ISSN1346-7840
港湾空港技術研究所
資料
TECHNICAL NOTE
OF
THE PORT AND AIRPORT RESEARCH INSTITUTE
March 2006
No. 1119
年宮城県沖の地震津波の観測結果
2005
永井
紀彦
里見
茂
港湾空港技術研究所
独立行政法人
Independent Administrative Institution,
目 次 要 旨 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3 1.はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4 2.地震津波の概要 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4 3.津波発生時における海況 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6 4.津波波形記録 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8 5.津波波形記録に関する考察 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 12 6.まとめ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 21 7.おわりに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 21 参考文献 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 22 付録A 津波波形記録集 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 23 付録B 津波検出数値フィルターについて ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 32
Records of the Observed 2005 Miyagi-Prefecture-off Earthquake Tsunami Profile
Toshihiko NAGAI*
Shigeru SATOMI**
Synopsis
This paper explained results of the observed tsunami characteristics caused by the 2005 Miyagi-Prefecture-off Earthquake. Offshore tsunami profiles were obtained from the Nationwide Ocean Wave information network for Ports and HArbourS (NOWPHAS) wave observation network. Offshore tsunami data of the NOWPHAS seabed installed acoustic and pressure wave gauges were compared with the data of the coastal tide stations.
It was concluded that seabed installed gauges of the NOWPHAS network successfully observed tsunami profiles with good precision at the event. Tsunami amplification characteristics from each offshore wave station to coastal tide gauge point were also clarified at the Kuji, Kamaishi, Ofunato, Ishinomaki and Onahama Ports area, by conducting tsunami profile wave-to-wave analysis and frequency spectrum analysis.
Key Words: NOWPHAS, Tsunami, Wave Gauge, Tide Station, Tsunami Profile * Head, Marine Information Division, Marine Environment and Engineering Department
** Researcher, Marine Information Division, Marine Environment and Engineering Department
Port and Airport Research Institute, Independent Administrative Institution 3-1-1 Nagase, Yokosuka, 239-0826 Japan Phone:+81-46-844-5048 Fax:+81-46-842-5246 e-mail: [email protected]
http://www.pari.go.jp/bsh/ky-skb/kaisho/ http://www.mlit.go.jp/kowan/nowphas/
2005 年宮城県沖の地震津波の観測結果
永井 紀彦*
里見 茂**
要 旨 2005 年8月 16 日 11:46 に,海底に震源をもつ宮城県沖の地震が発生し,東北地方太平洋沿岸域で 津波が観測された.本稿は,ナウファスおよび沿岸検潮所が捉えた津浪波形観測記録をとりまとめ たものであり,1993 年北海道南西沖地震津波,1994 年北海道東方沖地震津波,1996 年イリアンジャ ヤ地震津波,2003 年十勝沖地震津波,2004 年東海道沖地震津波に続く,沖合および沿岸における津 波観測資料である.宮城県沖の地震発生は,日本時間8月 16 日 11:46,地震の揺れから算定された マグニチュードは 7.2,推定断層規模から算定されたモーメントマグニチュードは 7.1,震源は宮城 県沖北緯38.07 度,東経 142.25 度,深さ 36.1km とのことであった.本稿で得られた成果は,以下の 通りである. 函館から銚子に至る我が国の太平洋北東岸の広範な範囲で津波波形が確認された.津波波形記録 は,いずれも押し波から始まっていた.ゼロアップクロス法によって津波波形記録を読みとり,第 1波および最大値となった津波偏差と波高をとりまとめた.第1波の偏差が10cm を越えたのは,鮎 川・石巻・仙台新港の3検潮所であった. いずれの観測点でも津波は長時間継続した.第1波が最大偏差であった観測点は少なく,多くの 観測点で時間の経過と共に津波の増幅が見られた. 沖合波浪計によって得られた周期 300s 以上の周期帯波高と津波偏差とは良好な相関が見られた. 周期帯解析に基づく長周期波高は,津波偏差高の 0.6 倍程度であり,2003 年十勝沖地震津波の際に 得られた結果とほぼ一致する値であった. スペクトル解析によって沖合津波波形と沖合から港内への津波の伝播・増幅を検討した.久慈・ 釜石・大船渡・石巻および小名浜の各港沖合で観測された周波数スペクトルのピークは,換算周期 20-40 分程度であり,地震の規模に比較して津波の周期が長かった.沖合から港内へのスペクトル 応答関数は,2003 年十勝沖地震の際に測得された結果と良好な一致を示した. キーワード:ナウファス,全国港湾海洋波浪情報網,津波,波浪計,検潮所,津波波形 * 海洋・水工部海象情報研究室長 ** 海洋・水工部海象情報研究室 〒239-0826 横須賀市長瀬3-1-1 独立行政法人港湾空港技術研究所 電話:046-844-5048 Fax:046-842-5246 e-mail:[email protected] http ://www.p ari.go.jp/bsh /k y-skb/kaish o/1.はじめに 2005 年8月 16 日 11:46 に,海底に震源をもつ宮城県沖 の地震が発生し,東北地方太平洋沿岸域で津波が観測さ れた.本稿は,ナウファスおよび沿岸検潮所が捉えた津 浪波形観測記録をとりまとめたものであり,1993 年北海 道南西沖地震津波1),1994 年北海道東方沖地震津波2), 1996 年イリアンジャヤ地震津波3),2003 年十勝沖地震津 波4),2004 年東海道沖地震津波5)に続く,沖合および沿 岸における津波観測資料である. 津波の波形は,波浪や潮位の観測データから解明され る6),7).かつての全国港湾海洋波浪情報網(ナウファ ス)システムは,概ね周期30 秒以下の風波やうねりをタ ーゲットとしていた.このため,ナウファスでは,2時 間毎に20 分間だけ 0.5s 間隔で波浪観測情報を収集する システムが構築されていた.(気象庁では3時間毎を標準 としていた.)しかし,現実の海洋には,長周期波と呼ば れる,周期30 秒を越える波浪成分が含まれており,係留 船舶の長周期動揺や沿岸漂砂を支配する重要な外力とな ることが,次第に明らかにされてきた.海底地震によっ て発生する津波は,もっとも顕著な長周期波である.こ うした津波などの長周期波を観測するためには,従来の データ収集システムでは不十分であり,切れ目のない連 続的なデータ収集と,長周期波の特性に応じた観測デー タの処理解析が必要となる.1993 年の北海道南西沖地震 津波1)を契機として,ナウファスでも切れ目のない連続 的なデータ収集システムが構築されることとなった.こ うしたシステムの実現運用によって,沖合津波波形記録 の収集解析が可能になり,沿岸に来襲する津波の特性解 明に大きく貢献できるようになった8),9),10).2003 年 十勝沖地震来襲時には,北海道から東北地方沿岸の沖合 10 波浪観測点で,津波の詳細な波形を明らかにしている 4).また,2004 年東海道沖地震津波にあたっては,室戸 岬沖 13km の水深 100m地点に新設されたGPS津波計 11),12)による大水深における観測記録を含めて,東海か ら四国沿岸にかけての津波波形の特性を明らかにしてい る5). 本報は,毎年定期的にとりまとめられている波浪観測 年報13)や,5年間毎を目途にとりまとめられている長期 統計報 14)とは別に,2005 年に発生した宮城県沖の地震 に伴う津波に焦点を絞って,全国港湾海洋波浪情報網(ナ ウファス)によって観測された波浪観測記録や,沿岸潮 位観測記録を,とりまとめたものである. 図-1 震源および津波観測点の分布 2.地震津波の概要 宮城県沖の地震は,日本時間2005 年8月 16 日 11:46 に発生した15).気象庁は,8月16 日の 12:40 に本地震に 関する報道発表資料(第1報)を公表してから,翌 17 日16 時に第6報を発表するまで,きめ細かな地震津波情 報を発信した.これらの情報によれば,地震発生は,日 本時間8月16 日 11:46,地震の揺れから算定されたマグ ニチュードは 7.2,推定断層規模から算定されたモーメ ントマグニチュードは7.1,震源は宮城県沖北緯 38.07 度, 東経142.25 度,深さ 36.1km とのことであった.地震発 生後,規模の小さな余震は続いたが,最大規模の余震は 8月16 日 11:52 頃に発生したマグニチュード 4.6 のもの であり,本震に比較すればかなり規模の小さい地震であ った.
宮城県沖の地震の本震によって津波が発生した.沿岸 での津波は,函館から銚子にかけての広範な太平洋沿岸 の波浪観測所および検潮所で観測された. 図-1 に,震源および観測点を示す.沖合の波浪観測機 器でこれらの地震に伴う津波による顕著な水位変動を観 測できたのは,久慈,釜石,大船渡,石巻および小名浜 であった. これらの港湾では,沖合波浪計と港内検潮所の両方の 記録が測得できたため,沖合から港内への津波の伝播・ 増幅特性が,明らかにされた.また,久慈港では,ナウ ファス新システム 16)が,2005 年4月以降導入されてい たため,沖合と港内の毎分平均水面高情報を国土交通省 港湾局の下記ウェブサイトからリアルタイム情報発信し, (http//:www.mlit.go.jp/kowan/nowphas) 津波波形記録をリアルタイムで関係者および一般に情報 提供することに,成功した. 表-1 に津波を観測した各沖合波浪計の緯度・経度・水 深等の観測条件を示し,表-2 に津波を観測した各検潮所 の住所・緯度・経度等の観測条件を示す.港内検潮記録 は,海面の水位を超音波信号で計測する宮古検潮所を除 き,すべて検潮井戸内のフロートの上下変動を計測する フース型であった. 表-1 津波観測点一覧(沖合波浪計) 波浪観測地点 計器 緯度(北緯) 経度(東経) 離岸距離 (km) 港口距離 (km) 水深(m) 所 属 機 関 苫小牧港沖 海象計 42°32′39″ 141°26′46″ 4.0 15.8 50.7 北海道開発局 久慈港沖 海象計 40°13′05″ 141°51′37″ 3.0 7.1 50.0 東北地方整備局 釜石港沖 波高計 39°15′54″ 141°56′06″ 0.6 3.4 50.0 東北地方整備局 大船渡港外 水圧計 39°00′42″ 141°45′30″ 0.4 0.5 16.4 東北地方整備局 大船渡港内 水圧計 39°02′03″ 141°44′19″ 0.4 0.3 25.0 東北地方整備局 石巻港沖 海象計 38°20′48″ 141°15′19″ 7.8 7.5 20.0 東北地方整備局 小名浜港沖 海象計 36°55′04″ 140°55′18″ 2.3 2.4 24.0 東北地方整備局 波崎 空中発射 35°50′ 140°45′ 0.2 - 2.4 港湾空港技術研究所 表-2 津波観測点一覧(港内検潮所) 住 所 緯度(北緯) 経度(東経) 苫小牧東港 フース 北海道勇払郡厚真町字浜厚真35-1 地先 42°36′21″ 141°49′02″ 北海道開発局 苫小牧西港 フース 北海道苫小牧市汐見町1-1-8 42°37′47″ 141°37′16″ 北海道開発局 函館 フース 北海道函館市海岸町25-7 41°46′54″ 140°43′29″ 気象庁 むつ小川原 フース 青森県上北郡六ヶ所村大字鷹架字道の下 40°55′35″ 141°23′17″ 東北地方整備局 八戸(新湊) フース 青森県八戸市新湊3-63 地先 40°31′54″ 141°31′40″ 気象庁 八戸(鮫) フース 青森県八戸市大字鮫町字鮫72番地 40°31′59″ 141°31′20″ 東北地方整備局 久慈 フース 岩手県久慈市長内町弟42地割10-11 40°11′32″ 141°47′48″ 東北地方整備局 宮古 超音波 岩手県宮古市日立浜町9 39°38′37″ 141°58′31″ 気象庁 釜石 フース 岩手県釜石市魚河岸町 39°16′24″ 141°53′21″ 海上保安庁 大船渡 フース 岩手県大船渡市赤崎町字長崎漁港防波堤 39°01′10″ 141°45′13″ 気象庁 鮎川 フース 宮城県牡鹿郡牡鹿町大字鮎川浜字清崎1 38°17′48″ 141°30′18″ 気象庁 石巻 フース 宮城県多賀城市明月1-4-6 38°24′19″ 141°16′14″ 東北地方整備局 仙台新港 フース 宮城県仙台市宮城野町区港4-10-6 38°16′17″ 141°01′17″ 東北地方整備局 小名浜 フース 福島県いわき市小名浜字高山 地先 36°56′13″ 140°53′31″ 気象庁 鹿島 フース 茨城県神栖町大字居切浜 地先 35°55′46″ 140°41′38″ 関東地方整備局 銚子 フース 千葉県銚子市川口町2-6528-1 35°44′40″ 140°51′30″ 気象庁 潮位観測地点 計器 所 在 地 所 属 機 関
3.津波発生時における海況 図-2 は,津波発生前後の天気図を示したものである. 地震発生当時は,台風は天気図上には見られず,太平洋 沿岸では,比較的風も弱く静穏な海況であった.図-3 は, 沿岸波浪分布図を示したものである.苫小牧から小名浜 にかけての太平洋北東岸で観測された有義波高は概ね 0.5 から 1.0m程度,有義波周期は5から7s程度であっ た.このように,太平洋沿岸としては比較的低波浪状態 で静穏な海況であったため,観測波形記録からの津波抽 出にとっては好条件であった. (2005 年8月 16 日9時) (2005 年8月 17 日9時) 図-2 津波発生前後の天気図 1 3 0 ゜ 1 3 0 ゜ 1 3 5 ゜ 1 3 5 ゜ 1 4 0 ゜ 1 4 0 ゜ 1 4 5 ゜ 1 4 5 ゜ 3 0 ゜ 3 0 ゜ 3 5 ゜ 3 5 ゜ 4 0 ゜ 4 0 ゜ 4 5 ゜ 4 5 ゜ 留 萌 瀬 棚 深 浦 秋 田 酒 田 新 潟 沖 直 江 津 富 山 伏 木 富 山 輪 島 金 沢 柴 山 柴 山 (港 内 ) 鳥 取 境 港 浜 田 藍 島 玄 界 灘 伊 王 島 名 瀬 那 覇 紋 別 (南 ) 十 勝 苫 小 牧 む つ 小 川 原 八 戸 久 慈 釜 石 石 巻 仙 台 新 港 相 馬 小 名 浜 常 陸 那 珂 鹿 島 第 二 海 堡 ア シ カ 島 波 浮 下 田 清 水 御 前 崎 伊 勢 湾 潮 岬 神 戸 小 松 島 室 津 高 知 上 川 口 苅 田 細 島 志 布 志 湾 鹿 児 島 中 城 湾 平 良 石 垣 0 1 2 3 4 5 波 高 ( m ) 0 2 4 6 8 1 0 周 期 ( s ) 留 萌 瀬 棚 深 浦 秋 田 酒 田 新 潟 沖 直 江 津 富 山 伏 木 富 山 輪 島 金 沢 柴 山 柴 山 ( 港 内 ) 鳥 取 境 港 浜 田 藍 島 玄 界 灘 伊 王 島 名 瀬 那 覇 2 0 0 4 年 8 月 1 6 日 1 2 時 に お け る 沿 岸 波 浪 分 布 紋 別 ( 南 ) 十 勝 苫 小 牧 む つ 小 川 原 八 戸 久 慈 釜 石 石 巻 仙 台 新 港 相 馬 小 名 浜 常 陸 那 珂 鹿 島 第 二 海 堡 ア シ カ 島 波 浮 下 田 清 水 御 前 崎 伊 勢 湾 潮 岬 神 戸 小 松 島 室 津 高 知 上 川 口 苅 田 細 島 志 布 志 湾 鹿 児 島 中 城 湾 平 良 石 垣 0 1 2 3 4 5 波 高 ( m ) 0 2 4 6 8 1 0 周 期 ( s ) 有 義 波 周 期 有 義 波 高 図-3 沿岸波浪分布図 2 0 0 5
表-2 津波の 到達 時刻 と小 諸 元 一 覧表
4.津波波形記録 付録Aに,ここで収集検討した津浪波形記録を示す. 観測点毎に,上段が潮位補正前の観測記録であり,下段 が潮位補正後の観測記録である.潮位変動の除去にあた っては,気象庁の潮位解析に採用されているカットオフ 周期209 分の数値ハイパスフィルター(周期 209 分の透 過率が50%のデジタルフィルター)17)を採用した.また, 風浪の影響を除去するため,付録Bで紹介した±60 秒の 単純移動平均にハミングウィンドウを施したローパスフ ィルターを用いた.横軸の時間軸は,日本時間を示して おり,8月16 日 9:00 から6日 21:00 までの 12 時間の波 形記録を示した. 表-3 に,付録Aでとりまとめた津波波形記録のゼロア ップクロス法による読みとり結果を示す.各津波観測点 で得られた津波波形記録は,いずれも押し波から始まっ ていたため,津波到達時刻としては,第1波偏差と考え られる津波による水位上昇が開始された時刻を読みとっ た.ただし,津波による水位偏差が比較的小さかった観 測点では,常時から存在する長周期水位変動と津波との 区別が必ずしも容易でない場合も多かった.津波到達時 刻の特定が困難であり,主観によって異なる可能性のあ る観測点を,表中では※記号で示している. 津波の最大偏差や,ゼロアップクロス法で定義される 津波の最大波高は,必ずしも第1波目で出現するとは限 らない.このため表-3 では,文献4)および5)と同様に, 押し波の偏差が最大となった最大偏差波と,両震幅が最 大となった最大波とを,それぞれ,津波到達後何波目の 波であったかを含めて表示した.さらに,港内と沖合で ともに津波が観測された港湾では,沖合観測値を基準と した港内の増幅比を,あわせて表示している.ここで, 大船渡港では,港外水圧計による観測データを基準とし て,港内水圧計と検潮所とで得られた津波観測結果の増 幅比を表示した. 以下に,付図から,港湾沿岸毎にとりまとめた観測津 波波形の特徴を述べる. (1)苫小牧沖 海象計 水深50m 北海道開発局 地震発生前から,周期5-10 分程度,両振幅5cm 程 度の長周期水位変動が見られ,津波は判定できなかった. 強いて波形記録を見れば,15:20 頃に両振幅8cm,周期 12 分程度の比較的振幅の大きい長周期波が数波見られ たが,これが津波によるものかどうかは不明である. (2)苫小牧東検潮所 フース型 北海道開発局 地震発生前から,周期10-30 分程度,両振幅 10cm 程 度の長周期水位変動が見られ,津波は判定できなかった. (3)苫小牧西検潮所 フース型 北海道開発局 地震発生前から,周期2-3分程度両振幅1-5cm 程 度の比較的周期の短い水位変動と,周期10-20 分程度両 振幅5cm 程度の比較的周期の長い水位変動が共存して 見られ,津波は判定できなかった.強いて波形記録を見 れば,13:00 頃に両振幅 10-15cm,周期3-4分程度の 比較的振幅の大きい水位変動が数波見られたが,これが 津波によるものかどうかは不明である. (4)函館検潮所 フース型 気象庁 12:00 を過ぎてから,周期 20-30 分程度の水位変動の 振幅が大きくなり,その後半日以上にわたって,両振幅 が10-15cm 程度の水位変動が継続した.これが津波に よる影響ではないかと考えられる.津波の第1波が, 12:00 頃に極大水位となった弱い長周期水位変動か, 12:51 に極大水位となったこれよりは若干両振幅の大き い長周期水位変動か,波形記録だけからは津波の第1波 の定義が困難であったが,表-3 では,他の観測点との対 応から考え,12:40 を津波到達時刻,12:51 を津波第1波 の偏差極大時刻と考えた. (5)むつ小川原検潮所 フース型 東北地方整備局 地震発生前の11:20 から 11:40 にかけて,両振幅約6cm, 周期約 20 分の前後に比べて比較的大きな水位変動が見 られたが,この原因は不明である.その後,一旦は水位 変動はおさまったものの,12:40 から 14:00 にかけて再び この周期の顕著な水位変動が見られた.これは津波の影 響であると考えられる.津波の第1波は明確に判定する ことができなかったが,13:00 から 14:00 にかけて,両振 幅10cm 程度,周期 20 分程度の前後に比べて比較的大き な水位変動が3-4波継続した.表-3 では,他の観測点 との対応から考え,12:38 を津波到達時刻,12:42 を津波 第1波の偏差極大時刻と考えた. (6)八戸(新湊)検潮所 フース型 気象庁 地震発生前においても両振幅5cm 程度,周期 30 分程 度の水位変動が見られたため,津波の到達時刻の特定は 困難であるが,13:00 以降,津波によると考えられる周 期 15 分程度の常時の長周期水位変動よりは若干周期の 短い水位変動が見られるようになった.13:00 から 15:00 にかけてこの水位変動は徐々に振幅を増加させていった.
13:00 から 14:00 にかけて周期約 20 分の波形が3-4波 継続し,その両振幅は6cm,8cm,12cm と徐々に大き くなっている.14:00 から 15:00 にかけて両振幅は約 20cm の大きな水位変動が見られるが,この波の周期は極大水 位から極大水位までの時間間隔にして約40 分であった. すなわち,津波の増幅につれて,その周期が,港湾の固 有周期(地震発生前の水位変動に見られた周期30 分程度 がこの検潮所の固有水位変動周期と考えられる)に近い 値に変化していったものと考えられる.津波第1波の特 定は必ずしも容易ではなかったが,表-3 では,比較的顕 著な長周期水位変動が開始した時刻として,13:36 を津 波到達時刻,13:42 を津波第1波の偏差極大時刻と考え た.むつ小川原検潮所に比べて1時間程度も津波の到達 が遅くなった原因は明確ではないが,津波伝播経路によ って本来の津波第1波は非常に振幅が小さく減衰した反 面,港湾周辺の海底地形の影響によって固有周期に近い より長周期の水位変動が時間とともに津波によって徐々 に増幅されたため,見かけ上の津波到達時刻が遅くなっ たのではないかとも,推察される. (7)八戸(鮫)検潮所 フース型 東北地方整備局 アナログ記録紙に残されていた波形記録をデジタイザ ーで36 秒間隔(紙送り速度は2cm/時なので 0.2mm 間 隔)で読み取った後,作図した結果を紹介する.地震発 生前の記録には潮汐変動以外の長周期水位変動はほとん ど見られないことがわかる.このため津波による水面変 動が14:00 以降,顕著に検出することができた.14:00 頃 極大水位となった第1波の両振幅は約6cm であった.他 の検潮所で観測された津波に比べて周期が比較的長く, 第2波の極大水位は14:50 頃現れており,周期約 50 分で あった.その後,半日以上にわたって,津波による水位 変動は減衰することなく継続した.周期40-60 分の非常 に周期の長い水位変動であった.新湊における波形記録 と比較すると,同じ港湾(八戸港)内でも,観測場所に よって津波波形が大きく異なったものとなっていること が理解できる.鮫の検潮所で観測された津波は,新湊で 観測されたものよりも,最大両振幅が小さく周期が長い 特徴が見られた.ただし,鮫の検潮所では,14:00 以降 になってようやく津波を検出したが,これは新湊の検潮 所と比べて,検潮所の津波への応答が遅すぎるように思 われる.このため,導水管の目詰まりがある可能性も否 定することはできない.今後の調査が必要であり,実際 の目詰まりが発見された際は,井戸の周波数応答特性を 明らかにしておく必要もあろう. (8)久慈沖 海象計 水深50m 東北地方整備局 久慈港には,ナウファス新システム16)が2005 年から 導入されていたため,沖合における毎分平均水位観測情 報を,港内検潮記録と共にリアルタイムでホームページ から津波波形を表示することができた.津波の到達時刻 は明確には判定できなかったものの,12 時を少し過ぎて から周期 30-60 分程度の津波によって生じたと考えら れる水位変動が確認できた.両振幅は,約5cm であり, 津波によると考えられる長周期水位変動は半日以上継続 した.ただし,地震発生前の9:30 から 10:30 にかけて, やはり,同様な弱い水面変動が見られるが,この原因は 明らかではない.津波の第1波は明確に判定することが できなかったが,表-3 では,地震発生以降,比較的顕著 な長周期水位変動が始まった時刻として,12:09 を津波 到達時刻,12:14 を津波第1波の偏差極大時刻と考えた. (9)久慈検潮所 フース型 東北地方整備局 久慈港検潮所では,両振幅10cm 程度,周期 15 分程度 の,固有周期によると考えられる水位変動4)が,地震発 生前から継続していた.このため,津波の到達時刻は必 ずしも明らかではないが,13:00 以降,明らかに水位変 動の振幅がそれ以前よりも大きくなっている.これは津 波による影響であると考えられる.最大の両振幅は, 14:00 から 15:00 にかけて2回見られ,ともに約 30cm と いう,他の観測点に比べても大きい値であった.その後, 水位変動の振幅は若干は弱くなるものの,半日間以上に わたってほぼ同様の周期で両振幅 10cm 程度の水位変動 が継続している.津波の到達時刻としては,表-3 では, 他の観測点との対応から考え,12:23 を津波到達時刻, 12:28 を津波第1波の偏差極大時刻と考えた. (10)宮古検潮所 超音波 気象庁 地震発生前における潮汐成分以外の水位変動が小さか ったので,津波の第1波を検知することができた.第1 波は押し波から始まり,12:30 頃極大偏差を示した.両 振幅は約6cm であり,第2波の極大偏差が 12:50 頃であ ったので,周期は約20 分であった.もっとも両振幅が大 きくなったのは,14:20 から 14:40 頃にかけての波であり, 極小偏差から極大偏差までの両振幅は約14cm であった. その後も,半日間以上にわたって,津波波形は継続して 見られた.表-3 では,他の観測点との対応から考え,12:15 を津波到達時刻,12:27 を津波第1波の偏差極大時刻と 考えた.
(11)釜石沖 超音波式波高計 水深 50m 東北地方整 備局 釜石港沖合における水位変動記録から,津波波形を検 出することができた.地震発生前にも弱い長周期水位変 動が見られるため,津波の到達時刻は明らかには示せな かったが,12:15 頃に小さな極大偏差が見られる.次の 極大偏差は12:50 頃に発生しているため,第1波の周期 は概ね35 分であり,この間の両振幅は約5cm であった. その後も半日間以上にわたって津波によると考えられる 水位変動が継続したが,もっとも大きな両振幅は 15:00 頃に見られた約10cm であった.なお,地震発生前の 10:30 から10:45 にかけて,やはり,同様な弱い水面変動が見 られるが,この原因は明らかではない.表-3 では,他の 観測点との対応から考え,12:07 を津波到達時刻,12:11 を津波第1波の偏差極大時刻と考えた. (12)釜石検潮所 フース型 海上保安庁 地震発生前にも弱い長周期水位変動が存在したが,第 1波の津波が押し波から始まっていたことが示されてい る.第1波の極大偏差は12:24 頃に,第2波の極大偏差 は12:50 頃に見られるので,第1波の周期は約 26 分であ った.この間の両振幅は約15cm であり,沖合よりはか なり大きな水位変動振幅であった.津波による水位変動 はその後も長時間継続し,15:00 頃および 18:00 頃に,そ れぞれ,やはり両振幅 15cm 程度の比較的振幅の大きい 水位変動が見られた. (13)大船渡(外) 水圧式波高計 水深 16m 東北地 方整備局 大船渡港湾口防波堤の外側水深 16m地点での海底水 圧変動記録からも,津波による水位変動を見いだすこと ができた.第1波は,他の観測点と同様に,やはり押し 波から始まっており,その極大偏差は12:16 に見られた. 第2波の極大偏差は12:50 頃に見られるので,第1波の 周期は約35 分であった.この間の両振幅は約8cm であ った.津波による水位変動はその後も長時間継続したが, 15:00 を過ぎると,振幅は減少し始めるのとともに,次 第に周期が長く変化しているように見られる. (14)大船渡(内) 水圧式波高計 水深 24m 東北地 方整備局 12 時を過ぎてから津波によると考えられる周期 30- 60 分程度の長周期水位変動が始まった.第1波は押しか ら始まった模様.第1波の極大偏差は,12:21 に見られ た.第1波の両振幅は8cm 程度であった.その後,水位 変動の振幅は,徐々に増加し,15 時過ぎには両振幅 14cm 程度となった.こうした顕著な水位変動は,17:00 頃ま で顕著に見られた.17:00 を過ぎると,長周期水位変動 の両振幅は5cm 程度以下となった. (15)大船渡検潮所 フース型 気象庁(防波堤外側の 長崎漁港に位置している検潮所) 第1波は,他の観測点と同様に,やはり押し波から始 まっており,その極大偏差は12:15 に見られた.第2波 の極大偏差は12:40 頃に見られるので,第1波の周期は 約25 分であった.この間の両振幅は約 10cm であった. 津波による水位変動はその後も長時間継続したが,15:00 を過ぎると,振幅は減少し始めた. 大船渡港における3観測点における津波波形を比較す ると,少なくとも12:00-13:00 の間は波形記録はよい相 似性を示しており,いずれも12:15-12:20 頃,押し波で 始まる第1波の極大水位が見られた.第1波の両振幅を 比較すると,港外および港内の水圧計で8cm,検潮所で 10cm となっており,水深や防波堤の遮蔽等によって空間 的に変動する津波振幅の変化を見ることができた. (16)鮎川検潮所 フース型 気象庁 地震発生前にも弱い長周期水位変動が存在したが,第 1波の津波が押し波から始まっていたことが示されてい る.第1波の極大偏差は12:12 に,第2波の比較的小さ な極大偏差は12:30 頃に見られるので,第1波の周期は 約18 分であった.この間の両振幅は約 20cm であり,こ れより北側の検潮所の観測記録と比較するとかなり大き な第1波水位変動振幅であった.津波による水位変動は その後も長時間継続したが,16:00 を過ぎると,振幅は 減少し始めた. (17)石巻沖 海象計 水深 20m 東北地方整備局 石巻港沖の海象計による水面変動記録からも,津波に よる水位変動を見いだすことができた.第1波は,他の 観測点と同様に,やはり押し波から始まっており,その 極大偏差は12:30 に見られた.第2波の極大偏差は 12:45 頃に見られるので,第1波の周期は約15 分であった.こ の間の両振幅は約6cm であった.津波による水位変動は その後も長時間継続したが,次第に周期が長く変化して いるように見られる. 石巻港は大船渡港と震源までの距離がほぼ等しいにも かかわらず,大船渡港の港外水圧計が12:16 に第1波の 極大偏差を記録したのに比べ,石巻港沖の海象計では 12:30 に第1波の極大偏差を記録しており,15 分程度津
波の到達が遅くなっておりことが注目されるが,これは, 津波伝播経路の水深の相違であると考えられる.すなわ ち,大船渡港沖では急勾配大水深である海底地形が見ら れるのに対して,石巻港沖の海底勾配は比較的緩やかで 水深が浅くなっているため,水深の1/2乗に逆比例す る津波の伝播速度の差が,津波到達時刻の差として現れ たものであろう. (18)石巻検潮所 フース型 東北地方整備局 波形記録を平滑化処理し短周期成分を除去して図化し た波形記録図上では顕著でないが,もとのアナログ記録 紙上では,11:46 の地震発生時に,顕著なパルス状の変動 が見られていた.その後,徐々に水位が上昇し始めた. 第1波目の極大偏差は 12:41 に見られた.押し波から始 まった第1波の両振幅は約 20cm であった.その後,30 -60 分程度の津波によると思われる長周期水位変動が 継続した.18:00 頃までは,両振幅は 20cm 程度であった が,その後,津波の振幅は徐々に低くなっていったが, 20:00 を過ぎてからでも両振幅 10cm 近い長周期水位変動 が継続した. 石巻港における沖合から港内への津波伝播変形を検討 すると,以下のことがわかる.第1波の極大偏差発生時 刻は,沖合では12:30 であったのに対して港内では 12:41 となっており,港内に津波が到達する概ね10 分程度前に, 沖合海象計は津波波形を捉えていたことが示された.こ れは,津波波形事前検知の観点から既存ナウファス波浪 観測点の評価を試みた結果18),19)と,概ね,一致した時 刻差であった.第1波の両振幅に注目すると,沖合では 約6cm だったが港内では約 20cm に増幅されていること が示された.沖合の第1波目の極大値(12:31)と第2波 目の極大値(12:45 頃)の二つの波形の峰が,港内では 一つの峰として現れていることが興味深い.港内で見ら れた第1波の谷(13:05 頃)は,沖合での第2波目の谷 (12:55 頃)に対応するものであったと想像される.沖 合と港内の津波波形は,その後も概ね相似した形状にな っているようであり,17:00 以降は徐々に減衰していっ た模様である. (19)仙台新港検潮所 フース型 東北地方整備局 波形記録を平滑化処理し短周期成分を除去して図化し た波形記録図上では顕著でないが,もとのアナログ記録 紙上では,11:46 の地震発生時に,顕著なパルス状の変動 が見られていた.地震発生前から,両振幅 10cm 程度で 周期 20-40 分程度の長周期水位変動が見られたが, 12:30 頃からその振幅は急に大きくなった.これが津波 によるものだと考えられる.第1波の極大偏差は 12:45 頃に見られ,両振幅は 25cm 程度であった.その後,津 波の振幅は徐々に低くなっていったが,津波による長周 期水位変動は長時間継続し,15:00 過ぎに両振幅が 20cm, 19:00 過ぎに両振幅が 15cm の比較的高い津波が見られた. (20)小名浜沖 海象計 水深 24m 東北地方整備局 小名浜港沖の海象計による水面変動記録からも,津波 による水位変動を見いだすことができた.第1波は,他 の観測点と同様に,押し波から始まっており,その極大 偏差は12:40 に見られた.第1波の周期は約 54 分であり 他の観測点に比べて非常に長かった.この間の両振幅は 約8cm であった.津波による水位変動はその後も長時間 継続したが,次第に周期が長く変化しているように見ら れる. (21)小名浜検潮 フース型 気象庁 沖合海象計に比べてより顕著な津波による海面変動が 見られる.地震発生前から存在していた,港内副振動に よると推定される海面変動との重なりによって,第1波 の極大偏差発生時刻の定義は必ずしも明確にできなかっ た.第1波の両振幅は約 14cm であった.津波による水 位変動はその後も長時間継続したが,次第に周期が長く 変化しているように見られる. 小名浜港における沖合から港内への津波伝播変形を検 討すると,第1波の極大偏差発生時刻は,沖合では12:40 頃であったのに対して港内では12:36 頃となっており, その時刻が逆転していることが気にかかる.これは,特 に港内検潮所では,第1波の極大水位が10 分程度継続し, その極大時刻の特定が必ずしも容易でなかったことによ る.沖合と港内との津波到達の時刻差は,むしろ第1波 の極小水位時に顕著であり,概ね5分程度の時刻差が確 認される.この時刻差は,津波波形事前検知の観点から 既存ナウファス波浪観測点の評価を試みた結果 18),19) と,概ね,一致した時刻差であった. (22)鹿島検潮所 フース型 関東地方整備局 アナログ記録紙に残されていた波形記録をデジタイザ ーで36 秒間隔(紙送り速度は2cm/時なので 0.2mm 間 隔)で読み取った後,作図した結果を紹介する.9:00 か ら11:00 頃にかけ,両振幅5cm 程度,周期 60 分程度の 長周期水位変動が見られるが,これは常時の長周期水位 変動と考えられる.その後,長周期水位変動は一旦収ま るが,津波によると考えられる水面変動が 12:30 以降, 次第に増幅されてゆき,14:00 から 15:00 にかけて,最大
両振幅が12cm 程度まで達した模様である. 津波波形の周期は,第1波以降,次第に長くなってい き,最大波高となった個別波では周期54 分となっている. これは,港湾周辺の海底地形による固有周期に水位応答 周期が近づいていったためであるとも考えられるが,井 戸の周波数応答特性上の固有周期についても,今後検討 を要すると思われる. (23)波崎桟橋 空中発射型超音波式波高計 当所漂砂 研究室 波崎桟橋上(観測小屋から 230m 先のポイント,水深 2.4m)の空中発射型超音波式波高計による水面変動記録 からも,津波による水位変動を見いだすことができた. 第1波は,他の観測点と同様に,押し波から始まってお り,その極大偏差は12:50 頃に見られた.第1波の周期 は約20 分であり両振幅は約8cm であった.津波による 水位変動はその後も長時間継続したが,次第に周期が長 く変化しているように見られる. (24)銚子検潮所 フース型 気象庁 13:00 を過ぎてから津波による長周期水位変動が見ら れるようになり,時間の経過と共に次第に増幅していっ た.最大偏差波および最大両振幅波は,ゼロアップクロ ス法で 15:41 から 16:33 の間の波として定義された個別 波であり,偏差約6cm,両振幅約9cm であった.津波 の第1波は明確に判定することができなかったが,表-3 では,地震発生以降,比較的顕著な長周期水位変動が始 まった時刻として,13:13 を津波到達時刻,13:26 を津波 第1波の偏差極大時刻と考えた. 5.津波波形記録に関する考察 (1)周期帯波高表示による津波の検出 図-4 は,沖合波浪観測点における周期300s 以上の長 周期帯波高の経時変化を示したものである.ナウファス では,2時間単位で波浪観測データをスペクトル解析し, 長周期波成分の周波数スペクトルの特性を周期帯波高表 示で表しているが,その結果を示したものである6).こ こで,12 時の観測とは 10:10 から 12:10 までの2時間の 観測記録のスペクトル解析に基づく解析結果を,14 時の 観測とは12:10 から 14:10 までの2時間の観測記録のス ペクトル解析に基づく解析結果を,それぞれ意味してい る.いずれの沖合観測点においても,12 時の長周期波高 に比べて14 時の長周期波高は大きく増大しており,周期 帯波高表示によって津波来襲を表示できていることがわ かる.津波の影響による長周期波高は,16 時以降も高い 状態が継続しているが,これは,付録Aで見られた各観 測点で長時間津波波形が継続したこととよく対応してい る. 図-4 沖合波浪観測点における周期帯波高 (300s 以上)の経時変化 図-5 は,沖合波浪観測点における周期300s 以上の長 周期帯波高を横軸に示し,付録Aから得られた長周期波 高算定時間中の津波による最大偏差を縦軸に示し,両者 の関係を考察したものである.縦軸と横軸の相関は良好 であり,回帰直線の傾きは,最小自乗法による解析の結 果0.59 と算定された.2003 年十勝沖地震津波に関する 解析結果においても,周期帯解析に基づく長周期波高は, 津波偏差高の0.6 倍程度であり,今回の解析結果と極め て近い関係が得られていた4).ナウファスで表示される 長周期波高は,津波来襲時にあたっては,津波偏差の概 略を推定する,指標として機能しうることが,改めて示 されたものと考えられる.すなわち,津波による偏差は, 概ね,長周期波高の0.6 倍であると推定できる. 図-5 周期帯沖合津波波高と最大偏差
(2)沖合から港内への津波の増幅特性 図-6,図-7 および図-8 に,周波数スペクトルの解析結 果を,(1)久慈港,(2)釜石港,(3)大船渡港,(4)石巻港お よび(5)小名浜港について,それぞれ示す. 図-6 は沖合波形記録の周波数スペクトルである.スペ クトル演算は,12:00 から 16:16 までの4時間 16 分間の 観測記録を30s 間隔でサンプリングした 512 データにつ いて,FFT 法を用いて実施した.この際,津波到達後の 前半部分の256 データ(12:00 から 14:08 までの2時間8 分間),および,後半部分の256 データ(14:08 から 16:16 までの2時間8分間)について,それぞれ周波数スペク トルを求め,時間の経過とともにスペクトルがどのよう に変化したかを考察した.図-7 は沖合と港内の周波数ス ペクトルを比較し,各港における沖合から港内への津波 の伝播・変形特性を考察したものである.図の下段には, 沖合から港内にかけての周波数応答関数を,あわせて示 した.図-8 は沖合と港内の周波数スペクトル相関を検討 し,それぞれの観測波形記録のコヒーレンスと位相差を 周波数毎に求めたものである.ここに,図-7 と図-8 は, 12:00 から 16:16 までの4時間 16 分間(全期間)のスペ クトル演算結果を用いて作図を行った. ①久慈港 図-6(1)に,久慈港沖合における周波数スペクトルを 示す.周波数スペクトルのピークは 0.00025Hz(周期約 1時間10 分)から 0.0005Hz(周期約 35 分)の間に見ら れ,広範囲の周期帯に拡がっていたことがわかる.これ に加えて,0.0012Hz(周期約 14 分)付近に,弱い第2ピ ークが見られた.前半と後半を比較すると,第1ピーク および第2ピークともに前半は後半に比べて減衰してお り,久慈港沖合では,比較的早い段階で津波は減衰を始 めたことがわかる.今回の地震はマグニチュードが 7.1 であり,津波を発生させる地震としては,比較的規模の 小さい地震であった.それにもかかわらず,第1ピーク の周期が35-70 分と非常に長い周期が見られたことは, 地震のマグニチュードが8.0 であった 2003 年十勝沖地震 津波と比較するときわめて興味深い.ちなみに,十勝地 震津波の際には,久慈港沖では,0.0003Hz(周期約 50 分)と0.0007Hz(周期約 25 分)で双峰型のピークが見 られている4).地震の規模に比較して津波の周期が長か ったのは,今回の地震の震源深さが約 60km と非常に深 かったためであると推定される.このため,初期波源域 が比較的空間的に大きく拡がったのであろう. 図-7(1)に,沖合波浪計と港内検潮所のスペクトルの 比較を示す.0.001Hz(周期約 16 分)および 0.002Hz(周 期約8分)の双峰型のピークを有するスペクトル応答が 図から確認される.いずれのピークも10 近い応答値とな っており,久慈港では,これらの周期での津波の増幅が 特に顕著であることがわかる.こうしたスペクトル応答 関数は,やはり2年前の十勝沖地震津波の際に得られた ものと,よく一致しているものであった. 図-6(1) 沖合における津波の周波数スペクトル 図-7(1) 沖合から港内への津波の増幅
図-8(1)は,それぞれの観測波形記録のコヒーレンス と位相差を周波数毎に求めたものである.コヒーレンス の 値 は ス ペ ク ト ル の 第 1 ピ ー ク の 周 波 数 帯 で あ る 0.00025Hz(周期約1時間 10 分)から 0.0005Hz(周期約 35 分)の間では,0.7 から 1.0 の値となっており,沖で の波形と港内波形との相関がよいことが現れている.こ れに対して 0.0008Hz(周期約 20 分)付近では,コヒー レンスはゼロ近くまで値が低下し,沖合波形と港内波形 では極めて相関性が低くなっている.これは,この周波 数では津波のエネルギーそのものが小さかったからであ ろう.そして,沖合波形の第2ピークおよび沖合から港 内へのスペクトル相関関数のピークにあたる 0.001Hz (周期約16 分)付近で,再び,沖合と港内とのコヒーレ ンスが 0.8 程度の高い値を示している.位相差について 見ると,0.0008Hz(周期約 20 分)付近より高周波(短周 期)側では位相の反転が何回も見られるが,これよりも 低周波(長周期)側の位相差は連続的に変化しており, 特に 0.0006Hz(周期約 30 分)よりも低周波(長周期) 領域では位相差はほぼゼロとなり,沖合と港内との津波 波形がほぼ同じものとなっていたことがわかる. ②釜石港 図-6(2)に,釜石港沖合における周波数スペクトルを 示す.周波数スペクトルのピークは 0.00025Hz(周期約 1時間10 分)から 0.0007Hz(周期約 25 分)の間に見ら れ,久慈港以上に広範囲の周期帯に拡がっていた.ただ し,久慈港沖で見られたより高周波の第2ピークは見ら れなかった.前半と後半を比較すると,ピークよりも低 周波(長周期)側で,後半の方が若干のエネルギー増加 が見られるものの,ピーク周波数付近では,ほとんどス ペクトルの形状は変化していなかった.すなわち,釜石 港沖では,久慈港沖に比べて,より長時間にわたって津 波波形が継続したことを意味している. 図-7(2)に,沖合波浪計と港内検潮所のスペクトルの 比較を示す.0.001Hz(周期約 16 分)にピークを有する スペクトル応答が図から確認される.津波のピーク周波 数に近いこれより低周波側では,応答関数は周波数に対 して単調に変化している.しかし,これより高周波側で の周波数応答関数は,たくさんのピークを有する複雑な 形状であった.これは,0.001Hz(周期約 16 分)よりも 高周波側における津波のエネルギーが小さかったため, 図-8(1) 沖合と港内のスペクトル相関
安定したスペクトル応答関数を導くことが困難であった ためであろう.2年前の十勝沖地震津波の際に得られた 周波数応答関数も,今回とよく似た形状であり,0.001Hz (周期約16 分)にピークを有するものであった4). 図-6(2) 沖合における津波の周波数スペクトル 図-7(2) 沖合から港内への津波の増幅 図-8(2) 沖合と港内のスペクトル相関
図-8(2)は,それぞれの観測波形記録のコヒーレンス と位相差を周波数毎に求めたものである.コヒーレンス の 値 は ス ペ ク ト ル の 第 1 ピ ー ク の 周 波 数 帯 で あ る 0.00025Hz(周期約1時間 10 分)から 0.0007Hz(周期約 25 分)の間では,0.9 以上の高い値となっており,沖で の波形と港内波形との相関がよいことが現れている.位 相差について見ると,0.001Hz(周期約 16 分)付近より 高周波(短周期)側では位相の反転が何回も見られるが, これよりも低周波(長周期)側の位相差は連続的に変化 しており,沖合と港内との津波波形がほぼ同じものとな っていたことがわかる. ③大船渡港 図-6(3)に大船渡港外(津波防波堤の外側)における 周波数スペクトルを示し,図-6(4)に大船渡港内(津波防 波堤の内側)における周波数スペクトルを示す. 図-6(3) 沖合における津波の周波数スペクトル 図-6(4) 沖合における津波の周波数スペクトル いずれの周波数スペクトルにおいても,スペクトルの ピークは0.00025Hz(周期約1時間 10 分)から 0.0008Hz (周期約20 分)の間に見られ,広範囲の周期帯に拡がっ ていたことがわかる.港外の前半と後半を比較すると, 前半のピークは0.0007Hz(周期約 25 分)であったのが, 後半のピークは0.00025Hz(周期約1時間 10 分)となり, より長周期の津波波形形状に時間と共に変化した模様で ある.こうした変化は,港内でも同様に見られた. 図-7(3)に,港外波浪計を基準にした,港内波浪計と 港内検潮所のスペクトルの応答特性を示す.大船渡港の 検潮所は,防波堤外側の長崎漁港内に設置されているた め,検潮所における津波波形は,港外波浪計によって得 られた波形とよく似たものとなっており,0.001Hz(周期 約16 分)よりも低周波(長周期)側では,応答関数はほ ぼ1.0 であった.これに対して港内波浪計の応答関数は 少し複雑であり,0.0007Hz(周期約 25 分)から 0.0012Hz (周期約14 分)の間では 1.0 よりも小さい値となり,港 内では港外よりも津波が小さくなっていることが示され た.しかし反面,0.0006Hz(周期約 30 分)よりも低周波 (長周期)側では,応答関数は1.0 を越える値となって おり,港内での津波の増幅が示された.こうした応答関 数の形状は,やはり2003 年十勝沖地震津波の際に得られ た特性とよく一致したものであった4). 図-7(3) 沖合から港内への津波の増幅
図-8(3)は,それぞれの観測波形記録のコヒーレンス と位相差を周波数毎に求めたものである.ここに P1 は 港外波浪計,P2 は港内波浪計,T は検潮所を意味してい る.P1 と T とのコヒーレンスの値は,津波のエネルギー の大部分を占める0.001Hz(周期約 16 分)よりも低周波 (長周期)側ではほぼ 1.0 であり,両者の波形相関はき わめて良好であった.これに対して,P2 に関しては,P1 やT との相関はやや低かった.しかしながら,津波のエ ネルギーの大部分を占める 0.0008Hz(周期約 20 分)よ りも低周波(長周期)側ではコヒーレンスは 0.8 を越え ており,やはり波形の相関性は高いと考えて良い.位相 差に注目しても,P1 と T の位相差は,0.0008Hz(周期約 20 分)よりも低周波(長周期)側ではほぼゼロであり, 両者の波形記録はほぼ一致していた.これに対して,P2 の位相は,P1 や T に比べて若干遅れており,港外から港 内への津波伝播時間差が観測結果として現れたものと考 えられる.0.0006Hz(周期約 30 分)で 90 度(1/4周 期)の位相差が見られるということは,港外から港内へ の津波伝播時刻差が 30/4=7.5 分と試算される.表-3 によると津波第1波の極大偏差は,P1 では 12:16,P2 で は12:21、T では 12:21 であり,P2 は P1 あるいは T に比 べて5-6分程度津波の到達が遅かった模様であるが, これはスペクトル相関から得られた位相差とほぼ近い時 刻差であったと言うことができる. ④石巻港 図-6(5)に,石巻港沖合における周波数スペクトルを 示す.周波数スペクトルのピークは 0.00025Hz(周期約 1時間10 分)から 0.0004Hz(周期約 40 分)の間に見ら れ,やはりこの津波は長周期成分が卓越していたことが わかる.これに加えて,0.0007Hz(周期約 25 分)と 0.0009Hz(周期約 18 分)付近に,弱い双峰型の第2ピー クが見られた.前半と後半を比較すると,第1ピークお よび第2ピークともに前半は後半に比べて減衰している. 特に第2ピークにおいては,前半では双方型のスペクト ル形状であったものが,後半では 0.0007Hz(周期約 25 分)付近のピークが消え,0.0009Hz(周期約 18 分)付近 にピークを有する単峰型に変移した. 図-7(4)に,沖合波浪計と港内検潮所のスペクトルの 比較を示す.0.0006Hz(周期約 30 分)にピークを有する スペクトル応答が図から確認される.これよりも高周波 側の 0.0007Hz(周期約 25 分)よりも短周期側では,応 答関数の値は,1.0 よりも小さく,港内では沖合よりも 津波が減衰していることがわかる.こうした石巻港の周 波数応答特性は,図-7(1)の久慈港と比較すると,大きく 異なったものとなっていることがわかる.すなわち,港 湾毎に沖合から港内への津波伝播増幅特性が大きく異な っていることが,改めて実測データによって示されたも のである.このため,沖合津波観測データに基づく津波 防災対策は,港湾毎の津波伝播・増幅特性をよく考慮し たものとしなければならない. 図-6(5) 沖合における津波の周波数スペクトル 図-7(4) 沖合から港内への津波の増幅
図-8(4)は,それぞれの観測波形記録のコヒーレンス と位相差を周波数毎に求めたものである.コヒーレンス の値は津波のエネルギーの相対的に大きい0.0006Hz(周 期約40 分)よりも低周波(長周期)側では,1.0 に近い 値となっており,沖での波形と港内波形との相関がよい ことが現れている.しかし,これより高周波(短周期) 側では,コヒーレンスの値は不安定であり,沖合波形と 港内波形では極めて相関性が低くなっている.これは, この周波数では津波のエネルギーそのものが小さかった からであろう.位相差について見ても,0.0006Hz(周期 約40 分)付近より高周波(短周期)側では位相の反転が 何回も見られるが,これよりも低周波(長周期)側の位 相差は連続的に変化しており,特に0.0005Hz(周期約 35 分)よりも低周波(長周期)領域では位相差はほぼゼロ となり,沖合と港内との津波波形がほぼ同じものとなっ ていた. ⑤小名浜港 図-6(6)に,小名浜港沖合における周波数スペクトル を 示 す . 周 波 数 ス ペ ク ト ル の ピ ー ク は , 前 半 で は 0.0002Hz(周期約1時間 25 分)から 0.0012Hz(周期約 14 分)の幅広い間になだらかに見られた.後半になると, この周期帯全般にわたってエネルギーの減衰が見られた が,この周期帯の中で最も高周波(短周期)の0.0012Hz (周期約14 分)に限ってはエネルギー減衰が見られず, むしろ若干の増大が見られた.このため,後半では, 0.00025Hz(周期約1時間 10 分)と 0.0012Hz(周期約 14 分)との双峰型のスペクトル形状となっている. 図-6(6) 沖合における津波の周波数スペクトル 図-8(4) 沖合と港内のスペクトル相関
図-7(5)に,沖合波浪計と港内検潮所のスペクトルの 比較を示す.0.0003Hz(周期約 60 分)から 0.0012Hz(周 期約14 分)の幅広いピークを有するスペクトル応答が図 から確認され,この周波数帯で港外から港内への増幅が 確認された.小名浜港における沖合から港内へのスペク トル応答も,2003 年十勝沖地震津波の際に得られた結果 とよく似ているものであった4). 図-8(5)は,それぞれの観測波形記録のコヒーレンス と位相差を周波数毎に求めたものである.コヒーレンス の値は津波のエネルギーの相対的に大きい 0.001Hz(周 期約16 分)よりも低周波(長周期)側では,0.7 から 1.0 となっており,沖での波形と港内波形との相関がよいこ とが現れている.しかし,これより高周波(短周期)側 では,コヒーレンスの値は不安定であり,沖合波形と港 内波形では極めて相関性が低くなっている.位相差につ いて見ても,0.001Hz(周期約 16 分)付近より高周波(短 周期)側では位相の反転が何回も見られるが,これより も低周波(長周期)側の位相差は連続的に変化しており, 特に 0.0004Hz(周期約 40 分)よりも低周波(長周期) 領域では位相差はほぼゼロとなり,沖合と港内との津波 波形がほぼ同じものとなっていた. 図-7(5) 沖合から港内への津波の増幅
6.まとめ 本稿では,2005 年宮城県沖の地震によって発生した津 波の観測結果を紹介した.以下に本稿で得られた成果を とりまとめる. ①函館から銚子に至る我が国の太平洋北東岸の広範な範 囲で津波波形が確認された.本稿では,5港6観測点 の沖合波浪計を含む,24 観測点における津波波形記録 を収集し,とりまとめを行った. ②津波波形記録は,いずれも押し波から始まっていた. ゼロアップクロス法によって津波波形記録を読みと り,第1波および最大値となった津波偏差と波高を表 -3 にとりまとめた.第1波の偏差が10cm を越えたの は,鮎川・石巻・仙台新港の3検潮所であった. ③いずれの観測点でも津波は長時間継続した.第1波が 最大偏差であった観測点は少なく,多くの観測点で時 間の経過と共に津波の増幅が見られた.このため,八 戸港(新湊)及び久慈港検潮所でも最大偏差が 10cm を越えた. ④沖合波浪計によって得られた周期 300s 以上の周期帯 波高と津波偏差とは良好な相関が見られた.周期帯解 析に基づく長周期波高は,津波偏差高の0.6 倍程度で あり,2003 年十勝沖地震津波の際に得られた結果とほ ぼ一致する値であった. ⑤スペクトル解析によって沖合津波波形と沖合から港内 への津波の伝播・増幅を検討した.久慈・釜石・大船 渡・石巻および小名浜の各港沖合で観測された周波数 スペクトルのピークは,換算周期 20-40 分程度であ り,地震の規模に比較して津波の周期が長かった.こ れは,今回の地震の震源深さが約 60km と非常に深か ったためであると推定される. ⑥沖合から港内へのスペクトル応答関数は,2003 年十勝 沖地震の際に測得された結果と良好な一致を示し,各 港湾における津波の伝播・増幅特性を改めて確認する ことができた. 7.おわりに 港湾技術研究所(現港湾空港技術研究所)における全 国港湾域の波浪観測データの集中処理解析が開始したの は1970 年のことであり 35 年以上の年月が経過した.高 波浪状態における確実な波浪観測データの測得や,津波 のように突然やってくる非定常な長周期成分波の観測は, かつては極めて困難であるとされていたが,長年にわた る運輸省(現国土交通省)港湾局関係機関の数多くの関 係者の努力の結果,ナウファスの開発・改良を通じてこ うした問題点は徐々に克服され,本稿で紹介したような 津波に関しての沿岸の出現特性を把握することが可能と なった. 津波は,沿岸防災を考える上で,きわめて重要な自然 現象である.しかし,数十年から数百年といった時間間 隔で発生する現象であるため,単年度予算主義といった 時間スケールでものごとを判断せざるを得ない人間社会 における時間観念に比較すると,きわめて希な現象であ ると言わざるを得ない.このため,希に発生した津波観 測記録は,地震や津波の規模にかかわらず,非常に貴重 な観測データであり,その観測結果をきちんととりまと めておくことは,海象観測に携わる技術者の使命である と考え,本稿をとりまとめた. 本稿で紹介した海底設置式波浪計に加えて,より大水 深沖合海域で,波浪や潮汐と一体的に津波を観測するこ とができる,GPS津波計測システム11),12)が,最近に なって開発・実用化されたことをふまえて,スーパーナ ウファス構想と呼ばれるナウファスシステムをより大水 深海域における観測に発展させ,リアルタイム沖合津波 監視にも貢献を図ることを,現在,国土交通省港湾局と ともに検討を進めている18)ところである.こうした新し い観測ネットワークの展開は,津波ばかりでなく常時に も存在し外洋に面した港湾内の大型係留船舶の長周期動 揺問題対策にも,より一層の貢献が期待されている 19), 20). 本稿でとりまとめた,沖合波浪計と港内検潮器との同 時観測の結果示された沖合から港内への津波の伝播・応 答特性は,スーパーナウファスシステムによって測得さ れるであろう大水深沖合における津波波形記録を,より 一層有効に沿岸への津波来襲予測に活用できる可能性を 秘めた貴重な情報である.ただし,井戸内の水位変動を 計測する港内検潮記録は,津波そのものの波形記録に対 して,井戸周波数応答特性に応じたローパスフィルター 効果がかかった後の観測記録であることには注意が必要 である.こうした問題を解決し,より正しい沖合から港 内への津波伝播を実測するには,空中発射型波高計やオ ンサイト越波計などの,より直接的に沿岸に来襲した津 波を観測することができるオンサイトセンサーの展開も, 同時に望まれている21),22). 最後に,貴重な津波観測波形記録を快くご提供頂いた 気象庁・海上保安庁・東北地方整備局・関東地方整備局・ 北海道開発局および当所漂波研究室のご担当の皆様方に 感謝申し上げると共に,今日までのナウファスの開発・ 改良・運用,および,今後のスーパーナウファスの構想・
設計に,関与されている数多くの関係の方々に,改めて 謝意を表する. (原稿提出:平成17 年 11 月 29 日) 参考文献 1) 永井紀彦・橋本典明・浅井正:平成5年北海道南西 沖地震津波波形記録解析速報,港研報告第32 巻第4 号,pp.51-97,1993. 2) 永井紀彦・橋本典明・平石哲也・清水勝義:平成6 年(1994 年)北海道東方沖地震津波の特性,港研資 料№802,97p.,1995. 3) 小舟浩治・永井紀彦・橋本典明・平石哲也・清水勝 義:1996 年イリアンジャヤ地震津波の特性,港研資 料№842,96p.,1996. 4) 永井紀彦・小川英明:平成 15 年(2003 年)十勝沖 地震津波波形の特性,港湾空港技術研究所資料№ 1070,92p.,2004. 5) 永井紀彦・里見茂:2004 年東海道沖地震津波の観測 結果,港湾空港技術研究所資料№1096,22p.,2005. 6) 合田良実監修,海象観測データの解析・活用に関す る研究会編集:波を測る(沿岸波浪観測の手引き), (財)沿岸技術研究センター,212p.,2001. 7) 合田良実監修,海象観測データの解析・活用に関す る研究会編集:潮位を測る(潮位観測の手引き),(財) 沿岸技術研究センター,188p.,2002. 8) 永井紀彦:ナウファス(全国港湾海洋波浪情報網) による我国沿岸の波浪特性の解明,港研資料 №863, 113p.,1997. 9) 永井紀彦:ナウファス(全国港湾海洋波浪情報網) の現況と今後の課題,土木学会論文集巻頭論文(技 術展望),第609 号Ⅵ-41,pp.1-14, 1998. 10) 永井紀彦・橋本典明・川口浩二・佐藤和敏・菅原一 晃:ナウファスの連続観測化による我国沿岸の長周 期波の観測,港湾技術研究所報告第 38 巻第1号, pp.29-69,1999. 11)永井紀彦・小川英明・寺田幸博・加藤照之・久高将 信:GPSブイによる沖合の波浪・津波・潮位観測, 海岸工学論文集第 50 巻,土木学会,pp.1411-1415, 2003. 12)加藤照之・寺田幸博・越村駿一・永井紀彦:GPS 津波計による津波観測,月刊海洋,特集号(津波予 測),通巻第309 号,Vol.27,No.3,pp.179-183,2005. 13) 永 井 紀 彦 ・ 里 見 茂 : 全 国 港 湾 海 洋 波 浪 観 測 年 報 (NOWPHAS 2003),港研資料 №1094,87p.,2005. (波浪観測年報は港研資料として 1970 年以降毎年 刊行) 14) 永 井 紀 彦 : 全 国 港 湾 海 洋 波 浪 観 測 30 か 年 統 計 (NOWPHAS 1970-1999),港研資料 №1034,336p., 2004.(波浪観測年報は港研資料として 1970 年以降 毎年刊行) 15) 山中圭子:8月 16 日宮城沖地震(Mj7.2),EIC 地震 学ノートNo.168,東京大学地震研究所,2p.,2005. 16) 永井紀彦・小川英明・額田恭史・久高将信:波浪計 ネットワークによる沖合津波観測システムの構築と 運用,土木学会,海洋開発論文集第20 巻,pp.173-178, 2004. 17) 岩崎峯夫:デジタルフィルターを用いた津波計,カ イジョー技報,Vol.2,No.4,(株)カイジョー,pp.51-58, 1996. 18)春日井康夫・永井紀彦:津波防災の守り神-津波観 測システムの構築に向けて-,CDIT,No.17,(財) 沿岸技術研究センター,広報誌 2005 年5月号, pp.10-11,2005. 19)永井紀彦・加藤照之・額田恭史・泉裕明・寺田幸博・ 三井正雄:沖合・沿岸・オンサイト観測を組み合わ せた津波観測網に関する提言,土木学会,海洋開発 論文集第21 巻,pp.61-66,2005. 20)沿岸技術研究センター:港内長周期波影響評価マニ ュアル,沿岸技術ライブラリーNo.21,86p.,2004. 21) 永井紀彦・菅原一晃・清水康男・高山俊裕・小園み ちる:超音波空中発射式潮位計の開発,港湾技研資 料 №998,17p.,2001. 22)永井紀彦・平石哲也・服部昌樹・安田誠宏・高山俊 裕:オンサイト越波計の開発と現地適用性,海岸工 学論文集第50 巻,土木学会,pp.626-630,2003. 23)永井紀彦・菅原一晃・渡邊弘・川口浩二:久里浜湾 における長期検潮記録解析,港湾技術研究所報告第 35 巻第4号,pp.3-35,1996.
上段:付録に示す数値フィルターをかけた波形記録 下段:天文潮汐成分を除去した波形記録