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労働者の生活保障における国家と使用者の役割――私傷病及び高齢を対象として―― 利用統計を見る

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(1)

労働者の生活保障における国家と使用者の役割――

私傷病及び高齢を対象として――

著者

上田 真理

著者別名

Mari Ueda

雑誌名

東洋法学

59

3

ページ

1-34

発行年

2016-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007720/

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目次 はじめに Ⅰ問題の所在 Ⅱ就労の中断に対する被用者保険と賃金保障の相互関係 Ⅲ高齢者及び重度障害者基礎保障(社会法典一二編四章)による扶養義務の代替 おわりに はじめに   労働者が、労働能力上の理由により、労働に従事できないことがある。本稿は、私傷病、妊娠・出産などのため に 一 時 的 に 就 労 が で き な い 状 況、 そ し て 病 気 等 や 年 齢 に よ る 労 働 能 力 の 低 下 (稼 得 能 力 の 減 少、 高 齢) を 対 象 に、 社会保障制度に基づく受給権及び雇用関係による賃金保障による生活保障のあり方について、基本的な検討をした 《 論    説 》

労働者の生活保障における国家と使用者の役割

――

私傷病及び高齢を対象として

――

 

  

 

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い。   一九九〇年代頃まで、男性正社員の長期雇用を前提とした年功型賃金と、企業内福祉により労働者は生活を保障 さ れ、 一 時 的 又 は 継 続 的 に 就 労 が 困 難 な 者 は、 何 ら か の 外 部 的 な 保 障 を 必 要 と し た。 し か し、 長 期 雇 用 慣 行 も 崩 れ、 企 業 内 福 祉 も 後 退 し、 雇 用 関 係 に よ る 生 活 保 障 の 再 構 築 が 緊 急 の 課 題 に な る 一 1 ) 方 、 外 部 的 保 障 (= 社 会 保 障) の受給者の労働市場への統合も要請されている。そこで、生活保障のシステムを再構築するには、社会保障制度の 内 部 で の 役 割 分 担 だ け で は な く、 社 会 保 障 制 度 (保 険 料 に よ る 給 付、 租 税 に よ る 給 付) 、 企 業、 個 人 (扶 養 義 務 者 を 含 む) は、どのような役割を引き受けるべきか、という基本的な視点からの問い直しが不可欠になる。   学卒後に開始した職業生活が公的年金の受給まで継続する間、労働者は傷病や失業の危険にさらされているが、 一 九 九 〇 年 代 以 降 の 雇 用 慣 行 の 変 化 は、 職 業 生 活 を 継 続 す る 上 で の 安 定 性 を 一 層 失 わ せ、 生 活 上 の 危 険 (病 気、 労 災、 障 害、 失 業 等) が ラ イ フ サ イ ク ル に お い て 不 確 定 に 生 じ る 状 況 を も た ら し て い る。 こ う し た 従 来 の 生 活 上 の 危 険 に 加 え て、 労 働 者 の 個 人 的 事 情 に よ り 従 来 の 労 働 が 困 難 に な り、 経 済 的 な 損 失 が 生 じ う る 事 情 (妊 娠・ 出 産 な ど) も、 職 業 生 活 に お け る 要 保 障 状 況 で あ る。 そ う し た 状 況 下 で 労 働 者 が 職 業 生 活 を 全 期 間 に わ た り 自 ら 設 計 す る に は、 す べ て の 労 働 者 に、 あ る 程 度 の 生 活 が 保 障 さ れ る こ と は 前 提 条 件 と な る。 日 本 で は、 被 用 者 保 険 法 は、 確 か に、医療、年金、雇用保険などの一定のメニューを整備しているが、全労働者に及んではいない。加えて、労働基 準法には、労災補償を除き、傷病時も妊娠・出産による休業などの期間の経済的な保障の定めがない。そうした結 果、生活責任は個人 (又は扶養義務者) に押しつけられてい ( 2 ) る 。   以 上 の 問 題 関 心 か ら、 本 稿 で は、 所 得 保 障 制 度 を 対 象 に、 「す べ て の 労 働 者」 に 対 す る 生 活 保 障 の 主 体 と し て の 国家による保障制度及び使用者の役割を検討する。このような検討は、本来、要保障状態に則して個別的になされ

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るべきであるが、ここでは、要保障状況の例示にとどめ、社会保障制度による公的責任を検討することにしたい。 本稿は、日本と共通する問題に対し、労働者の生活保障の機能に応じた役割分担を模索しているドイツ法から有益 な示唆を得ることにしたい。   本 稿 の 検 討 順 序 は、 ま ず 問 題 の 所 在 を 明 ら か に し、 そ し て 医 療 保 険 (私 傷 病) 及 び 年 金 保 険 (稼 得 能 力 の 減 少(障 害) 等) を 例 に「国 家 と 企 業 の 争 い」 を 検 討 す る。 最 後 に、 標 準 の 年 金 開 始 年 齢 に 達 し た 労 働 者 に 最 低 生 活 が 確 保 さ れ な い 場 合、 最 後 的 な 責 任 は 国 家 が 引 き 受 け る の か、 そ れ と も 個 人 (扶 養 義 務 者 を 含 む) に よ る の か。 生 活 保 護 の特別規定であるドイツ高齢者及び重度障害者基礎保障法 (社会法典一二編四章四一条以下) を対象に検討す ( 3 ) る 。 Ⅰ   問題の所在 1   日本の特質と全労働者に対する生活保障の意義 ( 1)権利対象は市民か、労働者か   社会保障法の受給関係は、市民の私的な法的関係を無媒介にしたものではなく、市民の労働者としての地位や家 族関係などの私的な関係を媒介としたものである。本稿は、国民ないし市民という普遍的な地位に基づき社会保障 の権利を捉えるのではなく、主として「労働」に基礎をおいた社会法関係の確立が目指されるべきであるという立 場にたっている。   そうであれば、労働者をめぐる日本の特質も考慮にいれる必要がある。日本では社会保障制度から排除されてい る労働者が少なくない。一つに、労働者の健康被害は、労災による場合には労災保険法によるが、それは氷山の一 角ともいわれている。私傷病については、個別企業を超えた、使用者の賃金支払義務は定めがなく、また健康保険

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法 に よ る 傷 病 手 当 金 (九 九 条) も な い 非 正 規 雇 用 者 も 多 い 一 方 で、 労 働 者 へ の 費 用 負 担 の 配 分 が 大 き く、 国 年・ 国 保 の 保 険 料 の み な ら ず、 医 療 保 険 に よ る 一 部 負 担 金 が 過 重 に な る。 二 つ に、 労 働 者 に は「受 給 す る こ と」 よ り も 「就 労」 が 奨 励 さ れ る。 確 か に、 欧 州 諸 国 は、 雇 用 を 福 祉 国 家 の「本 質 的 な 土 台 ( essential  underpinning ) 」 と 位 置 付け、稼得能力が減少している人も、労働市場から排除しないでアクティベーションの潮流に位置づけてい ( 4 ) る 。し かし、諸外国では、失業者又はひとり親、高年齢者などの労働市場での不利な労働者に再統合を目指す政策がとら れたのは、そもそも生活保護等の「受給者」が拡大していたことへの対応であ ( 5 ) る 。日本の労働者は、被用者保険か らも生活保護からも排除されている。三つに、被用者保険各法加入者も、給付制限規定の運用により、受給権が過 度に制約されている。例えば、雇用保険法の給付制限 (三三条) が挙げられ ( 6 ) る 。   そうした事態を克服するには「すべての人間に共通するリスク」を租税により新たに制度設計するべきであると いう見 ( 7 ) 解 は、確かに、需要充足をすべての市民に果たすことに、傾聴すべき点があり、また魅力的でもある。しか し な が ら、 国 家 と 市 民 の 二 当 事 者 間 に お け る 直 接 的 な 給 付 を 普 遍 的 に 保 障 す る 権 利 の 考 え 方 に は、 賛 成 が で き な い。すべての市民ではないが、その大部分は、職業により生じるリスクにさらされながらも、長期にわたる職業生 活を設計する立場にある。   雇用による生活保障機能は、労務の提供期間も、労務を一時的又は継続的に提供しない期間も、労働者にとって 必要である。雇用を媒介としない、すべての市民を対象とする考え方は、企業又は被用者保険の実施責任者の責任 を不明確にする、又はその責任を個人に転嫁する可能性が否定できないからである。いかなる理由であれ、生活に 困窮した場合には、最低生活を保障すべきであるのはいうまでもない。   なお、本稿では企業による役割分担を、企業内福 ( 8 ) 祉 と区別しておきたい。日本では企業内福祉は、一九九〇年代

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頃まで各企業が採用した男性正社員に厚く生活を保障する役割を果たしてきた。しかし、正社員に関する長期雇用 慣行を背景とした、各企業が実施する企業内福祉の主たる対象は定年まで正社員として継続して働くことができた 労働者であり、近年急増している非正規労働者に、企業内福祉は及ばない。それゆえ、各企業の任意による給付で はなく、制定法により「全労働者」を対象とした保障の役割を捉えるべきであると考えられる。いったん雇用関係 に 入 り 生 活 を 営 む 労 働 者 に と っ て、 当 該 雇 用 関 係 は 労 働 者 の 生 計 (家 族 の 扶 養 を 含 む) の 基 盤 に な る た め、 雇 用 関 係 に よ る 生 活 保 障 (賃 金) を 傷 病 等 で 喪 失 す る 場 合 に は、 自 ら の 支 配 下 で 労 務 を 提 供 さ せ る 企 業 は、 生 活 を 保 障 す る責任の一部を負う、と解したい。 2   生活保障の二つの解決方法―「社会保障法的解決」及び「労働法的解決」   日本では、労働法も社会保障法も、実現方法は異なるが、労働者の人間らしい生活の保障を目的としている。ド イ ツ で も、 労 働 法 及 び 社 会 保 障 法 の 目 的 で あ る 生 活 保 障 ( Existenzsicherung ) に つ い て 一 九 八 〇 年 代 よ り 議 論 が 蓄 積さ ( 9 ) れ 、労働関係は単に賃金請求権の法的基礎であるだけではなく、同時に被用者保険を請求する権利の資格を媒 介するものであると捉えられてい ( 10 ) る 。   目的を実現する方法は社会的事情に応じても変化し、最近では社会保障制度、とくに年金法の機能のためには継 続的な雇用が鍵をにぎってい ( 11 ) る 。所得保障と並んで労働市場への統合も積極的に担うことが福祉国家に要請されて いる。   そこで、広義の生存権を、労働者又はその家族に対して具体化する労働法又は扶養法と、社会保障法の機能は、 次のように捉えられている。労働者が、生命・健康が侵害された場合に、二当事者間での不法行為又は契約に基づ

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く賠償義務だけでは問題が解決できないことがある。その際に、だれに、何を求めることができるのかが問題にな る。私法がつくりだす問題を、そこでは十分に解決できない場合に、社会保障法は、二当事者の外側に問題状況を とりだし、公法上の解決方法により、市民に私法関係の取引への参加を再び可能にし、ひいては私法上の機能の回 復を目指す、とい ( 12 ) う 。   例えば、労災事故の発生に対して、民法上の損害賠償により、使用者と被災労働者の二当事者間で損害を誰に帰 責できるのかを問題にし、使用者の損害賠償責任を問う。それに対して、工場での事故原因が不明又は労働者に過 失 が あ る 場 合 に は、 「社 会 的 な 保 護 原 13 ) 則 」 を 必 要 と す る。 そ れ に よ り は じ め て、 私 法 上 の 労 使 関 係 で は 問 題 を 完 全 には解決できない場合に、そうした私法関係を離れた特別な制度が必要になる。労災保険法は、無過失責任原則に よ り、 原 因 者 は 誰 か を 問 わ ず に、 集 団 的 な 連 帯 の 外 部 的 な 保 障 に よ り、 法 定 さ れ た 客 観 的 要 件 を 充 足 す る こ と を もって労働者が請求する権利を定めている。このように被用者保険は、客観的な要保障状況に対する損害を、二当 事者間での個人の責任から集団へ転嫁させ、公法上の責任が肩代わりしている ( abwälz ( 14 ) en ) 。   労災事故のように業務に起因するわけではないが、雇用の喪失又は所得の減少にいたる、職業にも関連する要保 障状況がある。たとえば、健康障害又は老齢に起因する所得の喪失は、労使関係において生じた問題であるが、当 事 者 で の 解 決 (「労 働 法 的 解 決」 ) が で き な い、 又 は 救 済 が 実 効 的 で な い な ど、 い わ ば「社 会 法 の 空 白」 が 生 じ う る (と く に 広 義 の 労 災 な ど) 。 こ こ に 国 家 が 登 場 す る 理 由 が あ り、 従 来 は 外 部 的 に 保 障 す る 制 度 を 整 備 し て き た (「社 会 保 障 法 的 解 決」 ) 。 近 年 で は Ⅱ 章 で み る よ う に、 労 働 者 の 社 会 保 険 の 受 給 権 は も と よ り、 自 ら の 支 配 下 に お き 労 務 を 提供させる使用者への請求権も国家法が拡大している。また、雇用だけではなく、労働者の家族関係についても、 親族間の扶養義務は「内部的解決」であり、児童養育など外部的な支援が必要になることがある。このような外部

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的な保障が社会保障制度である。   労 働 法 や 親 族 法 は「社 会 的 (私) 法 ( Soziales   ( Privat-) Recht ) 」 と 捉 え ら れ る こ と が あ 15 ) り 、 そ れ は、 社 会 保 障 法 ( Sozialrecht ) と 区 別 さ れ た、 よ り 広 い 概 念 で あ り、 労 働 法 や 親 族 法 な ど の 私 法 も ま た、 自 立 し て 生 活 を す る こ と が 困難な人に対して、人間らしい生活を確保する目的をもつことを捉える考え方である。社会保障法は、労働法など の私法だけではその生活保障機能を果たすことができない場合に、しかも当該私法から生活が困難になる問題が生 じ て い る 状 況 下 に (た と え ば、 病 気 に よ り 一 時 的 に 労 働 に 従 事 で き な い 等) 、 社 会 保 障 給 付 を 提 供 す る こ と に よ り、 自 立した生活を可能にする機能を果たす核心部分となる。 3   労働又は親族と社会保障制度の相互関係 ( 1)所得の減少と受給権   「働 く 貧 困 層」 も 増 加 し て い る が、 労 働 者 が 不 就 労 で あ れ ば 一 層、 生 活 保 障 が 問 題 に な る。 二 当 事 者 間 で 生 じ る 問題を、就労の一時的な中断により所得が減少する局面と、扶養義務を果たすことにかかる局面に分け、社会保障 が引き受ける役割を概観しておこう。被用者保険による制度(a)と、租税による制度(b)の順に、日独の制度 を例示したい。まず、所得の減少の局面をとりあげる。 (a)所得の減少と被用者保険   労 災 に つ い て は、 日 本 で は、 労 働 基 準 法 は 使 用 者 の「災 害 補 償」 (第 八 章) を 定 め て い る が、 労 災 保 険 法 に よ る 労 災 補 償 の 給 付 が 被 災 労 働 者 等 に 行 わ れ た 場 合、 事 業 主 は 労 基 法 上 の 労 災 補 償 責 任 を 免 れ る (労 基 法 八 四 条 一 項) 。 ただし、被災労働者への休業補償給付は、労災法上は休業四日目から支給されるため、最初の三日間について労基

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法の休業補償が行われる。労基法による使用者の災害補償は労災保険による補償を補完してい ( 16 ) る 。ドイツでは、事 業 主 が「故 意」 に よ り 事 故 を 惹 起 し た 場 合 等 を 除 き (七 編 一 〇 四 条 一 項 一 文、 一 一 〇 条 一 項 一 文) 、 労 災・ 職 業 病 の 扱 いは労災保険制度が担う。   そして、私傷病の生活保障は、日本では、傷病による休業の賃金支払は定めがない。健康保険の加入者について は 傷 病 手 当 金 の 定 め が あ る が (健 保 九 九 条) 、 国 保 で は 義 務 で は な く 付 加 給 付 で あ る (国 保 五 八 条 二 項) 。 ド イ ツ で は 使用者 (賃金の継続支払) と医療保険者 (傷病手当金) が私傷病時の所得保障役割を分け合っている (Ⅱ章) 。   また、妊娠・出産の労働者保護は、日本では、請求により労働者に妊娠による業務の軽減、出産前の休業が保障 さ れ、 産 後 の 一 定 期 間 は 就 労 が 禁 止 さ れ て い る (労 基 法 六 五 条 二 項 本 文) 。 し か し、 こ れ ら の 休 業 期 間 中 の 賃 金 に つ い て 労 基 法 に は 定 め が な く、 出 産 に よ る 休 業 期 間 に 健 康 保 険 法 に よ る 出 産 手 当 金 が 支 給 さ れ る (健 保 一 〇 二 条) 。 し かし、国保の被保険者である女性労働者に就労が禁止されている期間について、何ら保障がないことは、平等な取 り扱いではない。そもそも、労基法が就労を禁止する期間について、医療保険による出産手当金に加えて、使用者 は 上 積 み 給 付 を 支 払 う こ と が 考 え ら れ る。 ド イ ツ で も 争 わ れ た が、 母 性 保 護 を 理 由 と す る 労 働 の 禁 止 期 間 に つ い て、医療保険者、連邦、そして使用者が経済的保障の保障主体として共同している。 (b)賃金と生活保護   賃 17 ) 金 で は 生 活 が 確 保 で き な い 場 合 に、 生 活 保 護 が そ れ を 補 完 す る (日 本 の 生 活 保 護 法 四 条 一 項、 ド イ ツ 社 会 法 典 二 編 三 三 条) 。 も っ と も、 生 活 保 護 は、 違 法 な 低 賃 金 の 拡 大 を 許 容 す る わ け で は な い。 生 活 に 困 窮 す る 場 合 に は、 ま ず生活保護がそれを充足する機能を果たさなければならないが、本来、より高額の賃金が取得されうる場合には、 そ の 活 用 を 優 先 し な け れ ば な ら な い。 ド イ ツ で は、 日 本 の 補 足 性 に 匹 敵 す る、 保 護 の「後 位 性 ( Nachrang ) 」 及 び

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その回復のための調整が定められ (一〇編一一五条による移転) 、 参考になる。 日本も損害賠償義務との調整規定 (改 正 生 活 保 護 法 七 六 条 の 二) だ け で は な く、 賃 金 と の 調 整 規 定 を お く か、 又 は 賃 金 に 関 し て 保 護 支 給 分 の 債 権 の 代 位 (民 法 四 二 二 条 の 類 推 適 用) な ど の 検 討 が 必 要 で あ る。 た と え ば、 二 〇 一 五 年 一 月 一 日 か ら ド イ ツ で は 全 国 一 律 の 最 低 賃 金 が 実 施 さ れ た の を 契 機 に ( BGBl.  I  2014,  S.1348 ) 、 生 活 保 護 を 支 給 し て い る 実 施 主 体 の 一 つ は、 最 低 賃 金 に 違 反する三〇の事業所に対して、賃金債権の代位を主張してい ( 18 ) る 。 ( 2)家族の扶養義務と受給権   国 家 は、 労 働 者 の 病 気、 障 害、 失 業 等 の 要 保 障 状 況 が 将 来 に 生 じ る こ と に 被 用 者 保 険 で の 備 え ( Vorsorge ) を 促 さなければならない。そうでなければ、具体的な困窮状態へ租税による保障を要するため、個人が将来に備えるこ とができることは、公共の利益になる、と考えられ ( 19 ) る 。そうした立場によると、社会保障法は、経済取引に参加で きない権利主体に、独立して需要を充足する能力を付与するものであり、それゆえに、社会保障が病気、障害、老 齢又は失業といった抽象的な困窮に対応することは、独立した主体に取引の参加を可能にし、ひいては私法を機能 させることに寄与する、と捉えられ ( 20 ) る 。   老齢という要件を扶養の請求者が満たせば、年金制度により親族の扶養義務に依らなくても自立が可能になり、 日本では扶養の「社会化」といわれている。子が失業した場合でも、雇用保険法による基本手当請求権が失業した 子に成立すれば、成年子は親の扶養義務に依存しなくても自立できるわけである。ドイツには扶養請求権者の要件 に 扶 養 の「必 要 性 ( Bedürftigkeit ) 」 が 定 め ら れ ( BGB1602 条) 、 老 齢 や 失 業 等 の 発 生 は 一 般 的 に は 扶 養 の「必 要 性」 を 成 立 さ せ る が、 年 金 や 雇 用 保 険 制 度 の 整 備 に よ り、 老 齢 や 失 業 等 が 生 じ た 場 合 に も 扶 養 の「必 要 性」 が な く な

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る。同時に、社会保障が機能すれば、扶養の必要性自体をなくすため、扶養義務からも解放され ( 21 ) る 。 (a)扶養義務者の経済的能力の強化と被用者保険の受給権   社会保障制度には、親族法上の扶養義務の履行を援助する機能がある。例えば、被用者医療保険は、家族療養費 に よ り (日 本 で は 健 保 一 一 〇 条、 ド イ ツ 社 会 法 典 五 編(医 療) 一 〇 条) 、 家 族 の 負 担 を 軽 減 す る 役 割 を 果 た し て い る。 また、遺族年金の支給は、死亡した被保険者の遺族への扶養が前提にな ( 22 ) る 。 (b)扶養義務の補完と租税による給付   次に、租税による公的な保障と家族の負担をみると、児童手当又は児童扶養手当などの租税による給付は、扶養 義 務 者 の 援 助 機 能 を も つ。 児 童 扶 養 手 当 の 受 給 に よ り、 そ の 分 扶 養 義 務 者 の 負 担 を 減 ら す こ と に な る。 生 活 保 護 も、 何 ら か の 理 由 で 扶 養 が 困 難 な 場 合 に、 そ れ を 活 用 す る こ と に よ り 扶 養 義 務 者 の 負 担 を 減 少 さ せ る (生 活 保 護 法 四条二項、ドイツ社会法典二編二条二項) 。 (c)ドイツ法の新動向―高齢者等の生活保護による、扶養義務の事実上の「押しのけ ( verdrängung ) 」   社会保障法は親族法上の扶養義務を前提に、それを強化する機能を発揮しているが、新たな役割を定めたのが高 齢者及び重度障害者を対象とした生活保護の特別規定である (Ⅲ章) 。 Ⅱ   就労の中断に対する被用者保険と賃金保障の相互関係 1   医療保険と賃金保障 ( 1)雇用関係による生活の保障   多様な要保障状況のなかでも、傷病は、労働力に依拠した生活をする人にとって、療養それ自体にかかわり経済

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的負担が生じることと同時に、従来のように労務提供が困難になると所得も減少するために極めて大きな生活上の 危険であることは言うまでもない。ここでは、医療保険の経済的な保障を検討対象にする。医療費の負担の増大が 背景にあることは否めないが、欧州裁判所では使用者による傷病時の賃金継続支払の制度も社会保障の制度の一つ と説示さ ( 23 ) れ 、使用者が、契約に基づく労務提供が困難な労働者に生活を保障する役割を担い、公的な医療保険の負 担を軽減している。私傷病時の所得保障は、広義の社会保障制度の一部を、使用者の経済的負担により実現する一 例であ ( 24 ) る 。以下、みていこう。 ( 2)私傷病などの生活保障   傷病のために一時的に就労ができないと、労働者は当然に賃金を請求できないため、経済的な要保障状況が生じ うる。それに対して、ドイツでは被用者医療保険による傷病手当金支給義務が成立すると同時に、使用者の賃金継 続支払義務が成立する。賃金継続支払法三条一項一文は、病気の結果労務の提供が、労働者に過失がなく、妨げら れている場合には、労働不能の期間につき最長六週間まで、労働者は使用者による賃金継続支払い請求権を有する 旨を定める。そこで、重畳的に成立する請求権を調整し、労働者が傷病のため一定期間休業した期間について、傷 病 の 最 初 の 六 週 間 に 使 用 者 が 賃 金 支 払 義 務 を 負 う 場 合 に は、 被 用 者 医 療 保 険 法 の 傷 病 手 当 金 の 支 給 は 停 止 す る (社 会 法 典 五 編 四 九 条 一 項 一 号) 。 使 用 者 は、 最 初 の 六 週 間 に つ い て の み、 医 療 保 険 者 に 代 わ っ て、 労 働 者 の 生 計 を 維 持 す る た め に 報 酬 を 支 払 う 義 務 を 負 う (「労 働 法 的 解 25 ) 決」 ) 。 そ の 範 囲 で、 使 用 者 の 賃 金 継 続 支 払 義 務 が、 医 療 保 険 者 に よる傷病手当金の支払義務より「優先」する。仮に、使用者の賃金支払義務がない場合でも、健康保険法による傷 病手当金の請求権が労働者=被保険者に成立し (五編四四条) 、同一疾病につき三年のうち最長七八週間の受給が可

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能である (四八条一項一文) 。   連邦労働裁判所によると、使用者の賃金継続支払は、労働者の個別的利益であるだけではない。むしろ、私傷病 による労働者の生活の保障は使用者と医療保険者に重複するため、それを法律がどのように役割を配分するのかを 定めたものである。そして、最長六週間につき使用者への賃金継続支払請求権を定める賃金継続支払法三条一項一 文 は、 「使 用 者 と 医 療 保 険 者 の 間 で 法 律 に 規 律 さ れ た リ ス ク 配 分 ( Risikoverteilung ) を 定 め て い る」 、 と い 26 ) う 。 換 言 すれば、そこには私傷病による所得保障システムにおける負担の配分が定められ、すべての使用者と医療保険者が 保障主体として共同している。 ( 3)労働者に「過失」がある傷病―使用者か、医療保険か   ドイツ連邦労働裁判所では、原因が不明又は労働者の「過失」による病気により、労働ができない場合にも、使 用者が賃金支払義務を負うのかが争われる。裁判所によれば、生活保障システムの責任の配分を検討する上で重要 なのは、継続支払法三条一項の構成要件には、労働者自身に過失があるような賃金継続支払の費用を、使用者に負 担させるのであれば、それは不合理である、との考えがないことである、とい ( 27 ) う 。   そして、賃金継続支払請求権は原則として成立することが前提になり、その制約を正当化するための理由づけの 要素が問題になるにすぎない、という。賃金継続支払法三条により、医療保険者の負担がはるかに軽減され、公的 費用は「節約」され、ひいてはすべての保険料支払者の負担を間接的に軽減してい ( 28 ) る 。   問題は、厳格な基準で「過失」を認定すれば、それだけ容易に、使用者から医療保険者に労働者の生活の保障責 任が移転することである。しかし、連邦労働裁判 ( 29 ) 所 は、客観的基準をもとに判断すること、そして、合理的な人間

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の固有の利害に対して 「重大な又は著しい違反 ( ein  grober  oder  gröblicher  Verstoß ) 」 があること、 したがって 「特 別に軽率な又は故意による行為 ( ein  besonders  leichtfertiges  oder  vorsätzliches  Verhalten ) 」が「過失」の認定に必要 になる、と判断している。つまり、そうした場合を除き、使用者が私傷病の一般的な生活の保障状況に対しても負 担を引き受けることになる。なお、継続支払法三条一項の文言により、疾病又は労働不能の原因が解明できないと いうリスク ( Risiko ) 及び過失が労働者にあるかもしれないということは使用者が証明す ( 30 ) る 。 2   母性保護 (妊娠・出産) による就労禁止と実質賃金の代替 ( 1)所得保障を伴う「有効な労働者保護」   妊娠・出産による労働者保護を有効に果たすには、どのように生活を保障するべきなのかもドイツでは争われて きた。   ド イ ツ で は 母 性 を 理 由 と す る 就 労 禁 止 期 間 (母 性 保 護 法 三 条 二 項、 六 条 一 項) に つ い て、 使 用 者 か ら 賃 金 が 支 払 わ れ な い 場 合 に、 公 的 被 用 者 医 療 保 険 法 に よ る 出 産 手 当 金 と 並 ん で (五 編 二 四 ⅰ 条、 母 性 保 護 法 一 三 条 一 項) 、 使 用 者 に よ る 出 産 手 当 金 の 付 加 手 当 ( Zuschuss ) の 支 払 い を も っ て (母 性 保 護 法 一 四 条) 、 妊 婦 の 労 働 者 の 扶 養 を 保 障 す ( 31 ) る 。具体的にみれば、まず、女性労働者が公的被用者医療保険の被保険者である場合には、出産手当金が医療保険 者 か ら 支 給 さ れ、 支 給 額 は 直 近 の 三 カ 月 の 平 均 実 質 賃 金 に 基 づ き 算 定 さ れ る が、 日 額 の 上 限 は 一 三 ユ ー ロ で あ る (五 編 二 四 ⅰ 条 二 項) 。 な お、 女 性 労 働 者 が 公 的 被 用 者 医 療 保 険 に 加 入 し て い な い 場 合 に は、 連 邦 の 負 担 に よ り 支 給 さ れ る (母 性 保 護 法 一 三 条 二 項 及 び 三 項) 。 こ れ ら の 医 療 保 険 に よ る 給 付 と 重 畳 的 に、 従 前 の 実 質 賃 金 を 補 償 す る た め、産前産後の就労禁止期間及び出産日につき、労働者は休業の直近三週間の「平均報酬日額と一三ユーロの『差

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額』 」 を 使 用 者 に 付 加 手 当 と し て 請 求 で き る (母 性 保 護 法 一 四 条 一 項 一 文) (「労 働 法 的 解 決」 ) 。 雇 用 関 係 が 終 了 し て い る場合又は使用者の支払不能による場合には、医療保険者が支払う (母性保護法一四条二項、三項) 。   公 的 被 用 者 医 療 保 険 加 入 の 女 性 労 働 者 の 実 質 賃 金 が 日 額 一 三 ユ ー ロ を 超 え る 場 合 に は、 「差 額」 を 使 用 者 が 支 払 う 義 務 を 負 う 規 定 (母 性 保 護 法 一 四 条 一 項) の 違 憲 性 が 問 題 に な っ て き た が、 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 三 年 一 一 月 一八日決 ( 32 ) 定 は、使用者が出産手当金に加えて賃金を継続して付加手当を支払う義務自体は、立法者の目的を果たす のに適切かつ必要であると判示している。その論拠の一つは、使用者は労働者保護により妊婦又は子を、労働関係 から生じる健康への危険からまもる特別な責任を負い、女性労働者を生活のために働かざるをえない状況におくこ とを回避するには、経済的な保障が不可欠であることである。したがって、賃金補償をともなう場合にしか、労働 者保護が有効に果たされない、と説示する。国家、使用者、被用者保険が負担を分担することは、事業主の職業遂 行の自由に抵触するわけではない、と。 ( 2)小括   私傷病又は妊娠・出産にかかる所得保障は、ドイツの制度をそのまま日本に導入できるかどうかは検討の必要が ある。しかし、母性保護を理由とする就労禁止期間につき、女性労働者に「実質賃金の代替」という目的が設定さ れているのが、ポイントである。しかし、そうした事項について、公的被用者医療保険と使用者が、いかに負担す るのかは、当然に争いになるが、そのような生活保障システムを福祉国家が積極的に形成していること自体に、注 目したい。   傷病時の生活保障をすべての労働者に構築することは、ディーセントな仕事の必要条件である。また、日本も、

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「家 計 維 持 責 任」 を 負 う 多 様 な 女 性 労 働 者 が 就 労 し て い る 現 在、 母 子 の 健 康 と 経 済 的 な 生 活 を 両 立 さ せ る シ ス テ ム を 真 剣 に 検 討 す る べ き で は な い か。 産 前 産 後 に つ い て の 休 業 又 は 妊 娠 を 理 由 と し た 業 務 の 軽 減 は 保 障 さ れ て い る が、休業期間の所得保障又は軽減業務に従事していた期間の差額保障については定めがない。少なくとも妊娠・出 産にかかわる就労の禁止を理由とする経済的な不利益は、すべての女性労働者に保障されるべきである。連邦憲法 裁判所の判示の当否に議論はあるが、有効な労働者保護に所得保障が伴う必要性は、決して否定されるものではな い。 3   年金権と雇用関係による生活保障 ( 1)「稼得能力の減少 ( Erwerbsminderung ) 」―企業から公的年金へ (二〇〇〇年一二月三一日まで)   日本では劣悪な職場環境が原因となり、健康状態に問題を抱えるにいたった労働者が多く、また現行法上の労災 に該当するといえないとしても、広義の業務災害とみることができる場合が少なくない。そうであれば、本人だけ の責任に帰すことができない、一時的ではない健康上の問題を捉える生活保障の充実が必要ではないのか、もし必 要 で あ る な ら ば い か に 保 障 す る べ き か、 が 問 題 に な る。 こ こ で 参 考 に な る の は ド イ ツ 社 会 法 典 六 編 (年 金) に よ る 「稼 得 能 力 の 減 少」 で あ る。 こ れ は、 病 気 又 は 障 害 に よ り 予 測 可 能 な 期 間、 医 学 的 及 び 労 働 市 場 の 状 況 下 で 一 定 の 通 常 の 就 労 が 不 可 能 な 状 態 を い う。 そ れ は、 前 節 の「傷 病 に よ る 就 労 不 能」 の 要 保 障 状 況 と は 明 確 に 区 別 さ れ、 「稼 得 能 力 の 減 少」 し て い る 労 働 者 す べ て が、 就 労 で き な い わ け で は な 33 ) い 。 だ か ら と い っ て、 フ ル タ イ ム で の 就 労 が可能ではなく、また将来的に「継続して就労が困難」と認定もされていない中高年労働者は、労働市場では不利 な グ ル ー プ の 一 つ で あ る。 「稼 得 能 力 の 減 少」 を 理 由 と す る 年 金 受 給 者 に は、 そ の 原 因 が 職 業 に よ る 割 合 は 一 部 で

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あるが、現行法上の労働災害・職業病と認定されないとしても、広い意味ではそれに該当しうる場合も少なくはな ( 34 ) い 。   傷病労働者が雇用を喪失し、又はフルに仕事ができない場合に、ドイツでは主として三つの方法で所得を保障し てきた。まず、傷病が治癒しない場合に解雇されると、日本の雇用保険法による基本手当に匹敵する失業手当又は 失 業 扶 助 (二 〇 〇 四 年 一 二 月 三 一 日 ま で 実 施) か、 あ る い は 生 活 保 護 で あ る。 最 後 に、 「稼 得 能 力 の 減 少」 の 年 金 で あ る。 二 〇 〇 〇 年 一 二 月 三 一 日 ま で、 こ の 年 金 に は 二 種 類 が あ り、 一 つ は「職 業 不 能 ( Berufsunfähigkeit ) 」 (ラ イ ヒ 保 険 法 一 二 四 六 条、 六 編 四 三 条 二 項) と い う 保 険 事 故 で あ り、 稼 得 能 力 が、 従 来 の 主 た る 職 業 の 基 準 (職 業 教 育) と な る 賃 金 の 半 分 よ り 低 下 し た 場 合 に 生 じ る も の で あ っ た。 い ま 一 つ が「稼 得 不 能」 ( Erwerbsunfähigkeit ) 」 で あ り (ラ イ ヒ 保 険 法 一 二 四 七 条、 六 編 四 四 条 二 項) 、 先 の「職 業 不 能」 と 異 な り、 一 般 労 働 市 場 で の す べ て の 就 労 可 能 性 が 減少しているものである。ここでの問題は、前者の、従来と同一の職業につくことができないが、一般労働市場で の 就 労 は 可 能 な 労 働 者 の 生 活 保 障 を、 企 業 で は な く、 公 的 年 金 が 引 き 受 け て き た こ と で あ る (「社 会 保 障 法 的 解 決」 ) 。 私 傷 病 に よ り 就 労 が 困 難 な 労 働 者 の 多 く は「職 業 不 能」 で あ っ 35 ) た 。 典 型 的 に は、 「健 康 に 問 題 を 抱 え る」 中 高年労働者を、かつては退職させ、早期年金受給権を通じて労働市場から引退させた。企業は、確かに、被用者年 金の保険料を負担しているが、生活保障のための賃金支払を軽減する機能を「稼得能力の減少」による年金が事実 上果たした。 ( 2)「稼得能力の減少」した労働者―「労働法的解決」への要請   傷病等により「稼得能力」が減少している労働者の生活の保障を、だれが引き受けるのかは、あらためて近年の

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争点になっている。労働者は傷病により就労が困難なのではなく、短時間労働であれば可能であるため、雇用関係 が生活保障機能を少なくとも一部は果たすべきではないのか。この問題には概ね三つの背景がある。一つに、年金 改 革 が、 従 来 の、 「健 康 に 問 題 を 抱 え る」 中 高 年 労 働 者 の 早 期 退 職 を 廃 止 し た こ と で あ る。 こ の 新 し い 状 況 を つ く り だ し た の は、 二 〇 〇 〇 年 の 稼 得 能 力 の 減 少 を 理 由 と す る 年 金 改 革 法 ( Gesetz  zur  Reform  der  Renten  wegen   verminderter  Erwerbsfähigkeit  v.20.  12.  2000,   二〇〇一年一月一日施行、以下、二〇〇〇年年金改革法) である。これは、 医学的な評価ではなく、労働市場での能力を法的評価する基準に変更し、従来の二種類の、―実態は区別が困難 ( 36 ) な ―、職業不能年金と稼得不能年金を廃止した。経過措置により、一九六一年一月二日より前に生まれた被保険者し か 職 業 不 能 年 金 を 受 給 で き な い た め (六 編 二 四 〇 条 一 項 二 号) 、 例 え ば 二 〇 一 六 年 に 五 〇 歳 の「稼 得 能 力 が 減 少 し た」 年 金 受 給 者 は、 労 働 市 場 か ら 引 退 す る 早 期 年 金 受 給 者 で は な く、 む し ろ「稼 得 能 力 の 減 少」 し て い る「労 働 者」 で あ る。 「稼 得 能 力 の 減 少」 に よ っ て も 解 雇 が 当 然 に 許 さ れ る わ け で は な 37 ) い 。 二 つ に、 重 度 障 害 者 法 制 が、 社 会 法 典 九 編 (リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 及 び 参 加) 二 部 (六 八 条 な い し 一 六 〇 条) に、 労 働 法 の 個 別 法 及 び 集 団 法 (従 業 員 代 表 等 を 含 む) に か か わ り 二 〇 〇 一 年 七 月 一 日 か ら 施 行 さ れ て い る こ と で あ る。 重 度 障 害 者 法 制 は、 二 〇 以 上 の 職 場 を も つ 使 用 者 に、 少 な く と も 五 % の 重 度 障 害 者 を 就 業 さ せ る 義 務 を 課 し て い る (七 一 条) 。 ま た、 重 度 障 害 者 の 特 別 な 解 雇 制 限 が 定 め ら れ (八 五 条 以 下) 、 雇 用 関 係 が 解 雇 予 告 に よ り 終 了 し な い 場 合 で も、 「継 続 的 に 完 全 な 稼 得 不 能 (一 般 的 な 労 働 市 場 の 通 常 の 条 件 下 で 一 日 三 時 間 の 就 労 が で き な い 状 況(六 編 四 三 条 二 項 二 文) ) 」 を 除 き、 統 合 局 が 雇 用 終 了 に 同 意 す る の を 必 要 と す る (九 編 九 二 条) 。 従 来、 連 邦 職 員 協 約 ( Bundes-Angestelltentarifvertrag ) は 五 九 条 に「稼得能力の減少」を理由とする年金の受給資格が認定されると、それをもって雇用を終了することができる旨 を定め、連邦労働裁判 ( 38 ) 所 も解雇を許容したため、使用者は公的年金へ生活保障の負担を移転させ、国家が企業の負

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担を「肩代わり」してきた。しかし、社会法典九編二部の制定に伴い、重度障害者の解雇制限の緩和は認められな ( 39 ) い 。 三 つ に、 二 〇 〇 〇 年 年 金 改 革 法 の「稼 得 能 力」 の 基 準 を 用 い た 社 会 法 典 二 編 (求 職 者 基 礎 保 障 法) が、 二 〇 〇 五 年 一 月 一 日 に 施 行 さ れ て い る こ と で あ る。 二 編 は そ の 適 用 対 象 が 広 く、 短 時 間 労 働 が 可 能 な、 「部 分 的 な 稼得能力の減少」 (一日三時間以上の就労が可能である) を理由とする年金の受給者を、労働市場への統合を目指す、 障害のある「求職者」として捉えるのである。   年金財政や、最低生活保障の拡大による財源が問題になるというだけではなく、むしろ、アクティベーションの 潮流も背景に、長期にわたる職業生活の全期間をすべての労働者に、ある程度の生活を可能にするには、広義の労 働 災 害 (ド イ ツ で は「稼 得 能 力 の 減 少」 も 含 む) を 規 制 し、 職 業・ 職 場 に か か わ り 生 じ う る 健 康 被 害 の 予 防 又 は 減 少、そして労働者の (再) 雇用が一層強く要請されてい ( 40 ) る 。   このように労働市場への統合を保障する手法を背景に、とくに「社会的私法としての労働法」たる重度障害者法 (社 会 法 典 九 編 二 部) ( 41 ) が 、 使 用 者 に 対 し て 雇 用 を 促 進 す る 規 定 を 整 備 す る こ と を 通 じ て、 労 働 者 の「稼 得 能 力 の 減 少」という要保障状態に対する保障のあり方を変化させている。それゆえ、生活の保障を、国家 (雇用保険、年金、 生 活 保 護) と、 使 用 者 が い か に 共 同 す る の か が 問 わ れ て い る。 同 様 に、 「国 家 と 企 業 の 争 い」 は、 定 年 を 理 由 と す る雇用終了による要保障状況にも、みいだせる。 ( 3)年金開始年齢までの雇用   ドイツでは定年よりも早期に退職する慣行があり、それにより企業から公的年金が生活保障の負担を引き受けて き た 。 そ れ を 立 法 に よ り 変 更 し 、 二 〇 〇 七 年 標 準 老 齢 年 金 適 合 法 ( RV-Alt ersg ren zena npa ssu nsg eset z )( BGBl.  I,  S.554 )

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は二〇一二年以降に標準の老齢年金開始を六五歳から六七歳に段階的に引きあげている (六編三五条二文、二三五条 以 下) 。 年 金 法 は「老 齢 年 金 と 解 雇 制 限」 に つ い て 定 め (六 編 四 一 条 一 文) 、 定 年 を 理 由 と す る 雇 用 関 係 の 終 了 の 中 心 的 な 役 割 を 担 っ て い る。 原 則 と し て、 労 働 契 約 は、 公 的 年 金 の 給 付 を 受 給 す る 限 り、 解 雇 の 表 示 を す る こ と な く、いわば「自動的」に終了する。標準の老齢の年齢に達した時点での期間を定めるのは、労働者に公的年金を請 求する権利がある場合に許容されるのである。長期間の安定した雇用に従事してきた場合には、労働者はより早期 に退職が許される (六編三六条) 。裁判所は、公的年金の受給可能性により労働者が経済的に保障されることがなけ れば、定年は許容されないと判示してい ( 42 ) る 。ただ、年金額について一定の基準を設けることは重要ではないと判示 し、被用者年金法が適用されていない期間があるために低年金であっても、定年が不合理だといえないため、近時 の争点になってい ( 43 ) る 。   日本では、長期雇用慣行の下で多くの企業が定年制度を導入してきたが、かつては六〇歳の年金開始時には五五 歳 定 年 制 が 普 及 し、 標 準 の 年 金 支 給 年 齢 と の タ イ ム ラ グ が 存 在 し て い た。 二 〇 一 二 年 高 年 齢 者 雇 用 安 定 法 改 正 に よっても、その点に変わりはない。日本では、定年年齢と公的年金の開始年齢の不一致が常態化しているが、高齢 労働者の生活の保障の観点から、公的年金の受給が不可能な一定年齢の到達をもって、なぜ雇用関係を終了させる のが許されるのか、疑義がある。 4   小括―労働者の生活保障における「共同」の意義   Ⅰ章及びⅡ章の検討を基に、労働者の要保障状況に対する公的な生活保障と企業の役割について、三点を確認し て お き た い。 一 つ に、 社 会 保 障 法 は 企 業 の 生 活 保 障 の 責 任 転 嫁 を 許 容 す る も の で は な い。 「働 く 貧 困 層」 を 生 み だ

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さないように、公正な処遇の実現、とくに非正規労働者に対する賃金格差の是正は不可欠である。均等処遇原則の 実 現 は、 労 働 者 の 生 存 権 の 前 提 条 件 で あ る。 「働 く 貧 困 層」 の 原 因 は 一 様 で は な い が、 平 成 二 六 年 賃 金 構 造 基 本 統 計 調 査 (全 国) (二 〇 一 五 年 二 月) に よ れ ば、 雇 用 形 態 間 の 格 差 が 大 き 44 ) く 、 ま た 非 正 規 労 働 者 間 の 男 女 格 差 も み ら れ (男 性 を 一 〇 〇 と す れ ば、 女 性 は 八 一) 、 男 性 正 規 労 働 者 を 一 〇 〇 と す れ ば、 女 性 正 規 労 働 者 は 七 五、 女 性 非 正 規 労 働 者は五二という低さである。二つに、租税による所得保障制度として、児童手当又は児童扶養手当が一定の生活状 況を捉えることに加え、生活が困難な労働者に対して生活保護が需要を充足し、最低生活を保障することは重要で ある。それゆえに、生活保護法に補足性を回復する定めが必要である。生活保護の受給権が賃金と競合しうる場合 に は、 生 活 保 護 の 実 施 主 体 が 市 民 の 需 要 を 充 足 す る 義 務 を 履 行 し た 上 で、 事 後 的 に 賃 金 支 払 分 の 債 権 の 代 位 取 得 (民 法 四 二 二 条 の 類 推 適 用) も 検 討 す べ き で あ ろ う (社 会 法 典 一 〇 編 一 一 五 条 も 参 照) 。 三 つ に、 従 前 の よ う に 就 労 が で きないことによる要保障状況は、職業生活において不確定に生じる。そこでは、一時的に就労が困難な状況に医療 保険法が、又は継続的な状況に年金法が公的に生活保障を負うのか、それとも使用者が賃金を保障する又は雇用す るのかが争いになる。物質的な生活水準を保障する条件を、労働法と社会保障法がどのように整備するのかが、問 われている。 Ⅲ   高齢者及び重度障害者基礎保障(社会法典一二編四章)による扶養義務の代替 1   高齢者・重度障害者 (年金受給資格者) の最低生活保障   高齢期の貧困は、日本ではすでに現在の問題であるが、ドイツでは現役労働者に低賃金雇用が広まれば、将来に 顕在化すると見込まれている。年金法が「老齢」を六七歳に変更したことからも、労働者の体力の限界からも、す

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べての職業が年金の標準受給年齢まで働くことができないことも予測できる。退職後にやってくる高齢期の生活水 準には、それまでの就労のあり方が大きな影響を及ぼ ( 45 ) す 。   低賃金ではない雇用につき、それにより四五年間の保険期間を充足し、かつ週四〇時間労働に従事した場合に、 被用者年金の支給額が生活保護による水準に到達するには、現時点では時給九・四〇ユーロを超える必要がある。 退職前に、雇用の継続を保障する必要性が新たな論点になってい ( 46 ) る 。   ドイツでは、比較的安定した被用者生活保障モデルを展開してきたが、年金権は、公的被用者年金だけで従前生 活 保 障 機 能 を 果 た す の で は な く、 私 的 年 金 (確 定 拠 出 型 個 人 年 金、 以 下 リ ー ス タ ー 年 金) の 導 入 に よ り 従 前 生 活 保 障 機 能 を 果 た す 方 向 に 改 革 が な さ れ、 二 〇 〇 一 年 公 的 年 金 及 び 高 齢 者 資 産 促 進 改 革 法 ( Gesetz  zur  Reform  der   gesetzlichen  Rentenversicherung  und  zur  Förderung  eines  kapitalgedeckten  Altersvorsorgevermögens  v.26.  06.  2001  BGBl. I S.1310 )(以 下、 二 〇 〇 一 年 年 金 改 革 法) が 成 立 し た。 い わ ゆ る「三 本 柱」 の 考 え 方 に よ り、 公 的 年 金 に よ る 生 活 保 障から、企業年金又は私的年金を含めた生活保障へといわれる。もとより、高齢期の生活保障は、公的年金だけで はなく補足的年金により果たされうるが、現実には補足的年金が労働者全体に広まっているとはとてもいえな ( 47 ) い 。 二 五 歳 か ら 六 五 歳 ま で の 公 的 被 用 者 年 金 に 加 入 す る、 民 間 企 業 の 労 働 者 (総 数 二 五 一 〇 万 人) を 対 象 に、 公 的 年 金 以外に企業年金又はリースター年金の受給資格を有するのかを調査したところ、約三割は公的年金しかなく、企業 年 金 又 は リ ー ス タ ー 年 金 の 少 な く と も 一 方 の 期 待 権 を 有 し て い る の は 七 一・ 三 % (一 七 九 〇 万 人) で あ る。 企 業 年 金 の 期 待 権 は 全 体 の 五 六・ 四 % (一 四 一 〇 万 人) が 有 し、 三 五・ 二 % (八 八 〇 万 人) は リ ー ス タ ー 年 金 の み 継 続 的 に 保 険 料 を 払 っ て い 48 ) る 。 公 的 年 金 以 外 に 企 業 年 金 も リ ー ス タ ー 年 金 も 受 給 可 能 性 が あ る 人 は 全 体 の 二 〇・ 二 % (五 一 〇 万 人) に と ど ま る。 公 的 年 金、 企 業 年 金、 そ し て 私 的 年 金 の「三 本 柱」 に よ り 従 前 生 活 保 障 を 果 た す こ と

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は、将来的には被保険者の多くに実現が見込まれな ( 49 ) い 。   「老 齢」 と い う 要 保 障 状 況 は、 労 働 者 の 生 活 保 障 に と っ て 定 年 ま で の 雇 用 関 係 の あ り か た を 条 件 に、 厚 生 年 金 の 受給内容が定められる。結果として、公的年金による保障だけでは最低生活が困難になる場合に、生活保護の受給 と、個人とくに親族扶養の調整が問題になる。ドイツでは、一般的には、生活に困窮する場合に、受給権者の親族 扶養請求権が生活保護請求権に「優先」するため、生活保護の実施主体は、生活保護を実施し、受給者の需要を充 足 し た 上 で、 債 権 の 代 位 取 得 が 可 能 と な る (二 編 三 三 条、 一 二 編 九 四 条) 。 し か し、 先 の 二 〇 〇 一 年 年 金 改 革 法 は、 高 齢 者 及 び 早 期 に 重 度 障 害 に な っ た 者 を 対 象 に、 扶 養 義 務 者 (成 年 子 又 は 重 度 障 害 者 の 親) か ら の 独 立 を 目 的 と し て、特別法を制定した。本章では、労働者の職業生活後の高齢期を中心に、公的年金だけでは生活が確保できない 状況において、果たして生活保障は、個人、とくに扶養義務者が負うのか、それとも公的な最低生活保障が負うべ きなのか、という緊張関係をとりあげることにしたい。 2   二〇〇一年年金改革における基礎保障法 ( GSiG ) の成立   二〇〇一年年金改革法の制定は、ドイツでも雇用の変化や少子高齢社会のなかでの家族機能の変化を背景に、被 用者の老齢年金の安定化が問われた。諸外国のように基礎的な保障を公的被用者年金がはたすべきか、又は基礎年 金を導入するべきかが、政治的な争点になった。結果として、ドイツでは被用者年金の基礎部分を年金法としては 導入しないこと、それは最低生活保障法の課題であることを決めたが、一般扶助主義の最低生活保障である連邦社 会 扶 助 法 ( Bundessozialhilfegesetz )(二 〇 〇 四 年 一 二 月 三 一 日 ま で 施 行) と は 別 に、 個 別 法 と し て 高 齢 者 及 び 重 度 障 害 者を対象とした生活保護を定めた。それが、先の二〇〇一年年金改革法の枠内で、単独立法として成立した、高齢

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者 及 び 重 度 障 害 者 基 礎 保 障 法 ( Das  Gesetz  über  einer  bedarfsorientierte  Grundsicherung  im  Alter  und  bei   Erwerbsminderung [ GSiG ]) ( BGBl.  I  2001,  S.1310 )(二〇〇三年一月一日施行) であ ( 50 ) る 。   それでは、どこに個別法の意義があるのだろうか。それは、一つに、高齢者が生活保護の請求権を抽象的には有 しているが、親族への遠慮や恥ずかしいという感情により請求権を行使しない漏給を回避すること、そして生活保 護を請求することにより高齢者の生活状況を改善することが、立法者の意図であっ ( 51 ) た 。いま一つは、若年重度障害 者に親から独立した最低生活が保障されることである。漏給を防止するために、二〇〇一年年金改革法は、年金保 険者が年金支給額の低い被保険者に、基礎生活保障の請求権の行使について情報を提供する義務を負う旨の規定を 社会法典六編 (年金) に導入した (六編一〇九a条一項) 。   基 礎 生 活 保 障 法 ( GSiG ) は、 二 〇 〇 四 年 一 二 月 三 一 日 ま で の 最 低 生 活 保 障 法 の 連 邦 社 会 扶 助 法 (九 一 条) の 特 別 規定として、扶養義務者の年収 (四編一六条の定める年収) が一〇万ユーロを超えない場合には、費用を償還しない こ と を 定 め た (二 条 一 項 三 文) 。 高 齢 者・ 重 度 障 害 者 が 親 族 へ の 費 用 償 還 を 心 配 す る こ と な く、 独 立 し た 社 会 保 障 を 可能にすることを目指したものであ ( 52 ) る 。この内容は二〇〇五年に成立した社会法典一二編四三条三項一文に継承さ れている (次節) 。 3   年金生活者の最低生活保障の特徴―扶養義務の調査権限不行使の原則 (社会法典一二編四三条三項) ( 1)社会法典一二編四章への編入   基 礎 生 活 保 障 法 ( GSiG ) は、 二 〇 〇 五 年 一 月 一 日 か ら 社 会 法 典 一 二 編 (生 活 保 護) に 編 入 さ 53 ) れ 、 要 保 護 者 の 申 請 に 基 づ き (一 二 編 一 八 条 一 項、 四 一 条) 、 最 低 生 活 保 障 機 能 を 果 た す こ と を 目 的 と す る と 同 時 に、 老 親 の 扶 養 義 務 を

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負 う 現 役 労 働 者 世 代 の 負 担 を 軽 減 し て い 54 ) る 。 な お、 社 会 法 典 一 二 編 に よ る 高 齢 者 及 び 重 度 障 害 者 基 礎 保 障 法 は、 二 〇 一 三 年 一 月 一 日 か ら 完 全 に 連 邦 財 源 に 依 っ て い る ( Gesetz  zur  Änderung  des  Zwölften  Buches  Sozialgesetzbuch   v.20.  12.  2012,  BGBl.  I  2012,  S.  2783 ) 。   社会法典一二編四一条以下は、高齢者が親族に遠慮し、又は貧困を恥ずかしいと思い、権利を行使しないのを解 決することを意図 ( 55 ) し 、高齢者・重度障害者基礎保障の固有の機能を担うことが明確にされてい ( 56 ) る 。そして何より、 立 法 者 に 同 法 の「心 臓 部 分」 と 評 価 さ れ た の が、 扶 養 義 務 に 対 す る 生 活 保 護 法 の 特 別 規 定 (一 二 編 四 三 条 三 項) で あ 57 ) る 。次にみていこう。 ( 2)扶養義務者の収入   社会法典一二編四三条三項によれば、高齢者の成年子又は重度障害者の両親に対する扶養請求権は、それらの者 の、 四 編 一 六 条 で い う 年 間 総 収 入 が 一 〇 万 ユ ー ロ の 額 に 満 た な い 限 り に お い て は、 考 慮 し な い (一 文) 。 実 務 上 も 重要な推定規定である二文は、一文の扶養義務者の収入は、一文で掲げられた上限を超えないことが推定される、 と定めることから、原則として扶養義務者である成年子等の収入は、一〇万ユーロを下回ると推定される。問題に なっているのは、扶養義務者が複数いる場合に、一二編四三条三項一文の一〇万ユーロという収入の限度額は、扶 養義務者全ての収入を合算するのか、それとも、各扶養義務者について算定するのか、である。文言は明確ではな く、 扶 養 義 務 者 に 有 利 に 解 さ れ な け れ ば な ら な い た め、 学 説 で は 扶 養 義 務 者 各 人 に つ い て 収 入 限 度 額 が 考 慮 さ れ る、 と 有 力 に 説 か れ る 一 58 ) 方 、 異 な る 見 解 も あ 59 ) る 。 連 邦 社 会 裁 判 所 二 〇 一 三 年 四 月 二 五 日 判 決 は、 前 者 の 立 場 を と り、扶養義務者を個別に限度額について考慮すると判示してい ( 60 ) る 。本件は重度障害者の基礎保障給付請求権者の両

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親の総報酬が合算すれば一〇万ユーロを超える事案である。裁判所は、少なくとも一人の親が法定の上限を超える 必要があること、その場合には一二編四章による基礎保障給付請求権ではなく、一二編三章による生計扶助請求権 (一二編二七条以下と結びついた一九条一項) を有すること (一二編四三条三項六文) 、を示している。 ( 3)所得の推定とその反証 (一二編四三条三項二文ないし四文)   一二編四三条の制定の意義と目的からすれば、実施主体は高齢者及び重度障害者の保護請求権について扶養にか か る 調 査 権 限 を 行 使 し な い こ と が 原 則 で あ り、 い わ ば 調 査 の 事 実 上 の 放 棄 ( Verzicht ) と な 61 ) る 。 一 二 編 四 三 条 三 項 は、 原 則 と し て 扶 養 義 務 者 の 収 入 を 一 定 の 限 度 内 で あ る と 推 定 し た 上 で (二 文) 、 例 外 的 に、 実 施 主 体 は、 法 律 上 の 推 定 を 反 証 す る た め に、 受 給 権 者 に、 扶 養 義 務 者 の 収 入 状 況 を 推 理 で き る 届 出 を 求 め る こ と が で き る (三 文) 。 とはいえ、それは、四文によれば、実施主体が収入の上限を超過している可能性について個別事例における「十分 な 手 掛 か り ( hinreihende  Anhaltspunkte ) 」 を 有 す る 場 合 に 限 り、 受 給 権 者 の 成 人 子 又 は 親 は、 実 施 主 体 に、 本 法 典 の実施に必要な範囲において、収入状況に関する情報を提供する義務を負う。例外的に、実施主体による扶養義務 者の調査手続では、収入および財産関係についての「十分な手掛かり」が示された場合にはじめて、扶養義務者が 収 入 及 び 財 産 関 係 を 開 示 す る 義 務 を 負 う と さ れ、 段 階 的 に 手 続 が 定 め ら れ て い る。 「十 分 な 手 掛 か り」 と い う の は、職業資格を受けた職業への従事又は手広い不動産賃貸などで示されてもよいとい ( 62 ) う 。   基礎保障法及びそれを継承した一二編四一条以下は、民法上の形式的な扶養義務を、公法上は親族扶養の償還を 事実上廃止しているため、高齢者等の貧困リスクは個人又はその親族から、国家が肩代わりし、社会保障給付の意 義を高めたわけであ ( 63 ) る 。

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  も と よ り、 成 年 子 の 老 親 の 扶 養 義 務 は 民 法 か ら 削 除 さ れ て い る わ け で は な い が ( BGB1601 条) 、 核 家 族 の 機 能 か ら、老親への扶養義務を事実上廃止したのが二〇〇一年基礎保障法の制定であった。基礎保障法の制定により、少 なくとも形式的には存する老親への扶養義務が、事実上履行を求められなくなることをもって、高齢者の生活保障 という重要な任務は、扶養法 (扶養義務者) から社会保障法 (福祉国家) へ完全に移転してい ( 64 ) る 。   た だ し、 立 法 者 に は、 親 族 か ら 扶 養 を 免 責 し、 軽 減 を は か る と い っ た 意 図 は な く、 事 実 上 の 利 益 (「反 射 的 利 益」 ) とされてい ( 65 ) る 。とはいえ、連邦通常裁判所二〇一五年七月八日判 ( 66 ) 決 も、高齢者が、扶養義務を負った子又は親への 償還をおそれ、社会法典一二編四章の給付の申請を敬遠しないように同法は目指すものであると確認し、兄弟の扶 養義務者への償還は認容しなかった。申請の後に扶養義務者に対して費用を求めることを一二編は予定していない のであり、申請前に実際に扶養している範囲で要件を充足する時に償還をするにとどまる。高齢者が生活保護を請 求すると、その範囲で親族の扶養義務の程度が減少するた ( 67 ) め 、それをもって、高齢者及び重度障害者の生活保障の 責任を、私法上の親族から、公的被用者年金に加えて、租税による生活保障責任に移転させてい ( 68 ) る 。つまり、高齢 者 及 び 重 度 障 害 者 の 最 低 生 活 保 障 (生 活 保 護 法 の 特 別 規 定) の 制 定 は、 親 族 法 の 当 事 者 間 で の 私 法 的 解 決 か ら、 当 事者間の問題状況に外部的な保障制度を設けたものであり、扶養の問題状況の一部に対する「社会保障法的解決」 (Ⅰ章) を明確にしたものである。 ( 4)小括   日 本 で は、 「高 齢 ワ ー キ ン グ・ プ ア」 が 増 加 す る 一 方 で、 高 齢 者 が 生 活 保 護 を 申 請 す る と、 扶 養 義 務 者 へ の 照 会・ 行 政 の 調 査 権 限 が 強 化 さ れ て い る (改 正 生 活 保 護 法 二 四 条 八 項、 二 八 条 二 項、 二 九 69 ) 条) 。 逆 の 方 向 に 舵 を き っ た の

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が、ドイツの高齢者及び重度障害者を対象とした生活保護制度における調査権限の不行使の原則であり、老親への 成年子の扶養及び重度障害のある子への親の扶養を事実上求めない規定である。   これは、高齢時等の一定の生活保障という事柄が、日本では、労働市場での賃金又は親族扶養により、私事化さ れているのに対し、ドイツでは、確かに公的被用者年金だけではなく企業年金の比重が増しているとはいえ、年金 者の最低生活確保という任務に対しては、福祉国家が公的保障の射程を拡大している。労働者の生活保障を最終的 に担保する責任は国家に残ることは、看過されてはならな ( 70 ) い 。   家族が扶養の経済的負担から無条件に免れることは要請されないとしても、最低生活保障を主として家族へ委譲 し、生活保障の必要を私事化すれば、結果として、家計に経済的負担が増すだけであり、過重にもなる、という指 摘は重要であ ( 71 ) る 。日本のように、親族扶養の調査権限を強化したところで、過重な負荷を課す結果となる。核家族 の扶養を機能させるように、負担を適切に調整する必要があることはドイツ法から示唆される。 おわりに   労働者生活の保障は、一方で、社会保障の費用の増大等を背景に、使用者も、私傷病又は母性保護を理由とする 休業期間の経済的保障を、被用者保険と共に担う主体として位置づけられている。また、多くの市民に労働への平 等な参画を目的に、傷病や障害によっても、 「雇用関係を通じた生活の保障」が課題になっている。   他方で、ドイツ高齢者及び重度障害者基礎保障法のように、私法上の親族扶養の機能を一部「代替」し、国家に よる最低生活保障の責任を明確にしている。   本稿では不就労の諸相を医療保険と年金法を主たる対象としたため、それらの隙間を埋める機能を果たしている

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( 1)   西 谷 敏『人 権 と し て の デ ィ ー セ ン ト・ ワ ー ク』 (旬 報 社、 二 〇 一 一 年) 一 八 頁、 和 田 肇「セ ー フ テ ィ ネ ッ ト と し て の 雇 用 の 保 護」 労 働 法 律 旬 報 一 六 九 八 号(二 〇 〇 九 年) 六 頁 以 下。 ま た、 「企 業 内 福 祉」 の 後 退 し た な か で の「自 助、 共 助、 公 助」 の 機 能 に ついて、土田武史「自助・共助・公助のあり方を考える」健康保険二〇一四年二二頁以下。 ( 2)   湯浅誠『反貧困』 (岩波新書、二〇〇八年) 、一八頁以下。 ( 3)   日 本 で は 高 齢 期 の 貧 困 率 が 高 い(山 田 篤 裕「高 齢 期 に お け る 所 得 格 差 と 貧 困」 橘 木 俊 詔 編『格 差 社 会』 (ミ ネ ル ヴ ァ 書 房、 二〇一二年)一四七頁以下。 ( 4)   障害給付( Incapacity  benefit )から失業のシステムの転換について、 Devetzi,  Reforms  of  Incapacity  Benefits  Systems  in  Eu -rope,  in:Devetzi/Stendahl ( Eds ),  Too  sick  to  Work,  2011,  175,  182 参照。 ( 5)   上田真理「ワークフェアの社会法学的検討」 『法律時報』 (日本評論社)八六巻四号(二〇一四年)三八頁以下。 ( 6)   上 田 真 理「離 職 理 由 と 給 付 制 限」 脇 田 滋 他『常 態 化 す る 失 業 と 労 働・ 社 会 保 障: 危 機 下 に お け る 法 規 制 の 課 題』 (日 本 評 論 社、二〇一四年)二八五頁以下。 ( 7)   近 時 で は、 財 政 学 か ら 井 手 英 策『日 本 財 政   転 換 の 指 針』 (岩 波 新 書、 二 〇 一 三 年) 一 五 四 頁 が あ る。 租 税 に よ る 給 付 に 限 定 されないが、日本では、社会保障法は、国家が国民に対して、生存権を「直接的・無媒介的に行う法」であると解されてきた(荒 木誠之『社会保障法読本   新版増補』 (有斐閣、一九九八年)二四七頁) 。 ( 8)   橘木俊詔『企業福祉の終焉』 (中公新書、二〇〇五年) 。 ( 9)   Zacher,  Sozialrecht  und  soziale  Marktwirtschaft,  in:  Gitter  u.a.   ( Hrsg. ),  Im  Dienst  des  Sozialrechts,  Festschrift  für  G.  Wanna -gat,  1981,  715,  746ff.;  Fuchs,  Zivilrecht  und  Sozialrecht:  Recht  und  Dogmatik  materieller  Existenzsicherung  in  der  modernen  Ge -失業時の保障 (雇用保険と生活保護など) については検討できなかった。要保障状況ごとに、だれが労働者生活を保 障する責任を負うべきかについては、今後の課題にしたい。

(30)

sellschaft,  1992,  S.8f.;  Felix,  Die  Rollenverteilung  von  öffentlichem  und  Privatrecht  in  der  sozialen  Sicherheit  von  heute,  in:   Deutscher  Sozialrechtsverband,  Soziale  Sicherheit  durch  öffentliches  und  Privatrecht,  2004,  SDSRV  Bd.  51,  91,  94. 近 時 で は 、 Wal -ter m an n,  Gutachten  B  zum  68.  Deutscher  Juristentag,  Abschied  vom  Normalarbeitsverhältnis?,  2010,  S.B87,  90 ―91  u.S.104ff. があ る。 ( 10)   Fuchs,  a.a.O.,  S.204. ( 11)   E ich en ho fer , E ur op äis ch e  E in flü ss e  au f d ie  A lte rs sic he ru ng , Z E SA R  2 01 4,  20 3,  20 4;  de rs , R ec ht  de s  ak tiv ier en de n  W oh l-fahrtsstaates,  2013,  S.65ff.;  ders,  Sozialrecht,  9.Aufl.,  2015,  Rn.64. ( 12)   Eichenhofer,  Sozialrecht  und  Privatrecht,  VSSR  1990,  161,  182ff.;  ders,  Sozialrecht   ( Fn.11 ),  Rn.154. ドイツの社会保障法の学説 は、 私 法 上 の 問 題 を 当 事 者 間 で 解 決 す る 内 部 的 解 決( 「内 部 化( Internalisierung )」 ) と、 社 会 保 障 法 の 手 段 を 用 い た、 社 会 問 題 の 外部的解決( 「外部化( Externalisierung )」 )を対比させてきた( Zacher,  Der  Sozialstaat  als  Aufgabe  der  Rechtswissenschaft,  in:   Lücke/Ress/Will ( Hrsg. ),  Rechtsvergleichung,  Europarecht  und  Staatenintegration.  Gedächtnisschrift  für  Constantinesco,  1983,   S.943,  951ff.;  Fuchs,  a.a.O.,  S.8f. )。 本 稿 で は 検 討 で き な い が、 労 働 関 係 が な い 二 当 事 者 間 の 被 用 者 保 険 関 係 の 成 立 に 関 し、 「使 用 関 係( Beschäftigungsverhältnis )」 を 肯 定 す る 判 断 基 準 を 連 邦 社 会 裁 判 所 が 蓄 積 し て き た の も、 そ の 例 で あ る( vgl.  Seiter,  So -zialversicherungsrechtliches  Beschäftigungsverhältnis  und  Arbeitsverhältnis,  VSSR  1976,  179,  188ff. )。 ( 13)   Gitter,  Schadenausgleich  im  Arbeitsunfallrecht,  1969,  S.38. ( 14)   F uc hs , Z iv ilr ec ht  u nd  S oz ial re ch t,  a.a .O ., S .15 9;  K op pe nfe ls-S pi es , K on gr ue nz en  u nd  In ko ng ru en ze n  im  s oz ial - u nd  p ri-vatrechtlichen  Haftungsrecht,  in:  Deutscher  Sozialrechtsverband,  Selbständigkeit  und  Abhängigkeit  der  Dogmatik  des  Sozial -rechts,  2012,  SDSRV  Bd.62,  87,  89. ( 15)   Eichenhofer,  Sozialrecht   ( Fn.11 ),  Rn.4. ( 16)   労災補償と損害賠償の調整について、西村健一郎『労災補償と損害賠償』 (一粒社、一九八九年)一五七頁以下。 ( 17)   最低賃金と社会保障の関連について、神吉知郁子『最低賃金と最低生活保障の法規制』 (信山社、二〇一一年)二八八頁以下。

参照

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