顧客満足度に影響する出産サービスの構成因子

J. Jpn. Acad. Mid., Vol. 16, No. 1, pp. 15-23, 2002. 8

原

著

顧 客 満足 度 に影 響 す る出産 サ ー ビス の構 成 因子

The

composition

factor

of delivery

service

which

influences

the

degree

of customer

satisfaction

浅

見 万里子

(Mariko ASAMI)*

要 約 本 研 究 の 目 的 は,出 産 を 経 験 し た 女 性 た ち が,施 設 で の 出 産 に 関 す る サ ー ビ ス を ど の よ う に 評 価 し て い る か を 明 ら か に し,施 設 経 営 に と っ て 有 効 な 施 策 を 得 る こ と を 目 的 と し た 。 サ ー ビ ス マ ー ケ テ ィ ン グ の 手 法 を 用 い,出 産 を経 験 し た 女 性 た ち に サ ー ビ ス 品 質 の 測 定 用 具 「SERVQUAL」 を 参 考 に し た 研 究 者 作 成 に よ る 自 己 質 問 紙 調 査 を実 施 し,354名 の 回 答 を 得 た 。 結 果 は 以 下 の と お りで あ る 。

1.出 産 に 関 す る サ ー ビ ス は,妊 娠 期 は3因 子 「personaltrust因 子 」 「cost因 子 」 「option因 子 」,出

産 期 は4因 子 「personaltrust因 子 」 「cost因 子 」 「continuity of care因 子 」 「safety因 子 」,育 児

期 は4因 子 「personaltrust因 子 」 「hospitality因 子 」 「cost因 子 」 「safety因 子 」 に 分 類 さ れ た 。

2.そ れ ぞ れ の 時 期 の 満 足 度 と抽 出 さ れ た 因 子 は 「出 産 期continuity of care因 子 」 を 除 い て 有 意 な

関 連 が 認 め ら れ た 。

3.全 体 の 満 足 度 に 影 響 す る 因 子 は,「 出 産 期personaltrust因 子 」 「出 産 期cost因 子 」,「育 児

期per-sonaltrust因 子 」 「育 児 期hospitality因 子 」 「育 児 期safety因 子 」 で あ っ た 。

4.出 産 に 関 す る サ ー ビ ス に お い て,「 満 足 度 」 と 「他 者 へ の 紹 介 」 「再 利 用 意 向 」 に は 有 意 な 相 関 関 係

が 認 め られ た 。

キ ー ワ ー ド 出 産,顧 客 満 足,サ ー ビ ス

Abstract

The purpose of this research showed clearly how the women who experienced the delivery are evaluating the service about a delivery with institution, and aimed at obtaining an effec-tive measure for institution management. The self-question paper investigation by the researcher creation which referred to the measurement tools "SERVQUAL" of service quality was requested from the women who experienced the delivery using the technique of service marketing, and 354 persons' reply was obtained. A result is as follows.

1. The service about a delivery was classified into the pregnancy time three factors,:

"per-*順 天堂大学医学部附属順天堂医院 (Juntendo University Hospital)

2002年1月4日 受 付2002年5月10日 採 用

顧客 満 足度 に影響 す る出産 サ ー ビス の構 成 因子

sonal trust factor". "cost factor" "option factor" delivery time 4 factor : "personal trust factor". "cost factor" "continuity of care factor" "factor of safety" and childcare time 4 factor, : "personal trust factor", "hospitality factor", "cost factor", and "safety factor." 2. As for the factor extracted with the degree of satisfaction of each time, significant

rela-tion accepted except for the "delivery time continuity of care factor."

3. Factor Which Influences the Whole Degree of Satisfaction is "the delivery time factor : personal trust", "the delivery time factor : cost", "the childcare factor : personal trust" "the childcare time factor : hospitality" and "the childcare time factor : safety."

4. In the service about a delivery, significant correlation was accepted in "the degree of sat-isfaction", and "introduction to the others" and a "reuse intention."

Key Words Delivery, Customer satisfaction, Service

I緒 言 現 在,医 療 はサ ー ビ ス業 とさ れ,出 産 を扱 う施 設 に お い て も その 取 り組 み はサ ー ビス業 と して の 施 策 が適 応 され る。 医 療 サ ー ビス の 品質 に は顧 客 品 質,プ ロ フ ェ ッ シ ョナ ル 品 質,マ ネ ジ メ ン ト品 質 の3側 面 が あ り(Ovretveit,1992),サ ー ビス の 品 質 評 価 に は,顧 客 視 点 の 評 価 が 重 要 で あ る と い う(Proctor,1999)。David(1994)は 顧 客 満 足 が サ ー ビ ス の 品質 評 価 手段 の1つ で あ る と し, 山本(1999)は 多 くの実 証 研 究 か らサ ー ビ ス品 質 と顧 客 満 足 の密 接 な関 係 や,品 質 を構 成 す る要 素 か ら顧 客 満 足 へ の 影 響 を探 る こ との 重 要 性 を指 摘 し て い る。 近 藤(1995)に よ る と,満 足 した 顧 客 の他 者 へ の紹 介 や リピー タ ー(再 利 用 者)の 確 保 は施 設 の収 益 に と っ て重 要 で あ り,嶋 口(1994) は,顧 客 満 足 へ の施 策 は投 資 と して の戦 略 性 を も つ もの で あ る と して い る。 近 年 出産 を取 り扱 う施 設 で は,顧 客 満 足 を 中 心 と した 評 価 が行 わ れ て い るが,専 門 性 の 高 い 医 学 的 結 果 の 評価 は妊 産 婦 に と って 困 難 で あ り,調 査 は施 設 設 備 や 職 員 の対 応,食 事 な ど に つ い て を 主 と して い る もの が 多 い。 また,助 産 師 の ケ ア と満 足 度 に つ い ての 実 証 研 究 で は,妊 娠 期 と産 褥 期 の ケ ア満 足 度 が 出 産 満 足 度 を予 測 す る変 数,顧 客 の 再 来 ・他者 へ の 紹 介 を予 測 す る変 数 と し て関 連 性 が 報 告 され て い る(堀 内,1997)。 本 研 究 で は,出 産 に関 す る サ ー ビス につ い て, 経 営 学 サ ー ビス マ ー ケ テ ィ ン グ の手 法 を参 考 に, 満 足 度 とサ ー ビス の評 価 に関 す る調 査 を行 い,顧 客 満 足 度 に影 響 を 及 ぼ す サ ー ビス の 要 素 を明 らか に す る こ とを 目的 と した 。 II概 念 枠 組 み サ ー ビス エ ン カ ウ ン タ ー サ ー ビス エ ン カ ウ ン タ ー と は顧 客 が 組 織 の提 供 す る具 体 的 な サ ー ビ ス に直 接 接 す る場 で あ る。 サ ー ビ ス の 品 質 の評 価 は そ の特 徴 で あ る無 形 性 や 変 異 性 な ど か ら 困 難 と 言 わ れ(Berry,1985/近 藤,1995),特 に 医 療 サ ー ビス は専 門 性 か ら顧 客 が す べ て の評 価 を行 うの は非 常 に 困 難 で あ る(藤 村,1991)。 顧 客 の 視 点 か ら言 え ば,最 も印 象 的 な サ ー ビ ス は,顧 客 と組 織 の 接 点 で あ るサ ー ビ ス エ ン カ ウ ン タ ー で提 供 され,こ こで顧 客 は組 織 の サ ー ビス 品 質 の断 片 を体 験 し,顧 客 満 足 や 再 取 引 欲 求 を形 成 して い く(Zeithaml,1996)。 III研 究 方 法 1.研 究対 象 妊 娠,分 娩,1か 月 検 診 で も異 常 の な か っ た, 出 産 後 か ら産 後1か 月 検 診 まで の 研 究 へ の 同 意 を 得 られ た 産 褥 期 に あ る女 性 で あ る。 「大 学 病 院 」 1施 設,「 総 合 病 院 」2施 設,「 個 人 医 院 」1施 設,r助 産 院 」3施 設 で 入 院 中,1か 月 検 診 時 に 各 施 設 職 員 に よ る直 接 配 布,質 問 紙 記 入 法 で 依 頼 し,2施 設 で 直 接 回 収,5施 設 で 郵 送 回収 調 査 を 行 った 。 16 _{日本 助産 学 会 誌 第16巻 第1号(2002.8)}

顧 客 満足 度 に影 響 す る出産 サ ー ビスの構 成 因子 2.測 定 用 具 調 査 票 作 成 過 程 と概 要 サ ー ビ ス の 評 価 方 法 と し て,SERVQUAL (Parasuraman,1988,1991)は 代 表 的 な も の の 1つ で あ る 。 顧 客 視 点 で の サ ー ビ ス の 項 目 を,サ ー ビ ス 品 質 を構 成 す る 次 元(Dimension)に 分 類 し(表1),そ の 期 待 と実 際 の 経 験 と の 差(GAP) に 着 目 し,顧 客 の 重 視 す る 要 素 を 明 ら か に し て い る 。 出 産 に 関 す る サ ー ビ ス 項 目 は,SERVQUAL の 和 訳 を 用 い た ガ ス トの 調 査(近 藤,1995)26項 目,堀 内(1997)の 妊 娠 ・出 産 ・産 褥 各 期 の ケ ア に 対 す る 合 計32項 目,出 産 関 連 書 籍(ナ チ ュ ラ ル バ ー ス ク ラ ブ,1997),さ ら に 筆 者 の 実 務 経 験 を も と に 作 成 し,「 妊 娠 期35項 目 」 「出 産 期30項 目 」 「育 児 期25項 目」 と し た 。 予 備 調 査 を 合 計15名 に つ い て 実 施 し,項 目 の 精 選,修 正 を 行 っ た 。 次 に 各 期 の 項 目 か ら SERVQUALのDimension,Proctor(1999)の 分 類(表2)を 参 考 に,Reliability(信 頼 性), Responsiveness(反 応 性),Access(利 便 性), Assurance(確 信 性),Empathy(共 感 性), Tangibles(物 的 な 要 素),さ ら にOption(付 加 サ ー ビ ス),Cost(費 用)の8次 元 に 分 類,そ れ に 順 じ て2項 目 ず つ 選 考 し,最 終 的 に 「出 産 に 関 す る サ ー ビ ス 項 目 」 は,妊 娠 ・出 産 ・育 児 期 各14 項 目 と し た 。 「出 産 に 関 す る サ ー ビ ス 項 目 」 の 信 頼 性 に つ い て は,内 容 一 貫 性 を 示 すCronbach'sα は 妊 娠 期 表1SERVQUALの 品 質 次 元(Dimension) 近 藤(2000),pp.7よ り筆 者 作 成 。

•\ 2 Matter of a quality maternity service

Proctor(1999), PP. 22, Box4 よ り筆者 作 成 。

顧客 満 足 度 に影 響 す る出産 サー ビス の構 成 因子 14項 目 α=.89,出 産 期14項 目 α=.79,育 児 期 14項 目 α=.88,各 因 子 は.84∼.95で,内 容 一 貫 性 は保 た れ た。 最 終 的 に調 査 票 は,「 出産 に関 す る サ ー ビ ス項 目」 「フ ェイ ス 項 目」 「妊 娠 ・出 産 ・育 児 期 と総 合 の 満 足 度 」 「再 利 用 意 向 」 「他 者 へ の 紹 介 意 向 」 か ら な り,測 定 尺 度 は,「 サ ー ビ ス項 目」 の 回 答 に つ い て,「 まっ た く不 十 分 」 を1点,「 非 常 に充 実 して い る」 を5点,「 満 足 度 」 の 回答 に つ い て は, 「非 常 に不 満 」 を1点,「 非 常 に 満 足 」 を5点, 「再 利 用意 向 」 「他 者 へ の紹 介 意 向 」 回 答 につ い て は 「まっ た くそ う思 わ な い」 を1点,「 非 常 に そ う思 う」 を5点 と した5段 階 の リ ッカ ー ト尺 度 を 用 い た 。 3.調 査 期 間 調 査期 間 は,1999年11月 か ら12月 で あ った 。 4.分 析 方 法 分 析 に は統 計 解 析 用 ソ フ トSPSS Vaj10 for Windowsを 用 い,基 本 統 計 量,因 子 分 析,重 回 帰 分 析 を 行 っ た。 有 意 水 準 の 表 記 に はp値 が .001よ り小 さい場 合 に はp<.001と した 。 5.倫 理 上 の 配慮 1)調 査 協 力 へ の 依頼 は,文 章 あ る い は 口頭 で行 い,承 諾 が 得 られ た時 点 で質 問紙 を配 布 した。 2)調 査 中 に何 か 問 題 が 生 じた 場 合 の対 処 方 法 に つ い て,サ ポ ー ト体 制 を整 え て お い た。 3)匿 名 性 を厳 守 した 。 IV結 果 総 配 布 数470部,有 効 回答 数354部(有 効 回数 率 75.3%)で あ っ た 。 1.対 象 特 性 平 均 年 齢 は30.55±3.90歳 で,初 産 婦 が51%で あ っ た。 施 設 の情 報 源 は 「友 人 や 知 人 か ら」 が最 も多 く,次 い で 「家 族 か ら」 「看 板 」 「医 師 や 病 院 の 紹 介 」 で あ っ た。 施 設 選 択 の 理 由 は 「通 院 しや す さ」 が 最 も多 く,次 い で 「施 設 設 備 」 「医 師 や 助 産 師 へ の信 頼 」 「施 設 の 評 判 」 で あ っ た 。 2.満 足 度 と他 者 へ の 紹 介 意 向 ・再 利 用 意 向 の 関 係 「全 体 の 満 足 度 」 と 「再 利 用 意 向 」 「他 者 へ の 紹 介 意 向 」 に つ い て,ピ ア ソ ン の 累 積 相 関 係 数 を 用 い,有 意 水 準 は1%と し 両 側 検 定 を行 っ た 。 結 果, 「全 体 の 満 足 度 」 と 「再 利 用 意 向 」(r=.624,P< .001),「 全 体 の 満 足 度 」 と 「他 者 へ の 紹 介 意 向 」 (r=.579,P<.001)と,そ れ ぞ れ に 有 意 な 相 関 が 認 め ら れ た 。 3.出 産 に 関 す る サ ー ビ ス 因 子 の 抽 出 妊 娠 期 ・出 産 期 ・育 児 期 の 各 期 そ れ ぞ れ に 主 因 子 分 析 を 行 い,固 有 値1.00以 上 の 因 子 を 抽 出 した 。 バ リ マ ッ ク ス 回 転 後 の 因 子 負 荷 量 か ら,妊 娠 期3 因 子,出 産 期4因 子,育 児 期 因 子4因 子,合 計11 の 因 子 が 抽 出 さ れ た 。 因 子 の 解 釈 に お い て は,固 有 率 が0.6を 超 え た も の を1つ の 因 子 と し て 考 え た 。 妊 娠 期 は3因 子 が 抽 出 さ れ,因 子 負 荷 量 の 大 き い 変 数 名 か ら 「妊 娠 期personaltrust因 子 」 「妊 娠 期cost因 子 」 「妊 娠 期option因 子 」 と 解 釈 し た (表3)。 出 産 期 は4因 子 が 抽 出 され,同 様 に 「出 産 期personaltrust因 子 」 「出 産 期cost因 子 」 「出

産 期continuity of care因 子 」 「出 産 期safety因

子 」 と解 釈 し た(表4)。 育 児 期 は4因 子 が 抽 出 さ れ,同 様 に 「育 児 期personaltrust因 子 」 「育 児 期hospitality因 子 」 「育 児 期cost因 子 」 「育 児 期safety因 子 」 と 解 釈 し た(表5)。 4.抽 出 さ れ た 因 子 と 各 期 の 満 足 度 の 関 係 各 期 の 満 足 度 に 影 響 す る 因 子 に つ い て,各 期 の 満 足 度 を 従 属 変 数 と し,2で 抽 出 さ れ た 妊 娠 期 ・ 出 産 期 ・育 児 期 の 因 子 を 独 立 変 数 と し 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。 「妊 娠 期 の 満 足 度 」 と 妊 娠 期3因 子 に つ い て, 「personaltrust因 子 」 「cost因 子 」(P<.001), 「option因 子 」(p<.005)で 有 意 な 関 係 が 認 め ら れ た 。 「出 産 期 の 満 足 度 」 と 出 産 期4因 子 は, 「personaltrust因 子 」 「safety因 子 」(P<.001), 「cost因 子 」(p<.005)で 有 意 な 関 係 が 認 め ら れ た が,「COntinuity of care因 子 」 は 関 係 が 認 め ら れ な か っ た 。 「育 児 期 の 満 足 度 」 と育 児 期 の4 因 子 は,「personaltrust因 子 」(P<.001), 18 日本助 産 学 会誌 第16巻 第1号(2002.8)

顧 客 満足 度 に影 響 す る出産 サ ー ビ スの構 成 因子

表3妊 娠 期 サ ー ビス項 目の 因子 分 析 バ リマ ックス法:因 子負荷量:共 通性

表4出 産期 サ ー ビス項 目の 因子 分 析 バ リマ ックス法:因 子負荷量:共 通性

顧 客 満足 度 に影 響 す る出産 サ ー ビスの構 成 因 子 表5育 児期 サー ビス項 目の 因子 分 析 パ リマ ックス法:因 子負荷量:共 通 性 「hospitality因 子 」(p<,005),「cost因 子 」 「safety因 子 」(p<.01)で 有 意 な 関 係 が 認 め ら れ た(図1)。 5.抽 出 され た 因子 と全 体 の 満 足 度 との 関 係 最終 的 な満 足 度 に影響 す る要 素 につ いて,「 全 体 の 満 足 度 」 を従 属 変 数 と し,2で 抽 出 され た すべ て の 因 子 を独 立 変 数 と し重 回帰 分 析 を行 った 。 そ の 結 果,「 育 児 期personaltrust因 子 」 「育 児 期 hospitality 因 子 」(p<.001),「 出 産 期personal

trust 因 子 」 「出 産 期cost因 子 」 「育 児 期safety因

子 」(p<.01)で 有 意 な 関 係 が 認 め ら れ た(図1)。 V考 察 1.サ ー ビス業 に お け る ロ コ ミ効 果 と リピ ー タ ー の 効 用 山 本(1999)が 指 摘 して い る よ うに,顧 客 満 足 とロ コ ミ情 報 や再 利 用 意 思 へ の効 果 は サ ー ビ ス マ ー ケ テ ィ ン グ研 究 に お い て 多 く実 証 され て きた 。 本 研 究 で も施 設 の情 報 入 手 手 段 は,家 族 や 友 人 か らが 最 も多 く,村 上(1998)の 調 査 で は,施 設 選 択 の 理 由 は初 産 婦 で は 「知 人 の評 判 」 が 最 も多 か っ た 。体 験 を必 要 とす るサ ー ビス の 施 設 比 較 は 消 費 者 に とっ て大 きな コ ス トが か か る。 特 に購 入 前 に 品 質 の 評 価 が 難 し く,リ ス ク も高 い 医 療 な どの サ ー ビス の場 合 に は,他 者 紹 介 い わ ゆ る ロ コ ミに 頼 る こ とが 多 くな る とい う(山 本,1996)。 ま た, サ ー ビス 業 に とっ て,再 利 用 者 で あ る リ ピー タ ー 20 日本助 産 学 会誌 第16巻 第1号(2002.8)

顧 客 満足 度 に影 響 す る出産 サ ー ビスの構 成 因 子 ***p<.001,**p<0.1,*p<0.5 図1各 期 因子 と満足 度 ・他 者紹介 意 向 ・再 利用 意 向の関 係 を どれ だ け確 保 で き るか が 収 益 率 を大 き く左 右 す る(近 藤,1995)。 出 産 に 関 して は二 人 目以 降 の 出 産 の場 合 や,妊 娠期 で の 同施 設 に繰 り返 し訪 れ る場 合 で あ る。 リ ピー タ ー は その サ ー ビス 内 容 を 理 解 し,サ ー ビス へ の顧 客 参加 が 期 待 で き,施 設 設備 や 費 用 な どの説 明 や さ ま ざ まな 指 導 な どが 省 略 で き る。 「情 報収 集 処 理 コ ス ト」 「顧 客 へ の 情 報 提 供 コス ト」 は リピ ー タ ー で は 新規 顧 客 よ り低 減 され,Reichheld(1990)は,初 め て の 顧 客 と リ ピー タ ー は利 益 率 が 異 な り,顧 客 維 持 率 が5%上 昇 す る と,25∼85%の 利 益 向上 が見 込 まれ る こ と を実 証 して い る。 出 産 に関 す る サ ー ビス に お い て も,満 足 度 を高 め る施 策 は収 益 性 を 向上 させ るた め に重 要 で あ る こ とが 確 認 さ れ た。 2.顧 客 満 足 度 に影 響 す るサ ー ビス 因 子 1)「personal trust因 子 」 この 因 子 はサ ー ビ スエ ン カ ウ ンタ ー にお け る サ ー ビ ス提 供 者 と顧 客 との 人 間 性 を 重視 す る関 係 性 が 集 約 され て い る。 医 師 や 助 産 師 へ の 信頼 感 や 安 心 感,コ ミュニ ケー シ ョ ン能 力,ま た 彼 らが 業 務 の な か で い か に顧 客 個 人 を尊 重 し,個 別 に対 応 し て くれ た か を評 価 し て い る と考 え られ る。 藤 村 (1995)の 医 療 サ ー ビ ス の 調 査 で も,総 合 満 足 に 影 響 す る因 子 は 「治 療 結 果 」 に 次 い で,時 間 的 ・ 頻 度 的 に多 く接 す る 「医 療 従 事 者 」 で あ っ た。 サ 日本 助産 学 会誌 第16巻 第1号(2002.8) ₂₁

顧客 満 足度 に影 響 す る出産 サー ビス の構成 因子 ー ビス の 結 果 に関 す る 品質 は_{,顧 客 満 足 に とっ て} 必 要 条 件 で は あ る が 十 分 条 件 で は な く(藤 村, 1992),そ れ が 満 足 で き る水 準 に あ る場 合 や,そ の評 価 が 困 難 な場 合 は サ ー ビス提 供 過 程 で の 品質 が よ り 重 要 と な る と い う(swan,1976)。Wal-denstrom(1993)の 調 査 で は,出 産 へ の 意 向 や 出産 の精 神 面 へ の配 慮,自 分 の ケ ア に対 し て の積 極 的 な参 加 意 向 の ニ ー ズ を満 た す こ と に配 慮 した バ ー ス セ ン ター の ケ ア が高 い満 足 度 を得 て再 来 意 向 が 高 い こ とを示 して お り,サ ー ビス提 供 過 程 で の人 間 関 係 の 重 要 性 を示 して い る と考 え る。 2)「cost因 子 」 この 因 子 は料 金 に関 す る 因子 で あ る。 妊 娠 中 に 必 要 な料 金 は診 察 料 や 定 期 検 診,検 査,母 親 教 室 の料 金 な どが あ るが,そ の額 は施 設 に よ って さ ま ざ まで あ る。 顧 客 が 実 際 に支 払 う料 金 は,状 況 に よ り一 部 が健 康 保 険 の 適 応 を受 け た り,部 屋 の 差 額 な どが あ り,最 終 的 な料 金 の 予 測 は 困難 であ る。 顧 客 は体 験 した サ ー ビス 内 容 か ら主 観 的 な評 価 を 行 い,さ ら に さ ま ざ ま な情 報 か ら他 施 設 と比 較 し て い る と考 え られ る。 全 体 の満 足 度 に影 響 した の は,「 妊 娠 期cost」 「育 児 期cost」 の 健 診 費 用 や 検 査 費 な ど よ り,「 出産 期cost」 の 分 娩 費 の 評 価 で あ っ た こ とか ら,施 設 は総 費 用 の請 求 配 分 を考 慮 す る必 要 が あ る と考 え る。 ま た,サ ー ビス をひ とま とめ にせ ず,個 々 の サ ー ビ ス それ ぞ れ に価 格 を つ け,顧 客 に選 択 させ 価 格 を積 み上 げ る方 法 も 近 年 推 奨 され て い る(近 藤,1995)。 出 産 に 関 し て も,直 接 医 療 とは 関係 の 薄 いへ そ の緒 や足 型 の 記 念 品 な ど を選 択 す る 方 法 も検 討 す べ き と考 え る。 3)「hospitality因 子 」 この 因 子 は ホ テ ル な どの サ ー ビス 業 に も共 通 し た要 素 で あ る。 出産 に 関 して も,ホ テル の よ うな 外 観 や 内 装,豪 華 な食 事 を提供 す る施 設 が 増 加 し て い る。 妊 娠 期 は 「option因 子 」 と して 抽 出 さ れ,出 産 期 は 「personaltrust因 子 」 に集 約 され て い るが,医 療 に必 要 な 要 素以 外 で の 超 音 波 検 査 な ど に よ る写 真,VTRな ど記 念 品 的 な サ ー ビ ス も顧 客 に とっ て重 要 視 さ れ て い る こ と が 判 明 し た 。 この よ う な要 素 は 出産 の満 足 度 に関 与 し て い る こ とか ら,サ ー ビ ス投 資 と して行 う こ とは経 営 に とっ て適 切 な 施 策 で あ る と考 え る。 4)「safety因 子 」 この因 子 は施 設 と して の安 全性 ・救 急 時 の 対 応 に関 す る信 頼 性 につ い て で あ り,こ の 安 全 性 はい わ ば出 産 に関 す る最 も中 心 とな る サ ー ビ ス と も言 え る。 ス ワ ン(Swan,1976)は 顧 客 が 支 払 う代 価 に対 し て 当然 受 け る と期 待 して い る 「コ ア(本 質)サ ー ビ ス」 と,あ る に こ した こ と は な い 「サ ブ(表 層)サ ー ビ ス 」 が あ り,嶋 口(1994)は, コア サ ー ビ スが あ る水 準 に あれ ば,サ ブサ ー ビス 属 性 の1つ の 良 さで他 の 属 性 を カバ ー し,全 体 と して の 「満 足 」 を高 くす る こ とが で き る と い う。 出産 の場 合 「母 子 と もに無 事 」 で あ る こ と は顧 客 が求 め る最 低 限 サ ー ビス で あ り,サ ー ビス 提 供 施 設 に とっ て 安 全 の 保 証 とい う コ アサ ー ビス の 品 質 を高 め る こ と は必 要 不 可 欠 で あ る。 しか し この サ ー ビス は100%の 保 証 が 医 学 的 に は 困 難 で あ る一 方,顧 客 に と って 「あた り ま え」 の サ ー ビス と受 け取 られ る と考 え られ る こ とか ら,抽 出 さ れ た 他 の 因 子 な どに よ る満 足 度 を高 め る施 策 が 有 効 で あ る と考 え る。 3.全 体 の 顧 客 満 足度 に影 響 す るサ ー ビス要 素 全 体 の満 足 度 に影 響 す る の は,サ ー ビ ス提 供 施 設 との接 触 期 間 の 長 い 妊 娠 期 よ り も出 産 や 育 児 期 の 因 子 で あ る こ とが 判 明 し た(図1)。 そ の 理 由 と し て は評 価 時 期 が 出産 後 で あ り記 憶 に新 しい こ と に加 え,出 産 後 す ぐに母 親 の意 識 は育 児 に 向 い て い る こ とが 推 察 され る。 出 産 を振 り返 りな が ら も,母 親 とな っ た 女性 の 関 心 は育 児 や 母 乳 に集 中 し,新 生 児 との生 活 へ の 援 助 を評 価 して い る。 慣 れ な い育 児 の支 援 に 関 して の 要 素 は,出 産 とは別 の サ ー ビ スの よ うに と ら え られ や す い が,実 際 に は出産 直 後 か ら育 児 を行 わ な けれ ば な ら な い母 親 とな った 顧 客 が そ の 支 援 を い か に 重 要 と と らえ て い るか が 確 認 さ れ た 。 近 年,施 設 経 営 に とっ て の 顧 客 ロイ ヤ リテ ィー の重 要性 が 指 摘 され て い る(Hesket,1997)。 ロ イ ヤ リテ ィー とは顧 客 が 特 定 の サ ー ビ ス提 供 者 に つ い て の 好 意 的 な 態度 を もち,必 要 な とき に は そ の提 供 者 か ら優 先 的 に 購 入 す る こ と を考 え る こ と で あ る(近 藤,1999)。 顧 客 ロ イ ヤ リテ ィー は 顧 客 満 足 と非 常 に 関 連 し て い る と 言 わ れ て い る (Hesket,1994)。 本 研 究 で は 満 足 度 に 影 響 す る 22 日本助 産 学会 誌 第16巻 第1号(2002.8)

顧 客 満 足度 に影響 す る出 産サ ー ビスの構 成因 子 出産 に関 す るサ ー ビス要 素 は,妊 娠 期 や 出 産 期 に 比 して 育 児 期 の評 価 比 重 が大 きか った 。 出 産 を終 え育 児 に苦 慮 して い る時 期 の顧 客 を支 援 す るサ ー ビス に資 源 を振 り向 け,出 産 後 長 期 にわ た る母 乳 や 育 児 支 援 の た め の施 策 を積極 的 に展 開 す る こ と が 有 用 で あ る と考 え る。 そ れ に よ り顧 客 との 関 係 を深 め,出 産 に 関 す る評 価 の フ ィー ドバ ッ ク を得 た り,次 の 出産,さ らに 次世 代 の 出 産 を も視 野 に 入 れ た家 族 を含 め た施 設 へ の ロ イヤ リ テ ィー を得 られ る可 能 性 を含 ん で い る と考 え る。 VI結 論 1.顧 客 満 足 度 と他 者 へ の 紹 介 意 向 ・再 利 用 意 向 の 関係 出産 に関 す るサ ー ビ ス にお い て,「 満 足 度 」 と 「他 者 へ の 紹 介 」 「再 利 用 意 向 」 に は有 意 な関 係 が 認 め られ,満 足度 を高 め る施 策 は施 設経 営 に と っ て重 要 で あ る こ とが 確 認 され た 。 2.出 産 に 関 す るサ ー ビス 要 素 と顧 客 満 足度 出 産 に 関 す る サ ー ビ ス は,妊 娠 期 「personal trust因 子 」 「cost因 子 」 「option因 子 」,出 産 期

「personaltrust因 子 」 「cost因 子 」 「continuity ofcare因 子 」 「safety因 子 」,育 児 期 「personal tmst因 子 」rhospitality因 子 」 「cost因子 」 「safety 因 子 」 に分 類 され,そ れ ぞ れ の 時期 の満 足 度 と抽 出 さ れ た 因 子 は,出 産 期 「continuity of care因 子 」 を除 い て有 意 な 関 係 が認 め られ た 。 3.全 体 の 顧 客満 足 度 に 影 響 す るサ ー ビス 因 子 全 体 の 満 足 度 に 影 響 す る 因 子 は,「 出 産 期per-sonaltrust因 子 」 「出 産 期cost因 子 」,「育 児 期 personaltrust因 子 」 「育 児 期hospitality因 子 」 「育 児 期safety因 子 」 で あ り,そ れ ら を重 点 的 に 施 設 資 源 の 配 分 を行 う こ とが 出産 に 関 す る満 足 度 を高 め る施 策 と して重 要 で あ る こ とが確 認 され た。 引用文献

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