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Vol.55 No (Jan. 2014) ITS 1,2,a) 3 2, , ITS 1 ITS 2 ITU-R P % 70% A Performance Improvement of Large-scale I

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(1)

推薦論文

アブストラクト干渉モデルによる

大規模

ITS

無線システムシミュレーションの高速化

金田 茂

1,2,a)

前野 誉

3

高井 峰生

2,4

山口 弘純

2

東野 輝夫

2 受付日2013年4月4日,採録日2013年10月9日 概要:ITS無線システムのシミュレーションは1つのフレームの送信が周辺のすべてのノードでの受信処 理につながるため電波伝搬に関する計算量は膨大であり高速化が求められる.その一方で,モデルの抽象 化による高速化はシミュレーション結果に影響を与えるため,精度と速度とのトレードオフを考慮する必 要がある.本論文では,大規模なITS無線システムシミュレーションを想定し,シミュレーションを高速 化するパスロスおよびフェージングのアブストラクトモデルを提案する.パスロス計算の高速化では,あ る受信電力閾値以下の場合にキャッシュしておいたパスロスを利用する頻度を増やすことでパスロス計算 を削減し高速化を行う.フェージング計算の高速化では,ある受信電力閾値以下の場合にフェージングの 計算を省略することで高速化を行う.提案する手法をシミュレータに実装し,2波モデルとITU-R P.1411 の2つの電波伝搬モデルを用いてシミュレーション実行速度とシミュレーション結果の変化を評価した. その結果,使用する電波伝搬モデルによらずシミュレーション結果への影響を最小限に抑えたうえで,最 大55%∼70%のシミュレーション実行時間の短縮が可能であることを確認した. キーワード:高度交通システム,無線通信システム,電波伝搬,モデリング,シミュレーション

A Performance Improvement of Large-scale ITS Wireless System

Simulations by Abstract Interference Model

Shigeru Kaneda

1,2,a)

Taka Maeno

3

Mineo Takai

2,4

Hirozumi Yamaguchi

2

Teruo Higashino

2

Received: April 4, 2013, Accepted: October 9, 2013

Abstract: Large-scale ITS wireless system simulation requires huge computational time because a transmit-ted frame will be received at all surrounding nodes and wireless propagation calculation is needed for each receiving nodes. It is strongly required to improve runtime performance of wireless network simulations. On the other hand, performance improvement obtained from abstraction degrades an accuracy of simulation results. Therefore, we need to take account of runtime performance as well as accuracy of results which are trade-off problem. In this paper, we propose abstraction methods of pathloss and fading calculations to im-prove simulation runtime for large-scale ITS wireless system simulations. In abstracted pathloss calculation model, we use more of cached pathloss values to improve runtime when a received signal power is less than a threshold. In abstracted fading calculation model, we neglect fading calculation when a received signal power is less than a threshold. We have implemented our proposed methods to network simulator and have evaluated simulation runtime and simulation accuracies with two-ray ground reflection and ITU-R P.1411 models. The evaluation shows that regardless of propagation models about 55% to 70% simulation runtime improvements are achieved with the very limited degradation of simulation accuracies.

Keywords: intelligent transportation systems, wireless communication systems, radio propagation, model-ing, simulation

1 スペースタイムエンジニアリング(米国本社)

Space-Time Engineering, LLC., Rolling Hills Estates, California 90274, USA

2 大阪大学

Osaka University, Suita, Osaka 565–0871, Japan

3 株式会社スペースタイムエンジニアリング

Space-Time Engineering Japan, Inc., Chiyoda, Tokyo 101– 0025, Japan

4 カリフォルニア大学ロサンゼルス校

University of California, Los Angeles, Los Angeles, Califor-nia 90095, USA

(2)

1.

はじめに

安全運転支援システム,隊列走行,車への情報配信など高 度道路交通システム(Intelligent Transport System: ITS) における無線通信システムの研究開発が進められている. このような研究開発では,想定される様々なシナリオにお ける大規模なシステム性能評価が必要であり,研究の初期 段階ではシミュレーションによる評価が有効である.また, より現実的あるいは開発フェーズに近い性能評価では,試 作機などの実機を使った評価も有効であり,実機とシミュ レーションによる仮想的なネットワークを連係動作させる エミュレーションによる評価も有効である. 無線通信システムの性能評価のために商用や非商用の多 くのシミュレータが存在するが,モデル化の方法がシミュ レーション結果の精度に大きく影響することが報告されて いる[1], [2].シミュレーションではモデル化のために様々 な仮定がおかれるが,特に無線通信においては電波伝搬や 物理レイヤのモデル化方法がシステムの性能評価結果に与 える影響は大きい[3], [4]. IEEE802.11無線LANシステムでは,同一チャネルを使用 しているすべてのノードがチャネルの状態を監視し,Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance(CSMA/CA) 方式により競合を回避してチャネルを共用する.また,ITS における安全運転支援システムを実現する方法として,100 ミリ秒に1回自車両の情報をブロードキャストし周辺に自 車両の存在を知らせる仕組みがSAE J2735で規定されて いる[5].このような無線LANシステムを用いたITS無線 システムシミュレーションでは,1つのノードのフレーム 送信に対して宛先ノードか否かにかかわらず周辺のすべて のノードにおいてフレームの受信処理が発生し,システム レベルの大規模なシミュレーションではフレームの受信に 関連する処理に多くの計算量が発生する.よって,ITSに おける無線通信システムのシミュレーションを効率良く行 うためには計算量やシミュレーション精度の観点で適切に モデル化を行うことが重要となる[6]. ネットワークシミュレータ自体を比較評価する試みも実 施されており,シミュレーションの実行速度やメモリ使用 量の比較が行われている[7], [8], [9].また,無線ネットワー クのシミュレーションではいくつかの高速化手法が提案さ れている.文献[10], [11], [12]では,IEEE802.11のMAC を対象にした高速化方法について検討が行われている.こ れらは,本論文で提案するパスロス計算やフェージング計 算とは異なる領域での高速化であり,我々の提案する手法 と組み合わせて使うことでさらなる高速化が図れること が期待できる.文献[13], [14]では,Long Term Evolution

(LTE)を対象としたシミュレーションおよび高速化手法

について述べられている.これらはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)方式によるセルラシ

ステムにおいて,フェージング計算の高速化が行われてい る.これらは,本論文とは異なる無線システムを仮定して おり,また,すべての通信ノードが動き回る本論文での想 定とは異なる固定基地局からの干渉を想定しており,本論 文の想定環境において適用することは難しい.さらに,電 波伝搬レイヤについてもいくつかの高速化の検討が行われ ている[15], [16], [17].これらの一部は,商用や非商用のシ ミュレータに実装されている.基本的な手法としては,シ グナルの強さが閾値以下の場合,または,送受信点間の距 離が一定以上の場合にノードに受信イベントを登録しない という方法がある.あるいは,過去の履歴を用いてSINR

(Signal to Interference plus Noise Ratio)を推定すること で受信イベントの処理を削減する方法がある.これらの手 法は受信イベント処理自体を省略するため高速化が図れる ものの,SINRの値の変化によりフレームの受信可否判断 結果が変わってくる可能性がありシミュレーション結果に 少なくない影響を与える. このようにモデルの抽象化による高速化を行うとシミュ レーション精度に影響を与えるため,速度と精度にはト レードオフ関係がある.我々は,ITS無線システムのシ ミュレーションを対象に,シミュレーション結果への影響 を最小限に抑えたうえで高速化を実現するためのパスロス 計算とフェージング計算のアブストラクトモデルを提案す る.パスロス計算の高速化では,ある受信電力閾値以下の 場合にキャッシュしておいたパスロスを利用する頻度を 増やすことでパスロス計算を削減する.フェージング計算 の高速化では,ある受信電力閾値以下の場合にフェージン グの計算を省略することで高速化を行う.はじめに,無線 ネットワークシミュレーションにおけるフレームの受信処 理について述べ,シミュレーション実行時間が増加する要 因について説明する.続いて,パスロス計算とフェージン グ計算について,新たに提案した高速化手法について述べ, 提案手法をネットワークシミュレータに実装しシミュレー ション実行時間とシミュレーション結果への影響について 評価した結果を述べる.

2.

ITS

無線システムシミュレーション

無線LANを用いたITS無線システムシミュレーション では,1つのノードの送信に対して,周辺のすべてのノー ドがシグナルを受信するため,n台のノードがそれぞれ1 回パケットを送信する場合には,n × (n − 1)回のパケッ トの受信イベントが発生する.ITSにおける安全運転支援 システムに適用可能なBasic Safety Message(BSM)[5]で は,各車両が100ミリ秒に1回フレームを送信する.BSM

本論文の内容は2012年7月のマルチメディア,分散,協調とモ バイル(DICOMO2012)シンポジウム2012にて報告され,モ バイルコンピューティングとユビキタス通信研究会主査により情 報処理学会論文誌ジャーナルへの掲載が推薦された論文である.

(3)

1 干渉波の到来とSINRの変動

Fig. 1 Arrivals of interferers and changes of SINR.

を実装している車両が1,000台ある場合には,1秒間のシ ミュレーションに約1,000万回のフレームの受信イベント が発生することとなる.また,無線ネットワークシミュ レーションにおける計算量は一連のパケットの受信処理数 にほぼ比例するため,シミュレーションの実行時間はノー ド数の2乗にほぼ比例することが知られている. Scenargie [18]やQualNet [19]などの一般的な無線ネット ワークシミュレータにおける無線LANシステムのパケッ トの受信処理は,以下のような手順で行われる. 1. 送信ノードにおいてアプリケーション層からPHY層 までの処理を行う. 2. 周辺の受信ノードに対してフレームの受信開始イベン トおよび受信終了イベントを登録する. 3. 受信ノードにおいて,フレームの受信開始から受信終 了まで,SINRに対するビットエラーの確率をもとに フレームの受信可否を判断する. 4. フレームが正常に受信できた場合は,MAC層以上の 上位レイヤの処理を行う. 3では,SINRを算出する必要がある.SINRは,以下の 式で定義され,所望波および干渉波の受信電力,および, 雑音電力から求まる. SINR = PR N +PI (1) ただし,PRは所望波電力(mW),PIは干渉波電力(mW), Nは雑音電力(mW). 図1は,所望波の受信中に,複数の干渉波が届いた場合 のSINRの変化を模式的に示したものである.図に示すよ うに,フレームの受信中は干渉波の強さによってSINRは 変動し受信確率が変化するため,フレームの受信可否を適 切に判定するためには所望波だけでなく干渉波の受信電力 を求める必要がある.また,受信電力PRは,式(2)で定 義される.伝搬損失は,距離や遮蔽物による減衰(パスロ ス)およびマルチパスによる瞬時変動(フェージング)に よって定まる. 図2 シミュレーション実行時間の割合

Fig. 2 Proportions of simulation runtime.

PR[mW] = PT L (2) ただし,PT は送信電力(mW),Lは伝搬損失. 図2は,システムシミュレータScenargieを使用し,200 台の車両が定期的にパケットを送信するITSのシミュレー ションシナリオを実行した場合のシミュレーション実行時 間の内訳を示している.電波伝搬モデルとして2波モデ ル[20]およびITU-R P.1411 [21]を使用した(その他のパ ラメータは4.1節で述べる).図2より,パスロス計算お よびフェージング計算が計算時間の大部分を占めているこ とが確認できる.よって,これらの計算量を削減すること は,シミュレーション全体の高速化に寄与する割合が高い. 以上より,ITS無線システムシミュレーションを高速化 するためには,フレームの受信処理に関連する計算量を削 減することが重要であり,パスロス計算およびフェージン グの計算を高速化することが1つの方法である.同時にパ スロスやフェージングの計算結果はSINRの値に直結しフ レームの受信可否に影響を与えるため,シミュレーション 結果への影響を最小限に抑えたうえでモデルの抽象化を行 うことが求められる.

3.

アブストラクトモデル

前章で述べたように,ITS無線システムシミュレーショ ンを高速化するためには,電波伝搬に関連する計算量を削 減することがシミュレーション全体への高速化につなが

(4)

3 2波モデル使用時の受信電力

Fig. 3 Received power calculated with two-ray ground

reflec-tion model. る.そこで,我々はパスロス計算およびフェージング計算 に関するアブストラクトモデルを提案する. 3.1 パスロス計算高速化 パスロス計算の高速化手法として,フレームの送受信の たびにパスロスを計算するのではなく,送信ノードまたは 受信ノードの位置の変動が小さい場合は前回計算しキャッ シュしておいたパスロス値を使用する手法がある.パスロ スは送受信ノード間の距離などに基づいて算出されるが, 距離の変動が小さい場合はパスロスの変動も小さいため, ある程度の位置情報の粒度をもって送受信ノードの位置 として反映させる.この手法は既存のネットワークシミュ レータでも使用されている[18].我々はこの手法を高度化 し,受信電力の値に応じて,位置情報更新の粒度を動的に変 化させる方法を提案する.たとえば,電波伝搬モデルとし て2波モデル[20]を使用した場合に,送信電力を20 dBm と仮定すると受信電力は,図3のように表される(送受信 ノードのアンテナ高は,いずれも1.5 mと仮定).2波モデ ルは,以下の近似式で表すことができ,距離の4乗に比例 する関数となる. 2波モデルによるパスロス:

LP[dB] = 40 Log(d) − 20 Log(hT)− 20 Log(hR) (3)

ただし,LP はパスロス,dは送受信点間の距離[m],hT お よびhRはそれぞれ送信ノード,受信ノードのアンテナ高 をしめす. ここで,2点間の距離が100 mから120 mに20 m変化 した場合と1,000 mから1,020 mに20 m変化した場合の2 通りを仮定すると,前者は受信電力が3.17 dB変化するが, 後者は0.34 dBしか変化しない.つまり,送受信ノード間 の距離が短い領域では距離の変動に対する受信電力の変動 は非常に大きいが,送受信ノード間の距離が長い場合は距 離の変動に対する受信電力の変動は小さい.また,本論文 では電波伝搬モデルとしてITU-R P.1411 [21]を用いた評 価も行う.ITU-R P.1411は,ITSにおける車車間通信の 図4 フェージングによる受信電力の短時間変動

Fig. 4 Short time fluctuation of RSSI by fading.

シミュレーションなどによく使われるモデルであり,建物 による遮蔽を考慮したモデルである.本モデルでも見通し 内(LOS),または,見通し外(NLOS)で使用される式は 異なるものの,いずれも距離に関する関数として定義され 距離変化に対するパスロスの変化は2波モデルと同様の傾 向を持つ. そこで,送受信点間の距離が相対的に近く,受信電力が 閾値以上の場合は通常の位置情報更新の粒度(たとえば, 1 m)を用い,送受信点間の距離が相対的に遠く,受信電 力が閾値未満の場合は通常より大きい位置情報更新の粒 度(たとえば,10 m)を用いることでパスロスの計算頻度 を削減する方法を提案する.なお,受信電力は,いずれも フェージング考慮前の値である. 本方式では,距離の変化が受信電力へ与える影響が大き い領域(受信電力が閾値以上)では通常どおりのパスロス計 算を行い,受信電力へ与える影響が小さい領域(受信電力 が閾値未満)ではキャッシュを利用する頻度を多くするこ とでパスロスの計算量を削減する.より多くのキャッシュ を利用することでシミュレーション結果へ影響するものの 受信電力の変動は相対的に小さいため,その影響は限定的 になると想定される.なお,キャッシュ量はノードペアご とに保存された直近のパスロス値(8バイト)のみであり, 本提案方式によって必要なキャッシュ量は増加しない.ま た,キャッシュによるメモリ使用量のシミュレーション全 体に対する割合は非常に小さい. 3.2 フェージング計算高速化 無線伝搬環境では,距離に依存するパスロス以外にもマ ルチパス環境におけるフェージングの影響が受信電力の値 に大きな影響を与える.図4は,Jakesモデルに従って生 成したレイリーフェージングを仮定した受信電力の短時間 変動を示したものである[22].無線ネットワークを精度良 くシミュレーションするにはフェージングの影響を考慮す ることが重要であるが,2章で述べたようにフェージングの 計算量は比較的多い.我々はパスロス計算の高速化に続き, フェージング計算の高速化手法について検討を行った.た

(5)

とえば,所望波,干渉波1,干渉波2の受信電力がそれぞれ −50 dBm−70 dBm−90 dBm,熱雑音が−94 dBm(雑 音指数:10 dB,チャネル帯域幅:10 MHz,温度:290 K を仮定)の場合に,干渉波1の受信電力が−70 dBmか ら−65 dBmに変化すると,SINRは19.9 dBから15.0 dB へ変化する.一方,干渉波2の受信電力が−90 dBmから −85 dBmに変化すると,SINRは19.9 dBから19.8 dBに しか変化しない.つまり,相対的に強い電力の干渉波は, 受信電力の変化によるSINRの変化は大きいが,相対的に 弱い電力の干渉波は,受信電力の変化がSINRに与える影 響は小さい.また,雑音が大きくなれば,干渉波電力の変 化のSINRに与える影響は小さくなる. そこで,受信電力が閾値以上の場合はフェージングを考 慮し,受信電力が閾値未満の場合はフェージングを考慮せ ずフェージングの計算を省略するという方法を提案する. 本方式では,SINRへの影響が大きくフレームの送受信 判定に大きな影響を与える可能性のある受信電力の大き いフレームの受信については通常どおりフェージングの 計算を行い,受信電力の小さいフレームの受信については フェージングの計算を省略することで計算量を削減する. フェージングの計算を省略することで,シミュレーション 結果へ影響するもののSINRの値への影響が大きい受信電 力の高いフレームは,通常どおりのフェージングの計算を 行うため,シミュレーション結果への影響は限定的となる と想定される.

4.

性能評価

前章で述べたパスロス計算およびフェージング計算の高 速化手法の有効性を検証するために,提案手法をシステム シミュレータScenargie [18]に実装しシミュレーション実 行時間およびシミュレーション結果への影響を評価した. 4.1 シミュレーションシナリオ 車車間通信を用いたITS無線システムのシミュレーショ ンシナリオを構築した.シナリオは表1に示す設定を用い た.車両数は,大規模なシミュレーションを想定しシミュ レーションエリア内に通信機を持った車両が200台,400 台,600台,800台,1,000台存在する5つの場合を仮定し た.アプリケーションは,安全運転支援システムを想定し, CBRブロードキャストにより100ミリ秒に1回自車両情報 を周辺に通知する通信を用いた.通信システムは車車間通 信などのITS無線システムとして利用されるIEEE802.11p を用い,上位層はUDP/IPを用いた.IEEE802.11pは, ITS無線通信のためにIEEE802.11システムのチャネルの 帯域幅やEDCA(Enhanced Distributed Channel. Access) のパラメータを拡張したものであり,IEEE802.11a/b/g/n

など他の無線LANシステムと同様にCSMA/CA方式に よるアクセス制御を用いた通信方式である.よって,他の

1 シナリオ設定

Table 1 Scenario setting.

5 シミュレーショントポロジ

Fig. 5 Simulation topology.

無線LANシステムを使用した場合にも本提案方式を適用 することができる.電波伝搬モデルは,2波モデルおよび ITU-R P.1411を用いた.2波モデルは,建物による遮蔽を 考慮しない理想的な環境を想定したものであり,チャネル 周波数と送受信点間の距離からパスロスが定まる.ITU-R P.1411は建物による遮蔽を考慮したより現実的なモデルで あり,送受信点間の距離だけでなく見通しの有無を考慮し ている.車両が移動する道路ネットワークは,図5に示す ような片側1車線(道幅7.5 m)の道路が200 m間隔で格 子状に並んでいる2 km四方のエリアを想定した.道路以 外の部分には高さ10 mの建物が立っていることを仮定し ている.また,モビリティモデルは,Gis-Based Random Waypointモデルを使用し道路に沿って移動する車両の動 きを再現した.表1のシナリオ設定を使用した場合,干渉 がない状況でパケットの送受信が可能な距離は最大632 m である.よって,パケットの送信車両の位置にかかわらず パケットを直接受信できる位置にいる車両と受信できない 位置にいる車両とがつねに存在する形となり,偏りのない 評価が行えると考えられる.2波モデルの場合は主に送受 信ノード間の距離,ITU-R P.1411の場合は見通しの有無 と送受信ノード間の道なりの距離によってパスロスが定ま

(6)

2 計算機スペック

Table 2 Computer specification.

るため,他のトポロジについてもパスロスの算出に本質的 な違いはなく本提案方式を適用することができる. 本シナリオでは,車両数が200台の場合に398万回, 1,000台の場合9,990万回のパスロス計算およびフェージ ング計算が発生する状況である.評価は,パスロス計算を 高速化した場合,フェージング計算を高速化した場合,両 方の高速化を適用した場合の3通りについて,シミュレー ション実行速度とシミュレーション結果への影響を評価し た.シミュレーション実行時間は表2に示すスペックを持 つ計算機において,シミュレーション開始から終了までの 実時間として測定した.シミュレーション結果は,アプリ ケーションレイヤでのパケット到達率を用いた.ノードi におけるパケット到達率は式(4)で定義する.送信された パケットが他のすべてのノードで受信された場合にパケッ ト到達率は100%となる.また,パケット到達率の平均と 分散は,あるノード初期位置でシミュレーションを行った 場合の各ノードにおけるパケット到達率の全ノードに対す る平均値と分散を示している.シミュレーション結果への 影響をより詳細に確認するために平均値のみではなく分散 についても評価を実施した. ノードiにおけるパケット到達率 =ノードiにおける総パケット受信数 ÷ i以外のノードにおける総パケット送信数 (4) 4.2 パスロス計算高速化の効果 本節では,3.1節で述べたパスロス計算の高速化の効果 について評価した結果を述べる.電波伝搬モデルは2波モ デルおよびITU-R P.1411を使用した. はじめに,2波モデルを使用した場合のシミュレーショ ン結果について述べる.図6 は,車両数が200∼1,000台 の5つの場合において,受信電力閾値を−105 dBmから −85 dBmまで5 dBずつ変化させた際のシミュレーション 実行時間を示している.シミュレーション実行時間は,従 来手法の実行時間を100%とした場合の相対値を示してい る.なお,従来手法におけるシミュレーション実行時間 (絶対時間)はそれぞれ23秒(車両200台),98秒(車両 400台),234秒(車両600台),433秒(車両800台),699 秒(車両1,000台)である.位置情報更新の粒度は,受信 電力が閾値以上の場合は1 m,閾値未満の場合は10 mと した.図6 の示す結果より,パスロス計算の高速化を行 うことで,最大8%程度の高速化が図れることが確認でき た.また,閾値を上げ,よりパスロスのキャッシュを利用 図6 パスロス計算高速化によるシミュレーション実行時間(2波モ デル)

Fig. 6 Runtime performance with passloss calculation

opti-mization (Two-ray ground reflection model).

3 パケット到達率(%)の平均と分散(2波モデル)

Table 3 Average and variance of packet reception ratio (%)

(Two-ray ground reflection model).

する頻度を高くすることで,高速化の効果がより現れるこ とが確認できた.従来手法ではパスロス計算機会のうち約 20%程度しかキャッシュを利用していなかったのに対し, 提案手法において最もキャッシュの利用頻度が多い場合 (受信電力閾値:−85 dBm)は,約64%がキャッシュを利 用していた.また,シミュレーション結果への影響を確認 するために,アプリケーションレイヤにおけるパケット到 達率(%)の平均値および分散を表3に示す.表3から分 かるように,車両台数が200および1,000のいずれの場合 においてもパケット平均到達率および分散には大きな変化 はなく(最大誤差:0.5%以下),シミュレーション結果へ の影響は非常に限定的であることが確認できた. 図7および表4は,電波伝搬モデルとしてITU-R P.1411 を使用した場合のシミュレーション実行時間およびパケッ ト到達率の平均,分散をそれぞれ示している.従来手法に おけるシミュレーション実行時間はそれぞれ117秒(車両 200台),478秒(車両400台),1,094秒(車両600台), 1,932秒(車両800台),3,052秒(車両1,000台)である. 図7 より,パスロス計算の高速化により,60%以上のシ ミュレーション時間の削減が可能であることが確認できた. ITU-R P.1411のモデルは,2波モデルと異なり建物による 見通しの有無や回折を考慮したモデルであり,送受信点間

(7)

7 パスロス計算高速化によるシミュレーション実行時間(ITU-R P.1411)

Fig. 7 Runtime performance with passloss calculation

opti-mization (ITU-R P.1411).

4 パケット到達率(%)の平均と分散(ITU-R P.1411)

Table 4 Average and variance of packet reception ratio (%)

(ITU-R P.1411). の距離とアンテナ高で定まる2波モデルと比較して計算量 は多い.さらに,シミュレーション実行時間に占めるパス ロス計算の割合も高いため高速化のインパクトも大きい. また,表4に示すようにパケットの平均到達率の最大誤差 は1%以下(分散:0.54(車両200台),0.13(車両1,000 台))と軽微であり,シミュレーション結果の精度を維持し たままで大幅な高速化が図れることが確認できた.シミュ レーション実行時間やパケット到達率の受信電力閾値の違 いによる差は非常に小さいが,これは,ITU-R P.1411を 用いた場合,建物の影響により送受信ノード間が見通し外 の関係である場合が多く,受信電力の値が−85 dBm以下 の場合は全体の約97%,−105 dBm以下の場合は全体の約 90%を占めており,両者の間になる状況は全体の約7%と わずかであるためである.また,従来方式では,キャッ シュの利用率は約20%であるのに対して,提案手法では約 75%がキャッシュを利用しており,パスロスの計算回数を 大幅に削減できていることが確認できた. 以上より,シミュレーション全体に対するパスロスの計 算量の割合に応じて,本方式を適用することで,シミュ レーション結果への影響を最小限に抑えつつ数%から最大 60%程度のシミュレーション実行時間の削減が可能である ことを確認した. 図8 フェージング計算高速化によるシミュレーション実行時間(2 波モデル)

Fig. 8 Runtime performance with fading calculation

optimiza-tion (Two-ray ground reflecoptimiza-tion model).

5 パケット到達率(%)の平均と分散(2波モデル)

Table 5 Average and variance of packet reception ratio (%)

(Two-ray ground reflection model).

4.3 フェージング計算高速化の効果 本節では,3.2節で述べたフェージング計算の高速化手 法について,シミュレーションによりその有効性を検証し た結果について述べる.パスロス計算高速化の評価と同様 に4.1節で述べたシナリオを用いた.電波伝搬モデルは,2 波モデルまたはITU-R P.1411を使用した. はじめに,2波モデルを使用した場合のシミュレーショ ン結果について述べる.図8は,車両数が200台,400台, 600台,800台,1,000台の5つの場合において,受信電力 閾値を−105 dBmから−85 dBmまで5 dBずつ変化させた 際のシミュレーション実行時間を示している.シミュレー ション実行時間は,モデルの抽象化を行わない従来手法の 実行時間を100%とした場合の相対値を示している.表 5 は,車両数が200台および1,000台の際のパケット到達率 の平均と分散を示している.図8 に示すように,フェー ジング計算を行う閾値の値に応じて最大50%程度のシミュ レーション時間の削減が可能であることが確認できる.2 波モデルはパスロス計算がシミュレーション実行時間全体 に占める割合が低く相対的にフェージングの計算量が多い ため,4.2節のパスロス計算の高速化の場合とは対照的に, 結果として大きなシミュレーション時間の削減につながる ことが確認できる.受信電力閾値が−105 dBの場合は,約

(8)

9 フェージング計算高速化によるシミュレーション実行時間 (ITU-R P.1411)

Fig. 9 Runtime performance with fading calculation

optimiza-tion (ITU-R P.1411). 4%のフェージング計算を削減でき,閾値が−85 dBの場 合は,約77%のフェージング計算を削減している.また, 表5に示すように閾値が−90 dBm以下であれば,パケッ ト到達率の平均値と分散の変化は小さいが,閾値が−85 dB の場合は,パケット到達率が1割程度変化しておりシミュ レーション結果に与える影響としては無視できない大きさ となっている.シミュレーション結果を詳細に分析すると, 従来手法で所望波として受信できていたシグナルの一部に おいて,受信電力の低下によりプリアンブルの検出ができ ない,あるいは,SINRの悪化により受信エラーになって いることが分かった.その結果,受信フレーム数が低下し パケットの到達率が1割以上減少していた.これは,本シ ナリオではシグナルの検出レベルを−85 dBと設定してお り,従来手法で受信できていたシグナルがフェージング計 算を行わないことにより平均的に受信電力が低下し受信で きなくなったと考えられる.このため,シミュレーション 結果への影響を最小限に抑えるためには,受信電力の閾値 を−90 dBm以下に設定しておく必要がある.なお,パス ロス計算高速化の際にはこのようなシミュレーション結果 への影響は出ていないが,モデルの抽象化により受信電力 を本来より大きくとらえる場合と小さくとらえる場合が打 ち消しあい,パケット受信状況への影響が少なくなってい ると考えられる. 図9および表6に電波伝搬モデルとしてITU-R P.1411 を用いた場合のシミュレーション結果を示す.図9 より, フェージングの高速化により約10%程度シミュレーション 実行時間を削減できることが確認できる.受信電力閾値が −105 dBmの場合は,フェージングの計算回数(車両200 台の場合約246万回,車両1,000台の場合約6,195万回)を 約90%削減し,閾値が−85 dBmの場合は約97%削減して おり,フェージングの計算回数は大幅に削減されているこ とが確認できた.しかし,シミュレーション実行時間全体 に対するフェージングの計算量は相対的に小さいため,シ 表6 パケット到達率(%)の平均と分散(ITU-R P.1411)

Table 6 Average and variance of packet reception ratio (%)

(ITU-R P.1411).

10 パスロス計算・フェージング計算高速化によるシミュレー

ション実行時間(2波モデル)

Fig. 10 Runtime performance with pathloss and fading

calculation optimization (Two-ray ground reflection model). ミュレーション実行時間へのインパクトはそれほど大きく ないことが確認できる.また,表6より,2波モデルでの結 果と同様に受信電力閾値が−90 dBm以下の場合はパケッ ト到達率の平均値と分散の変化はほとんどなくシミュレー ション結果への影響はわずかであるが,閾値が−85 dBm の場合は,パケット到達率が1割程度変化しておりシミュ レーション結果への影響が大きい. 以上より,シミュレーション全体に対するフェージング の計算量の比率に応じて,本方式を適用することで,シ ミュレーション結果への影響を最小限に抑えた状態で10∼ 40%程度のシミュレーション実行時間の削減が可能である ことが確認できた.また,2波モデルの場合と同様に,受 信電力が−85 dBm前後でのフェージングの有無はフレー ム受信可否に対する影響が大きいため,フェージングの計 算を削減するためには,閾値を−90 dBm以下に設定する ことが重要と考えられる. 4.4 パスロス計算・フェージング計算高速化の効果 本節では,パスロス計算の高速化とフェージング計算の 高速化の両方を適用した場合のシミュレーション評価を実 施した.図10と表7に2波モデルを使用した場合の結果

(9)

7 パケット到達率(%)の平均と分散(2波モデル)

Table 7 Average and variance of packet reception ratio (%)

(Two-ray ground reflection model).

11 パスロス計算・フェージング計算高速化によるシミュレー

ション実行時間(ITU-R P.1411)

Fig. 11 Runtime performance with pathloss and fading

calcu-lation optimization (ITU-R P.1411).

8 パケット到達率(%)の平均と分散(ITU-R P.1411)

Table 8 Average and variance of packet reception ratio (%)

(ITU-R P.1411). を,図11と表8にITU-R P.1411を使用した場合の結果 をそれぞれ示す. 図10および図11より,2波モデルの場合は最大55%程 度,ITU-R P.1411の場合は最大70%程度の高速化が図れ ることが確認できた.また,表7と表8より,シミュレー ション結果への影響を抑えるためには,受信電力閾値を −90 dBm以下に設定することが必要であることも確認で きた.4.2節と4.3節の結果をふまえて総合的に判断する と,パスロス計算の高速化とフェージング計算の高速化は 打ち消すことなくそれぞれが高速化に寄与していることが 分かる.パスロス計算の占める割合が高い電波伝搬モデル の場合はパスロス計算の高速化が大きく寄与し,パスロス 計算の占める割合が小さい場合は,フェージング計算の高 速化が大きく寄与したことになる. 最後に,アプリケーションとしてFloodingを用いた場 合について評価した結果を述べる.Floodingは,ブロード キャストされたメッセージを受信したノードが再度ブロー ドキャストしていくことでメッセージを拡散していくア プリケーションである.ITSにおける安全運転支援システ ムの場合,事故などの緊急情報を周辺車両に周知する方法 として利用することができる.本シナリオでは,ノード1 が送信ノードとなり100ミリ秒に1回,128バイトのメッ セージを送信することを仮定した.アプリケーション設定 以外は,表1および4.1節で述べたシナリオ設定を用いた. シミュレーション結果は,式(5)および式(6)で定義され るメッセージ配信率とメッセージ到達遅延時間を用いた. 送信されたメッセージが,他のすべてのノードで受信され た場合にメッセージ配信率は100%となる.Floodingの場 合,メッセージ配信率が同じ場合でも経由したホップ数が 異なりメッセージ到達遅延時間が変化する場合があるため この2つの指標を用いた.なお,メッセージ配信率(また は,メッセージ到達遅延時間)の平均と分散は,あるノー ド初期位置でシミュレーションを行った場合の各ノードに おけるメッセージ配信率(または,メッセージ到達遅延時 間)の全ノードに対する平均値と分散を示している. ノードiにおけるメッセージ配信率 =ノードiにおける総メッセージ受信数 ÷総メッセージ送信数 (5) ノードiにおけるメッセージ到達遅延時間 =ノードiが受信した総メッセージの平均遅延時間 (6) ただし,ノードiにおけるメッセージmの平均遅延時間 は,メッセージmが送信された時刻からノードiがメッ セージmを受信した時刻までの時間. 前節と同様に電波伝搬モデルとして2波モデルとITU-R P.1411を使用した2通りについてシミュレーションを行っ た.図12と表9,表10は,2波モデルを使用した場合の シミュレーション実行時間,メッセージ配信率,メッセー ジ到達遅延時間を示している.図12よりCBRブロード キャストを用いた場合と同様に受信電力閾値の値に応じて 高速化が図れ,最大55%のシミュレーション時間の短縮が 可能であることが確認できる.表9 よりメッセージの配 信率はいずれの場合も100%であることが確認できる.ま た,表10より受信電力閾値が−90 dBm以下の場合はメッ セージ到着遅延時間の変化は1∼2%であるが,受信電力閾 値が−85 dBmの場合は変化が数十%とシミュレーション 結果への影響が大きいこと確認できる.なお,1ホップで

(10)

12 パスロス計算・フェージング計算高速化によるシミュレー ション実行時間(Flooding,2波モデル)

Fig. 12 Runtime performance with pathloss and fading

calcu-lation optimization (Flooding, Two-ray ground reflec-tion model).

9 メッセージ配信率(%)の平均と分散(Flooding,2波モデル)

Table 9 Average and variance of message delivery ratio (%)

(Flooding, Two-ray ground reflection model).

10 メッセージ到達遅延時間(秒)の平均と分散(Flooding,2 波モデル)

Table 10 Average and variance of message delivery delay (sec)

(Flooding, Two-ray ground reflection model).

メッセージを受信できる車両もいるためメッセージ到達遅 延時間は平均として30ミリ秒程度となっている.続いて, ITU-R P.1411を使用した場合について述べる.図 13と 表11,表12はITU-R P.1411を使用したシミュレーショ ンの結果を示している.図 13 より,CBRブロードキャ ストを使用した場合と同様に最大70%の実行時間の削減が 可能であることが確認できる.また,表10,表11 より, 車両200台の場合に,シミュレーション結果への影響が比 較的大きいことが確認できる.受信電力閾値が−85 dBm13 パスロス計算・フェージング計算高速化によるシミュレー ション実行時間(Flooding,ITU-R P.1411)

Fig. 13 Runtime performance with pathloss and fading

calcu-lation optimization (Flooding, ITU-R P.1411).

11 メッセージ配信率(%)の平均と分散(Flooding,ITU-R P.1411)

Table 11 Average and variance of message delivery ratio (%)

(Flooding, ITU-R P.1411).

12 メッセージ到達遅延時間(秒)の平均と分散(Flooding, ITU-R P.1411)

Table 12 Average and variance of message delivery delay (sec)

(Flooding, ITU-R P.1411). の場合は,他のシミュレーションと同様に従来手法に比べ メッセージ配信率の平均値や分散に20数%の変化があり シミュレーション結果への影響が大きい.さらに,受信電 力閾値が−90 dBm以下の場合でもメッセージ配信率の変 化は数%∼10%と比較的大きい.これは,Floodingアプリ ケーションでは,1車両のパケット(メッセージ)の受信の 可否が他の車両のメッセージの受信の可否に影響を与える ため,車両数が少ない場合は1つのメッセージの受信結果 がネットワーク全体の性能に大きく影響を与えているため

(11)

と考えられる.一方,車両台数が1,000台の場合は,メッ セージを転送できる車両が多くあり,メッセージ配信率も 100%でありメッセージ到達遅延時間の誤差も小さい. 以上の結果より,2つの高速化方式を組み合わせること で電波伝搬モデルによらずに大幅な高速化が可能であるこ とが分かる.ただし,Floodingアプリケーションを少ない 車両台数を仮定してシミュレーションする場合は,1つの メッセージの受信可否が他の車両のメッセージの受信に影 響を与えメッセージ配信率や到達遅延時間に影響を与える 場合があることが分かった.

5.

まとめ

本論文では,大規模なITS無線システムシミュレーショ ンの高速化手法として,パスロスおよびフェージングの処 理を抽象化することで高速化する手法を提案した.送受信 ノード間の受信電力を閾値とし,閾値以下のシグナルにつ いてパスロスの計算を省略しキャッシュを利用する頻度 を高くすることで,2波モデルの場合に最大8%,ITU-R P.1411の場合に最大60%の高速化が可能であることを確 認した.また,シミュレーション結果への影響はわずかで, パケットの平均到達率の誤差は最大1%に抑えられること を確認した.また,受信電力が閾値以下のシグナルについ てフェージングの影響を考慮せず計算量を削減すること で,2波モデルの場合に最大50%,ITU-R P.1411の場合に 最大10%程度のシミュレーション実行時間の削減が可能で あることを示した.キャリアセンスレベルでのシグナルの フェージングの有無はフレームの受信可否への影響が大き いため,シミュレーション結果への影響を最小化するため には閾値を−90 dBm以下に設定する必要があることを確 認した.さらに,パスロス計算の高速化とフェージング計 算の高速化を組み合わせることで,2波モデルの場合は最 大55%程度,ITU-R P.1411の場合は最大70%程度の高速 化が図れることが確認できた.ただし,車両台数が少ない 場合にFloodingアプリケーションを使用すると,1つのパ ケットの受信可否がネットワーク全体へ影響を与え,結果 としてメッセージ配信率が最大10%程度変化することがあ ることを確認した.2つの高速化方式を組み合わせて使用 することで,パスロス計算のシミュレーション実行時間全 体に占める割合によらず高速化が可能であり,電波伝搬モ デルによらず大幅な高速化が可能であることを確認した. 本手法を用いることで,ITSにおける安全運転支援シス テムを想定した無線システムシミュレーションにおいて, シミュレーション結果への影響を最小限に抑えたうえで, 大幅なシミュレーション実行時間の改善が可能であること を示した.今後はSINRなどの受信電力以外の指標を閾値 とした場合の評価やITU-R P.1411モデルにおいて見通し 内(外)から見通し外(内)へ移動した場合などパスロスの 値が大きく変化する場合を考慮することでよりシミュレー ション結果への影響を低減させる方式の検討などを行って いく予定である. 参考文献

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金田 茂

(正会員) 平成13年東京工業大学工学部電気電 子工学科卒業.平成15年同大学大学 院理工学研究科修士課程修了.同年株 式会社NTTドコモ入社.現在,米国 法人スペースタイムエンジニアリング Director of Engineering,大阪大学大 学院情報科学研究科博士後期課程在学.移動通信システ ム,性能評価手法に関する研究・開発に従事.電子情報通 信学会会員.

前野 誉

平成20年新潟大学大学院修士課程修 了.同年,(株)スペースタイムエン ジニアリング入社.以来,移動通信シ ステムに関する研究・開発に従事.

高井 峰生

平成9年早稲田大学大学院博士後期課 程修了.平成19年米国法人スペース タイムエンジニアリング設立.現在, カリフォルニア大学ロサンゼルス校主 幹開発研究員ならびに大阪大学大学院 情報科学研究科招へい准教授.モバイ ル通信システムおよびその評価方法についての研究に従事. ACM,IEEE各会員.

山口 弘純

(正会員) 平成6年大阪大学基礎工学部情報工 学科卒業.平成10年同大学大学院基 礎工学研究科博士後期課程修了.同年 オタワ大学客員研究員.平成11年大 阪大学大学院基礎工学研究科助手.平 成14年同大学院情報科学研究科助手. 平成19年より同大学院情報科学研究科准教授.博士(工 学).モバイルコンピューティングに関する研究に従事. IEEE,電子情報通信学会各会員.

東野 輝夫

(フェロー) 昭和54年大阪大学基礎工学部情報工 学科卒業.昭和59年同大学大学院基 礎工学研究科博士後期課程修了.同年 同大学助手.現在,同大学大学院情報 科学研究科教授.工学博士.分散シス テム,通信プロトコル,モバイルコン ピューティング等の研究に従事.電子情報通信学会,ACM

図 1 干渉波の到来と SINR の変動
図 3 2 波モデル使用時の受信電力
表 1 シナリオ設定 Table 1 Scenario setting.
表 2 計算機スペック Table 2 Computer specification.
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参照

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