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Arreola Arreola Arreola Arreola, Arrelola Smith Ninety Murals in Boyle Heights, Los Angeles : Data and Geographic Approach / Noritaka YAGASAKI Machiko

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(1)

Title

料と地理学的アプローチ( fulltext )

Author(s)

矢ヶ崎, 典隆; 椿, 真智子; 佐々木, 智章; 深瀬, 浩三

Citation

東京学芸大学紀要. 人文社会科学系. II, 57: 33-46

Issue Date

2006-01-00

URL

http://hdl.handle.net/2309/1153

Publisher

東京学芸大学紀要出版委員会

Rights

(2)

1.はじめに 多民族多文化社会として知られるアメリカ合衆国に おいて,1970年代以降,アジアやラテンアメリカから の移民の流入が活発化し,人種民族構成の多様化が進 んでいる。ロサンゼルス大都市圏はそうした多民族多 文化社会の典型的な事例である。近年,ロサンゼルス 大都市圏において特に人口増加が著しいのはヒスパ ニックであり,この地域はアメリカ合衆国でヒスパ ニックがもっとも集中した地域の一つである。ロサン ゼルス大都市圏の都市構造を理解するためには,ヒス パニックの流入とヒスパニック社会を検討することが 不可欠であると同時に,ロサンゼルス大都市圏に関す るヒスパニック研究は,アメリカ合衆国全体のヒスパ ニック社会について理解を深めるために大きな意義を 有するものである。 ヒスパニックに関する地理学的研究には十分な研究 の蓄積があるとはいいがたい。それは,アメリカ合衆 国における地理学が比較的最近まで圧倒的に白人男性 の研究者によって行われ,少数派の人種・民族に関す るテーマには十分な関心が払われてこなかったこと, また,ヒスパニックの著しい増加は1970年代以降の人 口現象であるためである。しかし最近では,Arreola を中心として研究の蓄積が始まりつつあり(Arreola 2004),そうした研究は,ロサンゼルス大都市圏のヒ スパニックを地理学的視点から研究するためにさまざ まな示唆を与えてくれる。 ロサンゼルス大都市圏のヒスパニックのうち,大多 数(80%)を占めるのはメキシコ系であり,メキシコ 系人口の集中居住地区はバリオと呼ばれる。このよう なエスニック居住地区を理解するためのアプローチと して,本研究では景観に着目した。 アメリカ合衆国の都市において,メキシコ系人口が 集中的に居住する地区には,他の少数派集団の居住地 区や白人居住地区とは異なった住宅景観が見られるこ とが Arreola によってすでに指摘されている。それら は,住宅の敷地を金網などのフェンスで囲む形態,独 特な色彩の利用,庭の植物,宗教装飾・施設などであ るし,壁画はメキシコ系の集中居住地区を構成する重 要な景観的要素である(Arreola 1988, 2000)。メキシ コ系住民にとって壁画は特別の意味をもっており,そ れはメキシコ系地域社会の文化を象徴する一つの存在 である。また,メキシコ系集中居住地区の建造物は画 家にとってのキャンバスであり,コミュニティ芸術の 一つとしての壁画は伝統的な芸術作品を展示してきた 画廊や美術館とは無縁の存在である,という認識を多 くのメキシコ系画家が共有しているからであるという (Arrelola1984)。また,Smith(2002)は,ヒスパニッ クの都市住民が農村地域に対して持つ愛着や帰属意識 が都市景観に表れており,その一例が壁画であるとし ている。壁画という民衆芸術はコミュニティのプライ ドやアイデンティティを高めることに寄与するし,壁 画は都市においてエスニック集団の存在を示唆する景 観要素でもある。 もちろん,都市の壁画はヒスパニックに固有の民衆

ロサンゼルス市ボイルハイツ地区における9

0の壁画

── 資料と地理学的アプローチ

──

矢ケ

典隆・椿

真智子・佐々木

智章・深瀬

浩三

地理学

**

(2

5年8月3

1日受理)

* Ninety Murals in Boyle Heights, Los Angeles : Data and Geographic Approach / Noritaka YAGASAKI Machiko TSUBAKI Tomoaki SASAKI Kozo FUKASE

(3)

芸術でもなければ,メキシコ系集中居住地区バリオに 特有の文化景観でもない。壁画には長い歴史があり, 世 界 中 で さ ま ざ ま な 壁 画 が 描 か れ て き た(Capeck 1996)。アメリカ合衆国では,1930年代の大恐慌の時 代に,ニューディール政策の一環として連邦芸術プロ グラムが実施され,芸術家が雇用されて,郵便局など の公共建造物にさかんに壁画が描かれた。それ以降 も,都市ごとにさまざまな壁画への取り組みが続けら れてきた。 現在,アメリカ合衆国の都市ではどこでも壁画を見 ることができるが,なかでもロサンゼルスは「世界の 壁画の中心地 mural capital of the world」と呼ばれる。 壁画はロサンゼルスの都市景観の重要な要素になって おり(Levick 1988),壁画のガイドブックも出版され ている(Duntiz 1998)。 ロサンゼルス大都市圏におけるメキシコ系集中居住 地区バリオを研究するための手がかりとして,私たち は壁画に着目することにした。ロサンゼルスのダウン タウンからロサンゼルス川を越えて東に位置するボイ ルハイツ地区において,2003年9月に現地調査を行 い,さらに2004年9月に補足調査を行った(図1)。 ボイルハイツ地区は典型的なメキシコ系バリオであ り,壁画の著しい集中がみられるからである。本稿 は,現地調査で得られた90の壁画を資料として提示す るとともに,ロサンゼルス大都市圏においてヒスパ ニック研究を展開するための地理学的アプローチを予 図1 ロサンゼルス市ボイルハイツ地区における壁画の分布

(4)

察的に検討することを目的とする。 2.ロサンゼルス大都市圏とボイルハイツ 2000年センサスでは,ロサンゼルス統合大都市統計 地域(CMSA)のヒスパニック人口は660万人であっ た。特にロサンゼルス郡への集中が著しい。ロサンゼ ルス郡におけるヒスパニック人口は424万人であり, これは郡人口の45%を占めた。 2000年センサスのセンサストラクトデータを利用し てヒスパニック人口の分布を検討すると,センサスト ラクトの総人口に占めるヒスパニックの比率が90%以 上の地区は,ロサンゼルスダウンタウンの東に位置す るボイルハイツ,そしてその東のイーストロサンゼル スからさらに南東にかけてである。また,この集中地 区の南側には,ハンチントンパーク,サウスゲート, ベルガーデンズを中心として,ヒスパニック人口比率 が90%を超える地区が広がる。これらの二つの集中地 区を取り巻くようにヒスパニック人口比率が80%以上 の地区が分布している。ボイルハイツから南に向かっ てサウスゲートまで,また南東方向のピコリベラにか けての地域は,ロサンゼルス大都市圏におけるヒスパ ニックの集中地区である。 ロサンゼルス市の中心部からロサンゼルス川を越え て東に位置するボイルハイツでは,1850年代末に An-drew Boyleが大邸宅を建設した。1880年代から市外電 車の敷設に伴う郊外住宅地が形成され,ロサンゼルス 中心部で働く白人労働者が生活するようになった。 1920年代までにはユダヤ系が大多数を占めるように なっており,1920年のユダヤ系人口は7万人を数え,

これは1940年には15万人に増加した(Pitt and Pitt1997:

56)。また,日系,メキシコ系,ロシア系,アルメニ ア系など,さまざまな新しい移住者もボイルハイツに 流入し,ダイナミックな変化が展開した。第二次世界 大戦後には,ユダヤ系をはじめとする集団が他の地域 へ転出する一方,メキシコ系を中心とするヒスパニッ ク人口が増加した。1970年代からはメキシコ系人口が 急増し,典型的なメキシコ系集中居住地区(バリオ) が形成された。1990年の人口は94,558で,94%がヒス パニックであった。ボイルハイツのエバーグリーン墓 地には,この地区に日系人口が皆無に等しいにもかか わらず日系人の墓が多数あるが,このことはかつて日 系社会が存在したことを示唆するものである。 なお,ボイルハイツの南に位置するヴァーノン,ハ ンチントンパーク,サウスゲートでヒスパニック人口 比率が高いが,この地区はボイルハイツ・イーストロ サンゼルス地区に比べると,ヒスパニックの集中の歴 史は新しい。この地区は第二次世界大戦前から重工業 や軽工業が集積したロサンゼルスの中心的工業地区で あ り,白 人 労 働 者 階 層 の 住 宅 地 で あ っ た。し か し,1960年代から産業構造の変化に伴って工場の閉鎖 が相次ぐようになり,またすぐ西に位置するワッツで 1965年に暴動事件がおきたことも契機となって,白人 労働者は郊外へと転住するようになった。こうして, すでに飽和状態にあったボイルハイツ・イーストロサ ンゼルス地区からヒスパニックが流入したし,1965年 移 民 法 の 施 行 に よ っ て 新 移 民 も 増 加 し た(Curtis 2004)。後述するように,ヒスパニックのこのような 居住の歴史は,壁画とも密接に関連している。 3.壁画の調査データ ボイルハイツにおいて現地調査を実施した結果,90 箇所の壁画を確認し,それぞれについて,場所・施 設,テーマ(タイトル),製作者,画家,製作年を調 べた。その結果は表1および写真(No.1∼90)に示 されるとおりである。 90箇所の壁画の分布を示した図1を見ると,多くの

壁画は,Cesar E. Chavez Avenue,Wabash Avenue,4th

Avenue

に面して立地することがわかる。とくに,Ce-sar E. Chaves Avenueは,都心部とボイルハイツ,さ

らに東のイーストロサンゼルスを結ぶ幹線道路であ り,商店の集積がみられる。商業宣伝の壁画はこのよ うな幹線道路沿いに集中するが,それは壁画が看板の 代用として描かれるためである。 壁画のテーマは多様である(表2)。商業宣伝が31, ついで歴史・文化・教育を扱ったものが26,宗教に関 するものが16,政治的主張に関するものが4,そして 抽象的な壁画が13であった。製作者や製作年について は明記されていない壁画が多い。明記された壁画につ いては1990年代のものが多く,組織的な企画と援助が 行われたことが推察される。 壁画の設置場所についてみると,商業施設が67と圧 倒的に多かった。ついで,学校,個人住宅,廃屋,公 共住宅・アパート,コミュニティセンター,病院,教 会にも壁画が描かれていた。 4.壁画を素材としたヒスパニック研究 現地調査で明らかになった90の壁画に関して詳細な 分析が必要であり,それについては今後の課題とする が,このような壁画を素材としてヒスパニック研究を

(5)

表1 ロサンゼルス市ボイルハイツ地区における壁画調査結果

番号 場所 テーマ/タイトル/製作年 製作者(P)/画家(A)/アシスタント(As)

1 商業施設 P : Mictlan Murals

2 コミュニティセンター P : ELA Community Corp, Mictlan Murals 3 廃屋 政治的主張/Open The Curtains/1996 A : John Zender Estrada L. A. C. C 4 病院 宗教/Christ The Healer/1997 A : George Yepes, Ephphatha

5 商業施設 商業宣伝

6 商業施設 商業宣伝/Man One Coiart/1998 A : Hilip Zhang Arcadia H. S

7 酒屋 商業宣伝

8 飲食店 宗教(グアダルーペの聖母)

9 レコード店 商業宣伝

10 飲食店 歴史・文化・教育/Resurrection of The Green Planet/1990∼1991

P : S. P, A. R. C City of Los Angeles / A : Ernesto de la Loja / As : Sandra de la Loja, Gloria Guerrero, Nikki Michel,Rene Olmos

11 スーパーマーケット 商業宣伝

12 スポーツ用品店 歴史・文化・教育(地域文化)/El Gorrdo de

Boyle Heights/1983 P : Botello Healy 13 雑貨店 政治的主張(農業労働者)/No Somos Animales

/1995 A : Wille F. HerronⅢ/As : Botica del Sol 14 雑貨店 抽 象 画(科 学 技 術 と 人 間)/Advancement of

Man/1995

P : Botica del Sol / A : Wille F. HerronⅢ / As : Ralph Ramirez

15 薬局 歴史・文化・教育(自然と人間)/The Greatest

Love/1992 P : Ramirez Family / A : Paul Botello 16 ペットショップ 商業宣伝/2004(更新) 17 食料品店 歴史・文化・教育(メキシコの歴史)/1999 A : Manuel G. Cruz 18 商業施設 商業宣伝 19 おもちゃ店 宗教(キリスト) 20 飲食店 歴史・文化・教育(マヤ文明) 21 衣料品店 宗教(グアダルーペの聖母) 22 青果物市場 商業宣伝 23 美容院 商業宣伝 24 飲食店 商業宣伝 25 自動車修理工場 抽象画 26 酒屋 商業宣伝 27 バー 抽象画 A : Alley Terrorists 28 リサイクルショップ 抽象画 A : Jose

29 バー 政治的主張(想像的解決)/Rescate/1994 P : LA Conservation Corps. / A : John D. Estrada

30 バー 抽象画 A : Jose

31 スーパーマーケット 宗教(キリストの一生)/2001 A : Manuel Gomez Cruz 32 個人住宅 宗教(グアダルーペの聖母)/2001 A : Manuel Gomez Cruz

33 廃屋 抽象画

34 自動車部品 商業宣伝/1990年代 35 廃業したスーパー 商業宣伝

36 カフェ 歴史・文化・教育(スペイン対アステカ)/1996 A : Manuel Gomez Cruz 37 メルカド(市場) 商業宣伝

38 スーパーマーケット 商業宣伝/1993 A : G. Oropeza 39 コインランドリー

歴史・文化・教育(メキシコとアメリカの戦 い)/USA Raza Latina Unidos En Pass Piace/ 1993

A : Manuel Gomez Cruz 40 コインランドリー 政治的主張

41 スーパーマーケット 宗教(グアダ ル ー ペ の 聖 母 と キ リ ス ト)/

Visions Crew/2004(更新) P : Keone / A : Johnny.M

42 学校 宗教(グアダルーペの聖母と生徒)

43 教会 宗教(食事)/1989 A : Rafael Paleto 44 スーパーマーケット 商業宣伝

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46 パーティー用品店 商業宣伝

47 雑貨店 商業宣伝

48 雑貨店 商業宣伝/1999 A : Manone Sacred Coiart

49 おもちゃ店 商業宣伝 50 商業施設 抽象画 51 商業施設 歴史・文化・教育 52 おもちゃ店 歴史・文化・教育(メキシコの文化) 53 バー 商業宣伝 54 飲食店 宗教(グアダルーペの聖母)/1999? 55 個人住宅 歴史・文化・教育/2000?

P : Mictlan Murals, Office of Mayor Richard Rior-dan, Councilman Nick Pacheco, L. A Housing Dept, B. H. T. N. I.

56 雑貨・食料品店 商業宣伝 57 雑貨・食料品店 商業宣伝

58 個人住宅 歴史・文化・教育/Paseo del Sol/2000? P : Mictlan Murals, East LA Community Corp, Mayer’s T. N. I.,

59 学校 歴史・文化・教育

60 アパート 歴史・文化・教育

61 学校 歴史・文化・教育(マヤ)/Tropical Life/1994 P : Creative Solution Clean Green/A : J. D. Estrada

62 学校 歴史・文化・教育(家族)

63 学校 歴史・文化・教育 P : County Prop A. E, Clean and Green Project/A : Asylm 64 飲食店 歴史・文化・教育 65 食料品店 宗教(グアダルーペの聖母とキリスト) 66 学校 歴史・文化・教育(スポーツ) 67 ビデオ店 歴史・文化・教育(マヤ) 68 雑貨店 抽象画/2002 69 花・おもちゃ店 宗教(グアダルーペの聖母) 70 飲食店 商業宣伝 71 飲食店 商業宣伝 A : Alex

72 雑貨店 歴史・文化・教育/Nuestra Vida/2000 P : Roosevelt H.S. Team/A : John Zender E 73 雑貨店 宗教(グアダルーペの聖母) A : Salvador Hernandez, Maria R.Hernandez, Juan

Salvador Hernandez

74 印刷屋 抽象画

75 スーパーマーケット 抽象画(未来志向)/Find Your Dream/2002

P : Nick Pacheco, L. A. City Council Member, 14th District Homeboy Industries/A : Antonio Rodrigues, Oscar Canela

76 学校 抽象画

77 学校 歴史・文化・教育(メキシコの歴史・文化)

/ANAHUAC : Our Future Belongs To Us A : Nelyllotl Toltecatl? 78 自動車修理工場 宗教(グアダルーペの聖母)

79 飲食店 商業宣伝 P : Manio MMⅢ

80 雑貨店 商業宣伝

81 事務所,2階が住宅 宗教(キリスト・鷹)/1993?

82 個人住宅 歴史・文化・教育 P : Mictlan Murals/A : Raul , Lookez, Roberto etc. 83 個人住宅 歴史・文化・教育(民族を超えて) P : Mictlan Murals 84 個人住宅 その他(花) 85 薬局 商業宣伝他 A : Bash 86 ボクシングジム 抽象画 87 飲食店 歴史・文化・教育(メキシコの文化) A : Markos 88 飲食店 商業宣伝 89 飲食店 商業宣伝 90 アパート 宗教(グアダルーペの聖母) (現地調査により作成)

(7)

No.1 No.2 No.3

No.4 No.5 No.6

No.7 No.8 No.9

No.10 No.11 No.12

No.13 No.14 No.15

(8)

No.16 No.17 No.18

No.19 No.20 No.21

No.22 No.23 No.24

No.25 No.26 No.27

No.28 No.29 No.30

(9)

No.31 No.32 No.33

No.34 No.35 No.36

No.37 No.38 No.39

No.40 No.41 No.42

No.43 No.44 No.45

(10)

No.46 No.47 No.48

No.49 No.50 No.51

No.52 No.53 No.54

No.55 No.56 No.57

No.58 No.59 No.60

(11)

No.61 No.62 No.63

No.64 No.65 No.66

No.67 No.68 No.69

No.70 No.71 No.72

No.73 No.74 No.75

(12)

No.76 No.77 No.78

No.79 No.80 No.81

No.82 No.83 No.84

No.85 No.86 No.87

No.88 No.89 No.90

(13)

展開するためにどのようなアプローチが可能であろう か。図2は,ボイルハイツにおける現地調査を通して 明らかとなった,メキシコ系集中居住地区であるバリ オを研究するための枠組みの概要を示したものであ る。 まずはじめに,ヒスパニックはアメリカ合衆国を構 成する少数派集団の一つであり,ロサンゼルスのメキ シコ系バリオもアメリカ少数派居住地区として認識す る必要がある。したがって,メキシコ系バリオはアメ リカ多数派との関連において理解しなければならな い。同時に,ロサンゼルスのヒスパニックの多くはメ キシコ系であるので,彼らの母国であるメキシコとの 関連において検討することが必要である。 メキシコ系はアメリカ多数派からさまざまな偏見や 差別を受けたが,これは移民社会に対するホスト社会 からの圧力として作用した。一方,1960年代の公民権 運動の展開によって,アメリカ多数派の少数派に対す る認識が変化するようになった。メキシコ系バリオの 存立はこのようなホスト社会の動向に照らして理解す ることが必要である。 一方,アメリカ多数派社会には壁画を促進する動き が展開しており,メキシコ系バリオの壁画について も,アメリカ合衆国における壁画運動の流れの中に位 置づける必要がある。アメリカの都市では公衆芸術と しての壁画がどこでも見られるし,壁画は都市景観の 一部になっている。前述のように「世界の壁画の中心 地」と呼ばれるロサンゼルスは典型的な事例である。 どのような公衆芸術運動が展開し,それに行政や画家 がどのようにかかわったのか,そしてアメリカ多数派 の壁画に関する展開がメキシコ系バリオにどのような 影響を及ぼしたのかが検討課題となる。 壁画の起源をさかのぼるとすればネイティブアメリ カン時代におよぶし,スペイン植民地時代にも壁画が 描かれたが,現代的な意味でのロサンゼルスの壁画 は,シケイロス David Alfaro Siqueiros(1896−1974)

によって始まったとされる。彼は1932年に半年あまり

をロサンゼルスで過ごし,芸術学校で教える傍ら,壁

画の製作を委託された。1930年代には,連邦政府の公

共事業であった Work Projects Administration の連邦芸 術プログラムが画家に委託して,郵便局や図書館など の公共建造物の壁に壁画を描く事業が全国的に展開さ

れた。1960年代には,イーストロサンゼルスやヴェニ

スに壁画が自然発生的に出現するようになった。1973

年にロサンゼルス市はインナーシティ壁画プログラム (Inner City Mural Program)に補助金を出した。1984 年のロサンゼルスオリンピックの準備のために,交通 局は高速道路に壁画を描く事業のスポンサーとなっ た。地域社会再開発局も壁画の推進事業に取り組ん だ。都市景観の美化が課題であったと推察される。 1991年 に ロ サ ン ゼ ル ス 市 は,Neighborhood Pride :

Great Walls Unlimitedという芸術プログラムによっ

て,エスニック団体や環境団体に財政的援助を行っ た。このように,壁画の製作を支援する外的な組織や 公的な支援プログラムについて検討し,バリオにおけ 図2 壁画に着目したヒスパニック研究の枠組み

(14)

る壁画製作との関連を分析する必要がある。 メキシコ系バリオの壁画はメキシコとの関係から検 討することも必要である。メキシコの自然は多様であ ると同時に,先住民,スペイン人,メスチーソなどか ら構成されるメキシコ人も多様である。このようなメ キシコ文化を背景に,また,メキシコ革命以降の壁画 運動を背景に,オロスコ,シケイロス,リベラなどの 著名な画家が壁画を描き,これが隣国であるアメリカ 合衆国の公衆芸術運動に影響を及ぼした。彼らのよう な著名な芸術家は直接にはロサンゼルスのメキシコ系 バリオに影響を及ぼすことはなかったと考えられる が,メキシコからロサンゼルスへのメキシコ人の移動 に伴って,庶民の文化としての壁画が導入されること になった。ロサンゼルスのメキシコ系バリオに描かれ た壁画のテーマを見ると,メキシコの自然や歴史や文 化を題材にしたものが実に多い。壁画という庶民の文 化を通じて,ロサンゼルスのメキシコ系バリオとメキ シコは密接に関連しているように見える。メキシコか らの庶民文化の導入についての検討が必要になる。 さらに,メキシコ系バリオという地域社会における 壁画の意味を分析することも重要となる。商業宣伝を 除いて,壁画のテーマを大まかに分類すると,ローカ ルな社会を扱ったもの,メキシコ人あるいはメキシコ 系アメリカ人としてのエスニック・アイデンティティ に関するもの,理想的な生活を描いたもの,故郷とし てのメキシコを描いたもの,グローバルな課題を扱っ たものなどがあげられる。このような壁画がどのよう な意図のもとで描かれたかについて聞き取り調査に よって明らかにすることが必要である。そうした作業 によって,壁画とともに生活する住民の認識が明らか になる。また,壁画と関連した住民組織などについて 具体的な調査研究が必要になる。 また,メキシコ系バリオの比較研究も必要になる。 それは,壁画を通して,住民の属性や地域の特徴,よ り広い世界との交流を分析することができるからであ る。ボイルハイツとイーストロサンゼルスという古い メキシコ系バリオの南側にはメキシコ系人口が比較的 最近になって激増したヴァーノン地区やハンチントン パーク地区があり,これらの地区を観察した結果,壁 画はごく少数であった。このことから,メキシコ系の 集中居住地区バリオとしての成熟が壁画の高密度な分 布と関係していると推察される。 本研究では,ロサンゼルス大都市圏のヒスパニック を研究するための試行として,壁画調査を試みた。メ キシコ系の壁画はこうした研究にとって重要な素材で あることが確認されたので,今後,継続した調査研究 を進めたいと考えている。 本研究には科学研究費補助金基盤研究 B!「移民の 適応戦略と前適応からみた移民社会・ホスト社会の地 域生態学的比較研究」(研究代表者:矢ケ 典隆)を 使用した。

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表2 壁画のテーマと設置場所 テーマ 商業施設 学校 個人住宅 廃屋 コミュニ ティセン ター 公共住宅・ アパート 病院 教会 その他 合計 商業宣伝 31 31 宗教 10 1 1 1 1 1 1 16 政治的主張 3 1 4 歴史・文化・教育 14 6 4 1 1 26 抽象画 9 1 1 1 1 13 合計 67 8 6 2 1 2 1 1 2 90 (現地調査により作成)

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参照

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