れている 。
mRNAの 安 定性 に よ る 制御 は 細 胞内 の 状態 に対応し て迅速 で厳密な 制御を 可能にす る。メチ オニン 生合成の鍵段階を触媒するシロイヌナズナのシスタチオニンッ―シンタ ーゼ (CGS) は、 他の多 くの生合 成経路 の鍵段階 の酵素 とは異な り、アロ ステリ ック 酵 素 で は な い 。CGSを コ ー ド す るCG5i遺 伝 子 は 、メ チ オ ニン 添 加 に応 答 し てmRNA が不 安 定 化す る こ とに よ り 負 のフ イ ー ドバッ ク制御を 受けて いる。本 論文は 、CG5i 遺伝 子mRNA安 定性 の 制 御 に関 わ る 突然 変 異株を分 離・解 析したも のであ る。得ら れ た成果は 以下の 通りであ る。
1. CGS1遺伝 子第1エキソン 領域の 機能解析
C・GSヱ 遺 伝子 発現 制御のmRNAレ ベルで の解析を 可能に する実験 系を確立 するこ と を目 的 と して 、CGS1遺 伝子 の 第1エキ ソ ン にレ ポ ー ター 遺 伝 子を っ な ぎ、カ リフラ ワー モ ザ イク ウ イ ルス(CaMV) 35Sプ ロモ ー ターの制 御下に 置いた融 合遺伝 子を導入 したトラ ンスジ ェニック ・シロ イヌナズ ナを作出 した。 このトラ ンスジ ェニック・シ ロイヌナ ズナで は、メチ オニン 添加によ り導入遺 伝子の レポータ ー活性 が減少すると と も に 、 融 合 遺 伝 子 のmRNAの 蓄 積 量 も 減 少 した 。 こ れに よ り 、CGSi遺伝 子 の 第1 エキ ソ ン 領域 がmRNAの 安定 性 に よ る制 御 を行 うために 必要か つ十分な 領域で あるこ とを明ら かにし た。また 、異な るレポー ター遺伝 子を持 っトラン スジェ ニック・シロ イヌ ナ ズ ナ同 士 の掛げ 合わせ による解 析を行 い、第1エキソ ンポり ベプチド がシス に 働くこと を遺伝 学的に明 らかに した。
2. CGSヱ 遺 伝 子 発 現 の 転 写 後 制 御 に か か わ る 突 然 変 異 株 の 分 離 I
ト ラ ン スジ ェ ニ ック ・ シ ロイ ヌ ナ ズ ナGFPc4株 は 、CGSヱ遺 伝 子 第1エ キソ ンに発 ―1198−
哲徳 夫 久淳 藤戸 村 内伴 木 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
光 ク ラ ゲ の 緑 色 螢 光 タ ン パ ク 質(GFP)遺 伝 子 を っ な い でCaMV35Sプ ロ モ ー タ ー の 制 御下 に 置い た融 合遺 伝子 を導 入し た株 であ る。 このGFPc4株をメチオニンを添加し た 条件 下 で生 育さ せる とGFP螢 光が 減 少す るが 、こ の制 御に関わる因子に変異が生じ れ ば高 いGFP蛍光 を示 すと 期待 され る 。こ の考 えに 基づ き、GFPc4株を 親株 とし て突 然 変異 誘 起処 理を 行い 、親 株よ りも 高いGFP蛍 光を 示す 突然変異株の分離を行った。
約50,000株のスクリーニングに より、導入遺伝子の発現量が増加している突然変異 株 を12株 分 離 し た 。 こ の う ち の8株 につ いて は導 入遺 伝子 のCGSヱ遺 伝子 第1エ キソ ン 領域 内にアミノ酸置換をもたらす塩基置換が存在しており、 新たなmfD´変異株と考 え ら れ た 。 残 り の4株 に つ い て はCGSi遺 伝 子 第1エ キ ソ ン 内に 変 異は 存在 せず 、少 な くと もCG馴 遺伝 子の 発現 制御 に関 わる 因子 に生 じた 変異 であ る こと が示 され た。
得 られ た4株 の変 異株 につ いて (弼S´mRNAの 蓄積 量を ノー ザン ブ ロッ ト解 析に より 調 べ た と こ ろ 、 こ の 内 の2株 で はCGSJmRNAの 蓄 積 が 親 株 の 約2倍 に増 加し てお り、
mRNAレ ベ ルで の発 現制 御に 関わ る変 異で ある と考 えら れた 。
3. CGSヱ 遺 伝 子mRNA安 定 性 の 制 御 に 関 わ る 突 然 変 異 と 原 因 遺 伝 子 の 同 定
. 得 ら れ た 変 異 の1株 で は 、 転 写 阻 害 剤 を 用 い た 解 析 に よ りCGWmRNAの 安 定 性 が 高 まっ てい るこ とを 示し た。cm5J(CGSJ盤駲A踟 みffめ) 変異株 と名付けたこの変異 を 詳 細 に マ ッ プ し , ポ ジ シ ョ ナ ルク ロー ニ ング によ り原 因遺 伝子aMWを 同定 した 。 c^佑´遺伝子は1.673アミノ酸から成る機能未知のタンパク質をコードしており、c恥´
変 異株 では507番 目の トリ プト ファ ンが 終止 コド ンに 、ま た1,146番目のグリシンが アルギニンに変異し ている。
予 想 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 の 解 析 に よ り 、CMS1タ ン パ ク 質 はMATHド メ イン と呼 ば れ る機 能ド メイ ンが タン デム に4つ 並ん でい る前 半部 と、 既報の タンパク質ドメイン モ チ ーフ とは 相 同性 を持 たな い後 半部 によ り構 成さ れる と考 えら れる 。MATHドメ イ ン はホ モ多量体形成に関与するとされ ているが、cAがJ遺伝子につ いてはこれまでに報 告 は な く 新 規 遺 伝 子 で あ っ た 。 また 、MAlHドメ イン を4つ持 って いる タ ンパ ク質 に ついての報告もこれ までにない。
以 上 の よ う に 、 本 研 究 で は 、CGSI遺 伝 子mRNAの 安 定 性 制御 に関 わる シロ イヌ ナ ズ ナ 変 異 株 を 分 離 し 、 新 規 遺 伝 子CMWを 同 定 し た 。 こ れ ま で に 高 等 植 物 に お い て mRNAの 安 定 性 制 御 に 関 わ る 変 異株 の報 告は2例し かな く、 原因 遺伝 子が 同定 され た の は本 研究 が最 初の 例で ある 。mRNAの 安定 性 の制 御機 構を 明ら かに する 上で 重要 な 研究 であ り、 学術 的に 高く 評価 でき る。
よ って 、審 査員 一同 は、 鈴木 昭徳が博士(農学) の学位を受けるのに十分な資格を 有す るも のと 認め た。
ー1199ー