学位論文の要旨
The protective effect of Bifidobacterium bifidum G9-1 against mucus
degradation by Akkermansia muciniphila following small intestine injury
caused by a proton pump inhibitor and aspirin
(アスピリンとプロトンポンプ阻害薬に起因する小腸粘膜傷害における,
Akkermansia muciniphila によるムチン分解に対する Bifidobacterium bifidum G9-1
の保護的作用
)
March, 2021
(
2021 年 3 月)
Tsutomu Yoshihara
吉原
努
Gastroenterology and Hepatology
Yokohama City University Graduate School of Medicine
横浜市立大学
大学院医学研究科 医科学専攻 肝胆膵消化器病学
(Doctoral Supervisor : Atsushi Nakajima, Professor)
(指導教員:中島 淳 教授)
学位論文の要旨
The protective effect of Bifidobacterium bifidum G9-1 against mucus
degradation by Akkermansia muciniphila following small intestine injury
caused by a proton pump inhibitor and aspirin
(アスピリンとプロトンポンプ阻害薬に起因する小腸粘膜傷害における,
Akkermansia muciniphila によるムチン分解に対する Bifidobacterium bifidum G9-1
の保護的作用
)
https://doi.org/10.1080/19490976.2020.1758290 1. 序論 アスピリン(以後,ASA と表記)は心筋梗塞や脳梗塞などの心血管病の予防に頻用され ている薬剤であり,胃十二指腸粘膜傷害の副作用が問題となっているが,出血源不明の消 化管出血も引き起こすことが知られている.近年のカプセル小腸内視鏡の普及により, ASA は胃十二指腸だけではなく,小腸にも粘膜傷害が形成されることが分かっている (Endo et al., 2015).ASA による胃十二指腸粘膜傷害の予防として,制酸剤であるプロトン ポンプ阻害薬(以後,PPI と表記)が併用されることが多くなっているが,小腸粘膜傷害 については増悪すると報告されている(Kinoshita,Ishimura and Ishihara, 2018).小腸粘膜 傷害により消化管出血が起こると治療に難渋することが多く,止血が確認できるまでの間 は ASA を休薬せざるを得ないため,血栓塞栓症のリスクが上昇してしまう.そのため, ASA による小腸粘膜傷害や PPI による増悪の機序を解明し,治療につなげることは喫緊の 課題である.そこで本研究では,マウスを用いて ASA による小腸粘膜傷害モデルを作成 し,PPI 投与による小腸粘膜傷害への影響を調べた.さらに,PPI は腸内細菌叢の乱れ (gut dysbiosis) を引き起こすことが分かっているため,腸内細菌の環境を整えるprobiotics の 1 つである,Bifidobacterium bifidum G9-1(以後,G9-1 と表記) を用いて,治
療につなげることができないか検討した.
2. 実験材料と方法 (1)動物
(1-1)ASA 粘膜障害のマウスモデル:6 週齢, 雄の C57BL/6J マウスを高果糖食で 9 週間食 餌した.解剖 3 時間前に ASA 200 mg/kg 経口投与した.1 時間前に腸管透過性測定のた
め FITC dextran (分子量 4000) 600 mg/kg を経口投与した.
(1-2) PPI,G9-1 投与による粘膜傷害への影響:6 週齢,雄の C57BL/6J マウスを 9 週 間,高果糖食で食餌し毎日オメプラゾール 20mg/kg 腹腔内投与した.G9-1 投与群につい ては最後の 1 週間,毎日 G9-1 を 1×109 CFU 投与した.
(1-3) Akkermansia muciniphila 投与:腸内細菌の解析を行ったところ,PPI 投与により空腸
のA. muciniphila が増加していたため,(1-2)において,オメプラゾールのかわりに A.
muciniphila を 1×109 CFU 毎日経口投与した.
(1-4) ノトバイオートマウスによる検証:A. muciniphila が粘膜障害を増悪させる原因とな
っていることを確認するための実験である.6 週齢の雄の C57BL/6NJc1 無菌マウスを高 果糖食で食餌し,初日にA. muciniphila または対照群として,Lactobacillus reuteri を
2×108 CFU 経口投与した.2 日目以降はオメプラゾール 20 mg/kg を毎日 1 週間腹腔内投
与した.
(2) Quantitative RT-PCR:RNA 抽出は miRNeasy Mini Kit (Qiagen) で行い cDNA 逆転 写は High Capacity RNA-to-cDNA Kit (Thermo Fisher Scientific) を用いた.遺伝子発現 量は StepOnePlus Real-Time PCR System (Thermo Fisher Scientific) により定量した. (3) 粘膜固有層のリンパ球 (Lamina propria lymphocyte: LPL)のフローサイトメトリー: LPL から単離したリンパ球を.抗 CD3, CD4, CD25, Foxp3 抗体で染色し,フローサイト メーターで解析した.
(4) 細菌解析:DNA 抽出は次の論文を参照した(Matsuki et al., 2004).細菌の 16S rDNA の V3-V4 の解析は次の論文に修正を加えて行った (Fadrosh et al., 2014). 解析には, Miseq (Illumina, CA, USA) を使用した.
3. 結果 普通食を摂取させたマウスでは,ASA を投与しても小腸粘膜傷害は惹起されなかった が,高果糖食を摂取させたマウスでは,60%の頻度で小腸粘膜傷害が確認された.高果糖 食摂取により,普通食群と比較して腸管透過性が亢進した.さらに PPI を投与すると小腸 粘膜傷害は増悪した一方で,G9-1 投与により粘膜傷害は緩和された.血中のエンドトキ シンは ASA+PPI 投与したときは有意な上昇が見られた.空腸内容物の腸内細菌解析で は,PPI を投与するとBifidobacteria は減少し,Akkermansia は増加していた.PPI 投与に
より腸内細菌構成は変化しgut dysbiosis が引き起こされたが,G9-1 投与により PPI を投与 してもgut dysbiosis はキャンセルされた傾向となった.A. muciniphila を経口投与させる と,空腸のムチン層は菲薄化したが,これはASA と PPI を投与した場合にも見られた.
G9-1 を投与すると,ムチン層の菲薄化はキャンセルされた.さらに,ASA と PPI を投与 すると,空腸の胚細胞が減少したがG9-1 投与により胚細胞数の減少は抑制され,ムチン 分泌を促進するTff3 遺伝子発現が亢進した.G9-1 が小腸粘膜傷害に対して粘膜上皮の再 生に関連するか検証するために,空腸陰窩へのBrdU 取り込みに対する免疫染色と Ki67 染 色を行ったが,G9-1 投与により促進することはなく,G9-1 は粘膜上皮再生には関連がな いことが示唆された.一方で,ASA+PPI により粘膜傷害が生じる群では BrdU 取り込みや Ki67 の亢進がみられ,また Cox-2 遺伝子発現も亢進がみられたことから,粘膜傷害により 粘膜上皮再生が促進される可能性がある. G9-1 による抗炎症作用と腸管免疫に及ぼす影響を検討した.ASA+PPI と ASA+PPI+G9-1 投与群で比較したところ,空腸粘膜の IL-ASA+PPI+G9-10,TGF-β,Foxp3 の遺伝子発現は ASA+PPI+G9-1 群で ASA+PPI 群に比較して上昇した.さらにフローサイトメトリーを行 うと,CD25+, Foxp3+ T 細胞の比率は ASA+PPI+G9-1 群で有意に増加し,G9-1 は制御性 T 細胞を誘導することにより抗炎症作用をもたらすことが示された. 4.考察 ASA による小腸粘膜傷害は,今まで動物モデルでは確立されてこなかった.本研究では 高果糖食を摂取されることにより,モデルを確立させることに成功したが,これは高果糖 食が腸管透過性を亢進させるという報告に注目したからである(Seki et al., 2018).このモ デルを用いることにより,ASA による小腸粘膜傷害の増悪とその機序の解明に近づくこと ができた.PPI は小腸において,gut dysbiosis を惹起させ,この一つがA. muciniphila の 増殖であった.既報では,肥満マウスへのAkkermansia 投与は大腸粘膜機能の改善をみと
めたと報告されている(Plovier et al., 2017).しかしながら小腸での A. muciniphila の果たす 役割については解明されていない.A. muciniphila はムチン分解菌として知られているが,
空腸のムチン層は大腸よりも非常に薄く,A. muciniphila のムチン分解作用により,小腸粘
膜傷害が惹起されやすい状況になったと考えた.一方,G9-1 は PPI 投与により引き起こ されたgut dysbiosis を是正することがわかった.これにより,A. muciniphila の増殖が抑制 され,結果として小腸粘膜傷害を予防することにつながった.また,G9-1 がもつ抗炎症作 用によっても小腸粘膜傷害の軽減につながったものと考える.
キーワード:プロトンポンプ阻害薬, アスピリン,小腸粘膜傷害,Bifidobacterium bifidum
引用文献
Endo, H., Sakai, E., Kato, T., Umezawa, S., Higurashi, T., Ohkubo, H. & Nakajima, A. (2015). Small bowel injury in low-dose aspirin users. J Gastroenterol, 50(4):378-386.
Fadrosh, D.W., Ma, B., Gajer, P., Sengamalay, N., Ott, S., Brotman, R.M. & Ravel, J. (2014). An improved dual-indexing approach for multiplexed 16S rRNA gene sequencing on the Illumina MiSeq platform. Microbiome, 2(1):6.
Kinoshita, Y., Ishimura, N. & Ishihara, S. (2018). Advantages and Disadvantages of Long-term Proton Pump Inhibitor Use. J Neurogastroenterol Motil, 24(2):182-196.
Matsuki, T., Watanabe, K., Fujimoto, J., Takada, T. & Tanaka, R. (2004). Use of 16S rRNA gene-targeted group-specific primers for real-time PCR analysis of predominant bacteria in human feces.
Appl Environ Microbiol, 70(12):7220-7228.
Plovier, H., Everard, A., Druart, C., Depommier, C., Van Hul, M., Geurts, L., Chilloux, J., Ottman, N., Duparc, T., Lichtenstein, L., Myridakis, A., Delzenne, N.M., Klievink, J., Bhattacharjee, A., van der Ark, K.C., Aalvink, S., Martinez, L.O., Dumas, M.E., Maiter, D., Loumaye, A., Hermans, M.P., Thissen, J.P., Belzer, C., de Vos, W.M. & Cani, P.D. (2017). A purified membrane protein from Akkermansia muciniphila or the pasteurized bacterium improves metabolism in obese and diabetic mice. Nat Med, 23(1):107-113.
Seki, K., Kitade, M., Nishimura, N., Kaji, K., Asada, K., Namisaki, T., Moriya, K., Kawaratani, H., Okura, Y., Takaya, H., Sawada, Y., Sato, S., Nakanishi, K. & Yoshiji, H. (2018). Oral administration of fructose exacerbates liver fibrosis and hepatocarcinogenesis via increased intestinal permeability in a rat steatohepatitis model. Oncotarget, 9(47):28638-28651.
論文目録
Ⅰ 主論文
The protective effect of Bifidobacterium bifidum G9-1 against mucus degradation by Akkermansia muciniphila following small intestine injury caused by a proton pump inhibitor and aspirin
Yoshihara, T., Oikawa, Y., Kato, T., Kessoku, T., Kobayashi, T., Kato, S., Misawa, N., Ashikari, K., Fuyuki, A., Ohkubo, H., Higurashi, T., Tateishi, Y., Tanaka, Y., Nakajima, S., Ohno, H., Wada, K., Nakajima, A.
Gut Microbes. Vol. 11, No. 5, 1385-1404, 2020.
Ⅱ 副論文 なし
Ⅲ 参考論文 なし