Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Designデ ザ イ
ン
史
に お
け る
ア
ノ
ニ マス
的
ア
プ
ロ
ー
チ
ー
英 米のインダス トリアルデ ザイン史研究を中
心に一
The
Anonymous
Approach
to
Design
Historiy
−
Studies
in Britain andthe
United
States
一
福 島慎 介
Fukushima
Shinsuke
GK デ ザ イン機 構
・
GK 道 具 学 研 究所GK
Design
consortium,
GK
Institute QfDoguology
は じ め に
一
デ ザ イン史
に おけ るパラダ
イム・
シフ ト近 年
、
英米
の デザ イン史
研 究では、
有 名デザ イナー
に よ る デ ザ インだけ
で なく、
ア ノニ マ スな デザ インを対 象とする傾 向が 現 れ てい る。
この 中 に は、
た とえデ ザ イナー
が特 定できる場 合 で も、
無 名 な もの。
集団作 業に よ るもの。
お よ び、
専 門の デザ イ ナー
の 手に よ ら ない 「デザ イナー
な し の デ ザ イン」、
「
バナキュ ラー
」な デ ザ インが含 まれる。
こ の よ
う
な 英 米のデ ザ イン史研 究
の現況
につ い て は、
すでに藤
田・
中 山 両 氏に よ る紹 介 が な さ れている]] e そ こ で以下 で は、
特
にインダスb
リア ルデ ザ イン史 に お け るア ノニ マ ス的
アプ ロー
チの意義
・
研 究 史
・
方法
な ど を概 観 して、
アノニ マ ス デザ イ ンにつ い て の考
察の一
助
とし たい。1
ア ノ ニ マ ス的アプ
ロー
チ の意 義
今 世 紀に 人っ て の
.
L
業
製 品のデ ザ イン の大 半 は、
特 定の デザ イナー
の造 形 思 想 か ら だけ
で は説
明で きない。
もの の デザ イン は、
利 用 可 能 な技
術、
製
品化
に関わ る 企業の活動
、
流 通・
販 売
の システム、
もの を購 買
し使
用す
る 生活者
の心 理・
行 動 な ど、
さ まざ
ま な分 野に わたる諸要 因
の総和
と して成 立 す る ものだ か らであ
る。個
々 のデザ
イ ンには、
デ ザ イ ナ・
一
た ちの思想
を超
え た、
こ れ ら社 会全 体
の ダ イナミズムが 反 映されてい る、
とみ る こ と が で き る。
現 代の 工業 製 品の デザイ ン作 業の実 際に限っ て み ても
、
個々 の製
品が成 立 する にあたっ て、
エ ン ジニ ア リング、
マー
ケィ ン グ、
デザイ ン の共 同ワー
クを経 ない もの は ない であろう
。
つ ま り、
わ れ われ の 生活
を と りまく 日常 的 なr
もの」の デザ インの ほ とんど は、
無名
性(
ア ノニ マ ス)
をその特 徴 としている。・
個 人
としての作 家の存在
を前提
と し ている美 術 作 品との本質 的
な相
違
である。
デ ザイン
史
におけ
る ア ノニ マ ス的
アプロー
チ は、
以 上のよう
な 認 識 に も とづ き、
歴史
上有 名 な
デザイナー
や グルー
プ(例え
ば モ ダンデ ザ イン・
ムー
ブメ ン トのパイオニ アたち 〉の個 人 的 経 歴 やデザ
イ ン思 想 に注 目 する ことが多
かっ た従 来
の歴史
記 述 (い わ ば有 名性
の歴 史。
近年
で は「
ヒロ イッ ク・
アプロー
チ」とよば れ る こ とが ある。
) とは 別 の視 点
に よ る デ ザ イン史の傾 向であ る。
2
英 米 に
於
け る「
近 代以 降
のも
の の歴史
」
研究
2
,
1
も の に即し たデ ザ イン史近
年
の英 米 に お け る 「ブ ジェ ク ティブ・
アプ
ロー
チ に よ る デ ザ イン史」
では、
デザ イナー
の思想
より も
、
各
製 品の成 立 背 景と なっ た社 会・
経 済・
技 術条
件の考 察
が 重視
さ れて い る。
ギ
ー
デイオン の MechaniZationTakes
Command
(1948,
邦 訳『
機械 化の 文 化 史 』)は
、
英 米で も、
Vl業 製 品 を 対象
とし た ア ノニ マ ス ヒス ト リー
の先 駆 的 著 作とされて い る。
な かで も、
ア メ リ カ に おける 工業 製 品、
とりわけ 家 庭 機 器の 発展
の 研究事 例
は、
そ の後の多
くの研 究の モ デル に なっ て い る。
現
在
のイ ギリ ス で、
ア ノニ マ ス ヒス ト リー
の分 野の 基 本 的 著 作と目 さ れてい る の は、
ギー
ディオン に触 発 さ れつ つ、
さ らに 個々 のプロダク トをめ ぐる社 会
・
経 済 条 件
をふく
め て リ ア リ テ ィあ る考
察 をおこなっ たエ イ ドリア ン・
フ ォー
テ ィ のObjects
of Desire(1986
.
邦 訳 『欲 望のオ ブ ジェ』
)であ
る。フ ォー
ティは、
ギー
ディオン の機 能 主 義 偏 重の方 法 論につ い て は疑 義
を 提出 し てい るもの の、
ア ノニ マ ス ヒ ス ト リー
の重 要 さにつ い て は 同意 し てい る。以 上2
点の著 作は、
今 後のアノニ マ ス ヒ ス トリー
研究
にとって、
親範
とな りう
る基 本 文 献といえ
よう。
こ の ほ か の イ ギ リス の デ ザイン史 研
究 者
の著作
として、
ジョン
・
ヘ ス ケ ッ ト のIndusnial Des.
ign(1980
.
邦
訳r
インダス トリ アルデザ インの
歴史
」)も
、
個々 の プロ ダ ク トの ケー
ス・
スタデ ィは
最小
限にと どめ られ ている ものの、
社 会・
経 済 条件
か ら プロダク トデザ イン の歴
史
を 説 明 している点 で一
貫 してい る。
ペ ニ
ー・
ス パー
クの著
作 にも 「
ソー
シャ ル・
コ ンテ ク ス ト」
重視
の傾向
が 現 れてい る。
An
intrOduction
to Desigrn and Culture inthe
Twentieth
Century
(1986
)は、
題材
を広 く
とっ た概 説である が、
今
世 紀のインダス ト リア ル デザ インの動 向
を 「デザイ ン と文 化 」 の視
点か ら捉 えようとして い る。
ま た、
Electrical
Appliances (1987)で は、
家 庭 電 化 製 品の成立・
普及
の技
術 的背 景
と、
社 会
・
経 済 的 影 響 が 注 目 さ れてい る。
2
.
2
デザイ ン啓 蒙の
視
点からのデ ザイ ン史
ペ ブスナ
ー
のPbneers
ofModemDesign
(1949
.
邦
訳『
モ ダン・
デ ザイ ンの展 開 』)に代 表 さ れる、
モダン・
ムー
ブメン トを扱
っ た 歴史
研 究が、
その後の デザ イン史の発展
におよぼし た影響
は計
り知
れな
い。 し か しア ノ ニ マ ス ヒ ス トリー
の研究
に直接
に貢 献
す
る部分
は意外
に少
ない と言わざ
るを得 ない。
(ア ノニ マ ス ヒス ト リー
自体
が、
デ ザ イン史に おける種 の パ ラダ イム
・
シ フ ト を 意図 し てい る ことに も よ る。
)特に、
今 世 紀の生 活 様 式に決 定 的 な 力 を持
つ こ とになっ た機械
的工業 製 品へ の言及
が少
ないこ と、
そ し て モ ダ ン デ ザ イン の審 美 眼に照 ら しての 「グッ ド・
デザ イン」
の み が優 先 的 に 取 り上 げ ら れ、
市 民 生 活のな かでH
常 的
な
用を
果たしていた はず
の製 品 (その多 く
は デザ イ ナー
の手
に よ らない デ ザ インで あっ たろう)が 無 視 されてい る た め であ
る。
ア ノニ マ ス ヒ ス ト リ
ー
の視 点
か ら は、
その デザ イン の造 形 的 な新
し さ・
美
しさ・
非凡
さ よりも
、
その時代
の日 常 生 活におい て 支配的な デ ザ インであっ た か否 か、
つ ま り平 凡 さに注 目し な く て はな らない だ ろう
。
スチィ
ー
ブン・
ベ イ リー
の In Good Shape (1979)は、
その後 半
10SPECIAL
ISSUEOF JSSD Vol.
1 No.
2 1993 デ サイン学研 究 特 集 号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design部で イン ダス トリア ルデ ザ イン
、
そ れ も長
い期 間
に渡
っ て生産
さ れ たプロ ダク ト製
品 を事 例
に選 んで解 説 してい る。
か し、
や は り造 形
上の美
しさ を選択
基準
と してい るよう
であ り、
ま た、
個々 のデザイン の事
例を独立 し た「作品」
である か の ように年 代順 に 配置し てい る。
各
製品 の発展
の過 程や製 品 が 成ik二した 社 会背
景の 理解 を 深め よう
とする著
述で はない。
!)2
.
3
その他の関 連 研 究 社△ 的ア プロー
チ に よ る 技術技 術 史に おいて
、
技 術が発達
し た社
会 的 文脈
を重 視 する傾 向 が1970
年
代 以降
の英 米 で著
しい。
も
の の外 観
の変化
に触
れられ るこ と は ない が、
アノニ マ スヒス ト リー
のあ り方 を考
える にあ
たっ て有効
な先
行 研 究 といえ
る。
技術
が社会
に お よぼす 影響
に注 目する従 来の技 術 決定 主義
に 対 して、
D.
Mackenzie らの ]rhe Sociul Shaping of Technology (1985
) で は、
社 会が どの ように技 術を形 成 し てきた の か に注
目 し た研 究がなさ れ ている。社
会 的 環境
が、
もの の技
術 的 性 格 を か た ち つ く る、
とす る視 点 が主
調 に なっ てい る。出
・
th 庭 生: 究 お よ び nlSア メリカの
RS
.
Cowan
のMore
W
(rrk{fbr
Mother(1983)で は、
新
しい技
術 が、
女性の家 庭での位
躅 づ け に どう影 響
し てき
たのか を、
家電
製 品 などの機 器の成 立
・
発展・
普
及の過程 とと もに考察
してい る。イ ギ リス の研 究で代 表 的な も の に
、
C.
Davidsonの AWoman’
sWork is Never Done (1982 )がある
。
研究
の ス タイル は 文化
史・
杜
会 史の それ に近
く
、
17世紀
以降
の英国の家事労
働の変 化 を 扱 う な か で、
家庭
用機 器
の変 遷 を 後づけて い る。
もの に関す
る モ ノグ
ラフ特
定の製 品を
テー
マ とし て、
各 製
品の主要
な タ イ プの変 化を あ とづ ける モ ノグラ フ は、
ア ノニ マス・
ヒ ス ト リー
の基 礎資
料 を提 供
して くれる。
多
く はアカ デミッ ク な デ ザイ ン史
研 究で は ない ことが多
く、
製 品の変 化と社 会 的背
景 との関連
まで は言及
さ れ る ことは少 ない。
イ ギ リス で の代表
的モ ノ グ ラフ・
シ リー
ズに
、
Shire
社の百数
十 冊に お よms
Shire Album が ある。
英 米で は アンテ ィッ クへ の
一
般の関心
が高 く
、
ユ:業製
品・
機 械 製 品でもコ レクタ ブル・
アイテム に なっ ている た め 力丶 この タイ プの著作
は多
い。
趣
味 的にな りが ち な ア ン ティッ ク の研究
が、
必 ず
し も学
術 的 な 歴 史 研.
究に益 する とは限 らない が、
少
なく
とも歴 史 的資料
の消失
を あ る 程 度 防ぎ
、
デザ
イン史研 究
のす
そ野
を広 げ
てき た こ とは 確 かであ る。
3
ア ノニ マ ス
・
ヒス トリー
の手 法 と史料
ものに即し た ア ノニ マ ス ヒス トリ
ー
研 究は、
基
本 的に学 際的
研 究であ り、
そ の研 究 資
料は非 常に多
岐に渡 ら ざるを得 ない。文 献
的資
料 と 実 体 的 資 料 を 適 宜 組み合わ せ て研 究が な さ れ る こ とはもち
ろ ん、
こ こ数
十年
の比較
的 新 しいデ ザイ ン につ い て は、
冂述資
料(
オー
ラル・
ヒ ス トリー。
つ ま りメー
カー
や流 通 関 係者
、
生 活者
などか らの聞 き
取 り)も
利 用さ れ る。この た め に も
、
ものに 関わ る各種
の博 物館 (
産 業技術 史
、
生活
文 化 史 関 係の博 物 館、
企 業 博 物館
など)
のコ レクシ ョ ンが有
用 になる。
特
に イ ギリス では この種
の博 物 館
が各
地に数 多
くあ
り、
ものに則し た デ ザ イン史 研 究の発 展に寄 与
し てい ると考
え ら れ る。
各 博
物 館発行の ガイドブック・
図 録 類 などの刊 行 物は、
もの 自体の解 説に重 き を置い てお り、
もの を傍 証と して使 う一
般 的 な 社 会 史研 究の著 作よ りも有 用 なこ と が多
い。
博物 館
には、
各 製
品に関係
する カタログ や 写真
類、
業
界資
料
な どが実 物
と と もにコ レク シ ョ ンされて い る こ と が多
い。
例 え ば、
ビク ト リ ア・
ア ン ド・
ア ルバー
ト博
は、
デザ インに 関 す る文書 資料 館 (
National Archjve of Art and Design)を持
ち、
研 究
者 や デザ イン史 を 専