Comma の研究
著者
岡部 佑人
著者別名
OKABE Yuto
雑誌名
東洋大学大学院紀要
巻
53
ページ
287-303
発行年
2016
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00008790/
Comma の研究
文学研究科英文学専攻博士後期課程満期退学
岡部 佑人
0.はじめに
Commaは英語の中で最も良く用いられる句読点の一つである。John…GalsworthyのIndian Summer of a Forsyteⅰ(以下Indian Summer)の中にはcomma(…,…)が1,313回出現する。
これは、他の句読点と比べても頻度が高い。A…full…stop(….…)が…931回、Exclamation…mark… (…!…)が238回、question…mark(…?…)が93回である。また、語との比較を試みると、語の中 で最も良く用いられるtheの出現回数が1,330である。つまり、同書においてはtheとcomma はほぼ同じ頻度で出現する。これほどcommaが多く出現するにもかかわらず、commaにつ いて深く議論されることは少ないように思われる。Commaが「間」であることは周知の事 実であるが、更に詳しくcommaを再度分析してみたい。「間」から広がる意味内容に触れたり、 commaが抱える問題点を指摘したりする。意味内容が近い等位接続詞andとの関係性につい ても触れておきたい。 まず第1章では、commaの基本的な性質について述べ、それをさらに分類する。第2章で はcommaの右側に来る品詞別の分析を行う。第3章ではその他の問題について述べる。 第4章では総括を行う。 尚、本稿で用いる例文は全て、Indian Summerからのものであり、例文の後に示す括弧 内の数字はテキストの引用頁である。
1.Comma の基本的性質
本章では、commaが「間」であること(1.1)と、対で用いられた際に括弧として機能す ること(1.2)の二つを取り上げる。1.1の特徴は全てのcommaに見られる特徴である。(1.2) の特徴は限られた条件内において見られる。以上の2つのことを示していく。1.1 Commaは「間」
まずはcommaの基本的な性質を述べる。(1)…“They…love…music,…and…they’re…very…kind.”(44) (「あの人たちは音楽好きで、とても優しいのです」) commaが用いられる時には、「間」が生じる。「あの人たちは音楽好き」というのがまずあ り、そこで一呼吸おいて、「とても優しい」と付け加える。このような「間」を生み出すの が基本的な性質であり、本質である。Commaの語源がcutであることからも、切り離して、 「間」を作るのだということがわかる。いかなるcommaにも「間」があり、その「間」が多 様な解釈を生み出す。以下の1.1.1 ~ 1.1.6では、その解釈の分類を試みる。 1.1.1 追加 (2)…They…brought…him…tea…at…five…o’clock,…and a letter.…(77)ⅱ (彼らは五時にお茶にしてくれたが、手紙も持ってきてくれた) (3)…A…moth…went…by,…another,…another.…(80) (蛾が通り過ぎた。一匹、またもう一匹と)
(4)…Summer…—…summer…—…they…seemed…saying;…great…bees…and…little…bees,…and the flies too!…(84)
(夏だ、夏だ、と蜂が歌っているようだ。大きい蜂も、小さな蜂も。そして、蝿までも) (5)…But…the…thistledown…was…still…as…death,…and the face of his old master.…(85)
(アザミの冠毛はぴくりとも動かなかった。そして、老いた主人の顔も動かなかった) (2)では、andの前に一呼吸入り、「お茶にしてくれた」に加えて、「手紙も持ってきてくれた」 という意味内容が追加されている。a…letterは文末の位置を占め、情報的に重たいものと考 えられる。(3)ではmothがいて、another、更にanotherと言っている。(4)では、追加を示 す標識tooがある。(5)では、「アザミの冠毛が動かなかった」という文があり、それよりも 更に重要な情報であるthe…face…of…his…old…masterが追加されている。 1.1.2 確認 (6)…“My…boy…Jo’s…a…painter,…you know.”…(17) (「息子のジョーは絵描きなんだ、ご存知でしょうが。」) (6)では、「間」を取ることにより、「間」の前の内容を確認させている。1.1.1の「追加」では、 文末に情報的により重要なものが来ると述べたが、(6)は逆である。My…boy…Jo’s…a…painter,… をA、you…knowをBとした際の【A…comma…B】において、Bは確認のために述べたものである。 従って、この構造における意味の焦点は、Aに来るものと考えられる。
1.1.3 訂正 (7)…‘How…much?’…Ten…thousand,…twenty…thousand…—…how…much?…(54) (「いくらにしようか?」1万か、それとも2万か。いくらにしよう) (8)…If…only…with…his…money…he…could…buy…one…year,…one month…of…youth.…(54) (お金で青春を一年買えるだろうか。一ヶ月でもいいな) (7)では、ten…thousandにtwenty…thousandを加えてthirty…thousandと言っているのでは ない。まず、ten…thousandと言っておいて、少し間を置き、twenty…thousandと述べている。(8) はone…yearからone…monthへと数が減っているが、本質的には同じことであり、訂正を示し ている。【A…comma…B】の構造において、Aで述べたことが不適切と判断され、Bで言い直し ている。言い直しという言葉は否定のように思われるが、否定ほどは強くない。(8)では新 情報であるone…monthと言い切りたいところだが、one…yearの解釈も捨ててはいない。この ようにcommaを用いると、曖昧性が残る。一方、明確に否定する構造はnot…A…but…Bが考え られる。 (9)…He…was…not…thinking…of…that…picture,…but…of…his…life.…(52) (彼が考えていたことはあの絵のことではなく、自分の人生のことであった) 1.1.4 詳細 (10)And…into…old…Jolyon’s…mind…came…a…sudden…recollection…—…a…face…he…had…seen…at…that… opera…three…weeks…ago…—…Irene,…the wife of his precious nephew Soames,…that…man…of… property!…(8)
(それから老ジョリオンは、突然昔のことを思い出した。三週間前のあのオペラで見か けた顔だ。アイリーン、彼女は、彼のご立派な甥であるソームズの妻だ。奴は金持ちだ!) (11)He…was…not…taken…in…by…this…flattery…spoken…out…of…the…past,…out of a longing to talk of
her dead lover…—…not…a…bit.…(36)
(彼は過去から出たこのお世辞にだまされなかった。彼女の死んだ恋人のことを話した くてたまらないという欲求から出るお世辞にだまされなかった。少したりとも) (10)では、Ireneと述べていて、その人物がthe…wife…of…his…precious…nephew…Soamesと詳 細に説明されている。次に、His…precious…nephewと言ってもpreciousがよくわからないので、 その説明が、that…man…of…propertyとなる。Preciousとthat…man…of…propertyは意味的につな がりが見られる。 (11)では、out…of…the…past「例の過去」と言っておいて、その「過去」を具体的に示している。
【A…comma…B】の構造において、BはAを更に詳しく説明し、展開していると考えられる。 1.1.5 強意 (12)And…suddenly…he…uttered…a…long,…long…howl.…(85) (それから突然長く、長い遠吠えをした) (13)“They…had…better…be,…by George!”(44) (そうあって欲しいものだ!)
(14)Five…weeks…before…he…need…bother,…at his age an eternity!…(56)
(五週間もある、心配はそれからだ。この年では永遠のようなものだ!) (12)は繰り返しの例であり、一般に語の繰り返しは強意を生み出す。 (13),…(14)は、繰り返しではないが強意と考えられる例である。Commaの右側に強意を 示す言葉(by…George,…an…eternity)や、感嘆符が用いられているので、強意と考えられる。 1.1.6 躊躇 (15)“There,…there…—…there,…there!”…(28) (「さあ、さあ、もういい、大丈夫。」) (16)“I…would…like,…very much;…but…there…is…—…June.…When…are…they…coming…back?”…(51) (「そうしたいのです、是非。でも、ジューンさんがいます。皆さんはいつお帰りになる のでしょうか。」) 繰り返しが、常に強意で用いられるわけではなく、ためらいのために用いられることがあ る。何らかの理由で新たな情報を提示するのがためらわれると、新情報を明示せずに同じ 言葉を繰り返す。Commaには言葉が進展しないという機能があると言える。(16)では、but 以下の本質に触れる前に、その言葉に行くまでのためらいの間として、very…muchの前に commaを置いている。
1.2 Commaが括弧として機能する場合
これまでに単独で用いられるCommaを見てきた。次に、commaが対を成して用いられて いる例を見てみよう。 (17)Balthasar,…preceding…him…once…more,…uttered…a…low…growl.…(12) (バルサザールは、またも彼の前を進んでいたが、低い唸り声をあげた)「バルサザールは」、「またも彼の前を進んでいたが」、「低い唸り声をあげた」と、「間」を 意識することで三つに分けることができる。そして、最も伝えたい意味内容は、「バルサザー ルが低い唸り声をあげた」である。この文の主語はBalthasarであり、それに対応する動詞 はutteredである。その間に挿入された部分が、preceding…him…once…moreである。この部 分を括弧として処理するためには、commaが二つ必要であり、かつ、comma内を削除した 際に文法的な整合性が整う必要がある。文法的整合性とは、この場合、主語と動詞である。 Comma内を削除すると、Balthasar…uttered…a…low…growl.…となり、文法的に正しい。 Commaが二つ用いられると、このように括弧として処理できる。しかし、commaが二つ 使用されている全ての場合において、括弧として処理できるわけではない。 (18)What…was…she,…who…was…she,…did…she…exist?…(81)……… (彼女は何者なのか。名は何といったのか。存在していたのだろうか) 「彼女は何者なのか」、「名は何といったのか」、「存在していたのか」という三つの意味内容 をcommaで区切っている。Commaに挟まれたwho…was…sheの部分は括弧として処理するこ とは不可能である。who…was…sheを削除して、*What…was…she…did…she…exist?…(彼女は何者な のか存在していたのか)とした際に、文法的な整合性及び意味的な明瞭性は保たれない。よっ てこの二つのcommaは、対として機能しているのではなく、それぞれ独立しているものと 考えられる。 commaが対で用いられている例を更に加える。
(19)There,…before the mirror,…it…occurred…to…him…that…he…was…thinner.…(42) (そこに、鏡の前に立ってみると、前よりも痩せたという気持ちになった) (20)“You’ve…gone…back…to…your…maiden…name, I see,”…he…said:…“I’m…not…sorry.”…(33)
(「旧姓に戻りましたね。」と彼は言った。「それでいいと思う。」)
(21)Servants…were…such…fools;…and,…as likely as not,…they…had…known…all…the…past…history…of… Irene…and…young…Bosinney.…(56)
(召使いというのは、こうも馬鹿なものか。まず間違いなく、アイリーンとボジニー青 年との間で起きた過去の経緯も、すっかり知っているだろう)
(22)“It…isn’t…mine,…of course,…but…I’ve…let…him…have…his…way.”…(17)
(私のものではないけれどもね、無論。しかし、彼には自由にさせているのです) (23)She… had,… if anything,… too… little… notion… of… how… to… butter… her… bread,… no… sense… of…
property,…poor…thing!…(61)
こともできない、かわいそうな女なのだ!) (24)June…was…a…stubborn…little…thing;…warm-hearted,…but…stubborn…as…wood,…and…—…quite true…—…not…one…who…forgot!…(55) (ジューンは頑固な子だ。心は暖かいけど、木のように頑固で、金輪際、過去の出来事 を忘れられるような子ではないのだ!) (19)では、thereと言って、更に詳細を述べている。1.1.4に近い用法と言えよう。 (20-23)では、commaの右側で判断を加えている。(24)にも示すようにダッシュにもこの 用法がある。以上に示したように、commaは「間」を示すが、追加・確認・訂正・説明・強意・ 躊躇など、様々な意味内容を含み、多岐にわたることを示した。
2.Comma + 品詞
第2章では、commaの右側の品詞について考察したい。Indian Summerにおけるcommaの 使用回数は1,313である。その全てのcommaを対象にして、commaの直後(右側)に来る品 詞毎の数を以下の表に示したⅲ。最も多い事例は等位接続詞の320回である。次いで代名詞 の203回、動詞の191回と続く。8品詞(名詞・代名詞・形容詞・動詞・副詞・前置詞・接続詞・ 間投詞)の順で考察及び事例を示す。 名詞 代名詞 形容詞 動詞 副詞 前置詞 等位接続詞 61…(4.6%)ⅳ… 203…(15.5%) 93…(7.1%) 191…(14.5%) 153…(11.7%) 117…(8.9%) 320…(24.4%) 従位接続詞 関係代名詞 関係副詞 間投詞 冠詞 助動詞 合計 71…(5.4%) 27…(2.0%) 2…(0.2%) 2…(0.2%) 50…(3.8%) 23…(1.8%) 1,3132.1 Comma + 名詞
Commaの直後に名詞が来る事例は、1,313…回中61回である。その用法の内訳は4通りである。 (25)呼びかけ、(26)等位接続詞and等ⅴによって並列された場合、(27)分詞構文等で意味 上の主語を明示する場合、(28)従位接続詞や前置詞句が先行する場合である。これ以外の 事例はほとんど見られないので、この4通りと考えてよい。 (25)“You…mustn’t…come…down,…Uncle;…you…must…rest.”…(59) (「降りてはダメですよ、おじさま。じっとしていないと。」) (26)The…air…smelled…sweet,…larks…sang,…and…the…Grand…Stand…at…Epsom…was…visible. (空気は澄んでいて、雲雀が鳴いていて、エプソムの大スタンドまで見えた)(27)And,…curiosity…overcoming…natural…shrinking,…he…asked:…“Why?…What…do…you…do…for… them?”…(62) (それから、いつもなら尻込みしてしまうところを好奇心が勝ち、彼は聞いてみた。「ど うしてまた?何をやってあげているのですか?」) (28)As…if…answering,…Irene…shook…head.…(51) (あたかも答えるかのように、アイリーンはかぶりを振った)
2.2 Comma + 代名詞
Comma…+…代名詞は、203回用いられ、全体の15%を占めるⅵ。代名詞は、名詞の代用をす るという性質上、基本的に名詞と同じ環境に現れる。前節の(25-28)で示した環境が代名 詞にも当てはまると考えてよい。例えば(29)は代名詞Iに従位接続詞が先行する形であり、 (28)と同等の形式と考えられる。 (29)“When…my…little…sweet…marries,…I…hope…she’ll…find…someone…who…knows…what…women… feel.…(48) (私の小さな娘が結婚するときには、女ごころがわかる人に出会ってほしいものです) 次に、代名詞に特徴的に見られる現象について述べる。挿入の場合(30)と引用符が関連 する場合(31,…32)がある。このような用例はcomma…+…名詞にはほとんど見られない特徴 である。(30)は、挿入的に用いられている。(31)では、“Good-bye,”の右側にhe…said…again が位置している。He…said…againの前後にcommaとsemi-colonを打ち、挿入的に用いているⅶ。 (32)は手紙文で、このようにcommaとdashが重複するような例も見られる。 (30)They…were…right,…I…dare…say,…but…then…they…lived…in…the…Golden…Age.…(34) (彼らは正しかったと、そう思いますが。しかし彼らは黄金時代に生きたのです) (31)“Good-bye,”…he…said…again;…“take…care…of…yourself.”…(40) (「さようなら」と彼はまた言った。「お体に気をつけて。」) (32)“MY…DEAR…IRENE,…--…I…have…to…be…up…in…town…to-morrow.”…(57) (「親愛なるアイリーンへ。明日街へ行かなくてはならなくなりました。」)2.3 Comma + 動詞
Commaの右側に動詞が来る事例は、191回である。この191例において、以下の条件のど ちらかを満たしている場合がほとんどである。【1】動詞から見て右側に等位接続詞がある。(33),…(35) 【2】動詞から見て左側に副詞相当語句がある。(34),…(35) 例文を見てみよう。 (33)She…raised…her…arms,…covered…her…face…with…them,…and…wept.…(27) (彼女は手を上げると、自分の顔を覆い、泣き出した) (34)Her…dress,…too,…was…a…sort…of…French…grey.…(14) (彼女の着ているものもまた、フランス風のグレーであった) (35)And…old…Jolyon,…passing…down…the…gallery,…stole…on…tiptoe…towards…the…nursery,…and… opened…the…door…(20) (それから老ジョリオンは廊下を通り、忍び足で子供部屋へと近づき、ドアを開けた) (33) で は、 動 詞coveredの 右 側 に 等 位 接 続 詞 のandが あ る。 こ のandに よ り、raised,… covered,…weptが連結されるため、coveredの前にはcommaが置かれる。 (34)では、動詞の前に挿入語句を置いたために、その間を生み出すためにcommaが置か れている。この二つの要件を同時に満たすような(35)のような例もある。commaの後ろ に動詞が後続する際には、等位接続詞の存在か、副詞を形成する挿入語句の存在を考慮に入 れれば良い。逆に言えば、挿入語句がある際には、動詞が後続する可能性を考えることがで きる。 動詞ではなく、分詞の場合には【1】、【2】の条件は当てはまらない。 (36)Old…Jolyon…stood…very…still,…keeping…one…thin…hand…on…her…shoulder.…(28) (老ジョリオンはじっと立ったまま、片方のしわがれた手を彼女の肩に乗せていた)
2.4 Comma + 形容詞
Comma…+…形容詞は93回用いられている。 (37)There…was…little…air,…but…the…sight…of…that…breadth…of…water…flowing…by,…calm,…eternal,… soothed…him.…(73) (風はほとんど無なかったが、音もなく、絶え間なく流れる広い川面を眺めていると、 彼は落ち着いた)… (38)“Come…on,…old…chap!”…(10) (「さあ、いくぞ!」)(39)…The…sunlight…fell…cruelly…on…their…pale,…squashed,…unkempt…young…faces.…(37) (青白く、つぶれた、髪の乱れた、だらしない若い顔に、日差しが容赦なく差し込んだ。) 形容詞の特徴は、名詞を修飾することである。(37)は叙述用法で、(38),…(39)は限定 用法である。また、(39)に見られるように、形容詞は並列されることもあるⅷ。(38)のold… chapのoldを拡大したものが(39)である。なお、unkemptの前には等位接続詞のandは挿 入されないのが普通である。
2.5 Comma + 副詞
Comma…+… 副詞は153回で、全体の10%を占めるⅸ。(40)のように副詞を並列する場合と、 それ以外の場合に分けて論じる。 (40)She…took…it…quietly,…queerly.…(71)… (彼女は静かに、怪訝にそれを受け取った) quietly,…queerlyと、二つの副詞をcommaで連結した形になっている。よって、二者間の 副詞の意味が問題になる。「静かに、そして怪訝に」となることもあれば、「静かに、しかし 怪訝に」のようになることもある。Commaには「間」の機能があるため、その「間」の分 だけ意味が多様化すると考えられる。その多様性については第1章で述べた通りである。 次に、「間」の直後に用いられる副詞の中で、副詞が並列されていない例を挙げる。追加 的に用いられていることを確認されたい。(43)では話し手の判断を示すperhapsが用いられ ている。(41)And… they… would… go… and… wag… their… tongues… about… having… seen… him… with… her,… afterwards.…(33) (それから彼が彼女と会っていたという噂話を彼らはするだろう、後になってから) (42)But…those…bronzes…and…the…mantelpiece…had…not…been…there…when…she…was,…only…the… fireplace…and…the…wall!…(63) (しかしこれらのブロンズ像とマントルピースは彼女がいた時にはそこになかった。あ るのは暖炉と壁だけであった) (43)He…could…still…drive…up,…perhaps,…once…a…week,…on…the…pretext…of…seeing…his…man…of… business.…(68) (今も馬車に乗って都会に向かうことはできるだろう、まあ、週一度であれば。仕事があっ て、人に会うのだという口実を作ればいい)
次に、commaの右側が指示副詞として用いられる例を挙げておく。 (44)There…was…only…one…quality…in…a…woman…that…appealed…to…him…—…charm;…and…the… quieter…it…was,…the more…he…liked…it.…(23) (彼の女の人に魅かれる資質はただ一つで、それは女らしい魅力だった。それが控え目 であればあるほどに、惹きつけられるのだ) 次に、文と文を連結するcommaの右側に置かれる副詞について述べる。この場合の副詞は、 意味の広がりを抑え、意味を焦点化する目的で用いられる。
(45)He… stayed… for… some… minutes… without… writing,… then… rose… and… stood… under… the… masterpiece…‘Dutch…Fishing…Boats…at…Sunset.’…(52)… (彼は数分間、何も書かずに座っていたが、それから立ち上がると、名画『夕暮れのオ ランダ漁船』の下に立った) もしthenがなければ、両者の関係が明確に時系列を示すものではなくなり、意味が曖昧に なる。Thenを加えると意味が明確になる。この場合のthenは接続副詞に近づく。 最後に、形容詞の項目のところでも述べたものと同等の問題について述べる。副詞の特徴 の一つは、形容詞を修飾することである。以下の例において二つのcommaが連結している ものは、三つの形容詞(light,…swaying,…grey)である。形式上、comma…+…副詞の形をして いても、実際には形容詞の連結内の形容詞を修飾しているという例があり、これは形容詞が 名詞を修飾する際に見られる問題点と同じである。 (46)A…light,…vaguely…swaying,…grey…figure……(47) (軽やかな、ゆっくりと揺れている、グレーの姿は…)
2.6 Comma + 前置詞
Comma…+…前置詞は117回用いられている。前置詞は名詞を要求し、前置詞句全体で、主 に副詞句として機能する。形容詞句としての役割はさほど多くない。このことは、comma として区切られる例が副詞句として機能する可能性が高いことを示す。(47-50)の例はいず れも副詞句であることを示している。… (47)And…the…two…sported…in…the…distance,…under…the…stairs,…on…the…stairs,…and…up…in…the… gallery.…(49)(それから二人は離れたところで遊んでいた。階段の下、階段、そして階段の上の廊下 で遊んでいた) (48)In…fact…I…don’t…know…when…I’ve…told…a…woman…I…admired…her,…except…my…wife…in…the…old… days;…and…wives…are…funny.”…(48) (実際私は女の人を褒めた時のことを覚えていませんが、若かりしき頃の女房となると 話は別です。何せ女房というものはおかしなものでして) (49)He…was…waiting…for…the…midges…to…bite…him,…before…abandoning…the…glory…of…the… afternoon.…(3) (ブヨが出てきて噛まれるまでは、午後の楽しみを失いたくはなかった) (50)He…got…up…and…began…to…pace…the…Turkey…carpet,…between…window…and…wall.…(76) (彼は起き上がって、窓と壁の間にあるトルコ絨毯の上を行ったり来たりした)
2.7 Comma + 接続詞
Commaの右側に来る品詞の中で最も多いものが接続詞である。等位接続詞は320回、従位 接続詞は71回である。接続詞的に用いられるという意味では、関係代名詞、関係副詞がある が、この2つを含めると、計420回となる。これは全体の32.0%を占めるため、commaの右側 に来る語のうち、およそ三回に一回が接続詞に関連するものと言える。 2.7.1 Comma + 等位接続詞 ここでは、comma…+… 等位接続詞の事例を挙げるに留める。等位接続詞が用いられずに commaで接続している例は3.4で述べる。 (51)“Love…has…no…age,…no…limit,…and…no…death.”…(37) (「愛には年齢も、制限も、そして死さえもありません。」) (52)‘A…pretty…face,…but…sad!’…(19) (「かわいい顔だ、だが悲しい。」) (53)She…was…never…out…of…disgrace,…so…it…did…not…matter…to…her…how…she…sat.…(4) (いつも嫌われていたので、どう坐ろうが問題ではなかった) (54)After…lunch…he…lay…down,…for…he…felt…very…tired.…(73) (昼食後に彼は横になった。というのもひどく疲れていたからだ) 2.7.2 Comma + 従位接続詞 Commaによって切り離されると副詞句になるということを述べたが、副詞節を形成する 顕著な例が従属節を伴う場合である。従位接続詞の用法には時・理由・条件・譲歩などがある。(55)‘Did…she…come… —…or…did…I…dream…it?’…and…he…would…stare…at…space,…while…the…dog… Balthasar…stared…at…him.…(31) (「彼女は来たのだろうか、それとも夢を見ていただけなのか。」彼は習慣的に空を見つ めて、犬のバルサザールはそんな彼をまじまじと見つめた) (56)For…she…was…not…a…Forsyte,…but…Jolly…was… —…and…Forsytes…always…bat,…until…they… have…resigned…and…reached…the…age…of…eighty-five.…(41) (彼女はフォーサイト一族らしくなかったが、ジョリーは違っていた。フォーサイト家 はいつも打つ側だった。引退して齢八十五になるまでは) (57)Forget!…She…must…forget,…if…he…wanted…her…to.…(51) (忘れろ!彼女は忘れなくてはならない、私がそう思うのだから) (58)They…would…settle…those…lessons…for…Holly,…if…only…for…a…month.…(61) (ホリーのレッスンの件をはっきりさせておこう。たとえ一月だっていい) (59)…That…evening…after…dinner…he…had…a…return…of…the…dizziness,…though…he…did…not…faint.… (70) (その晩夕食後、彼は再び目眩に襲われた。気を失いはしなかったけれども) 2.7.3 Comma + 関係詞 関係詞の例は29と少ないが、例を示しておくⅹ。 (60)Its…rocks…and…earth…were…beloved…of…the…dog…Balthasar,…who…sometimes…found…a…mole… there.…(11) (この辺りの石ころや土はバルサザールのお気に入りで、時折モグラを見つけることも あった)… (61)He…would…be…reduced…to…sneaking…up…to…London,…which…tired…him.…(56) (ロンドンへお忍びで行く回数も減らさなくてはならなかった。それがつらかった) (62)Old… Jolyon… avoided… this,… which… did… not… suit… his… mood,… and… made… down… the… hill…
towards…the…pond.…(11) (老ジョリオンはそれを避けたが、それは今の気分にそぐわなかったからだ。それから 彼は丘を降りて、池へと向かった) Comma…+…関係詞で問題となるのは制限用法と非制限用法の問題である。一般に、制限用 法は形容詞的、非制限用法では副詞的となる。commaを伴った関係詞が副詞的になるとい うことは、やはり、commaと副詞との兼ね合いは強いものと考えられる。立場を変えてみ ると、副詞研究とcommaは切っても切れない関係にあるものと思われる。
2.8 Comma + 間投詞
例文を示すに留める。 (63)Ah,…well!…(72) (まあ、大丈夫だ!)2.9 Comma + 冠詞
8品詞の中には含まれないが、冠詞の例も50ある。冠詞は、右側に名詞を要求するため、 意味の上では…comma…+…名詞と考えれば良い。 (64)But…he…wanted…her…company;…a…pretty…face,…a…charming…figure,…beauty!…(15) (しかし彼女にはそばにいて欲しかった。かわいい顔、魅力的な顔、美しい人!)3.その他の問題
第1章、第2章で触れなかったいくつかの問題について触れておく。3.1 Commaなしの文章
まずは、以下の文を見てみよう。 *(65)The…feeling…too…that…she…was…as…it…were…apart…cloistered…made…her…seem…nearer…to… himself…a…strangely…desirable…companion.… (65)では、本来commaを打つべきところに打っていない。読みにくい文となっている。 ところが、7箇所のcommaを打つと、明瞭に理解できるようになる。 (66)The…feeling,…too,…that…she…was,…as…it…were,…apart,…cloistered,…made…her…seem…nearer…to… himself,…a…strangely…desirable…companion.…(24) (彼女が、いわば、世間から離れ、引きこもっていると考えると、より一層身近である ように思われた。彼女は奇妙なことに、望ましい連れ合いだった。) いずれのcommaも重要であるが、特に、apartの前のcommaがないと、apartに対する be動詞がwereであると誤読してしまう。Commaの重要性を理解する一つの手段として、 commaを全く打たない文を考えるのも一考である。3.2 Semicolon
Commaに類似した句読点として、semi-colon(…;…)がある。Semi-colonはその形状が comma(…,…)に似ている。Semi-colonの下の部分がcommaと同一である。よって、semi-colonもcomma的な性質を持っているということが、当然考えられる。 (67)She…did…not…answer;…did…not…move.…(27) (彼女は答えなかった。動きもしなかった。)… (68)The…present…he…should…distrust;…the…future…shun. (現在は彼が信頼してはならないもので、未来は遠ざけるものである) 英和辞典におけるdistrustの名詞の訳語を示すと、「不信;…疑惑,…疑念」とある。このような 記述を普段は気にも留めずに読んでいるが、semi-colonとcommaに着目したい。「不信」と「疑 惑」の間はsemi-colonで区切られている。一方、「疑惑」と「疑念」の間はcommaで区切ら れている。このことから、「疑惑」は「不信」よりも「疑念」の意味に近いものと考えられる。 英和辞典の訳語を読む際にもcomma,…semi-colonがあり、この区別をしておくことは重要で あると考える。3.3 分詞構文
ここでは分詞構文においてcommaが用いられていない例を示す。Commaがないことによ り、treeの直後は「間」を置かずに読む。当然、考える「間」がないため、「時、条件」を 示す副詞性や同時性が損なわれ、単に左から右に読んでいけば良いものと考えられる。 (69)After…lunch…they…sat…under…the…oak…tree…drinking…Turkish…coffee.…(47) (昼食後樫の木の下でトルコ・コーヒーを飲んだ)3.4 andなしの連結
等位接続詞を用いずに、commaで区切っている例がいくつかある。等位接続詞のandを用 いていないことから、andの本来の意味である「加える、足し算」の意味内容が失われる。 (70)“I’m…not…well,…I…want…some…volatile.”…(58) (「調子が良くないので、気付け薬を頼む。」) (71)Holly…was…fond…of…her,…Holly…liked…her…lessons.…(69)… (ホリーは彼女のことが大好きで、彼女のレッスンが大好きだった) (72)How…far…this…silence…was…due…to…consideration…for…their…pleasure,…how…far…to…regard…for…his…own,…he…did…not…pause…to…consider.…(62) (こうして黙っているのは、どこまでが彼らの楽しみを損なわないとする態度で、どこ までが自分の利益を求めているのか、じっくりと考えることはしなかった。) Commaの前後の内容を読み、その「間」から生ずる意味内容を推察する。(70)では、「調 子が良くない」、(だから)「薬を頼む」のように読める。「調子が良くない」(それから)「薬を頼 む」とも読める。等位接続詞のandを用いるよりも、その意味範囲が広くなると考えられ、 等位的な解釈も、従位的(副詞的)な解釈もどちらも考えられる。
4.おわりに
これまでcommaについて述べてきたが、箇条書きの形式でまとめを行なう。 ◦commaを用いると、「間」が生じる。これは全てのcommaに含まれる性質である。 ◦「間」が生まれることから、様々な意味解釈が見られる。 ◦例えば、「追加・確認・訂正・詳細・強意・躊躇」と分類できる。 ◦言葉の繰り返しが常に「強意」になるのではなく、「躊躇」になることもある。 ◦commaが対で用いられると、括弧として機能することがある。 ◦commaの右側に来る品詞で最も多いものは(等位)接続詞である。 ◦commaの右側に前置詞が来る際に、その前置詞句は副詞句を形成することが多い。 ◦commaの右側に関係詞が来る際に、その関係詞節は副詞節を形成する。 ◦commaで「間」が置かれると、副詞的な要素が後続することが多い。 ◦副詞研究とcommaは切っても切れない関係にあると思われる。 ◦commaは「間」の機能が中心になるので、さらに意味を細分化させたい時には、従位接 続詞などを置いて意味範囲を限定させる。ⅰ…Galsworthy,…John.…(1926)…Indian Summer of a Forsyte.…THE…FORSYTE…SAGA…vol.…2.…Charles…
Scribner’s…Sons.…New…York.…を底本とした。 ⅱ…イタリック体は全て筆者によるものである。現在議論している現象を際立たせるために使用し た。 ⅲ…伝統的な 8 品詞による分類とした。基準を示しておく。 (1)…to- 不定詞は前置詞とする。 (2)…S+…V が後続する so,…for は等位接続詞とする。 (3)…be…+…Ving,…be…+…p.p.,…have…+…p.p. の be,…have は助動詞とする。
(4)…分詞構文を形成する Ving は動詞とする。 (5)…関係代名詞はそのまま関係代名詞とする。したがって、【関係代名詞…+…代名詞】が実際の代名 詞の数である。 (6)…関係副詞はそのまま関係副詞とする。したがって、【関係副詞…+…副詞】が実際の副詞の数である。 (7)…as…if,…as…though の as は副詞とする。 (8)…その他、どちらかに決めかねるものがあるが、常識的な判断により決定する。パーセンテー ジや順位を変動させるほどの数ではない。 ⅳ…小数点第 2 位以下を四捨五入する。 ⅴ…等位接続詞なしで並置(juxtaposition)される場合を含む。 ⅵ…関係代名詞を含めると、230 回になる。 ⅶ…“They’re…all…in…Spain,”…he…remarked…abruptly.…“I’m…alone;…I…drove…up…for…the…opera.”…(14)…(「皆 スペインにいます」と彼は突然述べた。「私は一人で、オペラへと向かいました。」)…このように abruptly の右側が a…full…stop になる例は、どちらかといえば稀である。 ⅷ…Every…one…of…these…calm,…bright,…lengthening…days,………(6)…(穏やかで、輝かしい、日足の長くなっ ていく今日この頃…)…この lengthening は分詞形容詞で、並列されたことにより、形容詞的な性質 のほうが動詞的な性質よりも強いものと考えられる。従って、形容詞として数えている。 ⅸ…関係副詞を含めると、155 回になる。 ⅹ…関係副詞か従位接続詞かの判別がつきにくいが、関係副詞として処理した例を示しておく。On… Sunday…morning,…when…Holly…had…gone…with…her…governess…to…church,…he…visited…the…strawberry… beds.…(日曜日の朝、ホリーは家庭教師に連れられて教会へ行ってしまっていたので、彼はひとり でいちご畑へと向かった)