シンポジムウ
〔東女医大誌 第56巻 第2号頁 171∼178 昭和61年2月〕Agingと疾病
6)神経系の老化
東京女子医科大学 神経内科
マル ヤマ ショウ イチ:丸 山 勝 一
(受付 昭和60年12月6日)Aging in the Central Neuvous System
Shoichi Maruyama, M.D.
Department of Neurology, Neurological Institute
TokyQ Women’s Medical College
The histopathological chagnes with aging process are observed in CNS。 In these findings, both the changes in nervous tissue itself and the secondary lesions of the nerve tissue irlvolved with the blood vessels nourishing them are included. Alzheimer disease is one of the examples of the former type and cerebral infarction caused by atheromatous changes of the cerebral arteries is of the latter.
In the neurological practices for the aged, we should take those two types of the pathological changes into consideration.
In many literatures of aging, we can seen the brain weightloss, the posterior column degeneration in the spinal cord, decrease of the numbers of fibers in the peripheral nerve and histopathological changes such as neurofibrillary changes, senile plaque in the central nerves system. Some of them are closely
related to the age.
In our department, many reserach works cencernig to aging processes were performed.
From among those works, we demonstrated aging changes of apical dendritic spine and neuronal loss in the nucleus basalis of Mynert(nbM)in Pick disease.
In the former study, progressive decrease of spines was recognized with aging. It is postulated that loss of spine;i.e., the decrease of synaptic input may induce difficulties of movement or disturbance of ADL in the aged.
In the latter, quantitative study showed the number of neurons and maximum population density of the nbM in Pick disease was reduced, when compared with control values. However, some cases did not show the decrease of population density. Those results were seemed to imply that neuronal loss in the nbM might not play a major role in the expression of dementia of Pick disease。
In conclusion, clinical, neurophysiological, neurochemica1. neuropath910gical and other basic InedicaI methods are needed to elucidate the etiology or mechanism of aging in the central nervous system.
神経系の老化
生体はすべて胎生期に始まって,死に至るまで,
生物学的な発達をとげて成熟後は次第に退行現象
が進んで遂に死に至る.
近年平均寿命が著しく延長するとともに,この
「老化」についての関心は著しくたかまって来てい
る.医学的にも,いかにより整った「老化」をた
どらせるべきかが大きな命題であり,種々努力が
払われまたそれぞれ多くの意見がある.神経系に
ついて言えば,平均寿命の延長とともに病的老年
性変化の一つである痴呆の問題が,極めて大きな
社会的関心事となって来ていることは周知のごと
くで,此処に改めて述べるまでもない.
今回,本学会でのシンポジウムとして各臓器の
老化,或はAgingについて各専門領域毎の討議が
行なわれたのも,この意味で実に時宣を得たもの
と言えよう.その一項として「神経系のAging」について担
当させていただいたので,以下その概略を述べさ
せていただくこととする.
1.老化の基本的特徴
老化については多くの学者が,その定義づけを
行なっているが,その基本的な特徴としては多く,
1.生体の予備能の減退,2.或る機能を有する細
胞群の数の減少,更に,3.残存している細胞の
個々の機能の低下が挙げられている.これを神経
系で見ると,形態学的変化として,神経細胞数の
減少,種々の沈着物の増加・蓄積,神経細胞や支
持組織の退行変性などが挙げられるが,機能的な
面では,脳波など神経生理学的機能の変化,種々
の臨床検査値の異常,過剰反応(denervation
hypersensitivityなど),運動系の巧緻性の減退,
知覚系の低下,知能・感情・意志などの障害など
種々の変化が観察される.
2.形態学的変化
A.脳
肉眼的形態的変化として脳重量・脳室や脳溝の
拡大,脳回萎縮など古くから注目されているもの
のほか,顕微鏡的組織学的な変化にも種々なもの
が知られている.
脳の重量の大小は,必ずしも脳全体の機能と対
応するものではないことは勿論であるが,多くの
学者のDataでは多少の差はあるにせよ脳重量の
平均値は加齢とともに漸減している(図1)1).男
性では20∼40歳で最大値を示し,以後減少し,60
歳以上ではその傾向はより著明となる.女性では
20歳前後に最大値を示し,以後漸減,60歳以降急
激に減少する.これが組織中の何の減少によるか
については充分明らかではないが,脳における神
経細胞の減少は老年者脳重量減少の大きな要因の
一つとされており,組織学的に大脳皮質細胞,小
脳プルキニエ細胞などについての変化が研究さ
れ,いずれも加齢とともに漸少することが確認さ
れている.また一方,細胞のみでなくaxonの変化につい
ても注目されている.我々の教室の渡辺2)は,大脳
皮質神経細胞における他細胞からの刺激受容に関
与するスパインについて検討を加え,大脳皮質運
動領のapical dondriteに見られるスパイソ数は,
各年代ともdendriteの起始部から200∼350μの
脳 重 曾 1,500 1,400 1β00 1,200 1,100 響P帽曾一曹曹”門一秩u一一一一一一一一一冒■曽■一’一一一一一一一一一「”一マ 1 1 1 1 1 1l I I l I 匹 の ふ l l !\1 ♂〆;・〈、、魅1,! し1 ロ g レの
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ロ に } l l l I l I I 1 ■ 匿 「 ■ 「 1 聖 」 l l 15 20 30 40 50 60 年 齢 (歳) 図1 成人脳重量の年齢的推移(小川,細川) 70 8040 スパ 3D 、、 ’ 、 イン数 ’ C/∠:=響、・一\ 、、 嚇 − 亀 「へ 、 (乃0μ) 20 ’ク9 \\ ㍉・・5・財 、 \ iD ll;1穿 0 50 PO I50 200 250 300 350 ‘00 450 500(μm) 神経細胞よりの距離 図2 神経細胞より50μ毎にみたapical dendrite上 のスパイン数の各年代別の変化.(渡辺) 表1 後索変性のあるものの頻度は加齢とともに増 秘する年代と脊髄後索,後根変性 年 代 例数 後索変性(+) 後根変性(+) 限局根変性 60∼69 V0∼79 W0∼ 39 P41 P39 17(44%) W4(60) X6(69) 16(41%) V9(56) X0(65) 3(8%) Q5(18) R1(22) 計 319 197(62 ) 185(58) 59(19) 30ρ00 柔 工 数 0.6 0.5 0.4 (/1μ) 0.3 0,2 0.1 0 64才以下 65才以上 (n=8) (n=22) P<O,0005 図3 apical dendriteのスパイソ数の加齢変化,65歳 以上では有意の減少を認める.(渡辺) 25,000 20,000で1− 髄 線 維 グ) 15、000 数 / 蹟皿2 ユ0,000 5,000 0 殴 x \ ’ ’ 、 、 \ \ \ 一 全イ玉髄平泉糸毛 一一一 ャ径有髄線維 一一一… 蛹a有髄線維 \. \./一一一\,/ ’ 、 ’ 、 ゴ ヘ マロ ’ 「噛、r一一8
部位でピークを示しているが,50∼69歳代ですで
にスパイン数が減少し,加齢とともに著しくなっ
ていること(図2),dendrite 1μ当りのスパイン
数は65歳以上の群で有意に減少し(図3),またそ
の減少は4μ以下の細いdendriteで著明であるこ
とを碓認した.これらの事実より,スパイン数の
減少は,Synaptic llnputの減少が推測せしめ,加
齢に伴う運動能力の低下に関連する可能性のある
ことを示唆するものとしている.見方によれぽ,
先に述べた残存せる神経細胞の機能を左右する要
素の一つとも言えよう.
B.脊髄・末梢神経
脊髄では,特に後索の変性や,後根神経節細胞
0 612 5 10 20 30 40 50 60 70 80 90 月 年 年 齢 図4 腓腹神経における有髄線維密度(有髄線維の数/ Inm2)の年齢変化 20歳代以後の減少の程度は小径線維(破線)よりも 大径線維(点線)の方がより著しい,(東儀)の減少などの変化が剖検例の検索によって指摘さ
れている.我国では亀山3)が,60歳以上の190例を
検討した報告がある.それによると後索変性を示
す症例の頻度は加齢とともに増加する傾向を示し
ている(表1).また他方,末梢神経についても加
齢による変化の報告がある4)(図4).腓腹神経に
おいては,全有髄神経の減少があるが,大径線維
の減少のほうが小径線維の減少よりも著しく目
立っている。C.老人脳における病理組織学的変化
次に老人脳の組織学的特徴については,平井が
まとめている5)(表2).第1群ではより生理的とえられる老人変化とし
て神経細胞の減数と単純萎縮,リポフスチン,ア
ミロイド小体,軸索ジストロフィー,マリネスコ
表2 老人脳における微細所見(平井) 第1群(より生理的と考えられる老化性変化) i)神経細胞の減数 ii)単純萎縮 iii)リポフスチン(Lipofuscin消耗色素) iv)アミロイド小体(Corpora amylacea) v)軸索ジストロフィー(Axonal dystrophy) vi)マリネスコ小体(Marinesco body) vii)トルペドー(Torpedo)形成 など 第2群(より病的と考えられる老化性変化) i)アルツハイマー神経原線維変化
(Alzheimer’s neurofibrillary change) 五)老人斑(Senile plaque) iii)血管アミロイド変性(Amyloid angiopathy) iv)レビー小体(Lewy’s body) v)穎粒空胞変性(Granulovacuolar degeneration) vi)ピック球(Pick cell) vii)平野小体(Hirano body) など
溺麟
騒
藝・脇
麟・..鱒雛
蟷
℃・.、訊響
写真1 小脳プルキニン細胞層におけるトルビード形 成(銀染色) ・『騨恥繍
.横蝦 写真3 老人斑(銀染色) 墾 写真2 アルツハイマー神経原線維変化(銀染色)小体,トリピドー(Torpedo)(写真1)などが挙
げられ,また第2群即ち,より病的と考えられる
変化としてアルツハイマー原線維変化(写真2),
写真4 青斑核におけるLewy小体
老人斑(写真3),血管アミロイド変性レビー小体
(写真4),穎粒空胞変性,ピック球,平野小体な
どが挙げられている,
此処で重要なことは,より生理的と考えられる
ものであっても,その数が著しく多ければ,病的
状態と考えられるし,また第2群のより病的と考
えられる変化も,正常と考えられる個体に於いて
も少数ながら認められ得るので,単にその存否に
よって診断することは誤りであることに注意する
必要がある.D.脳血管の変化による障害
かかる神経細胞そのものの変化のほか,脳に於
いては,それを灌流する脳動脈の病変によっても
種々の障害が二次的に生じ得ることは言うまでも
ない.かかる血管変化の加齢との関連も,研究さ
れている.BakerはWillis動脈輪のアテローム硬化の加
齢に伴う変化について検討したが,彼によるとア
例数38 % 90 80 70 60 50 40一 119 282 383 372 193 82 年齢と脳動脈硬化 中大脳動脈(十) 65 70 75 80 85 町三齢と月肖動卿民硬イヒ (粁):50%以.ヒの狭窄。
図 5
90歳 (亀山)テローム硬化は20歳代から出現,加齢とともにそ
の程度と頻度が増したという6).また,亀山ら7)の
Dataを(図5)に示す.即ち,50%以上の内肢狭
窄のある脳血管の頻度を求めて各年齢層でプロッ
トすると,中大脳動脈に於いては,65歳乃至70歳
以後,加齢とともにその頻度がほぼ直線的に増加
しているが,脳底動脈では此んど変動がない.呼
吸循環の中枢,自律神経系の高位中枢をその灌流
域にもつ椎骨脳底動脈に,50%以上狭窄を示す動
脈の頻度が加齢により特に増大しないことは,脳
底動脈の生命維持に対する意義について種々推測
し得るもので興味深い.
E.機能的変化について
1.脳血流量
脳血管の狭窄を有する症例の頻度が増すことは
上述したが,これらの血管変に伴って,脳血流量
が如何なる加齢変化を示すか,注目される所であ
る.諸家の報告を集めて検討したKety8)によれば
図6の如く,年齢の進むにつれて,脳血流量の減
少があり,逆に脳血管抵抗は増大していることが
示されている.これらの変化によって,脳におけ
る神経活動が強く影響されることが充分推測され
る.2.運動機能
老化とともに運動機能も低下することは知られ
ているが,眼球運動も障害される.特に輻較や,
上方注視に際して,著しい制限の認められること
が多い.運動の可能な角度は通常40.前後あるが,
CBF 100・ 90 80 70 60 50 40 39 CVR 3.0・ 2,6. 2.2 1.8 14 1.2 0.δ 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100歪ト 繭1} 年齢と脳血流量CBF(ml/互009脳/分)との関係L
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100f}三 歯餐 イド齢と脳1血L管抵手)tCVR(mmHg/ml/1009脳/分) との関係図 6
加齢とともに10.程度に著しく減ずるものもある.
瞳孔は老年者では縮瞳傾向があるとされている.
四肢筋には種々の萎縮が見られるが,脊椎の変
形によるものも多く認められる.概してびまん性
であるが,小手筋,母指球筋などの萎縮すること
も多い.筋トーヌスについては,Parkinson−like anyos−
tatic syndrome(Critchley), arteriosklerotischeMuskelstarre(Foerster), paratonic rigidity,
Gegenhaltenなどの記戴が多いが,これらは加齢
変化というよりは病巣の局在症候としての色彩が
強い.深部反射については,アキレス腱反射の大きさ
と潜時とを検討したMankovskij&Timkoの報
告19)があるが,大きさには特に年齢との相関はな
くほぼ一定であるが,潜時は加齢とともに著明に
延長していた(表3).
失調歩行も老年ではしぼしぼ認められ,broad一
表3 各年齢のアキレス腱反射の大きさ(cm)および 潜一時間(msec)平均値±標準偏差(Mankovs− kij&Timko,1973) 年齢(歳) 大きさ 潜伏時間 16−32 165±1.8 32.0±0.39 36.4−27.6 60−74 164±1.8 38.5±0.8 45.0−33.0 75−89 163±1.9 40.4±0.6 45.0−36.0
basedのataxic歩行になることが多い.プルキン
エ・細胞の脱落による可能性のほか,すでに述べた
脊髄後索の変化に負う所も少なくないと考えられ
る.錐体外路系の障害による不随意運動として振戦
や,ロジスキネジーなどがしぼしぼ認められるが,−
老人性振戦は,いわゆる生理的振戦に近いもので,
固縮を伴わないことから,パーキンソン病とは区
別し得る.また生理学的検査の一つとして視覚刺激に対す
る反応時間を測定する方法があるが,10歳代で早
くなって40歳代後からやや延長するにせよほぼ一
定であったものが60歳代後半から比較的著しく延
長するという報告があり,多系統の中枢神経を介
する場合には,加齢の影響が出易いと考えられる.
最近では種々の脳幹反応について同じく加齢との
関連が検討されつつある.
老年期神経疾患について
老年者における神経疾患の特徴として,1)神経
系自体の老化によるもの(老年性退行変性),2)
他臓器の老化による二次性のもの(癌,糖尿病,
動脈硬化性脳障害など),3)年齢と直接には余り
関係のないもの(炎症性疾患,脳腫瘍など),4)発
症に原因となるものが長期間続く必要がある為,
老年期になって初めて発症するもの(脊髄霧,ア
ルコール中毒など),5)脱髄疾患や特殊な筋疾患
は少ない.などが挙げられる.
平井’o)によれぽ,老人に見られる神経疾患の頻
度は表4の如くである.脳血管障害が最も多く,
64.4%を占め,変性疾患が13.0%とこれに次いで
表4 老人にみられる主な神経疾患
(東大老人科における12年間の40歳以上の神経疾患症例)(平井)
疾 患 名 患者数 閧゚る割合(%)神経疾患患者中に ы〟i%)全患者中に占める 脳血管性障害 820 64.4 12.6 退行変性疾患 165 13.0 2.5 ・パーキンソン病 62 4.9 1.0 老年ないし初老期痴 @呆 42 3.3 0.6 ・運動ニューロン疾患 23 1.8 0.4 ・老人性振戦 20 1.6 0.3 ・脊髄小脳変性症 11 0.9 0.2 ・その他 7 0.6 頸部脊椎症 124 9.8L9
末梢性ニユーロパ `ー 73 5.7 1.1脳腫瘍
20 1.6 0.3 脊髄疾患 i頸部脊椎症を除く) 20 1.6 0.3 ミオパチー 8 0.6 0.1 その他 42 3.3 0.6 計 1272 100.0 19.4いる.このほか,脊椎の変形によるもの,末梢性
ニューロパチーなどがあるが,いずれも数パーセ
ント前後に過ぎな:い.老年期に見られる神経疾患は多いが,主たる症
候として痴呆,錐体外路症状,小脳症状,筋病変,
自律神経症状などを主とする各群に分けられる
(表5)11).痴呆を呈し得る疾患に多数あるが,老化の一症
候として重要である,診断基準として厚生省の変
性疾患研究班痴呆班でまとめた診断期準12)を表6
に挙げる.初老期痴呆,老年痴呆がよく知られているが,
最近では脳梗塞発作の繰り返しや,長期間にわた
る高血圧によるラクネ発作などによって生じた多
発性梗塞巣による.いわゆる多発脳梗塞性痴呆の
数が増して来ている.治療の面で多少なりとも希
望的側面のあることから,これら脳血管性痴呆と,
変性による痴呆との鑑別は重要である.Alz−
heimer痴呆, Alzheimer型老年痴呆の診断基準,
脳血管性痴呆(多発梗塞痴呆)の診断基準も併せ
示しておく(表7,表8).
Alzheimer病をはじめ痴呆を伴う種々の疾患
では,大脳新皮質に直接投射していると考えられ
表5 老人にみられる主な神経の退行変性疾患 A.痴呆を主症状とするもの 1.老年痴呆(senile dementia) 2.アルツハイマー病(Alzheimer’s disease) 3,ピック病(Pick’s disease) 4.クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt−Jakob dis− ease)
亜急性海綿状脳症(subacute spongiform ence・ phalopathy)を含む.その他 B.錐体外路症状を主とするもの 1.振戦麻痺(paralysis agitans)…狭義のパーキンソン 病 2.線条体黒質変性症(striatonigral degeneration) 3。進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy) 4.ハソチントン舞踏病(Huntingtons’chrorea)その他 C.小脳症状を主とするもの 1.オリーブ橋小脳萎縮症(olivopontocerebellar atro− phy)
2.晩発性皮質性小脳萎縮症(late cortical cerebellar atrophy) D.筋萎縮を主とするもの
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral
sclerosis) E.自律神経症状を主とするもの Shy・Drager症候群 表7 Alzheimer痴呆, Alzheimer型老年痴呆の診 断基準(DSM−III)A痴呆
B徐々に発症し,一様に進行悪化する. C既往歴,理学的所見および検査所見から,痴呆の特殊原 因のすべてが除外されること. 表8 多発梗塞痴呆(または脳血管性痴呆)の診断基 準(DSM−III)A痴呆
B段階的悪化(進行は一様ではない).初期にはある機能は おかされるが,他の機能は保たれる. C局所神経症候(たとえば,深部反射充進,Ba・binski反射 陽性,偽球麻痺,歩行障害,四肢の筋力低下など). D既往歴,理学的所見,または検査所見から,脳血管障害 があり,原因的に上記の障害に関連していると判定され ること.CG
CC
Sep E 楓 CG @ oAC
M
(佐々木) 表6 痴呆の診断基準(案) A.社会生活や職業に支障をきたすほどの知的能力の減退 B.記憶障害・見当識障害 C.以下のうち,少なくとも一つがみられること (1)抽象的思考の障害(ことわざの意味を理解できない. 関連した言葉の類似と相異を指摘することができな い.言葉や概念を定義することがでぎない,など) (2)判断力の障害 (3)他の高次大脳皮質機能の障害(失語症一脳機能の異 常による言葉の障害.失行一理解もよく運動機能にも 異常がないのに動作を行うことができない,失認一感 覚機能には異常がないのに,物を認知したり同定する ことができない.構成機能の困難一立方体の模写,ブ ロックの組立て,マッチ棒を並べて,ある形を作る, などのことができない) (4)人格の変化(たとえば,病前性格の変化,尖鋭化) D.意職は清明 E.つぎのうちいずれか一つ. (1)病歴,理学的所見,検査所見から,症状の成因と関 篤しているとみなされる器質的因子が認められるこ と. (2)そのような所見がなくても,症状の進展に器質性因 子が必要であると考えられること. 註:上記の症状が2∼3ヵ月以上続くこと (錯乱との差異) CCc
V IC F \GP
A B Pu》.
㌧峨断
1〆
CG:cingulate gyn聖s CC:corpus callosum Sep:septum pellucidum F:fornix AC:anterior commissure M:mamiHary body OC:optic ch}asn} AC:anterior commissure AN:amygda【old nucieus CF:columna 「ornlcis CC: corpus callosロm C[=c【aust「um CN:caudate nucleus GP:globus pallidusIC: lnterna[ capsuie
OTlopUc tract Pu:putamen Th:tha呈amus
V = vent「ic[e
図7 nucleus basalins of Meynertのneuronが最:も 多くみられる部位の模式図(黒く塗りつぶした部分)
ているMeynert核(図7)のコリン作働性ニュー
ロンが選択的に障害されるという報告があり,同
表9 Pick病および対象のuncleus basalis of
Meynertにおける神経細胞総数およびその密度
(佐々木) 年齢 性 剖検診断 nucleus basalis @of Meynert 症例 細胞総数 細胞密度 case l モ≠唐?2 67歳 U0歳 MM Pick病 oick病 420 V44 17.8 Q7.8 case 3 モ≠唐?4 モ≠唐?5 71歳 T8歳 T2歳 MFM 横紋筋肉腫 フ 硬 変 J 癌 795 V06 W02 21.4 Q5.0 Q5.2当教室の佐々木は,ピック病の2例で,Meynert
核のニューロン脱落を検討しているが,痴呆例で
あっても障害が必ずしも存在するとは限らず,痴
呆の責任病巣の局在性については,更に他の領域
も考慮すべきであると結論している14)(表9).
おわりに
以上中枢神経系の老化について概略を述べた
が,先にも述べた如く,中枢神経系の老化は,神
経細胞を始めとする神経組織の老化とそれを灌流
し,養っている血管の老化による二次的な変化と
によって形作られるものと言える.例えば,心筋
の障害にも同様に心筋primaryの変性と,冠動脈
系の障害による心筋の二次的な変化があるとされ
ているのに類似している.従って,中枢神経系に
ついての老化を論ずる場合,これらの二点につい
て夫々,注目する必要がある.
また神経組織自体の変化についても,神経細胞
脱落,神経細胞を構成する個々の要素の変化など,
また変化の局在性と,機能との関連,種々の沈着
物の起原の解明等,細部にわたる研究が行なわれ
るようになり,研究上重要な著しい進展が見られ
てはいるが,それらは現在なお解明しつくされて
いるとは言えず,今後さらに検討すべぎことが多
い.先に述べた錐体細胞におけるスパイγ数の変
化,マイネルト核の変性と痴呆との関連性などの
研究もその例の一つであると言える。老化現象に
関して生理学的あるいは,生化学的方法を用いて
の研究が今後さらに発展する可能性は大きい.
現在日本は世界有数の長寿国となったが,病臥
した状態での長命では不充分であって,心身とも
に“健康”で,社会的にも一定の役割りを果しなが
らの長寿が最も望まれる所で,今後,医学的研究
の焦点をそこに置く必要があり,神経系の老化に
ついても同様な観点からの研究を行なうべきであ
ろうと考える.本論文は昭和59年9月28日東京女子医科大学学会
第51回総会において発表した.文 献
1)小川鼎三・細川 宏:日本人の脳.金原出版, (1958)2)渡辺弘美;迅速Golgi法による大脳半球第4野錐
体細胞の加齢変化.臨床神経学 21895(1981) 3)亀山正邦・大友英一・丸山勝一・萬年 徹・高橋 和郎:老年者脊髄後索の変性について。1。その頻度.成因および臨床的意義.臨床神経5709
∼165 (1965) 4)四二英夫・塚越 宏・豊倉康夫:末梢神経の退行性変化.神経進歩 17679∼690(1973)
5)平井俊策:加齢に基づく脳の変化,Geriat Med 10 147∼153 (1972)6)Baker, A.B. and Iannone, A.:Cerebrovas−
cular Disase:1. The large arteries of the circle
of Willis l Neurology 9321∼332(1959)
7)亀山正邦:老壊死はあるか.日老医誌1171
∼81 (1974)
8)Kety, S.S。:Human cerebral blood且ow and oxygen consumption as related aging. J Chron Dis 3478∼486(1956)
9)Mankovskij, N.B. and T藍mko, N.A.:Zur frage
ein玉ger alteroabhangiger besonderheiten fun− ktionellen zastamdes des neuro−muskutlare Apparates.2. Alternsforsch 27191−200(1973) 10)平井俊策=脳血管障害.老年医学(吉川政己編)朝 倉書店,東京(1972)
11)Haase, G.R.=Diseases presenting as dementia in Wells, C.E.(ed.):Dementia, EA. Davis, Philadelphia(1971>
12)厚生省特定疾患神経変性疾患調査研究班,1984年
度研究報告書,15頁(1985年3月)
13)Arendt, T. and Bigl, V.:Loss of neuron’s in
the nucleus basalis of Meynert in alzheimer’s disease, paralysis agitans and korskoff’s dis− ease. Acta Neuropath 61101∼108(1983)
14)佐々木彰一・他:Pick病2剖検例におけるnu−
cleus basalis of Meynertの検討.臨床神経学 25 812∼817 (1985)