一体化 武者 加西
1.道内の高速道路延長の概要 2011年は北海道の高速道路をめぐる環境にとって,大きな転機となる年であった。道東 自動車道,道南自動車道と異なる2線への延伸がそれぞれ完成したのである(図1)。 まず2011年10月29日には道東自動車道の夕弓馬一占冠間(総延長35km)が開通し,札幌∼ 夕張,占冠∼本別と分断されていた道東への高速綱が接続された。加えて,交通の難所で もある日勝峠(標高1022m)を回避することが可能となったため,札幌市から帯広市まで の所要時間が約28分間短縮された。 同11月26日には道南自動車道の落部∼森間(総延長20km)が開通し,札幌市から函館 市まで所要時間が5分間短縮されるようになった。道南自動車道は2009年に落部∼八雲 間が開通しており,それに続く延伸である。このように道南方面への高速道路の延伸は, 2015年に開業が予定されている函館新幹線と深く関わっている。実際,函館新幹線が開 業すると新規開拓される本州からの観光客によって道南の観光需要は増加することが期待 されており,新たな交通インフラ整備が必要となると考えられているからだ。実際,新幹 線開業後は,東京駅から新函館駅までは最短4時間10分で到着できるようになる。ところ が,順調に新函館駅に到着したものの,そこから先の移動手段が限られている,もしくは 道路が渋滞していれば利用客の利便性は半減してしまう。加えてまだ高速道路が建設中で ある森∼函館間は一般車だけでなく業務用車輌の通行が多いにもかかわらず国道5号線し か輸送路が存在しない。代替道路の開通は観光客だけでなく地元民にとっても悲願であっ たであろう。一方,道東への延伸はまた異なる意義を持つ。道東自動車道は札幌から東へ順に延伸
されていったわけではなく,帯広方面からも延伸されてきたため中央部分が分断されて いた。2007年には十勝清水∼トマム間,2009年にトマム∼占冠間と延伸されてきていた が,今回の延伸でようやく両者が結合されたことになる。今回のように複数の高速道路が 接続される場合はミッシングリンク(不連続区間)も解消されるため,移動時間短縮効果 も28分間と高くドライバーへのプラス効果は大きくなる。 また函館新幹線開業に先駆けて,2012年は新千歳空港に格安航空会社(LCC)による 新規就航路線も開設される。こちらも関西国際空港,成田国際空港から乗り継ぐ外国人を 含む来道客の増加要因となろう。高速道路延伸によって,道内一の輸送量を誇る新千歳空港か らも道南・道東へのアクセスが改善することは物流・観光両面からプラスの効果が期待できる。図1 道内の高速道路整備状況 出所:NEXCO束日本 2.観光面への影響 高速道路が整備されて大きな影響を受ける産業のひとつは観光産業であろう。観光客に よる消費活動が地域経済に与える影響は,おおまかに言うと経済効果=観光客数×消費単 価の2要素で表される。ここでは来道者数および一人当たり消費単価から高速道路延伸の 影響を予測してみたい。 図2は北海道内の観光入込客数(以下観光客数)の推移を2003年度を100として地区ご とにみたものである。残念ながら,北海道全体では観光客数は減少し続けているのだが, 高速道路が延伸された2地域をみると,正反対の動向を示している。 道南圏域は全道平均よりも観光客数の減少幅が大きく毎年絶対数を減少させているのに 対し,十勝圏域は全道平均を上回っており,かつ2008年を除いて毎年観光客数を増加さ せている。この数字自体は過去のものであり今回の高速道路延伸を織り込まない数字であ るが,十勝圏域は近年道内で人気が高まっている観光地である証左だといえよう。これに は中国で道東地域を舞台にしたテレビドラマが流行したことなどが背景にある。したがっ て,今回の道東自動車道の延伸は,道内で唯一観光客数を増やしている十勝地域にとって
さらにプラスにはたらく可能性があろう。実際、トマム地域で調査したところ,札幌圏か
らの観光客が明らかに増加しているとのことである。一一方,道南地域にとっては,札幌を起点として行動する多くの観光客が道南方面にも足を伸ばすような取り組みを打ち出すこ とが,観光客数の底上を割こつながる。 図2 北海道内観光入込客数の推移(2003年=100) 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
吻北海道計
瀾紗道央圏域計ゆ道南圏域計
ゆ道北圏域計 ゆ十勝圏域計 榔釧路一根室圏域計 出所:北海道経済部観光局「北海道観光入込客数調査報告書」より作成道内への観光客数の実数に加えて,彼らがどの程度道内でお力ネを落としていったかを
見てみよう。表1は北海道を訪れた観光客が道内でどの程度の消費を行ったかを道内客,
道外客,外国人客の3セグメントごとに調査したものである。スペースの関係で第一四半
期(冬季),第三四半期(夏季)のみの動向であるが,いずれの期間も道外客,外国人客
の消費額単価は道内客を大きく上回っている。北海道内で観光を行う場合,道内在住の観
光客以外は原則宿泊が必要となるため,宿泊の場合の消費単価が大きくなるのは当然であ
るが,宿泊費が含まれていることを考慮しても道内客を大きく上回る消費を行っているこ
とがうかがえる。特に道外客,外国人客ともに観光を単独目的として訪れた場合の消費単
価が高く,冬季の道外客で道内客の3.2倍,夏季の外国人客で同7.5倍の消費を行っている
のである。念のため宿泊費を除いた場合の,道外からの観光客の消費額がどの程度の額かを確認す
る。「北海道宿泊事業者経営実態調査」によると,道内の平均宿泊単価は旅館・リゾート
ホテルの1泊2食付きの場合11,477円である。ビジネスホテルの単価はこれより低くなる
ため,最大値としてこの宿泊単価を消費単価から減じてみると,観光目的の道外客の宿泊 以外の消費額は54,361円,観光日的の外国人客の消費額は同69,523円となる。一方,観光 目的の道内客の宿泊以外の消費額は9,089円と6倍以上の格差がある。数字は全て第一四 半期のものである。 すなわち,今回の高速道路の延伸によって特に道外からの観光客の利便性が上昇し,か つ消費単価の高い道外客の新規需要が開拓されれば,北海道経済への波及効果も高まるの である。 なお,道内の平均宿泊単価は全国平均よりも低く,宿泊単価そのものを上げるような努 力(ツアー客から個人客へのシフトなど)が必要であろう。北海道には外資系の高級ホテ ルの進出が少なく,京都や沖縄と比べて富裕層の取り込みに遅れをとっている部分もあり 改善を期待したい。 表1北海道内観光客入込客の観光消費額単価(円) 道内客= 別削道内客= (円) 宿泊 (円) 1としたと きの比率 帥 罪 ビジネス兼観光 1 四 7・000
1・9 65,838 で一うて乏
兼観光 _
22,070 0.9 ・・ 3.9 半 期 . 4.4 第道内客 観光
色324 1 22,096
ビジネス兼観光4,027
37,055
血 ●.. 1
注:外国人客のビジネス兼観光の値はサンプル数不足のため観光庁の全国値を掲載。 出所:北海道経済部観光局「北海道観光入込客数調査報告書」 3.今後の課題 ただし,今回の高速道路延伸は観光客増加などの明るい側面のみを持っているわけではない。経済学的には「ストロー効果」の発生が懸念される。ストロー効果とは,地方都市
と大都市の間に高速交通網が整備されることで時間距離が小さくなり,地方都市から大都 市へのと卜・モノの流出が進むことを言う。例えば明石大橋の開通後,徳島県民が日帰りで対岸の神戸市に買い物に行くようになり,地元の百貨店の売上が減少した例がある。北 海道の場合では,札幌圏へ日帰りすることが可能になる地域でストロー効果が起きるで あろう。特に道東地域は時間短縮効果が高いだけにその可能性が高い。ストロー効果自体 は札幌圏にとってはプラスとなるが,十勝圏や道南圏にとってはマイナスにはたらくだけ に,道内全体でみた際のマイナス分を上回る需要を喚起したいところである。 また,一般的に高速道路建設には数百億円単位での財源が必要となる。今回の延伸に関 しても地元負担はゼロではない。無駄な高速道路と後世に評価されないよう,沿線ぞいの 観光地の魅力を高めて道路利用者数を増加させるなどの活性化策は開業後も引き続き必要 である。 また,今後の輸送網の拡大を考える際に,輸送力を高める手法は高速道路の延伸だけと は限らないということも指摘しておきたい。現在の一般道路の制限速度である60km上限 を夏季だけでも80km程度に緩和するなど,コスト少なく実りの多い政策を実現するとい う選択肢も考えられる。限られた財源のもと,持続可能な高速道路運営を指向したいもの である。