3.
3.
2 ワイヤレスネットワーク研究所 ディペンダブルワイヤレス研究室
研究室長 三浦 龍 ほか 12名
障害に強く頼りになる自律分散ワイヤレス技術の研究開発
【概 要】
無線ネットワークにおける低遅延接続や基幹網の負荷軽減やカバーエリアの拡大の他、回線品質確保、およ
び耐災害性などの高機能化を実現するため、特定の基地局やアクセスポイント、あるいは経路に依存せず、多
数の端末やノード(中継点)同士が自律的かつ多元的に接続する自律分散ワイヤレスネットワーク技術ならび
に人体の周辺や建物等の内部など電波が伝わりにくい領域での高信頼な無線ネットワーク技術を確立すること
を目指す。平成 24年度は、地震や津波などの大災害にも耐え得る構造をもったワイヤレスネットワークの設計
および東北におけるテストベッドへの実装を行い、分散型アーキテクチャに基づく耐災害メッシュネットワー
ク技術と小型無人飛行機による災害時無線中継技術を軸とした公開実証実験を実施した。また、インフラを必
要としない端末間通信方式の基礎検討と国際標準化を主導した。電波の伝わりにくい領域での無線ネットワー
クについては、超広帯域(UWB)無線通信技術を応用した建物内での高精度測位方式の試作と実証を行い、国
内での法制化へも寄与した。また、1GHz以下の周波数を用いた建物内ロボットなどの無線制御等への応用を
目指した通信方式を開発し、試作機による評価を進めた。
【平成 24年度の成果】
(1) 自律分散ワイヤレスネットワーク
・ 移動ノード(車両や飛行機等)を含むメッシュ型自営網による災害時にも壊れにくい耐災害ワイヤレス
メッシュネットワークの設計と、補正予算による東北大学キャンパス内でのテストベッド実装を行い(図
1、2)、大学と連携し 2日間にわたる公開実証評価実験に成功した。
・ 同テストベッドでは、複数経路で構成されたネットワークの部分的な障害時における通信機能の維持と通
信の集中回避、また、インターネット(コアネットワークやクラウド)への接続が失われた場合の地域内
での通信機能の維持、ならびに道路や通信網の全壊により孤立した地域が発生した場合における小型無人
飛行機(UAS)や衛星を用いた中継による迅速な通信確保の各機能を実装し、携帯電話ネットワークが
使用できない状況を想定して、Wi-Fi機能をもつスマートフォンやタブレット端末による安否確認や情報
共有及び IP電話、水位や監視カメラ、あるいは避難者のヘルスケア関連等のセンサ情報収集などの災害
時および平時用アプリケーションを動作させることに成功した。
・ 無人飛行機(UAS)を用いた無線中継システムでは、小型の UASに搭載可能な軽量の無線中継装置を開
発し、高度 200~ 400m ほどを定点旋回する 1機または 2機の UAS(手投げ離陸、滑走路不要、プログ
ラムによる自律飛行)の中継により、ネットワークが復旧するまでの間、通信が孤立した場所に Wi-Fi接
続サービスや安否確認アプリケーション等が提供可能であることを世界で初めて実証した。
・ インフラ不要な端末間での通信システムの技術開発を国際的に主導するため、IEEE802.15.8を立ち上げ標
準化に着手した。また、公共交通機関等への社会実装によるテストベッド構築についての検討を開始した。
(2) 電波の伝わりにくい領域での無線ネットワーク
・ 伝搬特性のよい 1GHz以下の周波数の電波を用い、建物内など厳しい伝搬環境での信頼性の向上と通信距
離の拡大、それによる将来の建物内ロボット制御等への応用を目指した通信方式設計を行った。これを
400MHz帯と 900MHz帯を使ったプロトタイプ試作機に実装した他、端末間でマルチホップ伝送が可能な
試作機を開発し、評価を行った。
・ UWB(Ultra Wide Band)技術については、新たな応用分野として GPS信号が届かない室内における測
位システムとビッグデータ収集への応用を検討し、その初めのステップとして視覚障がい者の室内歩行支
援システムに応用するとともに、民間企業と連携し、大型商業施設等への社会実装によるテストベッド構
築についての検討を開始した。また、国内での法制化活動にも主査や副主査として寄与した。
・ UWB技術による生体情報(脳情報など)伝送システムについて、NICT内や欧州の大学病院との連携に
よる評価実験および解析を実施した。
3.3 ワイヤレスネットワーク研究所
27
3
活
動
状
況
・ 自動車内でのボディ情報やビデオ情報、および運転者の生体情報の伝送に、閉空間でのデッドスポットが
生じにくく広帯域伝送が可能な UWBを応用したシステムの研究開発を行うため、事業化を目指す企業と
連携し車体モデル構築と伝搬シミュレーションに着手した。
・ UWBをレーダに応用した場合の生存者探査やヘルスケアシステムにおける MIMO(複数送受信アンテ
ナ)化による高精度化と探索範囲の広域化のシミュレーションを行い、試作機を開発した。
・ 柔軟なシート媒体を介した近接場通信技術による脳情報や胎児心拍情報等の伝送と体内センサへのワイ
ヤレス給電技術を行う場合のシート媒体および小型通信カプラ技術について、事業化を目指す企業と連携
し新規開発とその性能評価に着手した。
3.3 ワイヤレスネットワーク研究所
28
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図1 耐災害ワイヤレスメッシュネットワークテストベッド全体構成(東北大学キャンパス内)
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図2 テストベッドに整備し、公開実証実験で用いた主な機器