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営造物型国立公園における保護・利用・調整

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Academic year: 2021

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博 士 ( 法 学 ) 久 末 弥 生

学 位 論 文 題 名

営造物型国立公園における保護・利用・調整

ーアメリカの国立公園を素材にー

学位論文内容の要旨

  世界 最初の国立公園であるイエローストーン国立公園(Yellowstone National Park)に 始まる長い伝統と最大規模のシステムを誇るアメリカの国立公園は、自然の宝庫であると 同時に自然保護法の宝庫でもある。国立公園の萌芽期である19世紀から現代までの二世紀 にわたって、アメリカの国立公園は種々の自然保護法に支えられながら、稀有な生態系と 卓越した景観を維持してきた。世界の国立公園は、営造物型とゾーニング型のニっに大き く分けられる。一般に、営造物型では、国自らの土地所有権に対する規制が法令や公園計 画に基づぃて行なわれる。他方、ゾーニング型では、他人の土地所有権に対する種々の警 察規制や公用規制が法令及び公園計画に基づぃて行なわれることになる。このようにニつ の型は、規制の根拠と程度が異なる。アメリカの国立公園は営造物型に分類され、ドイツ・

フランスなどのヨーロッパ諸国や日本の国立公園(自然公園)はゾーニング型に分類され る。営造物型はゾーニング型に比べると、行政官庁対地域という利害対立の構造が潜在的 に弱いようにも思われる。しかし、アメリカでは多くの国立公園紛争が生じてきた一方で、

日本では国立公園管理が意外にスムーズに行なわれているというのが現実である。その一 因として、日本のゾーニング型は自然公園法で定められる「普通地域」や自然環境保全法 で定められる「普通地区」などの普通区域が多く、これらの区域が行政官庁と地域の利害 対立の場面で緩衝材としてはたらいていることが考えられる。このように、営造物型とゾ ーニング型という分類にともなって生じるはずの行政コントロールの強弱の相違が、現実 にはきわめて相対的である。したがって、営造物型とゾーニング型の区別を必ずしも絶対 視する必要はない。近年は、民有地を含む国立公園周辺地域の自然保護の必要性や、国有 林システムのような他の自然保護システムとの連携を図る必要性が生じてきている。実質 的に見ても、現代の国立公園が国(行政官庁)のみならず国民(地域)によっても維持管 理されている点においては、営造物型とゾーニング型の聞に相違はない。これらのことを 考慮すると、アメリカの国立公園システムが日本の国立公園制度に与える示唆は、営造物 型とゾーニング型という違いがあってもなお大きいと考える。なぜなら、アメリカの国立 公園システムは、周辺国有地・周辺民有地との連携や地域コミュニティとの協働をいわば 先取りしているからである。本稿はこのような動機づけの下、アメリカの国立公園システ ム(National Park System)を法的 観点から分析し、将来に向けて新たな自然保護の法シ ステムを構築することを試みるものである。

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  本稿の構成は、次のとおりである。まず第一章では、国立公園システムが合衆国自然保 護法の歴史の初期から存在していたこと、さらに 保護と利用 の対立がアメリカの国立 公園の歴史の当初から内在していたことを、国立公園システムの歴史を追うなかで明らか にする。第二章では、アメリカにおける国立公園関連の主要な法制度を年代を追って分析 するとともに、現在の法制度の限界と問題点を明らかにしていく。第三章では、第二次世 界大戦の前後で時期を大きく二分したうえで、国立公園紛争の実態を具体的事例研究とと もに調べていく。これら紛争事例の研究を通じて、今何が必要とされているのかを明らか にしたい。そして第四章では、第二章で明らかにされた現在の法制度の限界と問題点を克 服することをめざして、国有地および周辺民有地にかかる自然保護規制を整理してその内 容を理解するとともに、これらの規制にともなって行なわれる利害調整の実態を確認する ことで、国立公園の新たな管理手法、さらに自然保護の法システムの新たな枠組みを探る。

以下に、各章の要旨を述べる。

  第一章〜アメリカの国立公園システムは、一見すると、年代とともに順調に発展してき たように思われる。しかし、国立公園の創設を導いた20世紀初頭の自然保護運動は、当初 か ら 分 裂 を 含 む も の だ っ た 。 ミ ュ ー ア (John Muir) を 中 心 と す る 自 然 保 存 派

(preservationist) と ピ ン シ ョ ー (Gifford Pinchot) を中 心 と する 自 然 保 全派 (conservationist)の対立は、国立公園システム自体の自己矛盾ともいえる 保護と利用 ジレンマとなって、国立公園局(National Park Service: NPS)を長く苦しめることになる。

国立公園システムの歴史を振り返ると、合衆国自然保護法の萌芽期から同システムが存在 することを確認できる。また、第二次世界大戦後に公園ビジターが殺到し国立公園局(NPS) が対応に追われる一方で、さまざまな利害関係者たちが 自然保全(conservation) に名 を借りて暗躍する様子が見えてくる。このように国立公園システムの歴史は、自然保存派 と自然保全派の対立の歴史でもあり、保護と利用というニっの命題の両立を模索する連邦 行政機関の歴史でもあったといえるだろう。

  第二章〜アメリカの国立公園システムは、多くの自然保護法制に支えられている。1916 年の国立公園局設置法(National Park Service Organic Act)に代表されるように、合衆国 自 然 保 護 法 の 歴 史 の な か で も 国 立 公園 関 連 法の 歴 史 は 古い 。 ま た、 基 本 計画 指 針   (Management Policies)や連邦所有地政策管理法(Federal Land Policy and Management

Act: FLPMA)に加えて、さまざまな合衆国自然保護法が国立公園関連規定をもつ。近時の

傾向 として、国立公園を含めた国有地(public land)でのオフロード車利用を規制する規 定の整備が急がれていることが挙げられるだろう。国有地利用をめぐる実際の訴訟も、オ フロード車利用に関するものが非常に多い。さらに、ウィルダネス(wilderness)において もオフロード車利用の増加による深刻なダメージが問題になっているため、国立公園に含 まれるウィルダネス地域でのオフロード車利用規制を強化していく必要があるだろう。最 近の アメリカでは、国立公園システムが資源管理法(Natural Resources Law)あるいは水 法(Water Law)とい った法分 野で扱 われるこ とが主 流になり つっあることから、従来の 環境法や自然保護法に加えて、今後は一連の資源管理法からのサポートが充実していくこ とが期待される。

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  第 三 章〜 営 造 物型 で あ る アメ リ カ の国 立 公 園は 当 初 、ライ バル関 係にある 国有林 (National Forest)との政策の相違から、内務省国立公園局(NPS)対農務省森林局(Forest Service: FS)という対立構造を示していた。しかし第二次世界大戦後の公園ビジターの殺 到が、国立公園局対民間人(地域住民および商工業者)という新たな対立構造を生んだ。

さらに近時は、民間人自体が自然保護に対してポジティブな者とネガティブな者とに二分 され、それぞれが国立公園局と対立する場面が生じてきている。このように、国立公園紛 争の当事者構図は複雑になりつっあるが、民間人とりわけ地域住民が国立公園紛争におい て重要な地位を占めるようになったことには疑いがない。結局、国立公園紛争を解決に導 くことができるかどうかは、@地域の自然保護意思を、どのように国立公園政策に反映す ることができるか◎そもそも、そのような意思自体を、どのように適正に形成するか、と いう点にかかっていることになる。ここでは、地域の利害関係者たちが調整のうえで合意 形成に達した自然保護に対する地域全体としての意思を、 地域の自然保護意思 と呼ぶこ とにしたい。

  第四章〜アメリカの国有地および周辺民有地の自然保護規制は、比較的充実していると いう印象を受ける。特に、民有地における自然保護の取り組みを支えるアメリカ独自の様々 な手法は、日本を含めて他国にとっても大きなヒントになりそうである。もっとも従来の 自然保護規制は、個々の規制が必ずしも生態学的根拠に基づぃて定められたものではなく、

規制間の連携が十分に図られることもなかった。しかし近年アメリカで登場した 大エコ システム(greater ecosystem) 構想は、重要な国立公園と周辺国有地・周辺民有地を生態 学的根拠に基づぃて連結し、広大な自然保護地域の形成を実現させつっある。大エコシス テムにおいては、新たな自然保護規制が求められるとともに、従来からの種々の自然保護 規制を相互補完的に連携させることが求められることになるだろう。このように、国立公 園を中心に形成される大エコシステムの実現という新たな動きは、自然保護規制の新たな あり方を導いていくものと思われる。

  国立公園局は今、全体としての国立公園システムにおける体系的な自然保護と同時に、

大イエローストーン・エコシステム(Greater ̄Yellowstone Ecosystem)のように個々の国 立公園を含む地域の体系的な自然保護を実現しようと試みている。近時、国立公園局は、

国立公園を世代間で引き渡すことの重要性を強調するとともに、最重要長期目標が天然資 源の保存であることを明確に述べるようになった。ここに、将来に向けての新たな自然保 護の法システムのひとつのあり方が見えてくる。まず、新たな自然保護の取り組みにおい ては、生態学的管理と天然資源管理というニつの管理概念が柱とされる必要がある。次に、

これらの概念に基づぃて制定される新たな自然保護法制は、行政機関と地域住民というニ つの主体による協働によって実施が図られなけれぱならない。最後に、以上の二点をふま えると、新たな自然保護の法システムは、社会的観点と生態学的観点のいずれからも妥当 と思われる包括的な地域を想定して構築されなければならない。それは必然的に、従来の ユニットよりも空間的な広がりをもつ地域を扱うシステムを意味するだろう。新たな法シ ステムの構築と並行して、従来からの国立公園関連法や自然保護規制といった自然保護法 制を整理することも忘れてはならない。これらの自然保護法制は、相互補完的な連携が図 られることはもちろん、生態学的管理と天然資源管理というニっの管理概念を重視すると     −183―

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いう 方向のなかで、新たな自然保護の法システムと一貫性をもたせることに留意して運用 され ることが求められるだろう。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

営造物型国立公園における保護・利用・調整

―アメリカの国立公園を素材に―

1.本論文の概要

  本論文は、アメリカ合衆国の国立公園制度に関する研究成果であり、特に国立公園における自 然の 保護 と 利用 との対立を示す多様な紛争事例の検討を通して、現行法制の限界を明ら かにするとともに、新たな国立公園法制の目指すべき方向を明らかにしようとするものである。

  一般に、国立公園は、主に国・公有地を対象とした営造物型と多くの民有地を含む地域を対象 に区域区分による土地利用規制を主にしたゾーニング型の2っに大別される。アメリカの国立公 園は営造物型に分類され、ドイツ・フランスなどのヨーロッパ諸国や日本の国立公園(自然公園)

はゾーニング型に分類される。営造物型は、一見すると、ゾーニング型に比ぺ行政庁対地域とぃ う利害対立の可能性が潜在的に低いようにも思える。しかし、アメリカの国立公園にも部分的に 民有地が残っており、また許可業者の営業活動やオフロード車利用による自然破壊が問題化する 等の事情から、国立公園の利用をめぐる紛争が多発している。その結果、営造物型とゾーニング 型という区別に対応して想定される行政的コントロールの強弱の相違が、現実にはきわめて相対 的である。また近年では、民有地を含む国立公園周辺地域の自然保護の必要性や、国有林システ ムのような他の自然保護システムとの連携を図る必要性が生じている。そのような状況を背景に、

アメリカの国立公園においては、今日、国立公園と周辺国有地・周辺民有地との連携を目指した 大エコシステム構想が論じられており、また、行政と国民(地域コミュニティ)の協働による維 持管理を目指した地域協働型自然保護の取り組みが進んでいる。以上のことを考慮すると、アメ リカの国立公園制度が日本の国立公園制度に与える示唆は、営造物型とゾーニング型という違い があってもなお大きいのではないか。本論文がアメリカの国立公園を取り上げるのは、以上のよ うな問題関心による。

  第1章では、アメリカの自然保護法制の中で国立公園制度が占めている重要な位置づけについ て、歴史的変遷過程を追いながら叙述される。国立公園システムが合衆国自然保護法の歴史の初 期から存在していたこと、また 保護 と 利用 というニつの命題の対立がアメリカの国立公 園制度史の当初から内在していたことが、明らかにされる。

  第2章では、国立公園設置法、基本計画指針、連邦所有地政策管理法等、アメリカの国立公園 関連の主要な法制度が、各法制度に関する判例の分析を交えながら検討される。また、これらの 法制度の運用を担う主要な国家機関のあり方も、分析される。当該分析を通して、現行法制度の 限界と問題点も明らかにされる。

    ー185−

格 剛

   

   

理 見

亘 人

授 授

   

   

教 教

査 査

主 副

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  第3章では、 アメリカの国立公園をめぐる紛争が、第二次世界大戦前 は、内務省国立公園局 (National Park Service)対農務省森林局(Forest Service)という対立 構造を示していたのに 対し、第二 次世界大戦後は、公園ビジターの殺到が、国立公園局対民間人(地域住民および商工 業者)とい う新たな対立構造を生んだことが明らかにされる。特に近時は、民間人自体が自然保 護に対して ポジティブな者とネガティブな者とに二分され、それぞれが国立公園局と対立する場 面が生じて いることが明らかにされる。そのようぬ中で、国立公園紛争を解決に導くことができ るかどうか は、地域の自然保護意思を適切に形成しそれを国立公園政策に反映する仕組みができ ているか否 かにかかっていることが、明らかにされる。

  第4章では、公的ニューサンス理論、 公共信託理論、収用法理論など、国有地および周辺民有 地における 自然保護規制を根拠づけ得る種カの法理論の検討を通して、これら既存の法理論が、

現行法の限 界を克服し第3章で検討され た多様な国立公園紛争を適切に解決に導き得るものでは なぃことが 、明らかにされる。特に、従来の自然保護規制は、必ずしも生態学的根拠に立脚した ものではな く、規制制度間の連携が十分に図られることもなかったこと、これに対し、近年アメ リカで議論 されるようになった 大エコシステム(greater ecosystem) 構想は、国立公園と周 辺国有地・ 周辺民有地を生態学的根拠に基づいて連結し、広大な自然保護地域の形成を実現させ つっあるこ とが明らかにされる。以上のような、国立公園を中心に形成される大エコシステムの 実現とぃう 構想は、自然保護規制の新たな方向を示唆する考え方であり、我が国の自然公園制度 の再編に際 しても参照すべき考え方であるとの主張が提示される。

2.本論文についての評価

  本論文は、アメリカの国立公園制度について、営造物型国立公園とゾーニング型国立公園とい う伝統的な対立観にとらわれなぃ新たな視点から検討を加えることにより、現行法制度の問題点 及ぴ国立公園制度の将来像を明らかにした点に、従来の国立公園制度研究には見られなぃ独創的 な意味がある。本論文は、異なる行政機関相互間で生じる紛争、あるいは国立公園の許可事業者 や公園利用者と環境保護団体との間で生じる紛争等、国立公園の 保護 と 利用 をめぐって 生じる様々な形態の紛争を総合的に分析した我が国で初めての研究の成果であり、かかる検討を 通して、営造物型であるアメリカの国立公園においても、 保護 と 利用 の対立に起因する 様カな法問題への対応を迫られていることを明らかにした。我が国の国立公園のようなゾーニン グ型国立公園との関係でも、国立公園固有の法制度と鳥獣保護法や森林法等の隣接法制度との連 携を通して、自然環境をめぐる 保護 と 利用 間の対立を適正に調整するための新たな法シ ステムを構築しようとする際に、本論文は、有益な示唆を提供するものと考えられる。また、公 園管理機関である国や地方公共団体の機関と地域住民との協働の理念に立脚した新たな自然公園 制度を構築しようとするに際に、本論文が提唱する「地域協働型自然保護」及び「大エコシステ ム」の考え方は、有益な示 唆を提供するものと考えられる。

  他方、委員の中からは、本論文の難点として、公的ニューサンス理論、公共信託理論、公用収 用理論など、自然保護のための財産権制限を根拠づける法理論や鍵概念の説明には分析不足の箇 所が散見され、全体的にみて理論的分析が不足気味であること、法制度や判例の紹介が翻訳調で 冗長な印象を与える箇所があること、文章全体に分かり難い表現が見られること等の指摘がなさ れた。とはいえ、本論文は、営造物型であるアメリカの国立公園制度を、保護と利用の対立に起 因する紛争実態という視点から捉え直すことを通して、その意義と限界を明らかにした貴重な研 究 成 果 で あ り 、 博 士 論 文 と し て 要 求 さ れ る 水 準 を 十 分 に 満 た し て い る 。   以上により、審査担当者 全員ー致で合格との判定に至った。

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参照

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